GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
リポート9 悪意 その5
7日目まで美神達が突入を待ったのは屋敷の守りや罠を暴く為だけではなかった。転移で来れないのならば、直接出向くまで待つリミットが7日目だったのだ。月の満ち欠け、そして霊脈などの都合もあり最大能力を発揮出来るのは7日目、8日目が限界で、それ以降はなだらかに霊力が弱まっていく、7日目までに応援が来なければ突入するというのは最初の打ち合わせで決まっていた事であった。
「……駄目だ。結界が強すぎる、しかもこれは……」
「対神・竜族の物ですね……シズクさんが転移出来なかったのもこれが原因でしょう」
小竜姫を始めとした応援部隊は屋敷のある県に突入する事すら拒まれていた。霊的だけではなく、物理的にも強固な結界が展開されており小竜姫でさえそれを破壊するのは極めて困難だった。
「近くまで来ているのですからシズクさんが転移するのは無理なのですか?物資も送っていたんですし、この距離までこれば不可能ではないのではないでしょうか?」
ブリュンヒルデの問いかけにシズクは渋い顔で無理だと呟き、手を地面に近づける。
「……くう」
指先が地面に触れる瞬間だった。地面から放たれた電撃がシズクの身体を吹き飛ばし、木に叩き付けられたシズクはその場に崩れ落ちた。
「……見ただろ、転移対策だ。それにこれは……」
「神魔大戦の時の天界側の結界」
「そんな!?何故」
「何故だと?わからないのかい、小竜姫。今回の件……絵を書いているのは天界、それも西洋系の天使達だよ」
メドーサが忌々しそうに呟き刺股を虚空へと消し、その視線を館へと向ける。
「私達に対策してやがる。通れるとしたら西洋系の神魔だけだろうよ。ブリュンヒルデ、あんたはどうだ?」
ブリュンヒルデが結界に触れると同時に弾かれ、その白魚のような肌は酷く焼け爛れていた。
「駄目みたいですね。連絡が取れるから突入できると思っていたんですけどね」
水を通じて連絡を取る事が出来ていたので直接来れば美神達の助けが出来ると考えていた小竜姫達は結界に阻まれ、無理に押し通れば神魔であってもしても、いや神魔だからこそ致命的なダメージを受ける事になると分かり悔しそうに唇を噛み締めながらその場を後にする。
「ヘリの飛行記録はないですって?」
『ああ。今確認したがヘリの飛行記録はないそうだ』
「待ってよ、美神達はヘリで現場に向かったんじゃないワケ!?」
ヘリで移動したのだからそのヘリを徴収すれば美神達の応援に行けると考えていた琉璃達も出発すら出来なかった。
『恐らく魔法、あるいは天使の変身だったのかもしれない、そうなると依頼書の住所や地図は何の役にも立たない』
「異界の可能性があるって事ですか……厄介な」
ヘリが東京から飛んだ記録は無く、そして美神達が乗っていたヘリの目撃記録も無いと琉璃はその顔をゆがめる。
「単発的な襲撃はこの情報を掴ませない為だったのね」
「どうしましょう~」
散発的な悪魔と悪霊の襲撃によってヘリの情報を掴ませないようにし、シズクの転移によって物資を送る事がで来ている事から転移やヘリの移動で応援に向かう事が出来ると判断し散発的な襲撃に対応していた事が罠であったと気付き琉璃達は苛立ちを隠そうとせず机に拳を叩きつける。
「ここでジッとしているわけには行かないわ、駄目元で私達も向かって……きゃあッ!?」
琉璃の言葉は凄まじい振動によって阻まれた。地震とは違う衝撃に窓に向かって走った琉璃達はその顔を驚愕に歪めた。
「ゴーレムッ!?」
「ゴーレムだけじゃないわけガーゴイルまでいるわけ!?」
「いやーんッ!!これじゃあ横島君達の応援に行けないわ~」
そして琉璃達もまた美神達の応援に向かえない様にといわんばかりに無数の霊的兵器の強襲を受けていた。美神達が屋敷へと突入した事で琉璃達の妨害もより本格的なものへと代わり始めていた。
~蘆屋視点~
横島に人間の悪意を見せるという目的で人造神魔を研究していた人間達に少しばかりのてこ入れを致しましたが、結果は拙僧の予想を遥かに上回る成果を見せてくれたと言えますでしょう。モニターに映る美神達を見て生唾を飲み込んでいる者を見て、拙僧は小さく隙だらけと呟き、その背後に回る。
「ひっひひ……やっぱり良い女だよなあ」
「前のGSの女も中々悪くなかったが、こいつらは別格だよなあ」
「薬を使って理性さえ飛ばしちまえば怖い物なんて何もねえしなぁ」
美神令子、神宮寺くえす、芦蛍、そして氷室おキヌ……タイプこそ違えど誰もが振り返るような美人を見て、卑猥な妄想に浸っている愚か者達に向かって小さくオンっと呟き陰陽術を施す。
「蘆屋さん、どうかしましたか?」
「んんん、いえいえ、何でもありませんよ。結界は壊されましたが罠はまだまだありますし、焦ることもありますまい」
土龍の一撃と横島のダウジングで結界の要を破壊されましたが、これは正直想定内だ。ビュレトの血を引く魔女がいるのだから容易に突っ込んでくるという事はありえないと分っていましたからね。
「そういうことじゃよ、若造共。焦ることはない、なーにちゃんとお前達にも回してやるから安心せい」
「ああいう気の強い女ほど好き物なんだよ。捕まえてしまえば好きに出来るんだ、もう少し待ってろよ」
「飽きれば悪魔や魔獣の一物で泣き叫んでいるの見て楽しめばよかろう」
この屋敷の地下にいる人間は醜悪としか言いようがない、自らの欲求を満たす為に偽りの依頼を出し、何十人もの女のGSを嬲り者にし、人造神魔の母体とし、死ねば悪魔の餌とする。
(なんと醜き事か、畜生にも劣る)
拙僧も人の事を言えた存在では無いが……それでも最低限のモラルは有しているつもりだ。だがこやつらにはそれすらもない、やはり人間は愚かで醜悪だと思い知らされる。
「どちらへ?」
「拙僧がやるべき事はもうございませんからな。後は其方で頑張ってくだされ」
お膳立ては全てした、これで横島達が敗れ囚われるのならば……所詮そこまでだったという事。だが抗い、ここまで辿り着いたのならば……また話は変わる。
「愚かなり」
拙僧が部屋を出るなり襲ってきた人造魔族を片手で引き裂き焼き尽くす。用が済めば情報が流出しないように殺す……それはある意味最も正しい選択ではありますが……拙僧を相手にするにはこの程度の人造魔族では何の役にも立たないという事を分っていないのが余りにも愚かで思わず笑ってしまう……。
「しかしこれで拙僧も計画通りに事を進めれるというものです。因果応報、ンンン、自分達の行いを後悔するとよろしい」
剣指を振るい仕込んで来た術を全て時間差で発動するようにし、鼻歌を歌いながら地下を後にする。
「敵の敵は味方と言いますし……たまには正義の味方をするのも悪くはない。まぁ、マッチポンプなのですがね!」
私達がそそのかし、そして矮小な欲望を肥大化させた者達の暴走ですが……既に拙僧の事は忘れてしまっているでしょうから、拙僧の名前があいつ達から出ることも無い。
「さてさて。参りましょうかね」
妖精や温厚な女の魔族を捕えている塔へと足を向ける。横島も其方に落とされる筈と微笑みながら拙僧は闇の中へと己の身体を沈みこませるのだった……。
~おキヌ視点~
人造魔族を研究していた南部グループの屋敷――これは私が覚えている事件だったが、余りにも事情が違っていた。まずは霊防省と国際GS協会からの依頼、次に堕天使や、大量のゾンビの出現に、極めつけは弱体化を促す元始風水盤のような結界と本当に同じ事件なのかと思うほどに状況は悪化していた。
「おキヌちゃん、横島君。入ってきた扉を閉めないで、それと鏡に映らないように気をつけて、くえす」
「わかってますわ」
神宮寺さんの放った銃弾が鏡を破壊し、鏡から黒い煙のような靄が吹き出る。
「今のは?」
「凄く嫌な感じがしましたけど……」
見ただけで気分が悪くなるような、そんな黒い煙、いや霊力だった。美神さん達にあれはなんだったのかと横島さんと一緒に問いかける。
「あそこと、あそこ、それと通路の鏡が全部繋がってるのよ、あの鏡で魔法陣が映し出される角度でね。もしも映っていたら……」
「「映っていたら?」」
そこで言葉を切った蛍ちゃんに横島さんと思わず唾を飲み込みながら、どうなるのかを尋ねる。
「最悪即死、その次で霊力の封印、幻覚、操られるとかね」
デストラップだったとしり、思わず横島さんと一緒に引き攣った悲鳴を上げた。
「そんなのがあちこちに仕掛けられてるのよ。下手に扉を開けたり、閉めたりしないで、何を基点にして術が作動するか分からないから」
美神さんの警告に壊れた玩具のように何度も何度も頷き、横島さんはチビちゃん達を抱き抱えて、余計な事をしないようにして扉から離れる。
「心眼、ここまだ仕掛けある?」
【ある、魔力の残滓があちこちにある……そこの花瓶と机の上の皿、それを破壊してくれ】
美神さんの問いかけに心眼が返事を返し、神宮寺さんが机に蹴りを入れて机を引っくり返す。
「くえすさん!?」
「これが1番手っ取り早いのですわ、なるほど……時限式のトラップと言う所ですか、蛍。そっちは?」
神宮寺さんが花瓶を引っくり返している蛍ちゃんにそう問いかける。すると蛍ちゃんはゆっくりと振り返り、不気味な人形を掲げた。
「姿写しの人形ね。これに完全に姿をコピーされてたら終わってたわ」
「そうね。身体の自由を奪われて完全に詰んでたわね、何されても抵抗も出来ないんだから……」
何をされても抵抗出来ない……それが何を意味するかは言うまでも無いだろう、人造魔族やゾンビを作っている連中がまともな倫理観を持っているわけがないので、慰み者にされて実験台か何かにされるのが目に見えている。
(お義父さんも言ってたし……)
女のGSが1番気をつけなくてはならない事だと口を酸っぱくして言われている。事実名家と言われる霊能者の家には優秀な女のGSを優秀な子供を産ませる胎盤くらいに思っている家もある……捕まった末路が脳裏を過ぎり、思わず身体を抱いて震える。
「……しかしこの狭い部屋にこれだけの呪物を用意するとはまともではないですわね」
「そうね、効果を発揮しやすい物をとにかくやたら滅多ら詰め込んでるって感じね。少なくとも霊能者がすることじゃないわ」
美神さん達も顔を歪めながら話をさっさとすり替えてしまう。だけど、それで良いと思う。こんな胸糞の悪い話は長くする物じゃないと思うから……。
「おキヌちゃん。笛吹いてくれる?」
「はい、分かりました。横島さん」
部屋を調べる前にネクロマンサーの笛で何か反応があるかどうかを調べる為に笛を巫女服の中から取り出す。
「これで何の反応も無ければまた1から調べ直しですわね」
「そうね、2階に続く階段も見つからないし、今の所3部屋にそれらしい物も無かったけど……隠し階段とか通路がある可能性はあるわね」
外目は2階建ての豪華な見た目の屋敷だったが、中は見た目と違って質素な作りであり、罠や仕掛け、呪物が多く仕掛けられているが殆ど空き部屋で生活の痕跡などは見当たらなかったけど……ここではどうだろうか、何か手掛かりがあればと思いながら私はネクロマンサーの笛に息を吹き込んだのだった……。
~蛍視点~
誰も口にする事はなかったけど、多分ここで捕まれば自分達が慰み者にされる事は分かっていた。いや、もっと言えば国際GS協会や霊防省から見ても私達が強力な霊能者という事で、今回の暴挙に出た可能性もある。
(……本当かなって思ってたけど、この調子だと本当の事っぽいわね)
強力な霊能者を増やそうという話があって、有能な霊能者同士の結婚の強要、優秀な男のGSに何人もの若い女のGSを与えていたって言う話があったけど……もしかすると霊防省や、国際GS協会の絡んだ事件だったのかもしれない。
「……なんか蛍、今回の笛の音色。少し音が低くないか?少し寒くなって来た気がする」
横島がチビ達を抱き抱えながらそう尋ねてくる。確かに部屋全体の気温が下がってきているのは間違いない……。
「美神さん、これって」
「ビンゴ、当たりよ。本当は外れて欲しかったけどね」
私達の見ている前で血塗れの女の幽霊がその姿を見せる。思わず身構えかけたけど……私達はすぐに腕を下ろした。その幽霊の服装はGSの物であったからだ。その服装を見ればこの人が私達の前にこの屋敷に足を踏み入れて死んでしまった被害者である事は明らかだった……
【気を……けて……ここ……界】
ネクロマンサーの笛の音色で姿を取り戻した女性は掠れ掠れの声で私達に警告の言葉を告げる。
【……死ん……だ……めれて……地……極……げ……て……間……合う】
死んでもなおこの土地に縛られ成仏出来ないのだろう、ボロボロの姿は恐らく……その姿で死んだという証……余りにも酷すぎる。
「私達は貴女をこんな目に合わせたやつらを捕まえに来たの、だから教えて……どうすれば貴女をそんな目にあわせた奴らの所にいけるの」
美神さんの問いかけに幽霊は悲しそうに目を伏せて首を左右に振った。
【……分から……な……い】
「分からない?罠か何かって事?」
【……捕まって……た……苦し……いた……泣いても……くれ……い】
段々声が遠くになっていく、おキヌさんに視線を向けると大粒の汗を流しながらネクロマンサーの笛を奏でている。その姿を見て、何かの影響を受けているのだろう。もしかするとGSなのに、その霊体がこんなに崩れているのと関係しているかもしれない。
「これだけは教えて、これをやっているのは人間?」
美神さんの問いかけに幽霊は小さく頷き、その霊体は弾けるように消滅した。
「今の……もしかして霊体が砕け散った」
【いや、違う……恐らくこの屋敷のあちこちに身体が散らばっているのだろう……むごいことをする物だ】
心眼の言葉に横島が目を見開いたけど、私達も同じ意見だ。そもそもGSの霊体が四散しているっていう段階で異常だ。霊能者のよっぽどなことが無ければ非常に安定した状態になることが多いが、あそこまで消耗しているのを見ると相当嬲られた挙句に悪魔か魔獣の餌にされた可能性が高い。
「横島君、おキヌちゃん、蛍ちゃん。こっちに来なさい、彼女の成仏を祈るわよ」
本当は遺体を捜してきっちりと埋葬してあげたいけど……今は時間が無い、こんな非道をした連中を必ず捕まえると心に誓い、少しでも彼女の霊体の痛みが和らぐ事を祈る。
「もう1度来た部屋をきっちり調べなおすわよ、今のままじゃ余りにも手掛かりが無さ過ぎる。私達まで彼女達の二の舞になりかねないわ、慎重に、常に最悪を想定して行動してちょうだい、これをやっているのは人間だけどガープや魔族を相手にした戦いと思ってね」
口調はいつも通りだが怒りを露にしている美神さんに頷いて再び屋敷の捜索、2階、もしくは地下に続く隠し通路等のギミックを探す。
だがそれらしいものは無く、あったものと言えば勝手に動き出して襲ってくる人形。
引き出しを開けると鏡があり、天井などの線や家具と合わせて魔法陣を描き出すというトラップ。
と言ったブービートラップに油断している者を確実に仕留めに来るというタイプの罠ばかりだった。
「それらしい手掛かりはありませんわね、見た所の罠は全て潰しましたが……」
「そうね、どこかに階段とかを出現させるカラクリでもあるかと思ったけど……そういうのはないし……横島君、心眼にそろそろ霊視の結果が出たか聞いて見てくれる?」
まぁその罠も殆ど効力を発揮する事は無く、完全に効力を発揮する前に無力化したけど……どこもかしこもトラップばかりで正直うんざりして来た所で美神さんが横島に霊視を続けていた心眼に何かわかった事があるか聞いてみてくれと声を掛ける。
「心眼どうだ?何か隠されていたりしないか?これだけ探しても何も無いっていうのはおかしいだろ?」
しかし調べてもそれらしい手掛かりは見つからず、もっと言えば悪霊やゾンビの出現する気配も無いままに屋敷に突入して2時間が経過している。確かに調べればそれなりにおかしい物はある、だがそれはあくまでGSを殺す為の仕掛けであり、地下や2階に続く道を開くギミックではないものばかりだ。心眼が意識を集中させて霊視をすると言って30分ほど、そろそろ何かの成果が出たと思っていたのだが、心眼は申し訳無さそうに何も分からないと返事を返した。
【……かなり集中して調べているが……すまない。何も分からない……かなり強力な妨害が仕掛けられているようだ。恐らく対神魔や、霊視に特化した何かが施されているのだろう、今の私では調べる事は難しい】
心眼が念視を出来ないとなると事態は思っている以上に深刻なのかもしれない。
「部屋数は6つ……通路はほぼ直線で仕掛けもなし……こういう作りの屋敷ならばどこかに食堂や広場がありそうですが……」
「そういうのは見つかりませんでしたよ?ネクロマンサーの笛もシズの笛も試してみましたけど……隠し通路や結界っていう雰囲気はありませんでした……被害者の魂の反応はありましたけど……」
音に霊力を乗せての捜索も行ったが1階には隠し通路や何か特別な仕掛けも無かった。おキヌさんの笛で燻りだす事を期待していただけにこの空振りは想定外だった。
(うーん……ここも違うわね)
爪先で床を叩いて下に空洞があるかどうかを調べてみるが、どこもそれらしい反応はない。おキヌさんの記憶では落とし穴があって地下に落ちたらしいが……そんな気配はどこにもない。
「呪物が乱雑に配置されていただけで、これと言ったカラクリの気配もありませんでしたし……下手に吹っ飛ばすわけにも行きませんしね
思い切ってチビ達に何かしてもらいますか?もしかするとどこかで私達を監視している可能性もありますから、想定外の行動をして見るのもありだと思うのですが」
くえすがそう提案すると横島が抱き抱えているチビ達が顔を上げた。
「うきゅうー?」
「みむ?」
「ぴぎー」
【ノブブウー!】
「わっととと、駄目駄目ッ!やるとしても美神さん達の許可があってからだ!」
チビ達が動き出そうとするのを横島が必死に止める。確かに霊能の観点から調べても何も見つからないと言うのは私達の動きが逐一観察されている可能性が高い……このままでは疲労が蓄積する一方だ。そこまで考えれば答えは己ずと出る。
「くえすは少しやりすぎだと思いますけど、監視されているって言うのは当たってるかもしれませんね。もしかするとこっちが疲労するまでは動きが無いかもしれないですね」
元々向こうはこっちが疲弊するまで屋敷の中に入れるつもりが無かったのだ。それをモグラちゃんに頼んで結界を破壊して無理に侵入したのだ。万全な状態の私達を自分達の領域に招き入れる訳がない……。
「横島君、チビノブに床を攻撃して貰える?」
「チビノブにですか?分かりました。頼めるか?」
【ノブウッ!ノーブーッ!】
気合を入れたチビノブが小さな霊刀を振りかざし、横島の腕から飛び降りるが床に結界が展開されチビノブが弾き飛ばされる。
【の……ノブウー】
「ああ、良し良し、痛かったな……」
涙目で駆け寄って来るチビノブの頭を撫でて、横島が再びチビノブを抱き抱えて良し良しと宥める。
「ごめんなさいね、チビノブ。東京に帰れたら好きなメロンパンを買ってあげるから」
【ノーブウッ!!】
美神さんが謝るがチビノブは小さな身体を大きくして怒りを露にする。
「美神さん、ちょっと今のは酷いですよ」
「だからごめんって、霊刀の質はチビノブが1番いいからもしかしたらって思ったのよ……駄目だった見たいだけどね。となると……もうあれしかないわね」
美神さんは覚悟を決めた表情で荷物をあけて道具をどんどん取り出す。
「敵の策略に乗るわけですか」
「もうそれしかないわ。袋小路で大量の悪霊とかを差し向けられてもいつまでも耐えれない。リスクは承知で向こうの罠に乗るわ、全員しっかり装備を整えて」
「で、でも美神さん、そんなことをして大丈夫なんですか!?」
「それしかないのよ、おキヌちゃん。覚悟を決めなさい」
そう言いながら転移札をおキヌさんに握らせる美神さん、罠に掛かった振りをして転移札で合流する。単純だけど1枚億単位の札なので並のGSでは持っていないと踏んでの事だ。
「では横島、少しずつ離れますわよ」
「え、離れるんですか?」
「ええ、ある程度距離が動くと床が動いていましたからね、向こうはよほど私達を分断させたいのでしょう」
そう笑うくえすがゆっくりと後ずさると床の下で何かが動く音が響いた。
「そういうことね。分かったわ、横島はチビ達をしっかりと抱き抱えててね」
私もゆっくりと離れ、横島達もゆっくりゆっくり一歩ずつ後ずさる。そして全員の距離が一定の距離はなれた瞬間、床が消え私達は一斉に地下へと落ちて行くが、相手の思い通りにはさせない。
「転移札と合流札を同時に使いなさい!集まるわよ!」
落ちていく中美神さんの合図で札を発動させ、私達は青い光に包まれたのだが……何故か横島の姿だけは真紅に染まり、思わず横島の名前を叫びかけたが、私の声は横島に届く事は無く、そして転移した先に美神さん、おキヌさん、私、くえすの姿はあったが……。
「横島!?」
「横島君!?」
「横島さん!?」
「嘘……なんで」
私達は無事に1箇所に集まる事が出来ていたのだが横島の姿だけはどこにも無かったのだった……。
~横島視点~
横島だけが別の場所に飛ばされたのは研究者達にとってもある意味予想外の出来事だった。人造神魔を研究するためにグレムリンなど幼生を捕獲しており、それらが逃亡した際の捕獲のための術式が作動し、横島は研究塔に1人飛ばされてしまったのだ。
「あいたっ!!!うーいてて……美神さん達は大丈夫ですか?美神さん?蛍?くえすさん、おキヌちゃん!?嘘だろチビ達もいないぞッ!?」
尻から落下した横島は尻を摩りながら美神達に呼びかけたが返事が無く、顔を上げて辺りを見回すが美神さん達の姿はおろか、チビ達の姿も無く、思わず声を上げた。
【ギギ?】
【シンニュウシャ?】
俺の声はかなり遠くにまで響いたのか、機械合成音のような甲高い声が聞こえ、何かが近づいてくる気配を感じた。
【横島、隠れろ。何かが近づいてくる!】
「マジかッ……えっと……光精将来!我の姿を隠せ、急々如律令!」
隠れる場所が見つからなかったので陰陽術で姿を隠し息を殺す。
【いない……】
【キノセイ?】
ガチャガチャと音を立てて俺の目の前を歩くのは中世で見たガーゴイルに似ているが、銃などで武装しておりガーゴイルと言うよりかはロボットという印象を受けた。暫く周囲を探っていたガーゴイルだが俺の姿が見つからないと分かると来た道を引き返していく……その姿が
完全に見えなくなってから陰陽術を解除して一息ついた。
「ここはどこだ……少なくとも屋敷の中じゃないよな?」
【恐らく地下だ。人造神魔を研究しているような連中だ、実験動物の捕獲用の術式を仕込んでいたのだろう。それでお前だけが別の場所に
転移してしまったと言う訳だ】
「チビ達はじゃあ……俺とはまた違う場所にいるって言うのかッ!」
実験動物と聞き、チビ達が危ないと思い思わず声を荒げてしまい、慌てて口を塞いだ。
【焦る気持ちは分かるが、まずは落ち着け。チビ達も囚われている可能性は高い、だがここで無闇に動き回りお前まで囚われるというリスクは何よりも避けるべきだ。なに、心配ないチビ達は強い、研究者なんかに負けはしないさ。
「そうかなあ……大丈夫かな?」
なお横島がチビ達の心配をしている頃――チビ達はと言うと……。
「みむみむみむみぎーッ!!!!」
「げぼああッ!?」
チビは研究者をその短い腕でボコボコに殴り、怪しい注射器を持っていた研究者を完全にKOしていた。
「うぎゅああああああッ!!!」
「「「う、うわあああああ――ッ!!!」」」
「フーフーッ!!」
モグラちゃんはマスコットドラゴンフォームではなく、ガチのドラゴンフォームとなり研究施設を爪と牙で破壊し、力任せに牢屋を破壊して悠々と横島のいる研究塔を歩き出していた。
「ぷぎいーッ!!!」
そしてうりぼーは増える、巨大化するというコンボで捕らえようとしたガーゴイルやゴーレムを破壊し、横島の匂いを嗅いで探す為に走り回り、チビノブは……。
【ノッブウッ!!】
「ひ、ひいいいッ!!!」
チビノブソードを研究者の喉元に突きつけた後に、腹を殴りつけ気絶させ悠々とチビノブを実験台にしようとした研究者を壁に叩きつけ、ふんすと鼻息荒く既に脱出していたりする……。
「大丈夫かな……」
【大丈夫に決まっている。まずは横島、お前自身の身を案ずるんだ。敵地に1人だけなのだぞ?慎重に立ち回る必要がある。チビ達はきっとお前を探してくれているだろうから合流さえ出来れば心配することはない】
繰り返し心配ない、まずは自分の身を心配しろという心眼だが、美神さん達にチビ達……正直心配するなと言うのはかなり難しかった。
【お前の心配も判るが、美神達の心配を出来るほどお前は強いか?】
それを言われると俺は何も言えなくなってしまう……美神さん達は俺よりも強いし、知識もある。それに転移札で全員同じ光に包まれていたからきっと4人とも一緒にいると思うから俺よりも安全なのはきっと間違いない。
【分かったな?分かったのなら移動を始めるぞ、もしかするとここがあの屋敷の仕掛けをコントロールしている場所かもしれない、ここから美神達の援護が出来るかもしれないからな】
確かに心眼の言う通りだ。俺がここにいることで美神さん達の助けとなれるかも知れない。
「俺はどうすればいい、心眼」
【まずはここがどこなのかを把握することが最優先だ。危険だがガーゴイルが移動した方に向かってみよう。あれが警備、巡回用の使い魔ならば……この先に進まなかったと言うのは優先順位が低いからだ。進んで行った方角からはまだ音がしていた……それだけ重要区画とい
う事だ】
「な、なるほど」
さすが心眼だ。俺には到底思いつかないことを教えてくれる。俺は身を低くして、通路の先に視線を向けるとガチャガチャと何かが動く音に紛れて人の話し声見たいのも聞こえてきている。
「行こう、心眼もフォローを頼むな?」
【任せろ。手間取っている時間はない、手早くいくぞ】
栄光の手を右手に展開し、左手はいざって言う時にすぐに陰陽術を使えるようにフィンガーグローブも外しておく、小さく一息はいてから俺は気配を殺しながらゆっくりとすり足で足音を立てないように細心の注意を払って移動を始めるのだった……。
「おいおい、こいつなんでここにいるんだ」
「どうした?なっ!?横島GSなんで……」
しかしその姿は監視カメラに映し出されており、監視室が一時騒然となる。だがそれは一瞬の事で、すぐに監視室にいる者全員に猟奇的な光が宿る。
「丁度いい、人造神魔をこいつにぶつけようぜ、どうせ戦闘データを取るんだ。こいつが1人で邪魔が入らないうちに戦わせようぜ」
「良いな、それ。よし、俺研究室に電話するわ、ちょうど培養室の方に向かってるみたいだし丁度いい」
紫についで作り出した人造神魔の戦闘データを取るのに丁度いいと笑いあい、監視室の男達は研究室に電話を入れる。
「それは実に丁度いい。おい実験体を目覚めさせろ、横島忠夫とぶつけて戦闘データを取るぞ」
「了解です」
室長の命令でコンソールを叩く無数の白衣の研究者達の視線の先で培養液の中に浮かぶ、人造神魔が血のような紅い瞳をゆっくりと開こうとしているのだった……。
リポート9 悪意 その6へ続く
次回からは美神達、横島、スーパーマスコットの視点で話を進めて行こうと思います。とりあえずマスコット軍団がイージー、美神達がハード、横島がパーフェクトコミュ出来ないとルナティックって言う難易度で進めていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。