弊ウイポ世界の競馬掲示板の妄想   作:佐月檀

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 シガー兄貴は所有しないと下手をすれば某米三冠ファラオ以上に強くなる、異常な名馬だから……(個人的な感覚)。


砂上の――――編 降臨ディストピア

 砂が強風によって巻き上がる。きらびやかな貴族の舞踏会で優雅に舞うかの如く、砂が風に煽られていく。

 しかしその舞踏もやがて、ある鹿毛の馬が姿を現してからはピタリと止む。もちろん、風も吹かなくなる。

 その馬がパドックに降り立った途端、周囲の他馬が恐れ、怯え、落ち着きがなくなり始める。

『王』に跪き、敬意を払う民衆のように、その馬の周りには一切他馬が近づかない。

 ――『王』のようではない。まさしくそれは、『王』だ。

 これより歩むは、王者への――否、『魔王』への道程。

 他には追随を許さぬ、無慈悲なる王朝を築かんとせし冷淡なる『魔王』。

 その『魔王』の背に在るに相応しい騎手は、かつて『怪物(イージーゴア)』と共に砂上を駆け抜けた、関東の柴義富。

 そんな彼は今、不審そうに周囲を見回す。

 

 

「……? なんでシガーの周りだけ馬が近寄らないんだ……?」

 

 

 義富は気がついていなかった。まさか他馬がシガーを恐れ、近づこうとしていないなど。

 シガーというのは『魔王』ではなく、単純に『手応えが凄まじい馬』だと、このときの義富は認識していた。

 調教の際、シガーに何度か騎乗し、走らせる機会があったものの、それでもなお、秘められた覇気と風格を手綱越しに腕に焼きつけることは終ぞなかった。

 だからこそ、『魔王』を疑っているのだ。

 以前、シガーを預かる調教師、松上良洋は声を震わせて、義富に言った。

 

 

『あれは怪物ではない。魔王だ。無情なまでの絶対を嫌でも頭蓋に刻み込む魔王だ』

 

 

 その言葉の意味がいまいち義富にはわからなかった。

 けれども手綱を少し握っただけでも、なんとなくだがとてつもない力を有していることならば理解できる。

 これなら新馬戦は圧勝するだろう、と踏んでいた。

 十月の四週目。東京競馬場で行われる二歳新馬戦。

 そこから、『魔王』は凱旋する。

 砂上で『魔王』の凱旋を押し止められる馬は、果たして、歴史上に何頭存在するのだろうか。

 秋風がヒュンと不吉な音色を奏でる。

 これよりは、『魔王』の絶対的な蹂躙劇。

 

 

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『東京競馬場のダート1400m、二歳新馬戦。六頭中の一番人気は三番シガー。今火蓋が切られます。

 ――スタートしましたッ! 三番シガー、ロケットスタートでハナを……奪いません。鞍上柴義富、引いて三番手に着けました』

 

 

 義富の背に、冷たい汗が滲む。

 今のロケットスタートの瞬間、義富は『魔王』を理解した。理解してしまった。

 本来騎手が掴むべきペースを、この『魔王』は自ら作り出していた。

 生半可な騎手ならば、確実にリュックどころか足手まといの重りになっていただろう。そう感じさせるぐらいには、異常であった。

 けれど義富とて、『魔王』のペースに呑まれる気など毛頭ない。行きたがるシガーの手綱を無理矢理引き、三番手に押し留める。

 その引きに案外すんなりとシガーは従う。義富は目を見開くも、改めて意識を眼前のダートに戻す。

 

 

「やっべぇなぁ……この『魔王』さまとやらは……」

 

 

 義富はそんな感嘆を零さずにはいられなかった。

 胸の鼓動が高まっていき、熱くなっていく。

 自然と口角が釣り上がり、乾いた笑みが漏れてしまう。

 

 

『さあ、最終コーナー! スッと三番手からシガー! シガーが先頭に立った! 差がどんどん開いていく! 差がどんどん開いていく! 追える馬はいない! 追える馬はいない! 独走態勢! 独走態勢だ! 先頭はシガー! ぶっちぎってゴールインッ! 差は七馬身! 驚異の七馬身! これは積まれているエンジンか、それとも流れる血の違いか⁉』

 

 

 

 

 松上良洋は、いつになく上機嫌であった。

 その理由は言うまでもない。

 

 

「……ハハ、ハハハハハ! これは凄いレースを見せていただきましたよ、松上先生!」

 

 

 このレースを眺めていたオーナーは、予想の遥か先をいくレースっぷりに、思わず大笑いしてしまう。

 

 

「でしょうでしょう⁉ あの馬は最強ですよ、わたしの調教してきた馬の中では! 心が踊りに踊りますよ! あの『魔王』を仕上げることができるのが!」

 

 

 松上は狂喜する。『魔王』の初陣に、圧勝に、凱旋に。

 一方のオーナーは仮面を脱ぎ捨てたように笑みを消すと、松上に問う。

 

 

「松上先生、次走はどうしましょうか? 俺としてはリステッド競走あたりで賞金を積んでおきたいですが……」

「ああ、それでしたらもう組んであります。次は十一月のダートの二歳一勝クラス、距離は新馬戦と同じです。いかがでしょう?」

「ええ、こちらとしては何も問題ありません」

 

 

 さてさて、とオーナーは口取り式に向かう。

 

 

「今週、ライスシャワーが出走する菊花賞もありますので、少々忙しくて。すみませんが、口取り式を終えたらすぐに行かねばならんのです」

「わかりました。新馬戦後のシガーに関してはお任せを」

 

 

 シガーと義富のいるほうに向かうオーナーの背を眺めて、松上はひとり、呟いた。

 

 

「さあ――凱旋の始まりだ」




 ――シガーが新馬戦を勝利しました。次走は二歳一勝クラスとなります。
 ――シガーのパラメーターが明らかになりました。これより開示します。


 馬名:シガー 牡


 芝:△ ダート:◎
 スピード:未知数(覚醒前) 距離適性:1600m~2400m 勝負根性:S+(覚醒前) 瞬発力:B+(覚醒前) 健康:S+ パワー:S+(覚醒前) 賢さ:S 精神力:未知数

シーザスターズが目指すレースは?

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