GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! FINAL 作:混沌の魔法使い
リポート14 鬼神降臨 その4
~琉璃視点~
流石に酒呑童子を連れてホテルに戻る気力は私達には無かった。ただでさえ小竜姫様の神刀を妖刀に変えるのに生命力と血を消耗しているのだ。ホテルに連れて行って酒呑童子が人食いを始めたら止めるのは不可能――最悪この場でもう一戦事を構える覚悟をしなければならなかった。
「……横島を傷つけたら殺すぞ」
【怖い怖い、姉さん。妹には優しくしたってや?やないと……手先が狂ってまうかもしれへんわぁ】
酒呑童子が業とらしく怖がる素振りをし、爪先が横島君の皮膚に触れかけるのを見て、思わずこの場の全員が殺気を飛ばすが酒呑童子は飄々とした態度を崩す事は無く、それ所か私達の殺気を軽く受け流して顔を上げた。
【ほら見てみい、あの平家武者に囚われとった魂が解放されてるえ】
海から生首が飛び出し凄まじい勢いでホテルへと飛んで行く、だがその生首に悪意や邪気は無く、生きている身体に戻っていくのだろう。
【美味そうやねえ……ちょっとつまみ食いしてもええか?生きた魂の酒なんて乙なもんやろ?】
瓢箪を酒呑童子が掲げると魂が吸い寄せられ瓢箪の口の中へ吸い込まれる。
「止めろ鬼。やりすぎだ」
【おやまあ、鞍馬天狗はんですかあ。元気そやねぇ】
鞍馬天狗――鬼一法眼の本当の名前を口にし、ころころと笑う酒呑童子を見て確信した。
(こいつ、この状況を楽しんでいる……ッ)
自分が殺されても封印されてもどっちでも良いのだろう、今を楽しめればそれで良いと言うのがひしひしと伝わってくる。日本三大妖怪と言われるだけあって胆力が半端ではない。
「横島君は消耗しているわ。早く休ませてあげたいのよ」
【そやねえ、大分呪われてるみたいやし?分かった、はよ取引と契約しよか】
にこにこと笑い犬歯を剥き出しにする酒呑童子は指を4本上げた。
(4つ条件を飲めって事ですか)
(飲める条件なら良いんだけどね……)
横島君の命が人質にされているのでどんな無理な条件でも飲まなければならない……酒呑童子がほんの少し指を動かすだけで横島君は首を掻っ切られるだろう。たとえ小竜姫様とメドーサさんが超加速をしても、酒呑童子は自分の命が潰える前に横島君を殺すだろう。
【まずは1つ目やけど、うちの自由の保障やね。天界も魔界も妖界も天狗界もうちに関与しないことを約束して欲しいなあ】
いきなりのとんでもない条件に顔を歪める。それは私だけではなく小竜姫様や鬼一法眼さん達も同様だ。
「その範囲によります、貴女が平安時代のように暴れるとなればそれを認めることは出来ません」
【うんうん、そうやろねえ。でもなぁ、うちも姉さんは怖いんやなあ……】
その言葉で何を求めているのか理解した、理解してしまった。小竜姫様が視線で問いかけてくるのをみて私達は頷いた。
「横島さんの所に滞在したいと?」
【茨木もおるし、姉さんもおるし、それに眼魂の中で見取ったけど、妖怪や化物があんだけ暮らしてるんや、うちが居っても良いやろ?】
本当は駄目と言いたいがいざとなった時に酒呑童子を抑えれる戦力が集まっている横島君の家に滞在して貰うしかない。
「分かった。その条件を飲むわ」
【ん、良かったわぁ、んじゃ2つ目……この時代の美味い酒を沢山用意して欲しいなあ】
1つ目の条件と2つ目の条件に余りにも落差があり、思わず脱力仕掛けたが次の言葉に顔が凍りついた。
【なんかあれなんやろ?ん百年って言うわいんやっけ?あれ美味しいらしいやないの、他にういすきーとか、そういう美味い酒が欲しいなあ】
……これとんでもない額が吹っ飛ぶわね。少なくとも普通の人間が飲む量で満足する訳が無いし、連日求めてくる可能性もある。
「しょうがないですわね、天界の酒も付けて上げますわよ。そのかわり横島様に危害を加えないと約束しなさい」
【太っ腹やねぇ、流石竜族って所やね。んじゃこれも決まりって事で、ついでにこの坊の周りの人間にも危害を加えないって事で】
清姫が勝手に話を纏めてしまったが、良く考えれば竜族は酒にはかなり拘っているので人間界の酒よりも満足してくれる可能性はある。それに天界の酒と引き換えに私達の身の安全も約束させる事が出来たのは幸いだった。
【次は鞍馬天狗はん、うちの霊基弱らせて】
「それは構わんが……何故だ」
【いやあ、人間界で暮らす事を考えての事やで?あんまり迷惑かけたらかわいそうやし?】
もう十分迷惑は掛けられているが……今の全盛期よりも幾らか進んで弱体化してくれるのならば反対する理由はない。これも2つ返事で決まった。
「言っておきますが、この契約は反故出来ませんわよ」
【かまわへんよお、この坊の側が面白そうやしなぁ、とんだ色男……いや人たらしやねえ】
にまにまと楽しそうに笑う酒呑童子の目は私達の横島君への想いすら見透かしているようで凄く嫌な視線だった。
【最後はなぁ、あの娘達の正体を暴いてみいって事やねえッ!!】
酒呑童子が突如虚空に向かって霊波砲を放った。突然の凶行に私達は反応出来なかった。本当に何の前ぶりも無い動きだったからだ。
「困った人ね、折角封印を解いてあげたのに」
「鬼だからこういうものですよ」
「げえ……折角の絵が燃えちまったぁ」
三者三様の少女の声が響き、何時の間にか満月が雲が覆い隠した闇の中で浮かび出るように人影が現れた。神通力とも魔力とも違う未知の力を纏う3人に私達が硬直しているとそこに更に第3者の声が加わった。
「やれやれ、私はまだ表舞台に立つつもりは無かったと言うのに……」
「あらいつまでも隠れていては駄目よ?だって貴方……散々引っ掻き回して来たでしょう?あの隕石が落ちて来た時も、古い神様が動いた時もね」
ころころと楽しそうに笑う少女の言葉にフード姿の怪人が私達が経験してきた様々な事件の裏で暗躍していたと知り、思わず身構えた。ローブの怪人だけではない、あの3人の少女ですら片手間で私達を殺せるような規格外の存在だ。そんな存在を戯れと言わんばかりに引きずり出した酒呑童子を怨みながら私は4人の謎の人物へと視線を向けるとローブの男はやれやれと肩を竦め私達に視線を向けた。
「お転婆なお嬢様によってとは言え舞台に上がったのならば挨拶をしないのは我が道理に反するのでこの場は挨拶のみさせていただくとしましょうか」
そう言うと男はまるで舞台役者、いやピエロや道化のように大袈裟な素振りで一礼した。
「数多の世界を巡り、過去と未来を記録する。我は遠い過去と遠い未来より来たりてし者にして、未来から過去へと到りし存在、そして真なる歴史の簒奪者なり、我が名はレクス、レクス・ロー。何れまた世界の命運を分ける戦いの場にてお会いしましょう」
芝居のような口調と素振りを見せた怪人は闇の中に溶けるように消え去った。神通力も魔力も、もっと言えば霊力も感じさせなかった男の理解出来ない行動に私達は驚いたが、それにばかりに気を取られてはいられない。確かに謎の人物の1人は消えた……だが3人の少女は何のぬくもりも感じさせない絶対零度の瞳で私達を今も見下ろし続けているのだから……。
~小竜姫視点~
私達を見下ろしている3人組に私は背筋が凍るのを感じた。神魔であるから分かるのだ……あの少女達の異質さが……。
「生きているのに英霊……貴女達は何者ですか」
間違いなく生きている。だがあの3人は間違いなく英霊だ、生きて生身の肉体を持つ英霊だ。マルタさんのように受肉した英霊ではない……どういうカラクリなのかまるで理解出来ないがあの3人は生きている英霊だ。しかも並大抵の歴史の積み重ねではない、それこそ最上級の英霊に匹敵するだけの力を秘めている。
「まぁ神族だからそのくらいは分かるでしょうね」
「むしろ分からなかったら駄目駄目よ、そんなの生かしておく価値も無いから……殺さないと」
さらりと告げられた殺すと言う言葉には本気の殺意が込められてるのと同時に、私やメドーサ、ブリュンヒルデさんや、ホテルに居るルキフグス様まで殺せると確信した。
「とりあえず名乗るだけは名乗っておきましょうか。私はそうね……Sとでも呼んでもらおうかしら」
「あ、じゃあ私はユンユンで♪」
「あーんじゃ、あたしは北斎だ。北斎とでも呼んでくれや」
偽名……あるいは英霊としての何かを意味する隠語なのかもしれない……とにかく今は連絡をッ!?
「あっぐうッ!?」
「う、ううううっ!?」
影から伸びて来た無数の触手に縛り上げられ私達は宙に吊り上げられた。
「ふふ、おいたは駄目よ。今日のね、私は悪い子なの……悪い子だから……何も出来なかった役立たずの神様を殺したいの」
その言葉と同時に両手足の骨が全て同時に砕かれ、海辺に私の口から絶叫が迸った。信じられない痛みと苦痛に気が遠くなりそうになるが、気を失いかけると触手が絞まりその痛みで意識を失う事すら出来ない。美神さん達が何とかしてくれようとしているが、全く効果が見えないのを見る限りではこれは通常の霊的の法則から著しく外れているのが分かる。それに骨を砕かれているが、痛みはもっと奥――霊核に与えられている物で肉体ではなく魂を主とする神魔の倒し方だった。
「あはッ!!あはははははははははッ!!神様でも痛がるのねッ!!ならもっと苦しめてあげようかしらッ!!」
狂ったように笑い出すSにユンユンと北斎は額に手を当ててやれやれという素振りを見せた。
「止めとけよ、S。あんまりやりすぎるとあいつに叱られるぜ?」
「そうですよー?私も北斎もいっちゃいますよー?Sがまた悪い子してたって」
「ひ、卑怯だわッ!2人も私と同じ気持ちなのに、ここに居る全員を殺したいって思ってるはずだわッ!」
「まぁ否定はしませんけど……ここで殺すには早いでしょう?」
「そういうこった」
「うー……分かったわ。分かったわよ」
渋々と言う感じでユンユンと北斎の警告にSは私達を締め上げていた触手を緩めた。
「げほっ!ごほッ!!」
「うえ……ごほッ!!」
砂浜に4つ這いになって激しく咳き込む。身体と霊核への痛みで視界が歪む、呼吸を整えようとしてもまるで整える事が出来ない。
「まぁSに関しては悪いな、こいつは1番ガキで1番お前達に怒ってるんだよ、おっと謂れのない怒りなんて言うなよ?お前達は知らなくてもあたし達は知ってるんだよ。お前らがこれから横島に何をするかってな、正直に言えばあたしもお前らを殺したいけど、まだどうなるかも決まってない相手を殺すのはちょっとなあって思うわけだ」
「私も同じですね、例え貴女達が別の男に精神をグチャグチャにされて横島を裏切って、手足を切り落として達磨にして機械に組み込んだり、横島の使い魔や横島の周りの女の子を皆殺しにして高笑いしてる未来を知ってても……あ、駄目だわ。私も殺したくなった」
ユンユンが指折り口にする事実に私は目の前が暗くなるのを感じると共に目の前の3人組が何者なのかを悟った。
(駄目、聞いてはいけない……)
美神さん達に駄目だと言おうとしても私の口から零れたのは乾いた呼吸の音だった。
「何を言って……るの……?そんな事を私達が」
「するのよ、ああ、可哀想、可哀想なお兄さん。お兄さんは何時も頑張ったのに、誰も救ってくれないの、誰もお兄さんを助けないの、一人で堕ちて堕ちてどこまでも堕ちて壊れてしまうの……貴女達のせいで」
闇の中でも3人の目は黒く濁って澱んでいた。その瞳に込められている尋常じゃない殺意と怒りに誰も動く事が出来なかった。
「この場で味方だったのはくえすだけ、後はみーんな裏切った。今はちがくても、他の道があっても……世界意志はそれを認めないんだよ、救世主か人類悪、世界はそれを望んでいる。人身御供か、世界を滅ぼす悪鬼か……どっちでも良いけど、横島は救われない苦しみ続けるだけ。それを与える貴女達を私達は許さない、何度殺しても飽き足らないけど……今はまだ我慢してあげる。だけど……」
その先の言葉は発せられる事は無かった……だがその底なしの殺意と憎悪が物語っていた。「現在」の私達ではなく、「未来」の私達が行なうであろう裏切りと悪行を物語る瞳が全て真実だと理解してしまった。
「今日は帰るわ。でも私達は何時も見てるから」
「警告ですからね、闇は多い。そして生贄にしようとする悪意もある……憎くはあるけど、貴女達が鍵ということお忘れなき用に……」
「忘れた時はそうだな、横島攫っちまうか、人として死んだほうが……あいつの為になる、ま、この世界は滅ぶけどな」
三者三様の言葉を残し消えていく3人に誰も声を掛ける事は出来なかった。それほど深い怒りと絶望、そして失望の感情――知らないと、今の私達には関係ないということも出来た。だけどそれを思うことさえ許されない深い慟哭を感じ私達はこれから歩むであろう道の闇の深さに言葉を失うのだった……。
リポート14 鬼神降臨 その5へ続く
フォーリナー3人娘と酒呑童子で今回は終わりです。もう少し話を続ける事も出来ましたが、今回はこれで終わるのがベストだと思ったのでこれで終わりとします。次回はこの出来事を知らない横島をメインにした話を書いて見ようと思いますので次回の更新もどうかよろしくお願いします。