GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
今回のルートに入る条件は
1 美神達がなんからの方法で精神を砕かれる、または死亡
2 アリス達を始めとした横島が大事に思っている人外の死亡
3 人外抹殺を掲げる何らかの組織の台頭
となります。今回はありえた1つの結末と言う事で暗い上に重い話に加えて若干の性描写を含む話となりますが、今回の更新もどうかよろしくお願いします。
DEAD END 優しさゆえにかの者は狂う事を望み、それどかの者は狂えず
太陽が落ちてもなお灯が消えぬ街――東京の一角……かつて美神令子除霊事務所という看板を掲げていた廃ビルの屋上に腰掛け、レクス・ローが手にしている本を捲る。
「ほんの少しの掛け違いが取り返しの付かない悲劇を呼んだ……か、実に浅ましい、そして実に愚かだ」
かつては東京の中でも一等地と言われた美神令子除霊事務所の周辺は住む者のいない廃墟、砕けた瓦礫の山、そして黒ずんだ血痕――かつての姿は無く、本当に東京かと思うような酷い荒れようだった。
『東京市民の皆様は外出をお控えください、繰り返します。東京市民の皆様は外出を控えただちに自宅へお戻りください。凶悪な指名手配犯、「横島忠夫」「神宮寺くえす」が東京市内で目撃されました。繰り返します。神の教えに背き、反逆行動を続けている凶悪な指名手配犯「横島忠夫」「神宮寺くえす」が……』
遠くから響いて来るアナウンサーの声に耳を傾けていたレクス・ローの元に1枚の紙が飛んで来る。それを手に取ったレクス・ローは肩を落とし、深い深い溜め息を吐いた。
「神の教え……ね、善良な妖怪を狩り、少しでも優秀な霊能者は何をしても許される。そんな事をのたまう男が本当に神の代行者だと言えるのかな」
DEAD OR ALIVE 横島忠夫 懸賞金20億7800万
ALIVE 神宮寺くえす 懸賞金12億3500万
レクス・ローの手にしていた紙は指名手配書であり、既に×が打たれている者もいる……「唐巣神父」「言峰神父」「伊達雪之丞」……を始めとしたかつては有名な霊能者は×が打たれ死亡扱い。それに続くは奴隷として確保された一覧「六道冥華」「六道冥子」「小笠原エミ」……といった女性のGS達――がどこどこにおり、規定ランク以上の霊能者及びGSは何をしてもいいと大々的に書かれている。見え麗しい女に「何」をしてもいい――それが意味する者は言うまでもないだろう。
「反吐が出る。これで神の秩序の世界とはよく言ったものだ」
ほんの少しの掛け違い……4大天使の暴走を止められず、そして4大天使の助力を受けた作られた救世主を神の代弁者とし作り上げられたディストピア――それが今の東京の姿だ。
『勇ましく美しい戦乙女隊が出撃しましたので、市民の皆様はご安心ください。必ずは戦乙女隊は神に逆らう指名手配犯に正義の鉄槌を下す事でしょう』
自身が読み上げているニュースがさほど誇らしいのだろうのアナウンサーの顔は笑みに満ちており、街からは歓声も響いているがレクス・ローは冷めた表情を崩す事は無かった。
「勇ましく美しい……ね、浅ましく下品の間違いではないかな」
戦乙女隊と聞けば、聞こえは良いが殆ど裸同然の衣服に、頬を紅く染め興奮を隠し切れない表情をしている霊能者の姿は娼婦その物であり、事実神の代弁者とされている救世主の情婦でもあるのだからレクス・ローが下品と口にするのも当然の事だった。だが問題がその戦乙女隊の中に蛍や美神、そして琉璃達の姿もあることだった。同じ様に正気を感じさせない瞳、高揚し発情しているであろうその表情にかつての聡明さや誇り高さは感じられなかった。
「……憐れ、だがこれもまた1つの結末か」
ありえたかもしれない、悲劇的な結末……ほんの少しずつの掛け違い、そしてそれが取り返しの付かないレベルにまで進んでしまった世界・・・・・・それがこの神という名の浅ましき存在を讃える都市東京であり、避けられない滅びが確定した世界線の姿だった。
背後から迫ってくる怒声を聞きながら私は衰弱しきっている横島を庇いながら只管に走っていた。
(しくじった・・・・・・ッ!気が緩んでいましたわ)
文珠生成装置として横島がアルカディアに輸送されるという情報を掴み、心眼とタマモという犠牲を払い横島を取り返した。そして人間界を去るまで後少し、後少しでという所で僅かに気が緩んだ……それによって補足されてしまった。
「横島、横島。後少し、後少しですわ。しっかりするんですわッ!」
「……タマモ……タマモは……?タマモと心眼は……」
震える声でタマモはどうしたと尋ねてくる横島に私は唇をきゅっと噛み締めた。
「……死にましたわ、私達を逃がすために……」
横島も分かっていたのだろう、それでも信じたくなかった。あるいは嘘でもいいから生きていると言って欲しかったのだろう……だが今の私達にそんな甘い幻想に縋ってる時間はないのだ。無尽蔵にやってくる天使を退ける為に自身を霊力の爆弾にし、爆発の規模をコントロールする為に身体を捨て、タマモの自爆によって発生する魔力や神通力をコントロールする事を選んだ心眼は完全に消滅した。そして天使を消し飛ばしたタマモはもういない……横島を逃がす為に躊躇う事無く死を選んだタマモと心眼の死を悔やみたい気持ちも、泣きたい気持ちも判る。だけど私達に足を止めている時間はないのだ……。
(……甘く見ていた。見積もりが余りにも甘すぎたッ)
4大天使が人造救世主を作っている疑いがあるというのはあの忌々しい屋敷の中で分かっていた。だけど既に社会的な地位も権力も手にしているなんて思っても見なかった。私達の仲間と呼べる者は死ぬか、洗脳されて操り人形にされるかのどちらかだ。
「うっ」
口から滴り落ちて来た血を拭い、腹に手を当てる。傷はない、傷は無いが中身はグチャグチャだ。常に発情するように、冷静な思考が出来ないようにと言う処置の途中で無理矢理逃げ出し、霊薬等で誤魔化して来たがタマモを失い、心眼を失った今の私には横島を前に自分が健在であると言う痩せ我慢を続ける事しか出来なかった。
「くえす?」
「大丈夫ですわ。後少し、後少しですから」
美神も琉璃も蛍も向こうに落ちた。もう人間界にいる者で頼れる相手なんかいない、神の教えという名の洗脳によって全てが敵だ。
【神の敵を見つけました、陣営を組んで取り囲むのです!】
「「「ハレルヤッ!!!」」」
ビルの上から聞こえて来た声に私が反応する前に、横島の目が紅く輝いた。
「ジャンヌ……ダルクゥッ!!!」
激しい憎悪の声と横島から魔力が噴出した。それは心眼と言う制御を失った横島の魔人化を急速に進め、そして狂神石の力を目覚めさせる事になる。
「止めなさい!今の私達では勝てる相手ではありませんわッ!!」
「あいつがッ!あいつが殺したッ!!アリスちゃんを、紫ちゃんを……あいつが殺したんだッ!!」
「分かっています!分かっていますわッ!横島があいつを憎んでいるのは私も知っていますッ!ですが今大事なのは生き延びる事ですッ!」
4大天使の力を借りた救世主を名乗る男がやったのは単純で、そして非常に効果的な物だった。デタント反対派の天使や神魔を集めて最高指導者を幽閉、そして英霊の座への干渉を行い、4大天使が作っていた擬神が天界の最高指導者になった。それによって英霊の多くは退去、あるいは救世主へ付き従う駒となった。ジャンヌ・ダルクもその1人であり、横島の家に遊びに来ていたアリス達を虐殺したのもあの女だ。
「ううう……グルルルゥッ!!」
「横島!駄目ですわ!!横島ッ!!!」
怒りと憎悪に横島が呑まれかけている……だがその気持ちも分かる。横島が大事にしていた者は全てあいつに殺された、横島自身が殺されそうになった時にジャンヌ・オルタが横島を助けたが、霊核を砕かれていてアリス達の首を抱えて茫然自失になっていた横島を私達の所に連れて来ると同時に消滅した。横島が愛していた、ずっと続くと思っていた平和を壊したのがあの女だ。横島の憎悪の凄まじさは察してあまりある。怒りに飲まれ、ジャンヌダルクへ向かっていこうとする横島を引き摺るようにして必死に移動する。
「くえすッ!こっちへッ!」
「急げ!もう時間がないぞッ!!」
開かれた魔界への門から顔を出しているブリュンヒルデとベルゼブルを見て私は安堵した。
「横島、ここから先は貴方だけで行くんです」
「な、なにを……くえすもッ!」
私もと言う横島をブリュンヒルデとベルゼブルに向かって突き飛ばす。2人が横島を抱えたのを見て、私は自分の中で張り詰めていた糸が切れたのを感じた。
「いいえ、私は……ごほッ!こ、ここまでですわ」
咳と共に溢れ出した血が両手と服を染め上げた。それを見て横島の顔が絶望に染まるのを見て、私は小さく笑った。
「最後まで一緒にいてあげたかったですが……ごめんなさい、横島。私はここまでです」
「い、いやだッ!くえすも、くえすも一緒にッ!」
「駄目ですわ、私はあいつらに頭の中も腹の中もかき回されてる……心眼もタマモもいない……ハレ……ッ!!はぁ……はぁ……こうして
自我を保てるのも時間の問題なのです。だから……さよならですわ、ブリュンヒルデ、ベルゼブル。横島をお願いします」
頭の中に響く忌々しい賛美歌――1度刻まれた術式は消えない、これ以上は私もいつまで正気を保っていられるか分からない。完全に狂う前に、横島を託す事が出来る2人に合流出来たのは幸いだった。
「……分かりました。貴女の事は忘れません」
「その誇り高さ、私はお前を尊敬する」
「嫌だ、いやだッ!!どうしてッ!いやだッ!!離せッ!」
ブリュンヒルデとベルゼブルを振り払おうとする横島だが、今の横島にはそんな力はない。少しずつ魔界への門の中へ引き摺られていく横島を見て、私は零れ落ちそうになる涙を堪えて、今の私に出来る最高の笑みを浮かべた。
「……小さな夢がありました。好きな男の子を生んで、年老いて死ぬまで一緒に過ごす……そんなささやかな夢がありました」
でも中身をかき回された私は子宮を失った。もう子供を産むという女の幸せは2度と叶わない……。
「いやだ……くえすまで……俺を置いて逝くのか……」
「ごめんなさい、本当はずっと一緒にいたかったんですわ……でもそれが出来ないなら、あいつらに一泡吹かせてやります。横島……貴方は生きてください」
嫌だと泣き叫ぶ横島が魔界の門へ消えた……横島を生かして逃がすことが出来たなら……ここで死ぬとしても私は勝った。自分が成すべきことを……私は最後までやり遂げたのだ。
【神宮寺くえす。あのお方が呼んでいます、大人しく同行してもらいましょうか】
胸と秘部を隠すだけの下劣で下品極まる服を着ているジャンヌ・ダルクに向かって私は口の中に溜まっていた血を吐き出した。
「お断りですわ。私、そんな股の緩い女ではありませんの、好きでもない男に身体を開くような安い女ではないですから」
【そんな事を言ってもすぐにメシア様に奉仕する事が喜びになりますよ】
暗く澱んだ正気を感じさせない瞳で笑うジャンヌ・ダルク。そして遠くに見える美神達の姿を見て、私は肩を落とした。
(出来れば私が殺したかった)
美神達と対峙する事は横島を苦しめる……だから殺したかった、だけどもう私には時間がない。
【さぁメシアの元へ】
「くたばれビッチ共」
腹に手を当てて、魔法陣を起動させる。子宮を失った時、そのかわりに魔法の触媒を埋め込んだ。それを使う時がきたのだ、魔法陣が爆発的に私の身体を覆い尽くして行き……眩い光の中私は永遠に覚める事のない眠りに落ちるのだった……。
咽返る様な性臭で満たされた部屋からは女の喘ぎ声、そしてメシアを讃える声が通路にまで響く中、黄金の翼を持った1人の天使が部屋の扉を開けた。
「メシア。何故集合時間に来ないのですか?」
「ミカエル……ああ、すまない。もうそんな時間か、今日掴まえたこの女の具合が良くてな」
白目を剥き泡を吹いている女性を投げ捨てるメシア。すると壁際に控えていた女達がその女性に群がる姿を見ながらメシアはローブを羽織り部屋を後にする。
「産めよ増やせよだろう?ミカエル」
「ええ、そうですよ。ですが程度は弁えて欲しい物です」
ミカエルの言葉にもメシアはどこ吹く風と言う様子でミネラルウォーターのボトルを受け取る。
「横島忠夫ですが」
「ああ、文殊の生成器にするんだったな、輸送は済んだのか?」
「逃げられました」
「は?」
「逃げられました。消息をつかめないでいた神宮寺くえす達によって奪還されました」
ミカエルの淡々とした言葉を呑込めないでいたメシアだが、横島に逃げられたと知り怒りを露にし、手にしていたペットボトルを握り潰した。
「ジャンヌ・ダルクは、あの牝豚はどうしたッ!」
「神宮寺くえすが自爆したようです。生きているかどうかも定かではありませんね」
「神宮寺くえすまで死んだだとッ!あの女は私が目を付けていたのだぞッ!!」
救世主とは程遠い浅ましい姿を見せるメシアだが、ミカエルは柔らかく微笑んだままだ。
「貴方が行かなかったからですよ。ガブリエルやラファエルは魔族の進軍を食いとめていました。その間に神宮寺くえす達が侵入、横島忠夫を連れ出して、九尾の狐が自爆した。ガブリエル達は無事ですがテンプルナイトは全滅です」
自分が向かわなかったからとミカエルに言われメシアは黙り込む、狙っていた女が捕獲されたからそれを抱くことを優先した己の失敗を悟ったからだ。
「……これからどうするんだ?」
「特異点の横島が逃げた。これはとても不味い状況です、我々が作ろうとしている理想郷……偽神によって存在を定義された世界ですが、
特異点はそれを砕く事が出来る」
「俺達の理想の世界を守るには」
「横島忠夫の抹殺が必要不可欠です。そして魔界へ向かったという事は分かりますね?」
「全面戦争が少し早くなったと言うことだろう?」
メシアの言葉にミカエルは満足そうに微笑み、その通りだと頷いた。
「魔界には様々な陣営が集まっています、そして特異点の価値を知る者もいます。貴方が女を抱くのを好きなのは知っていますが、今は戦争に備える事を優先してもらいます」
「……俺だってそれくらい分かる。後顧の憂いをたっておけば後はお楽しみだ」
下卑た欲望を隠すつもりない様子のメシアを咎める事も無く、ミカエルは微笑んだ。自分たちの思い通りに動き、神魔を殺す能力を持った救世主――その能力さえあれば下卑た欲望を抱いていようが何をしようが問題ではないのだ。最高指導者を幽閉し、自分達が作り上げた神が統治する理想郷。その象徴たる存在はこの救世主であればいい、表向きだけでも清廉潔白な救世主を演じてさえいれば多少の目を瞑る事にミカエルに躊躇いはないのだった……。
神宮寺くえす達が命を賭けて横島を魔界へ届けたという一報は4大天使と偽りの救世主によって人間界を追放された神魔にとって大きな福音となった。特異点であり歴史の修正力、あるいは宇宙意志を越えれる者である横島は今の現状を覆す大きな希望と思う者が多いからだが……そこまで甘い話ではない。
「横島の状態は?」
「霊力も魔力も完全に枯渇寸前ですが、最も大きいのは精神の疲弊ですね、酷く衰弱しています」
ブリュンヒルデの淡々とした言葉に思わず私は机を殴りつけた。
「ベルゼブル。気持ちは分かるが、少し冷静に「気持ちは分かる。分かるだと!ふざけるな!横島がどれだけ衰弱していると思うんだ!それなのにお前達はもう横島を戦わせる事を考えているッ!あいつの気持ちを考えた事があるのかッ!!」
信じていた者に裏切られた、やってもない罪を被せられた。愛した者は操られて自分の敵に回り、自分を慕ってくれる者達を全て失った……。
「私はあいつの気持ちを考えると胸がいたい……もう良いだろう、もう戦わせなくて良いだろう?人間界と天界との繋がりを永劫に断ってしまえばいい。そうだろう」
横島は戦いを好む男ではない、穏やかで心優しい平和を愛する男だ。もう十分に傷ついた、十分に悲しんだ。これ以上、横島を苦しめる必要はないだろうと訴える。
「駄目だ。横島の力は必要だ」
「何故だ!もう我々は負けたッ!これ以上戦う事に何の意味があるッ!」
最高指導者は幽閉され、神通力と魔力を供給するだけの装置になった。膨大な神通力と魔力を得ている天使を倒すのは不可能だ、1体の天使を倒すのに複数の上級神魔が必要であり、そして殆ど相打ちになるという現状を横島1人が加わっただけで打開できるとは思わない。
「仮に繋がりを絶ったとしても天使達は魔界に攻め込んでくる。サタンも相手の手中に落ちている以上――完全に繋がりを断つ事は出来ないという事はベルゼブルも分かっているだろう」
オーディンの言葉に反論する言葉に詰まる。確かにサタンが既に装置に組み込まれている以上、向こうはこちらの座標をいつでも手に出来る。安全は何時まで続くか分からないということは私も判っている……。
「……それでもだ。私はもう横島を戦わせたくはない、お前達と袂を分かつことになってもだ」
「ベルゼブル様……」
席を立った私にブリュンヒルデが声を掛けようとして口篭る。その声に私は振り返って笑った、隠す意味も誤魔化す意味もない。
「私は横島を愛してる。だから……もう戦わせたくないんだ。横島の力を借りるのが1番だと言うのは私も分かってる……だけど女としての私はそれをしたくないんだ」
自分勝手だと、世界が滅んでも良いのかと言われることも分かっている……。
「私も存外女だったと言う事だ。軽蔑してくれても構わない、だが私は意見を変えるつもりはない。許してくれとは、理解してくれとは言わん。だがもう私は苦しむ横島を見たくないんだよ」
自分勝手な想いと言うのは分かっている。自分の感情を優先して世界が滅びるのを黙って見てみようとしている……許されない大罪だ。仮にも魔界の重鎮と言う立場のある私が取っていい態度ではない。だが私はもう世界の滅びを回避する事は出来ないと諦めている……ならその僅かな時間、数日にも満たない時間かもしれない……それでも仮初の短い平和だとしても、その中で横島を眠らせてやりたいと思うのは決して間違ってない事だとわたしは思う。会議室を後にし、横島が眠っている部屋の中に入る。
「……う……うう」
「やつれたな……」
大粒の汗を流し悪夢に魘されている横島の額の汗を拭い、その頬に触れる。やつれ、顔色の悪い姿は私の記憶のある横島とは程遠く、どれほどの心労、苦しみを背負って来たのかが容易に感じ取れる。
「ああ、ああああッ!!ああ、うあああ……」
飛び起きて大粒の涙を流し苦しむ横島の姿に座っていた椅子から立ち上がり、横島の身体を正面から抱き締める。
「大丈夫、大丈夫だ。もう良いんだ、もう苦しまなくて良いんだ」
「ああ……あああ……うう……」
胸の中で暴れる横島を抱き締めて自分を傷つけないように、優しく抱き締める。
「もう良いんだ、もうお前は戦わなくて良い……もう良いんだ」
こんな横島の姿を見て何故戦わせる事が出来る。何故これ以上苦しめるような選択が出来る……そんな残酷な事は私には出来ない。
「眠れ……眠るんだ横島」
魔法で眠らせ脱力する横島の身体を再びベッドに横にする。
「私にはサキュバスのような才能は無くてな……すまない」
穏やかな夢を見させることは出来ない、だけどせめて悪夢を見ないようにと私は震えている横島の手を両手で握り締めて祈った。もうこれ以上横島が苦しまないように、悲しまないように……例え偽りでも良い、穏やかな夢の中で終わりを迎えて欲しいと心から願うのだった……。
「お父様……私はベルゼブル様の気持ちが判ります。私も……もうあれ以上横島に苦しんで欲しくありません」
「気持ちは分かる……だがそうも言っていられないのだ。天使達が作り出した偽神――あれが存在すれば」
「世界は複雑に湾曲し、2度と戻らない。私達が戦争を始めたのはそれを防ぐためでもあったのだよ、オーディン」
「ガープ!それにアスモデウスまで!?どうして、どういうことなのですか、お父様!」
「……最早手段を選んでいる場合ではない、それにガープ達の力が必要なのだ」
天使を倒すには、そしてメシアを倒すには……そして偽神を滅ぼすにはアスモデウス達の力とガープの研究成果が必要だった。
「横島忠夫を引き入れたのならば私もこれをやっと使う事が出来る」
ガープが机の上に持っていたアタッシュケースを置き、オーディン達に見せつけるようにケースの蓋を開けた。
「なんですか……それは……ッ!」
ケースの中身を見たブリュンヒルデは身を震わせながら、それはなんだと問いかけた。凄まじい存在感と魔力を放つ無数の眼魂、そして複数の眼魂をセット出来るであろう篭手状のパーツの姿だった……。
「オメガコンダクター……私が作り出した眼魂の力を最大限に引き出すためのツール。ですがレイやレブナント達では使えない……恐らくこれを使えるのは横島忠夫しかいない。そしてこの眼魂は「レヴィアタン」「ベルフェゴール」「マモン」「アスモデウス」「サタン」の力が封じられている。残るは2つ……それを手にすれば神と天使と戦う事も不可能ではなくなるだろう。その為にはベルゼブルの力が欲しい」
ガープが上げた神魔の名前を聞いてブリュンヒルデはガープ達が何をしようとしているのか悟った。
「横島を、横島を7つの大罪の化身にするつもりですか!?」
「そうだ、それだけが我らが天使達を倒す術だ」
「それが何を意味するか判っているんですか、お父様」
「……分かっている。横島を世界の人柱にすることになるだろう、人類悪、あるいは復讐者……横島は悪として永遠に世界にその名を刻まれるだろう」
「そこまで……そこまでしなくてはならないと言うのですか、お父様ッ!!」
7つの大罪の名を冠する最上級神魔、そしてそれらを全て同時に行使出来る変身ツール……それらを横島に使わせる。未来永劫消える事のない悪名を横島に着せてまで世界を救おうとしている自身に父の言葉に信じていた物が崩れ落ち、立っていられなくなったブリュンヒルデはその場に崩れ落ちるのだった……。
高城さんの小さな身体を抱き締めると、高城さんが背中に腕を回して大丈夫だと泣くことはないと声を掛けてくれる。
「夢を……夢を見るんだ。皆……皆死んだ。それに美神さん達の見たくない姿を忘れられないんだ……」
血の海に沈むアリスちゃん達の姿や、死んだタマモ達の姿が眠る度に鮮明に浮かぶ。そして……美神さん達がメシアに付き従い、媚を売る姿に変わる。下品な言葉を使い、裸同然の姿でメシアに抱いてくれと懇願する姿が浮かんでは消える。
「もう良い、思い出すな。横島……もう良いんだ、お前はもう戦わなくていい」
「……うう……うあああ……」
信じていた、信頼していた美神さん達に騙されて俺は囚われた。文珠の生成装置にするのだと、お前は生きている価値が無いのだと笑い、命令を成し遂げたのだからご褒美をくれとメシアに枝垂れかかるその姿に絶望した。幸いなのは性交の場を見ずに済んだ事だが……俺を拘束して連れて行く天使達の後から聞こえて来た美神さん達や蛍、琉璃さん達の嬌声が脳裏に焼きついて離れない。
「もう良いんだ。横島、お前はもう戦わなくていい、悲しまなくて良いんだ」
大事な人達は皆いなくなった。守りたかった者も救いたかった者も……何もかも無くなった。高城さんの小さな身体を抱き締めて恐怖に震えることしか出来ない、もう戦いたくない、苦しみたくない。
「もう……良いのかな」
「ああ、誰もお前を責めない。もう良いんだ」
高城さんの優しい言葉を聞いても俺は顔を上げる事が出来ないでいると扉が開かれた。
「言い訳がないだろう、横島忠夫」
扉を開けて入って来た来たのはガープだった。口の中が乾いて言葉を発する事が出来ず、俺は口を明けたり閉じたりすることしか出来なかった。
「ガープ!横島は戦わせない、失せろ」
「ふざけるな、ベルゼブル。横島がいれば戦況は変わる、お前の独善的な思いを許すわけには行かない」
「うるさい!黙れッ!!私はもう横島を戦わせないッ!!」
高城さんとガープが言い合う中、俺は布団の中に隠れて震えていた。もう戦いたくない、悲しみたくない、もう嫌だ。もううんざりだ、守りたかった者も、大事な者も無くした俺に戦う理由なんてもうない……。
「お前はそれで良いのか?命を賭けてお前を救った者達の想いを無駄にするのか?」
「出て行け!横島、こいつの言葉を聞くなッ!!」
高城さんが激怒し、ガープを部屋の外へと突き飛ばす。
「お前が決めることだ。私は強要はしない、悔いのない選択をすることだ」
その言葉を最後にガープの姿は見えなくなり、布団から顔を出した俺を高城さんが抱き締めて来た。
「もう良いんだ。お前はこの部屋にいれば良い、もう良いんだ。苦しい事しか待っていない世界に行く必要はない、この中にいれば良いんだ」
高城さんの優しい言葉、もう良いのだともう傷つく必要はないのだという言葉と、ガープの言葉が脳裏を交互に過ぎる。ガープは憎い相手だ、だが……メシア、そして天使はもっと憎い相手だ。
「もう良い、もう良いんだ。横島、もう苦しまないでくれ、悲しまないでくれ……私はお前のそんな顔を見たくないんだ」
俺の事を心から案じてくれている高城さんの言葉は嬉しい、もう逃げてしまいたいという気持ちもある……だけど……逃げて良いのかと心が叫んでいるような気がした。
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「やぁ、横島。元気そうだね」
「……ルイさん」
眠っている高城さんを起さないように部屋を出た俺の目の前にルイさんがいた。なんでもないように、かつての平和だった世界のように声を掛けてくるルイさんに俺は一瞬困惑した。
「ベルゼブルを抱いたのかい?」
「ぶぶうっ!?な、ななな、何を!?」
「なんだ、その反応はしてないのか……彼女はあれで、君に抱かれることを期待していたと言うのに……まぁ良いか、さてとほら」
投げられたそれを咄嗟に受け取る……それは白銀に輝く眼魂だった。
「私の力を込めた眼魂だ。あの部屋を、ベルゼブルの庇護から出たという事は……決めたのだろう?」
「……はい」
もう苦しみたくない、悲しみたくない、そして戦いたくないと思っている。だけど……だけど、俺を助ける為に沢山の人が死んだ。そして生かされている美神さん達だってあれは本心じゃなくて操られた結果だと知っている。
「その先には苦しみと悲しみしかない。それでもいくのかい?」
「……はい。メシアも天使もこのままにしておけないですから」
俺のように苦しんで、悲しんでいる人もいる。だからそれをほっておけないと言うとルイさんが俺に指を向けた。
「嘘を言っちゃ行けない、君の本心はそうじゃないだろう?憎いんだろう?殺したいんだろう?」
「……は、ははは……ですよね、分かりますよね」
表情は普通だと思っていた。だけど手で触れれば分かる、俺は般若のような顔をしていた。憎悪が、復讐心が顔に出ている。
「メシアも天使も憎いだろうが……君が1番憎いのは自分を捨てた美神達かな?」
「……いや、不思議と憎くはないですよ」
俺の思い込みかもしれない、そう思いたいのかもしれない。だけど美神さん達も好きでもない相手に操られて抱かれていると思うと不憫にさえ思える。
「これ以上好き勝手される前に」
「される前に?」
「……俺が殺します」
もう元に戻らないのだ。これ以上生きていても、メシアと天使達に好き勝手されるなら俺が殺すと決めた。誰でもない、俺が殺す。これ以上思い出の中の美神さん達を忘れる前に、綺麗な思い出を抱いていられる間に俺が殺す。
「横島!駄目だ、部屋に……ルイ……様」
俺を呼び戻しに来た高城さんを抱き締める。高城さんが俺の事を思ってくれていることは判っている、もう苦しまなくて良い、悲しまなくて良いという高城さんの言葉は凄く嬉しかった。だけど……無理なんだ、死んだアリスちゃん達の姿が、俺を逃がす為に死んだくえすたちの姿が留まろうとする俺の足を動かすのだ。
「力を貸して欲しいんだ」
「だ、駄目だ……お前は戦ったら駄目なんだ、悲しむだけだ。苦しむだけだ……」
「高城さん……お願いします」
「い、嫌だ……私はいやだ、お前が世界に囚われるなんて私には耐えれない」
「……分かってます。高城さんが俺の事を心配してくれているのも、俺が英霊に成る事を止めようとしているのも分かってます……だけど無理なんです、もう俺は止まれない」
心の中に燃える憎悪の炎から目を逸らす事が出来ない。もう無理なのだ、この怒りを、憎悪を解き放たなければ俺は狂ってしまう。
「……横島……後悔しないか?」
「しません」
「……永劫苦しむぞ?」
「分かってます、覚悟の上です」
俺が反英霊として悪逆をなした者となり、死後も囚われるとわかっている。それでも俺は決めたのだ、自分が終わらせると……。
「……もう止められないのだな?」
「……はい」
高城さんの思いを全て無碍にすると分かっている、だけど俺はもう決めたというと……高城さんの顔が目の前に広がっていた。唇に柔らかい感触があり、キスをされているのだと分かった。
「……私の思いが、お前を守るだろう。生きてる時も、死んだ後もだ」
泣き笑いの顔を浮かべる高城さんが俺から離れ、胸の間に黒く輝く眼魂が現れる。
「そこは押し倒すくらいしたまえよ」
「……いいんです、これで、もう分かってますから」
……俺はもう生きて高城さん達に会う事はないだろう、仮にあったとしても……もうそれは横島忠夫ではない、何かと成り果てているだろう。胸の中に脈打つ狂神石の鼓動を感じながら俺は会議室と銘打たれた部屋の扉を開けた。俺が入ってきた事で会議室が一気にざわめくが、それを一切無視してガープの前に立った。
「漸く見れた顔になった。それで私に何のようだ?」
「ガープ、アスモデウス。俺を日本に連れて行け」
ベルゼブル眼魂とルイ眼魂を見せるとガープがほうと感心したように呟いた。
「意味は分かっているんだろうな?」
「分かってるつもりだ、それにどうせ俺はそう長くない」
心眼がいなくなった今狂神石も魔人化も抑制する事は出来ないのだ。今こうしている間にも俺という存在が変質しているのはいやって言うほど理解している。
「くくく、良いだろう。なぁアスモデウス。良いよな?」
「構わぬ。この覇気を見れば我は何一つ文句など言わぬ、かつて敵同士であったものであれど我は強者を認める」
「と言うわけだ、オーディン。ここで何一つ実の出ない話し合いをしていても何の意味もない、それに私達と協力関係にあったとしても、轡を並べる事は出来ん。私達は好きにやる、それで良いだろう?」
「構わない、だが我達も出る」
俺の分からない政治的なやり取りをしているガープ達の声がどこか遠くに聞こえる。本格的に壊れてきているのだろう、目の前から急に色が消えたり、声が大きくなったり小さくなったりしているが……それでもまだ意識はしっかりしている。俺が何をやるべきなのかもわかっている。
「横島。これをどうぞ」
「蘆屋……は、前にお前が言ってた通りになったな」
「何れ拙僧達の道が重なるという事ですね。ンンン、事実は小説よりも奇なりと申しますしな」
にやりと笑う蘆屋から腕に装着する篭手と5つの眼魂を装着したホルダーを受け取って腰に巻いた。
「横島。今ならばまだ間に合います、自ら地獄に飛び込む事は」
「ブリュンヒルデさん、良いんですよ。心配してくれてありがとうございます」
高城さんと同じでブリュンヒルデさんも俺に何が起こるのか分かっているのだろう……だから止めようとしてくれている。だけどもう時間が無いのだ、後ほんの数日で俺は完全に壊れてしまう。そうなったらきっと俺はなにも分からなくなる……だから俺が俺であるうちに……俺がやるべきことはやっておきたいのだ。
「行くぞ、横島」
「……ああ」
人間界へ続く門を開いたガープの言葉に頷き、俺は歩き出す。もう戻る事は出来ない、狂神石の力も、魔人の力も抑えるつもりはない。全部俺が使える全てを使って……。
(全部……終わらせる)
もうこれ以上天使達の好きにはさせない、そして美神さん達の尊厳を奪わせない為に俺が全てを終わらせる。
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鳴り響く警報と破壊の音――ガープや蘆屋達、そして量産型レブナント達が暴れているのを俺はぼんやりとした思考の中で見ていた。俺という存在が緩やかに壊れているのは自覚していた。歩いているつもりだが、実際に歩けているのだろうか……胸の中で脈打つ狂神石の鼓動、それと俺の心臓の音が徐々に重なる一瞬に思考がクリアになるのは俺の魔人化が進んでるのか、それとも拒絶反応なのか……それすらも定かではない。
「もうすぐアルカデイアの範囲に入りますよ。まだ壊れていませんか?」
「余計なお世話だ……壊れてねえよ」
それは残念と言う蘆屋を睨んでいると横から俺の名前を呼ぶ声と衝撃を受けた。
「横島!良かった無事だったのねッ!私も逃げてきたのよ」
「……蛍」
前に見た蛍とは違う、理性の色を感じさせる蛍の瞳を見て、その背中に腕を回す。
「無事でよかったわ。美神さんも琉璃さんも逃げて……ッ」
大事だった、何よりも守りたい存在だった……だけど、俺は馬鹿で何も知らなくて……足手纏いにしかならなかった。
「横……島……い、痛いわよ?」
蛍の身体を強く強く抱き締める。あんなにも愛おしかった、好きだった……なのに今の蛍に触れていても何も感じない。
「痛いって言ってるだろうがッ!!」
「ああ。そうだよな、分かってる」
俺の性格を知っていれば、俺が身内に手を出せないって事を知っていれば……俺が出て来た段階でメシアや天使がそうするのは分かりきっていた。ガープや蘆屋達が何も言わず、動かなかったのは、俺が本当に戦えるのかそれを見極めるためだったのだろう。
「屑がッ!!離せ!気持ち悪いんだよッ!!!」
蛍が俺に罵声を浴びせ、拳や肘を叩きつけてくるが俺は決して蛍の背中に回した腕の力を緩める事は無かった。
「私はもうお前なんか好きでもなんでもないんだよッ!離せよッ!!」
「……そうだな……俺もそうだと思う。だけど……俺は……心底好きだったよ」
腕の中で骨が砕ける音がして、蛍の身体がだらりと脱力する。苦悶に歪み切った蛍だった物が腕から零れ落ちる……。
「なんだ、愛しい女に合わせてやったのに殺したのか、それとも他人が抱いた女は嫌いか?」
メシアを名乗る男が天使を引き連れて俺達の前に現れた。いや、天使だけじゃない……美神さんや琉璃さん、それに小竜姫様達の姿もある。だけどその姿はかつての美神さん達とは似ても似つかない卑猥で淫靡な姿だった。メシアに擦り寄り、媚びる様な、男の欲情を誘うような姿をしているのを見て、やっぱり俺の知ってる美神さん達はいないんだなと改めて実感した。
「見ていた事は謝りますが……戦えるか見る必要があった。だが……余計な心配だったな」
【ゴーストドライバーッ!】
赤黒く染まったゴーストドライバーが腰に現れる。
「■☆の■は良い……■だっ☆」
メシアが何か言っているがその声ははっきりと聞こえない、だけど琉璃さん達の胸を掴んでいるのを見れば何を言おうとしているのかは大体分かる気がする……分かりたくもないが……腰にぶら下げていた7つの眼魂に手を伸ばし、1つずつゴーストリベレイターを押し込んで眼魂を起動状態にし、オメガコンダクターへ装填する。
【ラストッ!アスモデウスッ!!】
【グラトニーッ!ベルゼブルッ!!】
【グリードッ!マモンッ!!】
【スロウスッ!ベルフェゴールッ!!】
「……ぐっ!」
最上級神魔魂を装填する度に身体の中で嫌な鼓動がし、急速に自分が壊れていくのをが分かる。だけど眼魂を起動させる事に躊躇いは無かった。
「止めろッ!牝豚共ッ!」
「「「「はいッ!メシアッ!!!」」」」
メシアの声に付き従う美神さん達の声だけはやけにはっきり聞こえ、ガープ達と美神さん達が戦っている姿を見ていると目の前が赤く染まった。
(泣いてるのか……俺は)
だけど普通の涙じゃない、血涙が流れ拳に落ちるのもどこかぼんやりとした意識で見ていた。
【エンヴィーッ!レヴィアタンッ!!】
【ラースッ!!サタンッ!!!】
【プライドッ!!ルシファーッ!!!】
7つ全ての眼魂が起動し、無数のパーカーゴーストが俺の回りを踊り出す。
【ニクンデミローッ!!コワシテミローッ!!】
「……変……身ッ!!」
オメガコンダクターとリンクしているゴーストドライバーのレバーを引いた。
【マガンゼンカイガンッ!! デッドリーセブンシンズッ!!】
トライジェントに変わった俺の全身に1つずつパーカーゴーストが装着され、7つ目純白のパーカーゴーストが装着されると7つの翼が背中に現れ、それが俺を覆い隠し、その翼が弾けた瞬間7つのパーカーゴーストが1つになった禍々しさと神々しさを併せ持ったパーカーを纏った姿。仮面ライダーシェイド デッドリーセブンシンズ魂と俺は変身していた。
「……」
身体が冷えていく、俺と言う存在が崩れていく、俺が俺ではない何かへと変わっていく……そんな感覚を俺はどこまでも冷めた視線で見ていた。
「ッ!!」
何かを叫んで小竜姫様が突っ込んでくるのが見えた。だけどそれだけだった……腕を振るい、神剣ごと小竜姫様を真横に引き裂いた。
「……雨……か」
上半身と下半身が両断された小竜姫様だった物が噴出した血が雨のように俺に降り注ぐ、だけどやっぱり俺はなにも感じなくて……真紅に染まった左腕を振るいゆっくりと歩き出す。
「俺がやる。邪魔するな」
「……良いでしょう、今の貴方に勝てるとは思えませんし……好きなようにするがいい」
ガープの言葉に返事を返さず、俺は何かを喚いているメシアへとゆっくりと歩き出した。
(もう誰かも分からない……)
大事な人だった……拳で腹に風穴を開けて魔力で焼き尽くした。
尊敬していた人だった……ガンガンブレードで頭から両断した。
俺に道を指し示してくれた人だった……蹴りで上半身と下半身が泣き別れ血が噴出した。
俺を好きだと言ってくれた人だった……霊波砲で消し飛んだ。
俺の邪魔をする者を、大事だった者を、かつて愛した者を全て殺して、俺はメシアの前に立った。何事かをやはり喚いていたが、俺は何も
感じなかった。
【シンダイカイガンッ!!!デッドリーセブンシンズッ!オメガドライブッ!!】
「はっ!!!」
背中に生えた7枚の翼で跳躍し、空中で反転し空に描かれた7つの魔法陣を貫きながら、背を向けて無様に逃げていくメシアの背中に飛び蹴りを叩き込み、凄まじい魔力の爆発がアルカデイアを吹き飛ばすのだった……。
・
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「……」
もう何も考えられなかった。何か言っている天使がいたような、そして神だとかなんとか言う奇妙な物体もいた……それも壊して殺した、ガープ達が私達の勝ちと言っていたが……俺は魔界に帰らず、変身したまま呆然と歩いていた。だけど壊れた身体はもう限界だった……どこかの廃墟に辿り着くと同時に膝から崩れ落ちた。
「……あ、は、あははは……なんだよ、未練しか……ないじゃないかよ」
もう何もない、燃やされた廃墟は紛れも無く俺の家だった。無意識にここまで来るとか……自分の弱さ、いや未練に思わず失笑し、手にしていたガンガンブレードの柄を握り締め、その切っ先を己に向けた。
「……ごぷ」
【オヤスミー……】
壊れた身体では膝立ちですら立っていられず、自らガンガンブレードに倒れ込んだ事で胸を貫いた切っ先が鮮血に染まる。
「ッ!!!」
遠くで誰かが俺を呼んだ気がした。だけど……俺はもう返事を返す事も出来なくて……自分の口から溢れた血を見つめ、痛みも何も感じないままに、泣き叫んで俺の名を呼ぶ誰かの声を聞きながら俺の意識は深い闇の中へと沈んだ……。
「最も憐れな結末……誰も救われない絶望的な終末……だがこれもまた人が選んだ道である」
自死を選んだ横島とそんな横島にすがり付いて泣き叫ぶベルゼブルの姿を見下ろしながら、レクス・ローは手にしていた本を開いた。すると3枚のカードが飛びだし、白紙のカードが黄金に染まり絵柄が浮かび上がる。
「狂戦士、復讐者、人類悪……余りにも後味の悪い結末だな」
愛した者を全て失い、守りたかった者も守れず……大事な者を自ら手に掛け、天使と神によって作られた理想郷を滅ぼした者……反英霊として世界に刻まれた横島の姿をレクス・ローは沈鬱そうな表情で見つめ、サーヴァントカードを本に挟んで誰にも知られずその世界を後にした……。
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「……サーヴァント アヴェンジャー……俺みたいな壊す事しか出来ない馬鹿を呼んだのは誰だ……?」
呆然と俺を見つめる少女を見つめながら、大事な者を全部失ってもまだ生きてないといけないのかとかつて横島忠夫だった者は自嘲気味に笑うのだった……。
IFEND 優しさゆえにかの者は狂う事を望み、それどかの者は狂えず 終わり
これにてIFエンドの1つは終わりです。何もかも失い、狂神石と魔人化によって壊れていった横島の終わりです。IFの中では最も救われない、絶望的終末がこれです。人間の悪意、そして4大天使の暴走が齎したのがこれですね。におわす程度の性描写ですし、そこまで暴力描写もないので多分大丈夫でしょう。IFエンドはフラグが成立した後に次のリポートに入る前に入れたいと思いますが、その性質上たまにしか出ないと思っていただけると嬉しいです。それではこの横島のサーヴァント情報を出して、これでIFエンドは終わりたいと思います。なおサーヴァントステータスは完全におまけなので、これはおかしいだろって言う突っ込みはなしでお願いします。
仮面のアヴェンジャー
真名 横島忠夫
性別男
身長178cm 69kg
属性 秩序・悪
IFの結末を迎えた横島忠夫が辿る1つの結末。7つの大罪の最上級神魔眼魂を用いて変身したデッドリーセブンシンズ魂へと辿り着いた1つの到達点。狂神石と魔人化による人でも、神魔でもない超越存在となったが、愛した者を全て失い、守るべき物も失い生きているだけの骸となる前に……全てを滅ぼした復讐者。此度の召喚はアヴァンジャーとして召喚されたが、クラス適正は狂戦士・人類悪・復讐者の3つのクラスのみが該当している。
筋力EX(C)
耐久EX(A-)
敏速EX(A+)
魔力C(―)
幸運EX
宝具EX
クラススキル 復讐者D(EX) 忘却補正B+ 自己回復(霊力) C(EX)
固有スキル 狭間に立ちし超越者 EX 人外と共に歩む者――(EX)
狭間に立ちし超越者EX 様々な魔獣・神・妖精・精霊などの人外のスキルが複雑に織り交じり誕生した複合スキル。人間が使う前提ではなく本来は極めて多いデメリットがあるのだが――狂神石・魔人化・7つの最上級神魔眼魂との融合が不幸にも制御の役割を果たしており、龍の獰猛さ、鬼の残忍さ、魔獣の怪力など例を上げれば切がないほどの力が宿っており、本来ならば人間が受け入れられる力ではなく発狂する筈だが、魔人化によって狂えずただの強化スキルとなっている。「どうせなら狂えたら良かったのにな」とは本人の弁。
人外と歩む者――(EX)
人なざる者とわかり合い、友となる異質な才能。言葉を喋れぬ動物や幻想種、英霊や幽霊、人狼などの人と獣の姿を持つ者から愛され、あるいは親友になれる――人と人なざる者の橋渡しともいえる能力だった……が愛した者、守りたかったものを失った際に消失した。
復讐者D(EX)
本来はEX相当のスキルなのだが、横島の世界は剪定世界の1つであり、汎人類史に召喚された段階で復讐者のクラススキルは弱体化した。偽りとは言え人々が望んだ理想郷を滅ぼした悪鬼として理想郷を夢見た者達から恨まれている。
忘却補正B+
己が殺したかつて愛した者達を忘れる事ができない復讐者としての呪い。悔やみ続け、嘆き続け、それでもなお自ら死ねずそして狂えないぬ。生きる事こそが横島にとっての罪となっている。
自己回復(霊力) C(EX)
本来は魔力が回復するスキルだが横島は魔力ではなく、魂の力――霊力を使うため自己回復するのは魔力ではなく、霊力となっている。
横島自身の回復量は霊能者としても異質の高さだったが、魔人化によって霊力の上限値が大幅に上昇したため、本来EX相当の自己回復能力はCランクまで低下している。