ゲームが現実で、現実が夢になった。誰か助けて   作:大豆万歳

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お気に入り50件超えました。ありがとうございます。

アニメ2期6話をベースにしてみましたが、モニカ達は出ません。


金属製の悪夢(前編)

 某日、ランドソル王城内部。玉座の間。

 

「──報告は以上です」

「……そう。引き続き、ユースティアナとラビリスタのプリンセスナイトの少年の監視を続けて頂戴」

「はっ」

 

 猫耳の生えた獣人(ビースト)族の少女が、狐耳の妖艶な雰囲気を放つ美女『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』への定期報告を終え、部屋を去る。

 さて、どのタイミングで声をかけるか……。

 

「早急に姿を現しなさい。さもなくば、【王宮騎士団(NIGHTMARE)】を呼ぶわよ」

 

 じろり。と、『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』が俺のいるほうを睨みつける。どうやら、俺が姿を隠していたことはバレていたらしい。

 

「……これでいいか?」

「貴方、クリスティーナの従弟のジョージね。何か私に用かしら?」

 

 さっさと話せと急かすように、『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』が眉間に皺を寄せる。

 

「じゃあ、単刀直入に言おう。あんたも手を焼く強敵を倒すために、俺達と手を組まないか?」

 

 俺の用件を聞いた『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』が、固まる。

 あれは1週間前のこと。

 クエストが無いか確かめるためにギルドに行った時、同行していたノウェムがある女子を親でも殺されたような凄まじい怒りの籠った目で睨んでいた。そしてその殺気を感じ取ったのか、相手の女子はそそくさとギルドを出てしまった。

 幸い、その時ノウェムは俺達と同じように仮面を被っていたため相手に顔は見られていない。とはいえ、仲間の1人が何事かと腰の剣を抜こうとしていたので、俺はノウェムを連れてギルドの裏手に移動して問いただした。彼女と何があったのかと。

 ノウェム曰く、あの少女こそが世界が滅茶苦茶になった元凶だと。ジョージ達と行動していたから抑えようとしたけど、どうしても我慢できなかったらしく怒りの籠った目で睨んでしまったらしい。

 それから3日ほど経ったある日、ノウェムから追加の情報があった。ノウェムの言う元凶と彼女の目鼻立ちは同じだが、髪の色と長さがまるっきり違う。似ているだけで別人だった、と。

 どうやらこの世界が滅茶苦茶になった原因は『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』の他にもう1つあるらしい。そしてそれは、『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』を打倒してしまうほどの力を持った強大な存在。

 

『正気ですか!?ジョージ』

 

 『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』に共闘を持ち掛けることを言ったら、ラジラジさんに正気を疑われた。

 

『脈は……正常。熱……問題なし。ちょっと口開けてー』

 

 晶さんはどこからか医療器具を取り出し、俺の心身に異常が無いか確かめた。

 

『やめておきなさい、ジョージ。彼の説得に時間を割いている暇があったら、戦力増強の為に時間を使いなさい。失敗に終わるのは火を見るよりも明らかです。おやめなさい』

 

 ネネカさんは俺を無理矢理椅子に座らせると、それはもう必死にやめておけと念を押してきた。

 でも俺は来た。戦うタイミングが前後するだけで、打倒『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』は変わらない。それこそ、終わって気が緩んだ一瞬を逃さず、後ろからアゾればいい。そう言って、ラジラジさん達も渋々ながら頷いた。

 

「……つまり、アレ(・・)を倒すために共闘したい。ということ?」

「そうだ」

 

 『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』は一呼吸置くと、冷たい目で俺のことを見下ろすように。

 

「ノーよ。一介の学生如きが、この私と対等な立場になろうなんて烏滸がましいわ」

 

 ばっさりと拒否した。

 

「それでもアレ(・・)を倒すために私の力と情報が必要だと言うのなら、今ここで跪き、私に忠誠を誓いなさい」

「断る」

 

 どうしても自分が上の立場でなければ気が済まないようだから、この話はさっさと諦めた方が良さそうだ。

 

「なら、今すぐここを立ち去りなさい。ここは貴方のような人間が足を踏み入れていい場所じゃないのよ」

「言われなくても」

 

 俺はワープクリスタルを使い、拠点へと帰還した。

 

 

 

 

【ニャルラトホテップ教団】ギルドハウス。

 

「ただいま」

「おお、ちょうどいい所に。ジョージにお客さんが来てるぞ」

「俺に?」

 

 いったい誰が何の用で来たんだろう。まさか、この間の件でノウェムがここにいることがバレたか?

 

「お待たせしました」

「久しぶりだね、ジョージ君」

 

 応接室のソファに腰かけ、紅茶を飲んで待っていたのは黒いジャケットを羽織り、仮面で顔を隠した女性。いや待て、この声は──。

 

「もしかして、ジュンさんですか?」

「うん。そういえば、兜を外した状態で話すのは初めてだったね」

 

 照れくさそうに、ジュンさんが頬を掻く。

 

「それで、どうしたんですか?」

「うん。……最近、漆黒の鎧を纏った騎士が夜な夜な街を徘徊し、暴れている。という噂を耳にしたことはあるかい?」

 

 ギルドの掲示板にもその人影の目撃情報を求める貼り紙が貼られていたので覚えている。

 

「ええ」

「実はその騎士の纏っている鎧なんだけど……どういうわけか、私が愛用している鎧とまったく同じデザインだったんだよ」

 

 なるほど、それでいつもの鎧ではなく私服を着ているのも合点がいった。

 

「私も独自で調査を進めたいんだけど、その間の拠点になる場所を今は探しているんだ。【王宮騎士団(NIGHTMARE)】は言わずもがな、噂のせいで実家には居づらいし」

「【サレンディア救護院】は?」

「行ったんだけれど、タイミングが悪いことにサレンちゃんは商談のために外出中でね。他に頼れる場所がココぐらいしかなかったんだ」

 

 だから頼む。と、ジュンさんが頭を下げる。

 ……ここまでされて断ったら後が怖い。

 

「わかりました。ただ、仮面を外して素顔を見せてください。一応、ジュンさんからの依頼という形ですので」

 

 俺は顔と名前と素性を明かさない人間からの依頼は決して受けない主義だ。ギルド経由のクエストも、依頼人がどこの誰かきっちり確認している。ミステリーで素性の分からない人物から依頼を受けるというのはわりとあるけれど、俺ならどんなに大金を積まれようと絶対に断る。だって、そういうのって胡散臭くて信用できないし。

 そう説明するとジュンさんも納得したのか、仮面を外して素顔を晒す。

 

「……もういいかい?」

 

 他人に素顔を見せることに慣れていないためか、少し恥ずかしそうに頬を赤らめている。

 

「ええ」

 

 俺が瞬きする間に、ジュンさんは素早く仮面を被り直した。

 

「寝泊まりはどうしますか?離れに俺の部屋がありますけど、そこでしますか?」

「離れ……ああ、あの小屋だね。その場合、ジョージ君はどこで寝るんだい?」

「野宿用の寝袋で適当に寝ます」

「いいのかい?私に気を遣わなくてもいいんだよ?」

「いえいえ。元とはいえ上司であるジュンさんが寝袋使って寝泊まりさせると、姉上に怒られそうですし」

「……わかった」

 

 ジュンさんも納得したのか、頷く。

 

「それで、これからどうしますか?例の騎士の目撃情報の多くが夜間だから、俺達はクエストを探しにギルドに行きますけど」

「なら、私も同行しよう。宿代の代わりと、例の騎士が私ではないことを証明するために、暫く君達と行動を共にするよ」

「わかりました」

 

 

 

 

 あれから3日が経過した。

 夜。俺とジュンさんは直近で目撃情報があったという獣人(ビースト)族の居住区画を中心に、例の騎士を探していた。

 装備は打突部分が剣のように長いメイス。遠距離攻撃用に、クロスボウと鉄球も装備している。相手がジュンさんのように鎧を纏っているなら、これが一番効果的だろう。

 

「……見つからないな」

 

 しかし、今の所発見に至っていない。俺達が見たものと言ったら、道端で横になっている酔っ払いか野良猫、俺達と同じように捜索をしている他ギルドの構成員くらい。

 

「奴め、一体どこに……」

 

 辺りを見渡しながら呟くジュンさんだが、心の中ではそれはもうお怒りなんだろう。言動からひしひしと伝わっているし、眉間に皺が寄っているのが容易に想像できる。

 何せ、自分と同じデザインの鎧を纏った人物が、夜な夜な暴れまわって人々に迷惑をかけているんだからな。

 

「グオオォーッ!!」

「主さま!」

 

 進行方向から見て東の方から、唸り声のようなものと子供の声。そして遅れて、金属のぶつかりあう音が耳に届いた。

 

「今のは!?」

「行きましょう!」

 

 声のした方角に進んでみれば、そこには鎧の下半身が佇み、上半身の部分は空中に浮遊していた。上半身部分と剣で鍔ぜり合いを繰り広げていたのは、青いマントを羽織った少年で……って、晶さんのプリンセスナイトじゃねえか!

 

「(マズい!)」

 

 そう判断したら先手必勝。少年の攻撃を利用して後退し、下半身部分と一体化して元の鎧の姿に戻った人影に殴りかかる。

 

「■■ーッ!」

 

 猿叫を上げながらメイスを振り下ろすと、相手は剣で防ぐ。しかし俺の筋力が勝り、相手の剣を兜の前頭部にめり込ませる。さっきの動きからして、相手は魔物の類で確定。だから加減する必要は無い!

 

「は!?」

 

 不意に股関節部分が大きく開き、腰から下がプロペラのように回転した。

 人間にはできないであろう、人外ならではの攻撃を回避し、メイスを中段に構える。

 相手はめり込んだ剣を兜から引き抜き、何事もなかったように構える。

 

「ジョージ君!」

「あの少年は?」

「同行していた女の子と一緒に、少し離れたところに避難してもらっているよ」

 

 同行していた女の子……一瞬すれ違った、穂先が青い槍を装備した白髪のあの子か。

 ジュンさんは腰の剣を抜き、俺と同じく武器を構える。

 

「ジュンさん。見ての通り、あれは魔物の類です」

「なら、かける慈悲は無い。ここで仕留めるぞ!」

「はい!」

「オォーッ!」

 

 魔物が雄叫びを上げて突撃し、剣を振り下ろす。

 

「ハァッ!」

 

 ジュンさんがそれを受け止め、俺は背後に回って攻撃しようとした。

 

「ジョージ君!」

 

 敵は俺に蹴りを食らわせようと鎧を再び分離させ、蹴りを繰り出す。かかったな阿呆が!

 

「フンッ!フンッ!」

 

 足を掴み、空いている手で逆手持ちにしたメイスを叩きつける。アイスピックで氷を割るように、何度も、何度も。

 そして膝の関節部分を逆方向に強引に折り畳んで手を離すと、同じように反対の脚の膝関節部分を逆方向に曲げる。片脚だけの状態でも、首を締める程度の攻撃はできるだろう。

 脚を力技で折り畳められた鎧の下半身が、地面でバタバタと藻搔く。

 

「ジュンさん!」

「ああ!」

 

 激しい鍔ぜり合いを繰り広げていたジュンさんに声をかけると、鎧の上半身部分が俺に向かって押し出される。

 

「そぉい!」

 

 大上段に構えたメイスを振り下ろし、鎧を地面に叩きつける。

 

「このっ!」

「そぉい!」

「このっ!」

「そぉい!」

 

 相手が動かなくなるまで、俺とジュンさんは交互に休みなく、攻撃を撃ち込む。浮遊して逃げたり、反撃したりする暇を与えず。無心で攻撃を続ける。

 ……しかし。

 

「うわっ!?」

「なんだ、これはっ!?」

 

 突然、魔物の体から濃い緑色の煙が噴き出した。万が一毒があったらマズいからと、俺とジュンさんは煙を吸わない様に息を止め、目を閉じてその場を離れる。

 

「体に異常は?」

「……大丈夫、みたいです。でも──」

 

 煙が晴れると、そこには何もいなかった。俺とジュンさんでボコボコに叩いた鎧は、上半身部分だけでどうにか下半身を回収して逃げおおせたようだ。しぶとい奴め。

 

「取り敢えず今日は帰って寝ましょう。それで、明日は朝から調査ですね」

「そうだね」




後半に続く

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