魔王がヒモになりまして   作:まりとっつぉ

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ごく潰し2,働きたくないでござる

「働きたくないでござる」

「あん?」

 

 第一声で発せられたその言葉に、メンチ切ってしまった私は悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 数か月前まで、私は世間から「勇者」などと呼ばれその役割を果たすために仲間と共に奔走していた。その役割が何かといえば、世界に猛威を振るう人類の怨敵。魔王を倒す事。奴はある日突然現れ、魔族と魔物を従え私たちを蹂躙した。

 魔の王を打ち倒す聖なる剣に選ばれし者。とかなんとか、自分に天啓と呼ばれる何かが下って身に余る力を手に入れた時は何の冗談かと思ったが。

 

 だというのに激戦を潜り抜け仲間に幹部を任せてたどり着いた先。魔王城最上階で待ち受けていた魔王が「働きたくない」とはこれいかに。「ふざけるなぶち殺すぞ」と聞く耳など貸さず倒してしまおうと思ったが、精神性が思っていたのと違う方向に腐っていようと仮にも魔王。そう簡単に倒されてくれるはずもなく、互いに消耗しきるまで戦うことになった。

 その最中「ちょ、待っ」「いい話だから! 絶対いい話だから!!」「人間楽に生きたいだろ!? 俺も俺も!」とあまりにもうるさいので、話を聞いている間に体力を回復させればいいかと傷だらけの体で一時休戦。これがそもそもの間違いだった気がする。いや、結果だけを考えれば間違いではなかったのだが……個人的には大間違いだ。奴と関わりを持つ第一歩になってしまったからな。

 

「いやぁ。俺って実は派遣魔王なんだよねぇ。この世界結構発展してるじゃん? ちょっとセーブかけないと他とバランス悪くなるから、さくっと適度に滅ぼしてきて! ってオーダーの元にここに居るわけよ。あ、これは俺だけね。勇者ちゃん達が戦ってきた部下たちはこの世界原産だし、本人たち真面目にやってるから。真面目に人間ぶっころ~! って頑張ってたから。ああ、そうそう。クライアントは守秘義務にふれるから、内緒ね~。でもって、いい感じに文明を衰弱させたところでお仕事終了。あとはこの世界の神様が、外敵である俺を追い出そうって生み出した勇者ちゃんに倒されて帰還するのみ! 魔王出現以前争ってた国々も俺という共通敵を得たことで世界の絆も保たれたわけ。だからこの世界的にもハッピーエンド! ……だったんだけどぉ。帰ったらま~た他の世界に派遣されるんだよな。残業時間八千年超えだぜ、八千年。たまったもんじゃねーよ」

 

 べらべらべらべら、こいつは何を言っているんだ?

 理解の範疇を超えているものの、色々なことが台無しになることを言っているのだけは理解した。理解したくなかったけど。

 非常に頭が痛くなったことを覚えている。

 

「そこで俺は考えた。もう帰らなくていいんじゃない? と。ばっくれてこの世界に骨埋めても、いいんじゃないと。働きたくないでござる。寿命は縮まるけどさぁ。長生きしてあくせく働くより、楽しく緩やかな自殺をしたほうがましってもんだぜ~。俺、細く長くよりぶっとく短く生きたい派なのよ」

「…………。それを私に話して、何を求める? お前がどういった事情の上に行動していようと、お前が魔族と魔物を従えて行ってきた破壊と殺戮の事実は消えたりしない。さっさと殺されろ」

 

 これ以上聞いても無駄と判断し再度剣を構えた私に、奴はいとも簡単に絶望を叩きつけた。

 ……私と同じくらい傷つき消耗したかに見えた魔王は、まるで汚れた服を脱ぎ捨てるかのようにそのダメージ全てを消し去ったのである。加護もアイテムも使い果たした瀕死の私を前にして、だ。

 

「あ、まだ戦う? これ以上は君が死んじゃうからやめた方がいいよぉ。俺、この世界用に調整してるだけで本気出してないし。あれよ。勇者ちゃんが倒せるレベルまで落としてたの」

 

 黒くうねる前髪隠れた目元は見えないが、口が三日月の様に割れ、ぎざぎざの歯を覗かせ嗤っていた。

 魔王はその綺麗な身なりでボロボロの私に近づいて、耳元で囁いたのだ。

 

「この世界にこのまま居座るために手っ取り早い方法、世界征服なわけよ」

「!!」

「手っ取り早いっていうか、居座るなら後に引けないっていうか? 地位が出来ちゃってるからさ。部下たちも魔王様~って崇めてくるわけで。だけど俺、上に立ちたいタイプじゃないんだよね~。責任ある立場とか、大っ嫌い。面倒くさいじゃん。でも俺ってさ、自分で言うのもなんだけど笑っちゃうくらい生活力ないの! だから一人でまともに生活できるかっていうと厳しいっていうかぁ~みたいな~」

「だからお前は何が言いたい」

「ん? ああ。ごめんごめん。実はぁ。こういうわけだから、折り入って勇者ちゃんにお願いがあるわけよ」

 

 震える声で問えば、魔王は私の顔を覆っていたフルフェイスの兜を長い爪が生えそろった手で持ち上げた。

 この相手はその爪程度でも今すぐ、容易に私を殺すことができる。そんな者が私に何を求めて、こんな話をしているのだろうか。

 

 歯を食いしばり血走った目で魔王を睨みつけた。

 魔王は私とは対照的に満面の笑顔を作り、そして……。

 

 

 

「勇者ちゃ~ん。世界征服諦めるから、養って♥」

「は???」

 

 

 

 ……まあ、ここに至るわけである。

 

 

 

 馬鹿がよ!!

 

 

 

 

 

 

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