『報告します!現在、謎の集団が各関所に向かって突進しております!』
「特徴は!?」
法螺貝の音が鳴り響いた直後、関所から通信魔法で私に報告が飛んでくる。
『黒づくめに仮面──【ニャルラトホテップ教団】で、グワーッ!』
報告を終えるよりも、騎士の身に何かが起きる方が早かった。
「作戦を変更する!捕縛部隊はこのまま都市に侵入してきた【ニャルラトホテップ教団】を捕縛!都市防衛部隊は城の防衛と住民の保護!但し、ジョージ君を見つけた時は私に知らせること!彼の相手は私がする。行動開始!」
『了解!』
私の指示を受け、皆が即座に行動を開始した。
「(国を盗るだと!?ジョージ君、君は何を企んでいるんだ……)」
一方、王城では。
「着きましたよ。皆さん、怪我はありませんか?」
混乱に乗じて、ラジラジさんの権能を使って私達は城の裏手に転移してきました。
とはいえ、城内にも少なからず警備の兵士はいるので──。
「何も」
「オラァッ!」
「ぐはぁっ!?」
ある時はダイゴさんが殴り飛ばし。
「すまない」
「へぶっ!?」
ある時はマサキさんが背後から投げ飛ばしてダウンさせていきました。道中に仕掛けられている罠も、洗脳の絡繰りを探っていたネネカさんが把握していましたので、罠に掛からないルートでスムーズに進んでいきます。
洗脳装置があるのは王宮の地下の一画。恐らく『
玉座の間までの廊下を走る中、ネネカさんの言葉が私の脳裏を過りました。
『あれだけの威力の魔法を放ったのです。いかに彼と言えど、かなり消耗している筈です。それも1週間やそこらでは回復しきらない程度には。ならば、現在玉座には彼の代理人がいるでしょう。それが誰なのか……言わなくても分かりますね?』
『
「ペコリーヌさま」
「ペコさん」
玉座の間に繋がる扉。扉に手をかけるか悩んでいた私の名前を、コッコロちゃんとユウキくんに呼ばれました。
私はもう迷わない。
迷っていたせいで、こんなことになってしまったのだから。
「……行きます!」
覚悟を決めた私は、扉に手をかけて開けました。
玉座の間に一歩足を踏み入れた瞬間──。
「っ!?」
私に向かって放たれた魔法を、剣で弾き飛ばす。背後はユウキくん達がいますし、前にそのままお返しするなんて以ての外。なので飛ばした先は、天井。一部が崩れ、床に瓦礫が零れ落ちます。
今の魔法を放った人影は、私達に杖を向けたまま玉座からゆっくりと立ち上がると言い放ちました。
「……来たわね。陛下に牙をむく反逆者」
綺麗な黒髪と、種族特有の尻尾と耳の生えた小柄な少女。
口は悪かったけれど、人の良さが隠し切れなかった口調も一変して、冷酷かつ無慈悲に。
「キャルちゃん……今、助けます!」
キャルちゃんは助ける。『
迷いを捨てた私は誰にも負けないし、止まりません。
王城前広場。
「ふんっ!」
「ぐああっ!」
【
「このぉっ!」
「おっと」
「うわぁっ!」
横からの挟み撃ちをバックステップで回避し、騎士達をぶつけさせる。
「はっはぁ♪どうした団長♪今の私は国家転覆を企む悪党だ。そんな生温い攻撃で止められるなどと甘ったるい考えは捨てて、殺すつもりで来ておくれ♪」
「だったら私の質問に答えて欲しい!仮にも民を守る【
「答えてあげるとも。この私を力で屈服させることができたら、なぁっ!」
「ぐっ!」
俺から少し離れたところでは、クリス姉とジュンさんがぶつかりあって物理的に火花を散らしている。
「「はああああああっ!」」
「あーらら」
不意に、聞き覚えのある声と聞き覚えがあまりない声が同時に俺の耳に響いた。
振り向けば、剣を構えて俺に向かって突撃してくるサレンさんと赤髪の女性の姿が。剣が振り下ろされるよりも少し早く、周りにいた騎士の肩を足場にして跳躍し、民家の屋根に逃げる。サレンさんのほうはともかく、片方の大剣も同時に受けるのに槍では心許ない。
「もらったあああっ!」
と、俺の飛び乗った民家の屋根に身を隠して奇襲をかけようとしていたのか。以前会った狼の
すれ違うように俺は彼女の攻撃を回避し──。
「あれっ!?あたしの剣が無い!?」
彼女の手から剣を奪い取る。武器にも楯にもちょうど良い大きさと重量だ、これと槍を合わせた一刀一槍でもう暫く戦えるだろう。
「すまない。ちょっと借りる」
「ああっ!お前、あたしの剣返せえっ!」
顔を怒りから赤くしたお嬢さんの声を無視して屋根から飛び降り、序に下にいた騎士を踏み倒す。
「お待たせしました、サレンさん。第2ラウンドといきましょうか」
剣の切っ先を向けて少しかっこつけて言っているが、これはある衝動を必死に抑えるため。
これだけ人が大勢いる状況で俺は、『
だけどそれは良くない。なぜならそんな事をしてしまえば、この騒動が治まってしまうから。
俺達の役目はあくまで陽動。そのためにも、この騒動はできるだけ長引かせなければならない。
クリス姉が我慢できているんだ、俺が我慢できなくなってどうする。
ジョージのいる区画から少し離れた、都市南東部。
「おらぁっ!」
「ぐうっ!?」
襲ってきた騎士の一人の足元に潜り込み、棍棒で脛をぶん殴る。
「このぉっ!」
「おっとと」
反撃とばかりにあたしを取り押さえようとする騎士の頭を、跳び箱のように跳び越える。
危機一髪。そう安堵していたあたしの耳に──
「はあぁぁぁっ!」
懐かしい声が響いた。
「伏せて!」
着地した瞬間を狙った突きから、【ニャルラトホテップ教団】の団員が庇った。剣が防具を掠めたのか、金属の擦れる不快な音が鳴る。
「ちっ!ヒヨリ!」
「うん!」
声の主の背後から、新たな人影が飛び出してきた。大きく跳躍し、拳を振り上げたそいつは団員に狙いを定めて──
「ふんっ!」
「うわぁっ!」
「ヒヨリちゃん!」
他の団員に腕を掴まれ、逆再生でもしたように放り投げられた。落下地点にいた誰かが回復魔法をかけたのか、柔らかい光が煌めいた。
「レ……」
親し気に声をかけそうになったところで、言葉を飲み込んで口を塞ぐ。
あたしに着地狩りをした青髪の魔族の少女はレイ。レイの背後から飛び出した猫の
あの3人は『アストルム』が再構築される前のユウキの仲間。そして、『ソルの塔』の頂上で『
特にユイ。この異変の元凶の目鼻立ちは、あいつと瓜二つだ。ジョージ達とギルドでクエストが無いか探している時、あいつの顔を見た時に勘違いから殺気が漏れてしまったくらいだ。
「(でも当の本人達が記憶を無くしているんだよなぁ……まあ、今は『
今やるべき事に専念するため、あいつらの記憶云々については頭の片隅に置いておき、棍棒を振りかざして突撃した。