だいぶ短いです。
──手応えが全く違う。イージーゴアの手綱を取る柴義富は、震える己が腕を一瞥し、そんなことを思う。
レースを勝利したあと、イージーゴアから降りて、ふと考える。
──トップジョッキーであり、皇帝の鞍上だった岡辺幸斗(おかべゆきと)でもなく、若手最有力候補の岳巧でもなく、ましてや自分の叔父で『追い込みの鬼』と呼ばれている柴政彦(しばまさひこ)でもなく、なぜ自分を乗せてくれているんだ?
それが、柴義富には不思議で堪らなかった。
柴義富は若手だ。騎手生活を三、四年前から始めだした若手である。
競馬学校に在学していたときは、『天才』と持て囃され、騎手としての将来を期待されていた。
しかし、それでも若手は若手。そのような騎手にすぐさま有力馬が舞い込んでくるなんてこともなく、なんとか騎乗数と掲示板を確保して凌ぐ日々だ。
だが今はどうだ。初めてのGⅠタイトルを海外で奪取、柴義富にとっても考えられないような競馬でさらに海外GⅠ三連勝、そしてなにより──イージーゴアの存在だ。
あれに乗っているときの手応えが、他馬とは比べものにならないのだ。
イージーゴアが有力馬ということもあるだろうが、その手応えは恐らく一生に一度ぐらいしか感じられないようなものだと、なんとなくだが柴義富は直感している。
運命の馬に出会った、という騎手がよくいる。実際、その馬でGⅠを勝つ騎手も多い。
「……イージーゴアは、まさしく運命の馬ってか」
柴義富は、ふとイージーゴアを見やった。
調教師──深川にとって、イージーゴアは己が最後に手掛ける最高の名馬だ。
深川はなんとなくだが察していた。自身の厩舎に、有力馬はもうほとんどいないことを。
さらに年齢的にも引退のタイムリミットは迫ってきている。だからこそ、深川は己の命を捩じ込んででもイージーゴアを名馬にする。預託されたときから、そう決意していた。
「勝ちましたね、BCジュヴェナイル」
涙腺が緩んで、目が潤んで、よく見えないなか、深川はイージーゴアのオーナーのほうを見向いて言う。
オーナーのほうも感極まったのか、涙を流していた。
「ええ……ええ! 本当に、本当にありがとうございます! 深川先生が調教してくださったおかげでもあります!」
「いえいえ、頭を上げてください。私の調教なんて微々たるものです。彼がこのBCジュヴェナイルを勝つのも必然だったのかもしれません」
深川は手で涙を拭い、一呼吸ののち、決心したように口を開く。
「オーナー、しばらく休養させたのち、弥生賞を叩いて皐月賞、それからだいぶ変則的ではありますが、ケンタッキーダービー──つまりは、米三冠に挑んでみませんか?」
深川には、イージーゴアに対する絶対の自信と信頼があった。
深川調教師……ウイポに於ける調教師のひとり。モデル元の調教師はミホシンザンなどを手掛けた。
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