暴力戦隊リベンジャー   作:ロッシーニ

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第七話 民衆の敵(パブリック・エネミーズ)(後編)

広島県呉市の町工場、浅見工業事務所内。

万田南と浅見弘樹が書類に目を通しながら、工場の経営状況の確認をしていると、浅見工業名目上の現経営者・浅見洋子が会釈しながら部屋に入ってくる。

 

背が低く、頬が痩けてもいるが、ニコニコとしていて、いつも愛想は良い。

 

「こげなモンしかありませんが…」

と洋子はお茶と団子を南のデスクに出した。

 

「いえ、本当にお構い無く…」

と南は遠慮したが、洋子は

「いいんですよ、仕事中じゃけど、せめてくつろいでって下さい。」

と微笑み、弘樹も続いた。

 

「そうじゃ。ウチの経営が安定したのは万田さんのおかげじゃけぇ。それに、さっきの連中…暴新会というたか…アイツらも追い払ってくれた。こげな事しかできんのが、申し訳ないくらいじゃ」

 

南は二人の好意に感謝する反面、同時に居心地の悪さも感じた。今はたまたま浅見工業の再建に力をかしているが、結局それは南自身と組の利益の為なのだ。

 

所詮、自分は反社会勢力の一員だ。

暴力団は…いや、それだけではない。自らの欲望の為に罪のない人々から金をむしりとろうとする奴らは須くが民衆の敵である。

それは、南が一番よくわかっている。

 

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東京駅を午前10時頃に出た東海道山陽新幹線の車内にて、パトレン2号こと陽川咲也は子犬の様な笑顔を浮かべながら旅行用ガイドブックを見ている。

 

「ああ、久しぶりの出張…広島、楽しみだなぁ!」

 

向かいの席に座るパトレン1号・朝加圭一郎はそんな咲也を見て顔をしかめた。

 

「おい、遊びに行くんじゃないんだぞ。 なぁ、つかさ。」

 

圭一郎に同意を求められたつかさは

「ああ。その通り。相手は相当な過激派らしいし、そんな遠足気分では命がいくつあっても足りないぞ」

と忠告するが、その手には広島のゆるキャラ、咲ちゃんや呉氏の写真が印刷されたカタログが握られている。

 

「そんな事言って、つかさ先輩もお土産買って帰る気マンマンじゃないですかあ!」

「うるさいな、お土産の一つくらい良いだろう!」

「じゃあ、僕だって、広島焼きの1枚くらい食べたいし、戦艦大和ミュージアムの1ヶ所くらい、行きたいですよ!」

「それとこれとは、全然違うだろう!」

「違わないですよ!」

 

二人は睨み合ったが、しばらくして、つかさはふと我に返った。

なんとバカバカしい。自分でそう思い、ため息をつき、そして呟いた。

 

「ま、とにかく、何もかも事件を解決してからでないとな…」

 

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警察戦隊パトレンジャーの3人が呉駅についたのは、15時頃である。

 

「さて、これからどうする?」

とつかさが圭一郎に言った。

 

急なことだったので、3人の正式な捜査開始は翌日からとなっており、今日、呉に着いた後の行動は3人の合意に委ねられている。

 

呉警察署に顔を出し挨拶しておくのもいいだろう。

あるいは、長旅の後である。ホテルでゆっくり休んで明日以降に備えても誰も文句は言わない。

 

「4時間も新幹線に乗ったんだ。僕、なんか疲れちゃったなぁー。」

 

咲也がやんわりと休みたい旨を主張していたが、圭一郎はその意図には全く気づかず

「そうだな、今日、陽が沈まない内に一度、爆発事件の現場を見ておきたいな」

と言った。

 

「やはり、そうか。」

つかさも納得したように頷く。

 

呉市繁華街におけるキャバクラ店爆破事件は、この抗争の中でも特に規模の大きい事案だ。とても、一介の暴力団が起こしたとは思えない。

 

極道の世界は面子で成り立っている。これだけの事をされたのだ。やられた側は、これと同じか、それより更に残虐な報復を計画しているはずである。黙って引き下がっては組の面子が立たない。

 

警察としては、復讐の連鎖が抑えきれなくなる前に犯人を確保してしまわねばならない。この事件の捜査は、確実に抗争全体を左右する事になるだろう。

 

そして、捜査をするなら初動はとにかく早い方がいい。

モタモタしている間に、証拠になるモノが風で飛ばされたり、雨で流されたりしないとも限らない。

 

勿論、既に広島県警が動いているはずだが、それでも自分で現場を見ておきたいという想いが圭一郎にはあった。

 

「しかし、どうやって行きますか? 道が全然わかりませんよ?」

と咲也が心配すると、圭一郎は笑った。

 

「大丈夫。困った時は、交番のお巡りさんに聞けばいいんだ」

 

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広島県呉市繁華街。

キャバクラ店、アムールはその入口付近の良い立地にあった。

 

だが、その場所にアムールはもうない。

瓦礫に埋もれたケバケバしい看板が、僅かにそこに店があった事実を示すのみである。

 

黄と黒の所謂トラロープを潜ってパトレンジャーの3人が現場に入ると、制服姿の若い巡査が

「ちょっと…」

と声をかけてきた。

 

見慣れないジャケット姿の3人組を不審に思ったのだろう。そう察した圭一郎は胸ポケットから警察手帳を取り出して、提示した。

 

「国際特別警察機構・日本支部の朝加圭一郎です。広島県警からの協力要請で捜査に参加します」

「同じく、明神つかさ。」

「同じく、陽川咲也です」 

 

「えっ! 国際警察!」

巡査は背筋を伸ばして敬礼した。

 

見たことはなくても、警察組織内でその名を知らない者はいない。巡査は尊敬の眼差しで3人を見ていた。

 

すると、

「おお! よく来て下さいましたな!」

と現場奥の方から長いベージュのトレンチコートを着た白髪混じりの男が出てくる。

ここに臨場しているということは、おそらく4課(マルボウ)の刑事だろう。警察官である3人には直感的にそれがわかる。

 

ややくたびれた雰囲気で、いかにもベテラン刑事の典型であるが、4課(マルボウ)の持つ強面のイメージからすると、それが異色な風貌である様にも思える。

 

「広島県警捜査4課の松永です。この度はご足労頂きありがとうございます」

「いえ、国際警察日本支部は事件があれば、日本中どこでも出向きますから…」

 

圭一郎はそう言い、辺りを見渡す。

 

「それにしても、ヒドイですね。抗争というよりも、まるでテロだ。」

「ええ。ワシは長いこと広島でそんスジのモン相手しとりますが、ここまで派手なんは初めてじゃ」

「犯人に、心当たりは?」

「心当たりというか、こん街のヤクザの動向なんですが…最近、京都・冷泉会の後ろ楯を得た広島市の暴新会が呉への進出を狙っとりましてのう。頻りに呉の大和会を挑発しとったんですわ。」

 

「これも挑発…いや、違いますね」

「ええ。もう我々のあずかり知らんところで抗争が始まっとると見た方が良いでしょうなあ。」

「やはり…」

 

松永と圭一郎の話は長かった。

3人が現場に着いた時にはもう日が傾き始めていたので、そろそろ夕焼けも見えてきた。

 

咲也は退屈だった。勿論、本人なりに仕事をする気はあるのだが、反面、自分達が事件の内容についてそんなに深く調べても仕方がない、という思いもあった。

 

暴力団は地域に根ざす。ポッと出の自分達がいくら頑張っても捜査に関しては、地元の刑事に敵わない。自分達の出番は戦闘の仲裁やアジトへのガサ入れなど実力行使が必要になる時に限られるだろう。

 

咲也はそう予想していた。

だから、圭一郎やつかさが松永と一生懸命話しているのを見ても、どこか他人事な気分なのであった。

 

咲也がボーっと辺りを眺めていると、路地から現場の方へ黒いキャップをかぶり上下に黒いジャージを着た女が近づいてくるのが見えた。

 

女がトラロープを越えようとしたので咲也は慌てて駆け寄り

「ちょっとちょっと! ここは捜査現場なんで立ち入り禁止ですよ!」

と制止しようとしたが、女が構わず突き進んで来たので、図らずも咲也は女ともみ合う様なカタチなった。

 

もみ合いの中で、女のキャップが落ちると、女の持つ大きな瞳と艶やかな黒髪が露になり、咲也は目を奪われた。

 

美しい。

そう思った。

 

それも普通の美しさではない。

彼女の目に灯る悲しみと怒りの炎は妖艶な光を放ち、咲也の身体をフリーズさせた。

 

「うわぁ、美人だなぁ…」

見とれた咲也は思わず彼女をその先に通してしまった。

 

「あ、しまった…」

我に返った咲也が追いかけるが、追いつく前に女は止まった。つかさが女の前に立って進路を塞いだからだ。

 

「君、ここは立ち入り禁止だ。それとも、何か様か?」

 

女は「かまわないで」とばかりに、つかさを睨んだがつかさは動じなかった。女は同性のつかさが見ても見とれそうな位に美しかったが、「かわいいモノ」を好むつかさは咲也ほど彼女の妖艶さを纏った美しさに動揺はしなかった。

 

「そんな目で見たって仕方ないだろう? 訳を話してくれ。」

 

つかさが諭すと女は下を向いてボソボソと言った。

 

「みるくさんは…店のみんなはどうなりましたか…?」

「ミルクさん…?」

 

その言葉の響きがつかさにはピンと来なかった。「さん」付けだから、人の名前だろうか。

 

つかさがしばらく固まっていると、

「店で働いてた女性の源氏名じゃないですかね?」

と咲也が耳打ちした。

 

「源氏名って…?」

「え、知らないんですか?」

「そうだ」

 

あまりに堂々とした肯定に咲也は

「え、ああ…。」

と息を漏らした。

 

常識だと思っていたので、この真面目な先輩がそんな事も知らないとは思わなかったのだ。

 

「お店で働いく時の為の偽名ですよ」

「なんで偽名なんて使うんだ?」

「ほら、水商売の女性って本名じゃ働きづらいでしょ」

「え? なぜだ?」

 

「そりゃあ、残念だけど、社会的に地位が高い仕事ではないですからね。働いている事を家族やご近所に知られたくないだろうし…あとはお客さんに個人情報がバレない様にする為じゃないですか? 多かれ少なかれ色をウリにする業種ですから。勘違いされてストーカー化されたりするとマズイし。」

 

「へー、詳しいんだな」

そう棒読み早口で言った後、つかさは横に1歩動いて咲也から距離をとった。

 

咲也はげんなりとしてため息をつく。

元から真面目な人だとは思っていたが、想像以上だったようだ。

この先輩は、キャバクラというモノを実際の10倍くらいイヤらしいお店だと思っているに違いない。そして、そうした事に免疫のないこの人は、水商売に関する事柄を知識として知っているだけでも汚らわしいと思っている。

 

なんてヒドイ扱いだ。まるで、自分がそういう店に入り浸ってるみたいだ。確かに、こんな美人がいるんだったら、そうなっても仕方ない気もするけど…、と思い、咲也は再び女を横目で見る。

 

こんなバカらしいやりとりを目の前で見ていても、女はまだ悲しそうな表情のままである。

もしこの人が店の従業員なのだとしたら、知り合いがみんな被害にあっているんだものな…。

 

咲也はそう思い、気を切り替えて聞いた。

 

「君は、この店の従業員?」

「…はい。」

「名前は?」

「店では、ユリナという名前で働いていました」

「悪いけど、本名も教えてもらえる?」

「…吉原…空です」

「どれくらい前から、店で働いてるの?」

 

「随分、根掘り葉掘り聞くのですね」

と吉原空が不快感を示したので、咲也は申し訳なさそうに会釈する。

 

「あぁ…急にごめんね。お店の人達の事、教えてあげたいのはヤマヤマなんだけど、やっぱり素性のわからない人に捜査上、得た情報を渡すわけにはいかないからさぁ…」

 

吉原空の表情は変わらなかったが、教えてくれる気があるならば、という事だろうか。辿々しくも咲也の質問に対する回答を再開した。

 

「私が店に来たのは半年前くらいです。」

「店の従業員なら、昨日はここにいなかったの? 休み?」

「昨日はお休みをもらっていました。」

「昨日は何をしてた?」

「広島市に用事があって、行っていました。昨日の夜中に帰って来て、すぐに寝て。朝起きて事件の事を聞いたんです。」「朝って…何時頃?」

 

咲也は警察官のクセで細かく聞いた。

事件の事を「朝、聞いた」ならもうすぐ夕方というこの時間に現場に来るのは遅すぎると思ったのだ。

 

空はイラっとした様子で咲也を睨む。

それもそうだろう。彼女は被害者たちの知り合いなのだ。まるで犯人扱いするみたいなアリバイ確認をされたら気に障るのは仕方がない。

 

だが、そんな視線にも慣れっこになっている咲也はズケズケと聞いてしまった。

空はため息をつく。

 

「不愉快ですわ。もういいです。自分で調べますから。」「えっ! ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

咲也はやっと自分が彼女を怒らせた事に気がついた。

「ごめん、ごめん。そんなつもりは! コッチも仕事で…どうしても、犯人を捕まえたかったから!」

背を向けた空に咲也が声をかけるが、彼女は止まらない。

 

そこへ

「お嬢さん! ちょっと待って!」

と太い声が響いた。

 

咲也たちからは離れたところで松永と話していた圭一郎の声である。大きな声に驚いた空は振り返り圭一郎を見た。

 

「お嬢さん。自分もさっき聞いたばかりなんですが…ここだけの話、実は店にいた人の中に1人だけ生き残りがいるんです。会って行きませんか?」

 

「えっ!? 先輩、そんなこと言っていいんですか!?」

 

空が答える前に咲也が声をあげた。

 

「あぁ。いいんだ。咲也、場所を教えるからお前が病院までお送りしろ」

と言った後、圭一郎は耳打ちした。

 

「彼女、たぶん店の仲間が心配で気が気でないんだろう。この状態で話を聞いても心を閉ざされるばかり…逆効果だぞ」

「あぁ…そうか。でも、彼女、イマイチ身元がハッキリしないけど、被害者に会わせて大丈夫ですかね…」

「水商売の女性の身元がわかりづらいのは、今に始まった事じゃないさ。」

 

「でも…」

「心配するな。だからお前がついていくんじゃないか」

 

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吉原空は国際警察の陽川咲也が広島県警から借りたパトカーに同乗し、呉市立病院にやってきた。

案内された病室のドアをノックして開けると、そこには明るいショートカットの茶髪をした華奢な女性がベッドに座位をとっていた。

 

包帯で顔が半分隠れてしまっているが、もう半分を見ただけでも、非常に端正な顔立ちをしているのがわかる。

アムールのNo.1ガール・ミキである。

 

「ユリナ…アンタ、何しに来たの?」

「ミキさん…私、お見舞いに…。」

 

ミキは鼻で笑った。

 

「お見舞い? 私のじゃないでしょ。」

「そんなこと、ありませんわ」

「ウソ。私、イヤな女だもの。会いに来てくれる人なんていないわ。アンタ、みるくとか仲のよかった子の事、聞きに来たんでしょう。」

「それは…」

 

ミキは空を言い負かした事に満足したのか、ニヤリと口元を弛ませてから、話し出す。

 

「私以外はみんな死んだ。みるくもね。あの子は爆弾の近くにいたからほとんどバラバラだった。私、みるくとは仲悪かったけど、さすがに気の毒だったわ」

「そんな…」

 

「私は、床につっぷして泣いてたのが良かったみたい。助かってしまった…。」

「泣いていた…? どうして…?」

「爆発事件の前に、暴新会の鶴城組が来て、店で暴力振るってたからね。店長や吉田チーフはボコボコに殴られて…私も…」

 

そこまで言ってミキは身体を奮わせた。

鶴城から受けたおぞましい侮辱を思い出したからだ。

 

だからミキは

「私も…色々…脅されたり、ヒドイ扱いを受けたわ」

と濁して伝えた。

 

ミキは続ける。

「それでヤツら、一旦は帰ったんだけど、カバンを置いていったの。それで、念のため、バイトの男の子が中身を確かめようとカバンを開けたら…ドカンってワケ。」

 

「鶴城組の仕掛けたブービートラップ…ということですか?」

「何か、ああいうの、そう言うらしいわね」

「だけど、暴新会…鶴城組…。彼らが何でそんな事を…?」

 

「それは、ユリナ。アンタを探しに来たからよ」

「私を…?」

「そう。アンタ、暴新会の貝原ってヤツを殺したらしいじゃない。だから、その報復でしょ?」

「え、でも貝原は籠池組で…」

 

空は混乱した。

 

極道は面子を重要視し、かつ、縄張り意識が強い。もし貝原の敵を討つなら、彼が所属していた籠池組が出てくるのがスジである。

そして、昨日、籠池組とは話がついた。組長・籠池のあの時の態度から言って、彼はこの戦いに関して不拡大の方向性をとっていた。籠池が納得していれば、この件に他の組が手や口を出すことなどできないはず。

 

その段階で、空はもうこれ以上、獅子道組関係各所への報復はないものと踏んでいた。それが何故、暴新会屈指の殺人集団として名高い鶴城組が出てくるのか。

空はそういう意味で疑問を呈したのだ。

 

「そんな事、わからない。ヤクザの理屈なんて、知ったこっちゃない。」

 

ミキが吐き捨てると、空も

「そう…ですよね…」

と頷くしかない。

 

そして、空は頭を下げて言った。

「ミキさん…! 店をこんなことに巻き込んで本当にごめんなさい…! こんなハズじゃなかったんです…」

 

空は気の強いミキから罵倒されることを覚悟していたが、意外にもミキは淡々としていた。

 

「謝るなら、死んだ人たちに誤りなさい。私は…別にいいわ。どうせ夢も希望もないクソみたいな人生だったんだし。これで諦めがついた。悪あがきしてNo.1になってみたけど、これで私はおしまいよ。」

 

「ミキさん。私が言えた立場じゃないですけど…。お店はなくなってしまいましたが、ミキさんなら、どこへ行ってもやっていけますよ」

「無理よ」

「そんなことないです…私、ミキさんがすごくがんばり屋さんなの知ってます、だから、これからも…」

 

ミキは、空の言葉を途中まで聞くと、徐に顔に巻いた包帯を引っ張って外した。すると、その下からNo.1ガールの見る影もなく爛れ荒れ果てた肌が露になった。

 

明らかに爆弾でやられた火傷の痕である。

ミキは甲高い声で叫ぶ。

 

「医者が、もう元には戻らないって! これでも…! これでもまだ私の人生終わってないって言えるの! これじゃあ、私もう働けないわ!」

「だけど…」

「だけども何もない! 私は、アンタとは違う! アンタは元がお嬢様で育ちがいいから借金さえ返せば、普通の仕事にも就けるけどね、まともに学校にも行っていない私は、水商売しかないから水商売やってるの! それが出来なきゃどうやって生きていくのよ!」

 

言葉を失った空にミキはたたみ掛けた。

 

「誰の哀れみも、慰めもいらないわ! 早く帰って! 出ていってよ!」

「そうですか…お騒がせして、ごめんなさい。お大事に…。」

 

空がドアノブに手をかけると、つい先ほど出ていけ、と言ったハズのミキが

「ちょっと待って」

と声をかける。

 

空は戸惑いつつもまた、ミキの方を見た。

ミキは、我に返った様だ。今度は、落ち着いた声で言った。

 

「お見舞い、来てくれてありがとう。ウソでも、誰かのついででも、来てくれて嬉しかったわ。でも、もう来ないで。自分の事は、自分1人で何とかする。」

 

空はそれを聞くと微笑み

「ミキさん。私、また来ます。」

と言い残して部屋の外に出た。

 

その後、ミキは閉まったドアに向かってボソリと呟いた。

 

「ユリナ、ありがとう。でも、もう二度と会うことはないわ」

 

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空がミキの病室を出ると、国際警察の陽川咲也が神妙な面持ちで廊下に立っていた。

 

おそらく、部屋の中での会話が聞こえてしまっていたのだろう。空はそう直感した。

 

「話は終わりましたわ。私、帰ります。」

 

空はややぶっきらぼうに言い、咲也の前を通り過ぎようとした。咲也は、彼女を追いかけつつ、ポケットから車のキーを取り出す。

 

「僕、家まで送りますよ」

「結構ですわ」

 

空の口調は冷たい。

咲也の胸にあったのは、単純な親切心と彼女らの会話を一部聞いてしまったことで芽生えた同情心なのだが、そうした感情をナンパか何かだと勘違いされることは、やや軽薄に見える咲也にはよくある事だった。

だから咲也は今回もそういう誤解を受けたと思った。

 

何たる不名誉。なんとか誤解を解きたい、という感情に襲われたが、咲也はそれをグッと堪えた。

知り合いが犯罪被害にあったばかりの彼女が必要以上に他人を警戒するのは仕方がない。

 

咲也は

「わかりました、お気をつけて。」

と言った後、なお通り過ぎようとする空の背中に向かって叫んだ。

「必ず、必ず犯人は警察が捕まえます!」

 

空は立ち止まると、クルリと方向転換して、また咲也の側に近寄ってきた。

 

「何ですって?」

 

何か、挑発的な言い方である。警察官としての使命感から、善意で言った事だったので、彼女にとって何が気にくわなかったのかわからない咲也は大いに戸惑った。

 

「あの…犯人は僕たちが捕まえるから心配しないで、と…」

「結構ですわ」

「え?」

「私、警察なんて信用していませんもの」

「それはどういう…」

 

咲也の価値観からすると、市民の安全を守る法の番人たる警察はこの世で最も信用できるモノの一つであるハズだ。

空の言葉の意味が汲み取れず、咲也は声を詰まらせる。

 

「警察なんて、偉い人の言うことを聞いて、国にとって都合の悪い人間を捕まえるだけの、何の正義もない組織じゃないですか…!」

 

そう吐き捨てた空に咲也は反論する。

「それは違う…! 僕たちは日々、市民の平和と安全の為に働いているんだ!」

「私の父は、戦犯なんです。」

「戦犯…それは…心中お察しします。だけど、それに一体何の関係があるんです!」

 

「戦時中は戦争に協力しないと逮捕。戦争が終わったら戦争に協力した者は逮捕。命令されれば、そういう矛盾したことを平気でできるのが、あなたたち警察ですわ。信用できる訳ありませんよね。」

「僕はそんなこと…!」

 

僕はそんなことしていない。僕は関わっていない。そう言おうとして咲也はやめた。

自分1人が関わっていないからと言って、彼女の警察不信を打ち消すことはできない。

それに、もしその時、自分が戦犯の逮捕に関わる事になっていたら、自分はその任務を拒否することができただろうか。出来なかったかもしれないし、そもそも政治問題に詳しくない自分は命令に疑問すら持たなかったかもしれない。

仮にもし、その立場で命令を拒否していたとして。その後、自分は警察に残ることができていただろうか。

 

それは、警察組織の明らかな正義の矛盾だった。

言い訳しようがない。

咲也はそう思ったのだ。

 

「それは、ごもっともですが…それでも僕は、傷つく人をこれ以上、増やす訳にはいかない…。絶対に犯人は捕まえます。」

 

空は鼻で笑った。

「くだらない、戯れ言ですわ」

 

そして、彼女が踵を返す瞬間、呟いた言葉を咲也は聞き逃さなかった。

 

「ケジメは、私がつける…!」

 

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吉原空に広島県警から連絡があったのは、ミキの病室を訪問してから2日後のことだった。

話によれば、ミキが病院の屋上から飛び降り、自殺したというのだ。

 

空が病院へ急行すると、霊安室の前には松永という中年の刑事がいたが、それ以外はいない。

 

警察の調べによると家族は存命のハズだが、連絡がつかないそうだ。正確に言うと、電話が繋がってもミキについて話そうとすると「ウチの者ではない」と切られてしまうらしい。

 

詳しい事情はよくわからないが、関係が物凄く悪いのは間違いない。そんな事情で警察が唯一把握しているミキの知り合いとして、空が呼ばれたというワケだ。

 

「それにしても、冷たいご家族じゃ…。娘が死んだいうんに…」

と松永はぼやく。

 

「ミキさんのおウチは、お金に困っているという話でしたから…」

「そげにしたって、あんまりじゃないか。死んだ娘にすら会いに来んなんて、どがいな神経しとる。金でモメたくらいで、そこまで非情になれるモンかのう…」

「そう思うのは、本当の貧乏を知らないからですわ」

 

おそらく元々貧しかったのであろうミキの家と、戦後の処分により富裕層から転落した空の家では事情が違うが、空は自身の経験を踏まえた上で言った。

 

「家族言うんは、そがいなモンですかの…」

何かを察したのか、松永はそれ以上言わなかった。

 

その後、松永は空にミキの遺品整理を依頼してきた。このまま家族の応答がなければ、彼女は無縁仏として葬られる。遺品等も業者によって処分されてしまうのだが、数年経って家族が、それを後悔しないとも限らない。

できれば、彼女のアパートから形見になりそうなモノを見つけて、預かっていてくれないか、という話だった。

 

空とミキはそこまで親しかった訳ではない。空には自分がそんなことをして良いのだろうか、という思いもあったが引き受ける事にした。

彼女を巻き込んでしまった自分が罪滅ぼしにできるのは、これくらいしかない。

 

空は松永がメモに書いてくれたミキの住所を元に、彼女のアパートへ向かった。

 

たどり着いたアパートは、店のNo.1として、羽振り良さそうに振る舞っていた彼女の生前を考えると意外にも、トタン屋根の古い建物だった。

階段を昇って彼女の部屋に向かおうとすると廊下には、所々クモの巣が張っている。

 

ボロアパート。そう言っていいだろう。

 

2階角部屋に住む大家の老婦人には警察から既に話が行っていて、訪問するとミキの部屋のカギをすんなり貸してくれた。

 

ただし、やや迷惑そうではあったが。

 

自物件の契約者に自殺者が出てしまったものだから、物件の評価が落ちそうだ、とでも思っているのだろう。

 

空は、貸りたカギで「三谷」と表札がかかったドアを開け、部屋に入った。ミキの本名が「三谷加奈子」であったことは、先ほど松永刑事から聞いている。

 

ワンルームの部屋に物は比較的に少なく、質素な暮らしぶりだったのがわかる。ただ、窓際に8畳ほどの部屋に置くにはいくらか大きい印象のキーボードがあるのと、壁際の本棚に何かの参考書がギッシリ詰まっているのは目についた。

 

空は、参考書の中身が気になって、本棚に手を伸ばす。

保育士資格の参考書らしい。中にはビッシリと書き込みがあり、相当熱心に勉強していた事がわかる。

 

この部屋には似つかわしくない立派なキーボードも資格取得の為の練習用だろう。有名メーカーの製品である。

彼女の暮らしぶりからすると、かなり奮発したに違いない。

 

「ウソつき…」

空はそう呟いた。

 

ミキは、自分には夢も希望もない、と頻りに話す女だった。

でも、こんなに素敵な夢があったんじゃないか。

 

その為に、毎日、浴びるほど酒を飲んで、No.1ガールになって、お金を貯めて、参考書やキーボードを買って、勉強も頑張っていたんじゃないか。

 

それを思うと、思わず目から涙が溢れだして止まらない。

 

「鶴城仁一…お前は、私が必ず殺す!」

 

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空は、ミキの遺品整理を行った後、その足で獅子道組の事務所へ向かった。

中に入ると、獅子道誠と桐生ナツメがいる。

 

空は2人に向かい、挨拶もしない内に

「ねぇ、カチコミに行きましょうよ。カチコミに。」

と早口で言った。

 

獅子道はため息をつく。

 

「また急にどうしたんなら?」

「え? 鶴城組ですよ。潰しに行きましょう。」

 

「アムールの件は、残念じゃったのう」

「残念では済みません。あそこはそもそも、私たち獅子道組が用心棒をしていた店…。あんな風にヤられてヤり返さないのでは、スジが通りませんわ。」

 

「じゃがのう…」

「歯切れが悪いですね、もしかしてイモ引いてらっしゃるんですか?」

 

空の口調が攻撃的になってきたので、ナツメが横から口を出す。

「ええ加減にしとかんかい。兄貴にそん態度じゃ、ソッチの方がスジ通らんぜよ」

「でも!」

「空、アムールには組の任務で潜入したんやっちゅう事を忘れてはいかんぜよ。私情を挟みすぎや。」

 

獅子道は再びため息をつく

 

「アムールの件、必ずケジメはつける。じゃが、鶴城組にはしばらく手ぇ出さず、泳がせるっちゅうんが、オヤジの方針なんじゃ。」

 

「え? 会長が?」

 

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その頃、鶴城組が潜伏する呉市内の借アパートの一室の中は、大騒ぎになっていた。

鶴城仁一が暴新会・竹下会長の死を知ってしまったのである。

 

鶴城は、坊主頭をした男…鶴城組若頭の安倍保を右足で踏みつけながら、木刀を用い、何度も殴打した。

 

「こん畜生! 畜生! オドレら、何でそんな大事な事、ワシに黙っとったんなら!」

「言うたら、兄貴が、ムチャする思うて…」

「ムチャとはなんじゃい! コッチはオヤジが殺られとるんじゃ! ムチャくらいするじゃろうが!」

「しかし…」

「しかしも、カカシもあるかい!」

 

そう叫び、鶴城が安倍をいっそう激しく殴打すると、周囲の若衆達が口々に鶴城に懇願した。

 

「やめてつかぁさい! カシラを許してやってつかぁさい!」

「カシラは兄貴んことを心配して…」

「そうじゃ! オヤジが殺られて時期が悪いけぇ、今は堪えてつかぁさい…」

 

鶴城は内ポケットから拳銃を取り出し、天井に向かって撃つ。その乾いた音に若衆たちは押し黙った。

 

「何が時期が悪いじゃ、アホタレがぁ! 待っとったら勝手に時期が良うなるんか! 流れっちゅうんは自分で掴みに行くモンじゃあ!」

 

そう言い、鶴城はドアノブに手をかける。

 

「兄貴! 一体どこへ!」

 

部下の一人、頬に十字傷がある男が訪ねると、鶴城は叫んだ

 

「カチコミじゃ!」

「しかし、大和会の奴らは全員どこかに雲隠れしとるし…」

「ほうじゃったの! じゃったら、シマ捨てて逃げ出したツケを払わしたればいいんじゃい」

「どうやって…」

「あ!? そんなもん、大和会のシマにいる奴らを全員殺して、シマを更地にしたればええんじゃい!」

 

そう言い残し、鶴城は部屋を出た。

しかし、あまりにも無謀な突撃だ。若衆たちが皆、一様に下を向き口を閉ざしていると、殴られて蹲っていた若頭の安倍がヨロヨロとふらつきながらも立ち上がり一同に檄を飛ばした。

 

「オドレら! 何を突っ立っとるんじゃ! 兄貴に続かんかい!」

「しかしカシラ…兄貴はカタギまで殺せ言うとるんじゃ…」

「今さら、殺しが怖いんか?」

「そうじゃのうて…そんなんしたらサツも出てくるけぇ、あまりにも勝ち目がないじゃない。何とかして、兄貴ん事を止めにゃあ… 」

 

「バカタレ、あん人がそう簡単に止まるかい!?」

「カシラじゃって、兄貴を止めようとしとったじゃないですか!」

「ここまで行ったらどうにもならんわい!」

「そら、そうじゃが…」

 

「あのなオドレら…。オドレら、欲しいモンは何でも自分の力でムリヤリにでも掴みとる…そういう兄貴にホレてここにおるんと違うんか! 勝ち目が薄いとか、警察が来るとか…そんなん気にする兄貴が見たいんか…!?」

 

「見とうはないが…」

「じゃったら、カバチタレとらんと、早よう兄貴と一緒に行かんかい!」

 

それを聞くと、若衆たちは一斉に駆け出しアパートから出ていく。安倍は、そんな彼らを見送ると力尽き、バタリと床に倒れこんだ。

 

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土曜日、休日の真っ昼間。呉市繁華街にて、鶴城組による殺戮が始まった。左手に拳銃、右手に木刀というスタイルの鶴城を先頭に一行は繁華街を突き進む。

 

八百屋や魚屋の店主に飲食店のウエイトレス。若いカップルや休日を楽しむ親子連れ。その場にいた人たちは何の区別もなく襲われ、殴られるだけで済んだ者もいれば、拳銃による一撃で命を落とした者もいる。人々の生殺与奪権は正に、鶴城組の面々の気まぐれにかかっていた。

本人たちはカチコミのつもりだが、やっていることは、もはやテロである。

 

多くの人が、鶴城たちが向かってくる方向に背を向けて逃げようとするところ、人波の中を逆行してくる3人組の姿がある。

それぞれ色ちがいのジャケットを身にまとった男2人、女1人。警察戦隊パトレンジャーの3人である。

 

目の前に立ち塞がった3人を前に鶴城は

「何モンじゃ、オドレら!」

と怒鳴った。

 

「鶴城組だな?」

圭一郎が尋ねるが、鶴城は

「聞いとるんはコッチの方じゃい!」

と反抗的な態度を示して、答えはわからない。

 

だが、何にせよ、このガラの悪い集団がここで大量無差別殺人を行っていることは間違いない。

3人はVSチェンジャーにトリガーマシンを取り付けると、天高くかざし発砲。

 

「「警察チェンジ!」」

そこから放たれた光が3人の身体を包み、その中から3人の戦士が姿を現した。

 

「パトレン1号!」

「パトレン2号!」

「パトレン3号!」

「「警察戦隊パトレンジャー!!」」

「国際警察の権限において、実力を行使する!」

 

「国際警察ッ!」

鶴城組の若衆たちは普段相手にしている県警4課より遥かに上のエリート部隊の登場に動揺している様だったが、組長の鶴城はそんな事を気にしたりしない。

 

ポケットから薬包を取り出して中身をバラまき、戦闘員・チンピランを大量に生み出した。

 

「行けぇぃ!」

 

鶴城が号令をかけると、半改造人間である8人の組員たちは、それぞれの改造箇所を変形させ、無数のチンピランと共にパトレンジャーに襲いかかった。

 

普通なら多勢に無勢、というところだが、ここでパトレンジャーが見せた戦闘技術は実に見事であった。

3人それぞれパトメガボーという特殊警棒型アイテムで敵の攻撃を捌き、また、隙を見つけては打撃を加えて、少しずつ、それでも確実に敵の数を減らしていく。

 

その間、鶴城組のリーダーたる鶴城仁一は地べたに胡座をかいて、戦闘の様子を見つめていた。部下たちを先に戦わせパトレンジャーの実力を見極めようとしたのである。

 

気にくわないな、と鶴城は思った。

パトレンジャーの無駄のない動きが癪に障ったのだ。

 

裏社会育ちの鶴城にとって力とは、ガムシャラに暴れ回り、それが為に何度も返り討ちにされ、殴られ、蹴られ、半殺しにされて、それでも立ち上がる。そうした代償を払って手に入れるモノだった。

道場や警察学校でキチンとした指導者に師事して学んだ武道など、鶴城からすれば邪道なのである。

 

組員が全員倒され、無数に繰り出したチンピランも少なくなってきた頃、鶴城は唸り声をあげながら改造人間態に変身した。

戦国時代の武者を象った改造人間、ヨロイロイドである。

 

ヨロイロイドは丁度、最後のチンピランを倒し終えたパトレン2号に駆け寄ると、構えた太刀を袈裟に大振りして切りつけた。

 

攻撃が直撃した2号は

「ぐぁぁ!」

と大声をあげ倒れる。

 

ヨロイロイドが見せた大振りは1対1を想定した武道の訓練にはない動きだ。多人数乱戦の中で相手の隙を狙い、一撃で仕留めようとするストリートファイト出身者特有の戦闘術である。

 

「咲也!」

 

滅多に受けないレベルの大ダメージを受けてノタ打つ2号のフォローに入ろうと3号が駆け寄ってくるが、ヨロイロイドは咄嗟の動きでできた隙を見逃さない。

3号の顔面に蹴りを入れると、続けざまに太刀を振り上げた。3号は後転するようなカタチでうまく攻撃をかわしたので、太刀は空を切り、アスファルトを砕く。

 

危なかった、と安心しかけた3号だが、ヨロイロイドはすぐさま切っ先を返して再び攻撃を仕掛けてくる。

 

今度こそやられる…!

3号は身構えたが、その時、パトレン1号が放った銃弾がヨロイロイドの手もとを直撃した。

ヨロイロイドが怯んだ隙に2号、3号は立ち上がり、1号の傍らに集結した。

 

「どうしましょう、アイツ滅茶苦茶強いですよ!」

2号が不安そうに言うが1号は落ち着いた声でそれを制した。

 

「大丈夫だ。あんな大振りはそう何回も当たらない」

「そうですかぁ?」

「基礎的な事だぞ。訓練を思い出せ。剣を使う時、ああいう攻撃の仕方をしていいと習ったか?」

 

2号は何か気づいた様に肩を動かす。

 

「あ…! いいえ!」

「何でだ?」

「動きが読みやすくかわされ易いし、攻撃の前後に隙ができるから…!」

「その通り。だが、ヤツはそれを敢えてやっている」

「どうして?」

 

「武道の戦い方と違い必ずしも1対1を想定していないというのもあるだろうが…攻撃力を見せつけて相手を恐れさせる狙いもあるんだろうな。」

「それでコッチの判断能力を鈍らせようと…何て卑怯なんだ!」

 

それ自体が卑怯かどうかはわからないが…という意味で1号は首を傾げるが、深くは突っ込まず

「ヤクザや愚連隊の類いはよくああいう戦い方をするな」

と前置きして言った。

 

「コッチは3人だが、難しく考えず、1対1で戦っていると考えよう。そうすれば必ず勝てる!」

 

1号の掛け声と共に3人は行動を開始した。

1号と3号はパトメガボーを使いヨロイロイドに攻撃を仕掛けた。

 

2人は反撃に警戒しながら間合いを計り慎重に攻撃を当てていく。だが、それ故に決定打になるような攻撃は入れられない。それでも、2人は辛抱強く攻撃を続けた。

 

そこへ更に、パトレン2号が銃撃を行う。

狙撃の名手である彼は弾が味方に当たらない様に注意を払いながら、格闘によって隙ができた箇所に一発一発確実に銃弾を打ち込んで行った。

 

3人の攻撃により体力を奪われて行ったヨロイロイドは徐々に動きを鈍らせて行き、遂に地面に膝をついた。

 

その様子を見た1号は

「グッドストライカー! 来い!」

と叫び小型飛行機の様なトリガーを呼び出す。

 

グッドストライカーが

「簡単に呼んでくれるなよ、全く!」

と不満をたれつつ1号のVSチェンジャーにセットされると、3人のパトレンジャーは合体してパトレンU号に姿を変える。

 

「イチゲキストライク!」

U号のVSチェンジャーから発射された光弾はヨロイロイドに命中して大爆発をおこした。

 

爆発により四散したかと思われたヨロイロイドだが、そうはならなかった。爆煙が一通りおさまると、気絶して仰向けに寝転がった人間態の鶴城仁一が姿を現した。

 

「すごい頑丈なヤツだな…」

とパトレン3号が感心したように呟く。

 

「ま、生きてるならそれに越したことはない。キチンと罪を償ってもらおう」

 

1号はそう言い、鶴城に手錠をかけた。

「容疑者、確保!」

 

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広島県呉市。駅前。国際警察の朝加圭一郎、明神つかさ、陽川咲也に対して、県警4課の松永刑事が頭を下げた。

 

「この度は皆さん、ありがとうございました。まだ抗争自体は終わっとりませんが、組織の上のモンすら手に負えん鶴城を逮捕できたんはデカい。これで、コン街の治安も少しはマシになるじゃろう」

 

暴新会の呉市進出を機に始まった抗争事件捜査の為、広島県にやってきた国際警察・警察戦隊パトレンジャーの3人は鶴城仁一の逮捕から一晩明けて、東京へ帰還することが決まった。

 

最も盛んに破壊活動を行っていた暴新会系鶴城組が壊滅し、抗争の沈静化が予測されたこと。また、それを受けて実際、警察とマスコミ各社に暴新会と大和会からそれぞれ抗争終結に向けた交渉を始めるとの旨の文書が届いていた事が理由である。

 

「本当なら、抗争が終結するまで見守りたいのですが…」

 

圭一郎が申し訳なさそうに下を向くと、松永はやや大袈裟に首を横に振った。

 

「いやいや、国際警察はお忙しいからのう。元々、暴新会の件はワシらのヤマじゃけぇ、後はまかしてつかぁさい」

「結局、たくさんの犠牲者を出してしまったし、お役に立てたかどうか…」

「なぁに、あなた方が来とらんかったら、被害はもっと増えとりました」

 

そんな風に話していると、そこへ近づいてくる人影がある。黒い髪を長く伸ばしたスタイルの良い女性。鶴城組による爆破事件の被害にあったキャバクラ店、アムールの女性キャスト、ユリナこと吉原空である。

 

「君は…アムールの!」

 

彼女の姿に最初に気がついた明神つかさが声をかけると、空は挨拶もせずに

「鶴城仁一は、逮捕されたんですか?」

と下を向きながらブツブツと言った。

 

「ああ…そうだが…」

つかさは彼女がそれを直接聞きに来た理由がわからず、やや不思議そうに答えた。

 

「あなた達、何てことしてくれるんですか!?」

「えっ…?」

 

身内が犯罪被害に遭った彼女に対して、自分達に感謝しろ、とはとても言えないが、それでも結果として事件は解決している訳で、つかさには、空がそういう風に言う理由がわからない。

絶句してしまったつかさに、空は憎しみのこもった眼差しを向けながら言った。

 

「アイツは…私が殺したかったのに…!」

「いや…気持ちはわかるが…」

「わかるモノですか! 警察なんかに、私の気持ちが! 私たちの流儀が! 鶴城仁一は、絶対に私がこの手で殺さなくてはならなかったのに!」

 

「感情的になるなと言うのはムリかもしれないが…ヤツは…キチンと定められた法の裁きを受けるんだ。それ以上は…。」

「どれだけ懲らしめても、他人がやっているのでは意味がありませんわ。私自身がケジメをつけなくてはいけないんです。」

 

「でも、それは…」

「だから、私、皆さんにお願いがあって来たんです。」

「一体、何を…?」

「鶴城仁一の居場所を教えて下さい」

 

「そんな事、知ってどうするつもりなんだ?」

「私、鶴城を殺しに行きます。」

 

つかさは、再び絶句し、一時彼女と行動を共にしていた咲也に、助けて欲しい、という意思を込めた目線を送った。

 

しかし、咲也は目を逸らしてつかさの方を見ようとしない。咲也は空の警察に対する不信を知っている。だからこそ、彼女の言葉に反論も説得もできなかった。

 

空は叫んだ。

「いいから、早く、ヤツの居場所を教えて下さいよ!」

 

何が彼女を過激な行動へ突き動かすのか。事情がわからないつかさは戸惑い、ある程度の事情を知っている咲也は意気消沈して相変わらず下を向いている。

 

そんな中、圭一郎が空の前に進み出てきた。

 

「それは、できない。規則ですから」

「規則?」

「ええ。裁判を受けて罪に応じた罰を受ける…もっと言えば、犯した罪以上の罰は受けない。鶴城がいくらヒドイ奴でも、人である以上、そういう権利があります。」

 

「鶴城は極道ですよ!? 権利なんかない…! 好き勝手振る舞う代わりに、ヘタを打ったら、拷問されて、殺される…。リスクを背負って悪事を働くのが極道ですわ! 鶴城にだって、その覚悟くらいあるでしょう!」

「確かに、彼らの理屈ではそうなのだろう…」

 

若い女性なのに妙にヤクザ事情に詳しいな、と違和感を感じながらも圭一郎は続けた。

 

「でも、鶴城がどうであれ、あなたを罪人にする訳にはいかない。だから、私刑に加担することはできません」

「どうしても?」

「ええ。市民の皆さんにそれをさせない為に、我々がいます」

 

空はネジが外れた様に笑った。

まぁ、警察ならそう言うだろう。自分は何を期待していたのか。そういう自分への嘲笑だった。

 

「全く、話になりませんわ」

そう言って踵を返す空を圭一郎は

「待ってくれ!」

と呼び止めて言った。

 

「もし、あなたがあくまで鶴城に復讐するつもりなら…我々はあなたの敵になるでしょう」

「望むところですわ」

 

空は微笑を浮かべ、再び背を向けた。

 

「彼女、大丈夫ですかね?」

去っていく空の背中を見つめながら咲也が言った。つかさが頷く。

「何か、妙なことを言っていたな。流儀がどうとか…。気になるな…」

 

圭一郎は真っ直ぐ前を見ながら言った。

「心残りだが仕方がないな。でも彼女とは、またどこかで会える気がする」

 




捜査4課という名称は、現在ないみたいですが、あえて出しました。昭和感を出したかった。
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