GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL   作:混沌の魔法使い

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リポート9 悪意
その1


リポート9 悪意 その1

 

月に照らされるビルの屋上でレクス・ローが夜になっても光の消えぬ街を見下ろす。

 

「人には善と悪の心があり、絶対なる善も絶対なる悪も無い。人の心とは移ろう物であり不変ではない」

 

ビルの縁から飛び降りたレクス・ローの身体は重力に反し宙へと留まり、レクス・ローは存在しない階段を降りるかのように闇の中を歩き出す。

 

「神族は絶対の善性であり、悪を持たない。独善的ではあるが、それも正義の1つの側面である」

 

レクス・ローは誰に聞かせる訳でもなく歌うように言葉を紡ぐ。

 

「魔族は絶対の悪であり、正義を持たぬ。だが悪には悪のルールがあり、それには1つの秩序と正義がある」

 

神族と魔族について語るレクス・ローの言葉には蔑むような響きが込められていた。

 

「そうあれと、そうあらねば存在出来ぬ神魔とは実に不自由であり、そして愚かである。確かに慈しむ心も、誰かを愛する心もあるだろうが……神魔である以上避けられぬ己の存在理由が存在する。神魔は絶大な力を持つがゆえに、世界の操り人形でもあるのだ」

 

善と悪、世界に当てはめられた役割から脱する事の出来ない神魔をレクス・ローは事実蔑み、そして憐れに思っていた。本当の意味で自由であるのはルシファー以外存在しないと言う事を知っているからだ。

 

「だが人間の悪意は神魔を越える。恨み、妬み、蔑み、相手を陥れようとする人間の悪意には底が無く、どこまでも闇が深いものである……7つの大罪は人間が神魔を越える悪意を抱いていると言う証でもある」

 

傲慢――己が誰よりも優れていると思い、己を高める事を忘れ、相手が既に己を越えている事にすら気づかぬ。

 

強欲――財宝が欲しい、地位が欲しい、名誉が欲しい。それに果ては無く、決して満たされる事が無い。

 

嫉妬――自分よりも優れている者を妬み、恨み、誰からも認められたいという醜き心。

 

憤怒――己を認めぬ全ての存在を恨み、憎み、そして怒る。最も怒らねばならぬのは己自身とも知らずに……。

 

色欲――一時の快楽を求め、そして良い女を、自分よりも優れた者を組み敷く事に喜びを抱く者。

 

暴食――決して満たされることの無い貪欲なる器、それは人の業そのものを占めしていると言っても良い。

 

怠惰――己の意志で動くことなく、そして己の意志で動く事を止め自堕落に過ごす、それでもなお己は優れていると醜き心……。

 

「人間誰しも心の闇を抱き、そして罪を犯す。だがそれはある意味人間であると言う証明でもある……悪魔よりも恐ろしい人間だからしょうがない。かつてそう吐き捨てた人間がいた、魔族よりも、悪魔よりも恐ろしいのは人間なのである」

 

人間だからこそ、神魔にあるような世界に与えられたブレーキがないからこそどこまでも人は罪を犯すのである。

 

「横島達がこれより立向かうは人の悪意。世界とは決して清らかな物だけではない、世界とは美しい物であると同時に醜い物なのである。その悪意に直面し、そして絶望を知り、希望を失えば……最も愚かな結末が人間に、そして神魔へと下されるだろう」

 

レクス・ローが開いた本には1つの場面が映し出されていた。血涙を流し闇を纏う横島の姿は最早人間ではなく、龍であり、悪魔であった。その手は血に染まり、その瞳には光がない。その周りにはその爪で引き裂かれたであろう数多の人間の姿があり、横島の後には人に殺された人なざる者達達の姿があり、その中にはシロやタマモの姿があり、横島と並び立つのはアスモデウスやガープ、そしてブリュンヒルデと言った魔族の姿であり、横島達と対峙するのは美神や蛍達を初めとした人間と小竜姫達を筆頭とする神族と対峙するその姿は悪鬼その物であった。だが横島を悪鬼にさせたのは独善的な正義を掲げた人間と神族だった。

 

「悪意は決して消える事無く、そして薄まる事無く広がり続ける。その悪意を退けるか、屈するか……それとも選択の時を待たずに滅びるのか……人の悪意が滅びの引き金を引くのか、それとも人の善意が滅びを退けるのか……その選択はもうすぐ側にまで迫っているのである」

 

本を閉じたレクス・ローの姿は闇の中に溶けるように消えていくのだった……。

 

 

~蛍視点~

 

 

美神さんから仕事の打ち合わせがあると聞いて早朝から事務所に来ていたのだが、おキヌさんの姿はあったが横島の姿が無く、すぐに内密な話にしたい内容だと私は悟った。

 

「おはよう、朝早くからごめんね。だけどこれは横島君に聞かせるには少し悩む内容なのよ、私も出来れば請けたくない依頼だわ」

 

「それは分かってますけど……美神さんがそこまで言う依頼って何ですか?」

 

正直に言えばお金にがめつくなくなった美神さんは現在の日本ではNO.1と言っても良いだろう。そんな美神さんが受けたくないって言う依頼はなんだろうかと思い問いかける。

 

「華族の屋敷の除霊と土地の清めの依頼よ」

 

依頼の内容を聞いて私もおキヌさんも正直拍子抜けしたと思う。その内容はいつもの美神さんの依頼の内容で、華族の屋敷となると恨みなどが蓄積していてかなり厄介な可能性はあるが十分に達成出来る内容だと思う。

 

(でも美神さんがここまで言うって事は……何か裏がある?)

 

「これならいつも依頼じゃないですか?何か問題でもあるんですか?」

 

私が美神さんの真意を考えているとおキヌさんがそう尋ねる。美神さんは大有りよと呟いて依頼書を私達に差し出してきて、それに押されている判子を見て私の顔が引き攣った。

 

「蛍ちゃん、なんでそんな顔をするんですか?」

 

霊能の知識はあるが、それに関する法律まで詳しくないおキヌさんが尋ねてくるので私は小さく1つ溜め息を吐いてから口を開いた。

 

「霊症に関しての依頼は大まかに5つあるの、1つは民間、美神さんの所に直接依頼者が来るパターンで、依頼料金とかは本人達で話し合いになる事が多いし、中抜けもないけど……詳しい霊症のランクが分からないって欠点があるわ」

 

民間人からの依頼なので悪霊なのか、土地神なのか、それとも雑霊なのか何も分からないって言うのが民間GSの痛い所だ。

 

「後は霊具とかの実費だから下手をすると赤字になるって場合もあるわ。次はオカルトGメン、GS協会からの依頼よ」

 

私の説明を美神さんが引き継いで寄り詳しい説明をしてくれる。

 

「オカルトGメンは幅広い除霊をしているけど、精々C~Bランクくらいの除霊に留まるの。それ以上の場合か、数が多い場合に斡旋って形で私達に依頼が来るわ。これは報酬が少ない変わりに霊具とかをオカルトGメンが見てくれるから駆け出しのGSとかが受ける事が多いわ。ただ公的組織なのでちょっと面倒な所が多いわね」

 

Gメンの言う通り警察組織としての役割もあるので面倒で手間な部分もあると付け加え美神さんは小さく笑う。

 

「次はGS協会。民間GSの私達も所属してるし、GSをやるなら所属しないといけない所よ。基本は民間と同じだけどしっかりとリサーチをしてくれるから不慮の事故はかなり少なくなるけど、調査費とかは当然取られるし、依頼の成功率で難易度も当然高くなるわね」

 

「琉璃さんとか冥華さんの依頼ですね」

 

おキヌさんの言葉に美神さんと揃って苦笑する。正しくその通りだからだ、その分私達の無茶も通るので無碍には出来ないっていうのも当然ある。

 

「で次が滅多に無いけど霊防省。これは文字通り日本からの依頼で難易度も高いし、当然だけど支援も事前調査も無いけど報酬は群を抜いて高いわ、だけど当然危険な依頼が多いわ、A級GSが引退とかになるのは大概ここからの依頼で無茶振りを押し付けられて断れない場合ね」

 

日本各地の厄地に関する依頼が多く美神さんクラスでも引き受けることが少ない事例だ。

 

「そして最後が国際GS協会。世界規模のGS協会と思ってくれていいけど、これも殆ど依頼の実体が無いけど、霊防省の以来と同じ位危険な物が多いわね」

 

丁寧に説明してくれる美神さんの話を聞いて私はやっと納得が行った。

 

「どちらかからの依頼で横島の事を隠しておきたいって事ですか?」

 

霊使いや霊力の固形化なら良いが、眼魂や文殊を隠しておきたいと美神さんが考えていると私は思っていたんだけど……事はもっと厄介な案件だった。

 

「両方」

 

「「はい?」」

 

「霊防省と国際GS協会の連盟依頼よ」

 

想像を超える美神さんの言葉に依頼書を捲ると確かに次のページに国際GS協会の判子が押されていた。

 

「……マジですか」

 

「大マジよ……」

 

これ絶対とんでもない厄ネタだ。しかも断れないと来ていれば美神さんも頭を抱えるだろう。

 

「シズクやノッブ達は連れていけない依頼になるわ」

 

「……ですよね」

 

神魔に英霊を連れて行ったとなれば日本には勿体無いと間違いなく絡んでくる。眼魂は横島と陰念しか使えないので問題は無いが、文殊を使うのをばれてしまうのも避けたい。

 

「今回は霊能を縛って依頼を成功しないといけないわ。かなり厳しい仕事になるわ」

 

使える手札を制限された状態で国際GS協会と霊防省の依頼を成し遂げなくてはならない……、その余りにも厳しい依頼に私は勿論おキヌさんも頭を抱える事になるのだった……。

 

 

 

 

 

~横島視点~

 

迎えが来てアリスちゃん達は帰ることになったんだけど、当然ながら帰る時も一騒動あった。

 

「ふかあ」

 

「ココ」

 

いやいやっとアリスちゃんに着いて来た魔界のマスコット達が拒否したのだ。気持ちは分かる、分かるんだけど……俺の家では面倒を見切れないし、帰ってもらうしかないので説得するしかないのだが、当然俺の言葉は通じないし……。

 

「茨木ちゃん。なんとかなる?」

 

「何とかなるならもうしてる」

 

「だよなあ……」

 

足にしがみ付かれているので正直に言うと痛くなって来ているので早く何とかしないと思っていると突然強烈な雷音が響き渡った。

 

「みっぎいッ!!」

 

チビが超怒ってる……ッ。その迫力には思わず俺も後ずさるレベルだったと思う……マスコット組は脅え出し、丸くなりチビがその前に立って前足を振りながら何か言ってる。何か言ってるんだけど……やっぱり俺には何を言っているのか判らない。

 

「なんて言ってるの?」

 

チビ達の言葉が判るアリスちゃん達に助けを求める。

 

「えっとね。もっと強くないとお兄ちゃんの迷惑になるって言ってるよ」

 

「可愛くて強くなったら横島も使い魔にすることを考えてくれると思うと言ってますね」

 

「だから迷惑をかけないでもっと強くなってから来るようにと」

 

【可愛さと強さを兼ね備えなければマスコットじゃないって】

 

……どういう事なんだ。みむやみみーしか言ってないんだけど、凄い内容をチビは考えているようだ。

 

「フカ!フカフカ!!」

 

「ココォ!!」

 

「モーノッ!!」

 

「ヨーギイッ!!」

 

気合満点の鳴き声を上げ、前足か頭を向けてくるのでとりあえず前足を出せる組は握手し、頭を差し出してきたのは頭を撫でると気合が入ったのか回りだして小さい身体で出来るだけのアピールを見せて来た。

 

「じゃあ、お兄ちゃん。今日は帰るね、また遊びに来るし、お兄ちゃんも遊びに来てね!」

 

「今度は天狗の御屋敷をご案内します。ですので今度は遊びに来てくださいね」

 

「お父様に許可を得たら横島を家にご招待しますね」

 

また遊びに来るし、今度は遊びに来てくれと言ってブリュンヒルデさんとジークと一緒に帰るアリスちゃんと、2人の天狗が担ぐ籠に乗って帰る天ちゃん、そしてご迷惑を掛けましたと頭を下げる小竜姫様が天竜姫ちゃんと清姫ちゃんを連れて帰って行ったのだが……。

 

「天狗ってどこに住んでるんだ?」

 

【妖界という妖怪が住む天界や魔界のような場所だな】

 

「人間は大丈夫なのか?」

 

【あ、それは大丈夫ですよ主殿。何を隠そうこの牛若丸、天狗と暮らしていた時期がありますので!】

 

そう笑う牛若丸にとりあえず人間が行っても大丈夫という事は判ったが、1日や2日で納得してくれるとは思えないので1週間、いやもしかするともっと滞在することになるかもしれないと思うと軽い気持ちで返事をしたのは失敗だったかなと思うのだが、あそこまで言われると俺としても断りにくかったし……しょうがないと割り切る事にして振り返る。

 

「とりあえずあれかな……引越しできるようにもう少し美神さんの手伝いを頑張ろうと思うんだけど皆はどう思う?」

 

今の家ではちょっと本気で手狭になってきているし、シルバーアクセサリーを売るのは食費の足しにするのが限界だ。

 

「……まあ確かに狭くなってきているしな……」

 

「広い家ってなれば庭もあるわよね」

 

「もっと広い庭でござるか!拙者は大歓迎でござるよ!」

 

「広い家だったらアリス達も遊びに来れるね、私も賛成だよお兄様」

 

「吾は木登りできる大きな木があれば満足だな」

 

【俺ッチは居候だし、文句はねえよ。でも横島が新しい屋敷が欲しいっつうなら俺ッチも協力するぜ】

 

【ワシは勿論大賛成じゃな、足を伸ばして入れる風呂がそろそろ恋しいし】

 

【私は主殿の意向に従いますよ。主殿が喜ばれるのならばどんな事でもする所存です】

 

【私は良く判りません】

 

リリィちゃんだけは駄目な方向にドヤ顔してるけど、まぁ概ね賛成ってことで良いんだよな多分……。丁度その時電話が鳴り響き、俺は美神さんから仕事の話かなと思い、庭からリビングに入り受話器を手にする。

 

「もしもし、横島です」

 

『横島君。悪いけど仕事の打ち合わせがあるの、えっと……今からだと15時ね。15時に事務所に来てくれるかしら?』

 

手帳にメモをしながら判りましたと返事を返す、これからも皆で楽しく過ごす為に張り切って除霊助手として、そしていつかはプロのGS免許を取ろうと決意を新たにするのだった……。

 

 

 

美神達がありえない依頼に不安を抱き、横島が未来への希望を抱いているその頃――東京から遠く離れた山の中の屋敷では途方も無い悪意が脈打ち始めていた。

 

「では須狩君、頼んだよ」

 

「分かりました。任せてください」

 

「キッヒヒヒ。西部を潰してくれた恨み……ここで晴らしてくれようぞ」

 

「西部だけでない、東部も潰してくれたのだ。それ相応の罰を受けてもらおうではないか、人造魔族の母体としてな」

 

「ヒャヒャヒャ。美神令子を母体とすればさぞ優秀な人造魔族が作れるじゃろうて」

 

かつては霊能兵器開発部門で己の好奇心を、そして会社の命令のままに悪逆を繰り返し、人体実験を続けてた西部・南部・東部・北部の4つの会社は倒産、あるいは霊能兵器開発部門を全てリストラした。それでもなお、かつての実験を、悪魔に犯される女を、悪魔に食われて死んでいく子供を見ると言う残虐な楽しみを捨て切れなかった者達はガープの庇護の元再び活動を開始していた。

 

「ああ、楽しみだ楽しみだ」

 

「復讐してやろう。我々をこんな僻地に追いやってくれた者達に」

 

「殺せ、壊せ、犯せ、奪え……力ある者は何をしても許されるのじゃッ!!」

 

人間でありながら悪魔よりも恐ろしい、そして自分達は選ばれたのだ、何をしても許されるのだという底なしの悪意……。

 

「ンンンン――人間でありながら悪魔であり、その魂は既に穢れきっておりますなあ」

 

廃墟の屋敷の屋上に立つ怪人――蘆屋道貞は嗤い続ける、おろかな人間を嘲笑い、その醜悪さを見て笑うのだ。

 

「絶望せよ、憎め、人を見限らせろ……ンンンンン、ガープ様のご命令ですが、今回は拙僧も楽しめそうですなあ」

 

霊能兵器を開発していた馬鹿達に入れ知恵したのも、貴重な神魔の体細胞を与えたのも全ては横島に人の悪意を見せ付けさせるため……。

 

「ンンンン、時に人は悪魔よりも恐ろしい……どうぞご覧あれ、人の悪意をね」

 

そう笑った蘆屋の姿は闇の中に溶けるように消えて行った、そしてそれから2日後横島達はこの悪意に満ちた屋敷に足を踏み入れるのだった……。

 

 

 

リポート9 悪意 その2へ続く

 

 




かなり悪い感じになりましたが、今回の話は人間の暴走、そして悪意の表れというのを横島達に目撃させるという話になります。
つまりシリアスパートやマスコットパートに分かれて話が進む感じです。操るのではない、洗脳するのではない、自ら人間を見限らせ自分達の陣営に引き込もうとするアスモデウス達の策略が始まっていく感じです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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