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果てしなく広がっている自然や幻想上の生き物や無数のシャボン玉が飛び交い、おとぎ話に出てくるような城や巨大な剣が鎮座しているなど、幻想的な風景が広がっている世界、ワンダーワールド。
その一角に一人の男が本を読んでいた。男は緑色のウェーブが掛かったロングヘアにカイゼル髭、そして丸い眼鏡をつけピンクのスーツにシルクハットを身にまとっており、一度見たら絶対に忘れられないインパクトを醸し出していた。そして一番の特徴として、男の姿は半透明となっていた。
優雅に本を読んでいた男は自分が映されていることに気づき、振り向いた。
「皆さん、ボンヌ・レクチュール! 僕はタッセル。皆さんは知っているかな? 神山飛羽真が全知全能の書を巡る戦いによって起こる破滅の未来から世界を救ったことを!」
自らをタッセルと名乗った男は満面の笑みで語り始めた。
「ところが、彼らにまたまた新たな騒動が待ち受けているみたいなんだ。彼らの新たな物語は一体どうなるのか? 楽しみですねぇ!」
そういうとタッセルはどこかに向けて手を振った。
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ストリウスによる世界滅亡の企てから1年、世界の均衡を守る組織『ソードオブロゴス』は大規模な組織改革を行っていた。ソードオブロゴスはストリウスと当代のマスターロゴスであるイザクによって、司令基地であるサウザンベースを筆頭に大きな被害を受けていた。そのため、前線基地であるノーザンベースを臨時の本部として置いている。
本の魔人メギドの組織『黒い本棚』が壊滅したとはいえ、いつ新たな脅威が来るのか分からない。そのため、本の守護者であるソフィアが暫定的なトップとなり、組織の復興を急としていた。それに伴い、禁書庫などの重要な施設のチェックも行っていた。
「ここがアガスティアベースかぁ!」
無数の本が内蔵された本棚に帽子を被った青年、神山飛羽真は驚嘆した。アガスティアベースとはサウザンベースの直上の宇宙空間に浮かぶ秘匿基地であり、解放されれば世界の構造が歪むとされる「禁書」を死蔵・封印する場所である。
本来ならばマスターロゴス・賢神・守護者しか訪れられない場所だが、今回は禁書の状態のチェックのために飛羽真を含めた4人が特別に訪れていた。
「以前ソフィア様から存在をお伺いしましたが、このような場所ですか…」
禁書が収められた本棚を生真面目そうな見た目をした青年、新堂倫太郎はまじまじと眺めていた。
「禁書には絶対触れないようにな。解放されればアスモデウスのような事態になりかねん。」
そんな倫太郎をボロボロのローブを纏った男、始まりの剣士であるユーリは注意した。
以前、アガスティアベースに封印されていた禁書をアスモデウスというソードオブロゴスの兵士だった男が解き放ち、現実と物語の境界が曖昧となり、現実世界が崩壊しかねない事態に陥った。幸いにもゼンカイジャーや始まりの英雄であるアカレンジャーに仮面ライダー1号など、歴代のヒーロー達によって解決され、禁書は再び封印された。
しかし、下手に触れるとまた同じような現象が起こる可能性があるため、ユーリが慎重を期するのも無理もなかった。そんなユーリを端正な顔立ちの青年、富加宮賢人はなだめる。
「それぐらい飛羽真達も分かっていますよ。今日は飛羽真の帰還パーティーが開かれるから早く終わらせましょう。」
そう言う賢人にユーリはそれもそうだなと頷く。世界滅亡の現象から1年、崩壊に巻きこまれたに思えた飛羽真だったが、ワンダーワールドでメギドによって本にされ、カリュブディスメギドに吸収されてしまった一人一人の物語をたった一人で書き起こしており、最近ようやく帰還を果たした。
それにより飛羽真の担当編集者である須藤芽依の鶴の一声により、帰還パーティーが開かれることとなった。
パーティーが始まる時間に間に合わすべく4人は禁書のチェックを始めた。すると飛羽真が「なんだこれ?」と疑問の声をあげる。
「どうしたんですか?」
「いや、なんか妙な本があって…」
どうしたのかと尋ねる倫太郎に飛羽真は本棚の一角に指を指す。そこには光が点滅している禁書があった。その禁書には他の禁書と異なり、背表紙に題名が書かれていなかった。一体何なのかと飛羽真は慎重に取り出す。本を見渡すと表紙にはタイトルが書かれていた。だが所々文字がかすれており、識別は不可能であった。すると禁書は飛羽真の手から離れ、一層光を強めた。
「何だこれ!?」
「わからん! だが何かまずいことが起こるかもしれん! 逃げるぞ!」
4人が逃げようとしたその時、禁書は開き辺りは光に包まれた。
「「「「うわぁぁぁ!!」」」」
光が収まると、そこにはページが開き、空中に展開している禁書しか残らなかった。
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「う、ううん…」
暖かな光が飛羽真の目に刺し、意識が半覚醒する。飛羽真は本業である作家の他にも『ファンタジック本屋かみやま』という小さな本屋を営んでいる。本屋は朝早くから開店しているため、飛羽真には早起きの習慣がついていた。しかし妙に体がだるいため、うとうととしていると驚愕の事実に気づいた。
(やばい! 今日原稿の締め切り日じゃん!?)
飛羽真の担当編集者である芽依は分け隔てのないあけすけな性格であるが、締め切りには厳しい。一度、スランプに陥り締め切り日を過ぎかけた時には世にも恐ろしいことが起きかけたことは飛羽真の記憶に新しい。今度はどういう手段で催促するかわからない。こうしちゃおれないと慌てて起き上がる。
「良かった。あなたも気がついたんですね。」
「へ!?」
気づくとそこは自分の自室ではなかった。周りを見渡すと、屋根は無数の蔓に覆われており、地面は土のままと、まるで掘っ立て小屋のような場所であった。そして飛羽真が寝ていたベッドの隣には見知らぬ少女がいた。その少女は金髪で翡翠色の眼をしており、童話に出てくる村娘のような外見をしていた。
「どこか痛いところがあったら教えて下さい。まだまだ未熟者ですが、簡単な手当ならできますので。」
「ここは一体……」
突然のことに思考が停止する飛羽真に少女が説明する。
「わたしはマシュ。あなたは『名無しの森』で倒れていたそうです。ご存じですか、『名無しの森』?」
「いや…知らない…、というか俺は一体…」
頭を抱える飛羽真にやはりそうですかとマシュは嘆息する。
「ここは入ったら最後、霧に迷って出られなくなる。そして迷っているうちに何もかも忘れてしまい、最後には自分の名前も、過去も無くなってしまうというブリテンでも最悪の妖精領なんです。」
「そうなんですか…」
自分が記憶をなくしているという事実に愕然とする飛羽真。すると飛羽真に歩み寄る影がいた。うつむいていた顔を上げると、そこには一人の少年がいた。
「俺はライサンダーといいます。大丈夫ですか?」
ライサンダーと名乗った少年は飛羽真にむかって手を差し伸べた。彼が心配していることに気づき、大丈夫だと言おうとしたその時、はっと気づいた。
(やばい。名前思い出せない…)
相手が名乗ったのにこちらが名乗らないのは失礼だと思い、必死に思い出そうとする飛羽真。すると脳裏に一つの名前が思い浮かんだ。
「あ、ああ。俺は…ストリウス。多分ストリウスって名前だと思う。職業は小説家。よろしく!」
「そうですか! よろしくお願いします。」
二人は握手し笑み合っていると、ポロロンと琴の音色が聞こえた。体を傾けて奥を見てみると鎧を着た赤いロン毛の男が椅子に座って琴を奏でていた。
「おお、私は嬉しい。我々の他にも仲間ができたということに。ああ、私はトリストラム。彼の従者で超絶技巧の素晴らしい弓使いです。よろしくお願いします。」
そう言うとトリストラムは再度琴を奏でた。そんなトリストラムに『ストリウス』は妙に自画自賛が多いなとハハハと空笑いする。すると小屋につけられていた風よけの布がゴソゴソと鳴る音が聞こえた。振り向くとそこには一人の少女がのぞき込んでいた。その姿にストリウスは驚いた。少女の背中にはボロボロではあるものの、大きな蝶の羽のようなものがついており、まるで童話に出てくる妖精そのものだった。少女は4人に一斉に振り向いたためかビクッと体を震わせていた。
「あ、あの、話し声が聞こえて……驚かせてしまって、ごめんなさい…。その…みんなが、あなたたちを広場に呼んで来いって。」
おどおどとしている少女に対し、マシュは優しく諭す。
「みんな、というのはこの村の妖精達ですね? 大丈夫。ちょっとだけ話をしてから参りますので、先に行っていて下さい。他の方には、あなたに呼ばれた、ときちんと説明させていただきます。」
「や、役に立てました! あ、ありがとう、ございます!」
そう言うと少女は笑顔で小屋から出ていくのを見ると、4人は顔を見合わした。
「とりあえず、外に出てみる?」
「そうですね。やや不安ですが、ここに籠もっていても仕方ないですし。まぁ私たちは何にも覚えていないので、どこの町出身やらどちらの女王派とか、妙な疑いをかけられるコトだけはないでしょう!」
ライサンダーの提案にため息をつきながらも賛同するマシュ。一方、ストリウスとトリストラムはマシュの反応を見て、何か都合の悪いことがあるのだろうか?と首を傾げていた。
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4人が村の広場に行くと多くの人影が集まっていた。だが、そこには人間はいなくエルフやドワーフ、獣人など 童話にしかでてこないような存在が多くいた。余りにも童話の世界すぎることにストリウスとライサンダーは絶句していた。すると顔のいいエルフらしき妖精が近づいてきた。
「あなたたち、氏族と名前は? どこの街の出身ですか? どんな理由で、このコーンウォールまで逃げてきたのです?」
「いえ、それが……私たち、自分の名前しか分からないのです。どこから来たのか、どうしてここに来たのか、何が目的だったのかも、何も。」
顔のいいエルフらしき妖精の問いに答えるマシュ。すると、周りがガヤガヤと騒がしくなる。次第に身代金だの物騒な言葉も飛び出してくる。これはまずいことになるかもしれないとトリストラムとストリウスは身構える。すると、
「俺たちで世話してやんねえとなぁ! やったぜ、新しいお仲間だー!」
「「「祭りだ、祭りだ、仲間が増えた! 住む場所も価値も無い、名前しかない落ちこぼれ! 石投げられて気がつきゃ島の端の端! お終いの村、コーンウォールにようこそ!」」」
物騒な雰囲気から一転、祝福ムードに覆われた。そのことにストリウス達は呆気にとられていた。