20■■年度凱旋門賞。
パリロンシャンのターフには、勝者を祝福する歓声が響いた。
『遂に……遂にやりましたッ! 日本馬がッ……日本馬が、凱旋門の頂に君臨しましたッ!』
さらに沸き上がる熱狂。
それに応えるように、赤毛がかかったような栗毛の馬に乗った騎手が、左腕を大きく挙げた。
『左腕を突き上げたベテラン・柴義富ッ! イージーゴア、シガー、モーツァルト、メダグリアドーロ、シーザスターズ。彼が今まで騎乗してきた名馬たちもさぞ喜んでいるでしょうッ!』
騎手――柴義富は、ゴーグルを外すと右腕で目元を拭う。
彼にとって、この凱旋門の頂は、ある人物への最後の手向けだったからだ。
義富は今年いっぱいで騎手というかけがえのない天職から身を引かざるを得ない。
理由としては、加齢による騎乗技術の衰えである。
それにより、最近は大得意なダートや新馬戦でも戦績が落ちてきていた。
――ここらが潮時。流石の義富にもいよいよ突きつけられた引退という二文字。
だが、そんなときに。彼は最後の運命の馬に出会う。
その馬こそ、今義富が騎乗している馬だ。
馬の名は――ラストプロミネンス。
父シーザスターズ、母ミセスウイニング、母父イージーゴア。
ある故人の子息から騎乗を依頼された、最後の馬だ。
「やったな、やったんだな、俺たち……!」
義富は嗚咽の混じった声音で、ラストプロミネンスに語りかける。
そして、声高らかに叫んだ。
「オーナーァァァァァァァァァァッ! やりましたァァァァァァァァァァ――ッ!」
その叫びは天高く、どこまでも果てのない空へと吸い込まれていった。
さらに時は流れて。
ある日、日本の競馬界は、ある特別な映像を公開した。
――夢の
今日はそれの、ダート部門の名馬が発表されることとなっている。
動画上で流れる実況の音声。
競馬ファンたちは、各々にそれに聞き入らんと準備の態勢に入っていた。
そして、伝説は空想の中で蘇った。
『非常識な絶対。人々はそれをロマンとしつつも、諦観していた。
しかし、その馬がそのロマンを成就させた。
紅蓮の怪物。圧倒的すぎる末脚。
ダートのみならず、暮れの有馬でも彼は魅せた。
そう、紅白怪物決戦。今なお、日本競馬史に語り継がれる名勝負。
それの勝者が今、大井の砂に降り立つ。
――イージーゴア。彼は生涯の相棒を背に、再び君臨するのか。
対するは――』
競馬ファンたちは、各々息を呑む。
『手にするのは常に金メダル。王道を歩み、掴んだ数々の栄光。
金メダリスト。その馬は決して金メダルしか獲らなかった。
最強の亡霊を2000mのダートで破った、ただ一頭の伝説。
数多の強敵を退け、砂の表彰台に君臨した絶対的金メダリスト。
それが今、紅蓮の怪物と対峙する。
――メダグリアドーロ。彼が目指すはただ一着。金メダルのみだ』
――紅蓮の怪物・イージーゴアVS絶対的金メダリスト・メダグリアドーロ。
その二頭のマッチレースが、空想上の大井で今、火蓋が切られた――。
清々しいまでにネタバレをかましまくって逆に気持ちいいです。
この話の時系列は、本編のオーナーが亡くなり、その子息があとを継ぎ、この話に出てきた架空馬を生産した時期です。
最初、この話を書こうかとだいぶ悩みましたが、「完結させる年代も決めてるし、いいや」と吹っ切れて投稿することを決意しました。
改めまして。
僕がここまでこの作品を執筆し続けられたのは、他ならぬ読者さまのおかげです。
この場をお借りして、感謝を申し上げます。
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