19人の妹達   作:ジャーマンポテトin納豆

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2話

 

 

 

 

 

翌日。

何時もの習慣で朝早くに目が覚める。

腕時計を見ると五時ぴったりだ。

窓から朝日が入り込んできていて、電気を付けなくとも部屋の中は幾らか明るい。

 

身体をぐっ、と伸ばしてぐるぐると肩を回し凝りを解す。

それを終えたら荷解きをしていない段ボールの中から適当に運動に適した服を引っ張り出し着替えて、これまた未だ荷解きをしていない箱の中から愛用のランニングシューズを引っ張り出す。

 

 

 

 

 

それを持って玄関に向かい、外に出る。

手首や足首を解す程度の準備運動を終えたら走り出す。

 

早朝のトレーニングの開始である。

 

 

 

 

 

 

一時間ほどの時間を掛けてゆっくりと家の周りを見て回って来た。

 

粗方の構造や主要な道などは覚えてきたが本来ならばもっと時間を掛けて、町全体がどんな構造をしているのか、電波が入る場所、入らない場所、危ない場所、ギャングやマフィア、日本で言うヤクザだったか?の根城や集会場所、何かあった時の避難所など全部を把握しておく必要があるんだが、それは明日以降に持ち越しだな。

 

今日は兎に角書類を役所に提出しなければならないから、悠長にしていられないんだ。

 

家に戻ると玄関にヒカルが運動着で立っている。

どうやら準備運動中らしい。

 

「ヒカル」

 

「あ、おはよう兄さん」

 

「運動か?」

 

「毎日の日課だ。兄さんはもう走って来たのか」

 

「あぁ、一時間ぐらい前から走って今戻ってきた」

 

「そっか」

 

「もし良かったら一緒に走るか?」

 

「え、でも良いのか?」

 

「あぁ、あれぐらいの距離大した事はない。もう一時間ぐらい走ってからトレーニングしても問題無いさ」

 

「それなら、一緒に走ろう。丁度良かった。ウチには積極的に運動するのが私しかいないんだ。ちびっ子達は遊ぶ事なら身体動かせるけど、トレーニングは無理だし」

 

「そうか、まぁ、今日からは違うな」

 

「うん。それじゃぁ、行こう」

 

走り出したヒカルに付いて行く。

どんなペースで、どこを走っているのかを知りたいって言うのもあるし、単純に仲を深めたい。

 

 

見たところ、俺のペースの三分の一と言ったところだろうか。

決して遅くはないが、かと言って早いわけでもない。

ランニング、と言うよりジョギング、と言った感じだな。

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

ヒカルの横を並走する。

走り始めてから一時間、ヒカルの息は荒い。

 

まぁでも、毎日走っていると言うだけあって疲れている様子は無い。

 

 

 

 

家に戻って来ると、既に灯りが付いている。

それと一緒に良い匂いが漂ってくる。多分春風と蛍が朝食を作っているんだろう。

 

「兄さんはもう終わりか?随分と余裕そうだけど」

 

「いやぁ、他にもトレーニングやる予定だったんだが、この美味しそうな匂いを嗅がされたらなぁ」

 

「んー、体感まだ時間あると思うぞ。少しぐらいなら大丈夫じゃないか?」

 

「それなら、ちゃちゃっと済ませるか。どうする、ヒカルもやるか?」

 

「良いのか?」

 

「構わないさ。メニューは違うだろうがな」

 

「それじゃぁ、一緒にやろうか」

 

「おう」

 

朝食が出来るまでの間だが、それぞれのトレーニングメニューを行った。

流石に腕立て伏せや腹筋を何百回も連続でやらせるわけには行かないしな、それに身体を壊してしまう。

 

トレーニング用の機材がここには無いからなぁ、自重トレーニングに頼らざるを得ない。

庭が広いから、ここに置いてもいいんだろうが、小さい子達が怪我をするかもしれない事を考えると、置くのは躊躇う。

 

ジム通いは金が掛かるし、収入が年金頼りの今の所はやりたくない。

通うならばせめて仕事に就いてからだな。そうなったらヒカルも通いたいなんて言い始めるかもしれないが、そうなったら一緒に通わせてやろう。

 

 

二十人分の食事の準備というのは、それぞれの量に差はあれどそれ相応に時間が掛かる。

そこにもし両親が加われば、計二十二人分の食事になる。

 

まぁ、あさひみたいにまだ乳幼児って子も居るから減ったりはするが結局、おかわりする面々がいるから用意する量は変わらないだろうな。特に立夏辺り。

 

トレーニング開始一時間後。

リビングの庭に面する窓が開けられて、春風が顔を出す。

 

「二人とも、朝ごはんよ。シャワー浴びて戻って来て」

 

「あぁ!」

 

「分かった」

 

やはり自重トレーニングだけだと、どうしても追い込むまでに時間が掛かるし、なんなら今もまだやり足りないぐらいだ。

これは、帰って来て時間があったらやるしかないな。

 

さて、と。

 

「ヒカル、先にシャワーを浴びてこい。終わったら呼んでくれ」

 

「分かった」

 

ヒカルに先にシャワーを浴びに向かわせて、俺はもう少しだけトレーニング。

 

十五分もするとヒカルが俺を呼びに来る。

早いな。

 

「風呂空いたぞ」

 

「ふっ、ふっ、ふぅっ……!あぁ、分かった。今行くよ」

 

さっさと玄関から入ってってシャワーを浴びる。

軍隊生活が長いと食事はそうでもないが風呂が短くなりがちだ。

食事中の場合は即座に対応が可能だからだ。

 

武器は自分の部屋に置いてあるし、取りに戻るのに全力で走れば五秒と掛からない。

ベストを着たりしても応戦までには一分ぐらいだろう。

 

しかし風呂はそうもいかない。

素っ裸のまま戦うわけにもいかないから、身体を拭かずに服を着て、部屋まで走って装備を整えて応戦するとなると五分は確実に掛かる。

その間に仲間や味方は死ぬし、なんなら自分自身も死んでいるかもしれない。

 

だから風呂は短くなりがちなのだ。

お陰でシャワーを浴びて出てリビングに到着するまでに五分ほど。

 

リビングに行くともう皆が席に座って待っていた。

どうやら待っていてくれたらしい。

 

「待たせたてしまったか」

 

「気にしないでください。立夏ちゃんと夕凪ちゃんなんて今起きて来たんですもの」

 

「はっはっは、そうか。まぁ、でも明日からはもう少し早めに切り上げる事にするよ」

 

「それじゃぁ、揃ったし食べましょ」

 

「「「「「「頂きまーす」」」」」」

 

寝起きと言うこともあってか、若干テンション低めの皆は朝食を食べ始める。

昨日ほどの騒がしさはないとはいえ、それでもそれなりに騒がしい。でも、嫌じゃない。

 

起きて来たばかりとの事らしい立夏と夕凪は半分以上寝ているらしいのか、こっくりこっくりと頭や身体を揺らしながら眠そうに、さりとてもしゃもしゃと食べている。

 

海晴は仕事らしく、俺が走っている間に出てったのかもういない。

 

 

 

 

 

 

「それで、今日一日役所周りするんですね?」

 

「あぁ、昨日の内に場所とかは調べておいた。あとはスムーズに手続きが終われば良いだけの話なんだが」

 

「一人で行くのか?」

 

霙が聞いて来るがどうしたものか。

一人でも良いんだが、もし何かあった場合に日本語が話せるとは言え通訳が居ないと少し困る。

 

「一人で行こうとも考えていたが、なんせ分からない事があったら困りそうだ。誰か連れて行きたいんだが、暇そうなのはいるか?」

 

「うーん、私が行きたいんだけど家事がありますし、蛍ちゃんも一緒だから多分無理です」

 

「それなら別に良いんだ。確か夏休みだろ?なら他の子が空いているんじゃ?」

 

「あー、それなんですけど多分無理、かも……」

 

なんとなく歯切れが悪い蛍は申し訳なさそうにしながら言う。

 

「どう言うことだ?」

 

「立夏ちゃんと夕凪ちゃんの夏休みの宿題がまだ終わっていなくて、それを見てあげるんです……」

 

「夏休みに宿題?そんなものがあるのか?」

 

「えぇ、日本の学校だと殆どの場合あると思いますよ?アメリカにはなかったんですか?」

 

「無かった。小中高と一度もやったことがない。そもそも夏休み自体が九月からだからな。第一自分で勉強するのが普通だ。それに夏休みは家族や友人と遊んだりキャンプに行ったりするもんだろう」

 

そう俺に言われて立夏と夕凪が気不味そうに顔を逸らした。

 

実際、向こうで長期休暇中に何か宿題を渡されたことなんて無かった。

色んなコンテストはあったが、それは出たい奴だけで大抵は家族や友人と遊んだりするもんだ。俺もそうだった。

 

学校がある時は毎日宿題は出されていた。

問題を解くのは勿論、PCを使って調べ物やプロジェクトを作成し引用文献も提示したりもしたな。

 

ただ、夏休みとは言え全く勉強しない訳にも行かないから自分で適当に教科書を開いたりしてやってはいたし、それに本も結構読んでいたな。

 

しかし日本の夏休みにはそんなのがあるのか。

大変なもんだ。

 

 

で、その話に食いついたのが宿題が終わっていない立夏と夕凪。

 

「なにそれズルい!私もアメリカの学校に通う!」

 

「私もそっちがいい!」

 

言うだろうと思った。

 

「だがなぁ、お金とかの問題は置いておいて、そもそもの話だが英語が出来ないと無理だぞ。それにスペイン語とかのカリキュラムもある。何より夏休みは宿題が無いが、学校がある日は毎日、それも今皆がやってる量の比じゃないぐらい宿題出るぞ。出来るか?」

 

「「うっ!」」

 

あっけなく撃沈。

少なくとも、今の反応を見るに二人はスペイン語などはおろか英語もからっきしらしい。それに自分で勉強をするのも苦手と来た。

なるほど二人は尻を叩かれて追いかけ回されるまでやらないタイプという事か。

 

「夏休みはあと何週間だ?」

 

「あと一ヵ月です」

 

「四週間か。で、他の皆は終わらせたと」

 

「うん。じゃないと三週間後の家族旅行に遊びに行ったりも出来ないし、何よりあの二人はこのままだと確実に宿題やらずに放っておいて最後の二日三日ぐらいに泣き付かれるから……」

 

「なるほど、毎年手伝っていると言うことか」

 

大方、日本の学生に良くあることなんだろう。

皆、もう慣れていると言った感じで苦笑いだ。

 

「そうしたら、一人で行ってくるかな。この暑い中連れ回すのもあれだしな」

 

「あ、それなら氷柱ちゃんを連れて行ったら?」

 

「え“っ?」

 

春風の唐突な提案に氷柱が変な声をあげる。

昨日の事が尾を引いているんだろう。

 

確かに昨日、連れて行くなんて話していたが本気だろうか?

 

「いやっ、私は立夏と夕凪の宿題見なきゃだしっ」

 

「それなら私が見てやる」

 

「霙姉様は生徒会の仕事があるでしょっ」

 

「いや、昨日の内に終わらせて今日は無いが」

 

「それなら家事の手伝いとか」

 

「うーん、今日はちっちゃい子達が手伝ってくれるから大丈夫かしら」

 

「……べ、勉強あるし……」

 

「でも宿題終わったんだろ?」

 

何かと理由をつけて断ろうとしているようだが、助けを求めるように彼方此方をぐるぐる見るが、退路をどんどん絶たれていく。

なんか申し訳ないな。

 

「いや、嫌なら一人で行くから良いんだ。悪かったな、氷柱」

 

俺が諦めたように言うと、

 

「ふっ、ぐっ、うっ、ぬぅっ……!分かったわよ、付き合えばいいんでしょ……!」

 

変な声を上げながら、最後は了承してくれた。

それを見て楽しそうに笑う霙は、Sなんだろうか。

 

 

 

 

 

雑談を交わしながら食事を終え、書類などの荷物を纏めてあるポーチを肩に斜め掛けにしリビングに。

そこには既に着替えた氷柱が待っていた。

 

「それじゃぁ行こう」

 

「ん」

 

どうやらそこまで機嫌が悪い訳では無いらしい。

やはり、昨日の事が尾を引いて仕方がないのか?

 

玄関を出て、中東の暑さとはまた違った蒸し暑さを感じながら二人で並んで歩く。

バス停から、バスに乗って役所の前で降りるんだが、この暑さだから氷柱がぶっ倒れないように気を付けないと。

 

俺は寒いより、暑い方がマシだ。

なんせ人間は熱中症よりも凍死の方が圧倒的に死ぬし、実際凍死の方が死者の数が多い。

選抜訓練中も低体温症になりかけたし、実際低体温症になって運ばれていった奴もいる。

寒中訓練じゃ防寒対策をしていても地獄みたいな寒さの中での訓練で本当に不味いと思った。

 

 

 

バス停で待っていると、時間きっかりにバスが来る。

電子マネーはまだ持っていないから現金払いだ。

氷柱はどうやら電子マネーらしい。ICカードで読み込みをさせていたからな。

 

氷柱に教えられるがまま、発券機から券を取り空いている席に二人で並んで腰掛ける。

乗客は朝方の、ともすれば通勤時間であろうにも関わらず乗客は俺達だけしかいない。

 

それでも隣に一緒になって座ってくれているあたり、まだ良い方だろう。

しかし氷柱は目を合わせようとせず、頬杖を突いて窓の外を見るばかりだ。

どうやら余程昨日の事が引っ掛かっているらしく、窓の外を眺める顔は随分と居心地悪そうにしている。

 

あまり気にする様な事でも無いんだが、どうやらそうも行かないらしいと言うのが氷柱の気持ちの様だ。

 

「なぁ、氷柱」

 

「……何よ」

 

声を掛けると、顔をこちらに向けずに淡々とした声で答える。

 

「もしかしてだが昨日のこと、気にしているのか?」

 

「……違うわよ。ただ、アンタとの距離感が分からないだけ」

 

「それは気にしている、と言うんだ」

 

自分から気にしている、とでも言わんばかりの回答に苦笑いをしながら指摘してやると耳が少しだけ赤い。

 

「まぁ、なんだ」

 

「なに?」

 

「気にしなくていい。別に、氷柱は極々当たり前にサングラスを外せと言ったんだ。あの時は俺の方が配慮が足らなかった。最初に伝えておけば良かった」

 

「……」

 

「俺の中で、この傷は別に嫌なものでもないんだ。いや、最初は嫌なものだったが今は違う。だから、あー、クソ、なんて言えばいいか分からないがとにかく、気にしないでくれ。普通に接してくれればそれでいい」

 

「……まぁ、努力はするわ」

 

「ありがとう、氷柱」

 

「バッカじゃないの……」

 

上手く伝えられた、とは言えないな。

だが、これで普通に接してくれたら嬉しい。

 

軍事上の事なら幾らでも伝えられるんだが、こうも年頃の女の子相手に、しかも自分の傷が原因で関係がギクシャクしたとなったらなんと言えばいいのやら。

 

それからは互いに無言のまま、役所前のバス停で降りた。

 

 

 

 

 

役所に到着してから、すぐに必要な手続きを済ませる。

多少時間が掛かったがそう言うものだ。

 

その次に警察に行き、国際免許などの書類提出などを行うのだが、ここで少し問題が。

と言っても何かトラブルに巻き込まれた、と言うわけでは無い。

 

「申し訳ありませんが、少し付いて来てもらっても宜しいですか?」

 

「構わないが」

 

「では此方に。お連れの方はそのままここでお待ち下さい」

 

何やら制服警官二人とスーツ姿の、恐らく刑事か何かであろう警官の計四人に連れられて、所謂取調室に連れていかれる。

おかしいな、俺は別に何かやらかしたわけじゃないが。

 

日本に来たのは昨日だし、アメリカでも犯罪は一度も犯していない。

何にせよ取り敢えず、警戒度は上げておいた方が良いだろう。

 

「突然すみませんね」

 

「いや、いい。それよりも要件は?」

 

「そう警戒せずとも、とは言えませんね。取り敢えず自己紹介でも」

 

「俺の名前は提出した書類に書いてあるし、そうで無くとも確実に知っているだろうから一々名乗らん。何でもいい、要件を話してくれ。妹を長く待たせるのはゴメンだ」

 

「そうですか。我々は公安と警視庁の外事課の者です。では単刀直入に。貴方が日本に来た目的は?」

 

公安、確か思想犯の取り締まりだかなんだかをする組織だったか?

それが何の用だ?日本に来た目的を聞かせろと言っているが、別に隠すことのものでもない。

 

それに思想犯な訳があるか。

俺は別に日本の転覆とか狙ってないぞ。

 

一人で国家転覆が出来ると思っているのかコイツは。

だとしたら余程英雄譚が好きなのか、あとは単純に馬鹿なだけだな。

 

どちらにせよ、愚かである事には変わりないだろうが。

 

「家族と暮らす為」

 

「それ以外には?」

 

「無い。強いて言うなら暮らす以上必要な金銭を得るための就労と永住権の獲得ぐらいだが」

 

「ふむ。では此方へお連れした理由を説明します。ハッキリ言いましょう、海軍軍人であったと書かれていますが、それにしても貴方の経歴には空白が有り過ぎる。それを公にして頂きたい」

 

ふむ、驚いた。

昨日入国したばかりでもう俺についてそこまで調べ上げたか。まぁ、隠していた訳じゃ無いから当然か。

秘密なのは所属と階級、派遣先、参加作戦などだ。

 

「断る」

 

「何故です?説明出来ない理由でも?」

 

「そもそもだが、説明出来るなら警察が調べた俺の経歴書に全て書いてあるはずだ。それが書かれていない、と言うことはそう言うことだ。そんなに知りたいなら国防総省に掛け合ってくれ。俺からは何も話す事は無い」

 

国防総省、の言葉が出た瞬間に目付きと雰囲気がガラリと変わる。

 

「何故です?」

 

「教えられない。国防総省と掛け合って必要なら経歴を書いた書類でも送ってもらえ。とは言えその書類にも大した事は書かれていないだろうが」

 

なるほど、コイツらは俺の経歴が知りたいらしい。

公安と名乗っているだけあって、恐らくはテロなどを未然に防いだりとしているんだろうから経歴が謎の俺を不審がるのも無理は無い。

 

とは言え、俺の所属は明らかに出来ないのは確かだ。

 

実際、幾つか公にされていない任務に従事したし、戦地での情報も公に出来ないものも多い。

どうやったって国防総省の許可が必要だ。俺の独断で教えられるもんじゃない。

もう何年かすれば最低限の所属ぐらいは話せるようになるかもしれないが任務関連はほぼ無理だな。

 

許可無く口外した場合はどうなることやら。

向こうに連れ戻されて監視付きの生活を送るぐらいならばまだマシ。これはほぼあり得ない。

軍法裁判に掛けられて、終身刑、刑務所に叩き込まれるぐらいは覚悟しておく必要がある。

 

「どうしても、教えられないと?」

 

「無理だ。国防総省からの許可があれば、その許可のレベルに応じた情報は説明するがそれが無い以上は話せないし、許可が出たとしても許可されたレベル以上の事はどうやっても話せない」

 

「……分かりました、それでは暫くお待ち下さい」

 

顔を顰めながらスーツの二人はそう言って出て行く。

多分、上の判断を仰ぎに行ったか、直接若しくは大使館経由で国防総省に掛け合いに行ったんだろう。

全く面倒だな。

 

部屋には俺と制服姿の警官が三人が残された。

 

別に逃げやしないし、もし逃げるとしてもこの三人じゃどうやったって止められないだろうさ。

逃げようとした俺を直ぐに拳銃で撃つぐらいしないと。

 

多分、今の話を聞いて察しの良い人間や知っている人間ならば俺が特殊部隊に居た事はすぐに分かるだろうな。

どこに所属していたとか、そう言うのは流石に分からないだろうが。

 

 

 

四時間後。

漸くスーツが戻ってきた。

随分と掛かったもんだ。こっちは待ち草臥れたぞ。氷柱の機嫌が悪かったらどうしてくれるんだ。

 

「お待たせしました、問題ありませんのでお帰り頂いて構いません。申請された手続きは全て済ませておきました」

 

「ありがとう」

 

さっきとは打って変わって態度が変わったな。

適当にありがとう、と言ってさっさと出て行こうとする。

 

「一つ相談なんですが」

 

「なんだ?」

 

「もし、我々が貴方を雇いたい、と言ったらどうしますか?」

 

なんだ、急に。

しかもさっきからやたらと態度が丁寧になって気持ちが悪い。

 

「それは、俺に民間軍事企業として汚れ仕事をしろ、と言うことか?」

 

「そうではありません」

 

「じゃぁ、なんだ?」

 

コイツら何が言いたいんだ?

 

「簡単に言えば、我々の指導、です」

 

なるほどな、要は外部指導員として俺を雇いたいってことか。

アメリカじゃ軍や警察に指導をする会社もあるぐらいだ、この国でも当然あるだろう。

 

で、丁度良いところに俺が来たってわけだ。

 

「無理、とは言わないが出来るか分からんぞ」

 

「何故です?」

 

「目的や目的達成の為のプロセスの違いだ」

 

「と言うと?」

 

「じゃぁ聞くが、今この場で俺が今目の前にいる人間に手を伸ばして暴れ出した時、直ぐに拳銃を抜いて俺を撃ち殺せるか?」

 

「それは、必要無いのでは?」

 

「そうか、なら質問を変えよう。素手で俺に勝てると言う自信がある奴はそこの警官含めて手を挙げてみろ」

 

適当に質問してみると、やはり誰も手を上げない。

 

「そう言うことだ。素手で勝てないなら武器を使う。言っとくが他の奴が非殺傷武器を持ってくる余裕なんてないぞ。そんな時間があるなら一人二人殺してその拳銃を奪うぐらいの芸当は出来る」

 

「いいか、俺達のやり方はこう言うことだ。敵なら殺す。警察みたいに一々逮捕しようなんてしない」

 

 

簡単に言えば、警察は国内の治安維持が目的だが軍隊は違う。

国内の治安維持が主任務ではなく敵と戦うことが主任務だ。

 

そうなったら、振るうことの出来る武力にも違いが出てくる。

俺達は必要になったら歩兵だけじゃない、戦車、大砲、戦闘機、爆撃機、戦闘ヘリ、ミサイルなんでも使って敵を殺すが、警察は普通そんなもの持っていないし、日本の警察だと精々特殊部隊が最高で自動小銃を持っているぐらいだろう。

 

アメリカだと特殊部隊じゃない警官がパトロールの時に車両に自動小銃を携帯していることもあるが、日本はそうじゃない。

どうやったって、俺達と同じ訓練は合わない。

アメリカは俺でも物騒だと思う時がある。

 

警察車両が銃撃されたとかはある話だし、銃撃事件も当たり前、強盗なんてそれこそ数えていたらキリがない。

それぐらいなのだ。

 

格闘術だって、どちらかと言うと犯罪者を殺すではなく怪我を負わせる事はあれど逮捕することが目的のものだし俺達の様に確実に相手を殺すものじゃない。

使い方によっては殺せるが、殺し向きじゃない。

 

射撃だって俺達の場合は殺せれば良い訳だから、室内だろうと何だろうと敵の身体のどこに当たっても問題無い。

脳髄をぶち撒けようが心臓を貫こうが身体中をぶち抜かれて蜂の巣になろうが何だって良いのだ。

 

大抵の場合、俺達の任務で敵の重要人物に対して作戦行動を取る場合、拘束若しくは殺害、とされる。

しかも拘束、と言うのは手荒でも何でも取り敢えず捕まえりゃ良い、みたいな感じでそう言う命令が出される時は確実に抵抗、それも銃火器での抵抗が予想されるから目標の多少の怪我は当然、なんなら腕や足の一本ぐらい無くとも生きていればいい、なんて言うレベルなのだ。

 

俺が就いていた任務は対テロ戦だから、テロ組織が相手だから容赦しなくていい。

奴らは女子供関係無く殺すし、女子供を使って自爆テロを起こす。

捕まったら生きながら地獄を味合わされる。そんな連中相手に容赦なんてしていたらこっちがやられる。

爆弾抱えていれば男だろうが女だろうが子供だろうが殺さないと、何十人もの兵士が殺されるのだ。

 

 

銃をぶっ放して抵抗してくるし取り巻きも撃ってくる。

そりゃぁ、捕まえられれば情報も手に入るが自動小銃で武装した人間に守られた奴を捕まえるってのは簡単な仕事じゃ無い。

 

しかし警察は、逮捕しろ、と命令された場合殺してはならない、と言う事になる。

そもそも日本の警察で犯人を撃ち殺す、なんて殆ど聞いたことがない。

そうなったら急所はまず撃ち抜けない。

相手が幾ら機関銃を乱射しようが、百発百中の射撃の腕を持っていたとしても、だ。

流石にそれなら殺すもやむなし、となるだろうが。

 

別に嫌な訳じゃ無い。

何時迄も無職のままって訳にもいかないからな。

仮に請け負ったとして、やり方の違いで対立しても良いことがない。

 

それぐらいなら止めておいたほうが双方のためになる。

 

恐らく警察の特殊部隊もOBなどに指導は受けているだろうし、外部からの講習もあるだろう。

そこに俺が加わったところで別に問題はないだろうが、やり方に対するギャップが問題だ。

アメリカと日本だと警察のやり方も遥かに違う。

俺はアメリカのやり方しか知らないし、教えたとしてもそれが通用するか分からない。

 

 

 

 

 

「別に指導する分には構わんが、やり方は俺が知っているやり方しか教えられない。やるとしたらそれ相応に給料は払って貰うし、此方の指示には絶対に従ってもらう。じゃなきゃ死人が出るからな」

 

それらを説明し、最後にそう締め括ると聞いてきた時の楽観的な顔は無い。

 

言い方は悪いが軍隊は人を殺すプロ集団。

警察は人を捕まえるプロ集団。

 

軍隊と警察、と言うのはそれぐらいに違うものなのだ。

 

「分かりました。変な事をお聞きして申し訳ありません。ですが考えるだけでも良いので」

 

「あぁ」

 

「それではご自宅までお送りします」

 

「いや、ロビーにまで案内してくれればいい」

 

「分かりました」

 

警察車両で送られても目立つだけで困る。

 

ロビーに行くと暇そうな顔して氷柱が待っていた。

足早に駆け寄って取り敢えず謝っておく。

 

「すまん、時間が掛かった」

 

「本当よ、どれだけ待たせるつもり?」

 

「手続きに時間が掛かったんだ、許してくれ」

 

「まぁ、いいわ。それで?他に行くところは?」

 

「取り敢えず運転免許を取りたいから、教習所に行く」

 

「お金はあるの?」

 

「これでもそれなりに貰っていたんだ、年金もある。心配するな」

 

「そ、ならさっさと行きましょ」

 

意外と機嫌は悪くないらしい。

その後は氷柱と共に教習所へ向かい、入所して翌日から連日通うことになる。

まずは普通車MTを取ってからトラック、バイクの免許を纏めて取る。

技能はあっても損はしない。

二駆、四駆、六駆なんでも来いだ。

 

 

 

 

他にも色々と手続きを済ませてから家に帰ると六時を少し過ぎていた。

時期的にまだまだ明るい。

 

そして出迎えは、昨日と同じ様に幼児特有の高い声。

 

ちびっ子達を抱き上げてリビングに向かうと夕食が準備されていた。

小さい子達が多いから、普段は茹でるの時間も早いのだと春風に聞いている。

 

「「「「「お帰りなさーい」」」」」

 

「「ただいま」」

 

皆が自然と声を揃えて出迎えてくれる。

ちびっ子達が我先にと群がってくるのを受け止めつつ洗面所へ。

手を洗い、引っ張られながらリビングへ。

 

夕食の準備は出来ているのか大きなテーブルに並べられていた。

まだ湯気が立っているあたりそこまで時間は経っていないらしい。

 

 

「おかえりなさい、お兄ちゃん」

 

「ただいま蛍」

 

「王子様、お帰りなさい♡」

 

「あぁ、ただいま春風」

 

嬉しそうに微笑む蛍と、同じように微笑みながら王子様なんて呼んでくる春風をハグを、しようとして止まる。

 

「汗臭いから止めておこう」

 

「えっ!?」

 

「ん?」

 

「気にしないですから!さぁ!」

 

春風はどうやら気にしないらしい。食い気味で強請られる。

蛍は少し苦笑いだ。

 

それなら、と軽くハグをする。

 

「あぁん、王子様に抱き締められてしまいました♡」

 

そんなに嬉しいもんだろうか。

 

「あ、私も……」

 

「任せろ」

 

蛍にもハグをしてから、席に着く。

するとわらわらと皆がそれぞれの席に座り始めた。

 

手を合わせて声を合わせていただきます、と言った瞬間。

腹を空かせたちびっ子達が我先にと食べ始めた。

 

「食べないで待っていてくれたんだろう」

 

「はい」

 

「先に食べていてくれても良かったんだぞ」

 

「ご飯は皆揃って、が天使家のルールです。お仕事とかでなら仕方がないですけど、帰ってくる時間が分かってるなら皆一緒に食べれますから」

 

春風はそう言う。

なるほど、それがルールか。

 

「海晴は?」

 

「お仕事で十時ぐらいになるって言ってました」

 

「そうか、なら良いんだ」

 

やはり二人の作った食事は美味しい。

 

 

 

 

 

 

 

食事を食べ終えてから、皆と遊び、少ししてからまた運動着に着替えて外に出る。

軽く準備運動をして、走り出す。

 

八時ぐらいまで走り、それから広い庭で筋トレを始める。

器具が無いから自重トレーニングだけだが。

 

「「「「「おにいちゃん、おやすみ」」」」」

 

「あぁ、おやすみ、また明日」

 

一時間ほどやっているとちびっ子達が窓を開けておやすみ、と言ってきた。

もう寝るのだろう。

 

 

二時間やって、家に入るとちびっ子達は既に寝た後。

中高生組はまだ起きているからリビングは賑やかだ。

 

「おかえりオニーチャン。すごい汗だね」

 

「直ぐにシャワー浴びてくるさ」

 

「そしたら遊ぼーヨ」

 

「あぁ、いいぞ」

 

「やたっ」

 

 

シャワーを終えた後、立夏と約束したとおりトランプで遊んだ。

十一時になると中学生組が部屋に帰り、高校生組も寝る支度を始めた。

 

その頃になって海晴が帰宅。

どうやら今日も母さんは仕事で帰りが遅いらしい。

 

十二時になって俺も部屋に戻りベッドに潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

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