「ほうじ茶って、何なんだろ」
私はいつも飲んでいるほうじ茶のペットボトルを見て、名前の由来を問いかけた。もちろん意味は知ってるけど、なんとなく修舞の顔が険しいからだ。
各々が自主練に出て、2人きりの楽屋にて。修舞は鏡を見ながら「あー……」とぼうっとしながら上を見る。
「……葬式で飲むんだろ」
「法事のお茶ってこと?」
よかった、冗談を言う余裕はありそうだ。
台本を書いた側がそんな顔してたら、つまんない劇になっちゃいそうで、ちょっと不安だった。
「今回もいいの仕上げてくれたね。ありがと」
「誰だと思ってんだ。メジャーの作家だぞ」
「メジャーって、そんなアーティストみたいな」
鈴虫修舞は、既に本屋に平積みで最新刊が並んでるくらいの……彼の言葉を借りるなら、メジャー作家。そんな奴を台本係に、ウチの部の用語で言えば『台本神』にするってのは、ちょっとズルというか、贅沢だと思う。
でも、原作者監修のアニメ映画だって、トーシロのアイドルが声を当てたら一気にちゃっちくなる。彼の類まれなる才能を活かせているのは、ウチの部員たちの腕のおかげだと思う。
「それにしても丸くなったね。前は社会問題やSDGsばっかり書こうとしてたのに……今回出るヤツらのほとんどがそうだけど」
「これからも社会派演劇は作らない。僕らは、僕らのやりたいことだけをやるんだ」
「世界は変わらない、って?」
「子守唄で眠らない子供もいる。そういうことだ」
ああ、確かに。かの『Peaches en Regalia』で有名なフランク・ザッパも『ビートルズのように平和や反戦を歌わないのか』と聞かれた時、『今おれはデンタルフロスの歌を歌ったんだが、お前の歯は綺麗になったか?』と答えたらしいし。
要するにそういうのは他のとこに任せておいて、やりたいことをやる、みたいなことかな。彼の場合は、より現実に近く、なおかつより楽しく、といった感じか。
私は彼の『日常の中の非日常』を描くコメディ作品が大好きだ。彼の代表作、『転生した土木作業員は、異世界でもとりあえずインフラを整備して少しでも過ごしやすくしたいようです 〜なんだこの階段は! 城か! 段差がデカすぎるだろ』もそうだし。
「修舞〜」
「ん?」
「ここで負けたら、何しよっか」
「それはどういう?」
「都大会に行けなくなった場合、秋から冬にかけて何をするのかなって。特に上演する場もないわけだし?」
私はニヤニヤしながら、意地悪な質問をした。
修舞は「さあな。俺は都大会常連の虹ヶ咲しか知らんわけだし」と椅子を立つ。依然、上を見たまま。
「でも、負けないさ」
まるで、もっと上。目標にしている関東大会よりも、もっともっと……それこそ『日本一』を目指しているようだった。
「僕らは負けねェ」
やる気に溢れていて何より。部長として誇らしいよ。
時計をチラッと見ると、もうすぐ通し練習の時間。朝の10時だ。
「さ、そろそろみんな戻ってくるよ。会議室」
「7時間前に通し練習……ははっ、相変わらずウチは早いな」
通し練習。所々で気になるところを止めつつ、台本の細かいところを自然な形や面白い方へと直しつつ、空席の会議室で舞台の動きをさらう練習だ。
顧問いわく、早めにやっておかないと他の学校の番を見るのに間に合わない、それを見るのもまた大会の醍醐味なので、その時間を削るのは本末転倒……らしい。その代わり、本番日の通し練習はいつもより厳しい。顧問か修舞によって、これまで覚えてきたセリフに大幅な変更が加わることもザラである。
ほとんどの学校は自分たちの番の直前に練習するものだが、ウチはその日の一番最初に朝早くに集まり自主練で身体を慣らし、通し練習をする。
くじで予め決められた公演順が最初であれば、そのまま舞台に立ち、今回のように公演順が後のほうなら、他の高校の劇を見て士気とアツさを高めてから舞台へ。
「本番ギリギリまで、たった60分のために命削って試行錯誤して……」
「傍から見りゃバカだよな」
「でも、演劇バカって言われると嬉しい」
「バカで結構! シェフだってひと皿のために何日もかけるんだし!」
グランメゾン東京でも言ってたもんね。その場でパッと作れるもんじゃないんだ。演劇も、料理も。
それこそ、演劇には人を動かす力がある。こと、ウチのパワフルでハッピーな演劇には特にね。
「これがたまらなく楽しいんだよなあ」
ホールの会議室に向かう途中、人混みの中。強い風と共に、目の前をオレンジ色の何かが横切る。
「あっ……!」
シュシュか……? 白色の水玉柄のシュシュだ。それを追う、黒崎一護かってくらいのオレンジ髪をした女性。
あの足並み、相当疲れきったであろう脂汗。東京の人の波に慣れていないと見た。
人混みの足元に落ちたオレンジのシュシュを、彼女は掴もうとしては流され、また掴もうとしてはまた流され……。
あーあ、ちょっと手伝ってあげるか。この手が通るとは思わないけど。
俺はメガネを外し、少し大きな声で「すみません! 通してください!」と言う。
すると。
「あっ、お、お疲れ様ですッ! 花火さん!」
「花火!?」
「えっ、穂村の……!?」
「マジで!? 出るとは聞いてたけど、こんな所で何してんの!?」
一瞬にして、辺り一帯がざわつき始める。
メガネを外した俺の姿は、中学の頃、俺の演劇を見た奴には馴染みのある姿だった。舞台に出る時は基本、メガネは邪魔なので外しているのだ。それこそ藤黄との試合でくらいしか、メガネをかけて舞台に上がったことはない。
つまり……自分で言うのは不本意だが、中学の頃の俺、『
いや、人口密度で言えばさっきより増しているが、俺の前の道がまるでモーセの奇跡のように開いたのだ。
なんでまだ俺なんかに注目すんだよ。高校演劇界には、俺より強い人なんて山ほどいるってのに。
久しぶりだな。それこそ中学の時以来だ、ここまで一方的に俺を知ってる奴に囲まれるのは。
でも。
「うわうわ本物じゃん……ふてぶてし……」
「自分が数年前に何やったか分かってんのか、あいつ」
「でも、なんかそこ含めてカッコイイじゃん?」
「陰キャでもオーラはすげえな」
「……確かに。カッコイイ、かも」
こいつらを前に、『俺なんか』は失礼か。そう俺は、自分を認める言葉を心の中にてつぶやく。
ただ、俺の中の何かが、自分はこんな事をされるような人間ではないと。
『人殺し』
そんな言葉が過ぎるのだ。
『お前さえいなければ』
何の作品だったかな、このセリフ。
俺が自分を肯定しようとすると、こんな言葉をかけられた時に近い、トゲトゲしく、しかしモヤのようでもある暗いものが心にまとわりつくのだ。
頬を汗が伝う。
「……は〜い〜、お疲れさんです〜。どもども、あ、手まで振ってくれてね。どうも、花火ですよ、どうもね」
俺は冷や汗を拭き、メガネをかけ直し、ハイタッチや握手に応えつつ、オレンジのシュシュを拾う。よかった、踏まれてはないみたいだ。
「あ、あのッ」
しゃがんだ俺の前に、差し出されたのは色紙だった。
「サインお願いしますッッ」
「おお、マジ?」
「大マジですッ」
こいつは制服からしてアレか。東雲の生徒。敵校にサインって、余裕あんじゃん。俺なら絶対やらない。
「まだファンいたんだ、俺……?」
「そりゃそうっすよ! なんたって中学演劇界では! 『天下の花火』さんですからッ!」
そんなに大袈裟なものでもない。俺は少しも笑いもせずに、率直に。
「穂村……だから?」
少し意地悪な質問をすると、色紙を手にした少年はびくっと震える。
「ま、まあ……あなたを初めて見ようと思った理由はそれですけど……でも!!」
一歩踏み出した彼は、劇的に語り始める。
「ヤッパ2年前の交流会ッ!! 蛇崩神楽との直接対決ッ!! アレっスよォッ!! 師弟の絆を確かめるかのような、それでいて決裂するかのような、押しつ押されつの演じ合い!! 俺はアレを見て演劇を始めたんですッ!!!」
彼がそう言うと、周りも口々にそうだそうだと思い出話を語り始める。
「蛇崩も三ノ宮もヤバかったが、俺は穂村花火派だなあ」
「オレなんて乗り換えたもんッ。新潟光坂の
「
「それこそ虹ヶ咲には
そういえば、ウチの部にはかつて麻琴先輩のお姉さん、麻美様もいたのか。今じゃ一線を退いてはいるものの、短い期間で高校演劇界にとてつもない衝撃を与えた悲劇の王子と言われている……。
「ペンある?」
「もちろん!!」
その人や部長たち、先輩の作ってくれた、都大会常連という轍。この地区大会であっさり負けて絶やすわけにはいかないな。
「はは……やっぱりみんな、通ってきたのか。最近では主流になってきたね、中学演劇上がりや高校演劇を見てからの高校演劇人が……」
そうでもしないと、ついていけない世界になってしまったのかな。
第三世代の直前から、高校演劇は間違いなくインフレしている。特に、県内の実力が急上昇している山梨を含めた関東エリアは、蛇崩神楽の手によって完全にインフレ環境にある。
終わりかけの時のバディファイトを見てるような気分になる。
「あの人の置き土産はデカいな……」
いくらの価値もない、ただの一般高校演劇人のサインを書いた色紙。それを渡し、俺は道を開き続ける。
「ありがとうございますッ」
「サインくらいスペシャルサンクスだ」
「岸辺露伴とおんなじこと言ってる……」
よく元ネタ分かったね。オマケに露伴のジョジョ立ちしちゃう。
「ま、嬉しいっちゃ嬉しいよね、ファンがいるのは。この時期から名を売っておけば……フフ♡」
シュシュを渡した相手は、オレンジ髪を長く伸ばした2年後のナミのような髪型。
赤い目がぱちくりとこちらを見つめている。都会で親切にされたのは初めてかな?
「あっ、ありがとう……ございます……それとあなた、一体……何者…………」
俺は改めて、今の状況を確かめる。
シュシュを落としただけなのに、そこらの通行人を足止めし、あまつさえ人の波を割った俺。『演劇人のオーラ』が見えない人にとって、そして数年前までの中学演劇を知らない人にとって、俺はただの高校生に過ぎない。
確かに、何も知らない人からすれば異様な状況、光景だよな。
「ここに来ている人は、大体は高校演劇・中学演劇を見慣れている。実際、何人か見知った顔もありますし……俺のことは、ここにいる大体が知っている。ま、ちょっと主役で大会に出たくらいですけどね」
この発言は、ほとんど嘘に近い。大体の奴からは、俺は穂村燃の息子として見られている。
「あのっ、スクールアイドルのライブ会場ってどっちに……」
「スクールアイドルなら、ここよりもっと奥です。第3ホールの……」
「あっ、あ〜! 第3ホールっ! 梨子ちゃんが言ってた……あ、ありがとうございますっ」
指をさすと、オレンジ髪の女性はぺこぺこと何度も頭を下げる。
周りも次第にそれぞれの目的地へと向かっていき、元通りになった中。俺らはそこらのベンチに腰をおろす。
「スクールアイドル、お好きで?」
「うんっ、とっても! あなたは?」
「好きというか、尊敬です。知り合いにスクールアイドルがいて。その人に勧められて、Aqoursさんやμ'sさんは見ましたが……スゴいですね、ありゃあ」
「えへへへ」
自分の事のように照れる彼女は、本当にスクールアイドルのことが好きなんだと思う。好きなものが褒められると嬉しいというのは、オタク的にもよく分かる。
「廃校という、本来なら生徒はどうすることもできない困難に立ち向かう……でしたっけ、μ'sさん。Aqoursさんも廃校をきっかけに結成されたとか……単なるアイドル活動ではなく、最早ドラマが出来てるンですよ。堂々とステージに立ち、高い歌唱力とキレキレのダンスで学校を救う! まるでマクロスじゃあないですかッ」
「んへへ、そんなふうに言ってもらえるなら嬉しいや」
ひとしきりニヤニヤし終えた彼女は、「キミ、そこのホールで……高校演劇の舞台でなんかやるの?」と聞いてくる。
「ええ。本番前に少し発声練習をしておきたくて来ました」
「ふぅん。真面目なんだ……あっ、私ジャマだった!?」
「いいえ、もう練習は終わったので大丈夫です。それより、あなたもこんな朝早い時間から会場に行こうだなんて、あなたもスクールアイドルがお好きなんですね」
「うんっ。μ'sさん見たら、人生変わっちゃって」
彼女はキラキラとした目で言うものだから、かつてラーメンズを見て演劇人を志した俺を重ねてしまう。
「分かります。俺もコント屋さんに変えられましたから」
「こんとやさん?」
「史上最強のコント師です」
「コントかぁ……あぁ、あれって大体は劇場でやるもんね! それで舞台に?」
「話が早くて助かります! テンポがよくて見やすい!」
彼女は「……でも、舞台に立つのって怖いよね」と、ふとこぼす。
伏し目がちな彼女を覗き込むと、俺の方を向かずに。
「あなたは、人前に立つのは平気?」
平気かと言われたら、そりゃあもちろん、緊張はする。セリフが飛ぶ恐怖、立ち位置を忘れる恐怖、コンマ1秒でも音響合わせがズレる恐怖。そういったものは、寝る前にだって頭に出てきては『板の上で死ぬな』と、客席へと誘ってくる。
ただ、どんな人であろうと、不安がキレイに消えるなんてことはありえない。かのオードリー・ヘップバーンも言っていたが、むしろこういうのは、成功すればするほどのしかかってくるものだ。
自分を支える自信とは、成功の上に成り立つ。その成功というのは、案外脆く、一度の失敗で今までの成功すべてが壊れたりもするものである。だからこそ、次の舞台そのものを恐れる。成功になるか、失敗になるか分からないものを。
それでも、それでも俺は。
「大好きです。出たがりなので」
「でたがり?」
俺は立ち上がり、数時間後に立つホールを見つめ、「舞台で人を笑わせたり、泣かせたり、驚かせたり。人々を、自分の、自分たちのペースに巻き込むのが好きなんですよね」と思いにふけりながら語る。
「……すごい、『えんたーていなー』だ……」
「その称号、結構好きなんです」
俺は二つ名を貰えるとしたら、『生ける中学演劇の歴史』や、師匠の『創始演者』なんて大仰なものでも、かといって部長の『天使騒造』なんていうカッコイイものでもないのがいい。
ただ、俺は『エンターテイナー』になりたいのだ。誰かを笑わせて、もしその誰かが今日にでも死にたいと思っていても、それを忘れるくらいに両手を叩いて笑わせられるような。
「大丈夫だよ。あなたなら大丈夫」
「……どうしてです?」
彼女は立ち上がり、俺の方に片方の手を置いて、もう片方の手をサムズアップにしてみせる。
「たまに、心が折れるかもしれない。もうダメ! 顔も洗えない! って時があるかも……でもね、大丈夫! 頑張る人の頭の上には、虹が架かるからッ!」
その人がそう言って、手を広げた瞬間。ほんの一瞬だ。
彼女の後ろに、海が見えた。
なるほど。
しずくや璃奈、かすみ達のようなスクールアイドルのライブ時に起こる『
それをこの人は、演説で。歌わずしてやってみせた。
見事なり。
「……奇跡は起こりうる、てえことッスか」
「そう、奇跡だよ! 私たちがここで会えたことも! ……私みたいな、何もかも普通、そんな普通怪獣でも……大きいステージに立って、たっくさんの思い出をみんなと作ってきた。だから安心してっ!」
ああ、先程から薄々思っていたが、今確信した。
あんたも舞台人だ。それも、ただの舞台人じゃあない。人々を照らし、解放し、笑顔にする『エンターテイナー』だ。
俺もあんたみたいになりたいよ。『高海千歌』さん。
「怪獣ってんなら、俺はあんたといずれ戦うかもしれませんね」
「?」
「俺は
「ふふっ。じゃあ、光線とか出すんだ」
「出しますよ、スペシウム光線」
「私も出す! 梨子ちゃんレーザービームっ!」
お互いに光線の構えをして笑い合う。『梨子さん』のポーズも完璧だ。
「シュシュ、ありがとう。私、行くね! ……あっ! 名前!」
背を向けた彼女が、こちらに首を向ける。
俺もまた彼女に背を向け、ウルトラマンが変身するシーンのように、手を上に大きく掲げる。
「俺は花火……そう、穂村花火です! アツい
「私は……『チカッチ』!! 『チカッチ』って、呼んでねっ!!」
「はい! それでは!」
俺たちは互いに歩き出した。彼女はアイドルの道へ、俺は演劇の道へと。
「見ていてください。チカッチさん……仁さん、賢太郎さん」
誰にも聞こえないような、蚊の鳴くような声で。
掲げた手を胸にドンと当てて。
「俺は代わります……変えてみせます。高校演劇、黄金の第三世代として」
tips.『ゲキバトル』⑤
大会の場では大半の場合、各校が順番に舞台に立つ。土日2日や週をまたいで4日に分けて行う場合もある(今回の地区大会は小規模なので、土曜日ですべての高校が上演する)。
しかし、ゲキバトルになればすべての演者の演劇シナプスは時を超えて繋がり、その結果や現実世界への影響は大会が終わった日に向けて徐々に出てくる。
「行くぞ!! 虹ヶ咲学園────ッ!!」
『よっしゃあああああ!!!』
「トローリー!!」
『オー!!』
「トローリー!!」
『オー!!』
「トローリー!!!」
『オー!!!』
「トローリー!!!」
『オー!!!』
「いよおおおおおおおおおおッ!!!」
『プレイボ────イッ!!!』
18時20分。舞台裏、
「はははっ」
「変な円陣……」
「よし! 全員ぶっ飛ばして全員守る!!」
「柊、手首大丈夫か?」
「少し痛むけど、なんとか。麻琴も気をつけてね」
「ちゃんと見てるからな〜」
部長は満足そうに笑い、3年経ってまだ円陣に慣れていないのか新羅先輩は首を傾げる。
3年のバラダギ先輩が景気付けに水筒を一気飲みし、2年の麻琴先輩と麗紅先輩が二人での大きな見せ場の最終確認をする。
先生が幕を操作する席に座り、こちらを見てはスケッチブックに何かを書く。小説のアイデアだろうか。
「ねえ、花火くん」
「ん?」
指定の位置に行く直前、しずくは俺を見て言う。
「……負けないから」
「……ん。待ってる」
今の俺としずくは、いつも通りの恋人同士ではない。同じ部の仲間で、同じ演劇人としてのライバルだ。
背中に誰かの手が当たる。見ると、それは部長だった。
「行くよ、少年」
「はい。参りましょう」
同じ
「舞台へ」
海老原の舞台はすごかった。羽丘も。駒高も、東雲も、この前戦った藤黄だって。
でも、こんなとこで負ける訳にはいかないんだ。絶対、この地区大会を勝ち上がり、都大会も、関東大会も乗り越えて。
天にも届く、
誰のため? って、ふと思うことがある。
『メガネ、似合ってるよ』
そりゃまあ、自分自身と、学校と、師匠と……。
『花ちゃんっ』
頭に響く、この懐かしい声にも。
誰の声かは覚えていない。ただ、俺のことをずっと前から応援して、励ましてくれていたような気がする。
穂村に生まれた俺を、生まれてきたことそのものが苦だった俺を支えてくれたような、そんな……。
いや、今は集中しないと。俺は両手を頬にぱちんと当てる。客席には天内やかすみ達もいるんだ。カッコ悪いところは見せられないよな。
オヤジだって、さすがにあの多忙さの中で見に来てはいないだろうけど……それでも、俺の名前だけでも轟かせてやるんだ。
ふと、対角線上。上手側の2袖のしずくと目が合う。
そうだな。お前とも戦おう。しずく。
全てを蹴散らしたのち、俺はきっとしずくと戦う。それがきっと、しずくの本懐だから。
「ゲキバトル……」
俺が唱え。
「界演』
しずくが唱える。
さあ、狂気の斬り合いの始まりだ。どちらさんも、しかとご刮目くだされ。この戦いの結末、行く末。俺らの勇姿、希望、渇望。俺らの全ては、このために。
飛び上がるぜ、打ち上がるぜ、第三世代。
すべてのノッポさんが手先が器用とは限らない。
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