GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
リポート9 悪意その2
~くえす視点~
美神と蛍の2人から話を聞いた私は不機嫌に足踏みを繰り返した。国際GS協会と霊防省からの依頼――きな臭いと通り越して罠そのものと言っても良いだろう。
「くえすはどう思う?」
「100%罠でしょうね。文珠や眼魂を使えば横島は間違いなく保護と言う名の実験動物ですわ」
文珠も眼魂も人間が使っていい能力ではない、それを見られてしまえば霊能の保護という名目で横島を連れ出して、実験動物とするだろう。
「……やっぱりそうよね。一応それを使わなくても横島君は十分戦えると思うけど……もしもガープとかが出て来たらとなるとまず無理よね」
通常の除霊なら文珠と眼魂を使わなくても戦えるほどに横島は力をつけているが、レイや蘆屋が出てきたら眼魂を使わなければ間違いなく死ぬ。その状況ならば横島は駄目だと言われても眼魂を使うだろう……。
「くえす、助っ人でこれるかしら?」
「私は問題ありませんわよ」
態々私を呼んだという事は助っ人依頼と言うことは分かっているので、それを2つ返事で了承すると美神と蛍も笑みを浮かべるが、私がただで引き受けるとでも思っているのでしょうかと思わず笑ってしまう。
「これで良いですわよ」
指3本を立てると美神が小切手を取り出し、机の上においた。
「3千万?それとも3億かしら?」
AクラスのGSの相場から見てもかなりの高額をポンと出してくるが、金で動くほど私は愚かではない。
「作りたい霊具があるので3日ほど横島を貸してくれればそれで結構ですわよ?」
蛍がむっと眉を細めるが、いつもヘタレているので怒る理由なんて無いだろう。
「……変な事は駄目よ?」
「それは横島次第では?」
「1000%無いってそれは言うのよ?」
まぁそうですわね。女と一緒でも襲うようなタイプではないので、軽い挑発と言った所だろう。
「それでお願いするわ。くえすがいれば合流しやすいと思うし」
「引き受けましたわ、でも私を乗り物と思っているのはいただけませんわね」
分断されても転移で合流出来るだろうと思っているのは判りますが、乗り物扱いは解せないと睨むと美神は苦笑する。
「最悪横島君と合流さえしてくれれば良いの、頼めるでしょう?」
「はいはい、分かりましたわ。それで横島は何時来るのです?」
横島も打ち合わせに来ると聞いていたのですが、横島の姿が無いので何時来るのですか?と尋ねる。
「15時に来るように言っておいたんだけどね……」
「ちょっと様子見てきますね」
「なら私も行きますわ」
時刻は既に16時になろうとしている、なにか問題が起きたかもしれないと思い蛍と一緒に横島を探しに行こうとソファーから腰を浮かすと同時に応接間の扉が弾け飛んで横島が転がり落ちて来た。
「あいたたた……すいません、少し遅れました。ちょっと手間取ってて、モグラちゃん駄目だってッ!、小さく小さくッ!!、引っかかってるからッ!!!」
頭を振りながら横島が身を起こし振り返る。その動きにつられて応接間の入り口に視線を向けるとモグラが引っかかっていた。
「うきゅー……」
「いっちゃんは大丈夫!?」
【はい、私は大丈夫ですよ。ゆっくりモグラちゃんを助けてあげてください】
渋鯖人工幽霊壱号に声を掛けながら扉に引っかかっているモグラの救出をしている横島を見て、私は軽い頭痛を覚えた。トラブルなのは分かっていたがまさかモグラが付いて来るのは想定外だったからだ。
「……やっぱりトラブルでしたわね」
「そうね……ちょっと胃薬飲んで良いかしら?」
「どうぞ」
横島の使い魔であり現在妙神山で修行中のはずの龍の幼生であるモグラが何故ここにと思う反面、妖使いで登録されている横島には頼りになる援軍かもしれないと思い、私達はどうしてモグラがここにいるのかと横島に問いかけるのだった……。
~小竜姫視点~
東京と妙神山を繋ぐ拠点であるブリュンヒルデさんのマンションで私は机に突っ伏して項垂れていた。
「やってしまいましたあ……」
「何をしてしまったんです?」
「お真面目なお前がそこまで後悔するミスってなんだい?」
ブリュンヒルデさんは心配してくれているが、メドーサは尻拭いをさせられるのはごめんだと言わんばかりの冷めた目を私に向けてきている。
「……あのですね、天竜姫様が横島さんの家に遊びに行っていたんですよ。それをモグラちゃんが知ってしまいまして、自分も行くと物凄い大騒ぎだったんですよ」
「「あー……なるほど」」
モグラちゃんはまだ子供だが、土龍族の天才とロンさんが言うほどの逸材であり、恐ろしい強さと才覚を秘めている。そんなモグラちゃんが暴れていたと聞けばブリュンヒルデさんとメドーサも納得したって言う表情を浮かべる。
「でも駄目だと言ったんでしょう?」
「あいつをまだ地上に連れてくるのは危ないだろ?怒って駄目だって言うのも大人の仕事さ」
竜気のコントロールは6割ほどで、確かに地上に連れてくるのは些か不安がある。だから2人は私がモグラちゃんに怒って凹んでいる……と思っているのでしょう。
「いえ、連れてきました」
「なにしてるんですか!?」
「正気か!?」
酷い言われようだが、自分でも正直そう思う……だけど駄目だったのだ。
「……私はモグラちゃんに弱みを握られています」
「はい?何をしたんですか?」
「あいつそんなことするか?」
天真爛漫で努力家で横島さんが大好きな甘えん坊のモグラちゃんがそんなことしないだろ?と言わんばかりの視線を向けられますが、これは事実なんですよね。
「物凄く頼んで横島さんの胸像を作って貰ったんですよ。流石にそんなのを部屋に飾ってるって知られるとドン引かれるんじゃないかなって……それだけは隠さないとって思ったんですよ。いやいや、何ですかその目は……」
ブリュンヒルデさんとメドーサが物凄く引いた目で私を見ている、ついでに言うと椅子ごと引いている姿を見ると超ドン引きされているのが良く判る。
「いえ、それは引きます」
「正直気持ち悪い」
「そこまで言いますか!?」
自分でも正直ちょっと気持ち悪いって思っているんだけど……同僚にまで言われると正直泣きそうになってくる。
「でも確かにそれを紫ちゃんから横島さんに言われるとなると……」
「横島がお前から距離を取るな」
それが分かっているからモグラちゃんのおねだりという名の強迫に私は屈してしまったのだ。横島さんに蔑んだ目で見られるのだけは私は耐えられなかったのだ。
「でも、モグラちゃんが本当に言わないって限らないと思いますけど……?」
「と言うかあいつ横島の石像とか良く作ってるから横島に見せるんじゃないか?」
「はう!?」
子供が好きな人に自分が得意な物を見せるのは良くあることで、その事を失念していた私は思わず奇声を発して机に再び突っ伏すのだった……なおその頃美神の事務所では横島がにこにこと笑いながら鞄から自分の胸像を取り出していた。
「これモグラちゃんが作ってくれたんですよ。モグラちゃんって凄い器用みたいなんですよ」
「「……」」
「横島君、それとりあえずしまっておいてくれる?」
「……分かりました?」
蛍とくえすが胸像を見て怪しい顔をしており、話が進まなくなると判断した美神に片付けるように言われ、横島は何とも言えない表情で胸像を鞄の中に戻したが、くえすと蛍はモグラちゃんをガン見したままなのだった……。
~横島視点~
小竜姫様が連れてきてくれたモグラちゃんを膝の上に乗せて頭を撫でる。ちょっとした大型犬くらいの大きさで抱き抱えるとなんか落ち着く大きさだ。
「ちょっと獣臭いから家に帰ったらお風呂入ろうか?」
「……うきゅー」
「そんな嫌そうな鳴声しても駄目、丁度うりぼーとチビのお風呂の日だからモグラちゃんも一緒」
チビもうりぼーも嫌そうにしているがやはり定期的なお風呂は大事だと思う。むーっと嫌そうに伏せるモグラちゃんの背中を撫でながら机の上の書類を持ち上げる。今回の仕事の内容を確認して俺は思わず眉を細めた。
「文珠は分かるんですけど……眼魂とかシズクにノッブちゃんの力を借りても駄目なんですか?」
眼魂も駄目、文珠も駄目、そしてシズクとノッブちゃん達も駄目と、これは俺にしては初めての事だし縛りがここまできついのには驚いた。
「今回はちょっとかなり口うるさい所の依頼でね。あんまり珍しい霊能を使うとうるさいのよ」
【……霊防省か?】
「国際GS協会も関わってるのよ、心眼」
【むう……確かにそれでは眼魂などを使うのは良くないな。横島覚えているか?貴重な霊能の保護という名目で人を幽閉する機関があると説明しただろう?】
確かにそれは覚えている。めちゃくちゃ怖いって怖がったのも良く覚えているが……まさかと思わず美神さんに視線を向ける。
「その機関からの依頼なのよ、本当は断りたいんだけど琉璃達に迷惑を掛ける事になるからね、くえすを助っ人に呼んで、私と蛍ちゃんとくえすと横島君、それとチビ達でやり遂げようと思うの」
「じ……くえすさんとですか」
「ええ、よろしくお願いしますわ」
「ちょい待ち。なんでくえす呼びになってるの?」
蛍が待ったと声を掛けてくるがなんと説明すれば良いのだろうか?と思わず首を傾げる。
「付き合いも長いのにいつまでも苗字で呼ばれていたら面白くないですわ。だから横島からシルバーアクセサリーを買った時に名前で呼ぶように言ったのですわ、何かおかしい事でも?」
「……いえ、おかしくはないわよ?おかしくはね?」
蛍とくえすさんの間に火花が散ったように見えるけど気のせいかな、というか気のせいって思いたいなあ……。
「それで美神さん、この場所にはどうやって行くんですか?」
「ん、そうね。向こう側からヘリコプターで迎えにくるみたい。除霊と地鎮祭が済むまでは帰れないわね。蛍ちゃんとくえすも無駄話してないでこっちに混ざりなさい」
美神さんがパンパンと手を叩き、机の上に衛星写真だろうか、山に囲まれた屋敷の写真を広げる。
「これはまた……とって作ったような屋敷ですわね」
「……どうやってここまで来たのよ」
「確かになぁ……」
噴水付きの広場に薔薇園に石像と屋敷の持ち主がかなりの金持ちなのは分かるが、交通の便がおかしいと言わざるを得ない。写真を見る限りではどこを見ても屋敷に繋がっている道が無いのだ。
「これじゃまるで陸の孤島だ……」
陸地なのに海の真ん中に浮かんでいる無人島のように俺には思えた。
「陸の孤島……あながち間違ってるとは言えないですわね。美神、向こうはなんと?」
「隕石落し事件とダイダラボッチ事件の時の地震で山が崩落してるって言ってるわね。悪霊が周りに多いから屋敷と土地を浄化して工事を出来るようにして欲しいっていう話だけど……」
「全部は信用出来ないですね。陸路の移動は無理で、ヘリコプターでの移動するって事は地力で帰るのは無理かもしれないわね」
蛍の言葉を聞いて俺は首を傾げた。くえすさんがいるなら転移で東京に戻れるじゃないかと思ったからだ。
「まず見て見ないと分かりませんが、霊脈が乱れていたりすれば転移は難しくなりますわ。私1人なら可能ですが……」
「私達を連れては帰れないって訳。後はくえすに助っ人を頼んだのは屋敷の中で分断されたときに合流する為よ。この依頼自体が罠で各個撃破なんて洒落にならないからね」
罠と美神さんが口にするって事はやはり今回の件は相当込み入った事情がありそうだ。それにガープ達の動きも無いのでここら辺で動いてくるような気がしている。
「うりぼーが増えれるから物資はうりぼーに運んでもらって、ドクターカオスに簡易シェルターを依頼してるから拠点はそっち、あとは横島君はシズクに清めた水を用意して貰ってくれる?」
「清めた……あ、転移ってことですね」
普通の水でもシズクは転移できるが自分で清めた水ならばその精度は段違いに上がるし、シズクが転移してくることも、俺達が転移することも可能だろう。
「出来ればやりたくはないけど、本当に緊急事態に備えてって所よ、だから今日はとりあえず食料とかを準備するつもりよ」
食料までこっちで準備をするって事は本格的に依頼主も敵って言う可能性が高いって事が伝わってきて、嫌でも緊張するのが良く判る。
「GS商売をしていて名が売れてくればこんな事は良くあるわ。蛍ちゃんも横島君もそろそろこういう依頼を受ける時期って事よ、私も結構経験があるしくえすはどう?」
「そんなのあるに決まってますわ。有名になれば中堅所のGSには目の上のたんこぶですしね、まぁ馬鹿は全部返り討ちにしましたけどね」
美神さんやくえすさんも経験があるような自分達を陥れるような依頼――だがこれはGSになるのならば避けては通れない道だと言われれば俺も覚悟を決めるしかない。自分の夢を叶えるための第一歩なのだからビビッている場合ではないのだ。
「うん、良い顔になったわね。時間がないし、どこまで道具を持ち込めるかって言う不安もあるわ。だけどそんなことを言っていたら何も始まらないわ、今出来る最善をしてこの仕事に望みましょう」
美神さんの言葉に俺と蛍は同時に返事を返しくえすさんはいつもの様に私がいるのだから何も心配はないと自信満々という感じで言い放つ、確かに緊張も不安もあるがこれでこそって感じがするし、皆がいれば大丈夫だと思えば思わず笑みを浮かぶ、俺達は除霊に向けての準備の為に美神さんの事務所を後にするのだった。だが俺はまだ勘違いしていたのかもしれない……人の悪意と言うのはガープなんかよりももっと邪悪で、そして救い様の無いものであると言う事を俺はまだ理解していないのだった……。
リポート9 悪意その3へ続く
次回からはサバイバルの館の難易度をルナティックにしてお送りします。原作より悪辣かつ用意周到な罠を用意して見ようかなと思います。特にくえすを入れたのは5人にして、2、2、1+マスコットって感じで話を進めて行こうと思います。まぁその割り振りでどういう組み合わせか分かると思いますがサバイバルの館はそんな感じで進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。