GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL   作:混沌の魔法使い

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リポート18 月面決戦 その10

リポート18 月面決戦 その10

 

~ガープ視点~

 

シグルドが召喚されたのを魔界のモニターで見ながら私は1つ頷いた。

 

「美神達も大分強くなっているな、まだ想定内の中ではあるが予測よりも2回りほど強い」

 

魔界のドラゴンをベースに作り出した魔力砲は以前の美神達ならば傷も付けられない筈だったが、美神達は連携で見事で打倒して見せた。まぁそれでシグルドを呼び出してしまったのだから美神達にとっては不運としか言い様が無いがな。

 

「シグルド……か、貴重な龍殺しをここで切ってしまうのか?」

 

「確かに貴重な龍殺しではあるがな、本来の強さを発揮出来ない英霊など捨て駒にしかならんよ」

 

「ンンン?ガープ様、それはどういうことでしょうか?」

 

狂神石を噛み砕き、レクス・ローから受けた傷を癒していた蘆屋がどういうことかと問いかけてくる。芦屋は優秀な術師であり、今後英霊召喚をさせることもあるから説明しておいてやるかとモニターから視線を逸らし、蘆屋へと問いかける。

 

「ジークフリードとシグルド、邪龍を倒した伝説の龍殺し……だが伝説に語られる邪龍が2頭いたのか?伝説にはファブニールは巨大なワーム、あるいは巨人だったという説もある。それゆえにジークフリードとシグルドが倒した者は何なのかとなる」

 

神魔・英霊は人間のインスピレーションに大きな影響を受ける。伝説、神話、あるいは文献や映像媒体、それらの数多くが英霊や神魔に本来と違う属性を付与する事がある。

 

「ブリュンヒルデの弟のジークフリードか」

 

「ああ、あいつが存在し、バルムンクを所持している。この段階でファブニールを倒したのはジークフリードとなる。シグルドもまたファブニールを倒したが、ワームか巨人か分からないという事で存在が不確かとなってしまった」

 

間違いなく1級品の英霊である筈なのに、ジークのせいでもう1人の龍殺しの英霊ジークフリードの霊核が補填されてしまった。それによってシグルドは弱体化してしまった。

 

「ンン?しかしシグルドはブリュンヒルデの妻なのでは?」

 

「あの行き遅れに夫がいたと言う事実はない、それもあってシグルドの霊核はますます不確かなのさ」

 

ブリュンヒルデとシグルドは夫婦であり、シグルドはブリュンヒルデに殺されたとあるがそのような事実は無いという事がシグルドと更に弱体化させてしまっているのだ。

 

「ンンン、では実際にシグルドという英雄はいたのですか?」

 

「いたぞ、強く、賢く、王の器を持った英雄だった。だからこそ私はグラムをコレクションとしていたよ」

 

実際にシグルドという英雄はいた。類稀なる才能、強さと叡智、紛れも無く英霊になるに相応しい英雄であった。

 

「同じ名前を持つ者の影響で弱体化した、実に残念だ」

 

それがなければシグルドは私達の戦力として運用するだけの価値があっただけに惜しいと思う。

 

「だが弱体化したと言えど上級神魔くらいの力はあるのだろう?」

 

「あるさ、それにシグルドという存在は不確かでも、龍殺しの逸話は生きている。本来のシグルドとくらべれば弱いが、それでも今美神達が対峙しているのは龍殺しにして最強クラスの剣技を持つ英霊だ。さてさて、横島無しで切り抜けられるかな?」

 

スルトとトールが敗れてなければその神格でシグルドを強化する事も出来たが、シグルドが召喚される前にスルトとトールは倒されてしまい、眼魂に封じていた魂は解き放たれてしまった。

 

「ヘルを使っているレイが破れたのが想定外だったな」

 

「確かにな、だが横島は魔力を使いだした。魔力と狂神石の親和性は極めて高い、神宮寺くえすの眼魂を使っている限り心眼がいても横島の魂は不安定になる。ならばレイの敗北も意味があったさ」

 

正直に言えばレイが破れたのは想定外であったが、これは嬉しい想定外であった。

 

(横島は確実に魔に踏み込んだ。完全に落ちるには時間が掛かるだろうが、一度踏み込めばもう逃げられんぞ)

 

無理矢理魔に踏み込んだのではない、自らの意思で魔道に足を踏み入れたのだ。そうさせたレイは十分に仕事を果してくれたと言える。

 

「さてさて、どうなるか楽しみだ」

 

美神達に合流しようとしている横島と陰念だが、2人が合流するよりも先にシグルドが誰かを殺すか、それとも美神達が耐え抜くのか実に見物だと私は笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

~くえす視点~

 

閃光の様にしか見えない一閃を反射的に障壁を作りバックステップをすることで回避を試みるが、余りもシグルドの一撃が鋭くドレスの裾が切り落とされてしまった。とは言え避けなければ袈裟切りにされていた事を思えば代えの効くドレスなどどうでも良く、足を取られないように自分で更にドレスを破いて腰に巻きつける。かなりミニスカートみたいになってしまいましたが……シグルドという化物を相手にする事を考えれば羞恥心は捨て去るべきだと思考を切り替える。

 

【……】

 

仮面越しに見える紅い瞳には意思があるようには見えない。その証拠にシグルドの攻撃は決して苛烈ではない、その剣戟は一撃でこちらの命を断てるが攻め立ててこない。

 

(私の仮説は正しいかもしれませんわね)

 

「くえすなんで突っ込んだの!?」

 

美神が怒鳴ってくるが、その声を上回る怒鳴り声で叫び返す。

 

「あの英霊は機械で制御されてますわ!間違えても仮面を壊してはいけませんわよ!?」

 

「ど、どうしてですか!?仮面を壊せば」

 

どうしてこんなことも分からないのかとブリュンヒルデに呆れながら怒鳴る。

 

「狂神石で強化された剣で一瞬で全滅しますわよ?戦乙女」

 

正直に言えば神剣の使い手である小竜姫が龍神族であり、シグルドとまともに打ち合えない段階で白兵戦での勝ち目はない。人間界に伝わってる通りシグルドとブリュンヒルデが夫婦なら突破口はあるのですが……。

 

「ブリュンヒルデって結婚してた!?」

 

「み、未婚ですぅッ!!」

 

ブリュンヒルデが未婚だと叫ぶ、つまりブリュンヒルデとシグルドに夫婦関係、もっと言えば神話や伝説のような繋がりはない。

 

「……動きだけなら封じれるぞ?」

 

「下手に動かないでください、シズク。龍の動きに相手が反応する可能性がありますわ」

 

恐らくだがシグルドは神話・伝説との違いである程度弱体化している。それを補う為に狂神石と仮面による制御をしているのだろう……つまりそうしなければ消滅してしまうほどの英霊を態々後詰めで出した理由……。

 

「悪辣な」

 

「多分そうよね?」

 

私が答えにたどり着いたように、蛍も同じ答えにたどり着いたようだ。間違いない、あのシグルドは……魔力砲の制御装置だ。

 

「雪之丞!マリア、テレサ!魔力砲の残骸に攻撃して!」

 

美神の指示が飛び、雪之丞達が魔力砲へと攻撃するがそれが命中するよりも早くシグルドが動き、手にしていた光の剣で氷の霊波砲を弾きながらダガーを殴りつけて反撃してくる。

 

「どわっと!?」

 

「きゃあッ!」

 

「テレサ、伏せてくださいッ!」

 

雪之丞は篭手で弾き、マリアがテレサの頭を掴んで伏せさせてダガーを回避する。

 

「決まりですわね。シグルドは魔力砲を守る為の最後の防壁……いえ、弾丸なのですわ」

 

「弾丸に守らせるか……でも確かに、それが一番確実だわ」

 

月の魔力で発射出来れば良し、魔力砲が破壊されたとしても素体のドラゴンで攻撃すれば良し、素体のドラゴンが破壊されれば魔力砲を守りつつ、英霊の持つ膨大な魔力や神通力をリソースにして魔力砲を地球へ向けて発射する。

 

「三重……いや、四重の策は想定外ですわね」

 

魔力砲を阻止するためにはシグルドを抑える必要があるが、白兵戦のエキスパートであるシグルドを倒すには私達では荷が重い。

 

「……私とブリュンヒルデでなんとか」

 

「出来ると思ってるんです?今の疲弊した状態で」

 

蘆屋と2体のレブナントに小竜姫とブリュンヒルデが当るのはガープの想定内だったのだろう。それらと戦う為に力を割いた小竜姫とブリュンヒルデにシグルドを抑えるだけの余裕は無く、シズクは最初の一撃で致命傷一歩手前……。

 

「……これも含めて全部ガープの手の内ですか」

 

横島と陰念、そして人類悪を名乗るコヤンスカヤ……それらとシグルドを戦わせるための前座、その為だけに戦わされていたと気付き、私は唇を噛み締め、拳を強く握り締めるのだった……。

 

 

~コヤンスカヤ視点~

 

横島の気配を感じて合流しましたが、ちょっと、いやだーいぶ状況は不味いですわね。

 

「さてと横島、先に説明しましたが、私は長くは戦えませんわよ」

 

「分かってるよ、コヤンちゃん。というかそれを言うと俺も時間制限付きなんだよな」

 

私と横島の視線が同時に陰念は向けられる。人類悪として開花する訳にはいかないですし、横島も魔力を使うのは自殺行為だ。

 

「しゃあねえな。雪之丞!カチ込むぞッ!!」

 

「おおッ!!」

 

陰念と雪之丞がシグルドへ突貫し、シグルドが迎撃に動き出そうとするが……。

 

「くえすッ!」

 

「その姿は……ええ、良いでしょう。共同作業ということですわね」

 

くえすと横島が同時に魔法を発動させ、虚空から飛び出した鎖がシグルドの手に巻きつく、当然1本目は簡単に弾け飛んだが、2本目の鎖がほんの僅かだけ動きを鈍くさせる。

 

『マッスル化』

 

『巨大化』

 

「うおらあッ!!」

 

「しゃおらあッ!!」

 

異様なまでに巨大化した陰念と雪之丞の拳がシグルドを捉えるが……。

 

「ああ、全然駄目ですね。私もお手伝いしますかね」

 

横島のサポートならやる気も出るのに、とは言え倒さない訳には行かないので魔力で作った狙撃銃から魔力弾を打ち込む。

 

【……!?】

 

「私の特製の魔力弾を普通と思っては困りますね」

 

人類悪としての要素を薄める為にちょーっと混ざり物をしたせいでテンションがおかしくなる時もありますが、その混ざり物のおかげで私に出来る事は非常に多岐に渡る。

 

「ナイス!コヤン!蛍ちゃん!ブリュンヒルデ!」

 

「はいッ!!」

 

「これならッ!」

 

私が何をしたか即座に理解した美神が指示を飛ばし、霊体ボウガンの矢とブリュンヒルデのルーン魔術がシグルドへ炸裂する。

 

【!?!?】

 

効かない筈のそれに与えられる痛手にシグルドに動揺の色が見える。

 

「ついでだ、これも持ってけ!」

 

『弱体化』

 

『弱体化』

 

陰念が投げたメダルがシグルドに吸い込まれるようにして消え、そこに雪之丞の飛び蹴りが叩きこまれシグルドの鎧が音を立てて砕ける。

 

「……人類悪は伊達じゃないな。対英霊ではお前の右に出る者はいないだろう」

 

「これで横島の家に入れてくれますかね?」

 

「……タマモより役立ちそうだからな」

 

よっし、これで横島の家に入る権利をGETッ!それだけでこの戦いに参加した意味もあるというものです……っと、いけないですね。

 

「私の呪いは長くは続きませんからね!そして次はないですわよッ!」

 

幾ら制御された英霊と言えど2度も私の呪いを受けてくれるとは思えない。この1回で決めろと叫ぶと横島達の攻撃がより激しいものになる。

 

「炎で行きますわよ。合わせて」

 

「はいッ!」

 

英霊に匹敵する力を持つ魔女と一緒に戦ってる横島を見ると些か面白くないと思いますが、それはそれ、これはこれ。他の女もそう思っていたとしてもここでシグルドを倒すのが最優先。私情はとりあえず横においておけば良いのです。

 

(家にもぐりこめれば私の方が圧倒的に有利ですから)

 

全てはそこから、それさえ出来れば何とでも出来る。そして私の有能さを見せる事で反論しにくい状況を作る。その為にシグルドは丁度良い敵であった。弱体化していても私は人類悪、英霊の霊基に呪いを掛けて弱体化させるなんてお茶の子さいさいで英霊と戦う事の多い美神達にとっては追い出すに追い出せなくなる筈だ。

 

【がっ……は】

 

シグルドが呻き声を上げ、膝をついて倒れるとシグルドの鎧が弾けて魔力砲へと飛んで行く、シグルドに異常は無くあの鎧がシグルドをおかしくしていた。それは鎧が纏う紅いオーラがこれでもかと主張し……。

 

「俺が行きますッ!」

 

「駄目ッ!」

 

横島がそれを追ってしまった。私だけではなく美神達も叫んだ。だが横島はもう鎧を追っていた。その魔法を使えても魔法使いとしての心得の無い横島はそれを追ってしまい……。

 

「させるかよッ!」

 

【!?!?】

 

魔力砲を発射させないために、鎧の裏の赤黒いコアを蹴り砕きその鎧を破壊した……いや、破壊してしまった。

 

「ご苦労様。じゃ、死んでおこうか」

 

「え?うわッ!?」

 

そして転移で現れたボロボロのセーレの回し蹴りで地球へ向かって蹴られ、地球の引力に引かれて落ちていく横島に私達の悲鳴が宇宙へ木霊した……。

 

 

 

 

セーレが敵だという事を横島と陰念は知らなかった。だから転移で現れたセーレに横島は無警戒だった……味方だと思っていたから、敵ではないと思っていたから……それを伝える事が出来なかった美神達が悪いのか、それともチャンスを待ち続けたセーレが上手かったのか、はたまた両方か……魔力砲を発射させてはいけないと動いた横島自身が悪いのか……ただ1つ言えるのは余りにもタイミングが悪かった。その一言に尽きる。

 

美神達がセーレ達を敵だと伝えることが出来ていれば……。

 

横島が動く前に鎧を誰かが破壊出来ていれば……。

 

引力に引かれて落ちていく横島の名を叫ぶ蛍達に出来る事はない……超加速は誰も使えない、くえすも当然追いつけない。

 

『ああ、くそッ! あの野郎やっぱり敵だったッ!』

 

【メドーサ!すまない、お前の力を全部こちらで使うぞッ!】

 

『ま、ま……て』

 

メドーサの了承も聞かず、心眼はメドーサの魔力と神通力、そして竜気を全て吸収する。存在する為に必要な最低限の力を残して心眼に吸収されたメドーサは横島の中で休眠状態へ入る。

 

【思えばGSテストで死ぬ筈が、ここまで来た。ここまで来れただけでも奇跡……なら私がやるべき……最後にやるべき事は1つだ】

 

気絶している横島を心眼から溢れる光が包み込み、青い流星となった横島は頭から落ちていき……。

 

「んー今日も良い天気……そ、空から横島が落ちて!?だ、だわッ!?」

 

そしてのんびりと空中を散歩していた冥界の女主人の元へと落ちた横島の手には、ボロボロに焼け焦げたバンダナの残骸が握り締められているのだった……。

 

 

リポート19 決着/冥界で その1へ続く

 

 




と言う訳で月面編はこれで一時終了です、次回はドクターカオスたちの決着から入り、その後は美神の話、エレシュキガルと横島の話で書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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