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「あ゙~……」
ランドソル中央、噴水広場。
12歳の少女が出してはいけない声を出しながら、マツリちゃんはベンチに座って天を仰ぎ見ていた。
「大丈夫かい?マツリちゃん」
「ふあっ!?ト、トモ姉ちゃん!?」
声をかけられて驚いたマツリちゃんが文字通り跳ね起きて背筋を伸ばした。別にそこまでしなくてもいいのに。やっぱり、ここ最近、夜遅くまで見回りをした影響で心身共に疲れているみたいだ。
「はい。そこの屋台でたい焼き買ってきたよ」
「ありがとうございます!」
目を輝かせたマツリちゃんはたい焼きを受け取ると、大きく口を開けてかぶりつく。
「……はぁ~、疲れた体に糖分が沁みるっす~」
口の中に広がる甘味に、マツリちゃんの表情が綻ぶ。
対照的に、私の心は曇り空よりもどんよりしている。私の表情も暗くなっていたのか、心配そうな目つきでマツリちゃんが私の顔を覗き込む。
「……トモ姉ちゃん、どうしたっすか?」
「まだ信じられないんだ。誰よりもこの国を愛し、守ろうとしていた団長が……」
ここ最近、ランドソルにある噂が流れている。
曰く、鎧を纏った騎士が夜な夜なランドソル内を徘徊しては無差別に人々を襲い、恐怖と混乱をもたらしていると。
その騎士の外見は……私が所属する【
しかも昨夜、夜の街で若い男が発したと思われる大きな雄叫びと金属が激しくぶつかる音が響いたらしい。そして音がしたという場所には、戦いの影響か道に罅割れと人型の凹みが残されていた。
若い男の大きな雄叫びと聞いて、私達はピンときた。
おそらく雄叫びをあげたのは、ジョージさん。あの人は刀剣を使って近距離で戦う時、『猿叫』という雄叫びを発して攻撃を行う。
それにより繰り出される一撃は凄まじく、金属鎧をトルソーごと紙切れの如く頭から両断したという。それ以来、ジョージさんが刀剣を使って戦うのは魔物のみにするという制限がかけられた。
もしかしたら、あの場で団長とジョージさんが戦ったのかもしれない。最悪、ジョージさんが団長を……。
「なんだなんだ、浮かない顔をして。お通夜でもしているのか?」
そんな私の隣に、誰かが座って話しかけた。
見れば、大きめの紙袋を持ったパンツスーツ姿の副団長、クリスティーナ・モーガンが座っていた。
「クリスティーナ」
「おばさん。こんな時に何処で何してたっすか?」
「大人には色々とあるのさ、お嬢ちゃん」
マツリちゃんの言葉を軽く流し、紙袋の中からバーガーを取り出して包み紙を剥がし、かぶりつく。分厚いハンバーグに、同じくらい厚い輪切りのトマト。その他レタスなどの野菜やチーズを挟んだ大きなそれを、朝から食べている。しかも紙袋の膨らみ具合から、10個ほど入っているようだ。私の気分が少し沈んでいることもあってか、見ているだけでお腹いっぱいになりそうだ。
「……あ~あ、つまらん。いっそ白昼堂々と暴れて欲しいな。団長との戦いは楽しそうだ」
「クリスティーナ!あなたは……っ!」
この状況でも普段と変わらず、戦いに飢えている彼女の言動に憤りを覚えた。自宅謹慎が終わって職場復帰してから、以前のような危険な言動も無くなり、少しは変わったと思ったのに……!
「
バーガーの3分の2を食べ切ったところで、副団長は続けた。
「お前達は団長の何を見てきた?実直を擬人化したような堅物の団長が、簡単に己の信念を曲げると思うか?」
「それは……」
クリスティーナの指摘に、私は口を閉ざす。マツリちゃんをちらりと見れば、副団長のことをまじまじと見ている。
「それに、昨夜の闘争の跡は見たんだろう?仮にジョージと団長が本気で激突したなら、あの程度の被害では済まん」
ジョージさんの実力を、身内贔屓抜きに高く評価している彼女らしい言葉に、私の中に立ち込めた暗雲が晴れてきた。
バーガーを食べ終えたのか、口元をナプキンで拭うと彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「そら、2人の分もあるから食べておけ。しっかり食わなければ、体も頭も動かないぞ?」
私達の分も別で買ってあったのか、小さめの紙袋を私に渡すと副団長はどこかへと去って行った。
一方その頃。
「今日は、どのあたりを見回りますか?」
「とりあえず、昨夜戦った場所に行ってみよう。【
と、ジュンさんと話をしながら歩いていると、突然。
「な、何をするっ!?やめろぉっ!」
「オオオッ!」
人の悲鳴と、剣と剣がぶつかる音が響いた。まさか、昨夜の魔物が回復でもして暴れているのだろうか?
「どうした!」
悲鳴のあった場所では、【
戦いを止めようと、2人の間にジュンさんが割って入る。
「やめろ!【
「その声は、団長ですか!?」
「ああ。何があったのか知らないが、決闘ならばせめて時と場所を──」
「違うんです!そいつがいきなり襲い掛かってきて……」
「オオオッーー!」
兜の下は涙目になっているのか、情けない声で弁明する騎士。それに対し、相手の騎士はうめき声をあげながら剣を振り回してジュンさんに襲い掛かる。
「っ、このっ!」
相手の攻撃を剣で防ぎ、蹴りを入れて突き飛ばす。よろめく騎士に俺は背後から掴みかかり──
「フンッ!」
力を込めて裏投げで後方に投げ飛ばす。
「(おかしいな。今の騎士、鎧を纏っていたにしてはやけに軽かった)」
投げた勢いと衝撃の影響か、騎士の兜が転がった。そして……。
「なっ!?」
「ひいいいっ!?く、首が無い!?」
起き上がった騎士は、頭が無かった。いや、頭どころか肉体そのものが無かった。
「ジュンさん。こいつ、もしかしたら昨夜の」
「おそらく、あのモンスターの同種だろう。ほら、君も怖がっていないで、構えるんだ!こういう時のために訓練を重ねてきたんじゃないのか?」
「はっ、はい!」
だったら躊躇う必要は無い。恐怖で膝が笑っていた騎士の尻を叩いて戦うようにジュンさんが指示を出すと、向こうも剣を抜いて構える。
「かかってこい!」
「グオオオッ!」
魔物が剣を振り上げ、【
「「せーの!」」
その横から、俺とジュンさんの蹴りで魔物の膝を攻撃し、破壊する。
バランスを崩し、うつ伏せに倒れた魔物に間髪入れず。
「フンッ!」
「伏せ!」
「寝ていろ!」
「ガアアアッ!」
起き上がろうとした魔物の肘と肩の関節部分を踏み潰し、動きを封じる。
ダメージの影響か、魔物は指の部分を小刻みに震わせる。
「……よし。後は──」
「うわあぁぁぁっ!」
「出たぞぉぉ!逃げろおおっ!」
「止めてください!ジュンさん!」
「ジュンさん!自分のことがわからないんですか!?」
安心したのも束の間、街のあちこちから悲鳴が聞こえてきた。……おいちょっと待て、今『ジュンさん』って聞こえたぞ?まさか、昨日のあれが出たのか?しかもよりにもよって、マツリさんとトモさんが相手か。あの2人にあれの相手は精神的にキツイだろう。
「すまない、こいつは君に任せた!私はジョージ君と他の団員の応援に向かう!」
「はっ!」
「行くよ、ジョージ君」
「わかりました」
倒れた魔物を騎士に任せて、俺とジュンさんは声のした方向に駆け出した。
「マツリちゃん!トモちゃん!そいつは鎧の姿を模した魔物だ!」
「わかりました!」
「団長の名誉を侮辱した報い、受けさせてやるっす!」
鎧の人物と戦っていたトモさんとマツリさんは、ジュンさんの助言を聞くなり魔物の膝を切断し、飛び蹴りで仰向けに倒す。そして得物の剣を奪って胴体に突き刺し、地面に固定した。行動に移すのが早い。
駄々っ子のように四肢を振るって起き上がろうと抵抗する魔物の手足をロープで縛り、動きを封じる。
「相手が人間か魔物か分からない時は、こうして兜を脱がせるんだ。それに、手足をロープなどで縛れば簡単に無力化できる。他の団員達にも、そう伝えてきてくれ」
「「はい!」」
ジュンさんが魔物の頭部を掲げながら指示を飛ばす。2人もそれに従い、他の団員のところに向かおうとしたが──。
「残念だが団長、今すぐ指示を変更したほうがよさそうだぞ」
どこからともなく姉上、クリスティーナ・モーガンが現れて待ったをかけた。
「どういうことだい?クリスちゃん」
「あれを見ろ」
姉上が切っ先を向けた先には、民家ほどの大きさの魔物がこちらに歩いて来ていた。
「なっ!?」
その魔物は俺達が捕縛した魔物の方を向くと、腕を文字通り伸ばして掴み取り、そのまま取り込んだ。
「一体なんなんすかあれは!?鎧を模した魔物といい、あのでかい魔物といい……」
「あれは『リビングメイル』と呼ばれる魔物だ。団長、ジョージ、金属製の武具がひとりでに動き出したという話を聞いた事はないか?」
混乱状態のマツリさんの頭を姉上がそっと撫でて落ち着かせながら、俺と団長に訊ねた。
「ああ、剣が飛びまわったり、鎧が勝手に出歩いたりしたって話か」
「私も。あれはてっきり、おとぎ話の類だと思っていたんだけど、まさか実在していたとは……」
俺とジュンさんの反応を見た姉上が、『リビングメイル』という魔物について更に詳しく説明した。
今はあんな巨体だが、もともとは微生物の群体であるらしい。
その微生物は金属を捕食し、成り代わるという性質を持っており、金属製の武器や防具が大量生産された戦時中に、こいつらは爆発的に増殖していたらしい。
当時、軍隊としての役割を担ってた【
「でも、どうするんですか?金属製の武器や防具を捕食する性質上、私達だと接近戦は難しいんじゃないですか?」
と、トモさんがジュンさんと姉上に問いかける。
「安心しろ、そのために、ちょっと待てジョージ、何をするつもりだ」
「ぐえっ」
俺の中で考えた作戦を実行しようと思ったら姉上に襟首を掴まれた。
「いや、俺の仲間を呼ぶついでに丸太を何処かで調達して、あの魔物を叩き潰して小さくして、魔法で細胞の一片まで焼いてやろうと……」
「やめんか馬鹿者。確かにその方法で倒された個体もいるが、もう少し文明の利器に頼れ」
「つまり、あの魔物をどうにかする策があるんだね?クリスちゃん」
ジュンさんの言葉を待っていたと言わんばかりに、姉上が口角を吊り上げて笑う。
「その通り!こんなこともあろうかと、私は陛下にある魔法兵器の使用について交渉していたのさ。幸い、相手は集まって一塊になっている。ここはひとつ、派手にいこうじゃないか」
姉上の言った兵器とやらが、見計らったように団員達に運ばれてきた。
石の筒と木製の土台で構成された、大砲のようなもの。姉上曰く、試作品のため見栄えは悪いが、金属すら融解させる超高温の熱戦を放つという。
「さて、この兵器は非常に威力が高い。そのため、近隣の建築物に被害が出ないようにしなければならないが……せっかくだ、ジョージは自分の仲間を呼んでこい。その間、あの魔物の足止めは私達で行う。戻ってきたら、あの魔物を思いっきり空中に打ち上げてくれ。そこにこの大砲の一撃を撃ち込んで、チェックメイトだ」
「……了解」
姉上の指示を受けて、俺は仲間達を通信魔法で呼んだ。
~暫くお待ちください~
「「「待たせたな」」」
「じゃあ、さっき通信した通り動くぞ。ジュンさん!トモさん!マツリさん!下がってください!」
「分かった!」
「了解!」
「了解っす!」
「「「「《パンプアップ》!」」」」
集まったメンバーで横一列になる。そして魔法で物理攻撃力を上昇させ、魔物に向かって突撃する。俺達と入れ替わるように、ジュンさん達が後退する。
「ふんっ!」
攻撃を掻い潜り、2人ずつ魔物の脚にしがみつき、足と地面の間に指をねじ込む。そして歯を食いしばって背筋の力を使って──。
「「「「どすこーい!」」」」
魔物を上空に投げ上げる。空高く舞い上がった魔物が、ある程度の高さで一瞬停止する。
「3数える間に私の後ろに下がれ!人体にかすれば骨も残らんぞ!3!2!─」
息を整える間もなく飛ばされた指示に従い、全身に鞭を打って姉上のより後ろに下がる。
「1!ナイトメア大砲、発射!」
落下のタイミングに合わせて放たれた極太の熱線が、魔物を包み込む。射出された反動か、凄まじい衝撃波で転びそうになった。
「おお……」
衝撃波が止んだので空を見上げてみれば、魔物は蒸発して消し飛んでいた。
こうして、街を騒がせていた魔物は討伐された。
探知魔法を使って魔物の残党を捜索し、殲滅する作業が残っていたけど、それは【
……まあ、生き残りに遭遇したら倒すくらいのことはするけれど。
数日後。王城門前。
「(……今日もランドソルは平和だな)」
例の騒動が収束し、私にかけられていた疑いも晴れ、こうして職場復帰することができた。
「団長。ちょーっと聞きたいことがあるのだが、構わないね?」
「うん」
いつも通り全身鎧に身を包み、王城門前で門番の仕事をしていると、クリスちゃんに声をかけられた。
「例の騒動の間なんだが、団長は何処にいたのかな?実家の方にはいなかったようだし、近隣の宿屋にもそれらしい人物はいなかったぞ?」
私の肩に腕を回し、顔を思いっきり近づけてクリスちゃんが問いかける。
「ジョージ君のところで暫く世話になっていたよ」
ここは下手に誤魔化したりとぼけたりせず、正直に言うに限る。というか、彼女もそれを分かったうえで聞いているのだろう。
「ほほぉ~う……つまり、ジョージと寝食を共にした、ということだな?」
満面の笑みを浮かべているけれど、圧力が凄い。というか、嫉妬と羨望の念をひしひしと感じる。
「まさかとは思うが、同衾などは……」
「していないよ。私はベッドを借りて、ジョージ君は自前の寝袋を使って寝ていたよ」
私の回答がどこか気に入らなかったのか、クリスちゃんは大きなため息をつくと私から離れる。
「つまらんな~。年頃の男女が一つ屋根の下で寝食を共にしながら、何も無いとは。それとも、ジョージに男としての魅力が無いと思っているのかな?」
「(また始まった……)」
大剣の鞘を撫でながら、クリスちゃんが私に詰め寄る。魅力が無いと言えば怒って暴れるだろうし、魅力が有ると答えれば嫁に相応しいか確かめると称して斬りかかってくるだろう。相変わらずジョージ君へのブラコンを拗らせているし、この手の話題の時だと面倒くさいことになる。
「高身長の美形で性格良し。甲斐性もそれなりに有り。ナニもご立派。私の自慢のジョージはこれ以上ない位の優良物件だというのにな~」
「ぶっふぉう!?」
クリスちゃんが小声で言ったとんでもない情報に思わず吹き出す。飲み物を口に含んでいたら盛大にぶちまけていたのは確定的に明らかだ。
私は深呼吸をして、クリスちゃんの質問に対する回答を考える。……そうだ!これ以上ない位クリスちゃんに効く回答を思いついた!ジョージ君も百点満点を出してくれるだろう。
「クリスちゃんのようなおっかない人が親戚にいるのはちょっとね。だいたい、クリスちゃんはジョージ君の心配ができる立場じゃ」
「さて、私は仕事に戻るとするか。まだまだ面倒な事務作業が残っていたんだった。それじゃあ」
私の回答を最後まで聞くよりも早く、クリスちゃんは足早に王宮内へと戻って行った。
「(……後でトモちゃんとマツリちゃんに教えよう)」
今のようにすればクリスちゃんを撃退できると。
一方その頃。
「グワーッ!」
「その調子です晶。そのままジョージの関節を極めておいてください」
「オッケー」
いつもの拠点に来るなり晶さんに掴まり、そのままアームロックを極められた。杖で狙いを定めているのか、背後にいるネネカさんが俺の尻を突いている。
「晶さん!いきなり何をするんですか!」
「合コンで女の子をお持ち帰りするだけでなく、二股までかけていた悪党へのお仕置きだよ。さあ、ネネカ。思いっきりやっちゃって!」
誤解だと伝えたお持ち帰りは別として、身に覚えのない二股疑惑までかかっていた。何故だ!?
「そもそも交際している相手がいないから二股をかけようにもかけられないですけどぉ!?弁明!弁明させてください!」
必死の
「まずお持ち帰りは誤解で、俺の隣の部屋の住人だったっていう偶然起こった事なんです」
「ふ~ん。まあそういうことにしておくよ」
なんで素直に受け止めてくれないんだ。ニヤニヤ笑顔が凄く腹立つ。
「……続けますね。二股疑惑なんですけど、俺と蘭さんが晶さんのクレープ屋台に一緒に行った時のこと言ってます?」
「うん。黒髪ロングの大人しそうなあの子だよ」
「彼女が俺の隣の部屋の住人です」
「なるほど、そういうことか。いやこれは失礼。まあそれはそれとして」
「い゙っ!?」
晶さんが爪先で地面を叩いたと思ったら、俺の頭頂部に硬い物体が激突した。権能使って天井の形を変えたな!?
「外でならともかく、君の部屋で2人っきりで飲み食いする程度に親密な女性が寝ているのに手を出さないのはどうかと思うよ?『据え膳食わぬは男の恥』って言葉知らないの?そういうのを世間一般ではヘタレって言うんだよ」
頭を押さえてのたうち回る俺に、晶さんは顔を覗き込むようにしゃがんで言う。
「異議あり。明確にそういった関係になっていない相手に手を出すのは紳士的とは言えません。仮にそうだったとしても、命中した時のことを考えて我慢するというのも選択肢の一つです」
そこに、いつの間に着替えたのかスーツ姿のネネカさんが異議を唱えた。丁寧に弁護士バッジも着けている。
「いやいや。『帰りたくない』っていうのは彼女なりに遠回しに誘っているんだよ。だから手を出さないのは
負けじと晶さんが反論し、始まる議論。
「……ラジラジさん。なんで晶さんとネネカさんはあそこまで俺に構うんです?」
「非常に申し上げにくいのですが……彼女達にとって女装した君はアイドルのような人気がありまして。その影響でしょう」
「……本当ですか?」
俺の問いにラジラジさんは首肯すると、写真を3枚取り出した。そこには──。
姉という強権に屈し、姉達のお下がりを着せられた小さい頃の俺。
再び姉という強権に屈して出場し、高校の文化祭の女装コンテストで3年連続優勝を成し遂げた、セーラー服姿の俺。
もうコスプレの範囲内で楽しもうと吹っ切れ、口元を扇子で隠して妖艶に目を細める、同人イベントで八雲紫のコスプレをする俺。
俺の女装写真をクリス姉から受け取った時の晶さんとネネカさんは、アイドルのグッズを入手して喜ぶファンのようなリアクションを見せるらしい。
とりあえず、現実に帰還したらクリス姉に2回くらい張り手をかましてやろう。俺はそう決心しながら、頭頂部に回復薬を塗った。
王宮内部。玉座の間。
「陛下。『リビングメイル』の破片を回収してまいりました」
「ありがとう、キャル。下がっていいわよ」
「はい」
キャルが立ち上がり、玉座の間を去ると、私は手の中にある瓶をかざす。
中に入っているのは、例の騒動を引き起こした魔物の破片。
【
まあ、量が少ないのは別に問題ない。適当な鉱山に放り込むなり、金属製の廃棄物を集めて餌として与えるなりして数を増やせば良い。
目的は、あれ以上の大きさとパワーを有した個体に育て上げること。
「(今私が進めている計画の通りに魔力を集め、私自身のパワーを底上げする。そこに育ち切ったこの魔物を追加すれば……)」
忌々しいあの存在に勝てるかもしれない。
前回は単騎で挑み、敗北を喫した。
ならば今度は、シンプルに巨大でパワフルな従僕を投入して圧し潰す。
「嗚呼、楽しみだわ……」
私に挑むためにコソコソ活動している愚者達が敗北する姿を見るその時が。特に私と対等な立場になろうとしたあの小僧が絶望に顔を歪ませ、地に倒れ伏す姿はさぞ見ものだろう。
「待っていなさい……エリス」
忌々しい怨敵を打ち倒す瞬間を思い浮かべながら私は、口角を吊り上げて嗤った。
次回、本編の前に設定集でも投稿しようかと考えています