GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL   作:混沌の魔法使い

59 / 157
その6

リポート9 悪意 その6

 

~蛍視点~

 

転移札と合流札で相手の罠に嵌った振りをして合流する計画は最初の段階で頓挫してしまった。計画通り、私、美神さん、くえす、おキヌさんは転移札・合流札と合わせて億単位の出費をした代わりに合流出来ていたが、1番肝心の横島だけがこの場には居なかった。

 

「どうして横島だけ別の場所に……私達が転移札とかを使うことを向こうは予測していた?」

 

転移した場所は狭い小部屋で、所々血の染みがある。これが人間か、それとも悪魔の血なのかは判らないが、いて気持ちのいい部屋ではない。しかし状況を把握するまでは移動するわけにはいかず、準備を整えながら横島が何故この場にいないのかと考えているとくえすに小さな小袋を投げ付けられた。

 

「これは何?」

 

見た所正規の薬ではない、ちょっと独特な甘い香りもして思わず眉を顰めながらこれが何か?と問いかける。

 

「早めに飲んでおきなさい、媚薬……それも、霊力系を封印する魔界の薬物の複合品の香炉の残り香がします。私は耐性がありますが、それでもかなり強烈な物ですわ。並みの女なら発情して使い物にならなくなるレベルですわよ」

 

媚薬と聞いて、袋を開けて中身を慌てて口にする。対霊能者用の媚薬では下手をすれば一瞬で意識が飛んでしまうし、その上霊力を封印されては抗う術も無いので早急に対策が必要になる。

 

「うげ……まずぅ……」

 

「……私の薬より不味いわね」

 

「……えほ……げほ」

 

思わずえずいてしまうほどに不味い薬だが、薬の効果が出てきたのか頭の中がすっきりして来たような気がする。

 

「それと召喚の魔法陣、扉に手を伸ばせば何かが出てくる感じですわね。複数形――恐らくゴブリンや餓鬼と言った人間の女を攫って繁殖する習性のあるタイプの魔物。薬にもなりますからローパーって言う線も捨て切れませんが」

 

「どっちにせよ、最悪だわ」

 

女としての尊厳を全て奪われる。最も最悪の展開と言えると思う、くえすはナイフで床に刻まれていた魔法陣に近づいたので無力化すると思ったのだがナイフを中心に突き立て立ち上がる。

 

「無効化しないの?」

 

「ええ、今はしませんわ。どうせこんな悪辣で悪趣味な事をする人間ですからね、私達が犯されてる光景を見ようと監視している筈ですから、それを利用します」

 

「……聞いてるだけで気分が悪くなって来たんですけど……」

 

おキヌさんが小声でそう呟く、まぁ確かに聞いていて気分のいい話ではない。霊力などを使えなくする薬物と媚薬を組み合わせて、魔物に犯される……それは間違いなく女の精神を圧し折るのに最も適した方法と言える。しかも霊力を吸われれば霊力も扱えなくなり、そうなればただの女であり、霊能を使えない男にも抗えなくなる。

 

「案外そういう霊能犯罪者って多いのよね。駆け出しの若い女のGSが行方不明って大体そういうパターンでね」

 

「気分が良い話ではありませんがね。それより蛍、向こうの監視に幻術で犯されてる私達を見えるようにしなさい」

 

「えー……」

 

確かに幻術は出来るけど、そんな幻術はやりたくない。だけど美神さんにも言われて嫌々幻術を展開する羽目になる。

 

「さてと、向こうの動きが出るまで待機だけど……なんで横島君がいないのかしら……紅い霊力は見えたけど、やっぱり罠?」

 

「いえ、多分ですけど……ここ全体が魔物や魔獣を研究する施設なのでしょう。実験動物が逃げないように用意されている結界にチビ達を

抱えていた横島も反応してしまったって言う所ですわね……もしくは横島の魔力に反応したって言う線も捨て切れませんけど」

 

「最悪すぎない?想定外にも程があるんだけど……」

 

チビ達に反応したのならまだ良いが、横島の魔力に反応したとなればこの件の黒幕に横島の情報が流れてしまう訳で、状況はかなり悪い。

 

「し、来たわよ」

 

美神さんの声に息を潜めると下卑た笑い声が響いて来る。

 

『ローパーの麻痺毒で動けないうちにやっちまおうぜ』

 

『俺は巫女が良い。巫女の純血を汚すのが好きなんだよ』

 

『じゃあ俺はくえすが良い、魔女は好き者だから何人でもいけるだろ』

 

『楽しみだよなあ、前の女のGSはすぐに壊れちまったし』

 

『良い女だったんだけどなあ。ゴブリンにやらせたらすぐ壊れて、ケルベロスの餌だったろ?勿体無かったよなあ』

 

聞こえて繰る下卑た会話に拳を強く握り締める。美神さんも井形が浮かんでいるし、くえすは笑っているがその目は絶対零度の光を宿している。

 

「おキヌちゃん、とりあえず今は隠れてて、それと後でここでネクロマンサーの笛吹いてあげて、ここが多分あのGSの死んだ場所だわ」

 

「はい……心を込めて吹かせて貰います」

 

おキヌさんが隠れるのと、扉が開くのほぼ同時で拳を鳴らして立っている私達を見て呆然としている8人の男達に笑いかける。

 

「「「地獄に落ちろ」」」

 

私達3人の声が重なり、くえすの放った魔法によって男達の悲鳴が冷たい廊下に木霊し、神通棍で殴り男達を鎮圧するまでに掛かった時間は3分ほどの出来事だった。

 

「催眠術を駆使して連続強姦を繰り返していた尾崎に、指名手配中のキメラ合成師の木村……それと……強姦と拉致監禁で、懲戒免職になったGS協会の篠崎……」

 

「見事に犯罪者ばかりですわね」

 

「……これ本当に霊防省と国際GS協会に敵が居るんじゃないですか?」

 

GS協会と六道が指名手配している犯罪者ばかりだ。美神さんが確認をしながら眉を顰め、くえすが不能になる呪を掛けながら頭を抱える。

 

「尻尾きりで終わる可能性もあるけどね、まぁ良いわ。ここまで派手に暴れたら手加減なしで、大暴れ行くわよ」

 

「そっちの方が早いですし、横島も合流しやすいでしょうしね」

 

「女の敵は1人も残らず潰して行きますか」

 

ここにいるのが犯罪者だと判り、なおかつ何人も毒牙に掛けていると分かれば、もうなんのためらいも無い。自分達が何をしたのか、それを思い知らせて全員刑務所に叩き込んでやると意気込んで部屋を出る。

 

(横島……無事で居てよ)

 

チビ達が一緒に居てくれればいいけど、もしかすると横島1人かもしれないと思い私は横島の無事を祈りながら、通路に出ると同時に飛びかかって来たガーゴイルの顔面に神通棍を叩きつけ、その頭部を胴体から吹っ飛ばすのだった……。

一方その頃横島はと言うと……。

 

「……こんにちわ……ですの」

 

「こんにちわ?」

 

青い髪に真紅の瞳をした幼女とエンカウントしていたりするのだった……。

 

 

 

 

 

~横島視点~

 

石造りの通路を足音を立てないようにゆっくりと進む、ひんやりとしているのに額には汗が浮かんでくるのはきっとチビ達も居ない、ノッブちゃん達もいない、完全に自分の力だけで何とかしなければならないと言う緊張感による物だろう。

 

【そこで止まれ、陰陽術で姿を隠せ】

 

心眼の言葉に頷き、Gジャンの上着から札を取り出して術を発動させて姿を隠す。

 

「くそッ!美神GS達を媚薬で無力化させるんじゃなかったのかよ!」

 

「ぶつくさ言ってる場合か!ゴーレムと自衛ジョーを出すぞッ!!」

 

「あーくそッ!上手く行っていれば今頃お楽しみの時間だったのによぉッ!!」

 

どたどたと走っていく科学者3人。媚薬、お楽しみの時間という言葉に怒りが込み上げてくるが、美神さん達が暴れているのなら相手の罠を回避する事は出来たのだと分かり、小さく息を吐いた。

 

「心眼、どうする?俺達もあっちに行くか?」

 

あの3人の後を追って行けば美神さん達と合流出来るのでは?と提案するが、心眼は俺に待てと告げた。

 

【見た目は古い遺跡だが、中身は最新鋭の電子機器がある。着いて行った所で途中で立ち往生になる】

 

「……そんな偽造時間の無駄じゃない?」

 

【まぁ術とかの影響もあるだろう、とにかく着いて行ってもお前では無理だ。このまま進むぞ】

 

美神さん達と合流できるかもしれないという淡い期待が潰され、俺は落胆しながら再び石造りの通路を歩き出した。

 

「なんかさあ、凄い音してるけどこれなんだろう?なんかでかい化け物でもいるのか?」

 

ゴーレムとか言ってたし、美神さん達は大丈夫なのだろうかと通路に響く音をに顔を歪めながら心眼に尋ねる。

 

【いや、チビ達だな。ここよりもう少し地下か?霊視妨害で把握しにくいが、チビ達が暴れているようだ】

 

「チビ達は大丈夫か?心眼、状況は分からないか?」

 

チビ達が心配で心眼に分からないかと尋ねると少し待てと言って心眼は黙り込み、俺は待ての言葉の通り周囲を警戒しながら心眼が再び目を開くのを待ち……暗がりからぺちぺちと言う小さな足音が聞こえてきたので隠行札を解除して身構える。

 

「……こんにちわ……ですの」

 

「こんにちわ?」

 

暗がりから姿を見せたのは幼い少女だった、だけど幼い少女にしては扇情的と言えば良いのだろうか?半透明のスカートに、黒い下着、ノースリーブのシャツに、頬には涙のような刺青の入った青い髪をした少女がこんにちわと言うので俺もこんにちわと返事を返す。

 

(……人間じゃ……ないか?駄目だ、良くわからねぇ)

 

人の気配じゃないのは分かる。どこか紫ちゃんに似ているような気配だ。人間のような、小竜姫様のような神族のようであり、メドーサさんや、ブリュンヒルデさんのような魔族のような……そんな気配だ。

 

(うーん、どうしたものか)

 

見た目は幼女だが、敵なのか、それともただ迷子なのか……俺は少し考えてからGジャンを脱いで、内ポケットの札をGパンのポケットに捻じ込んで、少女に近づいた。

 

「女の子がそんな破廉恥な格好をしたら駄目」

 

スカートは半透明でスカートとしての役割を果たしてないし、少女には似つかわしくない黒い下着が丸見えだし、ノースリーブのシャツは脇丸見えでこれも服としての機能をまるで発揮していない。これでは余りにも良くないと俺のGジャンを着せてあげる事にした。

 

「……これは生き様ですの」

 

「駄目です。ほら、ここは寒いからこれを着ないと駄目、風邪引くから」

 

生き様ってなんだよと思いながら嫌がる素振りを見せる少女にGジャンを着せる。ダボダボだが、とりあえず膝丈くらいはあるから下着は見えなくなったなと安堵する。

 

「……暖かいですの」

 

Gジャンに包まりぽやっとした笑みを浮かべる。少女――ただ俺の見間違い出なければ、今手のひらの中に日本刀の切っ先みたいのが収納されたような……。人間じゃないのは確定かと思いながらも見た目が幼い少女なのでどうしても敵とは思えず、俺は鞄から糖分補給用の飴を取り出す。

 

「それは良かった。ほら、おいでおいで。飴ちゃん食べる?」

 

「……貰いますの」

 

とてとてと近づいてくる少女に飴を差し出し、俺も飴を頬張り少女と並んで壁にもたれかかる。

 

「俺横島、君は?」

 

「……名前?私の呼称なら人造神魔02号ですの」

 

人造神魔――京都のあれかと思うのと人造神魔02と言う番号を名前という少女を見て眉を細める。

 

「……どうかしましたの?」

 

きょとんとした顔をしている少女の顔を見れば自我があるのは明らかだった。それなのに番号で呼んでいた外道に怒りを覚える。だが今はそれよりももっと大事な事がある。

 

「そんな名前捨てちゃえ。んーミィなんてどうだ?可愛い名前だと思うんだけど」

 

名は体を現す、02号なんて言っていると本当にその通りになってしまうので、別の名前を名乗るようにさせないと思ったのだ。

 

「ミィ……ミィ……可愛い名前ですの、良いんですの?私、02号じゃなくて、ミィで」

 

「良いに決まってるだろ。決まり決まり、ミィちゃん。おいでおいで」

 

おいでおいでと言いつつ、ミィちゃんを抱き上げると驚いた様子だったが、にぱっと言う音が聞こえて来そうなミィちゃんに微笑みかける。

 

【もどっ……お前何を抱えている】

 

「ミィちゃんって言うんだ。さっきそこで会ってさ、物静かだけど良い子なんだぜ」

 

この子は紫ちゃんと同じだ。まだ何も判らないのならば悪い事は駄目と教えてあげれば良いんだ。

 

「……ミィですの」

 

「おー偉い偉い、自己紹介できたなあ」

 

「……むふー♪」

 

頭を撫でると満足そうにしているのでこれが正解の対応だと俺は確信していたのだが……。

 

【少しなら大丈夫と目を離した私が馬鹿だったか……まぁ良い、現状を説明する。良く聞けよ】

 

心眼の呆れた様な言葉に俺とミィちゃんは揃って首を傾げるのだった……。

 

なおその頃監視室にいた科学者達はと言うと当然阿鼻叫喚の地獄絵図になっていたりする。

 

「何故02号は言う事を聞かない!?隙だらけなんだぞ!」

 

「駄目です!命令が通りません!?」

 

「馬鹿な!なんでだ!今まで何回も俺達の命令通りに暗殺をしていたのに何故言う事を聞かない!?」

 

横島に抱き抱えられているミィが少しでも力を入れれば簡単に横島を殺せる。なのにミィは幼い少女のような素振りをして、一切の攻撃性を見せない。その事に科学者達は激昂していたが、これはある意味当然とも言えた。もしも横島がミィを攻撃していれば、ミィは命令されていた通りに横島を殺そうとしただろう……だが横島は寒そうだからと自分の服を着させ、そして甘い飴を与えた。それは実験の度に身体を痛めつけられ、実験動物として扱われたミィにとって初めての事であり、そして心を暖かく満たした。自分に酷いことをする相手よりも、優しく、そして自分を気遣ってくれる相手に懐くのは当然の事であり、名前を与えられた事で既に人造神魔02号ではなく、ミィという個になっていた為、もうこの研究者達の声はミィに届いてすらいなかったりする……。

 

 

 

~心眼視点~

 

霊視と意識を飛ばすのを組み合わせ、私はこの石造りの通路の中を凄まじい勢いで進んでいた。

 

(あまり離れすぎるのも危険だ。急ごう)

 

姿を隠しているが、横島は隠行と戦闘を同時に行えないので移動する進路、そして状況把握を素早く行う事にする。

 

「みぎみぎみぎみーッ!!!」

 

【ガゴガアガガガ……】

 

「ば、馬鹿な……何故グレム……「みぎーッ!!」げぼああッ!!」

 

「みむいーッ!!!」

 

(チビは問題なし、というか横島がいないから凶暴性を見せているな)

 

ゴーレムをその短い手足で破壊し、研究員は頭突きで吹き飛ばし勝利の雄叫びを上げてるチビは問題なし。

 

「うーきゅうううーッ!!!」

 

【【【【あーッ!!!】】】

 

「馬鹿な、モグラが炎を吐くなんてッ!!!」

 

「うーきゅーあッ!!!」

 

「ぎゃあッ!?」

 

小さい姿から巨大化し、研究者を押し潰し丁寧に後ろ足で砂を掛けて歩き出すモグラちゃんも問題はないな。

 

 

「「「ぷぎぎーッ!!!」」」

 

「ぎゃあッ!?」

 

「ごぼおッ!!」

 

【損傷甚大……機能停止……】

 

【ゴガアッ!?】

 

うりぼーは巨大化した上に全力疾走で何もかも轢き飛ばしていくうりぼーはこの狭い通路では間違い無く最強だ。

 

【ノブ】

 

竹光ではなく、怪しい光を放つ日本刀を鞘に納めるチビノブ、それと同時に人形が全て両断され爆発する。見た目が子供の落書きのようだが、やはり信長の分身、その戦闘力は折り紙つきだ。

 

(……問題はなさそうだな)

 

横島が心配していたがこれなら問題はないなと安堵し、チビへと声を掛ける。

 

【チビ。聞こえるか?】

 

「みむ?みーみー?」

 

私の姿が見えないのできょろきょろと姿を探しているチビ。私ではなく、横島を探しているのだろうが、そこはしょうがないとにかく時間がないので手早く指示を出す。

 

【聞こえているな。横島は上の階にいるが、合流は難しい。この階層にうりぼーとモグラ、それとチビノブがいるからそれと合流しろ。うりぼーとモグラが入れば天井を破壊して合流できるはずだ】

 

「みむ!」

 

力強い返事を返して翼を羽ばたかせて飛んで行くチビを見送り、美神達の状況も確認するが、こっち問題はなさそうだな。そもそも全員が1級品のGSが集まっているのだから問題があるわけもない。

 

(やはり一番の問題は横島だな)

 

知識に乏しく、感情的になりやすい横島が1番不味い状況だと判断し横島の元へ戻ったのだが、紫と良く似た気配――人造神魔の少女を抱き抱えて笑っていて、手遅れだったかと少し焦りはしたものの……横島の弱点である幼い少女の姿をしているだけに、不意打ち奇襲の可能性を考慮すると先に仲良くなっていたのはある意味間違いではないかと思い、横島を追求する事は止めた。

 

【IDカードらしい物を持っていた研究者がこの先に居る。そいつからカードを強奪すれば少しは動きやすくなる筈だ】

 

「了解。追いかけて行けば良いんだな、心眼」

 

【ああ、ミィはそうだな……横島におんぶして貰うと良い】

 

「……おんぶってなんですの?」

 

そこからかぁ……横島の顔が目に見えて曇り、私も言葉に悩んでしまう。

 

「……大丈夫ですの?」

 

横島の頭を撫でながら大丈夫と尋ねるミィはとても兵器として作り出されたとは思えず、横島の見抜く力の強さが良く判る。

 

「大丈夫大丈夫。ほら、しゃがむから背中に乗って」

 

「……こうですの?」

 

「そうそう、よっし、行こう。心眼、道案内よろしく」

 

【ああ、こっちだ】

 

横島を誘導しながら、早足で走っていった男の気配を追うのだが……どうも進んでいる先が妙な感じだ。かなり強力な結界の気配がある……この先に何かあるのか?と内心困惑しながら横島を走っていった男の元へと案内する。

 

【まずだが、私達は今中層にいて、美神達は最下層、チビ達は私達と美神達の間の階層にいる】

 

「そんなにこの建物は入り組んでるのか?」

 

【違う、魔法か何かで拡張しているのだろう。少ない部屋を魔法で複数繋げていると言う感じだ、別の階層に移動するには魔法陣を見つける必要があり、そこは電子ロックで閉鎖されている。電子カードを手に出来れば移動はかなり楽になる筈だ……だがこの迷宮を作っている神魔と遭遇しないとは言い切れない、単独行動のお前が遭遇すれば間違いなく死ぬ】

 

これだけの迷宮を作れるのはかなり上位の神魔が関わっているだろう……ガープクラスまでは言わないが、小竜姫様やメドーサクラスの敵がいる可能性は極めて高い。

 

「そんなにやばいのか?」

 

【眼魂があれば戦えるが……それも無い、だから安全策を取る。研究者を襲って地図とカードを手に入れて美神達との合流を最優先だ】

 

「分かった。心眼の言う通りにするぜ」

 

状況と考えれられる最悪の展開を横島に説明しながら暗い通路を迷う事無く進んでいる男の気配を追う。

 

『むぐ、むぐううーーーッ!!』

 

『ヒヒヒッ!ああ、正しくこれこそ人外の美、これを知ってしまえば人間の女なんて抱けなくなる』

 

口を拘束されているのかくぐもった声と粘着質な男の声が通路の先から聞こえてきて、横島が足を止めた。

 

「……ミィちゃん。ちょっとここで良い子で待っててくれるかな?」

 

「……なんでですの?」

 

「君の事を番号で呼ぶ嫌な奴がいるかもしれない、俺が迎えに来るまでこれを持って待ってて欲しいんだ」

 

「……分かりましたの」

 

番号で呼ばれるのは嫌だったのかミィは素直に頷き、横島が渡した隠行札を両手で握り締めて座り込んだ。

 

「すぐ戻るからね」

 

「……はいですの」

 

ミィの頭を撫でて走り出した横島の顔はミィから離れると鬼の形相になっていた。

 

【落ち着け、狂神石に呑まれるぞ】

 

「心眼、でも」

 

【でもではない。落ち着け、ここは敵地なのだぞ?そこで理性を失ってどうする】

 

私の言葉に横島は少し落ち着きを取り戻したが、まだその魂は荒れ狂っている。それを宥めながら横島に声を掛ける。

 

【良いか、落ち着くんだ。敵が複数居る可能性もある、今のお前は眼魂が無い、確実にそしてリスクを最小限にして行動するんだ】

 

「……分かった、でも急ごう」

 

【それに関しては私も同意だ。急ごう】

 

足音を立てないように走り出す横島、進んだ先はすぐ行き止まりで私の感じた通り結界が厳重に張られた部屋が1つあった。

 

『この媚薬はね、神魔でさえ狂わせる強力な物なんだ』

 

『むぐうッ!!むぐぐうううッ!!』

 

『暴れても無駄さ、こんな所に誰も来ないよ。それにこの結界と魔法陣でお前はただの生意気な女に過ぎないんだよ、グーラー』

 

グーラーの名前に止まれと横島に声を掛けた。

 

「どうして止まれって言うんだ。心眼」

 

【横島、グーラーと言うのは食人鬼だ。分類は精霊だがゾンビの同類と言っても良い、助けてもお前を襲ってくる可能性の方が高い】

 

「だから助けるなって言うのか?」

 

【メリットより、デメリットの方が強い。無理をする必要は無いが……それは嫌なんだろう?】

 

「ああ。こんなの聞いて俺は黙ってられない」

 

狂神石とは違う、煮えたぎる怒りを感じこれは何を言っても無駄かと苦笑する。

 

【最悪グーラーが襲ってくる可能性がある。それだけは念頭に入れておけ】

 

「……分かった」

 

納得していない様子だが、形だけ頷いた横島が部屋の中を覗きこむ。そこには白衣の男が鼻歌交じりでピンク色の液体を注射器の中に注いでいる姿と、魔法陣の中心で縛られたグーラーの姿があったが、あの白衣の男の趣味なのだろう、荒縄で胸などを強調するように縛られ、M字開脚で足を固定されて涙目で猿轡をかまされている姿は扇情的だが、その姿が横島の怒りに油を注ぐことになる。

 

「ギリッ」

 

横島の歯を噛み締める音が響き、白衣の男が振り返り注射器をグーラーに向けた瞬間。横島は扉を蹴り開けた。

 

「だれ「性犯罪者撲滅ッ!!!」げぼおッ!!」

 

男の顔面に横島の右ストレートが叩き込まれ、白衣の男は壁に叩きつけられ泡を吹いて崩れ落ちた。

 

【良し、横島。まずは……】

 

「大丈夫ですか!?今ほどきますから」

 

私がグーラーをどうやって助けるかと言おうとするが、横島はグーラーを縛っている縄を言うが早くナイフで切る。

 

【止めろ横島ッ!まだ早いッ!】

 

事情を説明する前に解くなを声をあげるがそれは遅すぎて、自由になった腕で猿轡を外したグーラーの牙が横島の肩に突き刺さる。

 

「ぐっ!」

 

「ふーふーッ!!」

 

怒りと男に対する嫌悪感と恐怖がない交ぜになった瞳でグーラーは横島の肩に牙を突き立てる。だが結界と魔法陣で弱体化しているので即座に横島の肩を噛み千切るほどの力は出ないようだ。

 

【横島、今「大丈夫、もう大丈夫ですからッ!もう貴女を傷つける人はいませんからッ!大丈夫、大丈夫ですッ!!」

 

霊波砲でグーラーを弾き飛ばそうとした私の声を遮る大きな声と共に横島はグーラーの背中に手を回して大丈夫だと繰り返し声を掛ける。

 

【横島……】

 

「心眼、俺は大丈夫だから……もう大丈夫なんです、落ち着いて、大丈夫ですから」

 

「ふー……ふー……うぐ、ひぐ……うう……うあ……うああああ……」

 

興奮していたグーラーの瞳が冷静さを取り戻し、薄暗い部屋の中にグーラーの嗚咽が木霊する中。横島は大丈夫だと声を掛けながらグーラーの背中をなでるのだった……。

 

 

 

~美神視点~

 

館の地下は複雑に入り組んでいてまるで迷路だった。しかもその上中世で見たガーゴイルやゴーレムと言った霊的兵器の姿も多数居たのが想定外だった。

 

「銃火器持って来るべきだったわね」

 

「……ですね」

 

疲れた様子で蛍ちゃんが私の意見に同意した。霊的な存在に有効打を与えれる武器は多数用意していたが、ゴーレムやガーゴイルに有効打撃を与える武器は生憎持って来ていなかった。

 

「おキヌちゃんのお蔭でなんとかなったわ、ありがとう」

 

「いえ、私は直接戦えないですから……少しは力になれて幸いです」

 

おキヌちゃんの持っているシズの笛、それはガーゴイルとゴーレムの核になっている悪魔の自我を取り戻させていた。

 

『帰りたい……』

 

『魔界……魔界に……』

 

「ええい!分かってますから纏わり付くなッ!!」

 

くえすの一喝で核にされていた悪魔はくえすから離れる。弱い低級霊だったのか、魔界に帰りたい、帰りたいと繰り返し言うのでくえすに送還の準備をして貰いながらゴーレムの核になっていた悪魔に声を掛ける。

 

「貴方達を召喚したのは誰?」

 

『分からない、気が付いたら瓶詰めにされていて、人間に痛めつけられた。抵抗出来ないように封印されて、ガーゴイルやゴーレムの核にされた』

 

『人間恐ろしい……こんなことを良く出来る』

 

『痛かった、苦しかった』

 

『魔界に返してくれるなら少しなら手伝う』

 

悪魔に助けられるって言うのは想定外だったけど、かなりの長期戦になりそうなので身体を休めれるのは正直ありがたい。

 

「……悪魔が助けてって……ここの人間は悪魔より酷いみたいですね」

 

「そうね……まぁこれを見れば何をして来たか分かるけどね」

 

今私達がいるのはゴーレム・ガーゴイルが製造されているプラントの一角だ。シズの笛で自我を取り戻した悪魔が案内して来てくれたが、切り落とされた悪魔の腕や翼、瓶詰めにされた頭部や目に脳と酷い光景だが、私が言っているはそこではない。

 

「輝夜に妹紅……それに永琳。そして……横島君」

 

「……まさかもう横島の事を調べてるとは思ってませんでしたね」

 

研究室に集められた資料の中に蓬莱人の3人に加えて、横島君の身辺調査まであった。眼魂と英霊には辿り着いてないみたいだけど……かなり詳しく調べられている。

 

「……GS試験に原始風水盤までありますよ」

 

「それだけじゃないわよ。これ……隕石落しのまであるわ……」

 

私達が関わった事件全部の資料が事細かく集められている……、中にはGS協会やオカルトGメンでなければ集められないような物まである。

 

「……くえす、どう見る?」

 

「どうもクソも無いですわよ。かなりの大規模で情報流出してますわよ」

 

琉璃もかなり頑張ってくれているが、冥華おば様や西条さんも万能ではない、どこかで足元を掬われる可能性は考えていたけど……想像を遥かに越えるレベルで裏切りが横行していたようだ。

 

「でも資料はかなりあやふやな所を見ると木っ端か、中堅くらいって所かしらね……」

 

「琉璃も六道の狸の馬鹿ではないですからね。本当に大事な部分は上手く隠しているでしょう……状況は良くないですがね」

 

中途半端な資料とは言え、中心人物が横島君って知られてしまっているのは正直かなり不味い。

 

「とにかく向こうが本格的に動き出す前に、怪しいって言うのが判っただけでも良しとしましょう。小竜姫様達に横島君の周りを更に固めて貰えるように頼むわ」

 

「それとこんな馬鹿な事を計画している連中の親玉もしっかりと捕まえて絞り上げるとしましょうか」

 

「本当胸糞悪いってレベルじゃないですけどね……本当最悪……」

 

私達を胎盤にして霊的兵器を作り出すとか計画している。それを読めばここにいる連中は人間だが、もう悪魔と同格かそれ以下だ。ならば私達も躊躇う必要はない。

 

「ここは徹底的に潰すわ。こんな研究、存在する事すら許しちゃいけない……」

 

私達の前にここの研究者に捕まり実験台にされ、霊的兵器を作り出す為の胎盤として利用され、価値が無いと判断されて殺されたGS達、そして悪魔のみならず、妖精や精霊といった人間に友好的な種族までも実験台にしている……ここにいるのは人間だが、悪魔よりも悪辣で生かしていい存在ではない。

 

「ようこそようこそ、我らの研究室へ、待っていたよ。君達をね、君達は優秀な胎盤になるよ、この私が保証する。まぁ悪魔共に与える前に私達の楽しませて貰うが……抵抗は無意味だよ。なんせ君達の霊力を無力……「私達の霊力がなんだって?」な、何故霊力をつか……ぎゃあッ!?」

 

くえすが居なければあの科学者の言うようにろくな抵抗も出来ず、好き勝手にされていただろうが……こっちだって最悪の状況に備えて準備してきている。

 

「私達の前に出て来てくれてありがとうございますわ。態々探す手間が省けましたもの」

 

「そうね。とりあえず、この女の敵は全員地獄送り良いわよね」

 

「はは、地獄送りなんて優しいわね、蛍ちゃん。こういう奴らには貧乏神でもくっつけて、生かさず殺さずが基本よ」

 

「♪~♪~」

 

おキヌちゃんが吹いている笛の音色で石の通路から伸びた触手が科学者達の退路を塞いだ。

 

「GSが人を殺して良いのか!そんなことをすれば」

 

「何を言ってるの?私達は何もしないわ。やるのは……貴方達が弄んだ悪魔達よ」

 

私がそう言うと魔界に送還されのを待っていた悪魔達が再びガーゴイル、ゴーレムの中へと入りその目を紅く輝かせる。

 

『許さない』

 

『お前達を許さない』

 

『許さない』

 

許さないと言う悪魔達の声と科学者達の悲鳴を尻目に私達は奥の部屋――ゴーレムやガーゴイルを製造しているライン、そして瓶詰めされている悪魔や妖精が保管されている区画を破壊する為に動き出すのだった……。

 

 

 

リポート9 悪意 その7へ続く

 

 




メガテンをやっていたのでややメガテンクオリティな話になりましたが悪意という大層なタイトルもつけているので、これで良いかなと思っております。私では珍しい残酷描写ありのシナリオですが、人の悪意は留まることを知らないので致し方なしと言う所です。
次回は横島視点から入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。