#16 good day house
明転。
泣いたことが、あまりない。
数える程だ。
情けなくても、悲しくても、転んでも。
産まれた時は勿論泣いていたはず。妹が産まれた時は確か4歳で、流石に泣かなかったか。小学三年生、ダークネスムーンブレイクごっこで、ジャングルジムのてっぺんから落ちた時。中学一年生、自転車に乗っていたらT字路でトラックと接触事故を起こしてしまった時。
そのぐらい、か。
とは言っても、覚えていないだけかもしれない。記憶の奥底に埋もれているだけの、些細な記憶があるのかもしれないな。
例えば、注射が怖くて3歳ぐらいの時に泣いちゃった、なんかは忘れていてもしょうがない。今は全く怖くないからか。
泣くってのは、なにも痛いとか怖いとかだけじゃあないしな。嬉し泣きだって……。
ああ。
ああ。そうか。
なにかの『作品』で、俺は山ほど泣いた。あれは『泣いた記憶』じゃあなくって、『感動した記憶』として俺の中に保存されているから、少し気づきづらかった。
確か初めては、ドラえもんの、のび太のおばあちゃんの話だったか。どこかの年の大長編映画の同時上映。
最近だと、けいおん!! 最終回、ヴァイオレット・エヴァーガーデン、遊戯王GX……キリがないな、アニメだけでも。舞台だったら、最近またオペラ座の怪人を見直して(しずくと話した翌日に即観た)、そこでもまた。
悲しくて、悔しくて、痛くて、憤って。そんな理由で泣いたのは、はるか昔か。
そして……。
自然に俺が思い浮かべたのは、青いドレス姿のしずくだった。
一気に、曖昧な記憶の旅から戻って、地面に足がつくのが分かった。
俺は気づけば、思い出から成長して、今と同じ姿、つまり高校生の姿になっていた。一方しずくは、高校1年生よりも、もっと大人びた姿。
どこへ行くんだ? なんだか、しずくが目を逸らして、背を向けるものだから、少し気になってしまったのだ。
大仰なドレスに、手に抱えたブーケ。まるで花嫁のようなしずくは、俺が呼んだのに気づいてくれたのか、こちらを流し目で見る。
しずくを黙って見ていた俺は、頬の冷たさに気づいた。
それから、こちらに1回も歩み寄ることなく、向こうへ、向こうへ。俺から見て前に歩き続けるしずく。5メートルほど遠ざかったとき、もう一度こちらを見たしずくは、俺を憐れむような目で見ていた。
……やめて、くれないかな。
そんな目で見ないでくれよ。
『さよなら。花火くん』
そんな声で呼ばないでくれよ。
心のない優しさなんて、敗北と同じようなものじゃあないか。
俺は敗けたのか。しずくのお婿さんとやらに。
────『しずく!!!」
気づけば、汗にまみれた両の手で掴んでいたのは、かれこれ2年間は大事に使っている、お気に入りの薄めの布団。
夢だからって何でもしていいわけじゃないんだぞ。俺の深層心理を叱りたくなった。現実味がありすぎるっての。いや、夢を見ていたのは俺の脳なのだが、それにしてもふざけた夢だ。妙にリアルなのを見せやがって。
彼女の名前を叫んだのも、夢の中だけなのか。それとも本当に叫びながら起きたのかすら分からない。
ゆっくり、ゆっくりと身体を起こし、窓を開ける。もうすぐ日が昇るって時間か。
朝4時! そう検討をつけて時計を見ると、3時52分だった。オシイッ。さて、これからどうしてやろうか。早起きは三文の徳とは言うが、早起きしすぎてもヒマなだけなんだよな。むしろ損。
いや、三文の『得』じゃあないから、対になるものとして『損』を出すのはちょっと違うか。
もう一度、ベッドに寝転がってみる。二度寝して、さっきのしずくを追いかけようか。そんな事を考えてしまう自分は、きっとバカと呼ばれる部類の人間なのだろう。
空想の中だけは自由だと思ったのに。想うだけなら、無罪だと思ったのに。
しずくの隣にいる俺だけは、上手く想像できない。
頭の中だけでも、あいつと俺は並び立てない。あいつが立っている
演じることなんてできない。しずくの前では。
さて、俺は、イマイチ好きという言葉が気に入らないのだ。
便利すぎるから。
「花火少年」
放課後。誰が教室を出るよりも早く、それこそSHLの挨拶が終わった直後に、部長は俺のいる教室にやってきた。
「……行けば、いいんでしょう?」
「部員には私が伝えておいた。今一度、しっかりと話し合おう」
不穏な空気の俺と、3年生である部長の真剣な面持ちに、思わず教室の1年生一同はおしゃべりや支度をやめて固まる。
思わず席を立ったかすみは、部長に連れられる俺の肩を掴む。部長が、用事があると言っても、彼女は俺を離さない。
「はな男……?」
「ちょっと行ってくる。先に帰っててほしい」
「少しなら待つよ? 昨日、帰りにパンケーキ食べるって言ってたじゃん」
「ん……明日でいいか?」
「はな男。なんか重いよ」
「そんな丸くなってきたかな」
「体重の話じゃなくて〜!」
「っはは」
俺は軽く微笑み、かすみの手をどける。
「もう! 人が本気で心配してるのに!」
「ホント、大丈夫だから」
「…………ホントに?」
「ん、大丈夫」
「しずくの友達、だっけ。もう行ってもいいかい」
そう言うと、俺の手を引き、部長は廊下へと移動する。
「し、信じるからねっ!」
「かすみん様に誓うぜ〜!」
かすみの変わらず明るい態度に、多少救われていることを知ったのは、2回目だった。
「ありがとな、かすみ」
そもそも、先程出てきた『パンケーキを食いに行く』という話も、電車で口数が少なかった──らしい。かすみ談──元気のなさそうな俺を誘ってのことだ。俺も少しは、そういうの誘ってもいいんだろうか。
イエサブとか墓場の画廊とかなら連れて行ってもいい。俺が自分からかすみに『パンケーキ行こうぜ!』って言うなんて、それこそ有り得ない話だからな。
さて、場所は変わって、演劇部の練習場所であり、文化部室棟に併設された、我が校が誇るキャパシティ1230席の大ホール……の、裏口。大道具置き場に俺を連れ込んだ部長は、単刀直入に、と前置きをしたうえで、俺に質問を投げかけた。
「例の件。まあこちらから、演劇部側からすれば、蓋然性のない、キミを貶めるためだけの──相手にとってめちゃくちゃに都合のいい話に聞こえたから、一応確認させて欲しい」
「なんでしょう」
「追っかけで楽屋入ったのは本当なのかい」
「はい。事実です」
「君の好きな、あの?」
「ラのつくコンビです」
「……私からすれば、自分にそういう行動力は無いから、尊敬にも値するって感じだけど」
「今の俺なら無理ですよ」
軽口を叩く部長。しかし、さっき教室に来た時から、表情は一度も変わらない。
調味料を片っ端から倒して床にぶちまけた犬を見るような目ではあるが、俺の事を叱ってどうこうとかしようってんじゃあないのは分かる。あくまで俺と、腹を割って話そうとしているのが伝わる。
「怒らないのですか」
「そうして状況が変わるのなら、一昨日とっくに君を助走つけて殴ってる」
「割とストレートな暴力!」
「しかし、今の状況は完全にどうしようもない。チェックメイトだ。いきなり王手手前の戦況の将棋盤を持ってこられても、どうしようも無いだろう」
「ん……それはそうなんですよね」
面白い例えをする人だ。
「キミがやった事も、もはや時効に近い。そう、とっくに昔のことなんだよ。そもそも、今更どうこう言うのが、既に筋違いってやつなんだ」
「…………それはそうですけど」
「『生まれた時から今まで真っ白な人間』なんていないよ。私もそう、キミもそう。『原罪』はついてまわる……」
「……」
「そこを粗探しして、キミを舞台から降ろそうとした奴も、その署名に参加した奴も。さぞ綺麗な人間なんだろうなぁ〜?」
皮肉を言いながら、部長がやけに慣れた手つきでカバンから取り出したるは、ピアニッシモ。白を基調としたパッケージが記憶に新しい。つい数年前に出たばかりの、べヴェルってやつか。
俺の『師匠』が吸ってたものと、同じ銘柄だ。人気なんだろうか。
「……ケムリ。大丈夫かい?」
「俺は慣れてますけど、あなたの肺と喉が心配ですよ」
ライターの着火レバーを、カチカチと何回か押してから、遅れて気づいたらしく、俺に申し訳程度の気遣いの社交辞令を言う。
暗い大道具置き場に、火花が散る。今は練習で舞台に大道具が出ているからいいものの、ここが普段の状態だったなら、引火して大火事待ったナシだな。
ここが部長のお気に入りの喫煙所だったなら、流石にぞっとしないが、この人に限ってそんなことは無いだろう。たぶん、舞台の一番後ろから出られる、非常階段に繋がるベランダあたりで吸っていることだろう。
「演劇は高校で引退だから、許してよ。大学は行かずに、サークルも入らず、そのまま公務員になる予定だし」
「演劇に支障が出ないって言うのなら、俺はあなたの生き方にケチをつけないし、俺はあなたをチクるメリットなんてありません」
本心だ。立派な犯罪だけど、今の俺が言えたことじゃあない。
「金が貰えるなら考えますけど」
「はは。先輩を売るのかい」
「100パー冗談ですからね?」
「分かってるさ」
「信用ないと思って……」
「花火少年は、どうして自分を下げてしまうんだ?」
質問タイムに戻ったようだ。
ここで嘘をついて誤魔化すようなことをするつもりは毛頭ないが、もし、ヘタに嘘をついたなら、それでも部長は見破ってくるだろうなと思った。
無駄な抵抗はよして、部長のカウンセリングに身を委ねよう。そう思えるのは、俺と違って、この人は、他の人の上に立つのに相応しい人物だからなんだと思う。
他人からの信頼がある。自分の中の矜持がある。
それに比べて、俺ときたら。
「目立たないためです」
「それじゃ演劇部ではやっていけないことは、キミが一番よく分かっているハズだ」
「演劇と独壇場は違います。こう見えても俺、出たがりなんですよ」
「……それはまあ、片鱗は見えてる」
「やっぱり?」
「やっぱり! キミ、ほんと何でもするからね。モノマネとか咄嗟にしてくれるし……無茶振りに応える性能が高いって意味では、キミはアドリブ王だけど」
自分でも10割期待に応えられるとは思ってないけど。全く分からないテストを白紙で出すよりかは、せめて記号の問題だけでもデタラメに埋めてみるとか。
そんな心持ちで、この前は実写版のカイジの物真似をしてたな。あれは案外ウケてたけど。
「……で、そんなキミがどうして演劇部に?」
「俺、本当は『最初から演劇部に入るつもりはなかったんです』。向いてないらしいので」
「向いてないと思っても、入ったのは……キミの確かな意志?」
「まあ、キッカケとして大きいのは……しずくが、演劇部に勧誘してくれたから。勧誘されたなら、入るのが道理でしょう。と、言いたいとこですけど、多分、彼女が声をかけてくれなくても、そのうち入ってたと思います。入るつもりはなかった、けど……引き寄せられたんです。『彼ら』のいる方向に」
「『彼ら』?」
「ラ……のつく、コンビです」
「ギリギリで堪えたね。言っちゃえばいいのに」
彼らのコンビとしての活動は、コントがメイン。しかし、コントだって、れっきとした演じる場所。舞台なのだ。俺は彼らの舞台に惹かれ、憧れ、演劇という道を選んだ。だから今、俺はここにいる。
俺はその選択肢に、今も後悔はない。たとえデタラメな過去の粗探しで舞台を降ろされようと。
元々の素質なんてない、小学校で人前に立って何かをしたこともない、そもそも目立つつもりはない。無い無い尽くしもいいところ。でも、弱冠13歳、俺は初めて舞台に立ったのだ。
彼らのおかげで。立てたのだ。
そこから俺は、出たがりになってしまったのだが。
「尚更どうして、演劇部に入るつもりがない、向いてない、なんて思ってたんだい」
「……演劇の適正がない、って言われたんです。中学の頃の顧問に」
「へぇ、出たがりなのはいい事なのに」
「独りよがりな演技、だそうです。俺の演技」
「そーかなぁ」
「そーなんじゃないですか?」
「その頃の……中学の頃の周りの人は、なんて?」
「周りは…………周りとは、話してないです、あんまり」
あくまで仕事仲間。卒業するまでの2年間で世話を見てきた後輩より、今の先輩の方が親交は深いぐらいだ。アットホームかつフレンドリーな雰囲気の虹ヶ咲学園演劇部と、うちの中学校の演劇部とでは、少し空気が違ったっぽいな。
まあ、俺が後輩に接するのが苦手っていうのもある。すぐ『怒ってます?』って言われてたもん。
怒ってねえよ。なんならその発言で怒るまであるぞ。元々の顔がこうなんだよ。悪かったな、表情のパターンが少なくて。と言おうとしたんだが、余計に関係が拗れるのが分かっていたから『怒ってないよぉ〜』と優しく言ってみた。
『やっぱり怒ってるじゃないですか』って言われたけど。
あれに関しては、俺の顔が悪いのか、すぐに決めつける後輩が悪いのか、未だによく分からないんだよなあ。永遠の謎。
「…………」
いや、えっ。なんですか部長。その『やっぱりな』的な顔は。
俺がコミュ障なのは想定内ってか!
「まあ、いいや。花火少年。もうキミは中学校の環境とは違うよ。私たちは、もう既に少年を信頼してるからね」
「……しんらい?」
「中学の頃の仲間を貶すつもりは更々ないんだけど、私たちはキミに興味がない訳でもないし、上っ面だけの関係で終わるつもりはない」
「いや、別に中学の奴らだって、上っ面だけじゃ……」
「いーや、キミは自覚がないからね。ハッキリ言っておくことにするよ」
微かにただよってくるヤニの匂いと共に、部長がこちらに近づく。壁側に、俺を追いやるように、ずんずんと。
半分くらいの短さになったピアニッシモを片手に、部長は俺の後ろにある壁に手をつき、目を合わせる。俺の顔を持って、強制的に。
シチュエーションとしては壁ドン+顎クイだが、そんな些細なことは気にならないし、そもそも俺は、しずく以外のハニートラップには引っかからない。
ごめんなさい、マジメな場面なのにこんな事考えてて。でも部長の真剣な眼差しは、俺じゃなかったら一発で堕ちる。これだけは言える。
「……ドキッとした?」
「あんまり」
「素直だね」
それぐらいしか取り柄がないからですかね。
「いいかい、よく聞くんだ、穂村花火。キミはこれから演劇の道を、その寿命の尽きるまで突き進むかは、私は知らない。でも、もしそうだとしたら、キミは少し大人びすぎている。まだここは仕事じゃなくて、部活だ」
「…………」
「仕事仲間じゃないんだよ、部員ってのは。友達だと思って接してご覧よ。私にも、しずくにも……」
いっそう顔を近づける部長。もう少しでチューしちゃうんじゃあないかって距離になった時、舞台とは反対方向、廊下方面から、ドタドタと足音が聞こえてきた。
タバコの匂いに気づいた先生か?
「そら、来た……火を消そう。灰皿持ってる?」
「持ってるわけないし、誰が来たっていうんです」
そう俺が言った直後、ドアが勢いよく開かれた。先程まで、そのドアの隙間から漏れ出す廊下からの光しかなかった大道具置き場を、一気に蛍光灯の明かりが照らす。
俺の問に、部長が答える必要はなかったのだ。来たのは、赤リボンの1年生。俺の初恋相手だ。
息が切れ、今にも倒れそうな尋常ではない疲れ方。部長に聞いて、急いで来たんだろう。
「どした、歯にチャーシューでも挟まったような顔して」
「かすみさんに聞いて……来た……」
「珍しい。息切れしてる姿、レアだね」
「あまりふざけないで!! 真剣に心配してるんだよ、穂村さんのこと!!」
大きな声だ。腹から声を出している。しかし、舞台で出すそれとは違う。自分の気持ちをバカにされたようで、気に食わなかったのかもしれない。
「穂村さんは……これでよかったの……?」
「ん……俺が良いとかイヤとかじゃないっしょ。決まったことなんだし」
それでも! と、しずくは続ける。
「今の穂村さんは、何もしてないのに……」
「……俺が、間違ったことをしたのは確かだ。その過去を揉み消したり、否定したり、見苦しい言い訳をしたりするつもりはないよ」
過去の自分が、今の自分を作り上げたのだ。俺はそれから逃げるようなことはしない。だから今回も、舞台から降りろとの通告には応じるしかなかったのだ。怒ったのは、単に態度が気に食わなかっただけだし。
「でも酷いよッ! ……いくらなんでも、こんな…………」
先程部長が言った『過去の粗探し』について、しずくは怒っているようだ。彼女は大人だし、真面目だし、関係ない俺のことでも怒るよなあ、と。
「あの人たちは、穂村さんの数秒、或いは数分しか知らない。なのに君のことを知った気で、その数秒、或いは数分を、あんなに騒ぎ立てて……信じられないッ」
「天網恢恢疎にして漏らさず。これがバレて、俺がいつか何らかの形で罰を受けるのは、決まっているようなものだったんだよ」
ネットの炎上を思い浮かべ、俺は部長に負けないほどの皮肉を並べてみた。
「今の時代、過去のことを晒して、人を陥れたり、それを見て愉しんだりする人は珍しくない。それだけ、正義という名の盾は強力なのさ」
想像力の足りない奴らは、どこにでも居る。この一言で、誰かの一生にトドメを刺すほどの誹謗中傷になりかねないか。
他人の痛みを分からないから、平気で人を刺すのだ。他人との関わりが少ないから、そういう『言葉の矛』で人を傷つける。事実かどうかなんてのは関係なしに。
『言葉の矛』、『正義の盾』。
本来、刃物で人を笑顔にできるのは料理人だけのはずなんだ。
俺は今回、そういう奴らの被害者になったのかは今でもハッキリとは分からない。だが、少なくともあの署名の中に1人は、そういう奴がいたのかもしれない、ということを考えると、もう極めてぞっとしない。
責任ないなあ、と思ってしまう。ネットの匿名の奴よりかは、名前出してるぶんマシだけど。
「…………穂村さん」
「全てが上手くいくのなら、それは青春じゃなくて、ただのコンプレックスに塗れた想像だよ」
きっと三日天下の俺のいた主役の座には、しずくが着くだろう。先輩たちにも、俺より演技の上手い人は山ほどいる。
再び学園祭の舞台に上がるわけには、いかんだろうな。
「花火くん!!」
俺は大丈夫。しずくは俺のためには怒ってないんだろうけど、一応部員として心配はしてくれているようだ。
もはや一般的な社交辞令に近い、クラス全員に配る友チョコとか義理チョコにも近い、哀れみ。しずくは、それを俺に向けているに過ぎない。
ありがとう、という気持ちはある。
でも。
「頑張れ、しずく」
俺のことは、もういいから。
「…………花火くん……」
「明日もまた、同じ日が来るんだと思う。けど、きっと来る、明日はきっと来ると信じて、今日は寝なさい」
「部長……」
「いや、違うんだ。今朝、親に送ってもらったんだが、父が車の中でタバコを吸うクセがあってだね」
「まだ何も言ってませんが」
「あっ」
「……肺を使うんですよ? 役者って…………」
「ごめんなさい……」
やる気! やる気! や・る・気!
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