スワーヴダンサーは、あまりにも奇怪な馬だ。
調教に普通に従うし、ゲート入りも嫌がらない。そこだけ目を向ければ素直な馬としか思えない。
ではなぜ奇怪なのか。その理由は――。
「オーナー、こいつに乗らせてもらってわかったんですが、大舞台だと異常なまでに強いです」
そう、生粋のエンターテイナーということだ。
もちろん、馬にも大舞台に対する得意不得意がある。
だがこのスワーヴダンサーの場合、緊張しているどころかむしろ楽しんでいる節があった。
前々走であるGⅠホープフルステークスの時なんかがいい例だ。
観客席前で独特なステップを踏んだ挙げ句、最後には『勝ってやる!』とでも言わんばかりの嘶きを発し、観衆に笑いと不安をもたらした。
「コーナーを回るのが非常に上手くて、鞭にもしっかり反応してくれます。ただ、ひとつだけ困ったことが……」
追い切りのため、スワーヴダンサーに騎乗した正義が目元を伏せる。
この馬には、致命的ともいっていい弱点があった。
「こいつ、大舞台ではないことがわかってしまうとすぐにやる気をなくすんですよ」
オーナーの隣に立つ吉長も「そうだ」とばかりにうんうんと首を縦に振る。
彼の最大且つ致命的な弱点、そう、エンターテイナーだからこそ、大舞台以外では力を発揮しない。
もしも前走のGⅡスプリングステークスで正義以外の騎手が乗っていたなら、確実に二着か三着に敗れていただろう。
「鞭を打って無理矢理走らせましたからなんとか勝てましたが、この手が二度通用するとはどうしても思えないですね……」
はあ、と溜め息をつく正義。吉長も頭を抱えていた。
競走馬というのは、レースでは常に全力で走るものだ。
それが手を抜くことは、どうしても痛手である。
類まれな才を誇るのに弱点のせいで台無しになるケースは多々ある。
と、ここで吉長が口を開く。
「確かに強いのです、スワーヴダンサーは。あまり公言したくありませんが、それこそミスターシービー並です」
むず痒そうに口を閉ざすも、吉長は再度言葉を紡ぐ。
「……そこでわたしから提案です、オーナー」
「……ほほう?」
吉長は深く息を吸い吐きし、いよいよそれを告げる。
「スワーヴダンサーで凱旋門賞制覇を目指しませんか?」
その言葉は、オーナーの血を滾らせるのには十分すぎた。
「……やりましょう! 吉長先生! 蘆名くん!」
オーナーは笑顔の花を顔中に満開に咲かせる。
この言葉は、凱旋門賞挑戦は、オーナーにとって待ちに待ち侘びたものだ。
「あっ、ありがとうございますっ! でしたら、ローテーションは――」
「――仏三冠でしょう、狙い目は」
間髪入れずオーナーが切り込む。
吉長も納得した様子で顔を綻ばせる。
「なるほど! そのうちパリ大賞典は凱旋門賞と同じ競馬場、しかも同じ距離ですからね!」
珍しく、吉長は興奮していた。自身があの三冠馬ミスターシービーに騎乗していたときのように。
一方で、正義は表情を明らかに強張らせていた。
今後予想される激戦では、騎乗にミスが許されなくなる。
常に完璧な騎乗ができる自信が、正義にはない。
と、そのとき。不意にスワーヴダンサーが正義を振るい落とそうと暴れる。
慌てて正義は手綱を引っ張り、スワーヴダンサーを制止した。
「……お前……」
――自信を持たねぇ奴はこうだ! オラァ!
正義は笑みを浮かべ、手綱を握り直す。
「そう、だな……! そうだよな……! 俺たちこそが世界の頂点に登るんだよな……!」
正義は吉長とオーナーのほうに振り返り。
「勝ちましょう! 獲りましょう! 必ず凱旋門賞を――この手に!」
――データがアンロックされました。
――スワーヴダンサーと蘆名正義が絆で結ばれました。
――蘆名正義の縁の馬にスワーヴダンサーの名が刻まれました。
――スワーヴダンサーの次走が仏二千ギニーとなりました。
シーザスターズが目指すレースは?
-
日本ダービー
-
英ダービー
-
仏ダービー
-
愛ダービー
-
独ダービー