弊ウイポ世界の競馬掲示板の妄想   作:佐月檀

20 / 58
 昨日投稿した幕間の前書きに記した通り、今回は掲示板形式ではなく小説です。


三代目ビッグレッド編 ラストラン 有馬記念

 ――あいつに乗っていると、なんだか風になったような気分になる。本当に不思議な感覚だった。手綱越しでもわかるほどに、あいつは力強かった。岡辺さんがよく「欧州の芝は重いから、スピードよりパワーが重要」だと説いていたが、あいつなら日本の芝と同じように走れそうなぐらいだった。あいつはやけに賢かった。こちらが手綱をクイと少し引っ張るだけでも、その意図を理解して指示通りに動いてくれる。

 

 

 ――あいつは……本当にいい名馬だった。俺なんかにはもったいなさすぎるほどに。そんなあいつに、俺は報いたかった。

 

 

 ――俺は、あいつの力に、本当になれていたのだろうか。

 

 

 

 

 十二月の最終週。大晦日が近づき、年越しが迫っている頃。

 中山競馬場には、多くの人集りができていた。

 

「今年の暮れの有馬は豪華すぎるよな!」

「なんたって、紅蓮の怪物と芦毛の怪物が遂にぶつかるんだろ!?」

「オグリキャップとイージーゴアの馬券は記念品としてとっておこう……!」

「一番人気がオグリ、二番人気はイージーゴアか」

 

 その一方で、馬主席にオーナーは着いていた。

 だが緊張のあまり、足がぷるぷると震えている。

 

 ――頼むぞ、ヨシトミくん。イージーゴアに、有終の美を飾らせてあげてくれ。

 

 そう祈りながら、オーナーは深呼吸をした。

 

 

 

 

「……義富、今乗ってどんな感じや?」

 

 パドックにて、深川は表情に焦りを滲ませ、義富に訊ねる。

 

「……絶不調、といったところですね。全盛期の走りはもうできないと思います」

「そうか……」

 

 深川は全身の力が抜けてへたり込みそうになるも、なんとか持ち堪える。

 空は雲ひとつない快晴となっていても、深川の気持ちはどんよりとした曇り空だった。

 それは義富も同じである。

 脚を痛めて以来、明らかにイージーゴアの競走能力は削れていた。

 この状態では、普段の十分の六しか末脚を保たせられないだろう。

 今、十分の十の力を引き出させれば、間違いなく――。

 義富は悲惨な結末を浮かべそうになるも、首を大きく振ってそれを払う。

 と、そんなとき。

 

 イージーゴアが天に向けて嘶いた。

 

 ――そうか。イージーゴアは賢いしな。これが最後の晴れ舞台だと、わかってるんだ。だからこそ、勝ちたいんだ。

 ――勝たせろッ、ヨシトミッ!

 

 義富は手綱を強く握り締め、熱くなった目元を拭うと、

 

「行ってきます。勝ちに」

 

 三代目ビッグレッド(イージーゴア)を、駆け出させた。

 

 

 

 

『暮れの有馬に集いし強豪馬たち。今年の中山に、どんなドラマを花開かせてくれるのでしょうか。GⅠ有馬記念、順調にゲート入りが進んでおります』

 

「いってくれェ! オグリィ!」「今度こそ勝ってくれイナリワン!」「今年の三歳代表として頑張ってくれ! イージーゴアァ!」

 

『各馬、ゲート入りが完了しました』

 

 

 刹那、火蓋が切られたと同時にイージーゴアが飛び出た。

 

『スタートしました。イージーゴアがロケットスタートを決めハナに立つ……いえ、後方に下がっていきます。

 イージーゴアは最後方に。南克海騎乗のオグリキャップはそのひとつ前、イナリワンが並びます』

 

 最後方に位置を取り、最終直線でまくりにまくる。それこそが、イージーゴアの必勝法だ。

 

 ――まずは内で脚を溜めて溜めて溜めまくる。いつものようにはいかないと思うが、最終コーナーでそれを爆発させるッ!

 

 ゴールまで残り2000m。

 

 

 

 

 オーナーは冷や汗を額に滲ませて、馬たちがターフを駆け抜けていく様を眺めていた。

 内心ではイージーゴアの勝利と無事を祈るばかりだった。

 

「だが……あの状態で普通は勝てない……」

 

 目元を伏せ、オーナーは呟く。

 だが、だからこそ、だ。

 

「そこから勝ってくれる馬こそが、真の名馬だ。もちろん、無事が一番だが」

 

 競馬場に視線を定め直すと、オーナーは目を見開いた。

 ターフを駆けるイージーゴアが、紅い熱気を帯びているように見えたからだ。

 

「これだから――競馬はやめられんよ!」

 

 オーナーは笑みを浮かべる。いつの間にか足の震えは収まっていた。

 ゴールまで残り1000m。

 

 

 

 

 ――いいぞッ! もっとオレを熱くさせろォッ!

 

 最終コーナー前。先頭に立つ逃げ馬がコーナーに差しかかった途端。

 

『イナリワンだ! イナリワンがここで仕掛けてきた!

 それに続くように南もオグリキャップの手綱を押し始める!』

 

 義富はそこで驚いた。

 

 ――早仕掛けか!? やられたッ!

 

 予想外の早仕掛けに、義富は一瞬戸惑う。

 しかし――。

 

 ――こちらも仕掛けるぞ、ヨシトミッ!

 

 イージーゴアが人間風にいうなら、不敵に笑っているように見えた。

 それはまるで、絶対王者の余裕であった。

 本当は、余裕なんてないはずなのに。

 

 

「いってくれやァッ!」

 

『イージーゴアが内を突いて七番手に上がってきた! 六番手、五番手も伺う勢いだ! 残り500mを切りました!』

 

 義富は必死に手綱を強く押す。押して押して押しまくる。

 

『イナリ先頭! イナリ先頭! しかしオグリだ! オグリがあっという間に躱した! 残り200m! イージーゴアはようやく三番手! だが二番手との距離は二馬身!』

 

「……ッ!」

 

 届かない。義富が絶望しかけたそのとき。

 

 ――鞭だッ! 振るえッ!

 

「そんなに勝ちたいのか!? もう限界なんだろう!?」

 

 涙を浮かべて、義富はイージーゴアに叫ぶ。

 

 ――そうだッ! オレは勝ちたいッ! 絶対にッ!

「もうッ……どうなっても、知らん、ぞッ……!」

 

 

 鞭が三度、イージーゴアに入る。

 そして三代目ビッグレッドは、目覚めた。

 

 

『残り50m! オグリ一着――いや、イージーゴアが来た! イージーゴアが来た! なんという恐ろしい末脚! 二頭もつれてゴールインッ! これは写真判定か!?』

 

 イージーゴアは、息を荒くしながらも駆け抜けた。

 

 

『――まさかまさかです! ハナ差で一着は――イージーゴアです! 差し切りました!』

 

 観客席がどっと沸き上がる。競馬場の熱気は今このとき、最高潮を迎えた。

 

『紅白の怪物決戦、これを制したのはイージーゴアですッ!』

 

 イージーゴアが観客席を駆け抜けていく。

 鞍上の義富は左腕を突き上げた。その目には、既に涙が伝っていた。

 

 

 

「みなさま、イージーゴアを応援してくださったみなさま、本当にありがとうございましたッ……」

 

 有馬記念のトロフィーを抱えて、マイクを片手にオーナーは涙を零す。

 義富も、深川も、みな泣いていた。

 

「みなさまには申し訳ない報告となってしまうのですが、この有馬記念を以て、イージーゴアは引退となります」

 

 その言葉を放った瞬間、観客からどよめきが起こる。

 だがオーナーはすかさず義富にマイクを渡し、彼もそれを受け取る。

 

「新馬戦のときから、今日に至るまで、この馬と在り続けれて、俺は本当に幸せ者です」

 

 そう言いながら、義富はイージーゴアの首元をポンと優しく叩く。

 

「イージーゴア……ありがとう……」

 

 最後には、義富は泣き崩れてしまった。

 それを心配したのか、イージーゴアが義富に顔を近づける。

 

「深川先生にも、ヨシトミくんにも、イージーゴアにも、今はありがとうという言葉しか出てきません……」

 

 

 ――みなさま、本当にありがとうございました!

 

 

 そうして――暮れの有馬は幕を閉じ、一頭の怪物がターフから去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、俺です。一頭、そちらの子馬を購入したいのですが、よろしいですか? 取引額は……四億ほどでどうでしょう?

 ありがとうございます! 正直、前々から来てほしかった馬だったので、とても嬉しいですよ! 本当に! それでは、これにて」




 ――データがアンロックされました。




 ――イージーゴアが引退し、種牡馬入りしました。初期種付け料は800万円です。
 ――ライラックポイントの89を購入しました。

シーザスターズが目指すレースは?

  • 日本ダービー
  • 英ダービー
  • 仏ダービー
  • 愛ダービー
  • 独ダービー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。