二月が明け、冬の寒さからだんだんと暖かくなってきた時期。
三月。日本競馬ではクラシックへの優先出走権を獲得するために、各々の若駒が躍動し始める――そんな時期である。
今年は、どのような俊英が現れるのだろう。
一強時代を創る絶対王者か、はたまた互いに競い合う群雄たちか。
果たして果たして――いったいどんな馬がこの時代を彩るか。
一頭の黒毛馬がオーナーの服の袖に噛みつく。噛みつくといっても、甘く噛んでいるだけであるが。
「ははは」と噛まれている本人は幸せそうに笑う。
「うちの
自慢げに鼻を鳴らすオーナー。どうやら、この可愛さにやられたようだ。
「血統は父リアルシャダイ、母ライラックポイント、母父マルゼンスキーですか。距離適性は中距離から長距離といったところですね」
オーナーが所有している馬――ライスシャワーを見に訪れた吉長が言う。
「しかし可愛いですね、このライスシャワーは。人懐っこいですわ」
近寄ってきたライスシャワーの首元を撫でる吉長も、明らかに表情が緩んでいた。
このように関係者はみな、この黒毛馬の人懐っこさと可愛らしさに心を鷲掴みにされている。
やはり可愛いは人を癒やす。オーナーはライスシャワーを購入してから再認識するようになった。
「では、本題に移りましょうか」
そう言ってオーナーが顔を強張らせる。
可愛い子には旅をさせよ。今がそのときだ。
「吉長先生、ライスはどうでしょうか。俺としては日本ダービーも夢ではないと考えておりますが」
吉長は首を傾げ、ライスシャワーのほうを向く。
「わたしの直感ですが、この馬は将来大物になってくれると思います。可愛らしくも力強い眼差しもそうですが、とにかくタフな馬だと予想できました」
顎に手を当ててオーナーはただただ頷く。
確かにライスシャワーの馬体は小柄ながらも、愛らしい双眸にはどこか闘志が静かに眠っているようだった。
その闘志を、元騎手であり、かつてこのような馬の鞍上だった吉長が察知できないはずがない。
「この馬の素質は、闘志を燃やせれば非常に高いです。かつてのわたしの騎乗馬で似たような馬がいましてね。こういうのを見抜くのは得意なんです」
自慢げに笑みを浮かべる吉長。
かつて無冠と謳われた天皇賞馬の背に跨った彼の姿を、オーナーは幻視する。
「なら、お願いしてもよろしいでしょうか」
「……はい?」
唐突な発言に、吉長は呆気にとられる。
「ライスシャワーですよ、ライス。よろしければ、この馬のことをお願いします」
深々と頭を下げるオーナー相手にたじろぐも、吉長は両頬を叩いて気を取り直す。
「わかりました。スワーヴダンサーでお世話になっていることもありますからね。この馬にも必ずGⅠを獲らせます」
「ありがとうございます! それでは、これからですが――」
今後の予定を話し合ったのち、吉長はふとライスシャワーを見つめる。
――ライスシャワーの瞳には、蒼い闘志の炎が宿っていた。
――データがアンロックされました。
――ライスシャワーが吉長正之厩舎に預託される予定となりました。
――ライスシャワーの没年が不確定となりました。
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