背中に打撃を受ける前に、大きく前に飛び、俺は光良さんとの間に距離を取る。
『……』
『へへ』
すかさず、飛ぶ前の位置に素早く戻り、光良さんの首を狙う。
ゲキバトルでの決着方法は2つ。相手の首の骨を断つか、バトルが始まる前に全員があらかじめ懐に持っているドスで切腹するか、だ。
ちなみに首の骨は、折っても斬っても倒した扱いになる。俺の場合は日本刀なので、斬るのが主な勝利条件だろう。光良さんのような三節棍は、よほどの特殊能力がない限り、殴打による骨折を狙う。
光良さんの喉笛に、俺の日本刀が食い込む。しめた、と思った瞬間、刃先が三節棍と接触。弾かれる。そのまま光良さんの握っているところから一番遠い棒が、俺のこめかみを狙う。
パーフェクトヒューマンの中田敦彦さんよろしく、首だけを動かして避けてみるも、少し耳を掠る棒。高い印鑑のような、象牙のような素材をしているようだ。
棒そのものに触れても特に何も無いあたり、この人の戦い方は武器そのものの能力に頼りきるものではないことが分かる。あの頃から変わっていないのだな、そこらへんは。
『……腕が鈍ったか?』
『俺は今が全盛期だ……』
『それにしても珍しい。熱血系演者のクセに、未だに“
『……俺は、オヤジと違う道を行くんスよ』
基本的に、パッションで演技をしている熱血系演者は、イマジネーションの波のひとつひとつが大きい。クール系演者は地に足のついた演技をするため、そこが大きく違う。
さらに、熱血系演者はそのイマジネーションとパッションを駆使して、ゲキバトル内において“叉紋”を行う。名前の通り、『召喚』だ。
平たく言えば、イマジネーションを形にして、ゲキバトルに持ち込む。例えば、初音ミクを出したいとする。その場合、それに対するイマジネーションとパッションに比例して、よりしっかりとした初音ミクをゲキバトルに“叉紋”できる。
イマジネーションとパッションの量が多ければ多いほど、その“叉紋”した対象は強くなる。初音ミクだけで言えば、歌がバフや攻撃になったりなどもする。
元よりゲキバトルの世界は、想像力と創造力で何とでもなるもの。そこでいかに常識にとらわれず、自分のイマジネーションに正直になれるかが、ゲキバトルで勝てるかどうかの大きなひとつの要因にもなってくる。
因みに、クール系演者が全く“叉紋”を行わないかと言われれば、そうでもない。クールそうに見えて、内にアツい情熱やイマジネーションを込めた奴もいる。
しかし、クール系は全体的に武器そのものがイマジネーションの塊で、武器や自身の身体に自分の強みを注いでいることが多い。なので、数十年続くゲキバトルの歴史において、“叉紋”とは主に熱血系演者が武器と併用して使うものなのだ。
『それが逆に縛りになっているとも知らずに!! 愚かな末裔よッ!!』
『俺の行く道は!! あくまで俺が決めてンだよッ!!』
機関銃、ヌンチャク、槍、レイピア。古今東西の武器が集うゲキバトルにおいて、日本刀という武器を選ぶのは理にかなっていないというのが、実際的な世論である。
洋画の中の日本人しか持っていない、時代遅れの武器。日本刀。もはや現代では、真田広之さんくらいしか持ってそうな人がいない日本刀だ。
日本刀を持つということは、強くなるという決意を表しているということ。この武器を使いこなすためには、使い手が強くなければならない。
俺の一対の日本刀『千本桜・桜ノ雨』は、俺自身が強くなるために努力を怠らないという意志の表れでもあるのだ。
高校時代のゲキバトルで、『拳』を武器としていた燃と違う武器にしたというだけの理由ではない、という事だ。
『……縛られてなんかねーよ』
『何?』
『俺は、俺の道を……』
俺は右横に身体をねじる。前傾姿勢になり、背中をねじらせ丸める度に日本刀の柄がきしみ、大きく広げた足のアキレス腱が伸びるのを感じる。
同時に、日本刀が小刻みに震え始める。最初こそ電動マッサージ器のような振動だったが、やがてその震えは残像が見えるほどに早くなる。
刀身から熱を感じる。降る雪が刀につく前に融けて水になる。
震えることによる運動エネルギーが熱エネルギーを生み出し、この一面の雪景色を春に変えるほどのアツさを持つ武器。それがこの日本刀『千本桜・桜ノ雨』だ。
『……俺だけの道を行きたいだけだ』
現代っ子は、レールがある程度敷かれていた方がいい。敷かれたレールはゴメンだという昔の世代とは違う。世論ではそうなっているが、俺は誰かの歩いた道なんて歩きたくない。ましてや、あのクソ親父の轍なんて。
俺自身がパッションとイマジネーションをフル回転させて作った創造物たちが、その道の先駆者の色に少しでも染まるのが嫌なのだ。
俺は大きく身構えた身体を、左下へとねじり返す。このまま居合切りでもするのかと防御の姿勢をとっていた光良さんに、焦りと驚きから来る隙が一瞬だけ生まれる。
俺の狙いはそこだ。そして、身体の部位的な狙いで言えば、その効き腕。右腕だ。
三節棍ごと切り落とす勢いで、刀を俺から見て左下に振り下ろした直後、俺は光良さんの既に後ろに立っていた。そういう技だ。
自分の視点からもスローにも見えぬ、文字通り目にもとまらぬほどの超速ですれ違い、目標物の隙を狙って斬る。
『“二刀流・
『がァッッ』
斬った感覚はあった。振り返ると、左手の指を親指以外、根元からごっそりいかれた光良さんが立っていた。
ゲキバトルの世界は、精神的世界とはいえ斬られればダメージもある。もちろん、精神的世界なので、精神的なダメージ。それを可視化するために、血も吹き出すし、痛覚だって多少はある。
さて、左手を刀と自分との間にかませることで、右腕へのダメージは軽い切り傷、つまり最小限に抑えたようだ。しかし、今度の斬撃ではそうはいかないぞ。
そう思った瞬間、既に光良さんは俺の目の前にいた。大きくジャンプをしてここまで来たのだろうか、足を体育座りのように身体前面におさめ、宙に浮いている。
『調子に乗るなッ』
『おっとぉ!』
『はッ!!』
今度こそスローに見えるくらいにヒリついた距離。しかし、あっけなく俺の日本刀でのガードは躱され、三節棍の端っこが俺の脳天を直撃する。
そのまま意志を個別で持ったかのように動く鎖と棒は、俺の腕ごと胸あたりを一周し、縛る。
光良さんはスマブラのつかみ攻撃のように、思わず身動きを取れなくなってしまった俺に膝蹴りだのチョップだの、やりたい放題。
最後には右手で腕を掴んで肩に背負い、左手の方でジャラジャラと三節棍を俺から解きつつ、巴投げの要領で俺を投げ飛ばす。
ゲキバトルのステージは毎回のように変わるが、今回は雪の降り積もる山の中のようだ。俺は針葉樹に激突する。
木に積もっていた雪が、俺の上から落ちてくる。なんともマヌケだが、日本刀の熱エネルギーがじわりじわりと雪を融かす。
「はァ……ッ……“二刀流・炉心融解”……」
全身びしょ濡れで、荒い息で俺は立ち上がる。光良さんも、必要以上に力を入れて俺を蹴る殴るなどしたものだから、息切れ状態だ。どれだけ恨んでんだよ、俺の事。
中学の頃、今と同じ舞台でちょっとだけ遊んだ、ただそれだけじゃあないか。やられた側は覚えているというのは本当のようだな。
『フゥ──ッ……今のは……ちと、痛いッスねェ……』
『痛いで……はぁっ、済むのかよッ……はぁっ……!!』
でも、この人は絶対に中学の頃より手強い。それだけは確かだ。
数え切れないほどの鍛錬を積んできたのだろう。一撃一撃が、元々高校演劇レベルだったのが、今ではその中でも上澄みの方にいるのが確かに分かる。
『お前……何をした?』
『……えェ……?』
光良さんが、こちらに武器を向けて言う。俺は身体全体で反動をつけて立ち上がる。
『前に戦った時とは段違いだ。2年と少し経っているとはいえ、ここまでとは……』
なるほど。別に光良さんも強くなっているとは思うが、俺が強くなった心当たりといえば『アレ』ぐらいだ。俺は自信満々に答える。
『Skebでセックスしたんですよ』
『……は?』
『だから、金もらってセックスしたんです。『童貞を卒業』したんですよ、光良さん』
俺は両手の人差し指と中指を立てて、エアクオーツサインをする。
光良さんはメガネをかけ直し、『フフ』と微笑む。
『えっ……?』
『ハハハハハハ!! ッハハハハ!!』
『……クク……』
こういうユーモアが通じる人か。俺もつられて笑うと、すぐさま上がった口角の端スレスレに三節棍がぶつかる。
少しよろけるも、すぐに体勢を戻す。すると先程まで笑みを浮かべていた光良さんは、その手と肩を震わせ、うつむいていた。
『馬鹿にするなァッ!!』
ビリビリと大気が揺れる。周りの木の雪が落ち、ドサドサとあちらこちらで音がする。
こちらに吠える光良さんの目には、涙がたまっていた。
『そんな事で……オレが……ッ!! この三ノ宮光良が、貴様に倒されてたまるかァァァァッ!!!』
『人の童貞卒業を!!! そんな事とは何だッ!!!』
こればかりは黙っていられない。俺も反論する。
『範馬刃牙は童貞を卒業したら柳とシコルスキーを圧倒したんだぞ!?』
『し……知るかッ……』
彼は綺麗なオールバックをぐしゃぐしゃと乱し、前髪の束ひとつが右目にかかる。
『こっちは後輩と話すことにさえ、頭を死ぬほど使っているんだ。穂村花火』
そう言うと突然、彼の三節棍の先が光り出す。
光良さんの武器、三節棍『狙いうち』は固有の能力がある。俺の日本刀がアツくなるのと同じく、だ。
その光はやがて中央に輪郭を持ったものになる。ガラスのコップを作る時のように、その輪郭は球状に膨らんでいき、その後にひときわ大きな光の爆発を見せる。
目が眩むこと十数秒、取り戻した視界には、インテリヤクザ風の見た目に似合わぬ原始的な武器を持った光良さんがいた。
俗に言う『モーニングスター』。鉄球にトゲトゲのついている、ガンダムが持っているアレだ。
こいつに関しては、見ることはあったが、直接対峙したことはなかったな。どんな能力を持っているかも分からない、クソデカいモーニングスターを前にして、俺は無駄な頭の回転をしていた。
『ふッッ』
『な……!?』
光良さんが動いた瞬間に距離を取ろう。じりじりとカカトを後ろに寄せていた俺に、モーニングスターの鉄球部分がありえない速度で飛んでくる。予備動作もナシに、だ。
もっとこう、そういうのは反動をつけて重々しい先っぽをドーンって感じじゃあないのかよ。
『オレを愚弄した罰にしては軽い方だ……穂村花火……』
かわしきれなかった。刀で受け止める間もなく、俺の左腕に、光の鉄球が勢いよくぶつかる。
骨が折れるくらいの痛みは覚悟した。が、これまたどうして俺の左腕、その二の腕あたりに光の鉄球が直撃したはずなのに、痛みは一向に神経を伝ってこない。
実際、骨は折れているはずだ。俺の左腕は力なくぶらさがりピクリとも動かない。だが、おかしい。
痛みだけではなく、肩から下の“感覚が無い”。降る雪が触れても、風に吹かれても、右手で触ってみても。しかし、それでも俺の左手には未だに日本刀『桜ノ雨』が握られているままである。
『お前の手の神経伝導速度は、従来の何万分もの1になっている』
光良さんが、驚くしかできない俺に語りかける。
元に戻った三節棍をぶん回しながら、光良さんはこちらに近づいてくる。
『お前がその右手を動かそうとして、実際に動くのは10年後だ』
『はァ!?』
ははぁ〜ん! 折れているはずなのに痛みがないのも、かといって刀を手放さないのも。まるで、俺の左腕だけ、時が止まったようになっているのも。その神経伝達速度ってやつのせいだろうな。
人体に関しての知識は任せろ。俺はブラック・ジャックを全巻読破した男だぞ。無免許という点では俺は間黒男とそこまで変わらないと言える。マジ任せろ。
ただ、知識が少しばかりあるからといって、俺の左腕は依然として静止したままだが。
『くっそォ……バキバキ童貞がよ……』
『お前らが乱れているのだ』
バキバキ童貞であることに変わりはないだろ。別に非童貞マウントを取るつもりはないが、この人は少し拗らせすぎている。
海老原の軍隊みてーな厳しい校則に縛られて、かれこれ1年半も経つのだ。無理もない。
しかし、どうしたものか。二刀流にとって、片腕が使い物にならないというのは、戦闘力が半分になるも同然だ。
こんな腕、もはや無いも同然──
『あっ』
『何だ』
『…………ダメだ、クシャミ出ねえ』
『舐めてるのか貴様!!』
スキあり。
俺は右腕をまっすぐ上段に構え、足を肩幅から大きく開く。
『切れろォ!! “一刀流・抜錨”ォッ!!!』
『……無駄な足掻きを……』
無駄なんかじゃあないさ。人によっちゃ無駄かもしれないが、これは言わばハッタリ。真面目すぎる光良さんにゃ、少しは効くだろ。
俺は素早く左の脇に刃を入れる。まるで鞘に仕舞うかのように。
そして、二の腕と肩の間あたりを狙い、刃を立てる。
『こんな腕いらねェよ〜〜ん!!』
痛みもないから、好き勝手にやらせてもらおうか。俺の左腕は丸ごと、痛覚が伝わることもなくボトリと落ちる。
雪の絨毯に、燃えるような赤い血潮が飛び散った。
──────
「すごい……咄嗟に余計な設定をなかったことにして、本筋に戻した……これで自然なエチュードが続けられるってことか……っ」
「……これが全部アドリブ? ……信じられないッ……!」
「セリフが紡がれる度に起こる、トキメキの連鎖……これが、『演劇』ッ……!!」
『な……『無かったことにしよう』とでも言うのか……ッ』
『高咲、見ていてくれ』
ここはスゴ味、言わばハッタリにかける情熱と真剣さがものを言う場面。少々カッコつけさせてもらうぞ。
まだ血を噴き出している腕から、俺は屈んで刀を取る。右手は塞がっているので、口でくわえてだ。
『これが……メンズコーチも知らない『勝負の世界』だ……』
『マンガの真似事か!!』
『テストステロン、出てるねぇ』
腕ひとつ分だけ軽くなった俺の身体は、自分が思っているよりも速く走れるようで、どこか気に入っている自分もいた。
マンガのようにスローに見えることも無く、俺は地面を蹴った瞬間、光良さんが見えなくなった。振り返ると、呆然と立ち尽くす光良さんの首筋に、1本の深い切り傷がついていた。口の刀がつけたものだろう。
『クク……会心の一撃!』
光良さんは数秒遅れて、首を押さえて片膝をつく。
『……もう終わりかよ。光良サン』
『まだ……ここでッ、終わるかよ……!』
フラフラと立ち上がり、光良さんは再び三節棍を構える。今度は先っぽがモーニングスターではなく、刃の形になっている。
こちらを振り向いた。その目は、文字通り光っていた。『演劇人のオーラ』も燦然と輝いている。
こうなったら演劇人、本気になったぞという証拠だ。俺は刀を構え直す。
『うらァァァァッッ』
『疾ッッッ』
俺らは同時に走り出した。互いの頸根っこを狙って。
『貴様の全身の動きを止めてやるッ!!』
『やってみろォ!! “二刀流・炉心融解”ィィィッ!!』
動いてからわずか1秒もせずに、武器どうしがぶつかる。俺の刀が、光で出来た刃を溶かし、その度に光良さんの手から注ぎ込まれる光で刃が再生する。火花と光が飛び散り、顔や腕や、胸や腹やにかかって焼ける。
数十秒の鍔迫り合いの後、同じタイミングで刃を離し、互いの攻撃をいなし合う。
これで終わりだとばかりに俺は振りかぶった右手の『千本桜』を、大根切りの要領でぶち落とす。光良さんは咄嗟に俺の腹を蹴って距離を取り、避ける。
『はぁっ、はぁ……』
『ぐ……っ……』
ボディーブローはジワジワ効いてくる。が、俺は光良さんの本気の目に灼かれて、アドレナリンやらエンドルフィンやらがドバドバに出ているため、痛みも気にならない。感じないわけではないが。
俺は思わず笑ってしまう。ここで俺が本気を出したら、もっとアツい演じ合いができる
それって、激アツじゃねーかよ。
かこつけさせてもらうぜ、アンタの本気に。
『こちらも……本気でやるのが……作法ってモンだよなァ!?
超サイヤ人3になる直前の悟空のように、俺は刀をくわえたまま吠える。身体中に気合いと情熱を貯めるイメージを高めながら。
『ァァァァァアアアアアアアアア……!!』
『何をするつもりだ……』
『ッ……うぁぁぁあああああああああッッ!!!』
ゲキバトル内ならではの自由な発想が、俺の生存本能に火をつけた。
可視化された気合いと情熱、それと『演劇人のオーラ』が、身体の許容量を超える。その瞬間、それらが弾けて体外に出る。
俺の周りの雪が円形に、そして俺の周りで球状に、融けていく。まるで、見えない熱された鉄球が落ちてきたように。
『……クク』
『その姿……まさか『0%型』をッ……!!』
身体中が燃えるように熱くなる。それと同時に、『千本桜』と『桜ノ雨』の刀身が“錆び”ていく。
俺の本来の型は『自分50%型』だ。しかし、たまに本気になって我を忘れると、この『自分0%型』が出てくる。俺の潜在意識に染み付いている演技の型は、どうやらあのクソ親父と同じ『自分0%型』なのだ。
そして今、俺はその型を能動的に呼び起こした。
そう、俺はたとえクソ親父と同じ型を使ってでも、光良さんに勝ちたいと思っている。大会でも何でもない、この『
『来い……穂村の末裔……!!』
『誰に何を言われようと!! この忌まわしい型を使おうと!! 俺は……俺だッッ!!!』
俺は、何者かになることはできても、特定の誰かになることはできない。
誰かを演じる演者として、失格とも言えるこの言葉だが、俺はこれをモットーとしている。
たとえ誰かに憧れたとしても、その人自身になろうとしてはいけない。それでは自分自身のアイデンティティの成長にはつながらない。
その人とは違う道で、違うやり方で、その人に並ぶくらいになろうとすることこそが大事なのだ。そこまでしてこそ、憧れを叶えたと言えるのだ。
『“二刀流奥義・桜前線異常ナシ”!!!』
あくまで、俺の意見だがね。
俺は光良さんを、三節棍ごと錆びた刀で斬る。右肩から左脇を斬る、所謂“袈裟斬り”というやつだ。
振り返ると、血まみれの光良さんの上半身が雪の上に落ちていた。俺はゆっくりと歩いていき、その喉元に刃を伏せる。
『怪我をした奴にかける毒、なーんだ』
『……消毒か……?』
『一言かけてやるんですよ。お気の毒、ってね』
俺は右手の『千本桜』で、光良さんの頭と身体をサヨナラさせる。
『お気の毒さま、光良さん……俺が相手で、な』
『く……そォッ……』
それだけ言うと、光良さんの身体は、取り残された下半身ごと、徐々に透き通っていく。
消えるまでには、5秒ほどかかった。この世界における『
そして、俺と光良さんしかいなかった世界に、俺しかいなくなったことで、周りを取り囲む景色も白くなり、段々と視界が眩く変わっていく。明転だ。
『あァ……なんか……疲れた……』
しかし、俺は中学ぶりに見る『ゲキバトル』の世界の終わりを見ることなく、視界が一転、真っ暗になった。
違います。違うぞ。
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