GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
リポート5 鍛錬/その頃の横島君 その3
~くえす視点~
めぐみと私が揃う事でやっと解読出来るようになった魔道書――しかし、その解読は難解を極め、何を記した本なのかが私達にはまるで理解出来なかった。
『白は黒、黒は白。破壊もまた癒しであり、癒しもまた破壊である』
「……私解読間違ってます?」
「いえ、私もそれであっていると思いますが……」
言葉のニュアンスが間違ってる可能性はありますが、大本は間違っていない筈……。
「白魔術が破壊?」
「黒魔術が癒し?」
ありえない、確かに魔力という概念で考えれば大本は同じではある筈ですが……黒魔術で癒し等出来るわけが無く、白魔術で破壊が出来るわけがない。魔力を相手に-の指向性のエネルギーに変え、そこに属性を付与することで炎や雷を作り出すのが黒魔術だ。その魔力の指向性は-のベクトルを帯びている。それに対して白魔術は与える事で現象を引き起こすのが大前提であり、与える事が根底にある白魔術は攻撃力に乏しい。
「……どういうことなんでしょうね?」
「判りませんわ……1つ言えるのはこの魔道書を作った人間は性格がとても悪いという事ですわ」
「くえすといい勝負だと……いひゃいッ!」
失礼な事を言うめぐみの頬を抓り上げながら魔道書に視線を向ける。
(確かに文字は読めました……ですが……)
文字は読めたが、最初のこの文の意味を理解しなければ他のページを読む事が出来ない作りになっている。
「どうすれば良いんですの?」
「……ううう、判りませんよぉ……」
今蛍達が学んでいる霊力の扱い方は私達には相性が悪い、あれはあくまで攻撃時に霊力を転用する事で威力を出すもので放出した段階でコントロールをするのは不可能になるので私やめぐみが神魔の性質に合わせて一点特化で相手の守りを突破するのは難しい。
「1度考え方を変えて見ませんか?」
「変えるとは?」
「黒魔術による回復と白魔術による攻撃です……な、なんですか、その馬鹿を見る目はッ!」
「いえ、随分と馬鹿に……」
苛立ちを持って馬鹿と言おうとした私ですが、待てよと……考え方を変えるのは間違いではない、ただそれを白魔術を攻撃に、黒魔術で癒しと言う訳ではない。
「……零地点突破」
単純に言って白魔術は足し算、黒魔術は引き算だ。それはどこまで言っても交わることはない……それは算数の考え方でだが、数学と考えれば同じ領域に入り込めるかもしれない。
「ふぇ?」
「馬鹿やってるんじゃないですわよ、20過ぎてぶりっ子しないほうが良いですわよ」
「素ですよッ!それで何を閃いたんですか?」
「めぐみは力を増幅させなさい、私は-で力を放出させ続けます」
めぐみも馬鹿ではない、魔法という形ではなく魔力を放出し続ける、増幅させ続けるで私が何をしようとしているのかを理解した様子だ。
「下手をすれば吹っ飛びますよ?」
「屋敷の1つや2つ問題ありませんわ」
横島を1人で戦わせない為ならば屋敷が吹っ飛ぼうが私に取っては何の問題もない。めぐみは一瞬驚いた顔をして、小さく笑った。
「良い風に変わりましたね」
「うるさいですわ、さっさと始めますわよ」
魔道書を中心において、手の平を互いに向けると同時に魔力を放出し、めぐみは魔力を増幅させる。魔法と言う形にならず、荒れ狂う力の奔流が髪や衣服を持ち上げる。
「うっ……もう少し弱く出来ません?」
「そんな泣き言は……聞きませんわッ」
方向性の違う2つの魔力が私とめぐみの間で混ざり合い放電を繰り返す。少しでもコントールをミスれば私の屋敷所ではない被害が出る程のエネルギーが私とめぐみの間で生まれ、衣服を……肌を切り裂くが私は魔力のコントロールを続ける。
「……うっ」
「くうっ……」
私とめぐみでは魔力の内容量が違う、どうしてもめぐみの魔力が劣る。
「少しは気合を入れなさいッ」
「うっ判ってますよぉッ!!」
徐々に徐々にスパークが緩まり、私とめぐみの魔力の波長が1つになっていく……本来方向性が異なる物である筈なのに、それが1つになり、さっきの暴れ方が嘘の様に静かになったと思った瞬間。何かが弾ける音が地下室に響き、私とめぐみは同時に弾き飛ばされた。
「きゃっ!?」
「つっうっ!?」
互いに水平に弾き跳び、地下室の壁に叩きつけられて尻餅をつくように座り込んだ。頭を振りながら立ち上がった私の目の前に広がっている光景に思わず息を呑んだ。
「……凄い」
「凄まじいですわね」
地下室の壁に映し出された数多の魔法の術式、それは見知った物から初めて見るものまでその種類は恐ろしい数だ。その中心にあるのは封印を解こうとしていた魔道書……。
「なるほどこういう代物だった訳ですか」
「ロストテクノロジーですねえ」
魔道書ではなくあれはデータベースだった。魔力により投影し、こうして存在しているだけで常に魔法を作り続ける。今で言うコンピュータ―……それが私とめぐみが長い時間を掛けて解読していた魔道書の正体なのだった……。
「凄い……こんな術式……思いつきも……」
「……悔しいですが、これを作った魔法使いは紛れも無く天才ですわ」
魔法陣の大きさによる魔法の出力の調整、ほんの僅かな文字の変更により魔法の効果すらも変える。今まで思いつきもしなかった高度な魔法……私とめぐみは寝る間も、食事をする時間も惜しみ、過去の魔法と私達が身に付けた魔法を組み合わせ新しい魔法の開発を始めるのだった……。
くえすとめぐみが寝食を削って研究に没頭している頃――魔界の横島はと言うと……アリス達とかくれんぼをしていたりする。
「みーつけた」
体育座りで帽子をギュッと抱え込んでいる幼女は横島の言葉に顔を上げる。血のように紅い瞳に青みが掛かった緩くカールしたショートカットに、ピンクを基調にしたドレスとふわっとした独特の帽子を被った少し風変わりな印象もあるが間違いなく美幼女と呼べるほどに整った容姿の幼女は口元から鋭い牙を見せながら笑う。
「ふっ、流石横島ね。私のこの完璧な姿隠しを見破るなんて褒めてあげるわ」
体育座りで頭を抱え込むのは完璧な隠れ方なのだろうかという言葉をグッと横島は飲み込んだ。この吸血鬼の少女は見た目こそ幼いがその強さは桁違いであり、ゾンビの大軍+チビ達の連合軍とも単騎で戦えるほどに強いので怒らせるのは得策ではないと判断し、両手を広げている少女を抱っこする。
「レディの扱いがなってないわ。そんな風に抱っこするものじゃないの」
ただその抱き上げ方に文句があったのか、ぺしぺしと横島の頭を叩きながら自らの翼で宙に浮かぶ。
「腕を曲げて、そう、それでいいわ。そこに私が座るから」
腕を自分の思うように動かし、満足した様子で吸血鬼の少女は横島の腕を椅子に見立てて腰掛ける。
「こう?」
「そう、それで良いわよ。さぁ行きましょうか」
横島の腕に腰掛けご満悦という表情の吸血鬼の少女を見て、楽しそうだから良いかと思い再び隠れているアリス達を探し始める横島だが、横島は実は知らない、1番最初に見つかった子は次の人が見つかるまで抱っこして貰えるというルールが出来てしまっているが故に、横島が探し出すまでの間に1番最初に見つかる役を賭けて音速を超えた壮絶なジャンケンが繰り広げられていると言う事を……。
「最初の1人はすぐ見つかるんだけどなあ……」
「ふふ、皆そう簡単には見つからないわよ。頑張りなさいな」
最初の1人は何時もすぐ見つかるのにとぼやく横島と、そんな横島の腕の上に座りご満悦な吸血鬼の少女と、酷く穏やかな空気の中かくれんぼは続いていた。
~エミ視点~
口につけていた笛をそっと放し、目の前で疲弊しているタイガーに視線を向ける。滝のような汗を流し、先ほどまで全身を覆っていた霊力が霧散し、タイガーが地響きを立ててその場に崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……どうでしたジャー?」
周囲の破壊の跡、それに加えて鍛錬の相手をしてくれていた小竜姫様とあたしの意見は同じだった。
「論外、使い物にならないワケ」
「酷な言い方になりますが、タイガーさん。貴方の覚悟は何の意味もありません」
ショックを受けた表情をするが事実その通りだ。元々タイガーの霊能は霊力の物質化と憑依の二重属性。霊力を物質化し、動物の魂を憑依させることで獣そのものになる特殊な交霊術。確かに精神感応等も紛れも無くタイガーの霊能ではある、だがそれは本来の霊能から零れ落ちた弱い弱い物だ。
(厄介ね)
タイガーのトラウマ――自分の村を、家族を襲った虎を悪魔を単独に寄る撃破。だがそれは自分の村の守り神を殺すのと同意儀であり村人から迫害を受けた、人の中で暮らせず森の中へと逃げた。そして自分を守り導いた祖父の死によってタイガーは人ではなく、獣に寄り添いすぎた。若干のイントネーションの違い、意思疎通の難しさがここに関係してくる。
「そんなに駄目ですかノー?」
「確かに攻撃力は十分、速度も悪くない。一撃の突破力もある」
それじゃあと目を輝かせるが、あたしは首を左右に振った。
「あたしは弟子を人形にするほど冷血じゃないつもりだし、2人一組じゃないと戦えないってデメリットしかない訳」
トランス状態になり、霊力を物質化させ獣を憑依させたタイガーをあたしが黒魔術と笛で操る。それはタイガーの提案した作戦だが、トランス状態のタイガーに自分を守ると言う考えは無く、ただ命じられるままに戦う人形――それはかつてあたしが公安で働いていた時の事を思いださせ、どうしても受け入れられる物ではなかった。
「自分でコントロールできるようになるべきだと思います。十分に貴方の霊能は神魔に届く」
既に回復しているが小竜姫様の腕には切り傷が刻まれている。それはタイガーの爪で引き裂かれたものだ、横島とはまた違うベクトルの霊力の固形化技術――正直美神達が死に物狂いで習得しようとしている過去の除霊術とは方向性は違うが神魔に有効打を与えれる技なのは違いない。
「だけど、あっしは……」
手が小刻みに震えているタイガーを見て、私も小竜姫様も溜め息を吐いた。確かにタイガーは横島を除けば今の人間の中で確実に神魔と英霊にダメージを与えれる存在である。だがかつてのトラウマがそれを邪魔する、自我を失わなければ使えないのでは宝の持ち腐れにも程がある。
(かといってこれはあたし達には無理なワケ)
霊力の固定と物質化は並みの霊能者では無理だ。そもそもこれは鍛えて習得出来る物ではなく、本人の才覚が大きく関係している。
「タイガー、怖いのは判るワケ。だけど何時までも怖い怖いと逃げていたら、大事な時にオタクは大事な物を取りこぼすわよ」
「……ちょっと走ってくるんじゃー」
逃げるように、いや実際あたしと小竜姫様から逃げたタイガーを見て頭を抱える。
「小竜姫様はどう思うわけ?」
「横島さんの次に神魔と正面から戦えるだけの才能はあると思います。ですが……」
「戦えないんじゃ意味がないワケ……」
誰かが前に言っていた強すぎる力は争いと悲劇を呼ぶ――タイガーはその典型であり、かつてのトラウマを乗り越える事が出来なければタイガーはこれからの戦いについて来れない。
「エミさんはどうするつもりですか?」
「どうもしないワケ、あたしは道筋を作った。後はタイガー次第、自分で戦えないのなら……タイガーはここで脱落ね」
弟子だからこそあたしはあえて突っぱねる道を選ぶ、自分で奮起しなければ前に進もうという意志が無ければ何れは立ち止まる。そんな相手に時間を割いている余裕はない。
「それも1つの道でしょうね、それでエミさんはどうしますか?」
「判ってるでしょ?組み手を頼むわ」
そしてあたし自身も美神達と同様に古い除霊術を身につけなければならない。悔しいが、霊能者としてはあたしは中の中くらい。霊体撃滅は神魔に効く訳が無く、美神達ほど霊具の扱いに長けているわけではない。そして神宮寺ほど黒魔術に秀でている訳ではない……どこまで言っても凡人だ、ベリアルの名を語る木っ端悪魔。あれを契約していた時期があたしのピークであり、その恩恵を失いつつあるあたしは衰えていくしかない。
「私はエミさんのような人は嫌いじゃないですよ」
「ありがと、でも訓練とそれは別でお願いするワケッ!!」
「大丈夫です。私は訓練で手を抜くような性格ではありませんから」
余りにも重い小竜姫様の反撃を必死で受け止め地面を蹴って距離を取る。自分に出来る事はなんでもやる、どんな細い糸でも掴んでそれを手繰り寄せて己の力とする。無様で決して華々しくない……だがそれだけがあたし、小笠原エミが前に進む為のたった1つの道なのだから……。
~ビュレト視点~
魔界から送られて来た便りを見て俺は眉を細め、そのままその便りを手に西条の元へと足を向けた。
「どうかしたかな?ビュレト」
「問題と言えば問題があってな、丁度良い。琉璃もいるならば無駄な手間が省けた」
西条から琉璃を呼んで貰えばいいと思っていたが、余計な手間が省けると魔界から送られて来た手紙を机の上に乗せる。
「魔界のレースの開幕のお知らせ?」
「これがどうかしたのか?」
「参加者の一覧を良く見ろ」
参加者の一覧を指差し、そこに視線を向けた西条と琉璃の顔色が変った。
「ビュレトさん……なんで横島君がエントリーしてるんですか?」
「知らん」
何故か横島がうりぼーと一緒にエントリーしていたから俺はこうして西条の所に来たんだ。
「主催者はトート神……なんとか説得出来たりしないか?」
「主催はトートだがスポンサーはルイだ」
ルイの名前が出て西条と琉璃の目が死んだ。明けの明星が絡んでくれば人間に出来ることなんてあるわけがない……。
「胃痛が……」
「なんでこんな事に……」
「時期が悪かったな」
魔獣が子供を産む時期とレースの時期は殆ど同じだ。それにルイが目を付けないわけがないんだが……正直横島を参加させるとか正気か?と思うレベルだ。
「……西条、琉璃……横島の魔界での状況なんだけどさ……これ見てくれる?」
ふらふらと入ってきたメドーサが机の上に写真をばら撒いてソファーに座り込んだ。
「……うわあ……なんだか大変な事になってるぅ……」
「神代会長、しっかりするんだ。現実と向き合うんだ」
横島の回りを飛び跳ねている魔獣、その数が10を優に越えている。新生した神魔もいるので全部横島に懐いた魔獣とは言い切れないが、その中の数人……いやもっと言うとは全員が横島に懐いている可能性もあり、何とも言えない表情を私を含めて全員が浮かべた。
「この魔獣ってどんなのですか?」
「全部魔界でも触れるなと言われるレベルだな」
全部特級の危険な魔獣の幼生だ。見た目は愛くるしいが、その内確定で化け物になるのが決まっていると言うと西条と琉璃はその場に崩れ落ちた
「「もう駄目だおしまいだぁ……」」
完全に目の前の現実に心が折れているか……俺は頭を振り2人に提案を出した。
「くえすを連れて魔界へ行く、そこで俺が見定めてこよう。危険そうならば、ベリアルとネビロスに預かるように頼んでもいい」
俺の言葉に西条と琉璃は跳ね起き、よろしくお願いしますと殆ど同時に叫ぶのだった。
「ねぇねぇ、柩ちゃん。私と魔界に行かない?」
「やだよ、何でボクがそんな所に……「横島君が魔界のレースに出るんだって、見に行かない?」何をぐずぐずしてるんだゴモリー、早く出発の準備をするんだ」
「私、柩ちゃんのそういうところ大好き」
なおゴモリーと柩も魔界へ向かう準備をしていたりするのだが……ビュレトは当然それを知る由も無いのだった……。
~横島視点~
新生や転生した神魔の学校で保父さんのアルバイトをしている間に俺は何時の間にかせんせーと呼ばれるようになっていた。お兄ちゃんと呼ばれる事もあるが、その多くはせんせーである。なんかむずがゆい気もするが慕われていると判っているので、実はそう悪い気はしていなかった。
「ねーねー、せんせー」
「何?」
「あのね、あのね。くーちゃんが家の中で柱を噛んだり、家具を壊したりするの。せんせーどうすれば良いか知ってる?」
「ケルチャンもなのー」
「せんせー、教えてー」
いや教えてくれって言われてもなぁ……俺は少し考えてからモグラちゃんとかうりぼーを相手にしている時のが効果があるかな?と思い、ちょっと待っててと声を掛けてタタリモッケさんの所へと走った。
「丈夫な縄?そんなのどうするんですか?」
「ちょっと欲しくて何とかなりますか?」
「運動場にならあると思いますが……」
運動場にあると言う言葉を聞いてありがとうございまーすと口にし、俺は校舎から運動場に飛び出し運動場の用具入れから縄を引っ張り出して校舎へ戻った。
「お兄ちゃん、そんなのでどうするの?」
「うん、昔うりぼーとかモグラちゃんが暴れてる時にちょっとやったんだ」
縄を許可を貰ってから短く切って、暴れると聞いているケルベロスやヘルハウンドの前で縄をぷらぷらと振る。
「……」
ジッと見つめ、縄の動きに合わせて首が動く噛み付こうと口を開いたタイミングでパッと持ち上げて空振りさせる。
【お兄さん何をしてるんですかね?】
「わかんない」
「遊んでるのでしょうかね?」
リリィちゃん達の不思議そうな声を聞きながら、目の前のケルベロスの赤ちゃんに視線を向ける、最初は1つだったが、今では3つの首全てが動いている。頃合だと思い、真ん中の1番リーダーだと思う首に縄を噛ませる。
「うおっと」
「ウウウーッ!」
思ったより強い力で驚いたが、しっかりと縄を持ち綱引きの形でケルベロスと遊んでやる。いらついた素振りが消え、その目に楽しそうな色が浮かんでくる。そして満足したのかぱっと縄を放し、自分の主人の元へ向かうケルベロスは尻尾をぶんぶんっと振って上機嫌だ。
「こうやって闘争本能とかを満足させてあげれば落ち着いてくると思うよ。あんまり力任せにやらないで、優しく引っ張ってあげてね」
「「「はーい」」」
縄を配り、自分の使い魔と綱引きで遊ばせる。やっぱり暴れるというのは体力が有り余っていたり、闘争本能を発散できないのが理由だと思う。
「フカー、フカア!」
【にゅにゅーッ!】
「ほれ、噛め、噛んで吾と綱引きだ」
「やあん?」
「あら、器用ですわね」
「ちゃぁ~♪」
綱引きをしていたり、縄を見て興味なさそうにしている子がいたり、両手で持って器用に綱引きをしていたりと皆思い思いに遊んでいる。
「みむ!」
「ほいほいっと」
小さい手で縄を掴み、ぐいぐいっと引っ張るチビの力に合わせて優しく綱を引っ張る。あちこちで聞こえて来る楽しそうな声……。
「ふぎゃあッ!!」
「やぁん?」
「痛い!引っ張らないでぇ!」
「ワニワニワー♪」
茨木ちゃんとアガレスの悲壮な悲鳴が聞こえてきて、何とも言えない気持ちになったが皆が楽しそうにしているのは間違いない事でこれで良いかなあと思う事にしようとしたのだが、割りとすぐにそれは間違いだったと気付く羽目になってしまった。
「ふかっあ!!」
「ぴいいいッ!!!」
鮫っぽいのの小さな爪に光が集まり、振るわれると飛ぶ斬撃が放たれ。それを太陽神の化身の幼生が火炎放射で迎撃する。
「グルルルルルルッ!!!」
「しゃああッ!!!」
ケルベロスとオルトロスが唸り声を上げ、身体をぶつけ合う。しかもあちこちでバトルが始まってしまい、大変な事になったと思って慌てているとタタリモッケさんが大丈夫ですよと俺に声を掛けてきた。
「使い魔になっているとは言え、魔獣ですから闘争本能があります。それを我慢する事を覚えているので、普段は我慢しているのですが横島さんのお蔭で穏便な形で発散出来そうです」
「穏便な形……?」
「はい、穏便な形です」
……これが穏便……?魔界の人の考えは俺にはちょっと理解出来なかった。
「ゴガアアアッ!!!」
金属で出来た小さな犬見たいのが巨大な岩を投げ……。
「モーノオオオッ!!」
犬見たいのは目からビームが出てるし……。
「みっぎいッ!!!」
「ぷぎゅーッ!!!」
「チビとうりぼーまで!?」
うりぼーの上に乗ったチビが電撃を乱射し、使い魔達を次々とノックアウトしている。だが使い魔達はすぐに復活し、使い魔同士の戦いを再開する。
「がんばえー!!」
「ゆーちゃんとたまちゃん、頑張れ!!」
わーわーっとあちこちで応援合戦も始まってしまい、本当に大丈夫なのかと心配になる。
「お前はいかんのか?」
「やぁん?」
「……やっぱりこいつ駄目そうだ……」
茨木ちゃんに懐いた桃色の良く分からない生き物だけがごろりと寝転がり動く気配が無く、俺は目の前の怪獣決戦にすっかり心が折れて、その魔獣のそばに座り込んで抱き上げる。
「やぁ?」
「うん、お前はそのままでいてくれると嬉しいかな」
もちもちとしたそのボデイに癒されながら目の前を飛び交う火炎放射や、氷の礫、雷に突風を見て俺は思わず遠い目をしてしまう。
「「……なんて楽しそうな」」
「……」
そして巫女さん2人も楽しそうに見えるらしく、俺は思わず天を仰いだ。
「美神さん達が普段感じてるのってこんな感じなのかな」
【どうだろうな……】
俺が魔獣とかを連れて帰って来ている時の美神さんや琉璃さんの気持ちはこんな感じだったのだろうかと思う。
【チビ!右!ああ、えっと左!!】
「違うよ、上だよ!!」
「いえ、簡単ですわ!うりぼーローリングッ!!!」
紫ちゃんの指示でうりぼーが放電しているチビを乗せているまま回転し、周囲に電撃の嵐を撒き散らすのを見てもうどうにでもなれと諦めの境地に達するのだった……。
「やぁ、横島。ちょっと君に頼みたい事があるんだけど良いかな?」
「ルイさん?どうしたんですか?」
保父さんのアルバイトをし、アリスちゃん達の魔界でのんびりと過ごしている俺の元にルイさんが尋ねて来たのは、チビがタタリモッケさんの学校の使い魔すべてを打ち倒し、最強の名を獲得したその日の夜の出来事なのだった……。
リポート5 鍛錬/その頃の横島君 その4へ続く
次回はピートの話を入れて、後半横島をメインで話を書いて行こうと思います。魔界レースですね、こういうギャグ系を1ついれて、あと1回鍛錬を入れたらシリアスな戦闘な話を書きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
PS
最初に見つかった吸血鬼の女の子はカリスマ吸血鬼モチーフですが、名前は明言しておりません。もしもカリスマだろと読者の皆様が思えばレミリアになる予定です。