広島暴新会会長・竹下道夫。現在43歳。
出身は広島市のお隣、東広島市にあたるが、ベッドタウンとして広島の都市圏に含まれる地域なので、環境としては広島市内と大きく違う訳ではない。
彼は、地元中小企業社長の長男として生まれた。家業は順調であり、裕福に育ったと言ってよい。親は教育熱心だった。勉学においては有名大学卒の優秀な家庭教師がつき、彼自身も県内の国立大に進学した。更にはバイオリン、ピアノ、フェンシング、水泳など複数習い事をしており、そのどれもで竹下道夫はそれなりの成績を修めた。
両親にとって優秀な道夫は自慢の息子であり、親バカもあろうが、周囲に見せびらかしたい存在だった。幼い頃から色々なパーティー、社交場に出入りすることになり、そこで出会う大人たちは皆、「立派な息子さんですね」「羨ましいです」と道夫のことを褒めた。
両親は鼻高々といった様子だったが、当の道夫は冷めていた。勉強もスポーツも音楽も、言われてやっているだけだった。何かが好きだなんて思ったことがない。言われたこと以上、特別何か努力していた訳でもないので、周りから褒められても実感もない。道夫の心の中にはいつも虚無感が漂っていた。
そんな彼の転機になったのは、第三次大戦への出兵であった。
開戦当初、戦場に送られるのは職業軍人のみであったが、その後、戦況の悪化と共に徴兵が始まった。一般には徴兵対象年齢の国民から抽選が行われ、当選した男子には召集令状、所謂赤紙、女子には奉仕労働参加令状が届く仕組みだと説明された。
徴兵開始からしばらくは道徳的観点からの戦争や徴兵そのものへの反対意見。また、どういう訳か、富裕層には令状が届く確率が低いというデータがあったので、そうした不平等への反発もあった。だが、政府から広告料を支払われたマスコミ各社や内閣情報局によるネットへの世論誘導工作により「日本男児たるもの戦場で勇敢に戦うべし」といった風潮が戦争が進むにつれて徐々に社会に広まっていく。
すると、逆に徴兵に反対する者や徴兵を逃れようとする者…更には次第にエスカレートしていって、少しでも戦争や政策に対する疑問を口にする者には「非国民」「社会不適合者」「敵国のスパイ」とのレッテルが張られるようになっていった。
そんな中、道夫は比較的に早い段階で戦地へ向かうことになった。志願兵となったのである。
道夫自身、今考えると、その時、国を守るという強い意志があったかどうかは疑わしい。だが、社会に新しい正義が広まりつつある中で模範的な人間であろうとしたことは確かだ。半年程に渡る訓練で優秀な成績を修めた後、道夫は出陣の日を迎えた。
道夫の赴任地は南方、東南アジアである。戦場は地獄であった。食糧事情や衛生管理は内地での楽天的な報道とはかけ離れていた。それでも赴任当初に小規模な戦闘で何度か勝ちを得られたのは、上官たちによる、その時代の正義感に基づいた根性論の押し付けがあったからに他ならない。
内地においても広がっていた「非国民」のレッテル張りは戦場という命のやりとりの場においては更に先鋭化する。命令違反や逃亡は命取りだ。そうした者らは、他の部隊員から無視され、少ない食糧も分けてもらえなくなり、理不尽な理由で体罰を受けるようになる。
こうした行為は、戦後に"隊内イジメ"と呼ばれて非難の対象となったが、常に死と隣り合わせの状況下で行われるソレは、一般的に"イジメ"と言われてイメージするモノとは比べ物にならない程に凄惨なモノであった。
兵士たちは、その恐怖から逃れるため、死をも恐れず敵に突進した。多くの者が、隊内イジメにあうくらいなら、死んだ方がマシだと判断した。兵士たちは、そんな緊張感の中で毎日を過ごしていたのである。
さて、道夫が戦地に赴任してから3ヶ月程が経ったある日、部隊にとある都市への攻撃命令が下された。それまで道夫が経験した戦いは、全てが小さな村や森の中でのモノだった。どこからゲリラ兵が襲ってくるかわからない恐怖はあれど、どれも小規模な戦いである。
都市での戦いとは、どんなモノであろうか。今までとは違う、大きな戦いになるのは間違いない。生きて、帰れるだろうか。
道夫はそんな不安に駆られていたが、それとは裏腹に先輩兵士たちは皆、歓喜の声をあげていた。どういうことだろうか。
道夫が親しくしていた先輩隊員に聞くと、彼は困ったように頭をかき
「なんだその…」
と口ごもったが、その後ウキウキとした笑顔になって言った。
「まぁ、口に出しては言えないが、戦争で唯一のお楽しみが味わえるかもしれん。この戦いに勝ったら、お前にもわかるさ。」
数日後、戦闘が始まった。日本軍の士気は高い。いつもの、いたぶりへの恐怖とは違う、妙な高揚感だ。現場の一兵卒たちにとって戦いとは常に、自分が死にたくないから殺される前に相手を殺す行為であった。だが、この日の戦闘員たちは皆、目をギラギラさせながら、一人でも多くの敵を殺傷しようとしていた。
敵の対応もお粗末で、勝負は半日ほどでついた。長い間、見つかりにくい獣道を通ってきた甲斐があったのか、敵は日本軍の正確な位置を把握していなかったようだ。多少の守備兵はいるが、とても今日明日の攻撃を予測していたようには思えない。
敵を概ね掃討し終わり勝利宣言が出ると、一ヶ所に集められ整列させられていた兵士たちは一斉に街へ飛び出した。そして、まず、商店や民家に入り込み、食物という食物を漁り出す。それにより家から追い出された住民たちは道の端っこに顔を隠すように蹲った。
何をしているんだ?
道夫がキョトンとしていると、横から果物を両腕に抱えた同僚が声をかけてきた。
「オイ、お前は行かないのか?」
「行くって…どこへ?」
「はぁ? 周りを見てみろ。メシだ、メシ!」
何故かこの食糧難でも痩せる気配のない小太りな体型をした彼は、正しく豚のように鼻息を荒くしている。かなり興奮しているみたいだ。
「メシって…いいのか? そんなことして。」
出兵前の訓練では、現地民からの略奪は一切禁止であると教えられる。内地において、それは一種の常識のようなモノだ。
戦争が始まってからは国内の各メディアが占領地における海外の軍の蛮行を非難する報道をしているが、それに対して日本軍は品行方正でよく統率されており、住民からも感謝されている。略奪などするまでもなく、むしろ現地民の方から物資を寄付してくるくらいだ、と報じられている。
だが、目の前で起こっているソレは略奪以外の何物でもない。道夫は理解が追いつかない。
「いいんだよ、コレは現地民からの寄付なんだから!」
同僚の言葉を聞き、道夫は
「なるほど…」
と呟いた。
内地で報じられていた現地民からの寄付とは、つまり、銃を突きつけて人々を脅し街ごと日本軍に明け渡すように仕向けることの言い換えだった。
道夫にまともな判断能力が残っていれば、少なからず正義を信じて参加した軍の凶行に失望したかもしれない。だが、道夫はむしろ、最高だと思った。戦地に来てからまともにメシを食っていない。やっと、腹を満たせるのだ。道夫も他の兵たちの群れに遅ればせに突っ込んでいき、食べ物という食べ物を頬張った。
それが一通り済むと、兵士たちは住居を追われ道端に放り出された住民たちを物色して回った。ほとんどの者は蹲り顔を下げているので兵士たちは頭をつかんで無理やり顔をあげさせた。
そして、若く美しい女性が見つかると何人かで抱えあげてどこか、住居の中へ連れていく。女たちの中には泣きわめく者もいたが、誰が助けてくれる訳でもない。
道夫も人が多く流れる方へなんとなく着いていく。しばらくすると、とある住居へたどり着いた。
地域の富豪の家なのだろうか、玄関を入ってすぐに見渡しのよい広々としたホールがある。そこで道夫は驚くべき光景を見た。
現地の女性たちを兵士たちが強姦しているのである。だいたいが、女性1人につき、概ね3人程度の兵士がついている。そして1人が周囲を見張り、1人が女性に銃を突きつけ、また1人が犯すといったような格好で、それをローテーションしている。何か、マニュアルでもあるみたいに妙に手慣れたフォーメーションだ。
道夫が唖然としていると、後ろから先ほども話をした小太りな同僚が声をかけてきた。
「またお前、一人で突っ立ってるのか。せっかくの祭りなんだから時間を無駄にするなよ。」
この小太りな同僚、名を小松と言ったが、彼はもう1人の同僚と共に1人の女性を抱えていた。随分若い。14~15歳くらいではないかと思った。抵抗はしていない。だが、口元は固く大きな瞳は光を失ったかのように沈んでいる。怯えているのだろう。
「その子、どうしたんだ?」
小松は鼻息を荒くして答える
「どうしたって…戦利品だよ」
「戦利品…」
要するに、自分達の好きにしてよい女だということだろう。
「ちょっと、若すぎないか? まだ子どもだろう…?」
そもそも強姦自体良くないが、こんなところでそれを行うことの是非を問うても仕方がない。それはわかっているが、それでも人として限度というものはある。そういう意味を込めて道夫は言ったが、小松には悪びれた様子もない。
「あぁ…そうなんだけど、目ぼしい女はもうこの子くらいしかいなくてさぁー。」
「でも、お前…」
「そんなことは良いからさ、俺たち、人数が足りないんだ。お前も入れよ、俺たちと一緒に楽しもうぜ!」
道夫は、小松の言うようにした。戦場という禁欲的な環境の中ではあったが、それほど、女に飢えていたつもりはない。元々異性への執着は薄い方だった。
だが、正義を信じて参加した集団が暴虐を働く目の前の光景をどう受け止めたら良いのか、道夫にはわからなくなっていた。答えの出ない自問を続けるよりも、その場の流れに身を任せる方が楽だったのだ。
その結果、道夫は誰よりも悦楽の虜になった。
良家の子息で勉学、スポーツ、芸術と様々な分野で才能を発揮していた道夫は女性関係にも恵まれていたが、本当の意味で異性に夢中になったことはなかった。
色恋沙汰以外でも、いつもどこか冷めていて、心を埋める何かが欠損してしまったような感覚を常に抱いている。それが彼という人だった。だが、戦場という極限状態を耐え抜き、生存を勝ち取った末に得られる欲望と悪徳の解放は、道夫の心を余すことなく満たしてくれた。
それからというもの、道夫は常に前進する軍団の先頭に立ち、狂ったように戦った。敵を倒せば倒す程、解放の快感が近づいてくる。人を一人殺すと、その度に、自分が生きていることを実感した。そして、死を乗り越えた上で得られる快楽は、それが平時に非道で残虐であるとされる行為を行った時ほど強かった。
それは、道夫が今まで送ってきた、東広島の小金持ちの上品な生活の中では決して得られない麻薬のような快楽であった。
そんな風だから、戦争が終わった時、道夫は絶望した。勿論、自国が敗戦したからではない。もうあの震えるような快感を味わえないと思うと悲しくてたまらなかったのだ。
道夫が戦場から帰ると、父親が自社の副社長のイスを用意して道夫を待っていた。息子とはいえ、会社において大した実績もない道夫にそのような重要役職を与えることは多分に依怙贔屓ではあるのだが、それが戦場で苦労をしてきた息子に対する父からの労いであったらしい。
更に、その後、父の計らいですぐにお見合い結婚をすることになった。相手はこれまた美人で評判な良家の娘である。このまま、用意されたコースに則って人並みに過ごしていれば、道夫は誰もが羨むような人生を送れたことだろう。
だが、道夫は満たされなかった。会社の重役のイスも結婚生活も結局は人に用意された幸せだ。いくら多くを得ようが戦場で死を乗り越えて得られるモノに比べればちっぽけなモノであるように思えた。もし仮に自分の手で何か成功することができたとしても、ここでは法律や常識に縛られて生きなくてはならない。
心のタガを全て外して少女を犯し、泣きわめく人々から略奪し、無意味に命を奪う、あの悦楽はどう足掻いても手に入らないのだ。
道夫は、帰国から2年ほど経ったある日、急に社員たちと家族の前から姿を消した。死の危険を代償に欲しいものを欲しいがままに求めるアウトローの世界に身を投じる為だった。
渡世入りした後は戦場仕込みの無鉄砲な突撃により組織内ではすぐに名を知られる様になり、暴新会会長にまで登り詰める。だが、そこから小勢力が乱立する広島の裏社会の状況と好きに暴れるだけだった道夫の戦略性の無さから勢力を大きく伸ばすことは出来ずにいたが、冷泉会の山南と接近することにより暴新会が広島県最大の暴力組織となったのは前述の通りである。
権力を得たことで、あえて危険を犯すスリルを味わうことは少なくなったが、その分、力任せに欲望を叶えることが出来るようになった。
道夫は、その快楽に溺れ、堕落していった。
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「会長、お部屋の準備が出来ております。」
竹下道夫にそう声をかけたのは、暴新会若頭にして暴新会系箱崎組組長の箱崎敏史だった。
本来、会長の身の回りの世話など、若頭の仕事ではない。若頭というのは、その名の通り、若衆のまとめ役である。だが、竹下はあえて箱崎にそうした仕事を行わせていた。
今の立場で言えば、明確に上下関係がある二人だが、それは先代会長が引退する際の組織改編でそうなったのであり、元は同僚で、出世争いのライバルであった。箱崎は竹下の進めた冷泉会との提携に対する反対派でもある。
竹下は激しい権力闘争の末、己に服従させた箱崎をこの様にこき使う事で勝利の味を噛みしめていた。
竹下は安楽椅子から立ち上がると、ひざまづく箱崎を一瞥し
「ご苦労様じゃったのう、箱崎ぃ。ワシャ楽しんでくるけぇ、こん後も警備を万全にのう」
と声をかけて、渡り廊下を歩き用意された部屋へ入っていった。
部屋に入ると、まずは薄暗い部屋の中で怪しく光るピンクライトが視界に入る。この絵に描いた様に下品な演出が竹下お気に入りの演出だ。
部屋の中央部天井からは太いロープが垂れており、それがセーラーを着た美しい少女の両手首を縛り上げている。竹下はヨダレが垂れそうになったのに気づいて慌てて右手で口を拭う。
「素晴らしい…」
竹下は本来真っ白い少女の肌がライトに照され、ピンク色に染まっているのを見て、ボソリと呟いた。
この足跡のない新雪の様に無垢な少女を自分の色で染め上げてやりたい。そんな衝動が下半身から全身へ広がっていくのを感じた。
竹下は徐に彼女の頬をつかみキスを求めたが、少女は激しく抵抗して竹下の腹を蹴り飛ばしもした。
「ヤメロ! 触るな!」
と長い黒髪を振り乱して少女は叫ぶ。
竹下は腹部に鈍い痛みを感じながらも
「噂通りじゃのう」
と不適に微笑んだ。
籠池が借金のカタに連れてきたという、この轟明菜という少女が、如何にも清純派という見た目とは裏腹に気が強い性格だという事は竹下も聞いていた。
だが、想像以上である。
竹下は悦びを感じた。
他者を征服する事に無上の悦びを感じる竹下にとって、これ以上、素晴らしいことはなかった。
再び近づいていくと、明菜が激しく睨んだが、今まで数々のうら若き女性を辱しめてきた竹下にとってそれは行為に至るまでの一過程に過ぎない。
嗜虐的な竹下からすれば、むしろ興奮を高める前戯にすら等しい。
竹下が1メートルくらいの距離まで寄ると、明菜が蹴りを繰り出してきたが、竹下はそれを左手一本で受け止めた。
完全に隙を突いたつもりの明菜は目を丸くする。
「なかなかいい蹴りを持っとるのう。」
竹下は感心した様に呟いて続けた
「それなりに喧嘩慣れしとる様じゃが、ワシとコンナじゃ力が違うわい。それにもし、ワシを倒せても、縛られて身動きがとれんのじゃから無意味じゃろ。」
「うるさい!」
「もしかして、助けがくるとでも思っとるんか? 無駄じゃ。こん屋敷は難攻不落の要塞じゃ。並みの奴らじゃここまで上がって来れんわい」
竹下はそう言い、今度はより強引に口唇を押し当てた。
「ちょ! やめ…やめてよ!」
その時、唐突に部屋の窓ガラスが割れた。
パリン、という大きな音に驚き竹下と明菜が同時にその方向を見ると、そこにはそれぞれ黒と赤の戦闘用スーツを見にまとった戦士の姿がある。
明菜はキョトンとしているが、竹下はその姿に心当たりがあった。
「獅子道組…いや、暴力戦隊リベンジャーか!」
「そん通りじゃ」
とレッドリベンジャー、獅子道誠が頷く。
「箱崎の腐れ外道が、警備はどうなっとる!」
竹下は舌を鳴らすと部屋の外に向かって叫んだ。
「野郎共! カチコミじゃあ!」
次の瞬間、ドアが蹴破られて数人が室内に突入してくるが、入ってきたのは竹下が呼んだ手下たちではなかった。リベンジャーの残りの3人。ブルー、ホワイト、ピンクである。
竹下は動揺した様に身体を震わせた
「なっ! なんじゃお前ら、見張りの奴らは…、箱崎はどうしたんじゃ!」
それに答えるのはブルーである。
「ハコザキ…? 誰が何て言う名前なのかは知らないけれど、みんな逃げて行ったよ」
「なんじゃと!」
「会長さん、あなた余程人望がないらしいですね」
ブルーが言い放つとホワイト、ピンクは「可哀想」とでも言いたげに肩をすくめた。
「アイツら、何なら、役立たずがぁ!」
竹下は一瞬怒りを見せたが、その後、すぐ高らかに笑い声をあげ始めた。絶望のあまりおかしくなってしまったのだろうか。
リベンジャーのメンバーたちが心配そうに見ていると、竹下は言った
「どいつもこいつも役に立たん…結局、頼れるモンは自分の腕っぷしっちゅう事じゃのう!」
次の瞬間、竹下の身体が小刻みに揺れ、変化を始める。そして、大きなうめき声と共にヘビ型
スネークロイドは変身が完了すると右手についたムチを徐に振った。その先にいたのは天井から垂れ下がるロープに縛られて身動きのとれない明菜である。
「危ないっ!」
と叫びブラックリベンジャーがチャカシューターでロープを打つ。支えがなくなり明菜がバタりと床に倒れた事で、スネークロイドのムチは宙を切った。
「大丈夫か!?」
とブラックリベンジャーが明菜に駆け寄る。
「お兄ちゃん…?」
明菜は文太が獅子道組に入った経緯を知らないので、声を聞いて初めてブラックリベンジャーの正体が兄である事に気づいた様だ。
「ほうじゃ。お前を助けに来たんじゃ!」
「じゃが、お兄ちゃん、そんカッコは何なんよ…」
「話は後じゃ! 危ないけぇ、コンナはあんソファーの陰にでも隠れとれ!」
明菜は目を丸くしてよく分からない、という様な意思を示しているが、とりあえず言う通りにするしかない。スネークロイドから距離をとり、後方に下がってソファーの陰から頭だけ出し、5人のリベンジャーと改造人間を見つめた。
明菜の避難が完了したことを確認すると、ブラックリベンジャーは間髪入れずスネークロイドに蹴りかかった。
スネークロイドはブラックの足を受け止め、逆に掴んで放り投げた。
宙を舞って壁に叩きつけられたブラックは
「うわぁぁ!」
と叫び声をあげる。
その後、ブルー、ピンクが順に殴りかかるが、これも右手のムチで器用に捌かれ、更に蹴りを食らってしまう。一方、ホワイトはスネークロイドが攻撃した隙を突き、足下に射撃を加えるが、スネークロイドはそれを察知して後方へ飛ぶように身をこなし攻撃を回避。直後、お返しとばかりに口から黄色い液体を吐き出した。ホワイトも側転してそれをかわす。
すると、ホワイトが避けた液体のかかった壁が「ジュワァァ…!」と音をたてながら煙をあげる。どうやら、スネークロイドが吐き出した液体は強力な溶解液である様だ。
「さすがにやるのう…。いくら若い女を貪るクズでも一組織の会長ともなっとなかなか違うモンじゃ…」
スネークロイドの戦闘力の高さを確認したレッドリベンジャーはダンビラブレードを構えて言った。
すると、スネークロイドは聞こえるか聞こえないかという大きさの声で
「レッドリベンジャー…コンナ、戦争に行った事はあるか?」
と言った。
レッドリベンジャーは予想外の質問に動揺した様子を見せたが首を横に振り
「ワシは…行かなんだ…」
と答えた。
スネークロイドは笑う。
「そうか…オドレの事は噂で聞いとる。オドレ程のモンがよう仁義じゃ何じゃ言うとると思っとったがの…。戦争に行っとったら少し違っとったじゃろうのう。」
「どういうこったら!?」
「戦時は誰もが、弱きを助け強きを挫く、清廉潔白で勇敢な軍を信じとったがの、本物の戦争はそんなモンじゃないぞ…」
「そがいな事はわかっとる!」
「いや、わかっとらん。戦争は…戦場は、素晴らしいぞ…」
「何、言いよるんじゃ!」
「オドレは世の中が窮屈じゃ思うた事はないんか…? オドレ程の力がありゃ欲しいモンは暴力を振るえば、すぐに手に入るじゃろ。なのに、平和な世界じゃ欲しいモンを手に入れる為にチマチマ金勘定し、ペコペコ人に頭を下げにゃならん…。何故、力のあるモンが弱いモンに合わせて生きにゃあならんのじゃ! そがいな、不平等じゃ!」
スネークロイドはそう叫んだ後、過去に想いをはせる様に遠い目をした。
「じゃが、戦場には、素晴らしい世界があるんじゃ。力が全て、暴力が全ての問題を解決してくれる…そんな夢の様な世界を体験しとったら、コンナも筋だの仁義だの、そがいな下らんモンに縛られっ事はなかったろうに…。」
「…やっぱり、戦争はいかんのう。」
そう呟いたレッドリベンジャーに対してスネークロイドは
「人の話聞いとったんか、ワレィ!」
と叫ぶ。レッドリベンジャーは淡々と続けた。
「戦争いう狂った環境がオドレの歪んだ考えを生んだんじゃ。」
「何じゃと!?」
「なぁ、竹下さんよぉ、確かにワシは仁義を重んじとる。じゃがのう、ヤクザはどこまで行ってもヤクザ。所詮、全うなやり方じゃ生きられず人様に迷惑かけながら生き長らえてる事に変わりはない」
竹下は「ケッ」と舌を鳴らした。
「オドレはそがいな半端な気持ちで極道やっとるんか。見損なったぞ。せっかく暴力団員になったんじゃ。何故もっと暴力を楽しもうと思わん」
「悪いが、竹下さん。ワシの考えは逆じゃ」
「どういう事なら!?」
「ワシら極道はマトモな方法で生きられんモンの集まりじゃ。じゃがの、それでも…いや、だからこそ最低限通さなきゃならん筋がある。仁義がある。悪人のルールさえ守れん悪党は、もはや人の世では生らきられん…」
「何を…!」
「竹下ぁ、オドレは暴力を好み、権力を得る事を快楽にしとる…。それは…それは、まだ、いい。程度問題はあろうが極道っちゅうんは、まあ、そういうモンじゃ。じゃがの、オドレはあろうことか堅気に手を出した。オドレは、なんも罪のない人らぁ何人手にかけた!?」
レッドに問い詰められると、スネークロイドは震えながら叫んだ。
「あぁ…つべこべうるさいのう! オドレ、外道が! たいぎいんじゃぁぁ!」
スネークロイドが右手のムチで横なぎに攻撃すると、レッドは身を屈めて避け、そこから素早く立ち上がり蹴りを見舞った。みぞおちに攻撃が入ったスネークロイドが怯む様子を見せたのでレッドが構えていたダンビラブレードを振り下ろす。スネークロイドは身体をビクリと震わせ慌てた様子を見せたが、なんとか反応してムチをレッドが持つダンビラブレードの柄に巻き付けて攻撃を封じた。
両者の力は互角でつばぜり合いの様なカタチになって状況が膠着するが、そこへホワイト、ブルー、ピンク、ブラックの各リベンジャーがチャカシューターを発砲。
全弾スネークロイドの脇腹に命中し、スネークロイドは「ぎぁぁ!」と叫びをあげながら倒れた。
「オドレらぁ! コッチは1人じゃぞ! それを寄ってたかって…任侠道の風上にも置けん! 恥ずかしくないんか!」
負け惜しみを言うスネークロイドに対してブラックが
「ワリャァ、どん口で言っとるんじゃ! 今まで散々弱い者イジメしてきたじゃろうが!」
と怒りを見せると、ホワイトが言い聞かせる様な口調で続いた。
「どれだけ人に慕われるか、信頼されるかも極道の世界じゃ実力の内じゃき。オマンが元々一匹狼でやっとんならまだわかるけど、部下に逃げられたオマンにウチらを非難する資格はないがぜよ」
「げ、外道がぁ…!」
スネークロイドは脇を押えながら何とか立ち上がるが、もう反撃する気力はないらしい。フラフラと身体を揺らしてその姿勢を維持するので精一杯という様子を見せる。
それを見たレッドは
「竹下さんよ、オンドレも一組織の長なら、こうなった以上、潔く覚悟を決めないや!」
と吐き捨てた後、
「ヤマトバズーカー!」
を叫び大砲を手もとに呼び出した。
リベンジャーの5人はそれを全員で支え、
「「ファイヤー!」」
の掛け声と共に光弾を発射。
攻撃を食らったスネークロイドは壁を突き破り隣の部屋まで飛んでいき、そこで爆散した。
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スネークロイドを倒したリベンジャーの面々は変身を解く。文太はソファーの陰に隠れていた明菜に呼び掛けた。
「明菜、もう安心じゃ。出て来ていいぞ!」
すると、明菜がヒョッコリと顔を出す
「お兄ちゃん…今のは一体…」
「これは、その…」
色々ありすぎたので文太は説明に窮したが、とりあえずこれだけは伝えなくてはならないと
「明菜、この人たちが、助けてくれたんじゃ!」
とリベンジャーのメンバーたちを指し示した。
明菜は、先ほどまでのヒーローの様な格好から変身を解いた4人の姿をしげしげと眺めた。
1人は着崩したスーツの下に派手なワイシャツを着た筋骨隆々な男。眼光が鋭い。おそらく本人はそんなつもりないだろうが、通常の状態でも何かを睨んでいる様な目付きだ。
もう1人の男はスラリとした体型でメガネをかけた若い男。下が紺のジーパン、上がグレーのパーカー。この4人の中では比較的普通の格好をしているが、髪の毛先が無駄に遊んでいてチャラい印象を受ける。
女性2人は更に異様である。1人は先ほどから高知弁で話している色白い女。なぜか動きづらそうな和服姿だ。
もう一方は若い女でクリクリとした大きな目が印象的で顔だけ見ればアイドル歌手の様な感じだが、何故だか水商売風の薄いドレスを着ている。
彼らを見て、明菜は首をやや横に傾けた。
「お兄ちゃん…ホントにこの人らぁが助けてくれたん?」
「あぁ、そうじゃ」
「…なんか、みんなガラ悪いね」