弊ウイポ世界の競馬掲示板の妄想   作:佐月檀

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黒いステイヤー編 とある鞍上の復帰戦

「予定どおりライスシャワーに乗れるか?」

「はい。怪我明けなので不安こそあります。けど今回も攻めていく感じで」

「……GⅡセントライト記念。距離は2200m。お前にとっちゃあ、悔恨のある距離だろう」

「……前年のエリザベス女王杯、ですね。確かに今も相当に悔しさが残ります。ですが、怪我明けの鬱憤も含めて、最高の馬で晴らしてきます」

「おうさ! んじゃ、勝ってこい!」

「はい!」

 

 

 

 

 GⅡセントライト記念。クラシック三冠目の菊花賞へのトライアルレースとして知られる、三冠馬の名が刻まれた重賞だ。

 菊花賞は()()()()()()()()。そう評される三冠目であり、そのトライアルレースに日本競馬史上初の三冠馬の名がつけられるのも、ある意味では必然だったのかもしれない。

 距離は2200m。日本ダービーと比較すると、やや距離が短めだが、だからこそ思わぬ伏兵が飛び出してくることもある。

 さらに今は九月。三歳馬の本格化が始まる時期でもあり、夏の上がり馬や春のクラシック戦線では惨敗した馬がいきなり重賞、果てにはGⅠを掻っ攫う可能性もある。

 まさに油断ならぬ秋競馬。それでも、セントライト記念が開催される中山競馬場は、一頭のダービー馬(ヒーロー)の登場に沸いていた。

 

 

『一番人気十番ライスシャワー。鞍上は蘆名正義から栗東の谷潤三郎に乗り換え。騎手共々休養明けの一戦です。日本ダービーにて、皐月賞馬ミホノブルボンを大接戦の末に降したあの末脚は、この競走でも発揮されるのでしょうか。期待の一頭です』

 

 

 艶のある馬体が日光でなおさら輝いて見えるなか、ライスシャワーは堂々とパドックを歩む。

 ライスシャワーに飛び交う声援。それはまさしく、ダービー馬の圧勝を願う人々による思いの籠った応援歌のようだった。

 

 

『二番人気十三番アイルトンシンボリ。鞍上は岡辺幸斗。二歳GⅠホープフルステークスの勝ち馬。そしてダービー馬ライスシャワーを一度は破った馬でもあります。その実力が本物であることを今回こそ証明できるのか。ダービー馬となったライスシャワーにもう一度先着できるのか。人気馬の一角です』

 

 

 気合いが入っているのか、一段と力強い足取りでパドックを練り歩くのは、ライスシャワーを一度は破ったアイルトンシンボリ。

 しかし弥生賞や皐月賞、日本ダービーでライスシャワーに悉く先着された影響もあって、声援は先のライスシャワーよりもやや小さめだ。

 けれどもパドックにて、ライスシャワーに近接し、乗ろうとしていた谷潤三郎は、アイルトンシンボリから並々ならぬ怒気のような闘志を感じていた。

 

 

「……こちらを徹底的にマークしてくるな」

 

 

 ニヤリと悪戯を閃いた悪童のように、潤三郎は口角を上げた。

 

 

「されども、負ける気どころか勝つ気しかないんでね」

 

 

 ライスシャワーの背に跨り、手綱を持つ。

 手応えは、以前とは比べものにならないぐらいで。ライスシャワー自身に鬼が宿ったようだった。

 下手をすれば喰らわれる。電撃が走ったような痺れが潤三郎の腕にピリピリと伝わってくる。

 されど彼は笑う。騎手としての直感が、本能が、闘争心が、潤三郎の胸の内で燃え上がる。

 

 

「また一緒に勝ちにいくぞ、ライスシャワー」

 

 

 

 

 

『菊花賞トライアル、GⅡセントライト記念。今年は十八頭の若駒が出走してきました。今年のダービー馬がここに出走してきました。一番人気十番ライスシャワー。菊花賞に向け、いい出だしとなるか。見どころです。GⅡセントライト記念、間もなくスタートします。

 ――スタートしましたッ! ライスシャワー、アイルトンシンボリ、この二頭がまさかの好スタート。早々に場内からどよめきが上がっております。ライスシャワーがハナを奪いました。それにピッタリと馬体を並びかけるのがアイルトンシンボリ。鞍上岡辺幸斗、マークして一気に躱す作戦に出ました。第一コーナーを曲がるところで……ああっとライスシャワー後退! ライスシャワー後退! いえ、違います! 鞍上谷潤三郎が敢えて三番手に下げましたッ! アイルトンシンボリが先頭となりましたッ!』

 

 

 アイルトンシンボリに騎乗している岡辺幸斗の表情が、みるみる青くなっていく。

 そのマーク戦法は、日本ダービーのときにライスシャワーがミホノブルボンに仕掛けたものと同様のものだった。

 谷潤三郎が騎乗したライスシャワーはスタートから真っ先に逃げる傾向にあった。それを見越してこそ、この作戦を採ったのだろうが、今回ばかりはこの時点で作戦負けであった。

 アイルトンシンボリは脚を溜められず、先頭に立つであろうライスシャワーに近づくことすらできなくなる。アイルトンシンボリ側からすれば、そんな絶望的すぎる展開となっていた。

 標的を見失ったアイルトンシンボリが逃げを強いられ、ややペースが落ちていくなか、潤三郎はライスシャワーを二番手に押し上げた。

 逃げる獲物(アイルトンシンボリ)は、完全に狩人(ライスシャワー)の射程圏内のド真ん中にいた。

 

 

『最終コーナーを回って短い直線! アイルトンシンボリはいっぱい! アイルトンシンボリはいっぱい! ライスシャワーが抜き去った! ホープフルステークスでの雪辱を晴らすか⁉ 鞍上谷潤三郎の無念を晴らすか⁉ 後続とはもう既に四馬身も離れているッ! 谷だ! 谷が復活する! 変幻自在の貴公子の復活劇だ! 休養明けもなんのその! ライスシャワー、一着! ライスシャワーが完勝しましたッ! 差は驚愕の八馬身ッ! 鞍上谷潤三郎も、この中山で復活しましたッ! しかしガッツポーズはない! ガッツポーズはない! ただただライスシャワーの手綱を握りしめていますッ!』

 

 

 今ここに、ひとつの決着がつくこととなり、ひとりの騎手の運命が大きく捻じ曲げられた。

 それは、ある意味でひとつの祝福だったのかもしれない。

 

 

 

 

「セントライト記念、見事に快勝しましたね。オーナー」

「吉長先生、ありがとうございます。これで菊花賞への道が、大きく開けましたね」

「そうですね。菊花賞は3000m。ライスの本懐はステイヤーです。恐らく問題ないでしょう」

「なるほど。ところで吉長先生、トウカイテイオーが秋の天皇賞で復帰するそうですが……」

「……これは非常に失礼な発言かもしれませんが、トウカイテイオーの勝ちはないと思っています。あのミホノブルボンが出走してくるようですから」

「日本ダービーでライスがなんとか降したミホノブルボンですか。確かに、トウカイテイオーは休養明けなうえに乗り換えもありましたからね」

「正直、中原輝貴が鞍上であれば可能性は少しあったかもしれませんが……そこはたらればということで。では、ライスシャワーと潤三郎のほうへ参りましょう」




 ――ライスシャワーがセントライト記念を勝利しました。次走はGⅠ菊花賞となります。
 ――ミホノブルボンがオールカマーを勝利しました。次走は天皇賞(秋)となります。
 ――トウカイテイオーの次走は天皇賞(秋)となります。

シーザスターズが目指すレースは?

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