GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
リポート6 亡者の嘆き その7
~琉璃視点~
レギオンの封印は滞りなく終了した。複数の核を封印したとはいえ、1箇所に集めると何がおきるのか判らないのでくえすには消し飛ばしてもらったけど、残りの5つは全て無事に封印出来たのは御の字と言えると思う。
「まずは皆さんお疲れ様でした。大きな怪我とかがなくて本当に良かったです」
おキヌちゃんがネクロマンサーの笛を長時間吹いた事で霊力を極端に消耗し、緊急入院となったけど、それ以外は皆大きな怪我も無く勝利と言ってもいいだろう。
「だけどまだ安心するには早いわ。皆これを見てくれるかしら?」
美神さん達が封印したレギオンの核――それは他のレギオンの核よりも大きく、そして封印されても尚不気味な脈動を続けていた。誰がどう見てもこれがガープの本命であり、今回のガープの侵攻の作戦の肝だと判る。
「これが何か判りますか?私には召喚陣として破綻しているように見えるんですけど……」
ブラドー伯爵達だけではない、小竜姫様やビュレトさん達にも問いかける。少なくともこの魔法陣が召喚の物だとは判るが、どこかおかしい……陣の一部が欠損していて、これではまるで「送還」する気が無いように私には思える。
「間違いではない、これは召喚陣としては破綻している。これは元より、戻す事を考えていない」
召喚は呼び出す事、そして戻す事を前提としている。戻す事を考えていない召喚陣――私が破綻していると感じたのはやはり間違いでは無かったようだ。
「そんなことをして何の意味があるの?東京の魔力と霊力を使い果たすとしても余りにも無駄が多すぎると思うんだけど」
召喚は膨大な魔力と霊力を消費するが、送還する事を考えていないのならばその消費は大分少なくなる。しかし送還する事を前提にしていないのならば召喚の前提が崩れており召喚した存在がいう事を聞くようには思えない――この魔法陣は何もかもがおかしい。
「意思疎通をするつもりが無いのだろう。いや、もっと言えば意志を持つものを呼ぼうとしていないと見て良いだろう」
「意思を持つ者を呼ぼうとしていない?下級悪魔ということですか?」
ブラドー伯爵の意見を聞いてくえすがそう尋ねるとブラドー伯爵は違うと断言した。
「影だ、ガープは影を呼ぼうとしているのではないか?」
「影?ブラドー伯爵、それは一体なんなのですか?」
影と言われて思いつくのはドッペルゲンガーだが、あれはそこまで強い妖怪でもなんでもない。都市伝説では見た者の寿命を削ると言われているが、実際にドッペルゲンガーにはそんな力は無く、強いて言えば人間の方が考えすぎて弱体化していくというのが定説で、そもそも一般人には効果はあるが霊能者には何の効果もないと言ってもいい。私含めて皆が何とも言えない顔をしている中ビュレトさんが口を開いた。
「影……影か……なるほどな」
「ビュレトさん、何か思い当たる節があるのですか?」
小竜姫様がそう尋ねるとビュレトさんは絶対とは言えないがと前置きしてから話を始めた。
「これは俺がまだガープ達と共に戦っていた時の話だが……サタンの軍勢と俺達では圧倒的なまでに数の不利があった。戦争初期は戦力は
ほぼほぼ互角だったが、徐々に錬度の差や戦力の差で劣勢に追い込まれていた。俺達に賛同し、倒された中級神魔や上級神魔の数は決して少なくはなかった。俺はこの時には既にこの戦いに勝ち目が無い事は感じていたが……ガープ達は戦力の差を覆す事を諦めず、足りない戦力を補う方法に舵きりを始めていた」
今でこそ狂神石で操り、戦力を増やすと言う方法を手に入れたガープ達。しかし狂神石はアスラを仲間に加えてやっと精製出来るようになったら物だと聞いている……戦力を増やすにも洗脳という手段がないガープ達が何を目的にしたのか?それを段々と私達は理解し始めていた。
「召喚術ですか?」
「その通りだ、召喚術による戦力の増加を考えた。この頃からだろうな、ガープが英霊召喚を考え始めたのは……元々あいつは聖遺物のコレクターで英霊に関しても非常に詳しかった」
「だけど英霊はどう考えてもガープ達には協力してくれないわよね?」
英霊はあくまで人理の抑止力――私利私欲に加えて、魔界の戦に協力してくれる訳がない。美神さんの問いかけにビュレトさんはその通りだと頷き、自分の手を天井に向かって伸ばした。
「英霊そのものを使役出来ないのならば、その影を操る事をガープは考えた。俺達神魔も英霊もその基本的なシステムは同じだ」
上級・最上級神魔の多くは倒されても復活するようになっている。今目の前にいるビュレトさんも魂の牢獄にいる本体の分身と言えば英霊と同じ様な立ち位置、いや、英霊が神魔に似ているとも言える。
「魂の牢獄と英霊の座は極めて似通っているシステムですが、それと影に何の関係性があるのですか?」
「魂の牢獄、あるいは英霊の座に本体を光とすれば強い光には影が生まれる。その影、つまり英霊や神魔のデッドコピー……ガープがシャドウと呼んでいたが、シャドウを作り出す研究をしていた。元々影で知性はそこまで高くない、英霊や神魔だが敵を倒せという単純な指示
は理解する筈だ。周囲の霊力、神通力、魔力を吸い上げデッドコピーを召喚し続ける」
「そうなればデッドコピーとは言え、並みの神魔よりも遥かに強い」
「その上で数の暴力で神魔とも戦える……」
単純な命令だけを魔法陣にプログラムとして組み込んでおけば、劣化したとは言え神魔、英霊の能力を持つ軍勢を手にする事が出来る。
「これは不味いですね」
「ああ、日本だけではない、海外のGS協会、オカルトGメンにも警戒を促す必要があるかもしれない……」
レギオンは決して強い敵では無いが、今回のように精神感応と合わせれば退治せざるを得ない……しかし対処を間違えれば劣化英霊や神魔が溢れる事になる……レギオン自体は倒されなければ精神感応で人間同士の仲間割れを誘発させ、そして倒されれば制御不能の暴走召喚陣となる――。
「力があるくせに本当に厄介な事をしてくれますね」
「今度こそあいつらは今の情勢を引っくり返すつもりだ。その為ならば手段なんぞ選ぶつもりはないと言う所だろうな……」
ガープ達の戦い方は余りにも泥臭く、そしてほんの少しの切っ掛けから莫大な被害を相手に与えようとする……この戦法はどう考えても圧倒的な力を持つ神魔の戦い方ではない。
「ガープ達の戦い方は人間その物と言っても良いな」
「これは厄介ですね……本当に」
人間よりも強い力を持つ存在が人間のような戦い方をする……それは反逆者であり、自分達が圧倒的に劣勢で戦い続けてきたガープ達が手にした全く新しい戦い方であり、神魔のような圧倒的な力による制圧戦に加えて人間のような幾重にも策を張り巡らせ、自分達が有利になるように立ち回る。それは恐らくかつての魔界統一戦の敗北によって身につけた物であり、ガープ達の厄介さがより明確にされた瞬間なのだった……。
~ルイ・サイファー視点~
「良い加減に座ったらどうだい?淑女としての嗜みが足りてないよ」
ミニスカートで立っている冥界の女神に声を掛けると、怒りに満ちた表情でエレシュキガルは腰を下ろした。
「そんなに怒る事か?女神よ」
「……死者を冒涜する事は私を冒涜する事と同意義なのだわ」
ネロの言葉にエレシュキガルは怒りを隠そうともせずそう吐き捨てた。その姿を見て私は小さく笑った。死後を司る女神だとしてもここまで死者に対して感情移入する神も少ないだろう。
(なんとも人間らしい事だ)
冷酷無比・残酷と言われている割には甘い性格をしているように思える。ホムンクルスの器に入れられているからか、それとも元々こんなに甘い性格をしているのかと少し考えてしまう。
「しかし今回は横島は出てこなかったな、詰まらん」
「まぁ、確かにそうなのだわ」
「別に私は横島が出てくるなんて言ってないのに、押しかけて来たのはそっちだよ」
元々横島は今回入院しているので戦闘に出てくる訳がない。今回はアスモデウス達が何をしようとしているのか、それを暇つぶしで見に来ただけなのだからと言うとネロとエレシュキガルは驚いたような表情を浮かべた。
「入院!?入院しておるのか!?」
「だ、大丈夫なのだわ!?」
おっと、これは思った以上に爆発してしまったなと笑いながら、ベルゼブルに用意させた紅茶を口にする。
「検査入院という奴で大事はない、まぁ心配する事はないさ。重病ならお見舞いに行くか位は言うさ」
狂神石の影響を受けているとは口にせず、心配する事はないと笑うと2人はそれもそうかと呟いて腰を下ろした。
「しかしなあ、あやつらも何がしたいのやら」
「元々敗残兵の集まりだしね、深く考えても大して意味はないさ。まぁエレシュキガルはその限りではないみたいだけどね」
「当たり前なのだわ、あんな死者を冒涜するような真似は許せないのだわ」
怒り心頭という様子だが、人間相手にはこれほど効果的な一手はないと思う、精神攻撃は基本っと言った所だと私は思う訳だ。
「まぁ良い、余は飽きた。ではな」
「私も帰るのだわ、つまらないのだわ……」
時間の無駄だったと言わんばかりに立ち上がり虚空に消えていく2人を見送り、くっくっくと喉を鳴らす。
(私は面白かったけどね)
横島が出てくるかもと期待し、そして来ないとわかり落胆した顔を見るのは中々面白かったと思いながら、椅子から立ち上がる。
「片付けておいてくれ、私は用事がある」
「はい、判りました」
「片付け終わったら好きにしてくれて良いから」
ベルゼブルにそう言い残し、人間界を後にする。目的地はそう遠くはないし、長居するつもりもない。ただ少し、確認しておきたい事があるだけだ。
「……なんだ、こっちは外れか」
神魔の中にも閉鎖空間というものはある、孤立した世界で今の情勢に関わるつもりはないと明言している者は非常に多い。今回のレギオンは無作為に召喚する為のゲートであり、本命は英霊の影をこの世界に呼び出す事だろうけど、正直それを目的にするのならば態々人間界でやる必要はないし、そもそも精神攻撃と言っても無駄があるように思える。その上大型レギオンを6体も準備するなんてそれこそ無駄の極みと言っても良いだろう……。
「妖精郷は違うか……さてさて本命はどこなのかな。オリュンポスかな、それとも……まぁなんにせよ、暫くは楽しめそうだね」
アスモデウス達は本気で今の神魔の情勢を、あり方を変えようとしている。だが正直な所アスモデウス達だけで神魔混成軍を、もっと言えば今のデタントを維持したいと思っている数多の神魔を相手に出来るかというとそれは不可能だ。ではどうするか?簡単な話だ、別の時空に隠遁している今の情勢を面白く思っていない神魔を引きずり出す事を考えているはずだ。あの6体のレギオンは2体でも霊脈に辿り着ければ別時空の道を開くだけの術式が組み込まれていた。最終目標と最低目標、どちらを達成できても良いと考えているので欺かれる。
「次は……あいつらの所にでも顔を出してみるかな」
古き支配者達、クロノスやロキと言ったどの神魔の陣営にも属せない。神魔の敵、圧制者、暴君――それらが封印されている牢獄にむかい、無人の場所を見て私は面白い事になってきたと呟くのだった……。
~横島視点~
美神さん達が戦っているのに1人だけベッドの上と言うのは非常に苦しかったが、ナイチンゲールさんに監視されているし、牛若丸やノッブちゃんもいればその目を掻い潜って戦場に出るというのは不可能で、大人しくしているしかなかった。それに不安が無かったと言えば嘘になる、狂神石の影響は紛れも無く俺の中に残っている。戦場で再び暴走するリスクを考えれば、俺は大人しくしているしかなかったのだ。
【ミスタ横島】
「は、はい!なんですか!」
ぼんやりとしていたのか耳元で声を掛けられて驚きながら返事を返す。ナイチンゲールさんはしょうがないですねと言わんばかりに肩を竦めて笑った。
【今連絡がありましたが無事に戦いが終わったそうです、負傷者はおらず、ミス・おキヌが疲労で検査入院するくらいです】
「怪我をしているとかじゃ?」
おキヌちゃんが検査入院と聞いて大丈夫なんですかと尋ねるとナイチンゲールさんは優しく微笑みかけて来た。
【ありませんので心配ありません、これで貴方も安心したでしょう?ゆっくりと休んでください】
「そ、そうですか……良かった」
レイや蘆屋を見ていただけに心配で心配でしょうがなかったが、その言葉を聞いてやっと俺は安堵の溜め息を吐く事が出来た。
【皆さんの心配をするのも判りますが、まずは自分の身体を治す事を優先してください】
【その通りだ。横島も寝て休め】
心眼とナイチンゲールさんの2人に言われれば、俺に反論の余地は無く、反対側のベッドに団子状態で寝ている茨木ちゃん達を見て、おれも大きく欠伸をした。
「じゃあ、すみません。少し寝ます……」
ナイチンゲールさんにそう告げて、俺はやっとベッドに横になり目を閉じて眠りに落ちるのだった……。
【それで実際の所はどうなんだ?ナイチンゲール】
【実際の所も何も特に異常が無いのは本当の事です。ただ、強いて言わせていただければ……ミスタ横島は強迫概念が強すぎる。定期的なカウンセリングが必要です】
肉体的に問題が無くとも精神的にはそうではないと言われ、心眼はそうかと黙り込む事になる。
【これ以上悪化しないようにメンタルケアに力を入れるようにとミス・美神、ミス・神代にも伝えておきます。貴女達も近くに居るのならば良く様子を見ておいて下さい】
念入りに気をつけるように言われ、心眼は勿論話を聞いていた牛若丸達も渋い表情を浮かべる。
【どうすれば良いのですか?】
【強迫概念かあ……ワシらには縁のない言葉じゃなあ】
元々が平和な時代で生きていた横島には戦い自体が過度なストレスになっている可能性が高い、元々戦争や戦時代の牛若丸とノッブにとってはその悩みは縁の無いものでどうすれば良いかなんて判らないなと揃って呟いた。
【少なくとも紫やチビ達は横島にとってはかなりの癒しになっているのは間違いない】
【んーではもう少し増やして良いか許可を貰いますか?】
【いやあ、でも面倒を見るところが無いぞ?】
横島へのストレスを軽減する為に何が必要かと話をする心眼達だがその方向性がどこか、と言うかかなりズレた方向に進み。最終的にはもう少し、横島が喜びそうな何かを捕まえる、あるいは育成する許可を美神達にもらおうという方向へと進み、頭が良いが、横島の事になるとかなり残念な性質になる心眼と、ボケ属性の牛若丸とノッブと突っ込み不在の中話は進んでしまうのだった……。そして至極まともな顔をして使い魔の増加を交渉された美神が死んだ目をしつつも効果的かもしれないと検討するまで後8時間……。
リポート7 初めの一歩 その1へ続く
今回はシナリオエンドの話なのでやや短めの話となりました。最終目標 ガープの本当の目的は閉鎖した世界への扉を開く、次にシャドウサーヴァントの召喚環境を作る。最後に人間達の不信感をあおり、裏切りや騙し討ちが蔓延する世界を作る。そして結局の所失敗しても、成功してもどうでも良くて本命は別のところで進行中って言うのがいやらしい所ですね。次回からはほのぼのメインでのんびりした話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。