4月17日、日曜日。
無事退院した僕は、晴天の下、稲羽中央通り商店街を歩いていた。
退院したら改めて転入する事にはなっていたが、まぁ休日な訳で。
堂島さんは見舞いに来ていた時も忙しそうにしていた…何でも、刑事なんだとか。
丁度今は昼…折角の休日、堂島さんの娘さんも、鳴上も外出はしちゃっているだろう。
そう考えて、前はあまり出来なかった商店街探検をしている訳だ。
…うん、やっぱり田舎だなぁ。
休日という事で人も程々に多く歩いているその通りの両脇には、思ったより多くの「閉店した」店が並んでいた。
主婦達の噂話を聞いたが、どうやら「ジュネス」という大型デパートが出来たらしく、そっちへ客を取られていっている様だ。
…豆腐屋さんや染物屋さん、薬屋さんに本屋…。
密集していないのがまた。
新鮮に思いながら1つ1つを見て回る。
…この店は何だろう。武器屋?何でこんな店が…。
ある程度見終えた。
次はどうしようか…。
そう、思った時だった。
…?
何かが光った様な気がした。
周りを見渡す。
「…えっ」
蒼いドアが目の前に出来ていた。
何も無かったはずの場所に。
そして何より、他の人はそれを普通にスルーして歩いて行っている。
…どうやら、見えていないらしい。
…そっと、扉へ手を伸ばす。
取っ手に触れると、それは独りでに開いて…。
何時の間にか、蒼の空間に僕はいた。
目の前には、3人の人物。
正面に座る、長い鼻が印象的な老人。
右手方面に見える、蒼い服に身を包んだ金髪の女性。
老人の隣に座る、蒼い帽子を被った俯いている少女。
「ようこそ、ベルベットルームへ」
老人が閉じていた目を開き、僕を見つめる。
ぎょろりとした目。思ったより高い声。
…正直、怖い。
「ほう…これはこれは、また数奇な定めを持つ御方がいらっしゃいましたな……フフ」
僕の事だろうか。
数奇な定め……まぁ、転校早々交通事故に遭ってるのは数奇と言えるかもしれない。
いや、不幸の間違いか。
「貴方は…?」
「失礼致しました。私の名はイゴール。ここ、夢と現実、精神と物質の狭間にある場所の住人。お初にお目にかかります」
…はい?
夢と現実?
精神と物質の狭間?
…何じゃそりゃ?
「本来ならこの場所は、何らかの形で『契約』を果たされた方のみが訪れる部屋」
ちんぷんかんぷんな言葉に首を傾げている間にも、老人…イゴールさんは話を続ける。
…契約?そんなのしたっけ?
「ふむ…近く、そうした未来が貴方を待ち受けているか、あるいは…」
イゴールさんは少し考えるかの様に顎に手をやった後、とりあえず、と口を開いた。
「お名前を伺ってもよろしいですかな?貴方もまた、このベルベットルームの客人となる人であるかもしれませんからな」
…名前。
相手も名乗ってくれたんだ、こっちも名乗らないと…。
「神薙。神薙、シン」
偉くカッコつけた様な名前だと、我ながら苦笑する。
だけどイゴールさんは、良い名前だ、と頷いた。
「おっと、御紹介が遅れましたな。こちらはマーガレット。同じく、ここの住人でございます」
話を見守っていた女性…マーガレットさんはこちらに顔を向ける。
「マーガレットで御座います。お客様の旅のお供を務めて参ります」
彼女は挨拶をした後、それから、と顔をイゴールの隣の少女へと向ける。
「それと…マリー?」
彼女の名前だろうか。
呼ばれた少女は顔を上げた。
「分かってる。聞こえてる。よろしく」
酷く無愛想な挨拶だけど、問題はそこじゃない。
前に、会った事がある様な……。
え、と少し少女…マリーは驚いた顔をする。どうやら、思わず口に出してしまっていたらしい。
「あぁ、そっか。そう言えば会ったかも。だから見た事あるんだ。ふーん…」
ふーん、て。
いや、どこで出会ったっけ。
事故のせいで軽く記憶も吹っ飛んだのかも知れない。
「こほん。失礼しました、こちら、マリーで御座います。彼女の魂は未だ幼く「うるさい!余計な事言わないでよ」…ご覧の通りで御座います」
咳払いをして続けるマーガレットさんに、やや噛みつく様に割り込むマリー。
まぁ、馬鹿にされてる様に聞こえてるしね…。
「ご無礼があるかも知れませんが、見習いという立場、ご理解頂いてお許しくださればと思います」
「い、いえ。気にして、ませんから」
思わずこちらも丁寧に返してしまう。
まだマシな方だと思うし、これ位なら問題無い。
そこでふと、イゴールさんは顔を上げた。
「おぉ、ついに始まりますな…では、しばしお時間を拝借すると致しましょうか」
首を傾げる。
僕にではなく、別の人に呼び掛けているかの様に彼は呟くと、指をパチンと鳴らした。
すぐ隣に、誰かが現れる。
それを見て、声を上げたのは同時だった。
「え…鳴上!?」
「神薙…!?どうしてここに」
どうやら、鳴上がここへ最初に来た「客人」らしい。
イゴールさんはそれを見て、「実に面白い」と意味有りげに笑っていた。どういう事なんだろうか。
「…次にお目にかかります時は、貴方は自らここを訪れる事になるでしょう…フフ。楽しみでございますな」
あ、何時の間にかだいぶ話が進んでいた。
ペルソナ、だとか合体、だとか全書だとか、カードだとか…よく解らないままではあるのだけれど。
「あの、イゴール。神薙は…」
鳴上が、僕を振り返ってからイゴールさんに質問する。
「彼もまた、数奇な定めをお持ちの様子…貴方に訪れる災難に抗う際、きっとその助けとなりましょう」
え?災難?
何だそれ…?
「フフ、今に解りましょう。貴方もまた、『力』をお持ちなのだから…」
力…?
首を傾げる間に、視界はどんどんぼやけていく。
「ではまた見える時まで。ご機嫌よう…」
視界が、白くなっていく。
「…そうそう。私共には、もっとお気楽に接して頂いて構いません故、ご心配無く」
…心を読まれたらしい。
「…あ」
気付けば、商店街に戻ってきていた。
店を挟んだすぐ隣に、鳴上が立っているのが見える。
そして…自分の後ろには、蒼い扉。
白昼夢、という訳では無さそうだ。
さて、それじゃ…。
「なぁ、鳴上」
色々と、聞かなきゃいけない。
あの部屋の事もそうだけど、今はとにかく。
「災難って、何?君は一体、何をしようとしてるんだ?」
「…」
彼は少し考えるかの様に目を閉じたかと思うと、うん、と頷いた。
「時間、あるかな。歩きながら話そう」
2話、投稿しました。
主人公の名前が初お披露目、「神薙 シン」となります。
そして彼もまた、ベルベットルームの客人と相成りました。
数奇な運命…一体誰のせいなんだ(棒読み
ちなみに、鳴上と神薙は入る場所が別々です。
だいだらを挟んで鳴上が本屋側、神薙が豆腐屋側。
そうでもしないと、ベルベットルームに入る前に気付いてしまいますからね。
今回気付いていなかったのは、目先の事件の事で、花村と里中達の事しか目に入ってなかったからです(やや苦しいかも
初っ端からこんな調子で大丈夫でしょうか。
…何とかなる、うん。
それでは、また見える時まで