GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
リポート6 亡者の嘆き その3
~西条視点~
会議室のど真ん中に水球が現れ、それが徐々に大きくなるに連れて横島君達が姿を見せる。
「舞ちゃんにおキヌさんもいるわ……良かった」
「最悪の展開はま逃れた……訳ではないようだねッ」
最後に現れた1人――明らかに人間ではない、雰囲気が異様だ。なんだ……なんなんだ、あれは……魔族?いや、神魔?どっちだ。紅をモチーフにしたあれは……闘牛士の衣装か?短い紫の髪で男に見えるが……女か?
「ふむ、途中で捨てられると思ったが、案外律儀だな。龍神」
「……うるさい、黙れ」
「くっくっく、怒りを理性で抑えるかね?それもまた良かろう。だが時に感情を発露するのも悪くない、こんな風にな?」
鋭い金属音が響き渡り、会議室の机を吹き飛ばしながら小竜姫様が男装の女に切りかかるが、小竜姫様の一撃を男装の女は片手で受け止めて楽しそうに笑う、その仕草だけで小竜姫様よりも目の前の女の力量が上だと嫌でも悟ってしまった。
「マタドールッ!横島さんに何をしたッ!!」
「おいおい、勘違いするなよ。私は助けてやったのさ、なぁ?そうだろう?」
マタドール……ッ!魔人の1人かッ!なんでそんな奴が一緒にいるんだと困惑すると同時に警戒を強める。
「確かに助けられたわ……小竜姫様も今は剣を収めて、横島君がぐったりしてるのは狂神石の影響を受けていたからよ」
狂神石の名を聞いて、横島君が疲弊している理由を悟り会議室が一気に騒がしくなる。だがその争いは一瞬で鎮められた、何時の間にかおキヌさんが口に当てていた笛の音色――それを聞いた瞬間に焦りも動揺もどこかに消えてしまった。
「……落ち着いてください、いえ、落ち着けないのは判りますが……今は落ち着いて席について話し合いましょう」
「随分と肝の据わった娘だな。ふふふ、少しはこの娘を見習ってはどうかね?」
くっくっくっと喉を鳴らすマタドール。その姿は圧倒的強者だけが持つ、強者の余裕とも呼べる物があった。
「横島。立てる?」
「あ、うん、大丈夫。疲れてはいるけど……今まで程じゃない、よっと」
足が震えているが立つ事は出来ている。だがそれはおかしいのではないか?あの様子を見れば変身していたのは明らかで、今までなら疲弊しきり動けなくなる筈……それに狂神石の影響を受けていたのならばそれこそ動く事が出来ないのでは?
「失礼、マタドールでしたね。お話を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「構わないとも、元々そのつもりで私はここに来たのだからね」
おキヌさん達も状況を把握していると思うが、態々敵陣に乗り込んできたマタドール――そこに何か意味がある筈、ボクはそう考えてマタドールに話を聞かせてくれと声を掛けたのだった……。
「さてと、まずだが……あの蘆屋とか言う似非陰陽師、あれとニーニョは戦っていたのであり、私はニーニョとは剣を交えていない」
蘆屋道貞、旧日本国軍の霊能特殊装備開発室局長蘆屋道貞――あの蘆屋道満の子孫とされている男で、詳細は抹消されているが外法に特化した男であり、六道を初めとした家の弟子となりその家の術を奪い、己のものとし続けた怪人。そして人類を裏切り、アスモデウス一派についた男だ。
「なんて無茶を……」
「いやあ、舞ちゃんとおキヌちゃんが追われてまして……こればっかりはしょうがないっす。それにあの緋立病院の人間兵器にするって聞いたら止まってられないですよ」
背もたれに背中を預け戦った経緯を教えてくれた横島君。確かにその状況ならばしょうがない、僅かに遺体を回収しただけだが、人間に昆虫や獣の手足をつける実験の犠牲者を横島君は知っている。おキヌさん達がそうなるかもしれないと聞いたら止まっていられる訳が無い……単独で戦う事になったのは僕達の初動の遅さであり、横島君を責める事は出来ない。
「私にもちょっかいを掛けてきたのでね、報復に向かったらニーニョが戦っていたと言うわけだ。しかし、見て驚いたものだ。良く人の身で魔人の力をコントロールしていると感心したものだよ」
魔人の力をコントールしている――その言葉に会議室にいる僕を含めた全員がヒュっと息を呑む音がするのだった……。
~小竜姫視点~
魔人の力をコントロールしている……その言葉が何を意味するか、それが判らない者はこの場に誰一人としていない。
「ハッタリ……ではないようですわね」
「その通りだ。そもそもだな、お前達が変身というあの姿……あれこそがニーニョの魔人としての姿の雛形と言ってもいい。あれから魔人化が進めば、より魔人として適した姿に変わっていくのだよ」
仮面ライダーの姿が横島さんにとっての魔人の姿……それをありえないと否定する術は私達には無かった。もう1人の仮面ライダーは陰念さんで、彼もソロモンの魔人の力の影響を受けてその力を手にしている。それにレイは複合神霊の力を持つホムンクルス――そのどれもが神魔であったとしても異質と呼べる力だ。そう考えれば魂に影響が出てもおかしくはない……おかしくは無いが……。
(魔人……いえ、横島さんにそんな気配はない……でも……)
神通力と魔力が複雑に入り混じった魔人独特の気配はない……でも横島さんが黙り込んでいると言う事は思い当たる節があるという……誰もが神妙な顔をしているとマタドールが大声で笑い始めた。
「まだまだ蛹と言う所だ、魔人として孵化するにはまだまだ足りぬ、取りこし苦労という奴だ」
「離せ、あの骸骨をぶん殴ってやるッ!!」
「落ち着くんだ!くえす!勝てる訳無いだろうッ!?横島止めるのを手伝ってくれ」
「神宮寺さん、落ちついて、落ち着いてください!」
「ちょっとお!?横島は重傷なのに動かないのッ!」
「……やれやれ、気持ちは判るが少しは落ち着け」
マタドールの言葉に怒り、暴れている神宮寺さんを取り押さえようと横島さん達が奮闘していると、それを見てマタドールが更に笑い出す。
「野郎!ぶっ殺してやるッ!!!」
更にヒートアップする神宮寺さんの姿を見て、何故か逆に落ち着いてきた。誰かが怒り狂っていると周りの人間が落ち着くって言うのは本当の事なのかもしれないですね。
「魔人の力が影響しているのは本当と言う所ですね?」
「ほう?何故そう思う?私が嘘をついているとは思わないのかね?」
「思いません、蘆屋にちょっかいを掛けられたという事はガープ達でも判らない何かが魔人にはある……違いますか?」
その何かと横島さんの変身の反動が軽くなっていると言う事……そこに何か関係性がある筈だ。
「猪突猛進と思えばそうではないようだな。魔人には狂神石は効かないんだ、元から強い耐性があるからな」
狂神石に耐性があると語るマタドール。しかし狂神石は神魔を狂わせる物――魔人は後天的に神魔に至った者とも言える。影響を受けない……そんな事があると言うのか?
「……元から狂っているからか」
今まで黙り込んでいたブラドー伯爵がそう呟くとマタドールは額に手を当てて大声で笑い出した。
「くっくく、はっはははははッ!!」
笑い声が大きくなるに連れて皮膚が消え、本来の骸骨の魔人としての姿になる。
「流石は始祖の吸血鬼、黙り込んでいると思ったら考えを纏めていたか」
「お褒めに預かり光栄だ、それで答えはどうなのだ?」
ブラドー伯爵の問いかけにマタドールにその通りだと頷いた。
「元より魔人は狂っている。狂っている物が狂う訳がなかろう?神魔を狂わせる力が人間に耐えれる訳が無い、こうして自我を保っていいる段階でニーニョは無意識に魔人の力を使っていると言うわけなのだよ」
自我を保っていると言う事が何よりも横島さんが魔人としての力を扱っていると言う証拠だとマタドールは断言した。
「……じゃあなんだ、俺は狂神石に近づく事に魔人化が進むってか?」
「当たらずとも遠からず、魔人の力と狂神石の力は反発しあう。狂神石の力に抗えば抗うほどに魔人の力は増大していくだろう、魔人として更なる高みに至るか、それとも人のままかは、ニーニョお前自身が決める事である」
マタドールはそう言うと立ち上がり、腰に挿した剣を抜き放ち虚空を切り裂いた。
「余りヒントを与えすぎるのも成長を止めることになる。悩み、絶望し、苦しみ、前に進むがいい。そして今よりももっと強くなるのだニーニョ」
空間の切れ目に身体を滑り込ませ、既に半分ほど消えているマタドールは最後に1つだけ助言を与えようと口にし、横島さんにその骨だけの指を向けた。
「己の業、罪に気付いてはならぬ。魔人には己の司る罪がある、それを自覚すればお前は即座に魔人へと至るだろう。それでは足りぬ、私はもっとお前が強く、成熟した後に魔人になるべきだと思っている。ゆえに己を見つめすぎない事だ」
「俺の罪……業?何のことだ」
罪と業……横島さんにもっとも程遠い言葉だ。今の横島さんのような善人に罪も業も無い人に何の罪と業があると言うのだろうか……。
「罪も業も生きている限りついて回る、そしてお前が担う罪も業も誰よりも優しく、慈悲深い、だがそれゆえに残酷であり冷酷だ。魔人の中で唯一欠落していた罪の形……それを自覚しない事を祈るよ。ではまた何れ会おう、今度は闘争の場でな」
最後まで意味深な言葉を残しマタドールは姿を消した。だが横島さんの罪と業――それが魔人へと至るとはどういう……会議室にいる全員が困惑していると重々しい音が響き渡った。
「横島!やっぱり無理を……ッ!」
「ナイチンゲールの所へ連れて行きますわよッ!」
マタドールが消えた事で緊張の糸が切れたのか横島さんが崩れ落ち、蛍さんと神宮寺さんの悲鳴にも似た声が響いた。
「令子ちゃん、横島君達を病院へ、後は僕達が何とかする」
「西条さん……ごめんなさいッ!行くわよッ!」
横島さんを背負い会議室を出て行く美神さん達を見送る、本当は着いて行きたい。だが東京を囲むように出現している霊団・レギオンの問題は解決しておらず、横島さん達を守る為にも私達には立ち止まっている時間なんて存在していなかったのだった……。
~ガープ視点~
東京から戻って来た蘆屋の報告を聞いて、私の考えていた1つの推測が当たっていた事を理解し、それだけで東京にレギオンを配置した価値があったと考えていた。
「やはり横島には狂神石に対する耐性があったか……」
「かなり近づければそれなりに影響は出るようですが、シェイドへと変身する事はありませんでした」
純度の高い狂神石を蘆屋に持たせ、横島に遭遇すれば近づけてみることで反応を見ようとしたが、シェイドへと変身する事は無かったと聞いて、私の予想が少し違っていたという事を知った。
「ふむ、狂神石に近づければシェイドになり暴走状態に入ると思ったが……やはり魔人同様耐性があると言うことか?」
「左半身のみのシェイド化は見られました。あとおキヌとか言う巫女が笛を吹くと、私の力もかなり抑制されるのを感じました」
おキヌ――あの巫女か、あの巫女の霊体と肉体がずれるように術は仕込んでおいたが……それは想定外だったな。
「狂神石の力を抑制する能力者なのかもしれんな。信じたくは無いが……」
神魔であれど正気を失わせる狂神石の魔力を浄化する能力者――神魔であれば判るが、まさか人間がそのような能力に開眼するとは正直想定外にも程がある。一点に特化した能力者としてもそんな人間が都合よく生まれるとは正直信じたくないと言う気持ちの方が強いな。
「そんな能力者が人間に生まれるものでしょうか?余りにも都合が良すぎると思うのですが……」
横島達の陣営に狂神石を無効化あるいは弱体化させる能力を持った人間がいる……それは確かに都合が良すぎる展開だ。
「それが宇宙意志なのかもしれん」
宇宙意志によって我々も都合の良すぎる展開というものを何度も経験してきている。横島達の陣営に狂神石の力を抑制する能力者が入ったのも、宇宙意志と考えれば話の辻褄は合う。
「その抑制力も完璧ではないのならば、問題はない、笛の音色、いや霊力が弱まれば侵食が進んだのならば誤差の範囲だ」
笛に霊力を載せて演奏していればその消耗は著しい物だろう。音色に篭もる霊力が弱まり、狂神石の干渉に耐えれなくなるのならば誤差の範囲と言ってもいい、それよりも問題はそこではない。
「マタドールが現れた事の方がよほど問題だ」
横島が魔人化の影響を受けている事は私も把握していた。魔人には狂神石の影響は殆どない、現に純度の高い狂神石を近づけてもマタドールが平然としていたのがその証だ。
「……実に興味深い」
魔人化が進んでいるのならば横島は狂神石の影響を受けないはず。しかし現に狂神石の影響を受け、笛の音色がなければシェイドになりかけていたとなれば横島の魔人化は完全ではないと言う事になるが、人間でありながら狂神石の影響を受けても一瞬で発狂しないのならば横島も耐性を得ていることになる訳だが……矛盾している結果に何か根本的に分析が間違っている部分があるのかもしれない。
「蘆屋、お前はもう少し東京で状況を観察していろ。どの道霊団とレギオンはただの布石、失敗しようが成功しようがそこに大きな差はない」
あくまで霊団とレギオンは次の計画に進むまで東京に足止めするのと、東京で何かする為にと警戒させる為の物だ。警戒して東京に篭もってくれれば私の計画通り、仮に離れたとしてもそれでも良い。なんせ今回の襲撃は横島を新生の地から引き離す為の物で、あそこに籠もられると流石の私とアスモデウスでも攻撃を仕掛けることは難しくなる。
「レイを連れて行ってもよろしいですかな?」
「……様子見程度にしておけ、平安時代での戦いからどれほど進歩したか、それを見極める程度だぞ」
一礼し再び人間界へ向かっていく蘆屋を見送り、机の上の眼魂に視線を向ける。レイの眼魂で研究しより高位の神魔を封じた眼魂の数々、その中には勿論私達の眼魂もある。
「下地は出来ている筈……次の段階に進む時が近いな」
平安時代の戦いで横島の魂に狂神石を流し込んだ、それによってシェイドという闇の側面が活性化し、横島自身の霊能力にも大きな影響を与えた。そして狂神石を近づけた事でシェイドが表に出ようとしていた……これは完全に横島の魂に狂神石が根付いた証拠であり、より純度の高い狂神石を近づけることでシェイドはより活性化し、平安時代のように横島の身体を乗っ取り、シェイドは身体の主導権を得る事になるだろう……。
「我らの目的が達成させる日も近い……」
私の計画通りに進めば今までの戦いの勝敗など取るに足らない物となる。どれほど負けてもいい、逃げてもいい……。
「最後に勝てば勝ち負けなど取るに足らない事だ」
私達は何度も負けた、何度も逃げた、何度も仲間を失った……それでもここまで進んで来た。失った物、敗北の屈辱も全ては勝つ為の布石となるのだ。
「我らはかつ、大願を成し遂げる。その為には横島が必要なのだ……」
我らだけでは成し遂げれない事がある、我らの目的を成し遂げるためには特異点である横島の力が必要だ。しかし我らの求めるレベルまで、横島に辿り着いて貰う必要があった……そして我らの求める力量まで横島は辿り着こうとしている……かなりの労力を使った、そして何度も辛酸を舐めた、しかしそれら全てが報われる時がもうすぐ側に来ていると思うと込み上げてくる笑いを抑える事が私には出来ないのだった……。
ガープが新たな策略を打つ準備をしている頃、東京の病院ではカルテを手にナイチンゲールが深刻そうな顔をしていた。
【大丈夫とは言いましたが……果たしてこれはなんと言えば良い物か】
面会時間ギリギリと言う事で美神達を帰す為に大丈夫と告げたナイチンゲールだが、その後の診察結果を見てその顔を深刻そうに歪めていた。
【ミス・おキヌとミス・舞の体調も決して良い訳ではありませんし、ナナシとユミルの状態も深刻です】
蘆屋に追われていた2人は体力を限界まで消耗しており、それに加えて挫いた足で走り続けていたので足の状態は最悪の一歩手前だ。ナナシとユミルの2人は蘆屋の悪辣な術で霊力と体力の上限とでも呼ぶべき物を削られており、戦闘に復帰出来る程に回復するにはかなりの時間を有する事が予想されている。
【……霊団とレギオンによる霊症の影響も大きいです。なんと悪辣な……】
無数の霊団とレギオンによる生者を憎む声によって体調を崩している者も多く、霊能関係の医療を行なっている病院はてんてこ舞いとなっている。そのため六道女学院の医療系の霊能を持つ生徒も借り出され、東京の今の状況は戦時と言って良い状況だ。だからこそナイチンゲールは横島の診察結果を口にする事に躊躇った。元から眼魂を使う横島は眼魂に宿る英霊や神魔の影響を受けて肉体変化が顕著だった……一戦事に別人のように身体能力の変化は記録されていた、だが今回は今までの変化が嘘のような異様な変化を遂げていた。
【骨格、筋力量、霊力上限、魂魄強度……それがここまで変化するなんて……これでは最早神魔の域ではありませんか……】
成長ではなく変化、骨格から全てが別人と良いレベルに強化されている。
【これが狂神石の影響だというのですか……】
神魔を狂わせる狂神石――それの齎す脅威、そして今は元の人格を保っているが、それが何時崩壊するか判らないと言う恐怖――そして何よりもナイチンゲールが恐れたのは今の状況だった。霊団とレギオンの恐怖の中、人間では無くなりかけているかもしれないよこしまの事を公表すれば吊るし上げ、それこそ魔女狩りのような状況になりかねない。騒乱と恐怖は人間の正気を容易く奪い去る――それを知っているからこそナイチンゲールはある行動に出た。
【やはりこの事は言えませんね……仕方ありません】
手にしたカルテをシュレッダーに掛け、ナースコールを聞いてナイチンゲールは自分の診察室を後にした。医者としてではなく、英霊フローレンス・ナイチンゲールでもなく、1人の少し凶暴ではあるが、心優しい女性として横島に降りかかるであろう困難を少しでも減らしたいと思っての行動だった……。
リポート6 亡者の嘆き その4へ続く
怪しげなフラグをばら撒いていきます、次回は霊団・レギオンとの戦いに身を投じる美神達と入院中の横島達の話で書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします