GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
リポート9 悪意 その7
~横島視点~
強姦される寸前だった魔族の女性は泣き止むと頭をかきながら、ばつが悪そうに俺から離れて苦笑いを浮かべた。
「……ごめんよ、もう落ち着いたよ……あーあ、人間に抱きついて泣くなんてあたしも相当参ってたんだねぇ……助けてくれてありがとうよ。あたしはグーラー……一応精霊だよ」
アニメとか漫画で見るインド人という感じなのか、褐色の肌に金の腕飾り素肌の上に胸を隠すくらいの面積の小さなジャケットとダボダボのズボンとどことなく野性味の強い美人という感じでグーラーさんが小さく頭を下げる。
「俺は横島、横島忠夫。ここには除霊の依頼で来たんですけど……罠に嵌ったって感じで……えっと凄く言いにくいと思うんですけど、何があったのか教えてくれませんか?」
美神さん達と何時合流できるかも判らない。心眼が言うにはチビ達は別の階層で、美神さん達は最下層の一歩手前で、俺は中層にいるらしいけど……罠が多く、別の階層に移動するのも難しいらしい……カードは手にしたので別の階層に移動は出来るが、もしもグーラーさんのような人がいるのならば可能な限り助けたいと思い何があったのかを尋ねる。
「……あたしの仲間ならもういないよ。皆やられちまった……オーガとかローパーにやられてさ、発狂して人間の……な「ごめんなさい……つらい事を聞いて本当にごめんなさい」
肩を震わせるグーラーさんの背中に腕を回してごめんなさいといいながら話を遮る。
「……ごめんよ……あたしもそんなつもりじゃ……な、ないんだ……でもさ……無理なんだよ……」
神魔と言えど心がある。グーラーさんの心の傷は相当に深いのだろう……気の強そうな口調で泣いて震える姿を見て、ここの研究者に対する強い怒りが込み上げてくる。
【思い出すのも辛いだろうが……耐えてくれ、お前達のような精霊や神魔はここに何人いた?そしてお前達を捕らえたのは誰だ?せめてそれだけでいい。教えてくれ】
「心眼ッ!そんな風に言わなくても良いだろ!?」
尋問のようなきつい口調の心眼に怒鳴り声を上げるが、それは静かな心眼の声で全て掻き消された。
【グーラーは決して弱い精霊じゃない、それが複数人囚われ、そしてオーガやローパーを使役できる上に迷宮まで作れる。これはかなりの強敵だ、今も監視されている可能性が高い以上詳しい情報は必要不可欠だ】
その強い口調に俺はなにも言えず、グーラーさんもそれが判っているのか俺の肩を掴んで首を左右に振る。
「心配してくれてありがとうよ。でも大丈夫さ、あたしも神魔なんだよ。普通の女じゃない」
「グーラーさん、でも」
「本当に大丈夫さ、でもそうだね。あたしを心配してくれるなら……あたし達をこんな目にあわせた奴に痛い目見せてやってくれよ」
拳を作り無理をして笑うグーラーさんの痛々しい顔を見て、俺は言葉を失い小さく頷いた。
「分かりました。絶対に後悔させます」
「ん、それで良いよ。それよりもだ、あたし達も監視されてる移動しながら話をするでい良いかい?」
【そうしてくれるなら助かる、連れも1人いる】
「それなら急ごう、ケルベロスやオルトロスもいるからね」
魔界で子犬のケルベロスやオルトロスは見たが、かなり凶暴な獣と言う事を知っているのでグーラーさんに先導されて部屋を出る。
「……横島。遅いですのよ」
「ごめんごめん、ミィちゃんおい……ぐっふうッ!!」
ぷくうーっと頬を膨らませていたミィちゃんに手を広げると、アリスちゃんのような勢いで突進して来た。何とか耐えたが靴底が大分抉れた気がする。
「……こいつって確か人造「ミィちゃんです」……ん、悪い。あたしの見間違いだった」
グーラーさんには悪いが、今俺に抱きついて頭をこすり付けている少女はミィちゃんで、グーラーさんの頭を過ぎった者ではないと強い口調で言うとグーラーさんは悪いと言って見間違いだったと笑って再び歩き出す。
「まずだけど精霊はあたし含めてかなりの数がいた。多分10や20じゃ利かない数だ、それと神魔も」
「本当に?」
それだけの数の神魔が精霊が捕まっていたと聞いて信じられずに思わず尋ね返す。
「本当だよ、殆ど奇襲で何があったか分からない内に捕まって霊力封じされて牢獄だった」
【どんな攻撃だった?】
「んー?多分魔法か精神錯乱系だと思うけど、良くは覚えてない。多分そこら辺は記憶を消されてる」
捕らえてどんな攻撃をされたかの記憶まで消す徹底っぷり……やっぱり心眼の言う通り相当やばい敵がいるのだろうと思いながら通路を走り、電子ロックのある扉の前に立つと背後から凄まじい咆哮が響いて来た。
「ケルベロスを嗾けやがった!横島早く!」
「えっとこうかッ!!」
電子カードをカードリーダーに通すが扉は開かず、パスワード入力画面が出てきた。カードを通せば通れると思っていたのでまさかのパスワード入力画面に思わず叫び声を上げる。
「パスワード!?パスワードってなんだ!?」
「カードの裏!カードの裏を見るんだよッ!!おい!ミィ!後ろ見てくれッ!」
「……遠くが赤くなってますの、どんどん近づいてきますのよ」
ミィちゃんも静かだが、その声に焦りの色が見えて俺はカードの裏のパスワードを入力するが……文字数が多すぎて思わず叫んだ。
「だあああーーッ!多すぎだ!!」
【焦るなよ!確実に入力しろ!】
アルファベットに数字――カードと入力画面を見比べて震える手で入力を進める。背後に聞こえる獣の唸り声と疾走する音を聞いて、焦りながら必死に入力する。
「やばい!もう来るよ!」
「……顔が見えましたの……」
「開いたぁッ!!!」
開いた扉に蹴りを入れて部屋の中にグーラーさんとミィちゃんと転がり込むように飛び込み、ぐるぐると回転する感覚の後に胃が上に上がるエレベーターに乗った時のような感覚がしたと思った瞬間に受身を取る事も出来ず、滑り台……いや、ウォータースライダーから吐き出されるように俺達は暗闇に放り出された。
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
「……落ちますの……」
三者三様の声を上げて再び落下したのだが……地面に落ちたような感覚ではなく、ちょっと柔らかい……両手で柔らかい何かを鷲づかみにしている感じがして顔を上げるとグーラーさんの胸を鷲づかみにして、胸の谷間に顔を埋めているのに気付いた。
「ご、ごごご!?」
「……良いよ、事故だったから……でも離れてくれるかい?」
静かな声なのが余計に怖かったが尻餅をついたまま後ずさり、バクバクと早鐘を打つ胸に手を当てる。
「……私もバインバインになりますのよ、多分……」
むうっと頬を膨らませて自分の胸に手を当てているミィちゃんと腕で胸を隠しているグーラーさん……そして暗がりの部屋の中とケルベロスから逃げれてたのは良いけど、物凄く気まずい雰囲気になってしまったのだった……。
~蛍視点~
虫の知らせって訳じゃないけど、なんかこうピーンって来た……。
「横島がラブコメしてる気がする」
具体的にはロリと美女に挟まれてる気がする……しかも結構面白くない感じのハプニングが起きているような気……ではなく、確信がある。
「……蛍ちゃん。急にどうしたの?」
美神さんが心底心配そうな顔を向けてくるけど私の勘は多分あたっていると思うし……何よりもくえすとおキヌさんも面白くなさそうな顔をしている。
「なんか凄く不愉快な感じですわね」
「……なんかこう……凄くイラってします」
くえすとおキヌさんも私と同じ様な顔をしているのを見て美神さんは深い溜め息を吐いた。
「まぁありえなくはないわね……この現状を見るとね……」
縛り上げられた科学者、研究者、そして護衛のGS崩れ達を別室に押し込み、恨みを晴らしたから依り代だった岩石や機械の身体の残骸が転がっている部屋の中で私達は机の上の資料を見て、想像を遥かに越えるレベルで今回の事件は闇が深いと言う事を思い知らされていた。
「神魔に精霊に妖精の霊力を封印して、性処理玩具として出荷する……」
「人間もここまで来ると悪魔と大差ないですわね」
吐き気を催す邪悪とはこの事を言うのだと思う。温厚な精霊や妖精の霊力等を封印して、媚薬などで正常な思考回路を奪い取り、高く売りつける……日本だけではなく、海外にも出荷している……罰当たりなんてレベルじゃない事がこの屋敷では行なわれていたのだ。
「この繋がりで国際GS協会にも伝を得たって所ですかね?」
「多分ね、とは言え……これはかなり大規模で動いてるわよ。それに仮に私達が無事にここを脱出して、証拠を提出したとしても……」
「トカゲの尻尾きりですわね……」
本当の主犯格は逃げて、部下とかが責任を全部押し付けられて投獄される可能性が高い。私達が頭を抱えているとおキヌさんが小さい悲鳴をあげた。
「おキヌさん?おキヌさん、どうしたの大丈夫!?」
書類を手にして震えている姿を見て尋常じゃないと思って近寄ると、おキヌさんは抱きついて来た。その肩は震えていて、背中に腕を回すとおキヌさんは少し落ち着いた素振りを見せる。
「おキヌさん、どうしたの?何を見つけたの?」
何を見つけたのかと尋ねるとおキヌさんは手にした書類を差し出してきた。
「これ……これを見てください……」
目に涙さえ浮かべていて、これはただ事ではないと悟る。だけど震えているおキヌさんを突き放す事も出来ず、背中をなでながら美神さんに視線を向ける。
「美神さん、書類を受け取ってくれますか?」
「……ええ。分かったわ」
沈鬱そうな表情で書類を受け取った美神さんが私の背後で書類をめくる音がする。その音は徐々に早くなり、背後から感じる凄まじい怒気に何事かと思わず振り返ると私の腕の中のおキヌさんが震える声で何を見たのかを口にした。
「わ、私達を誰に売るか……どういう風に薬漬けにするかとか……値段が……」
「なっ!?」
おキヌさんの言葉に思わず言葉を失った。その可能性は十分に考えていただけど、実際に目の前にすると怒りと、信じたくないという気持ちで頭の中がぐしゃぐしゃになる。
「琉璃の名前もありますわね……巫女だから需要も高いとまで書いてありますわね」
「……冥子の名前もエミの名前もあるわね……本当……ふざけた事をしてくれるわね」
人をなんだと思っているのかと怒りで目の前が真っ赤に染まる。私達の前にこの屋敷に突入したGS、そして捕らえられて実験台にされた神魔や精霊、妖精への強い同情、そしてこの施設にいる全ての者に対しての強い憎悪を感じる。
「ここで立ち止まってるのは危険だわ。くえす、貴女でどこまで媚薬とかに対応出来る?」
「一般的なものならば何とかなりますが、神魔と妖精にまで効果がある代物となると手持ちでは些か不安がありますわね」
くえすでも不安があると聞くと思わず身体が強張るのを感じた。薬で動けなくなされて身体を弄ばれる恐怖と嫌悪、そして薬で正常な思考を奪われて横島に害なすかもしれないという不安……1度芽生えるとその恐怖と不安はどんどん強くなる。
「ここまで徹底して女を売り物にしてる場所なら薬を調合してる場所もある筈、まずはそこを見つけることが最優先ね」
「そうですわね、抵抗する薬を用意しない事には不安が強すぎます。後は……オカルトGメンや国際GS協会、それに霊防省も信用出来ないのは確実ですわね」
元々信用していなかったが、今回の件でますますオカルトGメンや国際GS協会の株は落ちたのは間違いない、マリア7世と竜の魔女の旗、ガープが暗躍している今混乱していると言う理由で公表するのを政府からとめられていたが、今回のは駄目だ。こんな事が裏で行なわれていると知った今、黙っている事など出来る訳が無い。
「行きましょう。もしガスで媚薬をばら撒かれたらそれこそ全滅だわ。くえす、場所の予想ってつく?」
「魔界の植物の多くが原材料にされていますからね。魔力を辿れば恐らく材料を確保する事は出来ると思いますわ」
くえすの言葉に頷き、私達は再び移動を再開する――だが想像以上に深い人の業、闇を目の当たりにし、私達がどれだけ日本の事を思っても、誰かを守ろうとしても、それを無碍にする悪意と敵意はあちこちに存在していて……私達や横島が傷ついて守るだけの価値があるのかという疑問、そして理解されないことに対する憤り、そして不信感が私の中に芽生えるのを感じるのだった……。
~茂流田視点~
モニターの映る光景を見る度に私は苛立ち、己の髪を掻き毟った。簡単な仕事の筈だった……いつも通りに屋敷の罠に嵌めて媚薬や薬で正常な思考能力を奪い、人造神魔や霊能兵器を作るための母体として利用するか、国内・国外の政治家に性玩具として売りつける……南部グループを初めとした霊能兵器を製造している会社の暗部がずっと行って来た事だ。
「何故何故こんなにも失敗するっ!」
この土地に屋敷を構えて1年にも満たないが数十人の女のGS、そして捕らえた精霊や妖精を売りつけて莫大な利益を得て製造した人造神魔だが、1号は京都の地で消息不明、2号も横島にじゃれて幼子そのものという振る舞い、その上女のGSを捕えるように何度も調整したローパーやオーガ、ゴブリンやトロールと言った魔物は皆返り討ちにあっている。
「媚薬ガスは流しているんだろうなッ!」
「ずっと流していますわ!でも効果がまるででませんッ!!」
霊力に呼応し発情させ、思考能力を奪う筈の媚薬がまるで効果を発揮していない……その受け入れ難い現実に思わず親指を噛んだ。
(不味い不味い……)
どんどん証拠を押さえられている――このままでは私達が切り捨てられるのも時間の問題だ。
「ゴーレムだ!ゴーレムと自衛ジョーを出せ!」
「し、しかし!ケルベロス達への対応はどうするのですか?」
横島を殺すためにはなったケルベロスだったが、横島は転移でその階層を後にし、ケルベロスは今も暴れ回っている。助けを求めるコールが響くが、耳障りなそれを無視する為にコードを引きちぎる。
「美神GS達の出荷先はもう決まっているんだ!こっちが何よりも優先だッ!」
「まぁそうじゃろうな、研究員などはいくらでも補充が効くしの」
証拠を掴まれたとしてもこの屋敷から逃がさなければ何とでもなる……ッ!まずはなんとしても美神GS達を捕らえる事が何よりも優先するべき事だ。それさえ出来れば挽回は出来る……そう考えていた私の耳に緊急警報が鳴り響いた。
「何事だッ!」
「横島GSが連れていた使い魔達が研究区画を破壊しはじめましたッ!」
「馬鹿を言うな!グレムリン如きにそんなことが出来るものかッ!」
横島が連れていたのはグレムリンとモグラにうり坊、それに良く判らない精霊が1匹。そんな弱い使い魔がケルベロスなどの逃亡も想定している研究区画を破壊できるわけが無いと叫び、モニターに映せと叫んだ私の目の前に広がった光景を見て、思わず言葉を失った……。
『みむ!』
『うきゅうー!』
グレムリンとモグラがハイタッチし、モグラの上の乗ったグレムリンが放電し、周囲を電気で焼きながら通路を駆け巡り、自衛ジョー達を次々破壊する。
「馬鹿な!?グレムリンが何故放電などできるッ!?ええい!隔壁を下ろせッ!閉じ込めろッ!」
グレムリンは弱い悪魔だ。電子機器に悪戯する程度の能力しか持たないはずのグレムリンが何故こんな事を出来ると動揺しながらも隔壁を下ろして閉じ込めろと指示を出す。ゆっくりと隔壁が下ろされ、グレムリンとモグラの進路を塞いだ。
「良しこれで……『ぷっぎゅううううーッ!!!』ふざけるなああああッ!!!』
だがそれも一瞬で巨大化したうり坊が頭突きで粉砕し、放電を繰り返すグレムリンとモグラと合流し、通路の壁を突き破り研究区画を蹂躙していく光景に立ち眩みがした。出荷が済んでいたから最悪はま逃れたが、再び施設を準備する事を考えると仮に美神GS達を捕らえて調教し、出荷したとしてもコストが割りに合わない。
「ここまでなんて聞いてないぞッ!!」
「最悪だ……ゴーレム製造プラントも破壊されているんだぞ……」
ゴーレムを製造するプラントも破壊され、ローパー等の繁殖室も甚大な被害を受けている。
「くそくそくそッ!!どうしてこうなった!」
簡単な仕事だった筈なのに……国際GS協会、そして霊防省、オカルトGメンまで手を回して計画した完璧な計画は想定外の出来事が続き、完全に瓦解しようとしていた。
「最悪だ……」
思わず脱力して椅子に倒れるようにして座り込んだ。金が欲しい、名誉が欲しい、良い女を抱きたい――そんなの男として当たり前の欲求である筈だ、それが全て否定され崩壊する……裏切り、人を殺し、用意した全てが崩れ去る……。
(まだだ。まだ終わりじゃない)
美神、芦、神宮寺、氷室――1人では足が出るが、2人捕らえる事が出来れば……まだ何とかなる。若手NO.1の美神GSとその美貌で人を誘う神宮寺GSは勿論、助手の域を出ていないが神代の巫女と言っても良い氷室も、質の良い霊具を作る才能を持つ芦も美神GS達には劣るがそれでもは法外な値段が付いている。2人捕らえて逃げる事が出来ればまたやり直せる……そう考えていた私だがふと顔を上げ、目の前に広がる光景に今度こそ言葉を失った。
『みむううう!!』
『ぷぎ、ぷぎーッ!』
『うっきゅーんッ!!』
『ノブノブーッ!!』
『『『『みむううーーー』』』』
研究用に捕獲していたグレムリンの群れ、それら全てがなぜか増えているうり坊の上に乗り、横島のグレムリンに先導され研究通路を走る姿を見て、モニター室にいる全員が今度こそ言葉を失ったのだった……。
~グーラー視点~
悪夢と言っても良い監禁生活は長くは無かったが、短くも無かった。人を誘惑し、喰らうという性質を持つあたし達グーラーからすれば肌を重ねる事に抵抗はない、それが自分達のあり方だからだ。だが呪術で頭をおかしくされ、霊力や魔力を補給することも出来ず、与え続けられる快楽には精霊であろうと耐えられない……狂い、発狂し、本来餌である人間の男に蹂躙される――それはグーラーとしてのあり方を崩壊させた。1人2人と仲間が発狂し、そしてオークやトロールによって壊され喰われるか、ローパーやスライムの苗床にされ身体が体内から弾けて死に、複数の人間の男に弄ばれる……その光景を見続けたあたしには既にグーラーとしてのあり方を失っていたといっても良いだろう……サキュバス達も同様で、この屋敷は効率よく女を壊すと言う事に特化した恐ろしい場所だった。
(変な奴……)
グーラーとしての本能で男を求めつつも、男を恐れるようになってしまった。本当なら助けてくれたとは言え、横島と一緒にいると言うのは耐え難い苦痛となる筈だったのに……なぜか安らいでいるあたしがいた。
「……気持ち悪くありませんですの?」
「え?何が?ミィちゃん。空飛べたんだなあ……凄い綺麗だと思う」
横島の回りを飛ぶ……いや浮いているのか?ミィは横島の回りをくるくると飛びまわり、綺麗と言われた事を喜んでいるのが良く判る。
(まぁ分からないでもないか……)
この屋敷の人間はあたし達のような存在を売り物としか認識していない、恐れ敬う事は無く必要なのは男の劣情を誘う肢体であり、人外の力はおぞましい力であり、それを無力化することをここの人間達は徹底していた。それは恐らくこの屋敷の人間が作ったであろうミィも同じだ。だからこそミィは自分の空を飛ぶ能力が恐ろしくないか、気持ち悪くないか?と横島に問いかけたのだろう……。
「……そう言って貰えると嬉しいですの」
「わっととと、ミィちゃんは甘えん坊なんだな」
「……ふふふ」
空に浮いたまま横島に背中におぶさり、顔を摺り寄せて笑うミィは幸せそうであり、自分が受け入れられたと言う事を心から喜んでいる様子だった。
(しかしあれだなぁ……不思議な奴だ)
男に対する嫌悪感が会ったはずなのに、それが消えている……不思議な感覚がする。人間なんだけど……まるで自分の同族のような……人間だし、自分より幼いはずなのにまるで父か兄と一緒にいるような安心感がある。
「グーラーさん、どうかしました?」
「あ、いや……なんでもない」
不思議そうにあたしを見つめて来る横島になんでもないと言いながら、少し歩く早さを早めて横島の隣に並ぶ。
「とにかくだな、お前の仲間と合流しないと不味いって事だ。言ったら悪いけど……お前あんまり強くないだろ?」
「まあ、確かに……あんまり知識もないですしね」
強いGSや霊能者がもっているような雰囲気が無いのだ。別にそれが悪いと言う訳では無いのだが……やけにちぐはぐな感じがする。霊力は確かに持っているだろうし、心眼という強い使い魔も一緒だ。少なくともこの以前に屋敷に突入して来たGSよりかは強いのは間違いないと思うんだけど……。
【横島は強いぞ?ただ……ケルベロスと単騎で戦って勝てるかと言われるとそれは無理だが……】
「あたしでも無理だよ、死んじまう」
ケルベロスと単騎で勝てるとしたらそれは間違いなく下級以上、中級未満の神魔と同格だ。あたしは精霊だけど、とてもじゃないけどケルベロスには勝てない。
「それにここの魔獣は皆改造されているからな、普通の個体よりもずっと強い。後は自我がない操られている状態だから凶暴性も段違いだ。少なくとも真っ向から戦うのはただの自殺行為だよ」
「まじかあ……となると逃げ回るってのが一番ベストですかね?」
「多分ね、電子カードは手に入れてるから通れない道はあんまり無いと思うよ」
【問題は敵と遭遇した場合だな、グーラーは直接戦闘タイプじゃないよな?】
「まぁあたしはそれなりに肉弾戦も出来るけど……基本は幻術とか幻覚かな」
並みの人間やGSよりかは強いと言えると思うが……神魔や同じ精霊などと戦うとなると力不足だと認めざるを得ない。
「眼魂があれば負けないと思うけど……うーん」
「なんか切り札でもあるのかい?」
【切り札は切り札だが、この場には持ってきていない。余り人目につけて良い力じゃないんだ】
心眼のこれ以上詮索するなと言わんばかりの強い口調を聞いて、あたしはどこか納得していた。横島は強い力を持っているように感じられるのだが、横島本人は穏やかで戦いから程遠い性格をしている。
「……私これでも結構強いですのよ?」
「ありがとうな。でも良いよ、ほらおいでおいで」
「……はいですの」
実際問題ミィは少なくともあたしよりも強い、だけど幼い少女の姿をしているからか横島は戦わせたくないようで、強いと言ったミィをだっこして頭を撫でて甘やかしている。その姿を見ると横島の切り札は性格を変える物、もしくは強力な霊具のどちらかと当たりをつける。
「隠れながら移動だと時間が掛かるけどそれが1番安全だね。戦いを避けるのならね」
「ンンンン、それでしたら拙僧がご同行しましょうか?」
第3者の声が突如闇の中から響き、鈴の音が闇の中から響いて来た……通路の奥から漂ってくる気配は人間でも無く、神魔でも、そして魔物でも無く……全く異質な物で反射的に拳を握って身構えていた。
「ミィちゃん、グーラーさん!下がってッ!」
横島の顔付きが険しくなり、その両手が霊力で出来た篭手に包まれる。霊力の物質化……とんでもなくレアな能力、しかもそれを一瞬で行った……それを見て横島が強いと言う心眼の言葉の意味を本当の意味で理解した。
「蘆屋ぁッ!!!」
「ンンン、そんなに怖い顔をしなくても良いではないですか?拙僧はただ善意からお手伝いをしたいと思っただけなのですから」
筋肉質だが長身の優男を横島は蘆屋と呼び激しい怒りを露にする。それに対して蘆屋は柔和な笑みを浮かべ、その顔を見た横島は蘆屋に対して強い敵意を見せるが蘆屋と呼ばれた男は両手を上げて敵意はないと言わんばかりの素振りを見せる。
「今回に限っては拙僧は敵でありませんぞ。おぞましき人の業、それに囚われた罪なき者を助けに参ったのです。それなのに拙僧を敵だと言うのですかな?」
「……ぐっ……」
「ンンンン、拙僧も有力な情報を掴んでおりますぞ?ここは協力するが得策ではありませんかな?
粘着質で挑発的な口調の蘆屋の言葉に横島は唇を噛み締め、忌々しそうに顔を背け霊力の篭手を霧散させる。
「信用した訳じゃないからな」
「それで結構、敵の敵は味方と言う事でよろしいでしょう?」
悔しそうに顔を歪める横島はにやにやと笑う蘆屋からあたしとミィを庇うように前に出て、その背中であたし達を庇おうとしてくれた。その背中は人間不信で男に嫌悪を抱くあたしでも頼もしい大きな背中に見えるのだった……。
リポート9 悪意 その8へ続く
色々なイベントの準備のフラグを入れてみました。女性陣は色んな陣営への不信感、横島達は蘆屋とエンカウントと終盤に向けて動き始めました。序盤は人間が敵というコンセプトなのでやや暗いかつ、シリアスですがこの後はGSらしいギャグ展開もあります。具体的にはカーマとか愛子とか、アルテミスとかを使ってドタドタギャグを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。