作者の悪い癖が出てしまった……。
他の作品も現在進行形で執筆中だと言うのに思い付いたからと頭の中で考えて練って投稿してしまう……。
でもしょうがないよね、書きたいもの書くのが一番だからね。
本当にごめんなさい。
他の作品もとにかくチマチマだったりで執筆しているので、終了次第投稿します。
春の暖かい陽気に包まれた、ある晴れた日の事。
春休みで、何をしよっか、なんて皆がはなしているそんな時。
私達は突然、お母さんに集まって欲しいと呼び出された。
家のリビングに家族全員が集まって、お母さんが来るのを待つ。
「ね、ね、氷柱ちゃん」
「なによ」
「なんでお母さんは集まってって言ったのカナ?」
「知ってたらこんな会話してないでしょ」
妹達も、なんで呼び出されたんだろう、ってざわざわしてる。
長女の私ですら知らされていない事って、なんだろう。
何時もなら、仕事の忙しいお母さんの代理で私が家族会議の議長を務めたりするから知らされている筈なんだけど。
余程急な要件だったのかしら。
皆でなんだろうね、って話しながら少し待っているとスーツ姿のお母さんがリビングに入ってくる。
多分、仕事の途中で抜けて来たんだろう。
芸能関係の会社の社長をやっているお母さんは忙しいから、基本家に居ない。
だけどこうして大事な話の時とか、授業参観とかには絶対に間を開けてくれる。
と言うことは、会社を途中で一旦抜けるほど大事なことって予想出来る。
「皆、集まってるわね?」
私達を見渡すとお母さんは話し始めた。
少しだけ、辛そうな顔をしている。いつも笑っていて楽しそうなあのママが。
「皆には黙ってたことがあるの」
「黙ってたこと?」
「そう。皆には、もう一人家族が居るのよ」
「「「「「え〜!?」」」」」
「それって、妹が出来たってこと?」
「違うわ。それを今から説明するの」
すると、お母さんは話し始めた。
話というのは、私達には一人、兄が居るらしい。
私達と同じお母さんとお父さんの正真正銘の実子。
だけどお母さんとお父さんの間に兄が出来、産んだのが十五歳、高校生の時だったらしくて自分で育てようとしたんだけど家の猛反対もあって養子に出さざるを得なかったんだとか。
それで今までずっと行方を探していたらしく、ようやくその行方が分かったんだとか。
今は二十七歳、アメリカの老夫婦に養子に取られたらしい。
だけどその老夫婦は既にこの世には居ないとのこと。
「今、連絡を取り合ってるんだけど、もし良かったら日本に来て、一緒に暮らさないかって聞いたの」
「えっ!?」
「そうしたら、構わないってーーー」
「ちょちょちょ、ママストップ!」
流石に、氷柱ちゃんが声を上げて遮る。
まぁ、氷柱ちゃんは男嫌いだものね……、いきなりそんな事を言われてもってところかしら。
「なぁに?氷柱ちゃん」
「そんないきなり、言われても困るわよ!と言うか情報過多で全く整理が出来ないんだけど!?」
それに、氷柱ちゃんだけじゃないのよね、男嫌いの子って。
「ママ、私も納得出来ない!」
そう、姉妹の中でも一番の美人である麗ちゃんも男嫌い。
「そもそも本当に、本当の血の繋がってるの!?」
「勿論。許可を得てDNA検査もして、百%血の繋がりがあることが証明されているわ」
そう言って書類を取り出すと、そこに書かれている男性の名前とお母さんの血が繋がっている云々の文章が書かれている。
流石にこの証拠を突き付けられたら本当かどうかは黙るしかない。
それでもなお食い下がる二人。
その言い合いを黙って、と言うより割って入れずに皆は見守る。
小さい子達は不安そうに、今にも泣き出してしまいそうな顔で見ているけれど、二人にはそれどころではないらしい。
同じ家に住むなんて考えられない、なら出て行く、と二人でお母さんに必死に訴える。
「確かに、ママとパパが悪いわ。あの時にもっとよく考えていたらこんな事にはならなかったもの。だけど、だからこそ一緒に、少しでも良いから暮らしたい」
そう言うお母さんは、とても辛そうに、とても後悔している表情で言った。
よく見ると目には涙が溜まっている。
二十数年間、ずっと探し続けて漸く見つけたのだ。
どれほど苦しくて、どれほど悔しくて、そして見つけた時はどれほど喜ばしかっただろう。
声を聞くことができて、どれほど嬉しかっただろう。
そして止めと言わんばかりにヒカルちゃんが決して責めるような口調ではなく、ともすれば優しい声である一言を放った。
「なぁ二人とも、産まれてすぐに養子に出された事を考えた事はあるか?」
「だけど……っ」
「でもっ」
そう言われてしまっては、何も言い返せない。
それはそうだ。
自分達は兄と違って何不自由無く、家族に囲まれて育って来たのだから。
本当はここに居る筈だった、居るべきだった兄の事を考えると、私だって何も言えない。
「……その兄は、宇宙の気まぐれで偶然、一時的に離れ離れになっていただけだ。だから帰ってくるのは起こるべくして起こった必然だ」
今までずっと黙っていた霙ちゃんが、静まり返っていた中で口を開く。
確かに霙ちゃんは終末主義なところがあるけれど、その言葉には確かな説得力があった。
結局、氷柱ちゃんと麗ちゃんが折れる形で事は収まった。
やっぱり二人とも思うところはあったのか、なんだかんだと納得はしているらしい。
それでもやっぱり、不満はあるらしいけど。
どうやら詳しく聞いたところ、軍人として働いていたらしい。
ついこの間退役したばかりで、手続きを終えたら日本に来るって。
それを聞いた時、凄く驚いた。
でも、アメリカだからそんなものなのかな、分からない。
三ヶ月後。
大学生で他の皆より早く夏休みに入っていた私を除いた皆が漸く夏休みに入る頃。
と言っても私はお天気キャスターのお仕事があるからそこまで暇って訳でも無いんだけどね。
「皆、明後日日本に来るわ」
ついにその時がやってくる。
お母さんが皆をまた集めて、そう言うと件の2人以外は大騒ぎになる。
皆待ち望んでいたものね。
斯く言う私も結構楽しみにしていたから、小さい子達は余計に。
三日後、空港に迎えに行く。
到着は夕方で、もう四時過ぎ。
お母さんは仕事だから、帰ってくるまでには確実に終わらせる為に車は私が出して、迎えに行く。
空港に着いて、プラカードとして持って来た紙を掲げておく。
日本語と英語の両方で書いてあるけど、分かるかしら。
出口から出てくるのは、日本人だったり外人さんだったり色んな人。
一応、顔写真を見て覚えて来たんだけど、これじゃぁ、分からないなぁ……。
いつになったら出てくるのだろう、とプラカードを胸の前に抱えて、待つ。
だけど、人が疎らになっても私に声を掛けてくる人は居ない。
そして、漸く他の人達が居なくなってから、とある一人の男性が出てくる。
身長は百八十cm越えぐらいで、かなり大きいと思う。
髪の毛は極々普通の黒髪。
だけど何よりも目を引くのは、身長以外のその身体の大きさ。
なんと言うか、もうムキムキ。
筋肉が意思を持って歩いている、ってぐらいにガタイが良い。
腕なんか本当に私の胴回り、とは行かないけれど確実に足よりは太い。
顔はカイゼル髭ほどじゃ無いけれど、いくらかの髭で覆われている。
更にはサングラスを掛けていて、少し怖いかなって印象を受ける。
だけど、どこか見たことがあるような、見覚えがあるな、と思う様な顔をしている。
その人は、私のプラカードを見ると近付いて来る。
えっ、えっ!?わ、私なにかしちゃったかな!?
内心かなり慌てていると。
「初めまして、隼人・ロビンソンです」
サングラスを外してそう、流暢、と言うか日本人と同じちゃんとした日本語で話しかけて来る。
右手を差し出されて、取り敢えず握手。
片目が眼帯で覆われていた。
うわぁっ、何だろうこのゴツゴツした手!
もう石握ってるみたい!
握った手はとても硬くて大きくて分厚かった。
触った事が無い感触で、パパの手やお爺ちゃん達とも全然違う。
なんでだろう、って考えて顔をよくよく見てみると。
瞳の色は焦茶色で、思い描くような外人さん、って感じじゃない。
うぅん……?そうだ、この人だ!
写真の顔を思い出した。
そうだ、写真で見て覚えた顔はこの人だ。
名前も聞かされていたのと同じ。
両親の面影を残した顔立ちは、初めて見た時は印象的だったのを覚えている。
「初めまして、天使海晴です。貴方が、私達の兄ですか?」
「Um、そうらしい」
にこりと、口を歪めて優しそうに笑う。
取り敢えず、互いに名前だけの自己紹介を済ませて、荷物を受け取ってから車に。
車に乗り込んで、家に帰る。
「えっと、改めて。私は天使海晴です。十九歳で、大学に通ってます」
「隼人・ロビンソン。二十七歳、つい最近まで軍人だった。あとは、なんだろうな……、言葉が思い付かないよ」
笑いながら少し困り顔で、自己紹介をする。
道中、私から色々話を聞いたり、家族の事を説明したり。
逆に今までの隼人さん、兄の生活を聞いたり。
三歳ぐらいの頃に、養父と養母である老夫婦に出会って引き取られてからはずっとアメリカで生活していたと言う。
ただ、その老夫婦はいつか兄が日本に戻っても、戻りたいと言っても良いように日本語を話すことを禁止とはせず、寧ろ話させていたらしい。
それから何度か日本を訪れたりもしたとか。
十七歳で海軍の特殊部隊に志願して、二十歳から今までずっと、退役するまで勤めていたんだとか。
「その、戦争に行ったりも……?」
恐る恐る聞いてみる。
少なくともこの日本では、幾ら自衛隊にいると言っても本当の意味で、PKOとかじゃ無くて戦争に行ったことがある人なんて多分居ない。
だけどアメリカは違う。
「行った。何度もな」
「……そうですか。その、左目のって……」
「最後の出征の時にな。別に気にするもんじゃないさ。これで済んで良かった。これぐらいじゃぁ、済まなかった奴も沢山いるから」
兄はうん、と頷いた。
それから私はどうすれば良いのか分からなくて、気を紛らわせるために、運転に集中して黙ってしまった。
これぐらいじゃ済まなかった、って多分、死んじゃったりとかだよね……。
変なこと聞いちゃったなぁ。
二時間ほど、車を走らせる。
某県の郊外にある、我が家に帰ってくる。
車を車庫に入れる前に、家の中からわーわーと騒ぐ声が聞こえる。
それを聞いてくすり、と笑ってしまう。
どうやら窓で帰って来たかどうかをずーっと誰かが見ていたらしい。それをみんなに伝えてお出迎えをする為に大騒ぎしているのね。
「十九姉妹と聞いているけど、どんなもんだろうな」
「そうね、毎日が楽しくて騒がしくて、面白くて、とても幸せよ」
「……今更だが、その輪に俺は居て良いのか?」
困り顔で、そう聞いて来る。
まぁ、確かに最初は驚いたけど、別に驚いただけで嫌だ、と言う気持ちがあったわけじゃない。
「何言ってるの。貴方は、私達のお兄ちゃんでしょ?居ちゃ駄目だなんて事、ある訳が無いわ。だから、堂々として、ただいまって言えばいいの」
車を止めて、顔を見て言う。
私の言葉を聞いて表情が少しだけ、和らいだような気がした。
「ふぅ……っ、緊張するな。こんなに緊張するのは初めてだ」
玄関扉の前で、立ち止まり深呼吸をしている。
「ほらほら、皆待ってるわ?早く入りましょ」
「Wait.Wait!」
英語で待ってくれ、と言う声を無視してその大きな大きな背中を押す。
扉を開いて、二人で入るとクラッカーがいくつも鳴る音がする。
それと同時に、クラッカーの中に入っていたカラフルな紐や紙吹雪が舞う。
驚いた様な表情で、それを見る兄の横顔。
どうやらこれほど歓迎されるとは思っていなかったらしい。
豆鉄砲で撃たれた鳩、狐に騙された、とかそんな表情をしてる。
サングラス越しにも目が驚きに見開かれているのが分かる。
「「「「「「お帰りなさい、お兄ちゃん!」」」」」」
皆で声を合わせて、お帰り、って言う。
氷柱ちゃんや麗ちゃんはむすっとした顔だけど、それでも手にはクラッカーが握られてる。
もしかしたら、立夏ちゃん達がなんやかんやって握らせたのかな。
「あー、初めましてーーー」
「もうっ、違うでしょ?」
また、私にしたように自己紹介をしようとする。
それを遮って他に言うべきことがあるでしょ、って目で睨むと後頭部をぼりぼりと掻いて、また少しの困り顔をしながら、だけど笑って言った。
「ただいま」
皆がまたわぁっ、と騒ぎ出して出迎えた。
ーーーーーーーーーーーーー
俺には両親が居ない。
いや、正確に言うならば、本当の両親が居ないと言うべきだろう。
今まで俺を育ててくれたのは養父母だ。
それも俺を引き取った時には既に七十歳を超えている老夫婦。
二人の間には子供が居なかった。
偶然、養子を探していた時に俺と出会って引き取ってくれたのだという。
名前は既に隼人、と言う名前があった。
小さい頃から、本当に沢山愛してくれていた。
英語なんて話せないから、アメリカに行った時は凄くどうしようか困ったけど二人の支えもあって意外とすんなり解決した。
だけど二人は、決して俺を縛る様なことをしなかった。
寧ろ、本当の故郷は日本だから、日本に行きたかったらいつでも行こう、って言ってたし実際に本当の故郷を知る為に何度か行った。
大きくなって、成長して。
軍隊に入った。それも特殊部隊。
物凄く辛かったし、身体の震えが止まらなかったり、死ぬんじゃ無いかと思ったこともある。
だけどそれを乗り越えて。
そんな時だった。
養父母が死んだのは。
二人とも天寿を全うして、静かに、安らかに眠った。
確かにもう既に九十歳を超えていたし、不思議じゃない。
だけど、漸く恩を返せると思っていた矢先だったからどれだけ泣いたか分からない。
それでも、くよくよなんてしていられない。
養父母に胸を張って誇れる人間で在りたくて、兵士としての務めを果たし続けた。
五年ほど経った頃。
三度目の出征を終えて帰国し、自宅に帰った時のことだ。
一通の手紙が国際郵便で届いていた。
差出は日本から。
誰からだろう、と心当たりも無く少しばかり不審に思って一応警戒しつつ開いて中を見てみるとそこには驚きの内容が書かれていた。
差出人は、実の母親を名乗る女性だった。
その中に入れられていた手紙には、英語で書かれていた。と言っても所々おかしな文だったりがあったけど。
まずいきなりの手紙の謝罪と、俺を養子に出した経緯やそれについての謝罪が二枚分ほど。
どうやらかなり若い時に俺を身篭ったらしいのだが、家が結構厳しかったらしく親の反対を跳ね除けられずに泣く泣く、と言う訳らしい。
隼人、と言う名前もその時に母親を名乗る女性が付けたのだと言う。
養子に出してからと言うもの、ずっと探していた旨などの事が書かれており、そして最後に、もしよければ一度電話で話したい電話が駄目ならば手紙をくれないか、と書かれていた。
本当の母親のことを一度でも考えたことが無い、と言えば嘘になる。
どうして俺は養子に出されたんだろう、要らない子だったのかな、とか。
今更どの面下げて、とも思った。
だけど手紙を読んで、その文に嘘偽りが無いことはすぐに分かっていた。
しかし手紙がまるっきりの嘘の可能性も有り得る。
だから、俺は手紙を書いた。
幸いにも日本語は書くことも話すことも出来るから日本語で返信し国際郵便で手紙を送った。
書かれていた住所へ送って二週間後。
出征から帰国したばかりで長期休暇に入っていた俺の元へ再び手紙が届いた。
その手紙にはまた十枚にもなる手紙と、そして最後にまた電話番号が書かれていた。
果たしてこれが、本当なのかどうか分からなかった。
だけど、気になった。
気がつくと、その電話番号に架けていた。
『もしもし』
電話に出たのは、優しい声の女性だった。
「初めまして、貴女から手紙を頂いた者です」
そう、伝えると電話越しにでも分かるほど、大きな物音がした。
そして、何やら深呼吸をして。
『は、初めまして……、えっと……』
「あー……」
互いに何を話せば良いのか分からず、互いに暫くの間沈黙していた。
それから電話でやりとりをして、Skype通話もした。
俺を見て、泣いていた。
どうすればいいのか分からない、ってのが正直な所だった。
なんせ実の母親と言われても実感が湧かないのだ。
それからと言うもの、電話だったりメールだったりSkype通話だったりと色々と連絡を取っていた。
すると、どうしても直接会いたいと言われてどうしたものかと。
なんせ職業柄、それも特殊部隊の人間だから国外に出るのにそれ相応の手続きなんかが必要だったりする。
色々と話し合った結果、その女性が此方に来ることになった。
「初めまして、天使美夜です」
「初めまして、隼人・ロビンソンと申します」
それからと言うもの、本当に親子なのかを確かめるべく、DNA鑑定をしたりした。
するとどうだ、本当に血縁関係が百%あると証明されたではないか。
驚きと共に、俺はどうすればいいんだろう、と混乱するしかなかった。
天使さん、母さんは物凄く喜んでいたけど。
それから色々と話を聞くと、どうやら一七人もの子を産んで育てているらしい。しかも全員女の子。
そして俺の時のようにまた子供と生き別れることのないように家から独立して自分で会社を設立し稼ぐという、なんとも行動力溢れる人だ。
と言うことは俺には一七人の妹がいると言うことになる。
実際に写真も見せてもらった。
……凄いとしか言えない。
しかも今現在、お腹の中にまた新しい命が宿っていると言う。
これで一八姉妹と言うことになるのだから凄い。
数日間の滞在後に、母さん(そう呼んで欲しいと懇願された)は日本へ帰っていった。
俺と暮らしたいと言っていたが、俺にも此方での生活や仕事がある以上、おいそれと頷けるものではない。
少なくとも今は無理だと断った。
空港から自宅へ帰ってくると、不思議と嬉しい、と言う感情が出てきた。
どうしてだろうか、と考えてみると極々当然の答えに辿り着いた。
俺は実の母親に捨てられたのでは無いと、ずっと探していてくれたと言うことを知って嬉しかったのだ。
迷子になった時、母親に探して見つけて貰えて嬉しくない子供なんて居ない。
それと同じで、俺は嬉しかったのだ。
それからと言うもの、定期的に電話や手紙でのやりとりをしていた。
当然、仕事については話せない事も数多くあったが俺自身の日常についてはこれと言って話してもかまわない。
それから一年後。
俺は四度目の出征に赴く事になった。
半年間の派遣で、四ヶ月目のことだった。
俺は戦闘で左目を失った。
偶然だった。
とある任務中に敵が撃ったロケット弾が着弾、炸裂した。
その破片が左目を襲ったのだ。
左目に、破片が当たった。焼けるように痛くて、人生であんな経験は初めて、と言うか二度とあって堪るか。
身体中、着弾炸裂した左側は幾つもの破片やら弾き飛ばされた石などが突き刺さっていた。
かと言って戦闘中だ。
おいそれと引く訳にも行かない。
痛みはあるが、意識もあるし両手両足も戦えない、と言うほどでは無かったからそのまま救援が来るまで戦い続けた。
いや、戦うと言うよりただ銃を持って撃ち続けていたに過ぎない。
基地に運ばれて治療を受ける頃にはあちこちからの出血多量で瀕死、幾つもの銃創があって。なんとか一命を取り留めてドイツ経由で本国に送られ更に治療を受けた。
幸いにも死ぬような事は無かったが、代償に全身の傷痕、更には左目の光を永遠に失ったのだ。
片目を失っては軍人としてはもうやっていけない。
そう診断された。
俺は海軍病院で半年間に及ぶ治療とリハビリの後、傷痍除隊をした。
涙は出るのに、見えない。
悔しくて悔しくて仕方が無かった。
軍歴と言うのは、言い過ぎかもしれないが人生そのものだった。
俺は軍隊しか知らないから、どうすればいいか分からない。
仲間達も心配して色々と電話をくれたり、訪ねて来たりしてくれたが俺は茫然自失になって母さんとの電話も手紙も何も応えず、ただ家に篭っていた。
三か月後になって漸く、母さんの電話に出たと思えば出てくるのはどうしようもない八つ当たりの言葉ばかりで、もう三十歳手前の良い歳した大人がするような態度では、到底無かった。
それでも母さんは、ただ優しい声音で相槌を打って聞いてくれるばかりだった。
そして俺が吐き出し終えると変わらず優しい包み込むような声と雰囲気で辛かったね、よく頑張ったね、って。
どうしようもなく、情けなくて泣いてしまった。
そしてごめんなさい、ごめんなさいと繰り返すばかりだった。
母さんも、辛い時に側に居てあげられなくてごめんね、と謝っていた。
悪いのは母さんではないと言うのに。
それから何度かの電話後に、母さんがある提案をして来たのだ。
もし良かったら、出来るのならば日本に来て一緒に暮らさないか。
そう言われた時は、すぐには応えられなかった。
長年住んでいた国や土地を離れて別の場所で暮らす、と言うのはそう簡単に決められる事じゃないから。
そして悩みに悩んだ結果、その提案に乗ることにした。
確かに手当があるから暮らしてはいける。
しかしこのままここに住み続けても俺は抜け殻にしかならないと思ったから。
それなら別のところで、と言うのもアリだとおもったから。
ただし、手続きがかなり面倒だ。
アメリカでの市民権や永住権関連などに加えて元とは言え、特殊部隊。
それ相応に他に教えられない作戦に従事したり国家機密を知っている。
何故日本に行くのか、何故日本に移り住むのか、事細かに記さなければならない。
他にもやらねばならない事も数多い。
日本でも当然車を運転するだろう事を考えると国際免許の取得や、日本での滞在、就労に関するビザの申請なども行わなければならない。
日本での永住権を得るには、
「素行が善良であること」
「独立した生計を営むことができる資産または技能を有していること」「その者の永住が日本国の利益になると認められること」
以上三点を条件として満たさなければならない。
「素行が善良であること」に関しては向こうで暮らして暫くしなければならないが、後者二つに関しては恐らく満たせると言えよう。
特殊部隊の選抜訓練の中には水路学、と言うものがある。
この技能を使えば水路測量は専門化された測量会社に入ることも不可能ではない。
他には元特殊部隊員の肩書を使ってPMSC、所謂民間軍事会社に入ることも出来る。
恐らく、アメリカでのPMSCと同じで警察や正規軍への技術指導などが主であると考えられる。
あとは国外へ営業拠点を設ける会社は大抵の場合現地での警備員を雇うが、大抵の場合はPMSCだ。
会社を起こして人員を幾らか雇えば、甘くは無いだろうがやっていけるだろう。
ならばこれで国益になるかならないかを考えた時、なると言えよう。
どの程度なのかは後々詳しく調べる必要はあるだろうが。
あとは、「素行が善良であること」を満たせばなんとかなる。
他と比べると特殊部隊員であった事、傷痍退役である事もあって年金もそれ相応に貰える。
仕事が見つかるまではそれでなんとかするしか無い。
とは言え務めた年数が十年ほどだから、二十年、三十年と勤めた人達と比べると少ないが。
まぁともかく、必要手続きをこなし、書類を申請したり受け取ったりとしている内にあっと言う間に数ヶ月が経っていた。
どうにかこうにか国からの許可が降りた。
それを仲間内に知らせると、最初は少しばかり顔を顰められたが理由を説明すると意外にも快く、それどころか日本の食い物とかを金渡すから送ってくれと言われる始末。
「じゃぁな、日本でも元気にやれよ」
「あぁ、ジャックも気を付けろよ」
送別会として集まり、別れる。
出発は明日だ。
荷物も全て纏め終わっているし、日本に送るもので予め送っておく必要のあるものは既に送ってある。
自分で持って行かなければならないものをスーツケースやバックパックに詰め込んで、それも玄関に置いてある。
それ以外の車などは全て売却済み。
家など家財道具だけは、思い出が沢山あるからどうしても売りに出せなかった。
日本にいる、本当の家族達を連れて来るのもありかもしれない、と思って残しておこうと。
月に一度程度だが、代理人に頼んで維持をしてもらうようにしてあるから問題無い。
明日は朝早いから、もう寝ないと。
翌日。
まだ日も登らない内に予め頼んでおいた友人に車を出してもらい、空港に向かう。
そして飛行機に乗った。
機内アナウンスで起きて窓を覗いてみると、眼下にはトウキョウ・ベイが見える。
十数時間に及ぶ空の旅が漸く終わるのだ。
飛行機が着陸する時の、独特な感覚が全身を襲う。
ゲートに到着し、順番に降りていく。
荷物を持ち、降りると真夏の日本の暑さが全身を襲う。
日本は高温多湿だと聞いていたがまさかここまでとは。
しかしなるほど、これが故郷の夏か。
確かに気持ち悪い様な感じもするが、意外にも嫌ではない。
飛行機を降りるのが最後の方だったから他の乗客達はゲート付近にはもういない。
すると、プラカードを胸の辺りに抱えた漸く二十歳ぐらいだろうか、という女性が一人、まだ立っている。
プラカードには俺の名前と、自身が待ち人であることを記す文が英語と日本語の両方で書かれていた。
それを見て、なるほど彼女が迎えの母さんが言っていた一番上の妹か。
確かに写真に写っていたし、空港に着いたらこの子を探して、と言っていた子と同じだ。
近づいていくと、少し怯えたような、びっくりしているような表情になる。
おかしいな、向こうも俺の顔写真は見ているはずなんだが。
「初めまして、隼人・ロビンソンです」
礼儀として、サングラスを外して話し掛ける。
左目の事もあるから外さないで、とも考えたが後々知られるよりは今、知っておいてもらうべきだろう。
右手を差し出し握手を求めるとおずおずと、おっかなびっくりと言った感じで握り返して来る。
随分と小さな手だ。
握った手はとても小さく、俺が力を込めてしまえば簡単に潰れてしまうのではないか、そう思うぐらいには小さく細い。
そして俺の顔をまじまじと見て、漸く気が付いたらしい。
「初めまして、天使海晴です。貴方が、私達の兄ですか?」
「Um、そうらしい」
にこりと、表情が硬くならない様に、出来るだけ優しそうに笑う。
互いに名前だけの自己紹介を済ませて、荷物を受け取って車に。
車に乗り込んで、新たな家に向かう。
「えっと、改めて。私は天使海晴です。十九歳で、大学に通ってます」
「隼人・ロビンソン。二十七歳、つい最近まで軍人だった。あとは、なんだろうな……、言葉が思い付かないよ」
改めて挨拶をする。
しかし、それ以上の言葉が出てこない。
緊張しているのだと今初めて気がついた。
互いに質問し、答える。
単純だが一番相手を理解しやすいやり方で話す。
どうやら海晴は妹達の、家族の事がとても大好きな様だ。
語る表情が、一番柔らかく、優しくなる。
「その、戦争に行ったりも……?」
恐る恐る、聞いてくる。
アメリカでは自分の家族が軍人である場合、戦地へ赴くと言うのは決して他人事では無い。
しかし日本は全く違う。
だからだろうか、そう言った事を聞くのを躊躇っている。
「行った。何度かな」
「……そうですか。その、左目のって……」
「最後の出征の時にな。別に気にするもんじゃないさ」
俺はうん、と頷いた。
海晴は黙ってしまった。
二時間ほど車を走らせると到着。
車を車庫に入れる前に、既に家の中からわーわーと騒ぐ声が聞こえる。
なるほど確かに大家族らしい騒がしさだ。
「十九姉妹と聞いているけど、どんなもんだろうな」
「そうね、毎日が楽しくて騒がしくて、面白くて、とても幸せよ」
「……今更だが、その輪に俺は居て良いのか?」
今更になって、俺がそこにいてよいのか、と。
「何言ってるの。貴方は、私達のお兄ちゃんでしょ?居ちゃ駄目だなんて事、ある訳が無いわ。だから、堂々として、ただいまって言えばいいの」
顔を見て海晴は言う。
それを聞いて少しだけ安心した。
「ふぅ……っ、緊張するな。こんなに緊張するのは初めてだ」
玄関扉の前で、立ち止まり深呼吸をする。
驚くほど緊張している。
「ほらほら、皆待ってるわ?早く入りましょ」
「Wait.Wait!」
思わずそう静止するが、背中をぐいぐいと押されて玄関扉を開ける。
入るとクラッカーがいくつも鳴る音がする。
それと同時に、クラッカーの中に入っていたカラフルな紐や紙吹雪が舞い、俺や海晴に降り注ぐ。
驚いた。
これほど歓迎されるとは思っていなかった。
「「「「「「お帰りなさい、お兄ちゃん!」」」」」」
全員が声を合わせて、お帰り、と言う。
中にはむすっと不機嫌そうな子もいるがそんなものか。
「あー、初めましてーーー」
「もうっ、違うでしょ?」
自己紹介をしようとすると隣から遮る声が。
他に言うべきことがある、と目で睨んでくる。
なるほど。
自然と後頭部をぼりぼりと掻いて。
「ただいま」
皆がわぁっ、と騒ぎ出して俺は迎えられた。
「オニーチャンッ!」
「うおっ」
玄関で、日本では普通である靴を脱ぐ、という動作の前に妹が1人、勢い良く飛び掛かってくる。
四十kgか五十kgぐらいの子は金髪ツインテールと言う、向こうにいる日本のアニメが好きな友人が聞いたら踊って喜びそうな子だ。
上手いこと衝撃を逃しつつ、今までに鍛えた筋肉や体幹を使って受け止める。
「ワォ、オニーチャンすごーい!」
「いきなり飛び付いてくるもんじゃないぞ」
すると、それよりも小さな子達がわーっ、と飛び付いてくる。
足元を小さい身体のちびっ子達が駆け回り、何やら口々に騒いでいるが放たれる言葉が多過ぎて何が何だか全く分からない。
辛うじて何かを訴えているらしいと言う事が分かるぐらい。
「立夏!あんたがそんな事するからこうなったのよ!」
「イタタタ、ごめんなさい!」
俺に飛び付いて来た子は何やら、耳を引っ張られて怒られている。
「だっこー!」
「だっこしてー!」」
どうやらちびっ子達は、抱っこしてくれと騒いでいるようだ。
どうしたものかと海晴を見ると苦笑しながら、
「抱っこして上げて?これじゃ何時まで経ってもこうだから」
そう言われる。
ならば仕方が無い。
「そらっ」
近くに居た子を二人、ひょいと抱き上げるときゃーきゃー、と幼児特有の高い声で騒ぐ。
他の子達も私も私もとせがんでくるから、交代で抱き上げてやる。
もっともっと、と言うがこれではキリがない。
「はいっ、皆ご飯にしましょ。手を洗って来てね」
ぱんぱん、と手を叩く音がする。
ドタバタと足音を立てて皆、洗面所に向かって行く。
どうやらこの様子は日常であるらしい。
年長組がそれを見て微笑ましそうに見ているし、何人かが手を繋いでだったりで引率している。
「初めまして、そしてお帰りなさい王子様」
「何っ?」
何やら俺の事を王子様と呼ぶ子がいる。
俺が王子様……?
「いや、俺は王子なんて柄じゃ無いだろう。精々兵士、良くて戦士ぐらいじゃないか」
「そんな事ありません!」
勢い良く言うが、そんな事あると思うんだがなぁ。
そして、手を洗って来てください、と言われて洗面所に向かうと、先ほどから不機嫌そうな顔の子がまだ居る。
「ふん」
なぜそこまで機嫌が悪いのか分からないが、どうやら俺が原因で間違い無さそうである。
しかし、かと言って会うのは今日が初めてであるしこの短時間で逆にそこまで機嫌を損なうようなことはしていないと思うのだが、どうしてなのだろう。
まぁ、下手に声を掛けて余計に機嫌を損ねるのもあれだし、暫くは放っておくのが良いだろう。
と思っていたのだが。
「ちょっと」
「ん?」
まさかの向こうから接触して来ただと?
俺の気遣いは全くの無意味だったと言う事だろうか。
「アンタ、何時までサングラス掛けてるつもり?家の中じゃ普通外すでしょ」
なるほど、ずっとサングラスをしていた事に腹を立てていたのか。
しかし、外せと言われてもそう簡単に外せるものではない。
左目の傷は、普通の人からすればあまり良い感情は抱かない。
恐怖だったりが、先行する筈なのだ。
それがまだ十四、十五歳の女子であるならば尚更だ。
「まぁ、外しても構わないが、良いのか?」
「いいから外してみなさいよ」
何を言っているのか分からない、と言った風に兎に角外せ、と言ってくる。
うぅむ、仕方無い。
「ほら」
「っ!?その目……っ」
やはりと言うか、驚いたような、怖がっているような表情になる。
当然と言えば当然か。
顔に傷がある男なんて普通は見ないし、居たとしても関わりを持たない事が殆どだろう。
そして、やってしまった、と言う顔になる。
別に俺はこの傷がある事自体は気にしていないが、他人においそれと見せてしまうのを躊躇っている。怖がらせるのも申し訳ないし。
「……悪かったわね」
苦味を潰したような、後悔したような顔でそう一言残すと、洗面所を出ていった。
うーん、なんだかな……。
手を洗いサングラスを掛け直してから広いリビングに行くと、既に皆が席に座って待っていた。
十九姉妹が全員揃って座っている、と言うのは物凄く壮観である。
なんだか此方が圧倒されるような錯覚があるな。
空いているのは長いテーブルの一番端、それも上座と言われる場所だ。
これでも日本について色々と勉強して来たから分かる。と言ってもやはりまだあやふやだが。
それは兎も角。
席に着くと、先ずは海晴による皆の紹介から始まった。
長女大一 海晴
次女高三 霙ちゃん
三女高二 春風
四女高一 ヒカル
五女中三 蛍
六女中二 氷柱
七女中一 立夏
八女小六 小雨
九女小五 麗
十女小四 星花
十一女小三 夕凪
十二女小二 吹雪
十三女小一 綿雪
十四女年長 真璃
十五女年中 観月
十六女年少 さくら
十七女 虹子
十八女 青空
十九女 あさひ
自己紹介をしたがなんとまぁ、十九人も姉妹が揃っていると言うのは壮観である。
アメリカでも中々無いぞ。
「「「「「「「「よろしくお願いします♡」」」」」」」」
全員揃っての挨拶、とは行かないか。
やはりやたらと俺を睨んでいる子、氷柱だったかな。それと目を合わせようともしない麗、と言う子以外は揃ってよろしく、と言ってくる。
「宜しく、皆」
出来るだけ優しく、小さい子達が怯えないように柔らかい口調で言った。
「それじゃぁ、食べましょうか!」
「「「「「「「「それではいただきまーす!」」」」」」」」
海晴のその一言を皮切りに、いただきます、とまた声を揃えて言う。
既に待ち切れなかったちびっ子達は我先にとジュースを飲み始め、野菜を各々に分けて配膳されていた野菜を頬張って食べ終えると肉やらを競うように食べ始める。
それを見ていると、向こうの家で一人で食事をしていたのが懐かしく感じる。
養父母が死んでからは、家にいる時はどうしても一人飯だ。
あれはあれで一人自由気ままに食べられたが、思いの外寂しいものだ。しかも自炊が面倒で結局週の半分はデリバリーだったし。
出征から帰国してから一〜二週間の間なんて酷いものだ。
外食かデリバリーの二択だった。
「美味い……」
一口、食べるとぽつりと一言漏れる。
デリバリーは温かいといえば温かいのだが、それは料理が温かいという物理的なもので、今食べている食事みたいに精神的に温かいものではなかった。
自分で作る食事も、お世辞にも美味いとは言えない代物だった。
「本当ですか?」
「あぁ、美味いよ」
「我が家じゃ春風と蛍の二人がキッチンを担当してるんだ。腕前はご覧の通り」
「あぁ、こりゃぁ、凄く美味い。このピザも?」
「はい、初めてだったけど美味しく出来ました」
「そうかぁ。春風、蛍、ありがとう」
「そんな、王子様にありがとうって♡」
「えへへ」
うーん、その王子様ってなんなんだ?
さっきも言ったが、どう考えてもそんな柄じゃないだろうに。
まぁ、良いか。
夕食を食べ終え、油なんかで汚れた手を洗ってリビングに戻ってくると。
「おにぃーーちゃーん!!」
「うおっ!?」
何やら飛び付いてくる子が。
危うく放り投げるところだった。
背筋と脚の筋力を総動員して、受け止める。
流石に五十kgはある少女の勢いの付いた飛び付きはそう易々とは受け止められない。
ぐっ、と受け止めて抱き止める。
どうやら胸の辺りが俺の顔に来ているらしい。
年相応以上の柔らかい感触がするが、流石に反応はしない。
「どうした、立夏」
「お兄ちゃんが出来てね、リカ超ウレシイよ♡宜しくね!」
「あぁ、宜しく。それと、そろそろ降りてくれ」
「えー?重い?」
「いいや、軽いよ。だが、あれを見てみろ」
「あれ?……ッ!?」
俺が指差す方には、どうやらお怒りらしい氷柱の姿が。
それを見てびくり!と肩を飛び跳ねさせる。
「立夏!あんたね!」
「わー!ゴメンナサイ!」
ずかずかずか!と歩いてきた氷柱は立夏の耳を摘んで引っ張っていく。
「立夏、抜け駆けは良くないな」
「ええ〜っ!?霙お姉ちゃんまで!ちょっとくらいイイじゃん!やっと会えたんだもん!」
「気持ちは分かるが、お前がそうするとだな……」
霙が何やら言いかけたところに、再び俺に向かって駆けてくる複数の影が。
なるほど、理解したぞ。
「チビたちが暴走して危ない」
「「「「「わーっ!」」」」」
五人ほどが一斉に突っ込んで飛び付いてくる。
二人はなんとか受け止めたが、他は無理だった。
勢いに押されて、怪我をさせないように注意しつつ尻餅をつく。
「皆大丈夫か?」
「久々に弾けたな」
「もうっ、霙お姉ちゃんも手伝ってよぉ」
「バカ立夏!」
「ゴメンナサーイ!」
無茶苦茶だ。
だが、嫌な感じじゃぁない。
すると視界にこちらを見てもじもじと、話し掛けようか、だけど勇気が無くて、と言った感じの同じぐらいの大きなぬいぐるみを持った子が。
ふむ……。
よっ、と立ち上がり、その子の元へ向かいしゃがんで声をかける。
「こんばんわ、さくら」
「〜!」
名前を呼んで、少し微笑む。
すると嬉しそうに足元をぴょんぴょんと飛び跳ね駆け回り始めた。
くしゃくしゃっ、と頭を撫でるとより嬉しそうにする。
するとぱんぱんっ、と手を叩く音が。
「はいはい皆!お兄ちゃんが帰ってきて嬉しいのは分かるけど、今日はお兄ちゃんも疲れてるの。だから……」
何やら足元にある箱を持ち上げて。
「遊ぶならこれで遊びなさい!」
なるほど、人生ゲームか。
それからと言うもの、人生ゲームやトランプ、UNOを騒ぎながら交代で風呂に入りつつやった。
しかし小さな子と言うのは疲れるのが早く、二時間程でうとうとと眠そうにし始めた。
ほんの五分もしたら、気持ち良さそうに寝てしまった。
時刻は二十一時ぐらいなのだが、やはり小さい子からすると遅い時間、になるらしい。
「電池切れだ。よっぽど楽しかったんだな」
ヒカルが優しく頭を撫でながら言う。
「それじゃぁ、チビたちを部屋に運ぶから手伝ってくれるか?」
「了解」
幼稚園組を含めたちびっ子六人を二人で手分けして運ぶ。
どうやらヒカルはそれなりに鍛えているらしいのか軽々と二人を片腕づつに抱き上げて運んでいく。
ヒカルの後を付いて行って、布団を敷く。
やはりベッドではないらしい。
布団に寝かせ、そっと掛け布団を掛ける。
全員を運び終えたら電気を消してドアを閉じた。
「ありがとう、手伝ってくれて」
「なに、気にするな。あれぐらい幾らでもやるさ」
リビングに戻ると何やら騒いでいる。
「リカたちはいいでしょ、もっとオニーチャンと遊びたいよ!」
「駄目だ。今日はもうおしまい。また明日だ」
まだ遊びたい立夏たちと、もう寝ろと言う霙達。
「立夏」
「あ、オニーチャン!」
「遊び足りないのは分かる」
「じゃぁ、遊んでくれる?」
「甘やかしちゃ駄目だぞ」
「だそうだ」
「え〜!」
「俺は居なくなる訳じゃぁ、無い。明日遊べばいい。その次の日も遊べばいい。違うか?」
「……そーだけどサ」
「それじゃぁ、また明日だ」
少し説得してやると物分かりがよく素直らしいのか、
「ウン、分かった。また明日、遊ぼうね、オニーチャン」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみー」
中学生組も各々の部屋に帰っていった。
残るは高校生組と大学生である海晴だけだ。
リビングに入ると、皆それぞれ寛いでいる。
「おかえり、どうだった?」
「なんと言うか、嵐みたいだ」
「ふふふっ、そうねぇ。いつもはもっと落ち着いてるんだけど、お兄ちゃんが帰ってきたってことで皆大はしゃぎだったのね」
「そうか?毎日あんな感じの様な気もするけど」
海晴とヒカルはそう口々に笑いながら言う。
「明日とかどうするんだ?」
「取り敢えず、手続き関係を終わらせてから車の免許だな。国際免許は持っているがこの国の免許を持っていない。警察に書類を出したりして、この国の免許も取らないとならない。じゃないと不便だ」
「そうねぇ、お兄ちゃんが車持ってたら毎朝の通勤通学が楽になるものね」
「仕事とかは?」
「まだ決まっていない。一応年金があるが、それだけで生活する訳にもいかないからなぁ。暫くはのんびりして、来年ぐらいから取り敢えず自分の技能を使えそうな場所を探すさ」
さっきまではちびっ子達の時間、今からは私達の時間。
そんな感じで質問攻めにされる。
皆の質問に答えつつ。
「そう言えば、氷柱ちゃんの様子がおかしかったわね。どうしたのかしら?」
「確かに、お兄ちゃんを見る時とか気不味そうにしてたわね」
「あー、それなら心当たりがある」
「あら、帰ってきて早々喧嘩かしら?」
「いや、喧嘩と言うか、俺の不注意みたいなものだ」
「何かあったの?」
「サングラスをしたままだったのを、家の中なんだから外せと言われてな。傷のこともあって、外していなかったんだ。それで、多分知らなかったんだろう。外して見せたら、困らせてしまった」
「そう言えば、なんでサングラスをしてるんだ?」
「目に傷があるからだ」
「傷?」
「あぁ、左目を戦傷で失明してな。その時の傷が消えずに残ってるんだ」
「なるほどね。氷柱ちゃんはそれを知らずに外せって言って外したらそれを見て申し訳なくなっちゃったって事かしら?」
「氷柱はあれで中々に面倒な性格してるからなぁ。下手したら近付いてこないぞ」
「この際面倒だからお兄ちゃんから氷柱ちゃんにアタックしちゃえば?その方が蟠り無く解決出来そう」
酷い言われ様だな。
まぁ、確かにツンケンした性格だし、俺の傷を見て申し訳なさそうにしたりと色んな側面がある性格をしてはいそうだ。
「そうか?」
「うん」
「それなら、明日の書類関連の提出に付き合ってもらうかな」
「それが良いわ。あ、それと」
「うん?」
「もし、お兄ちゃんが良ければ、家の中ではサングラスを外して過ごして欲しいの」
「ほう、どうしてだ?」
「多分、その方があの子達のためになるし、それに」
「家族なんだもの、傷を一々気にしたりしないわ」
海晴は、そう言って微笑む。
他の皆もうんうん、と頷いている。
そうだなぁ、どうやら俺は随分と幸せ者らしい。
「そう、だな。今度から、そうするよ」
「うん」
それからは、やはり質問攻めにされながら十二時ぐらいになって自室に行く。
そこには先に発送していた荷物と、真新しい家具が幾つか。
態々揃えてくれたんだな。
どうやら、母さんは仕事が忙しくまだ帰って来れないらしい。
まぁ、仕方ない。
ありがとう、と心の中で言いつつベッドに潜り込んだ。
長男 隼人
長女 海晴
次女 霙
三女 春風
四女 ヒカル
五女 蛍
六女 氷柱
七女 立夏
八女 小雨
九女 麗
十女 星花
十一女 夕凪
十二女 吹雪
十三女 綿雪
十四女 真璃
十五女 観月
十六女 さくら
十七女 虹子
十八女 青空
十九女 あさひ
ツイッター始めました。
ジャーマンポテトin納豆
@potatoes_natto