GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
リポート6 亡者の嘆き その2
~おキヌちゃん~
強烈な放電音と逆巻く霊力によって宙を舞う青いGジャンの裾――それほど時間が経っていないのに横島さんはずっと大きくなっていた。
「よ……こ……げほっ……ごほっ!」
「おキヌさん、大丈夫」
横島さんの名前を呼ぼうとしても途中で咳き込んで最後まで言葉に出来なかった。舞ちゃんに背中を摩られても、首を絞められていた事と濃密な殺気に当てられて、どれだけ息を吸おうとしても肺が引き攣ったように動いてくれない。
「ごめん、遅れた」
「だい……じょうぶ……です」
助けに来てくれたそれだけで涙が溢れる。蘇っても記憶は失わなかった……だけど横島さん達に会えない日々が辛く、そして悲しかった。
だからこそ、この窮地に横島さんが助けに来てくれたことが嬉しくて仕方ない。
「んっふふふ、お久しぶりですね。横島忠夫」
「蘆屋道貞……ッ」
雷を纏った拳で腹に風穴が開いて反対側の景色が見えているのに蘆屋と呼ばれた男からは血液1つ流れていない。その異様な光景を見て私達を追いかけていたこの男が人間ではないという事を初めて知った。
「んん?今更気付きましたかな?私は既に人間等と言う矮小な存在から脱しておりますゆえ……ほれ、この通り」
すっと腹を撫でる蘆屋。その手が離れると同時に腹に開いていた風穴は最初から存在しないように消え去っていた……そのどす黒い霊力から普通じゃないのは判っていたが、あの致命傷にしか見えない傷も何の痛手にもなっていない事には驚かされた。
「化け物め」
「んふふふ、陰陽道を極めたと言って欲しいですね、この通り」
空中に印を結び蘆屋の前に赤黒く輝く星が浮かび上がった。
「炎舞将来、我が敵を燃やし尽くし、その命を刈り取れッ!急急如意令ッ!!」
星から黒い炎を纏った無数の死神が飛び出し、その目に深い憎悪の色を浮かべて私達に襲いかかってくる。
「霊札の力を散らしめよッ!急急如意令ッ!」
横島さんが指を噛み切り、空中に文字を刻み剣指を振るうと蘆屋の放った術は私達の目の前で霧散した。
「ほう、随分と力をつけたようで、ガープ様から聞いておりましたが、平安時代で随分と術のバリエーションを増やしたようですなあ。いやあ、善哉善哉」
自分の術を無効化されたというのに蘆屋は楽しそうに、嬉しそうに微笑んだ。
「何が面白いんだ。てめえ」
「んふふふ。この時代の陰陽師は名ばかりの出涸らしで飽き飽きしておりましたゆえ……こうして術比べが出来るのは実に良いッ!!雷精将来ッ!!業火となりて我が敵を喰らえッ!急急如意令ッ!」
「ッ!水精将来!我を悪意から守れッ!急急如意令ッ!!」
水の幕が蘆屋の放った陰陽術を防ぎ、横島さんが今度は攻撃に一歩前に出る。
「火精将来!我が敵を喰らえッ!急急如意令ッ!」
「火精将来!霊札の力を散らしめよ散ッ……んぐっ!」
横島さんの陰陽術を無効化しようとした蘆屋だが、炎に飲まれ苦悶の声を上げた。
「風精招来っ!我に宿りて敵を追えッ!急急如意令ッ!」
横島さんが地面を蹴り蘆屋と肉薄し、肩までの霊力の篭手、栄光の手の進化した霊能である……勝利すべき拳で殴り掛かる。
「んふふふ、陰陽師同士なら術比べだけでは飽きますからなあッ!」
「行くぜおらぁッ!!」
凄まじい追突音と風切り音を立てて横島さんと蘆屋の姿が現れては消えるを繰り返す。姿を見せる蘆屋が殴られているのを見て、横島さんが優勢だと私も舞ちゃんも思った。
「駄目だ……効いてないぞ」
「あの化生を倒すには何かが足りんッ」
ナナシとユミルが効いていないと告げると同時に横島さんが姿を見せたが、額からは汗が滴り落ち疲労の色が濃かった。
「偶には一方的に殴られるのもと思いましたが、足りませんな。さてさて……何時まで遊んでいるつもりですかな?」
遊んでいる?その言葉の意味が私には判らなかった。陰陽術も体術も横島さんの方が上で、何らかのカラクリがなければ横島さんが勝っていた筈だ。
「私が生きていれば貴方の知人があの病院で見た兵器になるかもしれない、それとも自分の意志と反して人を殺すかもしれない。それなのに私を倒せるかもしれない手段を残すのですか?んんん?後悔しますよ」
蘆屋の言葉に横島さんが肩を竦め、勝利すべき拳が空中に霧散し消えた。
「心眼」
【……仕方あるまい、このままではジリ貧だ、だが判っているな?】
「判ってる、美神さん達が来るまで他の眼魂は使わない」
横島さんが眼魂を取り出し横のボタンを押し込む、それと同時に腰にベルトが現れ開いたバックルに眼魂を押し込んだ。
【アーイッ!シッカリミナーッ!シッカリミナーッ!!!】
「んふふふ、流石にその力には私も些か不利、さてさて、我が外法の秘術と貴方の力、どちらが上か試して見ましょうか」
「覚悟しやがれ、変身ッ!」
【カイガンウィスプッ!アーユーレデイ?】
ベルトから飛び出したパーカーが蘆屋に襲い掛かり、その姿を後方へと弾き飛ばす。だがそれだけに収まらず、袖から伸びた細い紐で蘆屋を殴りつけている。その姿に私は妙な違和感を抱いた……。
「来いッ!」
横島さんが呼びかけると反転し、横島さんが掲げた手にハイタッチをし、私達の見ている前で横島さんの姿が変わる。
【OKッ!!レッツゴー!イ・タ・ズ・ラ!ゴ・ゴ・ゴーストッ!!!】
「……ぐっ」
黄色いパーカー姿とハロウィーンのかぼちゃに似た顔のマーク。いつもと同じウィスプの姿――だけど横島さんは胸を押さえて膝をついた。
「どうかしましたか?調子でも悪いのですかな?」
「うっるせえッ!!」
地面を蹴り蘆屋へと殴り掛かるその姿を見て、私は違和感の正体に気付いた。鮮やかな黄色いパーカーだった筈だが、裾や背中に黒いラインが入っている事に殴りかかった姿を見て気付き、その黒いラインに言い様の無い恐怖と不安を抱いた。
「舞ちゃん、鞄から笛を」
「え、は、はい!」
霊感が囁いたとでも言えば良いのか、それが必要になると思い、私は出発前にシズさんに作って貰った御神木で作った笛を舞ちゃんに取るように頼むのだった……。
~心眼視点~
今なら判る、魔界からおキヌの近くに転移させられたのはアスモデウスによる物だと……元々この場所に転移させられた段階でその可能性は十分に考えていた。しかし蘆屋と鉢合わせにされるとは想定外の事であった、それと同時に変身する事で横島の中に狂神石が活性化するというのは私にとっては計算外にも程があった。
(今はまだ大丈夫だが……時間が経てばどうなるか判らんぞッ)
パーカーに入った黒いライン――それが狂神石の影響をウィスプも受けていると言う証だった。
「いやいや、やはり強い。何故その姿になると私の外法を貫いてダメージを与えてくれるのか……んんー不思議でなりませんな」
「おらあッ!!」
横島の打撃は確かに蘆屋にダメージを与えている。しかし蘆屋はにやにやと笑っており、何かを待っているような素振りを見せている、何か等と言う必要はない。待っているのだ、横島の中の狂神石が活性化し、横島の中の闇が姿を見せるのを待っているのだ。
(まさかこれほどまでとは……)
魔界で穏やかに過ごしていたから狂神石の影響はある程度抜けたと思ってしまった。それが余りに楽観的な推測だとも知らずに……ベルトからパーカーゴーストが出現した時に攻撃的な挙動を見せた時にもっと警戒するべきだった。紫達が美神達を呼びに行っているが、それが間に合うかどうか……いや、そもそも蘆屋には正体の判らない不死性がある。美神達が応援に現れた所で狂神石が活性化し、シェイドになったらそれこそ横島が戻って来れない可能性が……どうする、どうすると考え込んでいると笛の音色が鳴り響いた。
「♪~♪~」
おキヌが目を閉じ凄まじい霊力を秘めた笛を口にし、一心に笛を吹いている。その音色が鳴り響くのに連れて魔の方に傾いていた横島の霊力が元に戻り始めていた。
(なんだ、何が……)
「身体が軽くなった。それになんだ……凄く心が軽いッ!」
「っぎゃああああああッ!なんだ、なんだこの耳障りな音楽はぁぁあああああッ!!!」
私が困惑している間に戦況は大きく変わろうとしていた。横島の魂に負担を掛けていた圧力が消え、蘆屋は耳を塞ぎ苦しみ悶えている。
(おキヌの霊力の属性は「浄化」かッ!)
前の世界ではおキヌはネクロマンサーとして活躍していたが、除霊に関しては攻撃的な技能を殆ど持ち合わせていなかった。悪霊の浄化、そしてヒーリングによる癒しに特化していた。それゆえに今回の世界でもおキヌの霊力の属性は「癒し」だと私も思っていた……だがこの世界のおキヌは名も無き神霊であるシズの影響を色濃く受けている。神通力によっておキヌの霊力の属性は更に進化を遂げ「浄化」へと変化していた。
【横島、いまだ攻め込むぞ!金時眼魂だッ!】
「良いのか!?」
【ああ、今ならいけるッ!一気に畳み掛けろッ!】
いつまで笛の効果があるか判らないが、少なくとも今は眼魂を使ったとしても狂神石の影響は受けない筈だ。
「行くぜッ!」
【カイガン!金時!雷光!正義!ゴールデン・スパークッ!】
金色の雷光が降り注ぎ金時魂に変身した横島は地面に突き刺さった黄金喰を抜き放ち、笛の音色に苦しんでいる蘆屋に向かって駆け出した。
(助かった……おキヌ、お前がいて、私は初めて良かったと思っているぞ……)
悪霊染みたことをし、横島のストーカーをし、執着を隠そうともしなかったおキヌは害悪で、生き返っても横島から遠ざけるべきかと真剣に検討していたが、笛の効力で狂神石の影響を軽く出来るのならば話は少しだけ変わってくる。そう、最低だったのが少しだけ好感を抱けるくらいにはおキヌの重要性が出てきた。
【一気に畳み掛けろ!時間が無いッ!】
「判ってるッ!!」
「ぐっぎいッ!おのれッ!!!」
頭を抑え、白目と黒目が反転し、鋭く伸びた牙を隠そうともしない蘆屋。恐らく倒し切る事は不可能だが、ここで手傷を負わせて活動を封じる事は出来る。私は近づいてくる美神達の霊力を感知し、ここが勝負所だと判断し横島にへと声を掛けるのだった……。
~蛍視点~
くえすと柩だけが転移して来て横島を探す為にあちこち移動していた時、空中に障子が現れそこから紫ちゃん達が姿を見せた。
「お、おに、お兄さんが」
「落ち着いて、何があったの、ゆっくりで良いから教えて」
パニックになっている中でよく自分の異能をコントロール出来たと思いながら何があったのかを尋ねる。
「吾達もしっかり把握している訳では無い、巫女と青い髪の小柄な女が背の高いどす黒い魂の異様な風貌な男に追われていて、横島はそれを追いかけて行った」
巫女、青い髪の女、異様な風貌の男――それが何を意味しているか私と美神さんはすぐに理解したのと同時に、くえすと柩と横島がバラバラに転移させられた理由を知った。
(やられた)
横島は誘い込まれた形になる、おキヌさん達を庇いながらとなれば変身する事になるだろう……狂神石の影響を受けていることを考えれば、心眼がそれを止めるだろうが状況次第では嫌でも使う事になるだろう。
「場所はどこですの?」
【えっとうりぼーが匂いで追いかけれるから……えっと、紫!】
「は、はい!私の転移で近くまでなら送れます!」
十分すぎる、私と美神さん、それとくえすは目配せして頷き合う。小竜姫様達がいないのが響くが、紫ちゃんが転移してきたと言う事は転移妨害はない、シズクも横島の気配を感じ取って向かっている可能性がある。仮にいなくとも、私達3人の霊力を感知すれば間違いなく合流してくれる筈だ。
「私とくえすと蛍ちゃんをその場所に送って、うりぼーだけついて来てくれる?」
「ぷぎいッ!」
「ありがと、チビは紫ちゃん達を琉璃達の所まで連れて行く、出来る?」
「みむう!」
正直ここで紫ちゃん達を単独で行動させるのは不安があるが、横島が孤立している状況の方が不味い。
「お兄さんを助けて」
障子に入る前に告げられた紫ちゃんの言葉に頷き、私達は障子による転移で東京を後にした。
「……これ、笛の音ですか?」
「そうね。何かしら?」
森の中に転移した私達を出迎えたのは笛の音色だった。霊力を込めて吹き鳴らされる笛――そこに曲は無く、それでも包み込むような優しさを感じた。
「おキヌさんだ。多分、舞さんの神楽に合わせて音楽の練習をしていたんじゃないですか?」
うりぼーに案内され走りながら笛の音色の正体を告げる。美神さんとくえすは知らないけど、おキヌさんは癒しに特化したネクロマンサーだ。笛を媒介に霊能を扱う、そう考えればこの音色の正体はおキヌさん以外ありえない。
「なるほど、舞は神代の名は捨てましたが神代家の人間、神楽系の知識は豊富ですわね」
「それは判るけど、なんで笛を……いや、考えてる場合じゃないわね!」
降り注ぐ雷と鋭い金属音――それだけで横島がまだ戦闘中であるという事を示しており、私達はその音の方に向けて全速力で走り出した。
「♪~~♪……っ♪」
「頑張って、笛を止めないで……ッ」
音色が途切れ途切れになり始めた頃に私達はやっと遠目に横島と蘆屋の姿を視界に収めた。
「はぁ……はぁッ」
「くっふふふ……その子娘の笛の音色が留まれば、お前はこれに抗えぬ。しかして拙僧も音色が響いている間は決め手に欠ける……千日手でございますなあ」
金時魂の左半身が赤黒いシェイドの色に染まっていた。顔の半分もシェイドの鋭い獣の眼光に変り始めていた。だが笛の音色が響くと赤黒い半身が元の金色の色へ戻るが、今はノイズ交じりに赤と黒、金色が目まぐるしく変わっている。
「狂神石を盾にしているのですかッ!?」
蘆屋は不気味に脈動する赤黒い盾を手にしており、それに攻撃を防がれると金時魂に走るノイズが激しくなる。
「呑まれかけてる、考えてる間はないわッ!」
「判ってます!」
狂神石を横島から遠ざけないといけない、それだけを考えて精霊石の粉末を用いて特殊な方法で精製した霊体ボウガンの矢を番える。
「くえす、あいつにダメージを与えれる?」
「五分五分ですわね」
「いまはそれで十分、おキヌちゃんの笛が聞いている間は効果が十分にある筈、とにかく1発叩き込んで横島君を連れて撤退するわ。出来るわよね、シズク」
地面から沸き出るように姿を見せたシズクに私とくえすはぎょっとした。
「……問題はない、とにかく横島から狂神石を引き離すッ」
近くにあるだけでも横島がシェイドになりかけているのを見て話をしている時間はないと誰もが理解していた。
【ダイカイガンッ!金時ッ!オメガスラッシュッ!!】
「ぐっ……はぁッ!!」
赤黒い雷電を纏った黄金喰いを振りかぶる姿を見て蘆屋が嘲笑うように狂神石の入った瓶を掲げる。それを見た瞬間が好機だと誰も口にしなくても理解していた。
「なっにいッ!? ぎぎゃああッ!?」
予想外の角度からの霊体ボウガン、そしてくえすの魔法は蘆屋の掲げていた左腕を跡形も無く消し飛ばし、狂神石を消滅させた。
「きっつうッ!!横島君ッ!今ッ!」
「急ぎなさい!時間がありませんわッ!」
ごっそりと霊力を持って行かれた感覚がした。訓練とは違う、実戦で、蘆屋と言う化け物に対して使う為に霊力を使ったのは初めてだった。一撃で霊力の半分近く持って行かれる異様な感覚――だがそれでも横島を苦しめていた狂神石を消し飛ばすにはそれだけのリスクを背負う必要が合った。
「おおおッ!!!」
狂神石が消えた事で完全な金色の姿に戻った横島が飛び上がり、その手にした黄金喰が纏う金色の雷が空中でその激しさを増す。
「黄金衝撃(ゴールデンスパーーク)ッ!!!!」
「ぬ、ぬおあああああああああ――ッ!!!」
横島と蘆屋の絶叫、そして雷が炸裂し視界が白一色に染め上げられる。その凄まじい霊力と雷の破壊力……何故か再生能力が弱体化している蘆屋に間違いなく致命傷を与えている……私達はそれを確信していた。
【オヤスミー】
「はっ……はっ……くそ、化け物が……」
変身解除を表すベルトの言葉に続き、横島が悔しそうな声を上げる。その声だけで倒しきれなかったという事を悟り、雷と膨大な霊力で乱されていた感覚が元に戻り、目の前に広がった光景に絶句した。
「あれでもまだ生きてるのッ!?」
「どれだけの外法を使っていると言うのですか……ッ!?」
左半身が雷で焼け爛れ、右半身に深い切り傷があるのに蘆屋はまだそこに立っていた。着物が風で捲れ上がると無事に見えたのは外見だけで、胸から下がごっそりと抉られ、背骨で辛うじて上半身と下半身が繋がっていると言う状況なのに、蘆屋は血も吐かず、苦しそうな顔もせずに平然とした顔でそこに立っていた。
「再生が始まったッ」
雷でおキヌさんの笛の音色が止まり、私達の見ている前で蘆屋の肉体がビデオの巻き戻しのように再生していく。
「……判ったぞ、どれだけの魂を取り込んでいるんだあの化け物は……ちいっ、無理にでも転移する!おキヌ、舞!横島を捕まえろッ!」
魂を取り込んでいると言う言葉の真意を尋ね返す間もなく、シズクの指示が飛んだ。
「んっふふッ!どうもこの勝負拙僧の「黙れ化け物、喰らえ血のアンダルシアッ!!!」がぼっ、お、己……ま、魔人が何故」
だが目の前で逃げるのを蘆屋が許すわけが無く、蘆屋の手が横島の身体に伸びた瞬間、血のような赤い閃光が私達の前を通り、蘆屋の身体が何かに貫かれ宙に浮いていた……いや、何かなんて言わなくても判っている。血のアンダルシア――その名を聞くだけで身体が竦んだのを感じた……目の前には私達を完膚なきまでに打ちのめした相手がそこにはいた……。
「鮮血のマタドール……ッ」
「何故魔人までもここ出てくるのですか……ッ」
豪華な装飾が施された服、肌は愚か、皮膚すらない異形の顔――蘆屋を貫いたのは鋭い切っ先をした片手剣、余裕と言う顔を崩さなかった蘆屋の顔が初めて崩れた。しかし助かったと安堵する事は出来なかった、蘆屋に加えて魔人マタドールまでがこの場にいる。何故、どうしてという言葉が脳裏を過ぎる中、マタドールは蘆屋に蹴りを叩き込み、骸骨の姿から美しい男装の麗人の姿に変わる。
「ニーニャの魂を穢してくれた事に対する私の恨みとでも思ってくれたまえ、おい!ここは引くぞッ!龍神、私も連れて行けッ!」
横島を肩に担ぎながら叫ぶマタドール、自分も連れて行けというマタドールに誰もが嫌な顔をした。
「ニーニャを汚染している魔力を退ける方法を私は知っているぞ、好き嫌いでそれを手放すか?私はそれでも構わんがね、その後に魔人にしてしまえば良いのだから、だがお前達はそれで良いのかな?」
汚染している魔力――狂神石を無力化する方法を知っていると声を上げる。それを聞けば私達はマタドールを連れて行くしかない、シズクの嫌そうな舌打ちの音が響いた瞬間私達は水に包み込まれその場を後にしているのだった……。
「やれやれ、まさか魔人から離反した者が出てくるとは想定外でしたなあ、やはり欲張ると身を滅ぼすというのは本当の事のようですね」
よっと軽い感じで立ち上がった蘆屋の身体はビデオの巻き戻しのように再生するが、血のアンダルシアが直撃した胸の中心部だけが抉り取られたように再生が阻害されていた。
「まぁ良いでしょう、どうせ今回は拙僧の役割はないですし、少し欲張ったのが悪かったとしましょうか。ガープ様に命じられた事は成し遂げましたし」
恐らく転移で人間界に帰ろうとするのでお前の近くに送るとガープから聞いていた蘆屋には驚きは無く、そしておキヌと舞を改造するつもりもなかった。ただ……そうすればもっと怒る、もっとこっちに近づくという横島の心を揺さぶるためのパフォーマンスだった。
「効果は絶大、やはり本人を狙うより周りですな」
今回の事で横島が最もダメージを受けるのは何かを見出せたし、狂神石の影響具合も確認する事が出来た。イレギュラーはマタドールだけだったが、概ね想定通りだ。
「レギオンと霊団をばら撒きましたし、後は様子見としましょうか」
東京から上がる火柱やどす黒い霊力の渦を見て蘆屋はにやりと笑い、服の中から狂神石の入った瓶を取り出し、それを無造作に地面に撒き散らし、懐から取り出した巻物に印を付けその場に後にするのだった……。
リポート6 亡者の嘆き その3へ続く
変身しましたが狂神石の影響でBADコンディションになるように変化、そして久しぶりにマタドールの登場とほのぼのメインの話が多かったですが、久しぶりにシリアスな話となりました。次回はマタドールの話を書いていくつもりです、後は魔人と狂神石の関係性とかも触れたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。