魔王がヒモになりまして   作:まりとっつぉ

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ごく潰し3,魔王と勇者のひも契約

「ああもう。効かないって分かってるのにどうして勇者の剣とか呼んじゃったかな……」

 

 深いため息。

 

 私は鏡の前に立ち濡れた服を着替えつつ、鎖骨のあたりに手を当てた。その場所には黒い契約印が刻まれている。そこに含まれる契約は『私は世界征服を諦めます。その代わりに私を養ってください』だ。

 

 ちなみに私が了承した上で交わされた契約だが、そこに至るまでの流れは純粋に脅しである。了承しなければ制限していた力を解き放ち本気の世界征服をしちゃうぞ、と。

 契約とは言うが、思いっきり呪い。破れば奴にも何かしらリスクはあるようだが、どうあっても契約に関するあらゆる匙加減を奴が握っているため立場は向こうが上。自分の事を「ご主人様」とか言ってるあたり、その事実は明白だ。忌々しい。

 

 私は世界平和を質に、自由を握られているのだ。

 

 幸い非常にわがままではあるものの、奴が私に何かを強制してくることはない。これは相手が元魔王であることを考えれば、びっくりするくらい幸運なことなのだろう。が、だからといって納得できるわけでもない。

 この呪いのせいで私の攻撃は奴にダメージを与えることなく弾かれ無効化されるしな……。今や勇者最大の物理攻撃が「抓る」なのだから情けない。

 

「あ、みっちゃん。そのパンツ新しいやつー? もっと色気あるの買おうよ色気! こう、もっとお尻にきゅっと食い込む感じで……」

「爆ぜろ」

「びゃっ!? あつい!」

 

 おっと、嫌がらせ程度の物理攻撃は他にも手段があったな。

 当然のように私の自室に無遠慮に入り込んでパンツの批評をしてくる馬鹿に、用意していたドワーフ産の花火に火をつけて投げつけた。現在魔王時代より更に力をセーブして人間を装っているヒモ野郎には、この程度でも熱いらしい。それを知ってからは、報復用に常備している。

 体そのものは丈夫なはずなのによくわからん奴だ。

 

「なんで私だったんだ……。はぁ」

 

 こういったやり取りが日常になりつつあるのを情けなく感じ、ため息を吐く。まずい、今日はまだ半分残っているのに十回目だ。

 

 あの男……魔王という立場がある状態でこの世界に居座るのは嫌だ。だけど自分一人では生活力が無いからのんびり気ままに暮らせないと、ありていに言えば私に寄生しやがったのだ。非常に遺憾ながら、現在奴の生活の面倒は全て私がみている。

 生活資金? 全部私が働いて稼いだうえで捻出してる!! 勇者時代にもらった褒賞は店を始める時の資金といざという時のための貯金にまわして消えた!

 魔王城を見る限り宝石だの金銀財宝だの財力はあるんだから、部下から離れて気ままに暮らすならメイドでもなんても雇って人間の金持ち装えばいいだろ!! と切れ散らかしたりもした。が、それは自分が求める暮らしではないと妙なこだわりをみせた。マジでなんだそのこだわり。わからん。

 きゃぴっと内またでポーズを作って「普通の男の子になりたいの♥」とか言いやがった時は苛立ちのあまり実力差など忘れて腹パンしてやったわ。クソがよ。

 せめて魔王城からお宝をぶんどっておけばよかったとは、後になってからの後悔である。奴も何か財産を持ち出せばいいものを、一文無しでくっついてきやがって……。

 

 金銭に関しては頼ろうと思えば頼れる先はいくらでもある。ただ、この現状を正しく理解しているのは私だけ。共に戦った仲間も、支援してくれていた王様たちも知らない。

 話せたらもう少し気は楽だったんだろうけど……私にも私の事情があるからな。

 

「私だって普通の女の子になりたい……」

 

 勇者に選ばれた時、これ絶対面倒くさいやつだと思ったんだ。もし使命を果たせたとしても、元の生活には戻れないだろうって。

 必要な使命だとは思ったし断れる雰囲気でもなかった。だから私は事が終わったらひっそり表舞台から去れるように、仲間の誰にも素顔を見せず勇者をやっていたわけで。魔王に兜を外されるまでマジで誰にも素顔を見られなかった自信がある。

 だから契約後、いい感じに魔王と相打ちになって勇者死にましたみたいな現場を作って魔王城から退散した。形はどうあれ、私の勇者としての戦いは終わったのだと思ったから。

 私の魔王戦最後の必殺技、魔王じゃなくて偽装工作のために魔王城にぶちかます破目になったのは本当に遺憾。今ではぶちかまそうにも契約のせいでさっきみたいに弾かれるし……。

 そういえやさっき店先で勇者の剣呼んじゃったけど大丈夫だったかな。あまりに奴のセクハラ発言がクソ過ぎて、周りに誰も居なかったからついつい呼び寄せてしまった。ここ町の中心部からは外れているし、あの程度ならまあ……大丈夫だろ。

 

 ともかく非常に気に食わないごく潰しのお荷物を抱えることを条件に、世界平和はとりあえず成り立ったらしい。風の噂に聞いたところ、魔王の統率を失った魔王軍はあえなく瓦解したそうだ。

 普段の奴を見ていると疑わしいが、一応統率者として優秀だったようである。

 ……個人的には今後一生あれを抱えて生きていかねばならないので、世界平和につりあわないが。

 

 いや、釣り合うどころか釣り合った上で釣銭がくる、お得な条件だというのは分かっている。私という個人がひも野郎一人養えば世界平和。お得だろう。だが納得できるかと聞かれたら、そんなわけあるか!! と返す。これはもう感情の問題だ。ああもう、イライラする。幼いころからの念願かなって、故郷で自分の店を開いたというのに。

 

 

 鼻息を荒くしながら商品を補充していく。

 現在は私が必殺技ぶちかませるくらい人の気配は無いが、店が混むのは大体早朝か、もしくは夕方から。

 ここを利用する冒険者たちは、朝方から午後にかけてダンジョンにもぐったり少し離れた場所にある魔物の森で狩りをする。その後で町に戻り、宿を求めたり買い物をしたり食事をするのだ。

 普通に町の人間が買い物に来ることもあるけど、中心からはずれた郊外の小さな店をわざわざ地元民が利用することは少ない。並べてある商品も冒険者向けだしな。

 

「あの……」

「はい、いらっしゃいませ!」

 

 っと。そんな風に油断していたら客だ。珍しいな。

 そう思いつつ接客用の笑顔で振り返り……固まった。

 

 

「先ほどこの辺りで、空から剣を呼び寄せた人を見ませんでしたか?」

「さあ、知りませんね」

 

 自業自得だが今日は厄日だ。

 

 

 振り返った先には、数か月前に一方的にさよならをしたかつての仲間が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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