GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
リポート2 竜の魔女リターンズ その7
~美神視点~
恐れていた事が現実になってしまった。ジャンヌ・オルタが突然の激昂、そして横島君を連れて姿を消した。幸いにもジャンヌ・オルタの圧倒的な魔力を追いかけてきたから見失う事はなかったけれど、正直この魔力の残滓は業と残してきているように思える。
「……美神。お前どう思ってる」
「正直に言うと、ジャンヌ・オルタの怒りは判らない訳でもないのよね」
突然だったから動揺もしたが、落ち着いて考えればジャンヌ・オルタの激昂の理由が判らない訳ではなかった。
【お前達は何をしていた、何故横島をこちらに踏み込ませたッ!もう戻れない、何故、お前達は何をしていたッ!!】
私達に向ける怒りと共にジャンヌ・オルタは自分自身にも怒りを覚えていたのが伝わってきていた。
【説得は出来なくも無いと思うが……そう簡単にはいかんぞ?】
ノッブが険しい顔をして私達に言う。それは私達も判っていた、ジャンヌ・オルタがガープの手先だったわけではない……ジャンヌ・オルタが怒ったのはきっと横島君の霊力の中に狂神石の力を感じただからだろう。狂神石の脅威を知るジャンヌ・オルタだからこそ、怒りを爆発させたのだろう。
【ジャンヌ殿は主殿を常に気に掛けておられましたからな。口調は悪いですが、悪い御仁ではなかったと思いますよ】
横島君の家で一緒に過ごしていたからその人となりを理解した牛若丸がジャンヌ・オルタのフォローをする。私達も話し合いの余地があれば、それで済めばいいと思ってる。
「だけど、物事はそんなに簡単じゃないわ」
ジャンヌ・オルタは人型の龍と言っても良い、その気性の激しさ、そして己の守りたい者に執着するのはある意味龍の特性と言っても良いだろう。
「今のジャンヌに話し合いの余地がありますかね?」
「……多分、無いわね」
博物館の天井をぶち抜いて上がった火柱を見て私も蛍ちゃんもシズクもノッブ達も目が死んでいた。駄目だこれって一目で判る最悪の行動だった。そして更に最悪は重なった……背後から聞こえてきたくえすの声に振り返ると完全に目のハイライトがOFFになっているくえすがいた。
「なるほど、横島をさらった挙句、この挑発行動。殺しても良いですわよね?」
殺意しかない、くえすの瞳孔が完全に開いている。一目で判る駄目なやつだ……そらそうだ、あれだけ魔力を撒き散らして行動しているんだ。くえすが気付かない訳がない。しかしだ、くえすとジャンヌ・オルタの正面衝突とか地獄絵図でしかない。お互いに炎の専門家……博物館に展示されている貴重な霊具などが消し飛ぶ光景が脳裏を過ぎる。
「ちょっと待ちなさいくえす。小竜姫様達が来るまでは突入は駄目よ」
博物館に突入しようとするくえすの肩を掴んで止めようとしたが、その肩に触れた瞬間……私はくえすの肩から手を放していた。凄まじい熱と魔力に驚いたからだ。元々神魔で考えれば中級クラスと言われていたくえすの魔力が上級にまで上がっているのを触れただけで私は感じ取った。
「私は行きますわよ。あいつを消し飛ばして横島を助ける。簡単な話ですから、小竜姫など関係ありません」
この傍若無人っぷりはくえすって感じだ。だけど相手は近接戦闘のエキスパート、魔法タイプのくえすの勝算はかなり低い筈だ。
「ハッ、私が切り札も無しに動くと思いますか? 余計なお世話ですわよ」
自信に満ちた表情を見ればくえすが何かジャンヌ・オルタに対する鬼札を持っているのは判った。
「……慢心するな、相手は英霊だ」
「神魔でありながら英霊相手に何も出来ず横島を攫われたお前に言われることなんて何もありませんわ」
シズクの忠告にも喧嘩腰だ。刺々しい態度と何も見ていない瞳――横島君に出会う前のくえすに完全に戻っている。
(実際此処まで追詰められていたってことか)
くえすが想像以上に追詰められていた、そしてジャンヌ・オルタの魔力とこの場にいない横島君の姿を見て完全に切れていると私は悟った。
「大体、私はあの英霊を元々信じていません。それなのに横島と一緒にいることを許した貴女達にも問題があるのですわ、あんな危険な英
霊は即刻排除するべきだったのです」
「それは違うんじゃないくえす。ジャンヌ・オルタが怒ったのは横島の中に狂神石の魔力を見たからだわ、つまり私達に怒っているのよ。ジャンヌ・オルタにこの行動をさせたのはくえすも含めて私達全員だわ」
くえすの排除しろと言う言葉を聞いて蛍ちゃんが前に出て、くえすの肩を強引に掴んで止めた。くえすが振り解こうとするが、蛍ちゃんはその肩を離さず、きっぱりとした口調でジャンヌ・オルタが悪いのではなく、私達が悪いのだと告げたのだった……。
~蛍視点~
くえすの気持ちは判らない訳でもなかった。それにジャンヌ・オルタの行動も決して許される事ではない。だが、盲目にジャンヌ・オルタだけが悪いというくえすをそのままにする事なんて出来る訳がなかった。
「蛍はあの贋作の味方ですか」
「ふざけないで、誰にも贋作なんて言う権利はないわ」
「ジャンヌダルクの偽物を贋作と呼んで何が悪いのですか?」
「そう、その傲慢な考え反吐が出るわ。横島がいないと猫を被ることもできないのかしら?」
殺気に満ちた目で私を睨むくえすを睨み返す。私とジャンヌ・オルタは似ている……だから私はどうしてもジャンヌ・オルタに肩入れしてしまう。それがこの場合悪手だったとしてもだ……ジャンヌ・オルタのフォローをすると言う事はその行動を認めた事になる。
「私は何もしてませんわよ、それとも私を敵としますか?」
「そうね。くえすは何もして無い。いえ、私達は何か1つでも出来た?見ているだけ、私達の知らないことで動いている事に巻き込まれてるそれだけじゃないかしら?」
私の言葉にくえすが眉をひそめた。くえすは確かに今は何もしていない、だけど逆に言うと私達に出来たことがどれだけあると言うのだ。
「今までの事殆ど横島が何とかしてきたわね。私達は確かに霊能者としては横島より上だけど、私達が明確に出来た事って何か1つでもあった?」
今まで色んな事件があった。だけどその中でどれか1つでも横島が関係しないで解決できた事件は1つもない。全部横島が中心になるか、それとも横島の行動によって何かの糸口をつかめた。
「何が言いたいんですの?」
「だから私達は何も出来なかった。それだけよ、何も出来なくて横島が狂神石を投与された。それは私達全員の責任で、不甲斐無い私達にも、何も出来なかった自分自身にもジャンヌ・オルタは怒ってるのよ」
止める機会はあっただろうし、横島があそこまで力をつける前に私達がもっと力をつけていればもっと結果は異なっていた。だけどそれが出来ないから、横島はあそこまで進んでしまった。それは全て私達の力の無さが原因だ。
「それで、それと横島を攫う事に何の関係があるんですの?」
「戦いから遠ざければ少なくとも狂神石の影響は出ないわ。ジャンヌ・オルタはこれ以上横島の魂が狂神石に浸食されないように、力を求めないようにしようとした……私はそう解釈しましたけど、小竜姫様達はどう思いますか?」
私の問いかけにやってきたばかりの小竜姫様、メドーサさん、そしてブリュンヒルデさんは小さく頷いた。
「完全にその通りだと言う訳には行きませんが、蛍さんの予測はかなり正しいかと……狂神石はアスラの神通力の一種。それを固形物にしたものですから戦いから遠ざければその効果は薄まる可能性はあります」
アスラ――インド神話の悪神の名前だ。確かガープの決起の再にインドの神々を襲撃して回っていたと聞いている。しかし完全な武闘派の魔神から狂神石なんてものが作り出されているとは夢にも思っていなかった。
「成分が判ったってことですか?」
今まで狂神石と言う名前、そしてその性質だけが一人歩きしていたけど、その性質の大本が判れば解毒薬みたいな物の開発もいずれ可能になるだろう。
「まぁ少しだけだね。ほかにも色々混じってるけど、大本はそれってことさ。闘争本能の固まりみたいな癖しておいて、絡め手も出来るって言う規格外の神の1人だよ、デタント反対側のね」
操られている訳ではなく自発的に協力している相手と言うのは厄介だけど、これは大きな一歩と言える。しかし、それは今の横島には関係の無い話だ。その証拠にくえすが苛立ちを隠しもせずに小竜姫様を睨みつけた。
「それで?横島を救出せずにそのままにしておくと?」
「いえ、そう言う訳ではありませんし……ただ匿ってしまう、隠してしまうというのは神魔側でも提案されていたことの1つです」
戦いの中で狂神石が活性化するという性質があるのならば、憎悪も戦いも望まない環境に半分軟禁してしまえば良い、それも1つの解決策の1つではある。勿論それに納得できるかどうかと言われると別問題になる訳だけど……。
「解決策だとしても最善ではないって事ね」
「ええ、横島さんの気質を考えれば100%反発されますし、何よりもラプラスがそれを止めてます。しかし、今はそれはおいておきましょう、どうして横島さんを攫ったのか……彼女に真意を尋ねてみる事にしましょうか」
博物館の扉が吹き飛び、凄まじい魔力を放つジャンヌ・オルタが竜の魔女の旗、そして漆黒の剣を腰に携えてゆっくりと姿を現す。凄まじい怒気を放ってはいるが、殺気や邪気はまるで感じられないその姿に敵意を持って私達の前に立ち塞がっている訳ではないと私は悟るのだった……。
~小竜姫視点~
旗をゆっくりと振るい、黄金に輝く瞳で私達を見つめるジャンヌ・オルタの姿に私は眉をひそめた。竜の魔女と言う2つ名、そしてその信仰、伝承によって彼女は竜の属性を帯びている。
【神魔……ふーん、でもまぁ。邪魔よね、あんた達】
私とメドーサを見つめたジャンヌ・オルタが旗の石突を地面に叩きつける。その瞬間に凄まじい重石を付けられたように、私とメドーサ、そしてシズクさんが膝をついた。
【へえ?抵抗出来るのね、でもまぁその有様じゃ戦えないわよね。そこで大人しく見てなさい】
何が起きているのか判らない。術や何かではない……これは「龍」である私達に左右する何かだ。
「ちょっ!?シズクッ!?小竜姫様もメドーサもどうしたの!?」
この場の最大戦力である私達が行動不能になった事に美神さんの驚いた声が響くが、私達には返事を返す余力も無かった。倒れないように踏ん張っているのがやっとだった。
「……わ、わかりま……せん」
「か、身体が……お、重い……」
「……う、動けない……んだ」
【私は竜の魔女、そうあれと、こうあるだろうと考えられた女。英霊は人の想いの影響を受ける、竜を従える者であると私は定義されている。だから龍であれば私には勝てない、抗えない。理解したかしら?】
竜の魔女――その2つ名は伊達でも偽りでも無く龍を操る物。最悪の展開――私達が操られるという展開を避けることは出来ましたが、ジャンヌ・オルタと戦うのにブリュンヒルデさんだけになってしまった。
「どうしてこんな事をしたのかだけ聞いてもいいかしら?」
闘争心を露にするジャンヌ・オルタを前にして神通棍を手にして美神さんが問いかける。返答はないと思っていたのだが、ジャンヌ・オルタはその問いかけに返事を返した。
【私は復讐者のサーヴァント、忘れる事は許されないわ。これは呪いでもあり、祝福でもある。だから私には判る横島には「復讐者」のクラス適正が与えられている。そこの2人も判っていることだと思うけれど】
横島さんに復讐者の英霊としての格が与えられている、その信じられない言葉にノッブさんと牛若丸は沈黙で返事を返した。その沈黙がジャンヌ・オルタの言葉が真実であるという事を雄弁に語っていた。
【現代で英霊になる者は少ない。だが横島はそれを与えられた……世界に目を付けられている。意図的に、横島を中心に事件を起させ、それを解決させその魂の格を上げようとしている。私はそれを認めない、横島を世界の操り人形にはさせない】
宇宙意志――英霊であるが故にジャンヌ・オルタはそれを感じ取り、そして横島さんの中にある狂神石の繋がりと悪と言う側面で世界に召抱えられているジャンヌ・オルタだけがそれを感じ取ってしまった。
「それは貴女の思い込みではありませんこと?それとも横島を独占する為の狂言では?」
【悪いけど、あんた達相手なら嘘も騙しもするけど、横島にだけは私は誠実よ。嘘はつかない、騙さない、私はそう心に決めている。だからこそ、私はお前達を許さない。あのお人よしの馬鹿が好きこのんでこちら側に足を踏み込む訳が無い、それをさせた者を、世界を、私は憎み破壊する】
旗を振り回しながらジャンヌ・オルタの闘志が増していく、周囲を覆う黒い炎もまたその勢いを増させて逃げ道を断つ。
【だから私はもう横島を戦わせない、安心しなさい。殺しはしないわ、だけど横島を戦わせないと言うまでは痛めつける。私を倒せないようでは、また横島だけに負担を掛ける。あいつ1人に全てを押し付けるのならば、こんな世界は壊れてしまえ】
恨み、憎悪はある。だがそれは決して殺意ではない。世界と言う大きな歯車に横島さんが組み込まれようとしているのを必死に阻止しようとするジャンヌ・オルタ本人の献身とも取れる感情を感じた。
「はっ、亡霊風情がよくも生者にそこまで執着できますわね。見苦しいことこの上ないですわ」
「くえす、悪いけどあんまりジャンヌ・オルタを挑発するのはやめてくれるかしら?彼女は彼女なりに横島君の事を考えてくれてるのよ」
その方法は決して褒められた物ではない、だが横島さんを思っていると言うことだけは嘘ではない。
「つまり貴女を倒せるだけの実力があればいいってことでしょ?」
【さぁ?どうかしら?まぁ少なくともこの女は潰す】
「やってみろ、この亡霊」
ジャンヌ・オルタと神宮寺さんの笑い声が博物館の前に響く、口元は笑っているのに目元が全く笑っていないのが恐ろしい。
「小竜姫様、巻き込まれるので」
「す、すみません」
私は蛍さんに安全圏まで引き摺られて移動したのですが、シズクさんとメドーサはブリュンヒルデさんに酷い運ばれ方をしていた。
「……もう少し丁寧に運べ」
「文句言うな、私なんか、襟元掴まれて引きずられてるんだぞ」
俵抱きにされているシズクさんと引き摺られているメドーサには哀愁さえある。
「【殺すッ!!】」
私達が安全圏に離脱するかどうかと言うタイミングで凄まじい爆発が起こり、私達は博物館の前にアスファルトの上を凄まじい勢いで転がる嵌めになるのだった……。
~ルイ視点~
爆風に吹き飛ばされ転がる小竜姫達を見て私は声を抑えきれず、思わず大声で笑い声を上げた。
「ああ、面白い。こんな喜劇があるとは最高だね、ルキフグス。お疲れ様」
「楽しんでいただけた用で何よりです」
ルキフグスは優雅に一礼したが、その後ろに控えているベルゼブルは不満そうだ。
「どうかしたかな?そんなにショックだったかな?」
「……ご存知だったのですか?」
「勿論だよ、会った時から知っている」
横島に復讐者の適正があるのは初見の時から気付いている。あの優しさは時に呪いとなり憎悪になる。
「君は横島の光に引かれた。だが強い光は闇にもなる、それを知らない訳ではないだろう?」
「……失礼します」
ベルゼブルは一礼し、逃げるようにその場を後にした。少し悪戯が過ぎたかな、魂の運行に関わるだけに英霊の座に囚われた人間の末路を知るからこそ、受け入れたくなかったという所かな。
「ルキフグス、2人分お茶を用意してくれ、客人が来る」
「おや、客人とは私のことですかな?」
フードで口元以外を隠している怪人の姿に私はにやりと笑い、座るように促す。
「君なら来ると思っていたよ、さ、座ってお茶を飲みながらあの戦いを楽しもうじゃないか」
「趣味が悪いですね、まぁお付き合いしますがね」
ルキフグスが用意した茶と茶菓子を楽しみ、横島を守ろうとするする黒き魔女に視線を向ける。
「純粋だ、純粋ゆえに彼女は視野が狭い」
「だがその純粋さは貴女の好むものでしょう?」
「ああ、その通りだよ。だからこそ、この戦いがどう終わるのか楽しみだ」
意地と意地のぶつかり合い。これは身体の限界を超えても、精神が折れない限りは決して終わることはない。これが終わるとすれば横島が動き出したときだろう。
「囚われの王子様がどう動くか楽しみだよ」
「やれやれ、本当に趣味が悪い」
肩を竦めるローブの男――フォーティスの言葉に笑みを浮かべる。
「自分が消え去る瞬間まですべては娯楽であるべきだよ」
にやりと笑うとフォーティスは肩を竦めて無言で紅茶を口にした。私はそんなフォーティスにまだまだ傍観者としては甘いと思いながら美神達とジャンヌ・オルタの戦いに視線を向けるのだった……。
リポート2 竜の魔女リターンズ その8へ続く
戦闘開始まで行きたかったですが、ちょっとずれました。戦闘は次回の頭から書き始めようと思います、ルイ様とフォーティスが見ている中ジャンヌ・オルタとの戦いがどうなっていくのかを楽しみにしていてください。