「落語です」
「はい?」
「落語を見たことがありますか」
いつもより数倍引き締まった、真面目な顔のしずくは、片手に『死神』の本を持っていた。DEATHNOTEでもBLEACHでもない。そもそも漫画ではない。
本というのは台本だ。『死神』という名前の、落語の台本。
すでに昼飯を食べ終わったしずくは、俺が国際交流学科の方々から『刺すぞコラ』とばかりに睨まれていることに気づいていない。
教室の窓側、黒板から反対側の隅の方、俺としずくは同じ机に昼飯を並べている。しずくはコンビニのたまごサンドイッチ。おいしそう。俺は寝坊寸前に起きて、慌てて冷凍食品を適当に詰めたヤバ弁当。よく考えたら米がないところが、特にヤバポイント。
しずくは先程、俺のいる普通科の教室まで訪ねてきた。
『お昼休みだね』
『うん』
『お腹が空いたね』
『んー……うん』
『食べようか』
『おう』
『あっちの教室でいい?』
『……俺と食べるって話してる?』
『用事とかあった?』
『無いけど、お前の友達はあそこで呪詛を唱えているが』
『かすみさん、ごめんね。また今度ね』
『しず子の薄情者〜!!』
『腹から声出てるなあ』
『腹式できててえらいね、かすみさん』
『うがあ〜〜〜〜っ!! ふたりの演劇バカぁ〜〜〜〜!!』
高校生とは思えないほど本気で駄々をこねている中須を置いて、現在しずくはこうして、俺と昼飯を食べてるってわけだ。俺は中須がいても全然構わないし、むしろ賑やかになりそうだからウェルカムまであるのだが、そんな中須を連れてこなかったということは、おそらく演劇関係の話をするつもりだろう。
そう当たりをつけていたが、話題はまさかの落語。
「敬語に戻るほど好きか」
「あっ!?」
「いや、まあ敬語についてはいいんだけどさ。にしても、この前はミュージカル、今度は落語って……」
「……落語は、元々好きなの。マイブームじゃなくて。あっ、好きなのはこの『死神』の他にもね──」
しずくの座っている机から、どんどん落語の本が出てくる。あらあらまあまあ。『時そば』とか、『まんじゅうこわい』とかの、話の中身をそらで言えるような割とメジャーなものから、もう俺みたいな素人なら題名ですら分からんようなものまで。
しかしここに来て、俺含め周りのイメージとは真反対とも言えるような趣味が出てきた。偏見でものを語るってのは、何に対しても失礼になるのは分かっているつもりだが、俺は正直、結構ビックリしている。
しずくだって、俺がビーダマン好きだって言ったら……あんまり驚かないか。これは例が悪かったか。なんだろう、誰にでも『意外さ』ってのはあるから、って話だ。
ところが俺にとっちゃ、しずくが落語を好きなのは幸運とも言える。俺の全く知らないジャンルなら、しずくのオタクっぷりについていけないところだった。
「穂村さんは、落語とか見る?」
「
「おち、けん?」
幸い、人生で一番好きな人達が、落語からお笑い界に出てきたもんでね。落語はメジャーどころなら抑えている。落語家の演技だって研究したことあるし。
「落語の研究会で、落研なのよさ。高校よりは大学が有名かな。いまテレビに出ているような有名な落語家さんの、大体は大学の落研出身だったりする」
「へぇ……うちには無いのかな」
「高校落語界には明るくないが、探せばあるさ。なんたって虹ヶ咲だから」
「ついこの前、パズル同好会が設立されただけあって説得力があるね」
とにかく。
「で、落語がどうしたの」
「演劇に取り入れましょうって話」
職業病だな。
なんでもかんでも『これは使えるぞッ』って取材しちゃう漫画家や小説家みたいに、日常のあらゆるものから演劇に通ずるものを見つけるしずく。微笑ましくはある。
「ま、賛成ではある。何時にする? 俺も同行しよう」
「じゃあ行く? 図書室」
「……今から?」
「放課後は時間がいっぱいいっぱいだからね。行くなら今からだけど」
今回の劇の主人公の、いわゆる『名乗り口上』──仮面ライダーストロンガーにおける『天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ!』や、美少女戦士セーラームーンの『月にかわっておしおきよ!』が代表として挙げられる、変身後に叫ぶアレである──は、前後の台詞を含めて、台本にして4行ほどのそこそこの長台詞。そもそも主人公なので、台詞の量は他よりも多めなのだ。
1人何役もこなしつつ、スラスラと物語を進める落語家は、今の俺が参考にするには丁度いい。
しずく曰く、『とりあえず気になった落語を見つけて、読んでみるところから始めてみよっ。落語の面白さを知ってから、家に帰って、その落語を検索して動画の方を見れば演劇の勉強にもなる。ただ単に落語を見て欲しいっていうのもあるけどね』とのこと。
布教の魂胆を真正面からバカ正直に話すのが、いかにもしずくっぽい。
ちなみに心から褒めてる。俺ならステマ、つまり少し食いついたところを後ろから刺すタイプの布教をしてしまいそうだから。俺に比べたら、しずくの布教はダイマだ。
ということで、俺もさっさと弁当を食べ終わり、しずくと図書室まで行くことにした。国際交流学科の紳士諸君に睨まれながら教室を出て、図書室まで5分。
虹ヶ咲学園には『図書室棟』があり、部室棟と同じくらいの広さの図書室がある。面積にして約6,955平方メートル。の、3階建て。2階、3階の中央は吹き抜けになっているとはいえ、単純計算で合計約20,000平方メートル。
「はい、それじゃあ桜坂くん。この場にもっとも適切な虹ヶ咲学園あるあるを言ってみなさい」
「全体的にスケールが大きい」
もう、『図書館』じゃねーか。
環境デザイン学科の、農業高校か! とツッコミたくなる実習林にも負けない広さを誇る、都内最大の『図書室』。しずくはそう説明してくれた。
「もうこの学校のスケールにも慣れてきた」
「私、まだいちいち驚いちゃう」
KKPの第4回公演にあたる『LENS』を思い出した。キャラメル置いてありそう。
俺らは若干急ぎ足で、落語のありそうなコーナーへと向かう。お互いに初めてだったからか、だいぶ寄り道をしつつ。
昼休みはまだ30分ほどある。図書室棟は部室棟ほど本校舎から離れていないので、まだ本をディグる時間はある。俺としずくは、道中で気になった戯曲や小説を何冊か通り際に持っていく。
2階の『日本の文化(ジャパニーズトラディショナル)』コーナー。歌舞伎や狂言、箸のマナーに寿司のレシピ本まで、それっぽい本が棚を2〜3つ占拠している中、落語の台本がそこそこのスペースをとっていた。これだ。俺としずくは顔を見合わせて笑った。
まずはここで気になった落語を見つける、だったか。
俺が表紙で気になったものを、適当にぺらぺらとページをめくっていると、しずくはいつの間にか完全に自分の世界に入っていた。隣の彼女に話しかけようと横を向くと、思い出し笑いを堪えて震えているところだった。
そのまま落ち着いて一息つき、微笑む。かわいっ。その笑顔で一句でも読んでやりたい。
そこから数ページ読み進めたところで、ようやくこちらが見つめていることに気づいたようで、恥ずかしそうに髪をかきあげる。俺が見蕩れていることには気づいていないようだが。
「どうしたの」
「ヤ……なんでも」
「あっ、そうだね。じゃあ台本、数冊持ってくね」
「持つよ」
しずくが持っていた数冊の台本集に向かって俺が手を差し出すと、彼女は少し遠慮するも、その後数秒して素直に渡してくれる。
しずくは控えめに笑い、声量抑え目に俺にささやく。
「ありがと」
これでしずくが、俺の事を嫌いだなんて言ったら、へこたれちゃうよ。俺はニンゲンという生物が信じられなくなって猫と一緒に引きこもっちゃうよ。社会に出られなくなっちゃうよ。
確実に好きではないんだろーけど。俺のこと。
虹ヶ咲学園図書室の貸出上限は5冊。期限は1週間以内。ふたりで上限ギリギリまで借りることにして、余った気になる本を、1階の読書スペースで読んでみる。
長い机が何列も並ぶ読書スペースのイスに座る。端っこの方。しずくは向かいに座り、井伏鱒二の『山椒魚』を読み始めた。姿勢がいいので、やけに様になっている。本のチョイスも、心做しか文学的。
ページをめくる音や、横にあるパソコンスペースのタイピング音。木製の床を歩く生徒の足音。
そこそこの人の気配。けど、室内は至って静か。図書室とは、色んな意味で『ちょうどいい空間』なのだと思う。全く人がいないのも、いすぎて騒がしいのもダメって人には、うってつけの場所。放課後なんかは、外から聞こえる運動部の声でも聞きながら読書をするのもいいかもしれない。
テスト勉強の時はここを使うのもアリだな。
しかし、落語も面白いものだ。台本ひとつを中盤まで読み進めたが、こりゃあ落語家さんが演じているのを見た方がいいだろうということに気づき、途中で読むのを中断。部活が始まるまでの時間に見てみようかな。
どうやら落語には、小噺パートとやらがあるらしいじゃあないか。アドリブでフリートークするアレ。アレにもちょっと興味あるんだよな。
「んふふ」
本を読み終わると、しずくはいつの間にかこちらに軽く身体をかたむけ、らしくなく頬杖なんかついて俺の方を見ている。
「なぁに」
「あっ……ごめん……」
そんな申し訳なさそうな顔しなくてもいいのに、ってくらいに眉を八の字にするしずく。泣き出しそうにも見える。しかし、その口角は未だ少しだけつり上がっている。
何が嬉しいんだ。陰キャの読書シーンを見て。
「ごめんじゃなくて、なに」
「…………穂村さんが、ね」
「ん?」
「私と同じものに夢中になってるの、嬉しい」
ん〜。
なんで俺たちカップルじゃないんだろうねえ。
俺はお前に夢中だよお。
「ん"」
急に知能指数が下がってしまった。にしても、しずくの発言には俺も全面的に同意する。俺だって、しずくが嬉々としてガッシュを読み始めたらもう飛び上がって喜んじゃうね。
「き、共通の趣味、演劇くらいだからなあ」
「そうだね。ね、穂村さんのおすすめの本も教えてよ」
「夢野久作『ドグラ・マグラ』」
「聞いたことないなあ……ちょっと探してくるね」
「ごめん、俺が悪かった」
「?」
なんか、子供に「サンタが本当にいるかって? お父さんに聞いてみな! ハッ!」とか言ったら「うん! 聞いてくるね!」なんて素直に返された時の気分だ。
しずくは依然、キョトンとした顔をしている。マジで知らないのか。『黒死館殺人事件』に並ぶ奇書だと俺の中で最近話題沸騰なんだが、そりゃそうか。普通は奇書なんて類の推理小説は進んで読もうとせん。怖いもの見たさで手を出すことはあるだろうが。
「むう、ここにある本でおすすめ……といっても、ここには割となんでもありそうだが」
俺のおすすめの本、か。
ここらで『ああ、好きなのは宮沢賢治だけど……ここは品揃えが悪い。うちに行こうか、教えてあげるよ』なんて言いたいけど、そんなことが許される顔面偏差値ではない。
図書室は基本的に漫画は貸出禁止っぽいが、それでもいいならさっき見かけた『火の鳥』全巻をおすすめしたい。
普通に小説なら、宮沢賢治と泉鏡花。前者は高校演劇で味がしなくなるほど擦られ続けている『銀河鉄道の夜』の原作があるし、後者は確か戯曲も書いていたので勧めやすい。海外ならエーリッヒ・ケストナー。特に『飛ぶ教室』は何十回読み返しても飽きない。
いずれはしずくとこの図書室で、放課後ふたりきりで読書タイム。そして本棚の影でキャッキャウフフ。したいなあ、絶対無理だけど。
勧める本に悩んでいるうち、予鈴が鳴った。他の生徒も、本の世界から現実に引き戻されたらしく──こんな表現をすると少し可哀想に思えてくるが、まあ事実だしな──慌ただしく本を棚に戻しに、イスを立つ音がこだまするように室内に響く。
俺も戻してこないと。
「穂村さん、行こ」
「おう」
「間に合うかなあ……あっ、そっちの階段じゃないよっ」
「あれ、そうだっけ?」
2階に上がる木製の階段は、軋む音がちょいとばかしでかくて危なっかしい。
本棚に慌てて駆け寄る俺たち。
だが俺の上靴の先は、なんとまあ不幸なことに、少し飛出た釘にひっかかった。ああそうだよ、不注意だよ。悪かったなドジっ子で。俺は中須みたいにすぐに立ち直れそうにはない。
転ぶのなんて何年ぶりだろう。最後に不注意で転んだのは、中学1年の頃か。大会リハーサルの練習で、舞台の上を走ったら、顧問が死ぬほどデカい声で怒鳴ってきて。それに気を取られて、舞台装置の石に足を取られて。
その時の顧問は『バチが当たったんだ』なんてぷりぷり怒ってたっけか。
正直、泣きそうだった。
今回ひっかかったのは釘なので、踏むよりかはマシだけど、そんな過去の生きっ恥を思い出せるくらいには、俺は俺が転んだことに随分なショックを受けていた。
俺は手をバタバタさせて健闘すること虚しく、前に倒れそうになる。
俺の少し先で、小走りで道の案内をしてくれたしずくは、俺の身体を健気に受け止めようとする。無理だろ、と言おうとしたが、もう遅い。しずくは勢いに耐えられず、俺に突き飛ばされるように地面へ背中から倒れる。
せめて頭だけでも、床への直撃は避けたい。俺は右手を咄嗟に伸ばし、しずくの頭の着地点を予想するよりも早く、その後頭部に手を添えていた。ふわっとしたしずくの髪が、右手に伝わってくる。
互いに体勢は崩れに崩れ、俺より先に床に着地したしずくの上に、覆い被さるように倒れた。
どん。
床が鈍めの音を鳴らして、数秒。俺は理解した。
しずくの鼻息が、メガネに当たって曇ったから。
俺としずくは、顔が触れ合うくらいに密着していた。俺がしずくを抱き寄せるように、というか普通に抱き寄せているくらいの距離感で密着。本当に、ぺったりと。
久しぶりに転んだショックがどうとかなんて、吹っ飛んじまった。
しずくの80以上はありそうなバストが、制服で隠れてはいるけどくびれているであろうウエストが、俺の身体に──。
ああ。
甘い。
匂いが甘いとはよく言うが、違う。『味がする』。しずくの匂いを、未だかつてないほど接近して嗅いだことが無かった俺は、また新しい発見をしてしまった。いい匂いだとは思っていたが、これほどまでとは。
はっきし言って、脳が溶けそう。
多分キスとかできないよ、俺。いやできないと思うけど。そうじゃなくて。なんというか、できるかできないかの話じゃあなくって、もしするとしても俺は直前で気絶すんだろーなって話で、『できない』。
「…………穂村さん」
しずくが、俺の名前を呼んだ。しずくに名前を呼ばれる度にもっと好きになっていく体質の俺は、しずくのことをまた好きになったが、しずくはそうでもなさそう。まあ元からか。
泣きそうな声だ。彼女は今にも悲鳴を上げるかすすり泣くかしそうな雰囲気で、俺の名前を呼んだのだ。
ああ、そうか。しずくにとって最悪なこの状況。俺にとって最高なこの状況。ここだけ切り取れば、夜這いとさして変わらない。
全部が俺のせいだ。
死にたい。
「どいて……」
「えっ、あ、失礼! そうだよな〜! そうなるよな〜! ごめん、重かったよな?」
指示通り、俺はゆっくりと手を引き抜き、うってかわって軍隊のバーピージャンプみたいに跳ね起きる。名残惜しさはなかった。しずくが不快にならないのが最優先だから。俺の好感度を少しでも落とさないのが最優先、と言い換えても当てはまるが。
顔だけでも明るく振舞ってやろうとするが、右手は地味にジンジンと痛みを増している。視界も奪われているし。
涙目のしずくも見ていたいような気もするが、曇ったメガネ越しでは、景色もクソもない。
今、目の前に世界最大の一枚岩であるマウント・オーガスタスや、ショパンの心臓が入ったワルシャワの聖十字架教会の柱があったとしても、レンズが何らかの形で破壊もしくは使用不能になるだけで、それを見ることさえできないのが、メガネの民の辛いところ。近視ならメガネを外しても見えるんだけどね。
しずくが今、どんな顔をしているのかさえ、俺は分からない。感情を読み取るなんてもってのほか、俺の知るところではない。
だんだんと視界が晴れてくると、しずくはとっくに階段を降りようとしていた。彼女は俺に背中を向け、さっさと進んでいく。顔は、見えなかったまんま。何も言わないまんま。
でも、泣いてたろうな。俺なんかに押し倒されて。
よく分からない、同級生だからって仕方なく仲良くしてた、こんな俺に。
ああ。
嫌われた。
自己嫌悪が最高潮。自己肯定なんかする余地もない。死刑だ死刑。磔刑だ。打首だ。
帰って泣いて済む話ではない。一生引きづって済むなら、どんなに楽か。済まないのだ。嫌われた場合、一生かけても済まない。何より、しずく的にも。
泣いて済むならブルーハーツはいらない。
ラッキースケベなんて、所詮は主観じゃあないか。相手が不快になればそれまで。ラブコメなんかでパンツがちらっと見える展開の時、感じていた違和感が、今ここで証明された。結局は、自分の主観で進む物語。俺はしずくに嫌われている。だから、惨たらしいモノローグが反芻するだけで俺の人生という名の戯曲は終わる。
しずくは俺の理想のヒロインなんかじゃあない。最初から分かりきっていたことじゃあないか。クレープを間接キスで食べ比べしても、プリクラの狭い部屋で抱き合っても、結局は俺としずくの仲なんて、1回の不運な事故で無くなるような脆いもの。
俺は、しずくを想い続ける。絵を描くときの題材、歌詞のインスピレーションの源、映画のヒロインに重ねる女性、素敵な音楽を聴くと共に頭の中で歌い踊るクリスティーヌ、卒論。すべてにしずくを想う。一方的にしずくを愛することなら、実際に会わなくたってできる。物陰から眺めているだけでいいんだから。
とにかく、しずくが俺を好きになる1フェムトの可能性は、限りなくゼロに近い確率は、潰えたと言っていいだろう。断言出来る。あんなに悲しい声で俺を離そうとしたんだから。
心が痛む。
彼女に酷いことをしてしまった。
決して俺の傷心の理由に、フラれただとかもう付き合えないだとかなんて陳腐な理由はない。問題は、彼女が快か不快か。幸せか不幸せか。それだけ。俺にとっての幸せの価値基準は、今やそこに集約されている。執着し、終着しているのだ。
いいんだ、今更。元から分かりきっていたことじゃあないか。とっくに嫌われてそうだなんて、何回も想像したじゃあないか。俺の中にある、どうしてもしずくと付き合いたいという諦めの悪い感情に、そう言ってトドメを刺した。
片想いとは、一生冷めず、一生実らない。
両想いにならない限りは。
崩れ落ちそうな足にムチを打つように、俺はその場から、借りる予定の本を持って、1階への階段に向かって歩き出した。
はぁ〜なるほどねぇ〜。
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