クリスの怪我に対して、1年生は衝撃を受け、動揺していた。しかし、先輩達の怪我の後の振る舞いや、主力である西の怪我を経験していた2,3年生は、いつもどおり、いやそれ以上の気合いを持って練習をする。それにつられて1年生もいつも通りに戻っていく。
御幸から見ても、特に藤谷さんの気迫はすごかった。キャッチングは岸谷さんと遜色なく、コーチングも上手い。自分は1軍で藤谷さんは2軍であったため、間近でプレイを見ることはなかったのだが、物を教えるのがとても上手いのだ。
(小野が言ってたみたいに、問題点があれば逐一指摘してくれる。真木だけでなく武藤さん、井手さんからも信頼されている。総合的に見れば岸谷さんが上だけど、ブロッキングに関してはずば抜けてるな)
同ポジションであるが故に、能力差を突きつけられる。
(何で俺が1軍で、藤谷さんは2軍だったんだろ?直接聞いてみるか)
「藤谷さん!」
「なんだ?」
「これだけ上手いのになんで2軍にいたんですか?」
そう御幸が言うと、藤谷さんは一瞬顔をしかめるが
「選抜での枠漏れと、そのまま4月から真木を2軍で育成するためだな。俺は片岡監督みたいに指導者を目指してるから、落合コーチの指導のもとで、真木と一緒に学んでいたんだよ」
「なるほど」
「しっかし、岸谷は後輩の教育してねぇのか?御幸!」
突然の大声にビクッとする。
「疑問に思ったこと、問題点などを、相手にはっきりと伝えるのはいいことだ。先輩に対してそれができる度胸は買ってやる。だがな、それは相手がどう思っているのか、その言葉でどんな気持ちになるのかを、しっかりと考えてから言うべきだ。なんで2軍にいたんですか?って普通は直接言うもんじゃねぇ。言うための理由、目的がわからない」
「う、うす」
「紅白戦の時も見てたから言うが、キャッチャーはグラウンド全体を把握するポジションだ。特に向かい合う時間の長いピッチャーのケア、全体の流れの把握をしないといけない。そのなかで、時に自分の言葉を使って、ピッチャーのコントロールをしてやるのも大事だ。だがそれはピッチャーの事を思っての言葉、またはチームとして必要な言葉でないといけない」
藤谷さんは、真剣に聞く御幸のことをじっと見てくる
「相手のフィールドに、土足で入り込むような言葉を発して、自分が主体となって自立しなければならない、強くきつめの言葉を使わないといけない環境だったのかもしれないが、青道はそうじゃない。全員が甲子園を、そして優勝を目指して一丸となっているチームだ。もう少し素直になってみたらどうだ?」
「いえ、これが素です」
「なお悪いわ!‥‥まぁ‥‥頑張れよ。クリスの復帰が8月以降になるのが決まったんだ。岸谷と2人でみっちり仕込んでやるよ」
ギロリと藤谷さんが睨み付けてくる。
「お、お手柔らかに」
「どうかな」
キャッチングや、送球体勢へのスムーズな移行、ブロッキングの仕方など、基本的なことを厳しく指導され、癖があれば細かく指摘され、御幸は体力をガンガンに奪われていくのだった。
▽
1,2年生の1軍、2軍は合同で2グループ作り、1軍3年生の打線のゲーム形式のバッティング練習で、守備についていた。3年生の打線は
1 神田
2 西 晴之
3 柳
4 東
5 栃谷
6 道川
7 玉森
8 会田
9 城之内
となっている。
ファーストを守る結城は、いつもは打線に組み込まれるが、今回は守備組になっていた。
(こんなに抑えれないものなのか?)
3回ぶんのアウトで交代のはずだが、打者一巡してもノーアウト。ピッチャーの丹波は息が既にあがっている。キャッチャーの御幸も、マウンドにきて声をかけるが、打者のプレッシャーが尋常ではなく、丹波はなかなか落ち着かない。
普段は声をかけ、ワンプレーで雰囲気をかえてくれる先輩達は、敵として立ちはだかっている。
キィン!
また神田さんに簡単にヒットを打たれ、8点目が入り、ノーアウト1,3塁となる。ここで西さんの打席になり、とてつもない威圧感に圧倒される。
「タイム!丹波、交代だ」
片岡監督に告げられ、丹波が安堵したような顔をする。
「交代を告げられて安心するやつがあるか!いいと言うまで走ってろ!」
「っ!はいっ!」
「守備も交代する!2グループ目!守備につけ!ピッチャーは伊佐敷だ!」
次のグループが守備につき、ケースそのままに再開される。グラウンド脇に座って、水分補給をして、なんとか気持ちを落ち着かせる。
カキィン!
容赦なく、西さんが伊佐敷からスリーランホームランを放つ。キャッチャーの宮内も驚きが隠せていない。後続も伊佐敷のボールを見極め出塁、ヒットを放っていく。
(これが3年生の、青道が誇る強打者たち。自分達の世代のエース格が全く相手になっていない。紅白戦でいい戦いをしたと思っていたが、クリーンナップだった城之内さん、道川さん、会田さんの3人が軒並み下位打線を担っているのは、かなり差があるのだと感じさせられる)
自責点4ながらも、伊佐敷はなんとか3アウトをとるが、既に肩で息をしている。
「伊佐敷は外れて水分補給!真木!マウンドへ!」
「はいっ!」
唯一紅白戦で3年生に通用した、1年生ピッチャーの真木がマウンドにあがる。その初球を
キィン!
神田さんが鋭い当たりを放つが、ライトライナーとなる。真木の様子を見ると、楽しそうにしている。
(純粋に3年生と対戦できるのを楽しんでいるのか。これは丹波や伊佐敷にはないものだな)
しっかりと真木が腕を振り切れていることに、納得をする。そのまま真木は3回を5失点で抑えきった。点を取られはしたものの、真っ直ぐに強打者を見据え、自分のやりたいピッチングを貫いた真木に、結城は将来の青道エースを見た気がした。
ふと、今後どこまで書くかなと思ったのでアンケートを1つ。よろしくお願いします。
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東世代の卒業まで
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結城世代の卒業まで
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御幸世代の卒業まで