ゲームが現実で、現実が夢になった。誰か助けて   作:大豆万歳

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新年あけましておめでとうございます。そして、お気に入り200件、ありがとうございます(初土下座)
ランファさんの専用装備か別バージョンの実装はまだですかね?他にもラビリスタさんとかプリコロさんの専用装備とか(強欲)
ああそれと、詳しくは言えませんがストーリーでの展開が楽しみですね。


皇帝降臨

「(……随分、騒がしいわね)」

 

 王城内部。その最奥に極秘に増設させた空間に設置された洗脳装置。その下で住民やシャドウから吸収した生命力を体に馴染ませていた私の目に、外での騒ぎが情報という形で映る。

 これが私の権能『覇瞳天星』。この世界をデータとして閲覧するだけのシンプルな能力だけど、私は閲覧したデータを基に相手の次の行動を予測、若しくは再現することが出来る。

 

「(【王宮騎士団(NIGHTMARE)】は何を手間取っているのかしら。『誓約女君(レジーナゲッシュ)』とノウェムがいるとはいえ、相手は精々40人程度。ランドソルの他のギルドも参戦しているというのに、1人も捕縛できないだなんて。それを言ったらキャルのほうもだわ。洗脳を強めにかけるついでにステータス増強用のアイテムを使ってドーピングまでしたのにこのざま)」

 

 都市ではジョージ率いる【ニャルラトホテップ教団】が暴れまわり混乱状態。王城ではユースティアナ率いる【美食殿】と晶の部下2名を相手にキャルが苦戦しているのが読み取れる。

 キャルはユースティアナに絶え間なく攻撃を繰り出しているようだけれど、どれも急所を外している上に威力も低い。あの中で最年少である、長老の娘ですら弾ける程度。思った以上に【美食殿】のメンバーに情が移ってしまっていて、無意識にブレーキをかけてしまっているみたいね。前のループで同じ様なシチュエーションになった時よりも強めに洗脳魔法をかけたのだけれど、失敗だったようね。

 データの上ではユースティアナ達はキャルに反撃せず、攻撃を壁や天井に弾いて説得を試みている。彼女達からすれば裏切り者であるはずのキャルをそこまで気に掛けるなんて、中々のお人好しのようね。甘ったるくて吐き気がする。

 

「(まあいいわ。それよりも、そろそろ『変貌大妃(メタモルレグナント)』と『跳躍王(キングリープ)』がこの部屋に来るわね。それも、それぞれのプリンセスナイトを連れて)」

 

 この上にある洗脳装置を破壊したタイミングで、床を崩落させて彼らを地下深くに落下させる。それも、以前やったように結界を構築済みだから脱出するには壁を登る以外の方法は無い。時間稼ぎにもなって一石二鳥だわ。

 

「(それじゃあ、いまいち役に立っていない【王宮騎士団(NIGHTMARE)】に手を貸すとしましょう。最後は私が神になるための糧になるんだもの、少しは活躍してもらわないと)」

 

 私は手元にコンソールを出現させ、画面を操作した。

 

 

 

 

 王城前広場。

 

『こちらアンナ!こちらアンナ!聞こえるか!?団長』

「ぐはあっ!」

「はいはいこちら団長。何事?」

 

 拝借した剣の峰で騎士の頭をぶん殴ってダウンさせ、通信魔法に応対する。声からしてかなりの緊急事態のようだ。まさか捕まったとか?

 

『モンスターとシャドウが出現した!それもかなりの数が!』

 

 彼女の一報に連動するように、地面に魔法陣のような文様が出現し、そこからモンスターとシャドウが湧いて出てきた。

 十中八九『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』の仕業と見て間違いない。何を目的にやったのか推測するのなら、俺達を疲弊させるのが目的か。

 

「【ニャルラトホテップ教団】各員に伝達。国盗りの邪魔だからモンスターとシャドウを殲滅せよ」

『イエス、サー』

 

 通信魔法で全員にシンプルで分かりやすい指示を送り、俺も応対に向かう。……と、その前に。

 

「これ、返します」

「あっ!?おい待て!」

 

 剣の持ち主である狼の獣人(ビースト)族のお嬢さんに投げ返して素早く退散。だって、キャッチすると同時に斬りかかりそうな雰囲気だったから。

 

「■■ーッ!」

 

 槍を背負って刀を抜き、猿叫を上げながら目に付くモンスターとシャドウ合わせて10体ほどの首を刎ねる。久しぶりに、それも思いっきり刀を使って戦うのは実に気持ち良い。

 

「そらそらそら!」

 

 クリス姉も嬉々として大剣を振るい、巻き藁でも斬るように敵をなぎ倒していく。

 

「くっ!」

 

 そして、どさくさに紛れてジュンさんに攻撃していた。

 

「姉上。遊んでいないで戦闘に集中してください」

「集中しているとも♪私の大好きな乱闘になって少々テンションが上がっているがね。そぉら!」

 

 大剣を振り回し、斬撃の嵐となったクリス姉がモンスターとシャドウの群れをなぎ倒していく。おっと、こうしてはいられない。『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』を打倒するほどの強大な敵との戦いに備えて、少しでも経験値を稼いでレベルを上げないと。

 

「ジョージ君!」

 

 と、そこでジュンさんに呼び止められた。

 

「何でしょうか。用件は手短にお願いします」

「なぜ国を盗ると言った?まさか自分が王になるつもりじゃないだろうな?」

「いいえ」

「だったら、何のために国を盗ると言ったんだ!?陛下の何処に不満があるというんだ!?」

「何もかもですよ。それじゃあ」

「待て!まだ話は終わって……ああもう!姉弟揃って人の話を聞かないんだから!」

 

 

 

 

 一方。

 

『ヒャッハーッ!』

『逃げるモンスターはただのモンスターだ!逃げないモンスターは良く訓練されたモンスターだ!』

『命はいらん!首を置いていけえ!』

「うーわ、やってるやってる」

 

 現状を俯瞰して確認するため、近くの共同住宅の屋根から戦場を見下ろす。

 乱戦状態となっているランドソルでは【ニャルラトホテップ教団】のメンバーが雄叫びを上げながら、モンスターとシャドウを殲滅していた。

 魔法と物理のツープラトンアタックがモンスターとシャドウに襲い掛かり、手足や首、中身(モツ)などの体のパーツを辺りにまき散らしていた。中には魔法で細胞の一片まで消し飛ばされ、灰になっていた。どっちが敵かこれもうわかんねえな。

 

「(こんなヤベー奴らと『ソルの塔』で戦うこともあったかもしれないのか……絶対に嫌だ)」

 

 あんな狂戦士(バーサーカー)軍団と戦うくらいなら七冠(セブンクラウンズ)に喧嘩売ってボコられる道を選ぶ。いや、あたしと天楼覇断剣は無敵だから、あいつらを返り討ちにできる。けど、相手にするのは精神的にキツイ。黒ずくめの狂戦士(バーサーカー)軍団が武器と魔法振り回して襲ってくるとかホラーでしかない。

 

「……ソルの塔に来たのが、ユウキ達で良かったよ……」

 

 心の底からの安堵の息を吐き出して、気持ちを切り替える。

 

「……まあ、それはそれとしてあたしも暴れるか!」

 

 屋根から飛び下りながら、宙に手を伸ばす。

 

「現出せよ!──天楼覇断剣!」

 

 着陸と同時に魔物を真っ二つに割り、あたしは突撃した。

 

 

 

 

 ランドソル王城内部。

 

「これが洗脳装置ですか」

「ええ」

 

 トラップを解除し、回避して辿り着いた区画。

 人一人入りそうな大きさの装置と、装置を稼働させる魔力──ランドソルの住民が入った蕾のような形状のタンク。それらは太い蔓のようなケーブルで繋がっています。

 

「マサキ、ダイゴ、我々はタンクの中身を取り出しましょう。ネネカ、彼らを安全な場所に運び出すため、分身を数名作成しておいてください」

「はっ」

「おう!」

「分かりました」

 

 指示通り、ラジラジ達がタンクから住民を取り出します。息はありますが、彼らの目は閉じたまま。恐らく、魔法で眠らされているのでしょう。それを私の分身達が担ぎ、城の外へ。この区画に来るときの道を巻き戻すように、運び出しました。

 

「さて。マサキ、ダイゴ、本体を破壊しましょう。準備は?」

「いつでもできてるぜ!」

「右に同じく!」

「ネネカ。貴女は万が一に備えて、下がっていてください。装置を破壊された時に発動するトラップの類が無いとは限りません」

「ええ」

 

 ラジラジ、ダイゴ、マサキの3名は洗脳装置を取り囲みました。そして武器を構え、闘志を宿した瞳で睨みつけ。

 

「ふっ!」

「おらあっ!」

「ふんっ!」

 

 それぞれが放つことのできる最大火力を以て、洗脳装置を破壊しました。

 

 

 

 

「おろ?」

 

 モンスターとシャドウも粗方殲滅したところで、地面が揺れた。大型のモンスターが倒れたことによる揺れでは無い、地下で何かが大爆発を起こしたような揺れ方だ。

 

『ジョージ。聞こえますか?』

 

 と、ラジラジさんから通信魔法で俺に連絡が来た。

 

「はいこちらジョージ。今の揺れは一体?」

『結論から言えば装置の破壊は完了しました。しかしそれと同時に床が崩落し、我々は落下してしまいました。現在、巨大な蜘蛛に変身したネネカに運んでもらっています』

 

 その連絡から少し遅れて、王城の方から巨大な光の柱が現れ、城の一部を吹き飛ばした。

 随分速い到着だな。そう思って振り向いた先にいたのは──。

 

『それともう一つ。落下する途中ですが、装置の下に繭のような物を発見しました。あれはおそらく──』

「『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』が入っていたんでしょう?その連絡、もう少し早めに欲しかったですね」

『まさか……』

 

 そのまさか。俺の目線の先には、人影が浮かんでいた。姿形は、俺達を戦略級魔法で亡き者にしようとしたあの時のまま。

 

「……私の眠りを妨げた罪は重いわよ?」

 

 魔法で声が都市全体に響くようにしたのか、それなりに離れた距離でもよく聞こえた。その一言に含まれる威圧感によって、辺りは静寂に包まれた。

 『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』が腕を横に振るうと、巨大な鎧が4つ出現した。外見から、あれは以前出現した『リビングメイル』と見て間違い無い。回収が終わる前に破片を確保していたようだ。

 

「せいぜい足掻きなさい。そして実力の差を知り、絶望しながら死になさい」

 

 勝利を確信しているのか、『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』は勝ち誇ったような声で俺達に言った。

 

「【ニャルラトホテップ教団】各員に伝達!」

 

 俺達が達成する目的の1つにして障害を前に、指示を出す。……『アストルム』をゲームとして楽しんでいた頃に、ボス戦の前に出していた指示を。

 

「生き残りたくば死人になれ!」

『イエス、サー!』


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