GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL   作:混沌の魔法使い

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その3

リポート13 臨海学校・急 その3

 

~西条視点~

 

毎年海開きの前に行なわれる六女の臨海学校は小間波海岸が選ばれる。霊脈の関係上雑霊や弱い海に関する妖怪が多数出没し除霊の経験を積むのに最適な立地だったからだ、極稀に平家と源氏の亡霊が出現するがそれは本当に極稀で、GSが何人かいれば対処出来る怪異だったが……どうも今年はかなり勝手が違うようだ。

 

「景清が義経の身体を奪って英霊として出没とは恐ろしい事例だな。西条支部長殿?」

 

「……西条でいい、協力感謝する。躑躅院君」

 

令子ちゃんからの連絡で小間波海岸を源平合戦に準え、強力な悪霊と景清が出現していると聞いて僕はすぐに躑躅院に連絡を取り、躑躅院と共に熱田神宮に向かっていた。景清が使っていたと言う刀――あざ丸が奉納されているからだ。これが消失しているかどうかで景清討伐の難易度は天と地ほどの差があると言っても良いだろう、

 

「出発前に言ったが、熱田神宮に向かう意味はないと思うぞ?」

 

「……一応念の為だ。宮司が言うには結界が張られていてあざ丸の奉納場所を見に行けないと行っているからな」

 

電話で連絡を取ったが熱田神宮のあざ丸が奉納された場所に結界が存在し、あざ丸の状態が分からないという返事を貰っている。恐らくあざ丸は奪われているか、霊刀としての力を失っているかのどちらかだが、熱田神宮には他にも稀少な霊具が眠っている。それの安否を確認する必要があると言うのも事実なのだ。

 

「まぁ良いさ。私は同行しているだけ、どうするかは西条さんに任せるよ」

 

やれやれといわんばかりに肩を竦める躑躅院に苦笑しながら、彼が持ってきてくれた資料に目を通す。車内という事でかなり見にくいが、移動している間も時間を無駄にする事は出来ないからだ。

 

(……没落したとは言え帝仕え、精査な資料だ)

 

既に陰陽寮は解散しているとは言え平安時代関連の書物や霊の事件の資料は今も大量に保管されている。とは言え、それは躑躅院家の所有物となっており流石にオカルトGメンの肩書きでも徴収することは出来ないからだ。

 

「それで景清についてだが……実在した人物なのか?」

 

「難しい所だ。確かに実在はしているが……躑躅院家と陰陽寮に伝わっている文献によれば一種のレギオンとされている」

 

日本にはレギオンは自然発生しないとされて来た。各地の有名な霊能者や霊脈を管理する一族、そして天皇家がそれぞれ結界を張っており、悪霊が集まりレギオンに変化する事が出来ないからだ。

 

「確かな話かな?」

 

「源氏を怨む者の集合体。源氏怨む者あれば、景清は死なずとある。恐らくは源氏を怨む者を取り込み、次の景清になる。つまり景清とはレギオンに極めて近い性質を得た悪霊なのだと私は考えている」

 

レギオンは個であり群態とされる悪霊だ。極めて強力な恨みを持つ霊を中心に雑霊が集まり変化した物だからだ。

 

「なるほど筋は通っている。源氏を怨む者を核にしていると考えれば景清をレギオンと捉える事も出来るな」

 

倒しても倒しても現れたとされる景清の伝説もレギオンが別の身体に取り憑いて変異したと考えれば景清伝説との整合性も出てくる。

 

「小間波にも同行してもらうことになると思うが……」

 

「構わないよ。依頼両は貰ってるしね、ただ私はそこまで戦闘に強いわけではないぞ」

 

「分かってる。除霊に参加してくれと言うわけじゃないさ、躑躅院の結界術は有名だからね、それを借りたいのさ」

 

六女の生徒も今回は完全に足手纏いになるだろうし、景清がガープに召喚された線も捨て切れない以上横島君を戦場に出すのはリスクが高すぎる。それにホテルは現在避難所になっているので民間人を守る必要もある。それらを加味すれば京都を1000年に渡り守り続けた結界の継承者である躑躅院の力を借りるのが最も最適案と言えるだろう。

 

「了解した、それよりもう着くみたいだ。1度返してくれるかな?」

 

「あ、ああ。すまない、非常に興味深い情報だったよ」

 

車が減速しているのと躑躅院に指摘されて気付き、資料を返して熱田神宮に視線を向ける。

 

「これはかなり不味そうだ。最悪の場合は頼めるかい?教授」

 

【問題ないサッ!これも仕事、私に文句はないよ】

 

横島君から借りているモリアーティ眼魂から響く陽気な教授の声に安堵する。最悪の場合は英霊である教授の力を借りれば切り抜けられるだろうと思い停車した車から僕と躑躅院は降り、離れていても見えるどす黒い結界に眉を顰めながら熱田神宮の鳥居を潜った。

 

「これは想定外と言えば想定外だね」

 

「ああ、これは僕も考えていなかった」

 

熱田神宮は数多の刀剣が収められている神社で、三種の神器である草薙の剣……いや「天叢雲剣」も奉納されている由緒正しい神社だ。その中にあざ丸も奉納されており、これを核にして景清が現れたと考えていたのだが……調査の結果信じられない事実が分かった。

 

【この結界は持ち出しを防いでいるネ。ふうむ……景清は本当に敵なのかネ?】

 

教授の分析の通り、この黒い結界は熱田神宮に奉納されている刀を守っていた。その中にはあざ丸も残されており、僕達の推理は最初から躓く事になった。そして更に信じられない事実が調査の結果明らかになった……いや、なってしまった。

 

「……これは思ったより厄介かも知れないね、結界は汚染されてるけど……これは内部からだ」

 

「奉納されている刀に細工をされたかもしれない、だが今の状態では調査も出来ない」

 

結界の内部に突入したいが、僕と躑躅院、そして教授だけでは結界の中に入るだけで相当量の霊力を消費するだろう。そうれば結界の中に敵が潜んでいた場合何も出来ずに殺害されるだろう。悔しいが今出来るのは結界の内部の瘴気が外に出ないように結界を強化することだけだった。

 

「どうですか? 刀はありましたか?」

 

「刀はありましたが、少々厄介な事になっています。本当ならばやるべきではないのですが熱田神宮の周辺に結界を張らして頂きたい。それとGS協会とオカルトGメンの人員を配置させていただきたい」

 

本来ならば熱田神宮お抱えの霊能者がいるのに横槍を入れるのは許される行為ではないが、神刀と呼ばれる刀の多くが恐らくガープの魔術によって細工されている。熱田神宮に駐在している霊能者は陰陽寮と異なりきわめて優秀な者が揃っているが今回は力不足と言わざるを得ないだろう。僕の表情を見て宮司は悩む素振りを見せたが、分かりましたと返事を返した。

 

「すぐに手配をします。西条さんも準備の方をお願いします、あなたにも責任者として熱田神宮に残ってもらいます」

 

「……分かりました」

 

令子ちゃん達の所に行きたいが、僕自身かなり無茶な要求をしているのは分かっている。宮司の要求も決して無理な要求ではなく、自分達で気付けなかったので結界の存在を感知した僕に残ってくれと言うのは至極当然の話である。

 

「躑躅院。現地に向かう役目を頼んでもいいかい?」

 

「良いとも、任されよう」

 

本当なら躑躅院を令子ちゃん達の増援に送るのは不安だったが、熱田神宮を離れる事が出来なくなってしまった以上電話などで伝える事の出来ない機密情報を伝えてくれる相手が必要だ。だがオカルトGメンの職員は極めて令子ちゃん達との相性が悪いし、GS協会の面子は信用出来るメンバーだが、東京を離れる事が出来ない――となると不安要素は強いが躑躅院に頼むしかなかった。

 

「東京でめぐみ君と合流して欲しい、その後は2人で神代会長達と合流して欲しい」

 

本当なら僕も観光地で有名な小間波ホテルで疲れを癒す予定だったんだが……どうも身体を休めるのはまだ先になりそうだと深い溜め息を吐きながら駐車場に向かう躑躅院を見送るのだった……。

 

 

 

 

~美神視点~

 

景清の触媒に熱田神宮のあざ丸が消えているかもしれないという事で西条さんに調査を頼んだのだけど、調査結果を持って来たのはめぐみと躑躅院の2人だった。何故躑躅院がと誰の目が物語る中躑躅院は淡々と何故自分がここにいるのかの説明を始めた。

 

「と言う訳で熱田神宮の神刀が全部魔力に汚染されていてね、西条は熱田神宮に残り最悪に備えることにし、私が代わりに来た訳だ」

 

熱田神宮に奉納されている刀は数多あるが、その中に天叢雲剣があるのが不味すぎる。三種の神器であり、日本の霊的の守りの要の1つ――それすらも汚染されているのは余りにも不味い。

 

「西条さんはなんと?」

 

「外側から可能な限り魔力の浄化を試みるが、最悪の可能性は考慮して欲しいとの事だ。あとあざ丸は残っていたから触媒や核にはなってなさそうだよ」

 

景清の事でも頭が痛いのに、熱田神宮が大変な事になってるとしり呻き声しかない。

 

「……最悪、最悪かあ……経津主神(ふつぬしのかみ)とか?」

 

「大蛇や伊吹童子の線もありますよ……?」

 

「どっちにせよ、かなり不味いですね……天界と魔界にも連絡を回しましょう。ブリュンヒルデは魔界にお願い出来ますか?」

 

「すぐに手配をします」

 

経津主神は刀剣を司る神で、日本神話に登場する多くの刀と繋がりが深い。更に天叢雲剣は八岐大蛇とも繋がりが深く、様々な鬼や神霊とも繋がりがある。

 

「シズク。何か感じたりしてない?」

 

「……今のところは何もない、何か異常があれば真っ先に私に反応がある筈……逆を言えば」

 

「それがない限りは熱田神宮は安全と言う事ですわね」

 

「……そう言う事だ。まずは景清だ、景清を何とかする事を最優先にしよう」

 

「そうね、目の前の問題を1つずつ、確実に処理しましょう……冥子、六道の結界はいつまで持つ?」

 

熱田神宮の事も気になるが、その事に気を取られすぎて景清を止める事が出来なかったでは話にならない。西条さんが熱田神宮を何とかしてくれる事を祈って、今は目の前の問題を確実に解決する事だ。

 

「ん~凄く言いにくいんだけど~多分明日ね~」

 

「……思ったよりも短いわね、普段ならもう少し余裕があることない?」

 

臨海学校であり、有名なリゾートホテルと言う事で六女の生徒も気が緩む。その事を加味して到着から数日は結界が解けるまで余裕を持たせているはずだが……明日には駄目になると言われ思わずどういう事か?と尋ねる。

 

「多分~景清の影響ね~普段よりも悪霊の発生が早いみたいだし~言いにくいんだけど~現地の霊能者が結界を勝手に弄ったみたいで~あちこち脆くなってるのよね~?」

 

思わず額に手を当てて天を仰いだ。私だけではなく、くえすや琉璃も似たような反応をしている。考えられる理由としてだが、観光地のツアーで六道の結界を見に行ってと言う所だろう――普段なら問題はないが、今は余りにも状況が不味すぎる。

 

「小竜姫様。景清を抑えれますか?」

 

「……条件が付きますが、可能だと思います。向こうが私を敵として認識して戦闘に入ってくれれば……動きを封じる事は可能ですけど」

 

「景清は源氏の血統を狙うから直接戦闘になりにくいと……?」

 

くえすの言葉に苦々しい表情で小竜姫様が頷いた。英霊と神魔では当たり前の事だが神魔が有利だ。それこそ、その英霊に神殺しの逸話などがあれば話は変わるが……基本的な力では神魔の方が圧倒的に有利なのは言うまでもない、それが武神であり龍神の小竜姫様なら尚の事だ。だが今回の件での問題は戦いになるかと言う点ともう1つ……。

 

【あの英霊が何をしたいのかが分からないのよね】

 

「人間の首を霊的に切断して首を持ち逃げする……仮死状態にする事に何か意味があるとしたら、それを明らかにする必要もあるわね」

 

三蔵とマルタの言う通りである。景清の行動には腑に落ちない点が多すぎる――昨日だってその気になれば私達を全員殺す事も出来たのにそれをしなかった。それに斬首したと思わせておいて源氏の末裔が皆生きているって言うのも謎が多い。

 

「とりあえず、このホテルを精霊石と結界石で強化して避難所にするとして、六女の生徒には通常通り雑霊を相手にして貰おうとは思っているんですけど……」

 

「不安要素はどうしてもあるワケ、でもあたし達だけじゃ出来る事は限られる。使えるものは何でも使うしかないワケ」

 

六女の生徒の除霊の腕前は愛子ちゃんの机の中で確認しているけど、下の上と中の中とまり――当たり前だが景清との戦いは勿論だが、出現率が上がっている源氏と平家の亡霊武者の相手をするのは不可能だろう。

 

「何人か監督出来る人間を用意して、ホテルの守りを固めるグループと景清の討伐、あるいは封印するチームに分ける必要がありますわね」

 

相手の目的が不明で、それを探る時間も無く、その上戦力を割かなければならないし、チーム編成もかなり考えないといけないが……1つだけ決まっている事がある。

 

「横島君はホテル防衛に回すけどいいわよね?」

 

「むしろホテルに配置しないって言ったら何を言ってるって言うレベルですわよ」

 

横島君と景清を近づける事は不安要素が強い、景清がガープに召喚されたのかそうでは無いのかが明らかになっていない以上横島君を前線に出す訳には行かない――これは私達の総意の意見で、横島君をホテルの防衛に残す事を決定事項としメンバーの配置の話し合いを始めるのだった……。

 

 

 

~横島視点~

 

美神さん達が作戦会議をしている間。俺や雪之丞達はホテル内部の展示物や家具を移動させていた。

 

「もう少し右、あー行き過ぎです」

 

「言うのが遅ぇよッ!!」

 

「どうどう、落ち着けって雪之丞。ピートどれくらい右に移動させれば良いんだ?」

 

「後半歩です。すいません、指示が遅れて」

 

「いいよいいよ、こんなんだれもやったことないしな」

 

今俺達がやっているのは家具などを移動させ、霊力の通り道を変化させて建物の中にも結界を作るという作業だ。なんでもこのホテルの家具や、展示物の多くはそういった用途の為の特別製で決められた位置に配置すれば結界として機能するそうなのだ。

 

「ちっ!悪かったな」

 

「いえ。僕こそすいません、中々この図面を見るのが難しくて指示が遅れました。今度は家具を持ち上げる前にしっかりと配置を確認します」

 

雪之丞とピートが互いに謝りあっている姿を見て、これなら大丈夫そうだなと思い首から下げたタオルで汗を拭い、一休みする。

 

「心眼はこういうの分からないのか?」

 

霊力の探知やコントロールに長けている心眼に家具の配置の位置が分からないのかと尋ねる。

 

【設計段階から城壁になるように考えられて設計されているからな。私の感覚でそれを乱してしまえばすべてが瓦解しかねない、余計な事はしないと言うことだ】

 

「な、なるほど……」

 

確かに霊力の通り道を下手に弄って、霊力溜まりが出来てしまうと凄く危険だと美神さんと蛍に注意されていたのを思い出した。

 

「そんなに複雑なのか?」

 

【かなりの代物だ。時間は掛かるが、ホテルのオーナーから受け取った地図を見ながら結界を仕上げていくのが確実だろう】

 

近道と楽は出来ないって事か……座っていた椅子から立ち上がり大きく背伸びをし、再び家具の移動を再開する事にする。

 

「くああっ!お、重いッ!!」

 

「金持ちの考えてる事は分からんぜッ!!!」

 

「お、重いんですジャーッ」

 

「ぬあああッ!!!霊力を使ってても重過ぎるッ!!」

 

金で出来た巨大な鳥の像を4人で抱え上げて移動させるが、金で出来ているので尋常じゃなく重く、しかも壊してしまえば結界の構築に不備が出るかもしれないと言う事で神経もすり減らすし、重すぎるしで本当に大変な作業だ。

 

 

「はぁーはぁ……死ぬぞ、こんな設計をした奴は大馬鹿野郎以外の何者でもねぇ……」

 

「た、確かにな……大体非常時の避難所にする予定ならこんな面倒な仕掛けにするんじゃねえよッ!!」

 

「……た、体力には自信があったんじゃが……し、しんどいですのー」

 

「はぁはぁ……た、確かになぁ」

 

結界を作動させたところで俺達は体力の限界を迎え、ホテルの通路で寝転がって荒い呼吸を整えていた。

 

「ジュースを買って来ましたよ!これで一息入れてください」

 

ピートがジュースを買ってきてくれたので、それを受け取りプルタブを開けようとした所で視界の隅に金色が映りこんだ。

 

「アリスちゃん?」

 

通路の影に消えていく小柄な影を見つけ、開けかけたジュースを机の上においた。

 

「どうした横島。のまねえのか?」

 

「あ、いや。今通路を歩いてる子供を見つけてさ」

 

「子供?おかしいですね、避難している民間人はこちら側に来れない筈ですよ?横島さんの気のせいでは?」

 

「お前のところの子供でもあれだけ駄目って言ったら来る事もねえだろ?気のせいだよ、気のせい」

 

確かにピートの言う通りでホテルに避難している人はこっちに来れない様になっている。それにアリスちゃん達にも危ないからこっちに来ない様にって念を押したから子供がいるはずないんだけど……。

 

「ちょっと気になるから見てくるわ」

 

どうしても通路を曲がって行った影が気になり、俺は雪之丞達に先に美神さん達の所に行ってくれと頼んで通路を曲がって行った影を追って走り出した。

 

「ちょっと、ちょっと待ってッ!」

 

小柄な影は遠目だが、金髪の幼い少女だった。待つように声を掛けるが少女は止まらずに歩いて行ってしまう――このままでは危ないと思って少女を追い掛けるが、全然距離が詰まらずどんどん先に行ってしまう少女に俺は少し違和感を覚えていた。荷物運びなどで疲れているが、それでも少女に追いつけないのはおかしいし、何よりも心眼が反応を見せないのも気になったが、まずはあの少女だ。避難している少女がこっちに来てしまったのか、それとも悪霊が忍び込んでいるのか……どっちにせよほっておける問題ではない、前者ならもしかすると耳が聞こえないのかもしれないし、後者なら結界の中に悪霊を閉じ込めてしまったことになる。あの少女が人間なのか、それとも幽霊なのか……それを知る為に少女を追いかけていると少女が足を止めた。悪霊の可能性も考えて、警戒しながら少女に近づくと少女は急に振り返り俺に笑みを向けてきた。

 

「こんにちわ。お兄さん」

 

にこにこと嬉しそうに笑う少女は黒い服を着ていて、ぬいぐるみを抱えた幼い少女だった。

 

「こらッ!こっちのほうは来ちゃ駄目だって言われてただろ!」

 

見た感じ悪霊ではないようだったので、子供が勝手にこっち側に来てしまったのだと思い叱ると少女はごめんなさいと素直に謝り頭を下げた。

 

「お母さん達も探していると思うから避難所に戻ろうか」

 

「お兄さん、私ね。アビーって言うの、お兄さんはいまは楽しい?」

 

「何を……?」

 

「ふふふ、お兄さん。私の事を忘れないでね?また会いに来るから、今度は私のお友達も一緒に」

 

【横島ッ!】

 

「え、し、心眼?あ、あれ?アビーちゃんは?」

 

【アビー?何を言っている。ここには誰もいなかったぞ、お前が人影が見えたと言っていたが……誰もいなかったぞ】

 

「いや、今確かに目の前に女の子がいたんだよ。アリスちゃん達くらいでぬいぐるみを抱えた女の子がいたんだ」

 

心眼の言葉が俺には分からず、目の前に女の子がいたと心眼に言う。

 

【いや、誰もいなかった。もしかすると既に悪霊がホテルの中に潜り込んでいるのかも知れない、美神達に報告に行くぞ】

 

「……分かった」

 

いなかったと言うのはどうしても納得出来ないが、現実に目の前にいないのは紛れもない事実だ。どこか腑に落ちないものを感じながら俺は来た道を引き返していくのだった……。しかし歩き去る横島の後姿をぬいぐるみを抱えた少女アビーはジッと見つめていた。

 

「ふふ、お兄さん。私は何時もお兄さんを見守ってるわ。あの人も一応はお兄さんの事も気にしてるみたいだし……今回は私は大人しく見てるだけ……」

 

アビーの姿はその影から現れたおぞましい触手と共に消え、僅かな魔力と霊力の残滓を残してアビーの姿は完全に消え去った。

 

【景清様。準備が出来ました】

 

【ならば良し、戦に備えよ】

 

【御意】

 

景清の指示に従い亡霊武者は消え、景清は小間浜海岸の沖に停泊している異形の戦船の船首に立ち、美神達がいるホテルをジッと見つめているのだった……。

 

 

リポート13 臨海学校・急 その4へ続く

 

 




海と言う事でアビーちゃんがふらりと出現、他の英霊出現フラグも準備してみました。次回は戦闘回をメインで書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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