GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
リポート16 月からのSOS その3
~シズク視点~
六道の管理する霊地……迷いの竹林の前に立った私は深い溜息と共に振り返った。
「……余計な事をするから面倒な事になるんだぞ」
月からのSOSを受けたから話し合いに行くとは聞いた段階で嫌な予感がしていたが、その予感が的中した事に頭痛を覚える。
「まさか乱入してくるとは思ってなかったのよ」
「……あいつらは無駄に技術だけはある。今度はもう少し気をつけるんだな」
月神族は愚かと傲慢の象徴みたいな所はあるが、優秀という事実だけは認めなければならない点だ。
「チビちゃん、横島さんの所にいけますか?」
「……みむう……」
「ぴぎい」
チビ達なら横島を探せるかもしれないと思っていたようだが、横島の気配は感じてもその正確な場所までは分からないようでチビ達が不満そうな鳴声をあげる。
「案内人がいないと永遠亭には辿り着けないのですわね?蛍」
「ええ。ただ今回は多分、妹紅は案内してくれないと思うのよね」
「……何を馬鹿な事を言ってる。もう迎えは来てるぞ?純粋な迎えとは言えないがな」
どうやって永遠亭に向かうかと話し合っている蛍とくえすに向かってそう言うと同時に周囲に水の刃を展開する。
「流石水神で龍神ですね。私に気付きましたか」
「……それだけ殺気を放っていれば馬鹿でも気付く、月神族だな?」
「元ですよ、私はもう月神族は名乗っていません。薬師の八意永琳です、龍神」
長い髪を三つ編みにし、左右で色を分けた独特な服を着た女が弓を引き絞りながら姿を現した。口調こそ穏やかだがその目には敵意と警戒の色が浮かんでおり、この距離に近づくまで私に存在を気付かせなかった。薬師を名乗っているが、その実力は小竜姫クラスか、もっと上かもしれないと警戒心を強めながらも水の刃を消す。
「……シズクだ」
「ご丁寧にどうも、貴女は武器を下ろしてくれましたが……私は出来ませんがよろしいですか?」
「……好きにしろ。私は別にこいつらの味方と言う訳じゃない、私は横島の味方だからな」
同行こそしているが事と次第によっては蛍達ではなく永琳に付く事だってやぶさかではない。私は横島の味方であり、美神達の仲間ではないのだから。
「永琳さん……」
「お久しぶりですね、蛍。さてと……事情を聞きたいですが、永遠亭に招くつもりはありません」
敵意を隠そうともせず、むしろ強めながら柔らかく微笑むという器用な真似をする永琳は弓矢を下ろし、そのかわりに自身の周りに霊力と神通力を固めた無数の光弾を作り出した。
「一応布くらいは持って来てますから、そこに座って話をしましょうか?」
そう笑って布を広げて座る永琳を見て、私はチビとうりぼーとモグラを抱え、広げられた布の真ん中あたりに腰を下ろした。
「……それは貴女の意思表示という事で良いのですか?」
私の座った位置を見たくえすがそう尋ねてくる。私の座った位置は蛍達と永琳達の丁度中間地点……言うまでも無くそれは私の意思表示である。
「……ああ、私はどちらにも組しないし、賛同もしない。私も永琳と同じで詳しく話を聞きたいと思っているからな」
横島が転移でどこかに行ったと聞いたのと一瞬横島の気配に狂神石の力が混じったのを感じたから何があったのか蛍達に聞く為と、横島を連れて帰るか、それとも永琳達に組するのが横島にとって良い事なのか、それを判断する為だけに私はこの場に同行している。
「シズクさん、もしかして状況次第では」
「……ああ、状況次第では私、いや私だけじゃない清姫達も敵に回すという事を良く理解した上で話をするが良い」
横島が望む、望まないではないのだ。今の人間界の情勢、そして神魔の情勢……そして横島が狂神石の力を何故望んだのか?永遠亭に転移することを横島が望んだ理由の全てを加味した上で私はこれからの事を考えようと思っている。
「……言っておくがこれは私の独断ではない、横島の家にいる者すべての総意だ。嘘偽りのない話を聞かせてもらいたい」
今まで築いてきた関係を全てぶち壊す事になったとしても横島を優先する。それは横島の家に住む者の総意であり、これからも美神達は信じるに値するのか……それを見極める為に私はここにいると蛍達に向かって告げるのだった……。
~くえす視点~
異様な緊張感の中私は永琳の敷いたシートの上に腰を降ろした。蛍とおキヌは動揺しているしているようですが、私はいつかこうなると分かっていた。
(いつかはこうなると分かっていましたしね)
横島の周りにいる神魔は高位の者ばかりだ。特にシズクなんて本気を出せば東京を沈めることなんて簡単にやるだろうし、清姫だって日本を火の海にする事だって容易く行えるだけの力を持っている。対等なんてとんでもない、横島がいるから力を貸してくれているという事を美神達は正しく理解していなかったと言わざるを得ない。
(紫達の事があって方針を切り替えたと見て良いですわね)
妙神山も異界ではあるが人間に開かれた場所であるし、明確な場所も分かっているので横島を隠す場所としては相応しくない。天界と魔界ではいつ過激派が襲撃してくるか分からない、人間界なんて現状論外の極みだ。シズク達は極めて強力な神魔ではあるが、長時間継続可能な異界を作る程の能力はない。元々が攻撃に全振りしているのだ、いかに上級、最上級に匹敵する神魔でも向き・不向きがあるのだ。だからこそ横島の家を異界として守りを固めていたようですが……紫、アリス、天魔、天竜姫と次世代の神魔が作り出した異界を見てシズク達は次の段階に進む事を決めたのだ。
「では何故横島が永遠亭に来たのか?その理由は月神族と分かっていますが……月神族はなんと言っていたのです?」
「……我々は地球の民と神魔を許す準備があると言って来ました」
永琳はその言葉に眉を顰め、険しい表情をした後に鼻で笑った。
「相変わらず傲慢で愚かですね。長い時間が経っても月神族はまるで変わりませんね」
愚かと書いて月神族と辞書に書くべきだと辛辣な事を言う永琳は鋭い視線を私に向けた。
「人を許すなんて事をしない月神族がそんな事を言い出した……何か大きな事があったんですね?」
「ええ。ガープとアスモデウスが月に特大の魔力砲を作り地球を狙っています。神魔としては月神族が滅びようが存続しようがどうでも良いようですが……魔力砲はさすがに見過ごせませんからね」
月の魔力を用いた魔力砲……それが齎す被害は凄まじく甚大だ。地球滅亡だけではなく、地球環境の激変まで考えられる。
「人間が過ごせないほどの気温の変化に、海面の水位の上昇、魔獣や妖怪の誕生、人間の人外への転生……いくらでも影響はありますね」
軽い口調で月の魔力によって発生するであろう被害を口にする永琳に私達は驚いた。
「何を驚く事があります?私は薬師ですが、工学も得意なんですよ?」
なるほど……薬師というだけではなく、ドクターカオスのような神通力や魔力を用いた機器を作ることも出来る天才と言う事ですか……。
「永遠亭も?」
「ええ、私の研究成果の結晶という所ですね。横島が怒った理由も分かりますよ、私でもその場に居れば怒鳴り散らして居たでしょうしね」
月神族の言動が横島の怒りを買い、そして横島が永遠亭に来ると理由になったと分かり永琳は初めて柔らかく笑った。
「横島は文珠を使って平安時代の戦いを見せました。それを見た現在の迦具夜は土下座をして謝罪し、平安時代から今まで生きていた宰相を連れ出しましたわ、確か……依姫と言う若い月神族が連行してましたわ」
依姫と言うと永琳は驚いた表情を浮かべた。その表情は自分の知人の名前を聞いた時の反応のように見えた……。
「もしかして知り合いですか?」
「月に残してきた私の弟子の1人ですわ……」
依姫の名前を聞いた永琳は顎の下に手をおいて、少し考え込む素振りを見せた。
「貴女達個人ではなく、人間として聞きます。月の問題に対してどう動くつもりですか?」
永琳の問いかけに蛍は琉璃から預かってきた書状を取り出した。
「私達のトップの考えを書いて貰ってきました。目を通してください」
「少し時間をいただきますね、検討したい事もありますし」
蛍から書状を受け取った永琳は手紙を取り出し、それに目を通し始める。
「……なるほど。シズクさん、もう少し人間を見極めてみましょうか?」
「……良いのか?」
「ええ。神魔としての対応も納得の行くものですし、少々詰が甘いですが……良いでしょう。私の方から更に月神族を締め上げる契約書を準備します」
最悪は回避できた……と安心する事は出来ないが、現状は何とか取り繕う事が出来たと思って良いようですね。
「永遠亭にご案内しますわ、そこで話を更に煮詰める事にしましょうか」
「分かりました。月神族の悪辣さに関しては永琳さんの方が詳しいでしょうし、よろしくお願いします」
月神族との契約はモニター越しで直接書状を交わしたわけではない。勿論私も月に乗り込んだ後に魔法を使った契約で縛り付けるつもりだったが……それに永琳も手を加えてくれるならこれほどありがたい事はない。
(……くえすは良いと思う?)
(元々魔法契約をするつもりでしたから、私は永琳の考えに賛成ですが、何か問題でも?)
(いや、私達だけで決めて良いのかなあって?)
何を馬鹿を言っているのかと思わず肩を竦めた。美神と琉璃と西条が私達に任せた意味を蛍はまだ理解していない、助手としての考えが強すぎるのだ。
(任せたという事は決定権は私達にありますわ。自分の考えを放棄するのは馬鹿のすることですわよ)
美神と琉璃に指示を仰ぎたいというのは自分の思考を放棄している事と同意義だ。
「これから先を考えるなら、自分の責任で行動する事をお勧めしますわ」
もういつ誰が死んでもおかしくない、そしていつ冤罪を押し付けられて投獄されるか分からないのだ。甘えは捨てろと蛍とおキヌに警告し、私は永遠亭に向かって案内してくれている永琳とその隣のシズクに並んだ。
「……やはりお前が1番現実を見てるな、くえす」
「珍しいですわね、貴女が私に声を掛けてくるなんて」
「……そういう時もある。蛍達を横島は信用しているが、蛍達は甘すぎる。考えも、思考も、思想も、そんなのではいつかは横島を危険に晒す」
「でしょうね、もう独立出来るだけの力はあるのに美神の所にいるのが問題なのでは?」
もうとっくに独立するだけの力はあるのにいつまでも美神に甘えている……横島と一緒が良いと言うのは分かるが、別に独立したって私のように横島の側にいることは出来るのだ。それでも美神の側に居るのは蛍の甘えに他ならないと私は思っている。
「……私も同じ考えだ。やはりお前は良い」
「あら、私を花嫁として認めてくれるのですか?」
「……それも吝かではないとだけ言っておこうか、む、横島が見えたぞ」
「みむう!」
「ぴーぎいッ!!」
まさか花嫁と認めても良いと言われるほどにシズクに認められていると思っていなかった私はシズクの横島が見えるという言葉に一歩踏み出して思わず笑ってしまった。
「いつも通りで良かったですわ」
妹紅と輝夜と共に兎に囲まれている横島からは狂神石の気配は感じず、普段の横島の姿に安堵し、シズクの頭の上から飛び出したチビとうりぼーが横島の元へ向かい甘えている姿を見て思わず笑みを浮かべたが、すぐに気を引き締める。まだ何も始まっていないのだ、月に向かう為に、そして横島の様子を確認する為に永遠亭に向かって歩き出したが、蛍とおキヌはまだ私達に追いついてきていないのだった……。
~セーレ視点~
竜神王とオーディンに呼び出された僕に告げられたのは少々信じられない命令だった。勿論信じれないと思ったのは僕だけではなく、司令部に集められていた秘書官や他の神魔混成部隊の隊員も同じだった。
「人間を月に送り届けろねぇ……別に出来ない事はないけど……正気かい?」
人間を態々月に送り込んだ所で戦力になんてならないだろうと遠回しにいいつつ、その命令の撤回を望んだのだが僕の望む言葉が発せられる事は無く、もう1度同じ命令が下された。
「ではこれより人間界に向かい小竜姫達と合流してくれ、セーレ」
当たり前のように小竜姫と合流しろと竜神王に言われて僕は頬を掻いた。
「良いのかい?オーディン。僕は一応魔界所属なんだけど」
「セーレ」
「はいはーい」
「人間界へ向かい、小竜姫とメドーサ、ブリュンヒルデと共に月へ向かえ」
……全く同じ命令に僕は溜息を吐いて敬礼した。
「拝命しました。ではすぐに人間界へ向かいます」
「頼んだぞ、セーレ。我々の中で安全に月に向かえるのはお前だけだ」
司令部を出る僕の背中に向かって言葉を投げかけてくるオーディンに返事を返す変わりに手を振って神魔混成軍の基地を出た所で、服の中に隠し持っていた装置のボタンを入れて必死に隠していた笑みを浮かべた。
「ガープ、アスモデウス。オーディンと竜神王から人間界に向かえって命令が出たよ」
『今までご苦労だったセーレ』
結界の中に響くガープの声に僕は安堵の笑みを浮かべた。嫌味っぽくて僕が嫌がることしかしないけど、今この瞬間だけはガープの声に安堵した。
「君の声を聞いて安堵することがあるんだね」
『ふっ、長い重責が終わったからだろう?だがあともう1頑張りだ、上手く美神達を月へ連れて来てくれ。あいつらの命令通りにな』
「オーケー。あ、ワインとチーズ、それと肉も忘れないでよ?」
『分かっている。ちゃんと用意しておくさ』
「頼んだよ、アスモデウス」
下げたくもない頭を下げて来たのは全てこの時の為だ。高位の神魔でもおいそれと手を出せない場所に人間界に甚大な被害を与える兵器を設置する。そうなれば神魔混成軍は人間界と地球を守る為に動かざるを得ない、そしてそれが月になれば、そこに人間を運ばなければならない、となれば……その命令が出るのは僕以外あり得ない。
「ちゃんと命令は達成するよ。僕は真面目だからね、ちゃんと仕事はするさ。最後だからね」
神魔混成軍のセーレとしての最後の仕事だ。しっかりとやり遂げるさと笑って僕は人間界へと転移する。
「さぁ、始まるよ」
滅びは今この時から始まる……その引き金の1つを僕が担える。この偽りの平和を、それを維持しようとする最高指導者達を出し抜いて、世界をぶっ壊してやる。それを僕が担えるのだ……これほど愉快な事はない、今まで我慢してきた甲斐があったのだと僕は笑うのだった……。
リポート16 月からのSOS その4へ続く
次回は永遠亭での話、そして東京での話を書いて月へ向かっていこうと思います。これもかなりの長編になる予定で、原作とは全然違う流れにして行こうと思っているのでどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。