あと完全に作者の趣味の回です。そして極端に短いです。
イージーゴアが米国へ旅立つ二週間前。四月の四週目。桜花賞、皐月賞というクラシックの一冠目が終わりを告げたあとの頃。
「これはこれは。オーナー、イージーゴアの走り、圧巻でしたよ。もしやまたあの一歳馬を目当てに来ましたね?」
太めの眉を八の字に緩ませて、ハハハと笑いながら歓迎する男は、牧場長の樫田友彦(かしだともひこ)。目の前にいるオーナーにずいと顔を押し出し、突然剣幕が張られた顔に豹変する。
「それがですね! 凄いのですよ! いや、本当に! 詳しくは向かいながらお話します!」
「は、はあ……」
樫田の勢いに完全に気圧されたオーナーは、自分以上の変人を横目に、預託したある一歳馬の話に聞き入ることにした。
「──それでですね! 柵は飛び越えるわ、同世代のリーダーになるわ、さらに追おうにもすばしっこくてこちらの馬がバテてしまうのですよ! やっぱりヤバいですわ、あの一歳馬は!」
全くといっていいほど間を空けない樫田の話が一段落したとき、ちょうどよくオーナーの目当てである一歳馬のもとに辿り着く。
一歳馬はぴょんぴょんと跳ねながらオーナーに近づいてくる。
「あっ、危ないですよ」
樫田が急に真顔になった直後、急に一歳馬が柵を飛び越え、オーナーの腹部に突進してきた。
「ぐふぅ!?」
「お、オーナー!?」
「だ、大丈夫だ。も、問題ない」
オーナーは腹を抑え、声を震わせながらも、一歳馬に「よしよし。ありがとうな、覚えていてくれて」と手を伸ばし、頭を撫でる。
「流石オーナー、頑丈ですね」
「これも若さよ」
「その一言は五十代であるわたしを敵に回す気ですか?」
「よう、五十代独身。魔法使いを超えた大賢者」
「むぐぐ」と悔しそうに口をもごもごと動かす樫田。だがすぐに本題を思い出し、一歳馬を見やる。
「この子は賢いうえに人懐っこいのですよ。本当に可愛い子馬です。それに──」
「それに……?」
「この子の瞬発力はかなりのものです。それこそ、以前こちらに預託していただいたイージーゴア並──いえ、それ以上に。まあ、芝に限るという枕詞はありますが」
オーナーは口をあんぐりと開き、肩を震えさせる。
──まさか、この変人にそこまで言わせるなんて。
「……それは、本当か?」
「ええ、本当です」
聞き返すと、樫田は一秒の間もないうちに答えた。
ふとオーナーが見やると、目の前にいる一歳馬の脚に雷が纏っているように幻視した。
と、そんなとき。一歳馬が唐突にオーナーから距離を置いて。
「……なんだか、踊ってんな」
「踊ってますね、可愛い」
くるりくるりと回り、手足をゆらりと動かす一歳馬。
「──よし! 決めた! この馬の名前を!」
「そういえばこの子馬って、欧州から輸入したんでしたっけ?」
「ああ、そうだが……?」
「欧州っぽい名前、頼みますよ」
「俺をなんだと思ってんだ大賢者、この馬の名前はな──、
──スワーヴダンサーだ」
この作品のオーナー、外国産馬しか所有してないな……。
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