Monster Maker ResurrectionRPG FAN SS- Monster Makers' Conflict Side Stories-   作:Tale=Reaper

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 英雄譚、もしくは武勇伝、あるいは冒険譚。それを書いた奴、もしくは主人公は恵まれている。
 あたしに言わせれば、そうだ。それがどんな境遇であっても「ネームド」として、
「名のある人間」として認められているから。
 あたし「アルボア」なんかと違って。

(2026/01/20 加筆修正)


出会い20周年個人的記念SS:ある闘士の独白(執筆&公開2021-08-29)(修正済)

---ノベル「モンスターメーカークロニクル リザレクション」の前と最中と後のお話です---

 

 最初の記憶は、貧しい農村だった。時代がいつかなんて分からないし、どうでもいい。

そこでは子供は「労働力」だった。権利なんて何もない、ただ働かされてメシをもらうだけ。

 のたれ死にしたり事故で死んだりしても、悲しむ奴は誰もいない。

 

 どのような村にも、昔話や伝説が好きな老人は一人二人いる。その老人の語る「おとぎ話」、本で語られる「英雄譚」、

闇を討ち光が勝利する「伝説」。あたしみたいな名も無いただのヒューマンのガキは、それをただ眺め聞いているだけの存在だ。

 運が悪いと、そいつらの話を盛り上げる犠牲者にされたり、悪の勢力の悪事の被害者にされたり

魔術師の実験動物、あるいは生贄にされたりもする。それが、「名も無い死すべき種族」の、この世界における運命だと、現実だと、

あたしは早いうちに思い知った。

 どうでもいい生を終えて、雑に転生して、またどうでもいい生を送る。その繰り返しだ。

ダークエルフのお姫様に飼われたり、奇妙なペットとの出会いもあったりしたけれど、結末は変わらない。

その頃の、あたしは、まだ希望というものがあったかもしれない。一応、村のために努力して働いたり、助けになる手伝いをしたりはしていた記憶がある。

 もっとも、それらの努力が実を結ぶことはなかった。酷い時には裏切りこそが、あたしの終わりだった。

 最終的にあたしが希望を捨て去って神々や光に背を向けたのは、当然の帰結だった。誰にも文句は言わせない。文句を言いたいのは、あたしのほうだ。

 

 最大の転機だったのは、あの忌まわしい『モンスターメーカー戦争』の最中だった。後に『滅亡戦争』と名付けられ禁忌とされる戦争が起きたのと同じ時代に、

あたしは友人の商人カオニュを助けるべく彼女の反乱に加わった。その時代に故郷があるベング高原を納めていた領主は酷いヤツだった。もっとも、

ベング高原に領主として赴任してきた貴族にマトモなのはいなかったけど、そいつは特に酷かった。高い税に音を上げた遊牧民の反乱は頻発していた。あたしたちが加わったのは遅すぎるくらいだ。

 結末を言うと、反乱は失敗した。領主が戦乱の最中に亡くなり、その息子が跡を継いだんだけど、そいつが優柔不断でバカ過ぎた。

当時、どういうわけか あたしの部族の長は『トリカゴ』の司令官の一人と婚姻をしていた。『冥婚』とか言っていたんで、結構前からの関係らしいけど

そのために『トリカゴ』の艦隊丸ごと一つが仲裁に入ってくれた。

 この同時期、世界が滅びるかもしれない最後の戦いが刻一刻と迫っていた。そんなわけで、領主も反乱側も争いの継続をしている場合じゃなくなった。

ところが、仲裁ありきとはいえ停戦を持ち掛けたのは領主の側だったのに、新しい領主は契約を破り捨てた。その時捕まっていた あたしは、領主側で戦っていた師匠に首を刎ねられた。

 

 後で聞いた話では、仲裁を反故にされて激怒した『トリカゴ』の司令官が領主を”館ごと真っ二つ”にしてしまい、この争いは終わったらしい。

まぁ、あのバカ息子は『トリカゴ』も迎撃するつもりだったらしいから、遅かれ早かれ、こうなっていただろう。ベング丸ごと宇宙から来たエイリアンどもに接収されたのは想像に難くない。

 

 最悪の形で最悪の戦争中に処刑された後も、あたしは幾度も転生を繰り返した。

 冬の時代も含め、色々な世界に転生して、ろくでもない死に方の連続の末に、冬の時代の先の時代に転生した。その時代に、あたしは闇の軍団のモンタズナ様に雇われることになった。

 どういうわけか、あたしはネームドになっていた。あたしはモンタズナ様の誘いに、二つ返事でOKした。

 モンタズナ様はリザレクションの時代、まだネームドが有名な奴も含めてまばらな時代な間に、一人でも多くのネームドを引き入れようとしていた。

魔術師でない、あたしでさえも『ネームドだから』という理由で掻き集める対象に選ばれたわけだ。もっとも、出会ってすぐに筋肉を褒めてくれたから、理由はそれだけじゃないことも察した。

闇の軍団は金払いが良かったから、文句はなかった。金さえあれば、少なくとも飢えたりしない。正義や光が、あたしのようなものを救ってくれないことも理解していたから、躊躇もなかった。

 いくら祈っても、踏みにじられ奪われてきた。だから、あたしが奪う側に回っても文句は言わせない。それに、いつかは今の生活を抜ける事もできる気がした。それがいつになるかは分からないけど。

 闇の軍団は思ったよりも、あたし向けの組織だ。あたしの鍛え上げた筋肉と体格は、それだけで威嚇になる。そして荒事になれば鍛えた力を存分に発揮できる。悪くなかった。

もう踏みにじられる側にいるのは御免だったし、踏みにじる側の気持ちも理解できた。やつらは、あたしたちを踏みつけるときに、こういう光景を目にしていたんだと、闇の軍団の活動で知ることもできた。

 綺麗事ばかりの光の勢力なんて信用できない。あの連中が考えるのは大局ばかり、かつてのあたしのような『名も無き民』は、救済の対象に入れるのがいたとしても、よほど運がいいやつ限定だ。

もう頼らない。あたしはあたしの手で、あたしのやり方で生きてやる。

 

 あたしを雇ったモンタズナ様---闇の勢力の一派閥を率いる男も、鍛えられた筋肉を持っていた。あたしの筋肉を褒めてくれた点から、その想い入れかなりマジだえおう。でも、彼は一応は魔術師・・・らしい。

一応魔術を使うから魔術師だろう、目の前で見せられたし。そしてゴーレムも作るし、グラナールという悪魔使いをはじめとした多くの魔術師や闇の神官を彼は配下に引き入れていた。

 魔道士による世界の支配、それがモンタズナ様の最終目標だとグラナールから聞いている。まぁ、あたしにはどうでもいい。支配される側にいるのは慣れてる。野望が成就しても大して変わりはしないだろう。

 ただ、「筋肉を育てる」魔術師は彼くらいだろう。確かにその点では「最強の魔術師」と言える。魔力を育てる事に集中している魔術師の中で魔術抜きの殴り合いで勝てる魔術師はいないだろう。

あの、ガンダウルフでさえも。「それが魔術師の戦い方なのか?」と聞かれでもしない限りは。

 あたしは、うまくやっているつもりだった。非魔術師の、あたしにできることは限られている。それでも一応はネームドになったんだから、切り捨てられることはないだろうと思っていた。

でも、あたしは油断のツケを割と早く払わされる羽目になった。港町エルセアの拠点で悪魔使いの魔術師「グラナール」と組まされた任務の時のことだ。

初対面でも思ったけど、グラナールは見るからに卑しげな奴だった。強そうな奴には媚びへつらい、弱そうな奴は卑下する・・・あたしが見てきた中では珍しくも無い男だ。

 光の勢力の奴はこういうのを軽蔑するだろうけど、それは現実を知らず理想の中で生きているからだ。これが当たり前の現実で、あたしは今まで生きてきた。

領主が威張り散らすのも、貴族が平民を搾取するのも、大人が子供を働かせるのも、あたしの生きた世界ではごく自然だった。名も無い存在、力無い存在が

『消費』されることで、この世界は成り立っている。

 まぁ、グラナールがどんな奴だろうと、あたしの任務に邪魔でなければ問題ない。金のために色んな連中とこれまで組んできたこともあった。すごく嫌な奴もいた。

グラナールもそいつらと同じ、どうせ契約でつながった仲だ。任務が終われば、『モンタズナ様の配下』という以外の関係は解消される。

それにグラナールは、あたしを女でなく盾として見てくれている分、あたしは安心できた。あたしはもう、女として見られる気はないけど、変なことをされるのも困る。

 話を戻そう。何が起きたかというと、まずグラナールの提案で、あたしたちは二人のネームドを仲間にした。

 際どい衣装の戦士ミリエーヌと、あの「闇の三姉妹」長女のイフィーヌだ。特にイフィーヌは目覚めてまだ間が無いらしく、力もそれほどじゃなかった。

酒場で暴れようとしていたから取り押さえた。手を掴んだ時に殴られる覚悟はしていたけど、あたしの腹筋はノーダメージだ。

 あたしは思った。これは、チャンスなのじゃないかと。今の生活を抜けて「名も無い存在」からも抜け出すことができるんじゃないかと。

うまくいけば、闇の三姉妹に代わる新たな戦士としてモンタズナ様へ、あるいは別の闇の派閥へ売り込むこともできるかもしれない。伝説や英雄譚のネームドに仲間入りできるかもしれない。

 あたしは、そんな甘い考えを、思わず浮かべた。

 もちろん、甘かった。グラナールは最初から、手柄の独り占めを狙っていた。あたしはただの捨て駒でしかなかった。

 ミリエーヌは途中で抜けたけれど、イフィーヌという戦力が手元にある時点で、あたしのことは「用済み」だったんだ。

 グラナールは、あたしを悪魔の生贄にすると言い出した。イフィーヌが手を伸ばしかけたのを見て、あたしは悲鳴を上げて逃げ出した。

 悪魔の生贄になる事ほどロクな終わり方はないことを、あたしはこれまでの転生人生で知っていた。頭でなく体が記憶していた。

 雨の音で二人の会話はよく聞こえなかったけど、「裏切者」とグラナールが言っていたのは聞こえた。もう闇の軍団にも戻れないかもしれない、それでも恐怖が勝った。

 

 イフィーヌに追いつかれた。

 散々、あたしにコケにされた仕返しとばかりに、その拳が腹にめり込んだ。

 あたしは腹筋が大きく凹まされるのを見ながら、嘔吐して気を失った。

 魔王は無慈悲で残酷で残虐だった。

 あたしは恐怖の悲鳴を上げながら死んだ。けど、それで終わりじゃない。悪魔の生贄は、ここからが本番なんだ。

 死んでも魂は捕らえられたまま、魔王の拠点へ連れて行かれた、他の魂たちと同じく。

 そこで、あたしは悪魔たちの「食料」にされた。「食料」と言っても食べられて消えるわけじゃない。でもむしろ、そっちの方がマシだろう。

 ひたすら責められ苛まれて感情を引き出されるのだから。悪魔たちは負の感情を、特に「恐怖」を好んでいた。

あたしは、地獄に落ちて責め苦を受けた時と同等か、それ以上の感情を引き出された。

 魂が解放されることは、無いことは無い。目の前で別の魂が放り出されたことはあった。けれど、その魂は完全に擦り切れて、感情も出し尽くして何も反応しなくなった魂だ。

そして、放り出された先には魔物がいて、魂を美味そうに食っていた。そして、すっかりカスになった魂は、どこかへ持ち出された。

 あたしも、ああなるのだろう。

 むしろ、早くああなった方が幸せだろう。

 ここには苦痛と絶望しかなかった。

 かといって現世も変わらない。

 そして誰もあたしを記憶すらしないだろう。

 ただ、名も無い女が失敗して悪魔に捧げられただけ。

 あたしを示す一文があっても、名前は決して残らない。

 イフィーヌの冒険譚が世に出たとしても、あたしの名前はたぶん残らない。

 その他大勢として消費されるだけの魂だったと、あたしは全てをあきらめた。

 しばらくして、あたしは急に何かに掴まれて、そこからつまみ出された。

 床に投げ出されて、あたしは食われた。すでに裂かれた腹筋からこぼれた中身が貪られても、何も感じないし考えられない。そこから先は、考えることすらやめたから覚えていない。

 記おくすらもくわれたのか、だんだん、おぼえてることも、すくな・・・・・

 気が付いた時、あたしは転生していた。場所は、どこかの奴隷商の檻の中だった。あたしは鎖で鉄球につながれていた。

 この世界、『ウルフレンド』の転生は、いくつかパターンがあった。文字通りの「生まれ変わり」パターンの他に、

前世の記憶が今生きてる奴、同じ種族で性別を問わず、名前や容姿が似た誰かに流れ込む傍迷惑な「転生」パターンもあるのだ。

 「異世界転生者」の場合は種族の垣根を超えることもあった。

 そういうわけだから、傍迷惑な「転生」パターンだと、体の持ち主の記憶もある。ろくでもない、珍しくないありふれた、当たり前の生い立ち。

消費されるだけの人間の身だ。

 たぶん、あたしを戦力としてか労働力として必要とする奴は、程なくして来るだろう。いつの時代もそういう「消耗品」は欠かせないから。

オークとの戦いの前線行きか、真っ暗な坑道か、それとも闘技場での見世物か・・・。

 そう思っていたのに、あたしの運命は急に変わった。

「ジャドドリヅベラギダ(やっと、見つけました)!」

 あまり聞いたことのない言葉が、檻の外から聞こえた。確か、どこかの誰かが言っていた言語だった気がする。

 声のしたほうを見ると、男がそこに立っていた。檻のすぐ外だった・・・はずだ。

「私と、結婚を前提に付き合ってください」

 言いながらそいつは檻の中に入ってきて三つ指をついて頭を下げた。鉄格子の外を見ると、奴隷商のオヤジとその用心棒が慌てている。

確か『カッコウ』とかいう名前の有名な奴隷商人だったと思い出す。ついでに、隣の用心棒は反抗的なあたしを幾度も殴る蹴るしてくれてた。

 でも、連中の慌てぶりは異様だ。入ってきたそいつの服装からして、上客であることは間違いないだろうけど・・・。

「ど、どうしよう、カッコウの旦那。

 オレ、こいつのこと何度か殴っちまって・・・。」

「だ、大丈夫だ、事情を話して誠心誠意謝れば許してくださる御方だ。」

 ヤバイ奴らしいけど、一定の人格者ではあるようだ。

 そして、檻のカギは外れていない。しっかり施錠されていた。つまりこいつは、鉄格子の中へ、どうやってかドアを開けずに入り込んだんだ。

もう、この時点で目の前のコイツが人外のナニカだと、あたしは悟った。

「・・・? 

お忘れですか、アルボアさん、私です私、ホエイ、イセ、です、よ。」

 明らかにしゃべり慣れていない共通語と、そいつの顔を見て思い出した。

 こいつは空の上から来た勢力「トリカゴ」のエイリアンどもの司令官の一人、『ガマグチヨタカ』だ。

 確か『ホエイ』とかいう、乳製品みたいな本名だったな。

 あたしのいた部族の長と冥婚していたとかで、反乱以外にも色々と協力してくれてた実力者だった。

(男運が無さすぎてグレてた長を立ち直らせてくれたとかで、重鎮たちが感謝してたような気もする。)

 ・・・いや、その前にこいつ今なんて言ってた?

 なんか「結婚してくれ」とか聞こえた気がするけど?

「ここでは話しにくいでしょう、出して差し上げますね。」

 ホエイがそう言っている間に、奴隷商のオヤジがは大慌てでカギを外しにかかっていた。なおホエイの右手は鉄格子にかかっている。

「勘弁してくださいよ、中佐殿~!

 その檻高いんですから、壊さないでください!

 あと、勝手に入らないで!」

 さすがにカッコウのオヤジも抗議した。

「失礼、つい感情が先走ってしまって・・・。」

 きちんとホエイは謝った。なるほど、人格者としての評価は合っているみたいだ。

 ・・・そういや、こいつ相当上の階級のヤツじゃねーか。今の階級は知らねーけど。

 

 こうして、あたしは自由の身になった・・・のは、いいのだけど・・・。

 この司令官、ホエイとかいう奴は、確か悪魔たちと付き合いがあった記憶がある。どういうわけかグラナールよりも親しげに会話していたし。

悪魔のほうも、一応は冥婚の妻のうちの姫さんへ、友人の奥さんに対するかのような態度をしていたし。

 ・・・ともかく、また生贄にされるのは御免だ。今のうちにクギでも刺しておこう。

「一応言っておく、あたしはデーモンロードの生贄にされたんだ。もう生贄にされるのは、御免だぜ?」

 ホエイは、さらりと答えた。

「ええ、おかげで大変でした。

 あの魔術師、よりによってあの御方にあなたを捧げるとか・・・。」

 『あの御方』と来たか。やっぱりこいつは、悪魔とかなり親しい方だ。それも同胞のレベルで。

「ご安心を、私があなたの身柄の所有権を褒美として下賜していただいたのです。

 恐れ多いお願いだとは思っていたのですが、通りまして・・・。」

 なるほど、それで割と早く、あたしは再びこの世界に戻ることができたわけか。

 でも、それで安心材料が増えるかというと、そうでもない。もっと確実な、コイツをどうにかできる材料が欲しい。『飽きて捨てる』とか、されないように。

 あたしは考えつつ、相手を見て、そして思いついた。確かこいつは魔術師だったはずだ、それもかなり高位の。

 だから、たぶん『アレ』があるはずだ。魔術師だったらどんな奴でも、そのルールに従っているとモンタズナ様から聞いていた。

「ホエイ、あたしに信用してもらいたいならさ、あんたのスペルネームを教えろよ。」

 まぁ無理だろうと、ダメ元だけど言ってみた。モンタズナ様や長老から聞いている、『スペルネーム』は魔術師の『真名』真名だと。

文字通りの生殺与奪を握ることができる。

 あたりまえだけど、グラナールは教えてすらくれなかった。アイツの場合は、あたしを最初からデーモンロードの生贄にするつもりかつ

護衛兼任の肉盾のつもりで連れてきていたわけだから、自分の生殺与奪権を与えてくれるはずもないけど。

 だから、せいぜい「いつか教える」程度の口約束を期待していた。ついでにその時の態度で本気度を見定めるつもりだった。

「いいですよ」

 そいつはにっこり笑うと、そう言って。

「xxxxxxxxxx」

 自分より背が高いあたしの耳元で、背伸びしながら囁いた。理解不能な言語だった。どういう意味かは理解できなかったけど、

こいつが言った言葉の内容は理解できた。

 コイツは頭がおかしいと本気で思った。

「本物ですよ、身内を除けば我が王たちにしか明かしていない、私の『真名』です。」

 あたしはさすがに、もう疑うなんてことはできない。こいつは本気だと、認めざるを得ない。文字通りの命を捧げられたも同然なんだから。

それに『スペルネーム』を聞いた以上、あたしが死ぬ以外でコイツがあたしを手放すこともしないだろう。

 ただ・・・救いなのは、少なくともこいつは信用はできる奴だという事だ。あの男嫌いの長老姫が、コイツにだけは心を許していたのを覚えている。

「で、これからどうします?」

 相変わらずの、たどたどしい共通語でホエイから聞かれた。あたしは、思わず黙った。言っている意味が分からない。

 あたしを買ったんだから、ご主人様はコイツのほうだろう。こいつの本拠地なりに連れて行かれるものと思っていたんだけど・・・?

あ、でも、あたしは『スペルネーム』を聞いちまったし・・・?

「・・・あの、私、あまりこのあたりに、詳しく、ないので・・・」

 うん、ますます分からない。どこの世界に、奴隷にこれからの行先を含んで身を委ねる主人がいるのだろう。まぁ、『スペルネーム』を奴隷にあっさり教える時点で

常識的に、もうあり得ないわけだけど。

 かと言って、今のあたしにもアテなんてない。エルセアに戻ってまたグラナールと組むのは御免だ。故郷のベングに帰ろうにも、あたしの部族はもういない。

荒れ果てた土地と砂漠、それに寒村があるくらいだ。(これは、モンタズナ様に調べてもらったから知っている事だけど。)

 それに、あたしが死んだ後で、どういうわけかあたしの部族は全滅したそうだ。

 ・・・そういえば、と、あたしは視界にいる司令官に聞いてみた。少なくともこいつが滅ぼしたとは考えにくい。あの長が部外者で男なのに身を預けるほどべったりだったし。

それでも、情報くらいは知っているだろう。

「あたしの部族、全滅したって知ってるか?」

 さりげなく聞いてみた。すると、ホエイは申し訳なさそうに言った

「はい、私の、尽力が、足りないばかりに・・・。」

 どうやら、戦闘でもあったらしい。『トリカゴ』も無敵というわけじゃないようだ。

「あの裏切り者どもは、本拠地の、島と、運命を、共にしていただきましたので、我々の命を、狙ってくることは、無いでしょう。」

 そして、こう付け加えた。・・・なるほど。つまり、あたしが討つべき仇敵も、この世にいないわけだ。

 『島と運命を共にしてもらった』というのは、聞かないでおく。少なくとも今は、まだその時じゃない。

*

*

*

 目の前で歩き始めた彼女を見て安心した。精神的なダメージは思ったより無い様子だ。記憶の著しい欠落のおかげだろう。

 確かにあの魔術師が彼女をあの御方の生贄にしてくれたことは、不幸中の不幸だった。心の底から感謝し畏敬し崇拝している、あの偉大な『至高の悪魔天使』に勝てる存在など

崇拝されるレベルのトップクラスのネームドしかいない。そもそも自分があの御方に---何より素晴らしい美しい存在に刃を向けるなど、考えることもできない。

 けれど、幸運はあった。手柄を立ててあの御方に喜んでもらった上で、褒美として所望するという方法があった。自分は、あの御方の配下なのだから、まっとうなやり方だ。

 そしてその考えは、うまくいった。もう、あの魔術師に渡したりなどしない。彼女は冥婚の相手の妻すら許した、自分の大事な「番(つがい)」なのだから。

 第一、人間たちの「悪魔を利用する」という考えが以前から気に食わなかった。悪魔は人間の道具などではない。魔界という異世界に生きる別種の生命体であり、

高い知能を持つ者や高度な魔術を使う者もいる、知性ある存在なのだから。

 自分や仲間たちと異なり、あの人間の魔術師は悪魔と深い付き合いはしていないだろう。それも、契約や利用とは違う本当の意味での「付き合い」の話だ。

自分たちのように、悪魔たちや魔界を救うための戦いに身を投じたことも無ければ、魔界をも壊そうとする存在に立ち向かったことも無いだろうし、そうなっても

真っ先に逃げ出す図しか頭に浮かばない。

 長く会っていない悪魔を含む同胞たちを思い浮かべて、そう言えば、と思い出す。この前、久しぶりに総司令官と通信を交わした。近いうち、再びこの惑星に侵攻を開始するという話だった。

ただこの地に根付くためだけに居座り勢に加わったわけではない、『橋頭保の確保と維持』という重要な仕事もある。

 彼女らには、どこかの勢力を推薦する必要が出るだろう。協力者の有無は戦局を左右する重要要素だ。もっとも、その時は今ではないし時間もある。情報を得ながら考える事は可能だった。

 もしかしたら、その時が来るよりもアルボアさんの寿命が尽きる方が先かもしれない。そうなったら彼女の転生先を追いかける必要性が生じる。

 『死』がきっかけで手放すくらいなら、短命種と知った上で正妻に迎えようなどという覚悟はしていない。

 だが、公私混同は司令官として避けるべきだろう。部下か子供たちか弟子にでも任せるべきか?

 いやそれこそ無責任だろう、ルールにも抵触しかねないし、それこそ公私混同の極みだ。これは、自分だけが可能な任務でもあるのだから。

「何を考えてるんだ?」

 思考が顔に出てしまったのか彼女が聞いてきた

「今度、総司令にどこの勢力を紹介しようかと考えてまして。」

 どうせバレるだろうし、バレたところで壊滅的な撤退戦からすでに回復した『トリカゴ』と魔界軍に、破滅から立ち直りかけのこの世界は何もできはしないだろう。

だから言っても問題はない。そう思って本当のことを言ったら・・・

 絶句された。

「あのな、さすがに世界全部を向こうに回してまで、あんたと付き合い気はないぜ!?」

「誤解です、攻め込む先の話では、ないです、我々の協力者として、です。」

 あわてて言葉を足した。そのあたりは、誤解のないようにしておきたい。現地の協力者を無下にするほど自分たちはバカではないのだから。地上支配を円滑に行うためにも協力者は必要だ。

『モチはモチ屋』という言葉もある。専門家でない者が付け焼刃の知識で専門的な物事を実行する危険性とその例も知らないわけではない。

 アルボアさんの口の面積が大きくなるのが分かった。ヒューマン種の、この表情のパターンは、呆れているのか怒っているのか、どっちなのだったか?

そんな事を考えていると・・・、彼女のほうから話してくれた。

「そんなこと、話していいのか?

 奴隷で傭兵の、このあたしに?」

 もっともな返答が帰ってきた。なるほど確かに、安易に口にすべきことではなかったかもしれない。例えこの惑星に自分たちへの対抗能力が皆無であっても。

 もっとも「ラ」である自分は、あのゲシル星人の調査隊の愚は犯さないが。

「もちろん、あなたの意も汲んでおきますので・・・。」

 一応、安心させるために言ってみた。信頼は最も大事なものだ。それは種族世界を問わず共通の価値観だ。特に契約社会である魔界では貴ばれている。

*

*

*

 ホエイは一応は司令官なだけあって、あたしのような下っ端傭兵にはまずいかない情報を色々知っていた。教えられても困るんだけど。

ていうか、あたし、これが原因で消されたりしねーだろうな?

 とりあえず、あたしは一度エルセアに戻ろうと思って歩を進めることにした。だけど、モンタズナ様のところに戻るためじゃない。グラナールはあの時、あたしを「裏切者」とか言っていた。

モンタズナ様に、そう告げ口していてもおかしくないだろう。だから、ほとぼりが冷めるまで船で渡って、ブルガンディにでも潜んでいようと思う。そして、どうやってやったのか知らないけど、

あたしの荷物も骨もホエイが魔界から回収してくれていた。骨は埋めて欲しかったけど、あのグラナールのような連中の手に渡る可能性もあった。闇の軍団にも『死霊術師(ネクロマンサー)』という

死者をもてあそぶ奴は少なくない数いた。そいつらに、前世とはいえ、あたしが好きにされるのはぞっとした。じゃあ、どうしようか?

 あたしが相談を口に出す前に、ホエイは骨をどこかに転送してくれた。たぶん、こいつの隠れ家か何かにだろう。まぁ、変な連中の手に渡るよりはマシだ。

 他にすることもないから、仕方なく歩き出してしばらくしてホエイを見ると、コイツは歩きながら何やら考えこんでいた。

「何を考えてるんだ?」

 顔を覗き込んで聞いてみる。さすがに、あたしを生贄にする考えは無いだろうけど。

「今度、総司令にどこの勢力を紹介しようかと考えてまして。」

 想像以上にとんでもないことを言い出した。『総司令』というのは、『トリカゴ』を支配する女だ。詳しい事はホエイも知らないようだけど、女性でユニコーン族という事くらいは明らかになっている。

彼女と直接会話するのは、「トリカゴ」の中でも、あまりいないらしい(ホエイは司令官なので対話可能な立場なようだ)けど・・・。

少なくとも、日常会話の類で名前を口に出す人物ではないことは確かだ。ていうか、本当にヤバイ話だと、あたしのアタマでも分かる。

「あのな、さすがに世界全部を向こうに回してまで、あんたと付き合い気はないぜ!?」

 さすがに太いクギを打ち込んでおく。あたしは自分自身でさえ生きるのに精一杯なんだ。この上で世界を敵に回すなんて、まっぴらごめんだ。

「誤解です、攻め込む先の話では、ないです、我々の協力者として、です。」

 追撃を上乗せしてくれた。正直、その答えでもあまり変わらない。・・・こいつには「機密事項」と言う言葉は無いのだろうか?

 そんなわけないし、そんな奴が司令官を務めるようなアホな勢力などいて欲しくない。この世界どころか宇宙をも牛耳ろうという大規模勢力なら、なおさらだ。

「そんなこと、話していいのか?

 奴隷で傭兵の、このあたしに?」

 思わず言った。一応、あたしは奴隷だけど、その契約書はあたしが持ってて、ご主人様のスペルネームまで知っているわけで・・・。

 主従が逆転している事に、今更あたしは気づいた。あり得ない、少なくともこのウルフレンドの常識なら。

「もちろん、あなたの意も汲んでおきますので・・・。」

 ・・・うん、こいつはアレだ。頭がおかしい奴だと思っていたけれど、ここまでとは思わなかった。

 どこの世界に自分の奴隷に世界を左右するような選択させる侵略者の手先がいるというのだろうか?

 それとも、こいつらにとってそれが「常識」なのか?

 そういえば、『大戦』の時もこいつと顔を合わせたことがあったけど、コイツの部下か弟子の補足通訳無しだと理解に困った記憶があった。

 ・・・彼らの苦労が思いやられる。

 あれから1000年以上か、エイリアンの寿命がどのくらいか知らないけれど、生きているなら元気で幸せでいて欲しい。

「あの・・・私、何かおかしいこと言いましたか?」」

「かなりな」

 さすがにズバっと言ってやった

「あう・・・」

 こいつに「常識」を教えることが、転生したての、あたしの最初の仕事になりそうだ。それに、こいつを近くにおいておけば、少なくともあたしは安全だろう。

ゆくゆくは、この生活から抜け出すこともできる足掛かりにもできるかもしれない。

 

 そんなことを考えていたら、何やらイメージが頭に浮かんだ。あたしはまだ希望を光を信じていて、ヒーローたちを尊敬していた純朴な村娘だったころ。

長と一緒に、拾ってきた白い小さな毛玉のような生き物の世話を・・・。

 ・・・いや、まさかな。あの毛玉と目の前のコイツは似ても似つかない。でも、何か共通する情報があったような・・・?

「エルセアに行くぞ」

 とりあえず考えを頭から振り払って、目的地を告げた。

「でしたら『スズメの御宿』がお勧めです。

 あそこは私の仲間たちが運営していますので。」

 あたしはコケた。そこは、あたしたちモンタズナ派が利用している、酒場兼任の宿の一つだ。侵略者どもの拠点とまでは知らなかった。

「あの、今度はどうしました?

 スズメ中尉が何か・・・?」

「・・・いい、宿には行かない。今はモンタズナ様と会うのはまずい。

 ブルガンディに行く。」

 手短に言っておいた。

 この先、あたしとコイツは、長い付き合いになる。これが、あたしたちのリザレクションの時代の出会いだった。

(SS本編に続く)

*

*

*

 魔王たちが堪能した後、残された女の体。饗宴が終わり放置されていたソレは、誰からも見放されていた。しかし、このまま朽ちていくはずのソレは、にわかに動き出した。

「おや、これは・・・。」

 たまたま興味本位で死体を見に来た一人の女悪魔が、それを目撃する。

 女の体の内側から、すさまじい魔力があふれ出す。やがてそれは女の体を分解し吸い尽くし、物質化を始め、一匹の巨大な蛆虫の姿に固定された。

「・・・ここは、どこ?」

 自分の居場所を問うその声が、新たな魔王種の産声だった。

「おめでとう、あなたはこのリザレクションの時代に新しく生まれた、新しい魔王よ。」

 女悪魔は蛆虫を撫でながら祝福した。たとえ相手が魔王種でも遠慮はない。

 なぜなら、彼女に比肩し得る実力者は手の指の数より少ない上に、彼女が傅く対象は父親ただ一人のみだ。ウルフレンドの死すべき種族のみならず、

悪魔たちでさえも彼女を畏怖してこう呼んだ、『魔界の王女(デーモン・プリンセス)』と。

「最初に出会ったのが私だったのは、あなたにとって最大の幸運かしら、それとも不運かしら?」

 王女は蛆虫の頭を両手で挟み、その顔を覗き込む。

「せっかくだから、あなたに名前を付けてあげるわ。『マルツゥ』という名前はいかがかしら?」

 蛆虫は、はっきりと言った。

「素敵な、名前、気に入った。」

 カタコトの共通語---おそらく母体から吸収した知識---で、彼女は呟いた。

「私も、あなたを気に入ったわ、マルツゥ。お父様に言って、あなたを育てる権利を独占するわね。」

 彼女がそうと決めたら、止められる者はいない。王女は蛆虫と共に、饗宴のあった部屋を後にした。

 

(おわり)




<あとがきとか解説とか>

解説:モンタズナ
SS筆者の創作ではありません、公式設定です
繰り返します、公式設定です
イラストでも筋肉ムキムキ半裸男です、この魔術師・・・(汗)

解説:グラナール
公式キャラ
モンスターメーカーノベル「リザレクション」の黒幕にして恐らくGMキャラ
分かりやすい絵に描いたような悪役
おかげでアルボアさんを手にするのに
どれだけ苦労することになったのか
本当に・・・(以下、グロンギ言語による長い愚痴により割愛)

解説:グラナールその2
モンスターメーカーノベル「リザレクション」の筆者の伏見健二先生はクトゥルフ神話関連の書物も
出されています
「ハスタール」「セレファイス」「ロード・トゥ・セレファイス」は私もハマりました///////

解説:カオニュ
名前の由来はフランスの史実「カニュ(絹織物職人)の反乱」から
アルボア(地名)は彼らを支持し「共和国」を宣言しました(史実)

解説:アルボア(地名)
ジュラ山脈に位置する農村でワインの産地として有名
穀物農業と酪農もあり、自然豊かな地域です
極度な寒さの無い冬と酷暑でない温かい夏が特徴

出身有名人にはかの「ルイ・パスツール」がおり、サン・ジュスト教会やグロリエット塔といった歴史的建造物も
特筆すべきはワイン博物館になっている16世紀の建築物である
シャトー・ペコーであってワインが好きな人なら足を運んでも損は無いと
思われ(長い話になるので割愛)
アルボア「・・・(←引いてる)」

解説:スズメの御宿
モチーフは童話「舌切り雀」、大きな葛籠の中にいるのがお化けたち
女将はスズメ(コードネーム)
「トリカゴ」の階級は中尉
旦那は奴隷商のカッコウ(コードネーム)

解説:奴隷商カッコウ
托卵を行う鳥モチーフ
お金にがめつい奴隷商

解説7:トリカゴ
「大戦」時に宇宙から来た侵略勢力
「宇宙商人」登場種族をはじめとした異星人・人外種族で構成されている組織
皮肉にも発達した文明が彼らを呼び寄せてしまいました
文明が滅んだ後も残っていたものの、反撃を食らい大損害を受け「割に合わない」と一時撤退
しかし諦めたわけではありませんでした
大戦から1000年後に活躍して来る同一人物は冷凍睡眠装置を使ったか長寿命かのどちらか
(カッコウたちは前者)

解説:ユニコーン族
モンスターメーカーでは「ハーゲン」が有名な種族
「死すべき種族」でありながら、角目当ての乱獲に遭い一時は絶滅(公式)

破滅を予見して宇宙に脱出した一族も宇宙の戦乱に巻き込まれて壊滅したはずでしたが
難を逃れていた一部が生きていました
ただ、生き延びたのは母体から離れて活動していた「争いや兵器を研究する部門」だったため
その後の宇宙の勢力図は短期間で一変する羽目に・・・
「トリカゴ」の最上位種族は彼らで、「総司令」は彼らの女王であり「トリカゴ」のトップ

解説:『マルツゥ』
新たな魔王(令嬢)
名前の由来はウジの活動で発酵させるイタリアのチーズ「カース・マルツゥ」から(実在するチーズです)

ではまた
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