GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
リポート9 悪意 その10
~くえす視点~
風船が弾けるような音を立てて消滅した天使――その消え去りようは実に呆気なかったが、その能力は間違いなく本物だった……霊能のれの字も知らない研究者が生贄だったのであの程度でしたが……霊能者を生贄にしていたらあの程度ではすまなかったと断言出来る。
(きな臭くなってきましたわね)
表向き、いえ、スケープゴートとして国際GS協会に霊防省が使われたようですが、そしてこの屋敷で見つけた資料から推測するにオカルトGメンやバチカンの1部も関わっていそうだ。蘆屋の話を全て信じるわけでは無いが……4大天使が関わっているとなると悪魔撲滅を掲げている教会や異端者狩りも関わっていそうだ。証人として確保しようとした研究者達も苦労して生かしたまま捕縛する事が出来たが……。
「……あ、あう……あ……」
虚ろな眼で虚空を見つめている研究者に蹴りを入れるが反応はまったくと言って示さない……。
「生きてますけどこれ死んでますわね。神魔に渡して情報を抜き出すくらいの価値しかありませんわよ?」
「そうね。でもちゃんと証言してくれそうなのも残ってるわよ、くえす」
自分で自分の身体を抱き締めて震えている須狩に視線を向けると、須狩はヒステリックな声を上げる。
「わ、私は何も知らないわよッ!知ってる事は話すわよッ!だけど私の知ってる事なんて殆どないわよッ!あ、あんな化け物の事なんかわ、私は知らなかったんだからッ!」
その狂乱具合から本当に天使の事は知らそうだが……天使の事を証言してくれるだけでも十分なので、こいつが生きていただけで最低限の成果はあったと思うべきでしょうねと私と美神が話をしていると当然のように蘆屋がその会話の中に割り込んできた。
「ンンンーこれぞ骨折り損のくたびれもうけという奴ですな」
「誰に断ってこっちに来ているんですか、手当てなどしてあげませんわよ」
今回は共闘したが元々蘆屋は敵であり、手当てをする道理はないと言うと蘆屋はにんまりと笑い、着物から小瓶を取り出した。血のように赤い液体……それがなんなのかはすぐに私達は悟った。
「蘆屋ッ!!」
「ンンンー手当てをしていただけないのならば拙僧は自分に出来る方法で治療する必要がある。それだけで他意はないですぞ」
ニヤニヤと笑う蘆屋が瓶の蓋を少し緩めた……それだけで横島の顔色が死人のように青くなる。狂神石の影響を受けているのか、その目が時折真紅に輝いている。即座に横島の周りに結界を張るが、殆ど変化は見られない。
「うっ……」
「……横島?大丈夫ですの?」
「……うっう……だ、大丈……ぶ」
「みむ!みむーッ!!」
「ぷぎゅうっ!」
チビ達が心配そうに擦り寄るが、狂神石の影響を受けている横島に返事を返す気力はないのか、頭を押さえて弱々しく大丈夫と返事を返すだけだ。
「蛍ちゃん!おキヌちゃん!横島君をお願いッ!」
蘆屋に対して無警戒でいることは出来ない。私と美神で蘆屋の前に立ち、蛍とおキヌに横島の処置を頼む。
「大丈夫じゃないでしょう!蘆屋ッ!これあげるから早くそれを片付けてッ!おキヌさん、ネクロマンサーの笛を」
「は、はい、分かってます!」
おキヌがネクロマンサーの笛を吹いて横島の中の狂神石を鎮めに掛かる、音色が響くに連れて横島の顔色が僅かに回復するが意識が朦朧としているのが遠めでも分かる。
「……これをくれてやりますわ」
貴重な霊薬だが、これで狂神石の瓶を開けられて横島が発狂しかねない。蘆屋が求めるであろう霊薬や薬を幾つも投げ渡すと蘆屋はやっと狂神石の瓶を懐に戻した。
「ンンンー、手当てをしていただけるのならば拙僧も貴重な狂神石を使わないで済むのでかまいませんぞ」
嫌々蘆屋に霊薬等を渡し、霊力を回復させると蘆屋は札で自分の腕を生やし拳を閉じたり、開いたりしてその感覚を念入りに確かめ、地面を蹴って私達から大きく距離を取った。その行動に思わず身構えるが、蘆屋は手を開いて待てというジェスチャーをしてくる。
「拙僧と貴女達は敵同士、それは勿論拙僧も分かっておりますゆえ、天使を退けた段階で共闘は終わりでしょう?」
「だから何?今度は私達と戦うとでも?」
「まさか、拙僧も消耗しておりますし、保護した仲間を連れて帰ると言う仕事も残っておりますゆえ……拙僧としても事を構えるつもりはございません」
そう笑う蘆屋だが、その目は挑発的でもしも私達が戦いを仕掛けてくれば自分には戦う準備が出来ていると言わんばかりだ。
(……本当に良い性格をしてますわね)
私達に今蘆屋と戦う余力はない……そもそも戦えるだけの装備も準備もしていない、戦うつもりがないと言われて助かったのは私達の方だ。
「魔族よりも天使の方が過激派が多いのです、これから気をつけるべきでしょうね」
「何が言いたいのかしら?天使と神魔は信用できないから自分達に協力しろとでも言いたいのかしら?」
天使に気をつけろと言う蘆屋に美神がそう尋ねる。すると蘆屋は楽しそうな笑みを浮かべて、懐から赤い札を取り出した。
「それを決めるのは貴女方ですな、ガープ様は優秀な者は人間であっても重宝してくれる方です。仮に貴女方がこちらへ付くと言うのならば……ガープ様は貴女方を仲間として迎え入れてくれる事でしょう」
お断りだと言おうとした私達だったが、次の言葉に言葉を失う事になる。
「天使が台頭し、そして天使に従がう霊能者が増えれば……日本は横島にとって生き辛い世界となるでしょうからね、懸命な判断をすることをお勧めしますよ。ではまた何れ……互いの命を奪うあう戦場にてお会い致しましょう」
横島に生き辛い世界――妖怪や悪魔と共に手を取り合える世界を願う横島にとって、天使が台頭する世界は言うまでも無く生き辛い世界になるだろう……私も含めて混ざり者や魔女や人狼等の人権が認められない世界。天使が望む世界は間違いなくそんな世界だ。私達が返答出来ずに入るのを見て蘆屋は慇懃無礼な素振りで一礼し闇の中へ溶けるように消えていく……誰もが口を開きたいが開けない……そんな異様な雰囲気の中美神がパンっと手を叩く音だけが広場の中に木霊する。
「……とにかくここを出ましょう。こんな所にいても気が滅入るだけだし、暗くなるだけよ」
「でも美神さん、こいつらは……」
精神の死を迎えた研究者達をどうするのか?と蛍が尋ねると美神は最後の精霊石と結界札を取り出した。
「精霊石の結界を張っておけば大丈夫だと思うわ、横島君。外に出たらシズクに連絡を取ってくれる?私達だけじゃ外に連れ出すのは無理だし、小竜姫様達を呼びましょう」
「待って待ってよ!私は!?」
「闇の中で反省する事ね、命だけ助かったんだし、それでいいでしょう?」
連れて行け、助けろと叫んでいる須狩をその場に残し、私達は屋敷の地下を後にした。だがこの屋敷で見たこと、そして蘆屋に告げられた言葉が脳裏から離れる事は無く、報告を聞いて直ぐに迎えに来た小竜姫達によって東京へと戻されたが暗く想い気持ちが払拭される事はないのだった……。
~小竜姫視点~
美神さん達からの連絡を聞いて直ぐに現場に向かいましたが、そこで見た美神さん達の表情を見て私は正直言葉を失った。口にはしていないが、神魔へ対する不信感、そして人間の悪意を目の当たりにした美神さん達の中に悪い、負の霊力が満ちていたからだ。これは良くないと直ぐに東京に戻って貰いましたが……今回の事件は余りにも人の闇に近すぎた。
「……酷いもんだね、良くもまあここまで出来るもんだよ」
「どうでしたか?メドーサ」
「あの区画だけ魔界と同じ雰囲気だね。そうじゃなきゃ栽培なんて出来ないだろうけど……どうやったのか私が聞きたいよ」
神魔や精霊、そして女性のGSの霊力や神通力を封じて性奴として売り捌き、人造神魔や霊能兵器を作っていたと言う人間には正直嫌悪しか抱かないが、問題はどうやってこれだけの物を人間界に集めたかだ。
「予想がついたりは?」
「全然付くわけないだろ?そもそも原始風水盤レベルじゃなきゃ魔界を人間界に召喚するなんて出来ないんだよ。それはあんただって分かってるだろ?」
「う、それはそうですけど……蛇の道は蛇って言いません?」
「言うけど知るかッ!!」
メドーサならと思いましたが、メドーサでも分からないと言われると正直私も頭を抱えるしかない。
「ヒャクメの調査結果が頼りですかね」
「良い成果が出ればいいけど……少なくとも私達より上位の神魔が関わってるよ。これ」
メドーサに言われなくても判っている。上級、あるいは最上級神魔がこの事件には根深く関わっていると……そして美神さん達の報告が事実なら……。
「ミカエル、ラファエル、ウリエル、ガブリエルですか……」
「充分にありえるだろ?と言うかあいつらが魂の牢獄からも消滅したって聞いてたけど信じてたのか?」
魔人大戦の折に魔人姫討伐に独断で向かい、消滅させられたと聞いていて私はそれを正直信じていたが……。
「西洋系の天界はかなり閉鎖的ですからね……今思えば実は生きていて、こっそりと天界に帰っていたといわれても信じられると思います」
「だろうよ、特に西洋系はなぁ、過激派が多いからな」
ブリュンヒルデさんや、ジーク、ワルキューレも西洋系の神魔の活動で魔界に落とされたが、元々は天使や戦乙女に属する天界の住人だ。
だが自分達の派閥に属さないのならばと徹底した工作により、魔族へと転化してしまっている。同じ天使にもここまで出来るのならば、死亡を捏造し、人間界で暗躍している可能性は捨て切れない。
「西洋の天界本部はなんだって?」
「……そんな事実はないと言って人間の報告を鵜呑みにするなと言っています」
ここで問題になってくるのが天界の派閥だ、魔界も決して一枚岩では無いが、魔族側の最高指導者であるサタンが1度全てを力で捻じ伏せ魔界の支配者となり、ルイ様がそれを認めたので魔界の勢力が形だけでも従がってくれているのである程度の統一は出来ている。だが天界はもっと酷い、派閥が多数あり天界側の最高指導者を認めないと言うものが多く、閉鎖的に政治を行なっている者が多く魔族撲滅を掲げる天使や神が多く、何度も何度も交渉を求めているが魔界を滅ぼし、地球を滅ぼしても天界は存続するので人類を滅ぼして再び創生を始めるべきだと訴えている者も多くいる……。
「ガープ達がいてもいなくても状況は変わらないかもしれないね」
ガープは確かに天界と魔界に戦争を仕掛けて来ている。それに対して神魔混成軍が結成されたが、それによってデタント反対派の西洋の天使は独立し、一切関わらないと沈黙を続けていたが……もしかするとガープと同等の脅威になりかねない……
「何か証拠を見つける事が出来れば良いんですけど……」
「精々見つかったとしても人間側の証拠くらいだろうね……ここまで徹底していて証拠を残すとは思えないよ」
人間に貴重な神魔の異物を与えて霊能兵器を作り、人造神魔を作る。それの製造プラントは美神さん達が破壊していたが、かなりの大規模、そして安定した状況で作られていた。
「小竜姫、メドーサッ!これを見て欲しいのね~」
ヒャクメの呼ぶ声が聞こえ、そちらの元へと走りヒャクメが指差している者を見つけ思わず額に青筋が浮かんだ。
「これは挑発ってことですね」
「やってくれるね……宣戦布告だよ」
4つの祭壇に見せ付けられるように置かれていた巨大な純白の翼と剣と秤、巻物と本、決して枯れぬ百合の花、そして杖と盾がそれぞれ掲げられ、神通力によって燃える炎が残されていた。
「4大天使の証……こりゃ本格的に調べないと不味そうだね」
神の前に立つ4人の天使の動かぬ反逆の証を前に私とメドーサ以外の神魔もそれを見つけ、信じれないと言わんばかりにその目を大きく広げる。神に最も忠実と言われた4大天使全ての離反――それは神魔にとって大きな衝撃を与えるのだった……。
~ルイ視点~
ベルゼブルが用意してくれた紅茶を口にし、読んでいた本を閉じて机の上に乗せる。
「お口に合いませんでしたか?」
「いや、充分に美味しいよ?そろそろ神魔混成軍が4大天使の反逆に気付いたころかなって思ってね」
魔人大戦の折に死亡が確認されたのは影武者で本物の4大天使は早々に逃亡しているのを私は知っている。
「ミカエルですか」
「そうあの出来損ないのバックアップだよ、しかしまぁ神もがっかりしてるんじゃないかな?」
人間界の伝承では私とミカエルは双子とか言われているが、実際は双子などではなく私のデッドコピー、自分に忠実な駒として神が作り出した天使だが……自分が指導者になると言ってキリストの奴に負けた事で虎視眈々と反逆を窺っていたのは知っていたが思ったよりも我慢できたなと苦笑する。
「しかしこれで面白くなって来た」
「……面白くですか?」
怪訝そうな顔をするベルゼブルだが、その本心は横島が心配と言うのが目に見えており、そのベルゼブルの反応すらも私に取っては面白くて仕方ない。
(ルキフグスは……まあうん……あれはあれで面白いか)
横島の股間に顔を埋めていたのは完全にあれだと思うが……まぁ仕事自体はちゃんとこなしているし大丈夫だと思う事にしよう。
「人間の悪意に天使・神の策謀、そしてガープ達……世界が滅びるか、そうじゃないかって言う状況は面白いだろう?」
ベルゼブルに同意を求めるが、ベルゼブルは無言で理解しかねるという表情をしている。
「もう少し頭を緩くしたほうがいい。ここは神の箱庭と言う事を認識したほうが良いな」
「前に説明を受けましたが、私はとても理解しかねる内容です」
世界には世界の意志とでも言うべき物――宇宙意志と言う物がある。世界はそれに基づいて運用されている。どれほど努力しても、運命を変えようとしても超えられぬ、変えられぬ物がある……それが宇宙意志……即ち神と呼ばれる物が作り出した法だ。
「全てが到達できる視点ではないが、確かに存在するのだよ、悪辣なゲームメイカーである神がね」
それを認識し、それを退けているから私は超越者と言われるのであって天と魔の最高指導者を経験する事が出来たとも言える。
「我々とは違う神という事なのですよね?」
「ああ、そういう認識で構わないよ。理解するのは難しいと思うけどね」
悲劇も喜劇も復讐劇も、全てを考えて悪辣に物語を描いている者がいる。それは運命であり、奇蹟であり、そして悲劇である。自分が望むがままに楽しむ為に物語を描いている者がいる。正直に言えば私もそれを神と言うのか、運命というのかは確証はもてないが……私は少なくともそれを神だと認識している。
「では4大天使の反逆も、アスモデウス達の行動も……魔人姫の復活もですか?」
「全ては神のシナリオだと私は思っているよ」
そもそも1つでも内容によっては世界を滅ぼしかねない事件がこれだけ多発していると言うこと自体がありえないと言える。4大天使は自分達に従がう人間だけの世界を望み、それを作ろうとする。その世界は恐らく神に変わって天使によって運用されるディストピア、神の秩序と言う名の束縛と支配によって繁栄する世界になる可能性が高い。そしてアスモデウス達は神と魔、そして人間と世界に住まうすべてに戦争を仕掛けようとしているが、勝っても負けても地球が滅びる可能性は極めて高い。魔人姫は……うん。
「魔人姫は横島に惚れてるからねぇ、進んで滅ぼす事はないと思うけど……あいつも楽しければいいって感じだからなんとも言えないね」
横島を魔人にするか、それともネロが横島の方に歩み寄るか、どちらにしろネロもキーパーソンなのは間違いない。
「人間の悪意を見てアスモデウス達に付くか横島には新しい道が示された。これからますます楽しくなるよ」
全ては横島を中心に回っている、横島が動く度に神のシステムが崩れるのは見ていて面白いし、絶対の法則が崩れる瞬間が見れるかもしれないという期待がある。
「シヴァに連絡してくれるかな?横島がガルーダの雛を見つけたとね」
「……カーマとシヴァがはちあいますよ?」
「それが狙いだよ。面白い事が見れるだろ?」
カーマとは個人的に繋がりがあるので横島の家に向かうように頼んでいた。殺した者と殺された者――それが横島の家で鉢合わせたらどうなるのか?人の闇を見て横島がどう変わったのかそれを見に行くのが楽しみだ。
「さてと、行こうかベルゼブル」
「日傘と帽子を持ってきます」
ベルゼブルが日傘と傘を持ってくるのを待っている間に魔人姫に連絡を繋げる。
【なんの様だ?明星】
「横島が人の悪意を見てね、どうなったのか見に行かないかい?」
【行く!横島の所に行くなら余も行くぞ!】
2つ返事を返す魔人姫に合流地点を伝え、ベルゼブルが持って来た日傘と帽子を受け取り横島が変わらなかったのか、それとも変わってしまったのかそれを見定める為に東京へと向かうのだった……。
リポート10 来訪者 その1へ続く
DEAD END その1へ続く
次回からは今回の話の後日談とそれによって変わる者とかを書いて行こうと思います。人の悪意を目の当たりにし、それから横島達がどう変わっていくのかを楽しみにしていてください。それとミカエルとかは真メガテン2をやっていたのでやっぱり天使は駄目だなって感じで新しい敵として抜擢しましたのであしからず、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
なお今回は2話更新でDEAD ENDも投稿しております。かなりダークですが、こちらもよろしくお願いします。