従者の旅支度   作:技巧ナイフ。

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これがやりたかっただけ。


時間逆転の可能性

 時間は万物に影響を及ぼす。

 それは人や物。見上げればどこまでも広がる空や、誰もが立つ大地。

 星も、宇宙も、神様だって“時間”に支配されている。

 

 心さえも例外ではない。

 

 ———オギャー!オギャー‼︎

 赤ん坊のような泣き声が響く。

 

「シキ。最高の護身術とはなんだと思う?」

「どうしたの突然?」

「男の子はいつだって、襲いかかってきた敵を制圧する妄想をしているものだろう」

「……もしかして共感性羞恥を誘発させようとしてる?」

 

 無駄に真剣な面構えで父さんがこんな事を言ったのはいつだったか、正直覚えていない。

 たぶん僕が魔法を習い始めた頃かな。

 

 あの時は確か、適当に答えたんだっけ。

 

「う〜ん……やっぱり鍛え抜かれた筋肉だと思う」

「違う!」

「じゃあ鍛え抜かれた頭脳?」

「違う!」

「むぅ…。鍛え抜かれた魔法とか?」

「ちょっと惜しい!」

 

 母さん曰く、父さんがこうやって僕に問い掛けをするのは、師匠っぽいことに憧れているからだとか。

 確かにイレイナから借りパクした伝記物にそんなシーンがあった気がするけど。

 

「まず、『戦う』という選択肢は捨てろ。東の国でも、“戦わずして勝つ”ことこそ最上の勝利と言われている」

「そうなんだ」

 

 ———オギャー!オギャー‼︎

 赤ん坊のような泣き声が響く。

 

「じゃあどうすればいいの?」

「簡単だよ。()()()()()()()()

「戻す?」

「襲いかかってくる奴を、『襲い掛かろう』と思う前まで戻してやればいい。害意も、悪意も、殺意も、全て時間が醸成するものだからな」

「でも、どこまで戻せばいいか分からないよ?」

 

 この時の僕は、幼いながらも我ながら鋭い指摘をしたと思う。父さんは少しだけ嬉しそうに僕の頭を撫でてくれた。

 

「だったら、100%純粋無垢な頃———赤ん坊の頃まで戻してやればいい」

 

 父さんは僕の頭を撫でながら、周囲を睥睨した。

 

 ———オギャー!オギャー‼︎

 ()()()()()()()泣き声が響く。

 しかし、そこで泣いているのは赤ん坊ではない。動物の毛皮を纏った何年も洗っていない体と、伸ばし放題の髭と髪が生えた頭。山賊だ。

 

 ピクニックに来ていた僕らは、道中この山賊たちに襲われた。

 でも、冷静に父さんと母さんが杖を一振り。たったそれだけで、山賊たちは例外無く全員が地面に体を丸めて泣き出し。まるで母親を求める赤ん坊みたいに。

 父さんの言葉を鵜呑みにするなら、彼らは戻されたんだろう。()()()()()()

 

 あの時は何とも思わなかったけど、今思い返せば分かる。それは悍ましい光景だ。

 体は大人のまま精神だけを赤ん坊に戻された人間は、もうなす術が無い。どれだけ純粋に母性を求めても、それが見た目が大人ならば誰も助けてはくれない。

 

 こんなの、殺さないだけだ。殺してやったほうがマシだとさえ思える。

 

「まぁ、これも使い方の1つだ。わりと高度な魔法ではあるが、使えるようになれば色々と便利だぞ」

 

 その魔法の名前は———

 

 

 

 

「そういえば今朝、久しぶりにイレイナちゃんが来たわよ」

 

 僕の実家である喫茶ボラッチャがピークになる前、唐突に母さんはそんな事を言った。

 

「そうなんだ。1年ぶりくらい?」

「あら? もうそんなになるかしら。どうりで美人になってるわけだわ」

「そっかぁ。じゃあその分性格悪くなってるね」

「その女性に対するシキの偏見はどこで覚えてきたのかしら……」

「え? 父さんだけど。よく母さんのこと見ながら言ってるよ」

「……ちょっと夫婦水入らずで楽しいお喋りしくるわね」

 

 目の笑っていない笑顔で母さんが厨房に消えていった。たぶん美人と言われて嬉しかったんだね。

 両親が仲良くて僕もにっこり。

 

「あ、すみませ〜ん。注文をお願いしてもいいですか?」

「かしこまりました。ただいまお伺い致します」

 

 珍しくお昼頃から来ていたお客さんに、僕も営業スマイルを浮かべて注文を取りに行く。

 

「こんにちは、フラン先生」

「はい、こんにちは。やっぱりこのお店は静かで落ち着きます」

「飲食店としては本来賑わっていないといけない時間なんですけどね」

「……すみません」

「謝らないでください」

 

 今が混まないだけで、おやつ時にはここら一帯のお客さんを独占できていると言っても過言じゃないし。

 

 1年前のイレイナが顔を見せに来なくなった日を境に、フランさんはよくウチの店で食事するようになった。

 詳しいことは分からないけど、イレイナが修行を理由にして食事を作ってくれなくなることが増えたらしい。

 

「僕としてはフラン先生が会えるので、全然混まなくていいんですが」

「ふふ。相変わらずお世辞がお上手ですね」

「お世辞じゃありませんよ」

 

 なんというか…約1年の交流を経て分かったことなんだけど、どうやら僕はフラン先生に憧れているらしい。

 

(でも、恋愛感情じゃないっぽいんだよなぁ…。別に緊張しないし)

 

 両親が元従者だからなのか、僕はどちらかと言うと人を甘やかすことが好きなんだよねぇ…。実はフランさんがグータラ気質だと発覚した日から、会う度にどうしようもなく彼女をお世話したい衝動に駆られる。

 

「でも、それも今日で最後になります」

「なんですと⁉︎」

「名残惜しいですね……。ここの食事は結構気に入っていたのですが」

「……な、なぜ最後になるのでしょう?」

「やる事が全て終わったからです。会いたい人には会ったし、やる事はやった。だからもう、ロベッタにいる理由はないのですよ」

「別に……理由なんてなくてもいいじゃないですか」

「まあそうなのですが、実は私も本職というものがありまして……流石に1年も離れてしまったので、それの処理とか諸々大変なんです」

 

 困ったように半笑いを浮かべるフランさんは、また違う種類の笑みを僕に向けた。

 

「……意外ですね。シキくんにはあまり良い感情を持たれていないと思っていました」

「常連とも言えるくらい通ってくれた方を嫌うわけ無いじゃないですか」

「それだけですか?」

「純情な年下の男をからかうのは良くないですよ」

 

 からかい混じりの言葉に、僕はウインクで返す。

 

 この人に抱く感情はきっと“感謝”だろう。それはもちろん、常連になってくれたことだけじゃない。

 

「イレイナを弟子にしてくれたこと。イレイナが魔法の修行に没頭できるほど指導してくれたこと。イレイナを大切にしてくれたこと。その全てに感謝しています」

「この1年、イレイナがあなたに会いに来なくなってしまったのは、言ってしまえば私のせいですよ」

「別に僕たちはベタベタ一緒にいたいわけではありません」

 

 むしろ用も無くこちらを訪ねてきたら、真っ先に何かあると疑うだろう。

 気まぐれなイレイナは、たまにビックリするぐらいうざったい悪戯をすることがある。

 

 思いっきり顔を顰めた僕を、フランさんは優しい目で見つめていた。

 

「なにか?」

「いえ。私としては、もう少しくっついても良いと思うのですが」

「どういう意味です?」

「ちなみに、イレイナが素直になったらどうします?」

「……? あいつは良くも悪くも素直でしょう。あの毒舌は勘弁してほしいですが」

「言い方が悪かったですね……。好意を素直に表現してきたら、という意図の質問だったのですけど」

「頭の病気を疑いますね」

 

 あのイレイナが満面の笑みで「大好き♡」と言ってくる姿を想像してみる。……鳥肌が立った。

 外見だけは良いので絵面としては見栄えするだろうけど。

 

 僕の顔を見て考えている事を察したフランさんは、残念そうにため息を吐く。

 

「あなた達はもう少し相手に対して素直になったほうが良いと思います」

「何故です?」

「そっちの方が面白いからです。私が」

 

 僕とイレイナの関係のどこに面白がる要素があるのか。まったく分からん。

 なんとなくこの話を続けても時間の無駄だと感じた僕は、営業スマイルを顔面にペタリ。

 

「ではお客様、注文をお伺いします」

「あらら。……それでは、シチューパンとクロワッサンを。飲み物はコーヒーをお願いします」

「かしこまりました。最高のものをご用意致します」

「えぇ。楽しみです……と言いたいところですが、用意できますか?」

 

 フランさんが怪訝な目を厨房側に向ける。衛生管理には自信があるウチはオープンキッチンタイプなので、お客さんからも厨房の中が見えるんだけど———そこでは、父さんと母さんが互いにファイティングポーズを取って向かい合っていた。

 

 僕にはまったくもって皆目見当もつかないが、どうやら夫婦喧嘩が始まっているらしい。なんてこったい。

 食べ物を出す店で、犬も喰わないようなものをお客さんに見せるのはどうかと思うよ。

 

「喧嘩するほど仲が良いということです」

「まるであなたとイレイナのようですね」

「…………」

 

 僕は聞こえないフリをした。

 

 

 

 

 フランさんとの別れはごくごくあっさりとしたものに終わった。

 餞別としてお代はお断りしたけど、あの人そもそもお財布出す気配が無かった気がするような……。いや、仮にも魔女がそんなセコい根性ということはないか。ないと信じよう。

 

 フランさんが去ってすぐに店はいつも通りのピークを迎え、忙殺された僕はしんみりする暇がなかったよ。

 もしかしたらそれを見越してあの時間に来店したとも考えられるけど、答えは本人にしかわからない。

 

 そして相変わらずのおやつ時が過ぎ、ウチで食事する物好きも自分の国に帰ってしまったことから1年ぶりに夕食時は閑古鳥が鳴いていた。

 父さん、フランさんが来るの結構楽しみにしてたしなぁ。自分の料理をお客さんに振る舞えるって。

 母さんも同性同士だからか、わりとお喋りが弾んでたし。

 1年通ってくれた常連客が去ってしまったことが、僕たち3人の間に改めて寂寥感を募られせていった。そんな時———カランカランと、来客を告げるドアベルが鳴る。

 

「こんばんは。お久しぶりです」

 

 そこに立っていたのは、灰色の髪と胸元の真新しいブローチを揺らす我が幼馴染。1年ぶりに見るその顔面は、最後に見た時よりも何か吹っ切れたものを感じる。

 

「なんだ…イレイナか。久しぶり」

「……もう少し驚いてくれてもいいんじゃないですか?」

 

 わりと僕たち家族の中で、フランさんが大きな存在になっていたことを噛み締めていたところだ。間が悪かったね。

 そんな僕に代わって、大人である父さんと母さんが笑顔でイレイナを迎えた。

 

「やあ、いらっしゃい。少し背が伸びたんじゃないか?」

「父さんが縮んだんだよ」

「うん。やっぱり美人になってる」

「久しぶりに見るから、そのせいじゃない?」

「「 ふん! 」」

「痛い!」

 

 両親が同時に僕の頭をゴン! …痛い。

 

「ほら、お前もちゃんとこっちに来い」

「ごめんねイレイナちゃん。この子、久しぶりに会えて照れてるのよ」

「いや別に照れてな……」

「照れてるのよね?」

「だから照れて……」

「———今月のバイト代が欲しかったら『照れてる』って言え」

「照れてます!」

「ほらね」

「いや、『ほらね』と言われましても……」

 

 バイト代なしされては敵わないので、僕もイレイナのそばに寄ってみる。

 美人になったかどうかは分からないけど、どこか晴々としてるね。最後に会った時はどこか鬱屈としてたから、それが無くなったぶん美人に見えるようになったのかな? 

 

 彼女の胸元を見れば、そこには星をかたどったブローチ———魔女の証だ。

 

「フラン先生が帰るからもしやと思ってたけど、ちゃんと魔女になれたんだね」

「はい。“灰の魔女”の魔女名を拝命しました」

「ダジャレ?」

「違います」

「そう。……おめでとう。頑張ったね」

 

 これくらい言えば僕のバイト代が天引きされて父さんのギャンブルに注ぎ込まれることもないだろう。

 

「何か飲む?」

「ではコーヒーを。シキが淹れてくれるんですか?」

「不満なら父さんにお願いするけど」

「いえ、そういう意味ではありません。是非お願いします」

 

 まぁ、これくらいはいいか。少しくらいお祝いしてやらないと幼馴染甲斐がないしね。

 もし祝い品をねだられたら、これを引き合いに出してやれば良い。うん完璧。

 

 父さんと母さんが魔女見習いの修行期間についてイレイナに聞いている声をBGMに、僕はトポトポとコーヒーをドリップしていく。

 キッチンにはストレス解消効果のある香りがフワッと広がって、思わず笑みが溢れた。

 

(そういえば、珍しくフエルトケーキが余ってたっけ……)

 

 両親には負けるけど、僕だって自分の淹れるコーヒーには密かに自信がある。しかし、それはコーヒーだけだと分かりにくいものだ。

 別にイレイナがコーヒーを美味しそうに飲む顔が見たいとかではないけど、それはそれとして美味しくコーヒーを飲んでもらうには甘いケーキが不可欠だうんそうに違いない。

 冷やしてあるホール状のフエルトケーキを一人前切り分けて、コーヒーの横に置いた。

 

「はい、お待たせ」

「……私はコーヒーしか頼んでないのですが」

「余ってたから食べなよ。嫌いじゃないでしょ?」

「えぇ……まぁ」

 

 カチャカチャ。ススス。カチャカチャ。フォークと皿のぶつかる音だけが慎ましく店内に響く。

 父さんと母さんはケーキとコーヒーを交互に頬張るイレイナの姿を、まるでもう1人の子どもを見るような目で見つめていた。いや、案外2人にとっては本当にそうなのかもしれないね。

 少し居心地悪そうに身じろぎしていたイレイナは、ほんのり照れくさそうに頬を染めて僕を見る。

 

「シキ」

「なに?」

「私、魔女になりました。当初の予定通り、明日には旅に出ます」

「そう。じゃあ今日はお別れを言いに来たのかな?」

 

 ほんのちょっぴり、胸に棘が刺さるような感覚があった。

 もう少しだけ待ってもいいんじゃないか。1年ぶりに会ったんだから、あと1週間……せめて3日くらいは僕と———首を振り、その気持ちを払い飛ばす。

 昔からイレイナは、魔女になったら旅をすると言っていた。旅をする為に魔女になったんだ。だったら例え3日でも、僕に時間をくれてやる義理はない。

 

「お別れもありますが、今日は忘れ物を取りに来たんです」

「忘れ物……昔借りパクした本?」

 

 僕の言葉に、イレイナの目がすぅっと細められた。怖い。

 

「どんな本ですか?」

「ほら、小人が森に住む悪い魔物をしばき倒して解体した後その肉使っで焼肉パーティーするやつ」

「見当たらないと思ったらあなたが持ってたんですか!」

「あれ? 忘れ物ってそれじゃない?」

 

 しまった。口は災いの元だった。今にも僕をぶっ殺しそうな勢いで睨みつけてくるイレイナは、コホンと咳払いを1つ。

 

「その本は可及的速やかに返してほしいですが、私が取りに来た“忘れ物”はそれじゃないです」

「そっか。じゃあイレイナが取りに来た忘れ物って何?」

「それは———」

 

 そうしてイレイナが指を差したのは———

 

 

「———そう、あなたです」

 

 

 

 

 僕とイレイナは、ロベッタを一望ですか丘の上で対峙していた。

 少し離れた所では父さんと母さん、あとヴィクトリカさんがレジャーシートを広げてお茶を片手に談笑している。

 

 ……なにこれ? 

 

「父さん。説明」

「父さんもさっきまで忘れていたんだけどな、だいぶ前にイレイナちゃんから『お前を買いたい』と言われていたんだ。あれいつだったっけ?」

「確か……あ、そう! シキがイレイナちゃんに顔面蹴り飛ばされて泣きながら帰ってきた翌日よ」

「そうかぁ。時間が経つのは早いなぁ……」

「そうねぇ……」

 

 いや、過去の有りし日に想いを馳せてないで。

 

「で、まぁ『別にいっか』と了承したんだよ」

「いやしないでよ! 普通に人身売買じゃん」

「構わんだろ。文句言うな」

「構うから文句言ってんだよ! ……まあそれは一旦置いとくとして、なんで僕とイレイナが勝負するみたいな流れになってんの?」

「知らん」

 

 この役立たず…ッ! 

 

「ではその説明は私が」

 

 僕の抗議を意に介さず、「あ、これ美味いな」と余り物で作ったピンチョスをヴィクトリカさんへ勧める父さんに激しく苛立っていると、対峙している張本人が手を挙げた。

 

「これは言ってしまえば、私自身の“けじめ”みたいなものです」

「けじめ?」

「はい」

 

 じゃあ指でも詰めれば、と茶化してやろうと思ったが、イレイナの真剣な眼差しに射抜かれて飲み込んだ。

 

「魔女見習い昇格の試験では他を圧倒しました。フラン先生にまぐれの一勝をして魔女として認められました。“魔法”という一分野ならそこそこの実力はあると、今は自負しています」

 

 彼女を知らない人が聞けば『傲慢だ』と切り捨てるだろう言葉に、僕は頷く。

 

「でも、それは結局のところ時間の問題でしか無かったんです」

「そうだね。イレイナには才能があって努力もした。魔女になれたのは当然の帰結だと思う」

 

 努力した人間が努力によって報われた。イレイナの道のりを端的に表すならこれだ。

 そして、それは僕としても好ましいの一言に尽きる。

 

「だから私は、たぶん何も変わっていないんですよ」

「…………」

「でも、私は旅人になります。旅人に変わります。だからその“けじめ”としてあなたを選びました」

「そこが分からないんだけど」

「———弟子は師匠を超えるものでしょう?」

 

 イレイナは真っ直ぐと、なんの迷いも無く僕を見つめている。

 

 ……確かにイレイナに最初に魔法を教えたのは僕だ。

 でもそれは、2年早く生まれた僕が彼女より先に魔法を習っていたからに過ぎない。

 そもそも男の僕が、女のイレイナに魔法を教えること自体が無謀だったんだ。だって教えて3日で抜かれたし。

 さらに言ってしまえば、僕がまともに使える魔法なんて1つしかない。

 

 だから師匠とは名ばかりで、結局あの時の僕はイレイナに先輩ぶりたかっただけだったんだ。

 

「とっくの昔にイレイナは僕を超えてるよ」

「いいえ。私はシキを超えたと思ったことは一度もありません」

「何を根拠に」

「魔女見習いの試験では圧勝。フラン先生にはまぐれ勝ち。しかし、私はあなたに一勝もしていない」

「……いつも僕がボロ負けしてたように思うけど」

「喧嘩では、でしょう?」

 

 こうなるとイレイナは何を言っても納得しないだろう。うん、悲しいかな。幼馴染というのはそういうのを互いに熟知してる。

 

「はぁ……分かったよ」

 

 僕が折れると、イレイナの目がキラキラと星のように輝く。……お前はもう少しそういう顔を表に出せと思ったけど、今は言う必要もないか。

 

 そこからは早かった。

 お互い十分に距離を取って、魔法を行使する為の杖を構える。

 

 そしてアイコンタクトを1つ交わして、それが開始の合図だ。

 

「私は今日、あなたを超えてみせます!」

 

 ブンとイレイナが杖を一振り。たったそれだけで、彼女の周囲には剣やら火球やら雷雲やらが大量に展開された。流石は灰の魔女。

 死にはしないだろうけど、1つでも当たれば即座に行動不能だろうね。

 

「来いよイレイナ! 杖なんか捨ててかかって来い!」

「キメ顔のわりに、この上なく情けないセリフです…ねっ!」

 

 杖が僕に向けられた。瞬間、とんでもない速度で展開されていた魔法が僕に向けて殺到する。

 当たれば負け。たぶん痛い。いや、超痛い。

 

 だから———いい感じに()()()()()()()

 

 ピタッと。飛んでくる魔法が全て、時間の流れを忘れてしまったかのように空中で停止した。いや、()()()()

 

 時間は万物に影響を及ぼす。

 それは人や物。見上げればどこまでも広がる空や、誰もが立つ大地。

 星も、宇宙も、神様だって“時間”に支配されている。

 

 心さえも例外ではない。———そこには魔法も含まれる

 語るまでもない。だって僕が使える魔法はこれしか無いんだから。

 

「分かってはいましたが、相変わらず厄介ですね……っ」

 

 時間とは流れるもの。僕がイレイナの魔法を止めたのは、流れる時間と()()()()()逆転させただけに過ぎない。そうすれば相対的には止まったように見える。

 

 ———時間逆転の魔法。僕にはこれしかないんでね。







はい、いかがでしたか?正直なところ、この戦闘シーンが書きたかったが為にこの小説は生まれました(´・∀・`)

フラン先生に関しては元旅人らしく、サラッとお別れしていただきました。
弟子であるイレイナさんとすら比較的あっさり別れたので、それ以上にシキくんとはサッパリしたものとなりました。特に何かプレゼントがあるわけでもないですし。

次回、最終話です。ラスボスはイレイナさん。

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