あとこの話、場合によっては書き直す可能性あり。
的矢さん、本当にごめんなさい。
あどけなさの残る漆黒の馬体は、しかして力が漲り始めていた。
可愛らしいつぶらな瞳には、今はまだ小さいながらも、闘志の炎が宿っている。
その瞳は果たして――何を見据えているのだろう。
まだ見ぬ強敵、それに打ち勝つ自身の幻、栄光を勝ち取る瞬間。あるいは――。
夏の暑さに比例するように夏競馬も本格化し始める七月。それの最終週に入る頃、オーナーは吉長正之厩舎を訪ねていた。
オーナーは額を走る汗をハンカチで拭う。
「あっついですね、吉長先生」
「そうですね。馬もこの暑さでバテてしまうんじゃないかと思ってしまうぐらいには」
一方の吉長も、この猛暑には参っていた。
「馬は保ちますが、これでは乗るほうが堪えますわ」
苦笑しながら言う吉長。そういえば、と言葉を続ける。
「先週、入厩した二歳馬のライスシャワーですが、予想以上にいい馬ですよ。聞き分けがとてもよく、乗り役の指示にもしっかり応じてくれます。正直、鞍上は誰でもいいと思えるぐらいには」
ライスシャワー。牧場での育成を経て、つい先週に入厩したばかりの馬だ。その馬は吉長の予想を超えて賢かった。
「あと根性も目を見張るものがあります。スタミナも相当ありますし」
「……その話からするにステイヤーですか」
「はい。その通りです」
なるほど、とオーナーは零す。
「皐月賞の距離はこなせそうですか?」
「相手にも寄りますが、かなりギリギリです。マイラーの逃げ馬と当たると厳しいかもしれません」
「鬼門はそこですな、恐らく」
「ええ。そこさえ勝てれば三冠の可能性は高いです」
吉長の表情は自信に満ちていた。そして確信している。ライスシャワーは自分にとって思い出深い馬になると。
入厩したばかりだが、吉長にはわかった。
――ああ、この馬は強くなる。なんなら自分の想定も超えるぐらいに。
「……オーナー、改めてありがとうございます。ライスシャワーを預けていただいて。ライスシャワーは、ダービー馬の器です。しっかりと育て上げ、必ずダービーを勝たせます」
吉長は胸元で拳を握る。
「お願いします。吉長先生」
オーナーはただ一礼し、健闘を祈るばかりだった。
「ところでオーナー。ライスシャワーの鞍上なんですが……」
「吉長さん、ライスの追いが終わりましたで」
「おう、ご苦労さん」
さらに言葉を紡ごうとする吉長の前に、帽子とゴーグルを装着した騎手とおぼしき若い男性が現れる。
すると彼はライスシャワーのオーナーがいることに気づいたようで、慌てて姿勢を正す。
「有力な若いものを運良く捕まえれました、栗東の者ですが」
吉長は若手騎手の背を二度叩き、挨拶を促す。
「――初めまして、オーナー。
自信に満ち溢れた表情で、若手騎手――谷潤三郎は言った。
――データがアンロックされました。
――ライスシャワーの主戦騎手が谷潤三郎に定まりました。
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