GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL   作:混沌の魔法使い

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その5

リポート5 鍛錬/その頃の横島君 その5

 

~ルイ視点~

 

宙に舞う馬券と怒号にも似た歓声を聞きながら私は隣で驚いた様子で笑っていたトートに視線を向けた。

 

「面白いレースだっただろう?トート」

 

「ええ。悪くない、とても良いレースでしたよ。いやはや、ルイ様が連れてくるだけはありましたね」

 

正直コースアウトの段階で想像していたのと違ったと思ったのだが、気絶した横島を背中に乗せたままレースに復帰したうりぼーには思わず笑った。あとその後で横島が落馬……落猪しないようにチビが両手でしっかり横島を支えていたのは面白かったな。

 

「それで横島に賭けたのは?」

 

帳簿を確認するトートはほほうと感心した様に笑った。

 

「5人ですね。その内の2人は人間でゴモリー様とビュレト様のチケットで入場しております」

 

「ああ。なるほど、神宮寺くえすと夜光院柩か」

 

ゴモリーとビュレトが動くなら面倒を見ているあの2人も同行するのは当然だなと納得する。

 

「残りの3人は?」

 

「ゴモリー様、人間界から遠隔売買でメドーサ、それときーやんですね」

 

「はは。大穴で赤字から復活したか、まぁそれも良いだろう」

 

赤貧生活をしているきーやんが今回の大穴で回復したのなら、今度はもっとしっかり地獄に叩き落してやろうと思う。

 

「じゃあ配当金を貰おうかな」

 

「大赤字ですなあ。まぁ良いレースでした、ルイ様さえ良ければあの、横島という青年をまた参加させても良いですよ」

 

トートが穏やかに笑いながらそう私に提案してくる。確かに人間と言う事で横島は侮られていたが……今回のレースでそれも変わるだろうし、何よりも横島が金に困っているのも私は知っている。

 

「良いだろう、交渉してみよう」

 

「良い返事をご期待しております。ではこちらが配当金になりますので、どうぞお納めください」

 

アタッシュケースを受け取り、トートの部屋を後にする。

 

「さてさてどんな反応をするかな?」

 

横島は小市民だからこれだけの大金を見ればどんな反応をするだろうか?とほくそ笑みながら私は選手控え室に足を向ける。

 

「中々面白いことをしたな、横島」

 

「いや、途中で俺気絶していただけですけど……?」

 

「うりぼーは曲がれなかったな。まぁ良いさ、その内曲がれるようになる」

 

ビュレトや韋駄天達の声が部屋から響いて来る。それ以外の声が聞こえないとなると横島にやっかみをいれようとした別の騎手は追い出されたと見て良いかもしれないね。

 

「なんで横島がレースに参加してますの?」

 

「あ、いや、ルイさんに代役で参加してくれって頼まれて」

 

【お兄さん、お兄さん。うりぼーに私も乗って良いですか?】

 

「え、あ。うん、良いよ。うりぼー、頼んでも良いか?」

 

「ぷぎッ!!」

 

部屋の中に入らなくてもどんな光景が広がっているかが容易に想像出来る。そして持ってきた金でどうなるのかと想像しながら、私は控え室の扉をノックしてから扉を開いた。

 

「やあ、横島。とても良いレースだったよ、悪いね。急に無理な頼みをして」

 

「あ。ルイさん、いや、ご期待に応えれたなら良かったんですけど……あれ?どうかした?」

 

私が現れた事で控え室にぴりっとした空気が広がったのだが、良く判って無い様子の横島を見て私はくすりと笑うのだった……。

 

 

 

 

~くえす視点~

 

なんでさも当然のように横島は明けの明星と仲良くなっているのか……横島以外の全員がピリッとした雰囲気になっているのに、なんで横島は平気そうにしているのか……そこの所を問い詰めたくなってくる。

 

「あれ?うりぼー疲れた?大丈夫?」

 

「ぴぎーッ」

 

「疲れたみたいだなあ、リリィちゃん達。うりぼーに乗るのはまた今度ね、よいしょ」

 

腹を上にして仰向けになっているのは降伏の証である。それなのにうりぼーを抱き上げてブラシで毛並みを整えようとする横島。

 

「あれ?めっちゃ震えてる。どうかした?」

 

「ふふ、疲れたんじゃないかな?」

 

違いますわよ、横島。明けの明星が怖くて震えてるんですからね?疲れたとか言ってる貴女が1番怖がられてるって判っている筈なのに平然としているその面の皮の厚さに驚かされる。

 

「何をしに来たんだ? ルイ」

 

「いやあ、私の騎手の代わりに横島君が参加してくれただろう?配当金を持ってきたのさ」

 

重々しい音を立ててアタッシュケースが置かれ、明けの明星が楽しそうに笑った。

 

「さぁ、これが君の報酬だ。受け取ってくれたまえ」

 

「報酬なんて……きに……」

 

アタッシュケースの中身を見た横島が完全に停止した。ちらりとアタッシュケースの中を見ると魔界の通過ではなく、しっかりと日本円で用意されていた。

 

(……2億と言った所ですか)

 

これだけの規模のレースの配当金で2億ほどと言うのは正直少ないと思う。私と柩でさえ軽くその5倍近い配当金が出ている、勿論日本円に変える必要があるのでレートによってはもう少し減るだろうが2億と言うのはかなり少ない。

 

「これはほんの一部の手付金だ。本当に助かったよ、遠慮しないで持って帰ってくれ」

 

「……はい?」

 

「だからこれは君の物だ」

 

横島が明けの明星とアタッシュケースを見て、ズザザザっと後ずさった。あのスピードで動きながらもチビとうりぼーを回収して、抱かかえているのは器用な物だと感心する。

 

「どっきりですか?」

 

なんでそこでどっきりって言う発想になるのかが判らない。控え室にいる全員が呆れ顔だ。

 

「正当な報酬だぞ、横島君。良かったじゃないか」

 

「俺達よりは少しばかり少ないが、飛び入りだからだろう。今度は最初のほうから参加してステップアップして行ったらどうだ?」

 

韋駄天2人がそう声を掛ける。なるほど、魔界でも格式高いレースだから飛び入り参加の横島の配当金が少ないと言うのは当然の事だろう。

 

「お前にやる気があるならライセンスを発行すれば良い、オーナーがルイなら余計なやっかみを掛けて来る奴もいないだろう」

 

「お兄ちゃんもレースに出るの!それなら毎回遊びに来てくれるね!嬉しいなー♪」

 

ビュレト様とアリスの言葉に横島がフリーズから回復した。

 

「待って待って、今回限りでしょう!?」

 

「うん、だけど横島君が望むなら私がオーナーになって君は騎手をやればいい。金は幾らあっても困らないだろうし、うりぼーは思いっきり走れて楽しい、そしてアリスは横島達と遊べて嬉しい。ほら良い事しかない」

 

明けの明星は横島を手元においておきたいのか?観察眼には自信があるつもりですが、明けの明星に関しては本当に何も判らない。恋慕なのか、友愛なのか、それとも己の愉悦の為なのか……これに賛成するべきなのかどうなのかが判断に悩む。

 

「お兄さん、私はアリスと遊べると楽しいですよ」

 

「吾も面白いな、人間界だと暴れすぎると周りの被害が怖くてな」

 

【判ります、お兄さんの所は楽しいんですけどね。周りを壊さないようにするのは難しくて……】

 

紫や茨木童子の言葉を聞いて横島がむむむっとうなり始めた。本当に自分の事よりも、自分の懐に入れた相手の意見には弱いですわね。

 

「くひひ、良いじゃないか。横島、良い小遣い稼ぎだ。霊具とかを買うのはお金がいるからね、美神だけに迷惑を掛けるのは君も本意ではないだろう。ちょっとした小遣い稼ぎ、本免許もちのGSからすればはした金だ」

 

「……いや、これはそんな可愛い物じゃないと思うんだけど」

 

皆の意見を聞いて明らかに横島が揺らいでいる。これはもしかしたら好機なのではないか?柩が動いたことを考えればそれは確実……。

 

「良いじゃありませんか、何をそんなに嫌がるのです?」

 

「いや、Wワークとか良くないんじゃ……」

 

一瞬何を言っているのか判らず、少し間を置いて私と柩は声を揃えて笑った。

 

「別にそんな規定はありませんわよ。GSの職業で必要とされるものは多岐に渡りますし、他のGSだって副業してる人は結構いますわよ?」

 

GS一本で食べていける人間は一握りだ。それこそ私や美神クラスでなければ無理だ。CやDクラスのGSは事務所に所属しつつ、サラリーマンをしている者も居る。

 

「お袋の話が違う?」

 

「まぁあれじゃないですかね?普通の会社の常識と比べたのでしょう。GSは副業OKですわよ、普通に申請出せば問題なく受理されますわ」

 

「そんな事を心配してたんだね。くひひひ、さてそれで不安が無くなった横島はどうするんだい?」

 

柩の言葉と期待を込めた目で見ている紫達の視線に横島は考え込む素振りを見せたが、それは少しの間だった。

 

「じゃあ、よろしくお願いします。あ、でも一応美神さんと蛍には相談して、その結果ってことで」

 

「良いともさ、私も同席しよう。君の事を預かる訳だしね」

 

明けの明星が同席すれば美神達がNOと言える訳が無く、横島が明けの明星の元でレースの騎手となる事が決まり、先祖返りである美神と蛍はあまり魔界に来れる存在ではなく、必然的に横島のみになる。そして私と柩はビュレト様とゴモリーに頼めば魔界に来れる。

 

(ふふふ、流れが着ましたわね)

 

横島の使い魔達は魔界の環境で遊ぶ事が出来て楽しい。

 

アリスは横島を大歓迎だし、茨木童子達も人間界よりも魔界の方が全力で遊べて楽しい。

 

正直魔界にいる凶暴な使い魔と接点を持たせるのは不安要素ではありますが、もう懐いてしまっている以上はしょうがない。

 

(それに好都合なことが多いですしね)

 

魔界のレースの配当金はかなりの額だ。今横島が暮らしている家は最近手狭になってきているのでレースの賞金で引越しを考え始めるだろう。そうなれば私が仕掛けを施すのも可能だ、余りにも私達に都合が良い。

 

(何が幸いするか判りませんわね)

 

横島から狂神石の影響を抜く為の魔界行きでしたが、想像以上に私達にもメリットがあり思わず小さく私は笑ってしまうのだった……。

 

 

 

~美神視点~

 

メドーサが魔界から持ち帰ってきた新聞を琉璃の執務室で蛍ちゃんと読んでいたんだけど、途中で頭痛が凄まじくてそれを畳んで机の上においた。

 

「……横島君を魔界に行かせたのは失敗だったかしら?」

 

「どうだろうな、精神的に落ち着いているのは間違いない。コラテラルダメージって奴だろ?」

 

やむをえない犠牲って……私とかの琉璃の胃を破壊するほど悩ませる事が当たり前って思われるのは正直いやなんだけど……。

 

「メドーサさん、横島がおんぶしてるこの子って有名だったりするんですか?」

 

驚愕っていう書き出しだけど、何が驚愕なのかっていまいち良く判らない。氷の結晶に似た翼と青いワンピース姿の朗らかな幼女に見えるんだけど……。

 

「あー、魔界でも有数の氷の使い手でチルノって言うんだけど、まだ生まれて間もないけど、普通に下級神魔なら凍り付かせて倒すくらい出来る妖精だ」

 

「「妖精の定義間違ってない?」」

 

妖精は自然界の力の具現化、あるいは擬人化で、そこまで強い能力は持っていない筈なんだけど……。

 

「イレギュラーって奴だろうな。多分成長したら普通に上級神魔レベルになるんじゃないかって言われてるぞ。冷気のコントロールが出来ない筈なんだが……多分シズクの加護の影響だと思う。普通生きてる奴が近づいたら凍り付いて即死か酷い凍傷で手足を失う案件だ」

 

……なんでそんな化け物みたいな妖精と仲良くなってるの?エプロンをして保父さんのアルバイトをしているのは判るんだけど、もうちょっと普通の……。

 

(普通って何だろう?)

 

私達の中で普通の定義が崩れて来ていると思う。

 

「あのーこのラクダっぽいのに乗ってる女の子とワニの着ぐるみのは?」

 

「パイモンとアガレス」

 

「「「はい?」」」

 

「パイモンとアガレス」

 

「「「何でソロモンッ!?」」」

 

普通にソロモンの魔神と戯れているの止めて欲しいんだけど!?

 

「大丈夫大丈夫新生したばっかりらしいから、ただの子供だよ。うっすらと記憶持ってるくらい」

 

うっすらでも十分にやばいと思うんだけど……何?今度からアリスちゃんが遊びに来るとチルノとか言う妖精とパイモンとアガレスが付いて来るの?

 

「……東京滅ぶんじゃ……」

 

「止めて、思っても言わないで実現しそうだから……」

 

胃薬を飲んで青い顔をしている琉璃に思わず合掌する。一般のGSでよかったと今ほど思うことはないわね。

 

「美神さん、GS協会で昇級するつもりありません?」

 

「ごめん、無い」

 

ここで昇級すれば間違いなく責任担当にされるので即決で断る。色々と恩恵があったとしても絶対にお断りだ。

 

「おっふ」

 

「蛍ちゃん、どうしたの?」

 

仮にも年頃の少女が口にして良い声では無かった。どうしたの?と訪ねると蛍ちゃんは無言で新聞を差し出してくるので、それを琉璃と一緒に見た。

 

『魔界でも極めて稀少かつ凶暴な魔獣の幼生が一同に揃うという珍事。人間がテイムに成功』

 

「「おっふ」」

 

私と琉璃も変な声が出た。え、何これ……ええ……思わずメドーサとブリュンヒルデに視線を向ける。

 

「魔界でも凶暴かつ強い魔獣の幼生です」

 

「完全に懐いてるから、もう手遅れだな」

 

なんでそんなのを懐かせるのよ……読み進めると人間界では育成出来ないのでアリスちゃんと言うか、ネビロスとベリアルに預けるって書いてあるけど……。

 

「琉璃、これ来たら……」

 

「止めて下さい、想像したくないです」

 

「でも」

 

「すいません、本当勘弁してください。もう茨木童子と紫ちゃんと酒呑童子の眼魂で私はキャパオーバーなんです」

 

 

まぁそうよね。うん……私は1度紅茶を飲んで、小さく息を吐いた。

 

「うちの弟子がごめんね」

 

「悪いと思うなら昇格してくれません?」

 

「それは嫌」

 

昇格は絶対にお断りである。私まで胃を崩壊させたくないからである……そんなことを考えながら新聞を捲る。

 

『魔界で最も格式高いレースに初の人間の優勝者 横島忠夫とうりぼー。ルイ様がオーナーになり魔界のリーグに参戦決定か!?』

 

「……ねえ。ブリュンヒルデ、メドーサ、これどういうことかしら?」

 

横島君、貴方魔界で何してるの?なんでジョッキーになってるのよ……。

 

「多分ルイ様の悪乗りかと」

 

「もう逃げられないね」

 

そうかぁ……駄目かあ……蛍ちゃんと琉璃と一緒に揃って深い溜め息を吐いた。

 

「1度コースアウトしたものの、復帰し、最後の直線でごぼう抜き……なお横島は気絶しており、グレムリンのチビが落猪を阻止」

 

「……情報量が多すぎるわね……」

 

本当に魔界で横島君は何をしているのだろうか?楽しそうに笑っているけど不安要素が余りにも多すぎる。

 

「そんなに魔界に行かせて大丈夫でしょうか」

 

「そこが不安よね……」

 

魔界はガープ達のホームグランドだ。そこにそうほいほい横島君を行かせて良い物かと悩んでいるとブリュンヒルデが口を開いた。

 

「レース場は魔界でも戦闘行為禁止区域ですし、ルイ様が良く出没する店などもありますから魔界で1番安全な場所ですよ?ルイ様が結界を張っているので不許可での転移等も出来ないですし」

 

「人間の裏切りがあるかもしれない東京よりは安心出来る場所になると思うぞ」

 

メドーサの言う通りだ。今は人間界は疑いと欺瞞に満ちている……横島君みたいな単純な性格の子は案外コロリと騙されてしまうかもしれない。

 

「琉璃はどう思う?私はそう悪く無いと思うけど」

 

「……胃痛がマッハですけど、私もいい考えだと思いますよ」

 

安全なシェルターは幾つあっても困らない。清姫とシズクのガードも完璧ではないし、安全圏って言うのはいくつもあってもいいと思う。ただ問題があるとすれば……。

 

「私や美神さんは行きにくいって事ですね」

 

「そうよね」

 

先祖返りなどは魔界では受け入れられにくい物だ、そもそも人間と魔族のハーフというのでさえ偏見があるので私や蛍ちゃんでは魔界にいけず、魔界に行っても受け入れられる人員はかなり少ないと行っても良いだろう。

 

「横島君の事も心配ですけど、もう1つ問題があります。そろそろ舞ちゃんとおキヌさんが東京に出てきますけど、おキヌさんが霊体と肉体にズレがあるそうで……」

 

琉璃の言葉を聞いて私は眉を細めた。霊体と肉体にズレがあると言う事はまだ現世に未練のある幽霊や悪霊が寄ってきやすい状態の事だ。

 

「途中まで迎えに行きましょうか?」

 

「それがベストだとは思うんですけど……無事に合流できるかどうか……とは言え、これ以上は氷室神社でも匿えないらしいのでナナシ達に頼ってこっちに来て貰うしかないんです」

 

神代家の護衛がついていても合流するのが難しいほどの状態と聞けば状況は最悪と言っても良いだろう。しかし氷室神社まで迎えに行くのも今の状況では難しい。

 

「……本当に最悪ね」

 

「だな。よりにもよって東京でこいつが目撃された時にあいつらがこっちに来ないといけないとかな……」

 

ガープ一派に降った堕ちた陰陽師――「蘆屋道貞」その姿が東京で目撃され、GSが何人か行方不明になっている。それは今まで沈黙していたガープ一派が再び動き出したと言う証なのだった……。

 

 

 

~横島視点~

 

そろそろ帰る頃合かなと思っていたのだが、神宮寺さん達が言うにはまだ帰って来いとは言っていなかったと聞いたので、俺はまた保父さんのアルバイトに精を出していた。

 

「さぁ、横島!リヴァイヤサンを見に行くわよ!!」

 

「なんでレミィがお兄ちゃんの隣なの!!」

 

「私の方がお姉さんだからよ!」

 

「私より背が低いのに!」

 

「私より子供っぽいのね!」

 

 

「「うーッ!!!」」

 

シャーと威嚇しあうアリスちゃんと吸血鬼の少女レミリアちゃんの争いに頭を悩ませる。紫ちゃんやリリィちゃんも不思議そうな表情を浮かべる。

 

「おかしいですわね……普段はもっとレミリアも大人しいのですが」

 

【私達とも仲がいいんですけどね、なんでアリスと一緒だと喧嘩しちゃうんでしょう?】

 

「2人はあんまり仲良くないの~」

 

「横島がいるから余計に仲悪いな」

 

パイモンちゃんとアガレス君の言葉を聞いて俺はレミリアちゃんとアリスちゃんの間に立ってその手を握る。

 

「これで良いだろ、行こうか」

 

「うーまぁ良いわ、これで」

 

「アリスも良いよ!」

 

喧嘩が止まってくれたのに安堵し、次の不安はリヴァイヤサンに移っていた。

 

(大丈夫なのか?)

 

リヴァイヤサンと言うと俺でも知っているが巨大な龍の筈だけど、見に行って大丈夫なのだろうかと不安を覚えながら歩いていると遠くから木々が倒れる音がした。

 

「タタリモッケさん、大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫ですよ、ここは散歩コースなので並みの魔獣では近づけない結界があります」

 

そうか、それなら安心……と思ったのも束の間でどんどん木々を粉砕する音が近づいてくるのは気のせいだろうか。

 

【近づいて来てるな】

 

「……タタリモッケさん?」

 

「大丈夫な筈なんですけどね……よっぽどの魔獣じゃなきゃ大丈夫なんですけど」

 

不安そうにタタリモッケさんが振り返るので、それにつられて振り返る。

 

「フカ?」

 

「ヨギ?」

 

俺に懐いた魔界でも強力な魔獣を見てタタリモッケさんは小さく頷いた。

 

「……ちょっと駄目かもしれないです」

 

「グオオオオンッ!!!」

 

「でしょうねえッ!!!」

 

もう目の前に凄いでかい2足歩行の龍がいて思わず俺はアリスちゃんとレミリアちゃんを背中に庇って身構えたのだが、目の前の龍は雄叫びこそ上げたが攻撃をしてくる素振りは無く、俺を見て頭を小さく下げた。

 

「……?」

 

とりあえず俺も頭を下げて会釈をすると目の前の龍はうんうんという素振りで頷いた。

 

「あんまり危険じゃない?」

 

「ううん、斧龍はあの子達の親と同じ位危険な魔獣だよ、お兄ちゃん」

 

「ええ、あの顎の横の斧の切れ味は凄まじいのよ、横島。上級神魔でも重傷を負うレベルでね」

 

アリスちゃん達の説明を聞いてやばい魔獣なのは良く分かった。そして斧龍は重い音を立てて歩いてくると、その尻尾を俺の方に向けてきた。

 

「キバ!」

 

尻尾で運ばれていたのはどこと無く目の前の斧龍に似た小さなドラゴンだった、だけど色が違っていた。斧龍は金色っぽい感じだが、目の前の赤ちゃんドラゴンは灰色って言うか黒っぽい感じだった。

 

「色違い個体ですか」

 

「色違い?」

 

「ええ、偶に生まれるんですよ。強大な力を秘めた色が違う個体、どうもこの子は色違いの個体みたいですね」

 

色違い個体……そんなのも居るのかと思っていると斧龍はその短い手で自身の子供を抱き上げ、俺に差し出してくる。反射的に受け取るとまたうんうんと頷いて斧龍は重い足音を立てて森の中へと消えていった。

 

「え?」

 

「キバ?」

 

【……受け取ってどうするんだ、馬鹿者……】

 

心眼先生の呆れた声と俺の手の中でキバーと楽しそうに鳴く赤ちゃんドラゴンを見て、俺はタタリモッケさんに視線を向けた。

 

「……受け取った以上は育てれる環境が出来たら預かってくださいね?」

 

「……はい」

 

俺になんで自分の子供を預けに来るかなあとがっくりと肩を落し、抱えていた赤ちゃんドラゴンを地面に降ろす。

 

「皆仲良くしてあげてな?」

 

「みむ!!」

 

「ぷぎゅー!!」

 

とりあえずマスコットはマスコット同士で仲良くなって貰おうと思いチビに任せることにし、再び海を目指して歩き出し数分後……遠くに巨大な龍が見えた。

 

「近くに行って大丈夫なのか?」

 

「大丈夫よ!行きましょう!」

 

「大丈夫だぞ!行こう!」

 

レミリアちゃんとチルノちゃんが大丈夫と言うが本当に大丈夫なのだろうかと思いながら海に到着した俺は驚きに目を見開いた。

 

「これがリヴァイヤサン?」

 

「そうよ、これがリヴァイヤサンよ」

 

「可愛いでしょー」

 

海からちょこちょこ這い出てくる灰色の小動物――これがリヴァイヤサンらしいのだが、俺にはある動物にしか見えなかった。

 

「ペンギン……」

 

「「「ペンギン?」」」

 

アリスちゃん達は分からないらしいが、俺にはペンギンにしか見えなかった。群れでちょこちょこと歩き回っているリヴァイヤサン(ペンギン)にアリスちゃん達が駆け寄り可愛い可愛いと頭を撫でているのを見ていると思わず微笑んでしまう。

 

「リヴァイヤサンは群れで行動して、水を龍の形状にして身を守っているんですよ」

 

「擬態って奴ですか。結構賢いんですね」

 

見た目が小さくて可愛いから他の魔物に食われてしまったりしてしまうのだろうかと考えていると視線を感じてそっちに目を向けると1匹のリヴァイヤサン(ペンギン)が俺をジッと見つめていて、次の瞬間には大声で鳴きながら俺の足元に駆け寄ってきた、

 

「くあああああああッ!!!」

 

「え、何々!?きゅうにどうした!?」

 

信じられない大声で鳴くので俺が動揺しているとタタリモッケさんは口元を押さえてくすくすと笑う。

 

「懐かれているんですよ、リヴァイヤサンはあんまり鳴かないので懐いたり、好きって言うのを表現するのに鳴くんです」

 

「な、なるほど。でもけっこうるさいですね」

 

足元に頭を寄せて羽を羽ばたかせて尻尾を振る姿は確かに愛らしいのだが……。

 

「「「くあああああああッ!!!」」」

 

群れの殆どが俺の側に集まって鳴き出してしまうと流石にうるさいと思うのだが、凄く懐かれているのもわかるので無碍にも出来ない。

 

「餌を上げれば大人しくなりますよ、はい、皆さん集まってください。餌を上げましょうね」

 

「「「はーい!!」」」

 

タタリモッケさんが箱から餌の魚を取り出し、アリスちゃん達と一緒に俺も受け取りリヴァイヤサン(ペンギン)に餌を与えると、そこに座り込みはぐはぐと魚を食べ始める。

 

「可愛いね」

 

「可愛いわよね」

 

「うん、確かに可愛い」

 

魔獣は凶暴だと思っていたけど、大人しくて可愛い子もいるんだなあと思い、チビ達の餌を取り出してチビ達にも餌を合えながら穏やかな時間を過ごすのだった……。

 

「それ魔界の媚薬だけど大丈夫?」

 

「……凄いですか?」

 

「そりゃもう凄いわよ、壊されちゃうかも」

 

「……とりあえず一本だけ」

 

「じゃ僕も」

 

「まぁ進展なさそうならありよね、この後はドレスとか見にこうと思うんだけど良いかしら?」

 

「ええ、お願いしますわ」

 

「たまにはおしゃれも大事だしね」

 

くえすと柩はゴモリーと共に買い物を楽しんでいるが、魔界製の魅惑などの効果付与のドレスやネックレスを買い漁っているあたり、どんな方法でも良いから横島を手中に収める気満々の愛の重い2人にゴモリーは苦笑しつつも、それを取り扱っている店に向かう辺り、それすらも楽しんでいるようだ。

 

「くあ!」

 

「くー」

 

「……ええ……どうしよう」

 

一方その頃横島はリヴァイヤサン(ペンギン)の群れのリーダーの雛であろう、小さなリヴァイヤサン(ペンギン)を差し出されていた。

 

「くあー!」

 

「くー……」

 

受け取れ、育てろと言わんばかりのボスリヴァイヤサン(ペンギン)と回りで鳴声をあげるリヴァイヤサン(ペンギン)に逃げ道を断たれた横島は斧龍の赤ちゃんに続き、ボスリヴァイヤサン(ペンギン)の雛を受け取る羽目になってしまうのだった……。

 

リポート6 亡者の嘆き その1へ続く

 

 




次回からはおキヌちゃんがメンバー復帰する話を書いて行こうと思います。それに蘆屋というスパイスを加えて、かなりのハードモードで話を進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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