19人の妹達   作:ジャーマンポテトin納豆

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3話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本に越して来て三週間。

今現在、平和そのものでこれと言って何も問題は起きていない。

 

それは俺だけに限らず世間もそんなもんで、ニュースでも大体下らない内容ばかりが流れている。

やれ芸能人がどうとか、やれ政治家がどうとか、どこそこでコンビニ強盗があっただとか。

コンビニ強盗ぐらいで騒ぎになるのもこの国故だろうか。

 

家族も夏休みを満喫しつつ、宿題が終わっていなかった立夏や夕凪は氷柱達に尻を叩かれてつい先日漸く終わったばかりである。

ついでに年長組にはアメリカ暮らしを買われて最近では英語を教えているところだ。

 

どうにも日本の英語はお堅いものばかりで一々遠回しに言ったりと変なところがある。

なんというか丁寧過ぎるのだ。

だから本当に友人達などと話すような感じの会話を教えている。

 

氷柱はどうやら脳外科医だか脳科学者を目指しているらしく、他の言語、例えばドイツ語とかオランダ語も教えろとせっ突いて来た。

なんでなのかは知らんが、取り敢えず教えている。

 

一番得意なのは派遣先の関係でアラビア語やロシア語なんだが。

敵の言語を話すと言うのは重要だ。

 

潜入中に会話を聞いたならば何を話しているか分かるし、それによって得られる情報もあるからだ。

通常の戦闘訓練の他に、語学教育も行われていたからな。

 

 

俺はと言うと無事、車の免許を取り終え自分の使わずに貯まるだけであった貯金から車を購入した。

選抜試験に比べれば、毎日朝から晩までの勉強ぐらいなんて事はない。まぁ、ちびっ子達には構ってくれないと文句を言われたが。

 

購入した車は七人まで乗れる四輪駆動のSUV、所謂ミニバンというやつだ。

家族で使うのだからこれぐらいでいい。

 

運転し慣れているMTに注文時に改造してもらい、ちびっ子達が暇になって騒ぐであろうから中列座席と後部座席にそれぞれ一つずつテレビモニターを付けて貰った。

テレビ番組も見れるし、DVDやBlu–rayも見れる。

流石にカセットテープとかは無理だが。

 

他にも幾つか細かい改造は施してあるが、まぁ大まかなのはこんなものだろう。

十日後には納車出来るとのことで、今から楽しみである。

 

次はトラック免許でも取ろうか、と考えているところだ。

流石に今すぐに、とは行かないが後々には取りたいものだ。

 

 

軍に居た頃の感覚を忘れない為に遊戯銃を購入して週に一度、訓練をしている。

実銃は購入が難しい日本では、訓練するにはそれぐらいしか出来ないがやらないよりは遥かにいい。

 

家族を守るには必要だ。

少なくとも、日本は世界的に見れば安全だろうがそれでも確実に安全であるとは言い難い。

世間に流れないだけで誘拐やら強姦、脅迫なんてのはゴロゴロありふれている。

そういう脅威から家族を守るためにも必要だ。

 

過剰防衛なんて言葉は、俺の意見だが本当の危険を知らない奴らが言うものだ。

 

家族が殺されてからそんな事を言えるか?

平和なんてのは他人から与えられるもんじゃない、自分で得ようとしなければ手に入らないのだ。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと良いかしら?」

 

「ん、どうした母さん」

 

ホームセンターで購入してきた土嚢やダンベルを使って日課のトレーニングを庭先で行なっていると久々の休暇が取れた母さんが声を掛けてくる。

 

今さっき起きたのかまだパジャマ姿で髪もぐちゃぐちゃだ。

口元には春風と蛍が作った朝食の食べカスが付きっぱなしである。

この様子では話が終わったら二度寝するんだろうな。

 

スーツを着ればビシッと決まり、やり手の社長と言う雰囲気だが家では大体こんなもんである。

……ついでに欠伸を一つして手招きをする。

 

夏休みとあって、太陽の下で妹達は元気に走り回り騒いでいる妹達を尻目に、ダンベルと土嚢を倉庫の中に片付けて鍵を閉める。

 

トレーニングが終わりと言うわけでは無いが、万が一ちびっ子達が触って怪我でもしようものなら事である。

危険となる事項は事前に排除しておくべきだ。

 

汗を拭い、家の中へ一度入る。

手を洗いうがいをしてリビングへ。

 

未だパジャマ姿の母さんはテーブルの椅子に座り何やら書類を幾つか並べている。

前の席に腰掛ける。

 

「それで、話ってのは?」

 

「この書類、見てくれる?」

 

書類を一枚手渡される。

そこに書かれているのは、どうやら学校の防犯に関するものらしい。

 

「学校の防犯授業……、これがどうかしたのか?」

 

「私ね、学校の理事長やってるんだけど、それは知ってる?」

 

「あぁ、海晴から聞いた。皆が通ってる学校の理事長なんだろ?」

 

「えぇ。それで毎年、学期毎に防犯訓練をしているんだけど本職の軍人さんから見てそもそもの学校の防犯体制とかの意見を聞けたらなぁ、って思って」

 

「なるほど……。だが良いのか?」

 

「ウチの学校は私立だから警備員を雇ってるんだけど小中高大って附属だから敷地面積広かったりで人手が足りないの。外部のプロの意見を聞けば理事会も警備費用の増額を認めざるを得ないでしょ?」

 

「まぁ、そうかもしれないが俺の意見を聞いてもやり方が過激だとか言って反発されるかもしれないぞ?」

 

「そこはほら、犯人役として隼人がやってくれれば良いなって。それでこのままじゃ不味いって意識を持たせたいの。それと防犯訓練の指導もして欲しいわ」

 

「警察がいるだろ」

 

「余り言わない方が良いんだけど、私は警察よりも隼人の方がいざって時に信用出来るわ」

 

簡単に言えば警備体制の見直しとそれに伴う強化の手伝い、それと生徒達への防犯指導をして欲しいと言う事らしい。

まぁ、断る理由も無いから受けても構わないが……。

 

「受けても良いけど、やるからには全力でやるぞ?」

 

「良いわよ?普段の訓練じゃ誰も本気でやってないもの。一度本当に不味いって思わせて危機感を植え付けた方がいいのよ、こう言うのは」

 

「そう言うことなら、分かった。引き受けよう」

 

「本当?ありがとう!」

 

「物はこっちで勝手に用意してもいいな?」

 

「勿論。あ、でも本物の刃物とかはダメよ?」

 

「流石にそこまでやらないから大丈夫さ。まぁ、ラバーナイフとか遊戯銃ぐらいは使っても良いだろ」

 

「それ大丈夫?怪我しない?」

 

「予め母さんの方から通達して貰ってゴーグルはさせる。まぁ、怪我させるも何も、誰かに気が付かれる前に銃も持っていない素人相手なら建物一棟ぐらい気がつかれないように制圧してみせるさ」

 

「軍人相手なら誰も敵わないわよ?」

 

「だがあり得ない話じゃない。日本でだって手段を問わないで手に入れようと思えば銃ぐらい手に入るだろうし、ナイフなんて包丁でもなんでも良ければそれこそホームセンター、ショッピングモール、通販で手に入るからな」

 

実際、武器の調達は手段を問わなければ難しいわけじゃない。

それこそ爆薬だろうがミサイルだろうが手に入れられる。

 

「分かったわ。許可するわ」

 

「日時は?」

 

「夏休みが明けて、次の日ね」

 

「分かった。それじゃぁ、こっちで準備は進めておくから周知はしておいてくれ。それと敷地内と建物の見取り図、あとは周辺地図を用意してくれ」

 

「実際に見なくてもいいの?」

 

「見取り図があれば取り敢えずなんとかなる。下手に下見して顔が割れたら意味が無い」

 

「どう言うこと?」

 

「犯人役の顔が分からないって言う方がリアリティがあっていい。その方がいざって時の混乱した状況で情報伝達がどれだけ出来るかも確かめられる」

 

「……随分と手が混んでるのね」

 

幾つか説明すると母さんは驚いて口を小さく開けている。

 

「これぐらい普通さ。俺の仲間ならもっと高度に作戦を立てられるしSquad、分隊を組めればそれこそ対応される前に制圧して立て篭れる。分隊なら警察が突入して来ても勝てる自信がある」

 

そう言い切った。

 

 

 

 

 

母さんはどうやら二度寝をするらしい、歯を磨いてまた寝室に戻って行った。

 

それを見届けてから庭にもう一度出る。

するとキャッキャッ、と幼児特有の高い声が響いている。

 

「おにいちゃん!」

 

「おーう、何をやってた?」

 

「あついからぷーるはいるの!」

 

駆け寄って飛び付いて来た虹子を抱き上げる。

すると足元にちびっ子達が集まり、わちゃわちゃと騒がしくなる。

 

年長組のヒカルと氷柱達は倉庫から何やら引っ張り出して来ている。

なるほど、暑いからプールにでも入ろうってことか。

 

「プールに入るのか」

 

「これからビニールプールを出して皆で入ろうって言ってたんです。こんなに暑くちゃ参っちゃうから少しでも涼めればと思って」

 

後ろから春風に声を掛けられる。

お盆を思って、そこにはコップが人数分乗っている。

 

蛍は冷えたスポーツドリンクを持っている。

 

「そうか、なら手伝おう」

 

「本当ですか?」

 

「あぁ、任せろ」

 

さて、と。

確かこの家にはエアーコンプレッサーと言った類のものは無かったな。

 

となると人力で膨らませないとならない。

確か踏んでやるタイプの空気入れがあったからそれを使おう。

 

家にあるものを把握しておくのは当然だろう。

いざって時に使えるんだから。

 

 

 

 

「兄さん」

 

「手伝うからさっさと済ませちまおう。ヒカルも早く涼みたいだろ」

 

「うん。ありがとう」

 

「気にするな。家族なんだから」

 

ヒカルと共に足で空気入れを踏んで膨らませる。

十分ほどやっていると十分に膨らんだ。

 

そのサイズは結構大きく、今ここにいる面々が全員で入っても全然余裕があるぐらいだ。

庭先の蛇口にホースを繋ぎ伸ばしていると水着に着替えた皆が。

 

「あれー!?まだ水無いヨ!」

 

「今から入れてやる。ほら、プールに入れ」

 

「えー?水無いのに?」

 

「良いのか?これから思いっきり水を出して張るってのにそんなとこで指咥えて見てて」

 

それを聞いて我先にとプールに入っていく。

 

蛇口を捻り、生暖かい水が冷たくなるのを少し待って。

 

「そら、水を張るぞ。チビども、用意は良いか?」

 

「「「「「「「おー!」」」」」」」

 

その声と共にシャワーの、自転車のブレーキみたいなのをぎゅっと握る。

勢いを最大にしてあったから思いっ切り冷たい水が飛び出る。

 

「わー!」

 

「きゃー!」

 

「つめたーい!」

 

「気持ちー!」

 

甲高い歓声が大きく響く。

右に左にとシャワーを振り、水をぶっ掛ける。

 

少しすると段々と水が溜まって来て、プールの形になり始めた。

 

シャワーを固定して出しっぱなしにし、縁側に腰掛ける。

 

「お疲れ様です、王子様」

 

「あぁ、皆は入らないのか?」

 

「晩ご飯の準備もありますし、難しいかな」

 

「なんだ、それなら今日ぐらいは作ってやるぞ」

 

「良いんですか?」

 

「まぁ、二人みたいな凝ったのは無理だな。雑把な男飯でも良いなら作れるぞ」

 

「だけど……」

 

「良いから気にするな。ほら、着替えて皆と楽しめ。ヒカルと氷柱が楽しんでるんだ、二人だけ遊べないってのはおかしい」

 

ヒカルと氷柱は水着に着替えて楽しんでいる。

氷柱なんか最初は私はいいとか言っていたのにな。

 

霙は部屋で生徒会の仕事中だ。

綿雪は身体が弱く、縁側で小さな桶に水を張ってやり足を入れている。

 

風邪でも引かれたら一大事だからな。

 

「ありがとうございます王子様。それじゃ、お言葉に甘えて。蛍ちゃん、行こっか」

 

「うん。お兄ちゃん、ありがとう」

 

「あぁ」

 

二人が部屋に行く。

それを見届けて、時計を見る。

12時半を過ぎている。

 

さて、晩飯はなんにしようか。

二十人を超える食事を用意するんだ、今からやらないと間に合わないだろう。

 

ホテルとかにあるようなデカい冷蔵庫の中には各種肉の他に野菜が沢山。

そりゃこの人数だ、これぐらいの大きさがないと大変だ。

 

携帯で調べてみると、この材料なら夏野菜カレー、と言うのが俺でも作れそうだ。

 

携帯の情報を元にぱっぱと作っていこう。

 

レシピに載っている時間は二人分、それを二十二人で計算してどれぐらいの時間が掛かるか計算する。

それが終わったならば必要量の食材を計算し、取り出し並べる。と言うより積むと言う方が正しいか?これは。

 

ふむ、ピッタリ人数分なら二時間ぐらいだが、おかわりをしたり俺と言う大食らいがいるから+数人分で……、ざっと掛かる時間は三〜四時間ってとこか。

鳥肉の解凍に時間が掛かるから、作り始めるのは一時間後ぐらいだな。

 

出来上がるのは五時ぐらい、何時もの晩飯よりも少し早いがまぁ良いだろう。

 

鶏肉の解凍が終わった、さて作り始めよう。

こう言う時、変にオリジナルを加えたりしないほうがいい。

戦術でもそうだが、下手にやると絶対に失敗するのだ。

 

何でもかんでも教本通りにやれば良い、なんてわけでもないが、少なくとも俺みたいな料理が多少出来る程度の人間はレシピ通りに、忠実に作っといた方が美味いのが出来上がるものだ。

 

それに日本のカレーに対する情熱はなんというか、いっそ執念を感じるレベルだからな。

買い物に行った時、商品棚に驚くほどの数のカレールーが並んでいたが、あれは物凄く驚いたものだ。

 

 

 

よし、あとはデカい寸胴鍋が焦げ付かないように多少掻き混ぜながら煮込むだけだ。

タイマーをセットして火に掛けておけば問題無い。

この家は電化式だからな、タイマーセットも楽なんだ。

 

外を見るとまだ遊んでいる。

元気なもんだが、時刻は十七時前。

そろそろ上がった方がいいだろう。

 

「よし、皆そろそろプールは終わりだ」

 

「えー、まだあそびたい!」

 

「ほら、風邪引いちゃうわよ?そしたらもっと遊べなくなっちゃうわ」

 

春風達も同じ意見らしく、パンパン、と手を叩いてまだ遊びたいと駄々を捏ねるちびっ子達を風呂に連れていく。

 

「いいにおいがするのう!」

 

「ほんとだ!」

 

くんくんと匂いを嗅ぎ、また騒がしくなる。

 

「風呂から出たら晩御飯だ」

 

「オニーチャンが作ったの!?」

 

「おう。味見したが俺は一応は食えるものが出来たと思う」

 

「「「「「「「おぉー!」」」」」」」

 

「食いたいならさっさと風呂入って、身体を温めてこい」

 

それを聞くと我先にと風呂場へ駆けていく。

 

俺の作った飯ぐらいでなんともまぁ、現金なもんだ。

 

「わぁ、良い匂いです!」

 

「ありきたりだがカレーだ」

 

「凄いです!」

 

「これぐらいで褒めるな。毎日やってる春風と蛍のが凄いさ。ほら、立夏と星花、夕凪だけじゃちびっ子達の相手は厳しいだろ、お前達も風呂に入って来い」

 

「それじゃぁ、お言葉に甘えて」

 

鍋を確認する春風と蛍を風呂に向かわせる。

家の風呂はデカいから多少キツいだろうが、まぁ入れなくもないだろう。

 

 

 

 

 

皆が風呂から上がるのを待ちつつ、カレーを温め直す。

母さんも起きているから手伝ってくれた。

 

タイミングを見て全員分の皿に盛り、並べていく。

皆俺と比べるとどうしても風呂が長いから俺の感覚でやってしまうと早過ぎるんだ。

 

段々と風呂から皆が上がってくる。

それぞれパジャマだったり部屋着だったりに着替えており、あれだけ遊んでいたのにまだまだ元気そうだ。

と言っても晩飯が済んで暫くしたら眠くなって次々と寝落ちしていくのだろうが。

 

何はともあれ食事の準備が済み、全員が揃った。

 

「「「「「「「いただきま〜す!」」」」」」」」

 

母さん含め、全員が一斉にスプーンを持って食べ始める。

 

「美味しい!」

 

「うん、すごく美味しいです」

 

口々に美味い美味いと言ってくれる。

取り敢えずは皆の口に合って良かった。

 

 

 

 

 

 

晩飯から暫くしてちびっ子達は次々と寝落ちし始めた。

そりゃぁ、あれだけ朝からはしゃいで遊んで昼からはプールだ、疲れないわけがない。

 

抱き上げて部屋に運ぶ。

布団は既に春風とヒカルが敷いてくれておりそこに寝かせて掛け布団を掛けてやるだけだ。

 

小さな寝息を立てており、この様子では朝まで起きないだろう。

部屋の明かりを消してからそっとドアを閉めて後にした。

 

 

 

 

 

リビングに戻ると年長組と母さんが楽しそうに話していた。

 

仕事が忙しい母さんとああやってゆっくりと話すことも難しい。

家に帰ってくるのは皆が寝静まる夜中の一時、二時と遅くのことで、朝も七時には出て行く。

だからこうしてゆっくりと家族と過ごす時間は殆ど無い。

芸能事務所の社長だから年がら年中忙しい。一般的な長期休暇というのは芸能関係からすればその間に色々と番組を放送したりする訳で寧ろ忙しい。

 

幸いにも今日から十三日間、休みを取ることが出来たらしく、明後日からニ泊三日の予定で家族旅行に行くことになっている。

一番張り切っているのは母さんだ。

 

どうやら贔屓の温泉宿を貸切にしたらしい。

やることが凄過ぎる。

貸切ってなんだ貸切って。想像付かないぞ。

 

色々と準備をしているらしく、そりゃぁもう楽しみで仕方がないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後。

母さんが借りてきた中型バスに荷物を積み込む。

二十一人の三日分の着替えやらなんやらと会ってそりゃもう大荷物だ。

とは言っても荷物の準備の時に軍時代に学んだ収納術を教えて出来うる限りコンパクトに仕舞えるように教えたからこれでも抑えられた方だろう。普通に詰め込んだなら下手したら倍ぐらいにまで膨らみかねないからな。

 

俺はと言うと自分の着替えとサバイバル用具一式などを持ってきている。

キャンプと言ってもテントで寝泊まりする訳ではなく、川で遊ぶ程度のものだと言っていた。

と言っても準備を怠るわけにはいかない。

そういう時に限って大体何か事が起きるものだからだ。

 

 

荷物の積み込みを終えて乗り込む。

運転は母さんだ。

大型免許まで持っているらしく、運転はお手の物なんだとか。

 

道中はトランプやらUNOやらやったり菓子を食ったりと兎に角騒がしい。

途中休憩を挟んだりしたが、一向に疲れる気配が無い。

これじゃ着く前に疲れてしまうんじゃないかと思うほどだった。

 

 

 

 

 

旅館に着くと、何やら従業員の人達が待っている。

あぁ、そう言えば贔屓にしているんだったか?

 

旅館自体は、アメリカでこれぞ日本と思っていた立派なもので全体が木材やら瓦やらで作られている。

 

「お待ちしておりました、天使様」

 

「お久しぶりです、女将さん」

 

「お部屋の用意は出来ております。ご案内しますね」

 

多分、周りを取り仕切っている従業員に案内されて部屋に案内される。

皆は同じ大きな広間で寝泊まりするが男である俺は一人、別の部屋だ。

皆は部屋で何やら騒いでいるようで、飽きもせずまたトランプやらUNOやらをやって楽しんでいる。

 

部屋に荷物を置き、旅館の中を見て周る。

いざと言う時に素早い行動が出来るように脱出経路などを把握しておくのだ。

家とは勝手が違う知らない場所だ、何があるか分からない。

でなきゃ災害などが起きた時に生き残れない。

 

 

ぐるっと見て回った感じだが、そこまで複雑な構造では無い。

館内には逃げられそうな場所も幾つかあるし、所謂渡り廊下と呼ばれる外を通っている通路からなら外へ幾らでも出れる。

 

何があった時の為にルートを組み立てておき、頭の片隅へ置いておく。

 

やる必要があるか、ときかれてもこれはもう癖だから、としか言えないな。なんせ戦地じゃ敵陣真っ只中に潜入したりとか当たり前だった。

情報収集を怠ったが最後、あの世行きだった。

 

だから新しい、足を踏み入れた事の無い建物に行ったり泊まったりするとなると事前に情報を集めて行ったら自分で改めて見て周る。

それが癖付いているんだ。

 

部屋に戻ると、すぐさま引っ張られて皆の部屋に引き摺り込まれる。

どうやら俺が旅館を見て周っている間に尋ねて来ていたらしいのだが、俺がいないと言うことで待っていたのだとか。

 

「もうっ、何も言わずにどこかに行っちゃうと心配するでしょ?」

 

「悪かった悪かった」

 

海晴に少しばかり説教を食らう。

これに関しては完全に俺が悪い為に謝るしかない。

皆に巻き込まれ、あさひを除いた二十人でトランプやらUNOのトーナメント大会を開いた。

更には持ち込んでいた人生ゲームでも随分と大騒ぎをした。

皆余程楽しいのか一位から二十位を決めるまでひたすらやり続け、それだけで辺りが真っ暗になる程の時刻までやり続けていた。

因みに一位は吹雪で俺は三位だった。

ポーカーフェイスを決め込むのは得意だからな、どれがjokerだか隠すのは上手いぞ。

戦地じゃ休みの日にやることなんてそう多くないからな。

 

 

 

 

夜になり、辺りは山に囲まれているから真っ暗だ。

暗視装置が無いと何にも見えないぐらいには真っ暗で、夜目が効いたとしてもこれじゃゆっくり歩くのがやっとだな。

 

そんな中で唯一の光は旅館のものだけ。

大自然の中、唯一の文明を象徴しているような、そんな感じだ。

 

夜になれば当然、温泉に入るわけだ。

ここは温泉湧いているらしく、源泉掛け流しだと喜んで言っていた。

 

うん、まぁ詳しくは分からんが良いものなんだろう。

着替えを持って風呂場に行く準備をしていると母さんが浴衣を着込んで部屋を尋ねてくる。

どうしたのだろうか。

 

「準備出来た?」

 

「あぁ」

 

「それじゃ、行きましょ」

 

外に出ると皆が待っていた。

待たせて悪い、と一言謝り浴場に向かう。

 

男湯、女湯と書かれている垂れ幕、暖簾だったか?それを潜り脱衣場に入る。

服を脱ぎ、サングラスと眼帯も外す。

何かを持っていくわけでも無いから手ぶらで浴場に繋がる階段を降りていく。

 

木のいい匂いがする。

浴場の方からは乾いた木とはまた違うお湯に濡れた木の独特な匂いが漂ってくる。

 

女風呂の方からだろうか、皆がきゃいきゃいと騒ぐ声が聞こえてくる。

普通なら周りに迷惑だからと窘められるもんだが、今はこの旅館に俺達家族しかいないから問題無いだろう。

 

浴場に降りると、そこには絶景が広がっていた。

浴場は少し高い場所にあるからか、目線を奥へ向けると旅館全体の明かりにぼんやりと照らされた川や山、森が見える。

 

うーん、贅沢なもんだな。

何時もは湯船に浸かることもしないで出てしまうが、ここに泊まっている間はゆっくりと浸かっても良いだろう。

 

身体を何時も通り手早く洗い、湯船に浸かる。

湯船の真ん中には大きな岩があり、そこに背中を預けて息を吐く。

 

……風呂でこんなにゆっくりしたのはいつ以来だろうか?

軍に入隊した頃は間違い無く今のように手っ取り早く済ませていたから、あー、十年以上ぶりぐらいになるのか。

 

あー、駄目だ、これは駄目だ。

湯に浸かる心地良さを知ってしまったら後々が大変だぞ。

 

しかし、なんで出入り口が二箇所もあるんだ?

どこか別の場所に通じているんだろうか。

 

などと思いつつゆっくりしていると。

 

何やら先程聞こえてきた黄色い騒がしい声が近付いてくる。

多分、女湯の方に皆が入り始めているんだろう。

 

と考えたが、さっき後々大変だぞ、と思った時に出て行っていれば良かったと盛大に後悔することになった。

と言うより館内を見て回った時にもっとしっかり確認していれば良かった。

 

いや、弁明をさせてもらうとすればそもそも浴場、脱衣所、の記載しか無かったからまさかこんなことだとは想像しようもない。

 

 

まぁ、何が起こったのかと言うとだ。

 

「おー!スゴーイ!」

 

「綺麗ねぇ」

 

「広くて良い匂いします」

 

我が家族達が浴場に入ってきた。

 

 

 

 

 

ど、どうすればいい!?

流石の俺でもこんな状況どうしようもないぞ!?

 

浴場の岸壁に貼り付けば、あるいは……。

いや駄目だ風邪でも罹ってその理由を春風辺りにでも知られようものなら間違い無く泣かれる。

しかしこのままでは氷柱や麗辺りにしこたま罵声罵倒を浴びせられるだろう。

 

戦場なら咄嗟の判断なんていくらでも出来るのに今に限って何の考えも出てこないのはどうしてだ!?

 

なんてまごついたのが運の尽き。

 

「ん?誰か居るのか?」

 

ヒカルにバレた。

 

「なんだ、兄さんじゃないか。どうしたそんなに慌てて」

 

「いや、なんで皆はここに居る!?」

 

「何でも何も家族風呂で貸し切りにしたんだから当然だろ」

 

身体をタオルで隠し、馬鹿なこと言うなと言われる。

俺がおかしいのか?いやいや俺はおかしく無いだろう。

 

いやしかし今ここで出て行ったところで全員と思いっ切り鉢合わせすることになる。

俺もタオル持ってくれば良かった。

じゃなけりゃ何がとは言わないが隠せない。

 

「な、なななっ、なっ!?なんでアンタがここに居んのよ!?」

 

氷柱にバレた。

しかもデカい声で叫ぶもんだから皆にバレる。

 

「お兄ちゃん!?」

 

「オニーチャンなんで女湯に居るの!?もしかしてリッカ目的!?」

 

「王子様に見られちゃう!あぁでも王子様なら……!」

 

「変態よ変態!早く追い出して!」

 

もう皆好き勝手に騒ぎ始め、無茶苦茶も良いところ。

俺には収集が付けられない。

 

この様子では、無理矢理に出ていくことも出来なさそうである。

明後日の方を向いて湯船にしっかりと浸かっておこう。

 

 

 

 

 

少しすると落ち着いたのか全員が普通に身体を洗ったり、洗い終わって湯船に浸かり始めた。

 

しかしあれだな、普段浸からないから少し熱くなってきた。

そろそろ上がりたい。しかし今上がろうとすれば隠すものを持って来ていない俺は堂々と前も後ろも晒さないとならない。

いや、別に自信が無いわけではないが妹達に見せるものでもないだろう。

手で隠して、と言うのも情けない。

この際気にしているべくも無いんだろうが、いやしかしだ。

 

皆の様子から察するにまだまだ出ていく気配は無い。

それどころか一時間二時間と入って居そうな感じすらある。

 

いや、耐えられるだろうが上がった時にひっくり返ったりしたら周りに助けに入れる人が居ないのだからもし頭を打とうものなら不味い。

 

「あの、お兄ちゃん?」

 

「蛍か、どうした?」

 

背中を向けたまま答える。

 

「その、辛いなら上がったほうがいいんじゃ……」

 

「あぁ、いや、大丈夫だ。心配するな」

 

心配そうに声を掛けてくる蛍。

背中を向けたままで済まないが、許して欲しい。

俺の尊厳の為でもあるが、なによりも兄として妹の尊厳を傷付けるわけには行かない。

 

「あー、暫くしたら頃合いを見て出るから蛍も皆と温泉を楽しめ」

 

「なら、お兄ちゃんも一緒にどうですか?」

 

「いや、諸事情により遠慮しておく。代わりに明日のキャンプは俺も一緒に楽しむから」

 

「そう言う事なら……」

 

そう言って蛍は離れていく。

家族皆、美女と言ってなんら問題無い母さんの血をしっかり引き継いでいるからか誰も彼も美人なんだ。

確かにベクトルは違うが、それでも違うベクトルの中でトップであろう美人さん達だ。

 

俺は特殊性癖なんぞ持ち合わせていないが、一緒に暮らし育って来た訳じゃないからどうにも異性として感じ意識してしまう。

 

駄目な兄貴だな、と独言、そしてため息を一つ吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side 蛍 ーーーー

 

 

 

 

 

 

お兄ちゃんが帰ってきて三週間。

お家は以前にも増して騒がしく、楽しくなった。

 

 

 

 

お兄ちゃんは左目が怪我で見えない。

普段はサングラスをして、その下に眼帯を着けてる。

偶に外して過ごしているのを見るけど、小さい子達が集まって色々と大変だからって余り外さない。

でも本当は見えてるんじゃないのってぐらい全然そんな事を感じさせない。

 

毎日朝早くから起きているらしく、走りに行って帰ってくると凄く辛そうなトレーニングをしている。

ヒカルちゃんも運動大好きだけど家族に好んで運動する子が居ないから毎日一緒にやってて凄く楽しくて嬉しそう。

 

最近は二人を朝ご飯出来たよって呼びに行くのが日課になってる。

 

でもトレーニングした後も平気そうな感じで、今は夏休みだから小さい子たちと一日中遊んだり。

車の免許も取ったからってお買い物について来てくれるし、この前は晩御飯まで作ってくれた。

 

お髭が生えてて、だけど怖くはない。

とっても優しくて、温かい笑みを浮かべてくれる。

本人は余り自覚無いかもしれないけど、お兄ちゃんは凄くかっこいい。

内面は勿論だけど、容姿もかっこいいの。

だけどただかっこいい訳じゃない。

同級生の男の子とは違って、大人としての魅力があって、精悍な顔付き。

多分、お兄ちゃんと同年代の人でもそんな人は居ないんじゃないかな。

だけど凄く優しくて蛍、ありがとうって言ってくれる。

 

そんなお兄ちゃんが大好き。

 

 

 

 

今日から家族で旅行。

残念だけどパパはお仕事が忙しくて来れない。

だけどお休みが取れたママは一緒に。

 

ママがバスを運転して、私達はわいわい騒ぎながら向かう。

 

旅館は昔から家族皆で泊まったりするところで、今回は貸し切り。

またトランプや人生ゲームをやって。

 

お兄ちゃんも一緒にやろうと誘いに行ったけどお部屋には居なかった。

どこかに行っちゃったのかな、心配。

 

帰ってきたお兄ちゃんは、旅館の中を見て回っていたんだって。

何があった時にすぐに逃げたり出来るようにって言っていた。

 

お兄ちゃんの凄いところの一つで、絶対に安全を他人任せにしない。

どれだけ安全が保障されていても、自分や家族は自分で守るんだって意思が感じられる。

 

私達のお部屋でトランプ大会。

そこでお兄ちゃんの可愛いところが一つ見つかった。

家族相手だとポーカーフェイスが苦手。

 

だからババ抜きとかでもすぐにババを持っているか、どれがババか、分かっちゃう。

そしておかしいなぁ、って顔で頭を掻く。

 

思わず笑っちゃった。

 

 

 

 

夜になって、楽しみだった温泉に皆で向かう。

ママからは家族風呂だから気兼ねなく楽しんでいいわよ、って言われてる。

 

「なんか、ホタまた太っちゃったかな……」

 

最近、ブラジャーがどんどんきつくなって来てる。

ついこの前買い替えたばかりなのに、また買い替えなきゃ……。

 

「ダイエット、した方が良いのかな?」

 

「エー?そんなコトないと思うヨ?」

 

立夏ちゃんはそう言ってくれるけど、お兄ちゃんにはどう思われてるんだろう……。

太ってるって思われたくないな。

 

「蛍ちゃんはネ、太ってるんじゃなくてグラマラスって言うんだヨ!いいなぁ、リカ羨ましいヨ」

 

「そうなのかな?」

 

脱衣所で話しながら服を脱ぎ、手拭いを持って浴場に降りていく。

なんだか氷柱ちゃんの機嫌が悪いみたいだけど、どうしたんだろう?

 

浴場に降りる階段の途中から、檜風呂のとても良い匂いが漂ってくる。

それを嗅ぎながら、皆で楽しみだねって言い合って、浴場に降りる。

 

露天風呂で景色が凄く良い。

 

 

キョロキョロと見ていると、ヒカルちゃんが何か見つけたみたい。

 

「ん?誰か居るのか?」

 

なんだろう、そう思って見ようとすると。

 

「な、なななっ、なっ!?なんでアンタがここに居んのよ!?」

 

氷柱ちゃんが大きな声で騒ぐ。

 

「お兄ちゃん!?」

 

「オニーチャンなんで女湯に居るの!?もしかしてリッカ目的!?」

 

「王子様に見られちゃう!あぁでも王子様なら……!」

 

「変態よ変態!早く追い出して!」

 

お兄ちゃんがお風呂に入っていた。

どう言うことだろう?

 

「あぁ、説明し忘れてたけど、家族風呂で貸し切りよ」

 

ママがそう言う。

そんな馬鹿な、ってお兄ちゃんが声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

身体を洗って、お湯に浸かってお兄ちゃんを見てるとずーっと背中を向けて一度もこっちを見ない。

 

「あの、お兄ちゃん?」

 

「蛍か、どうした?」

 

背中を向けたままお兄ちゃんが答える。

もしかしたら、いつもすぐにお風呂を済ませちゃうから長くお風呂に入ってて気分が悪くなっちゃったのかなって心配。

 

「その、辛いなら上がったほうがいいんじゃ……」

 

「あぁ、いや、大丈夫だ。心配するな」

 

気にしなくていいって言ってるけどやっぱりこっちを見ない。

うぅ、やっぱりホタ、太ってるから見たくないのかな……。

 

「あー、暫くしたら頃合いを見て出るから蛍も皆と温泉を楽しめ」

 

「なら、お兄ちゃんも一緒にどうですか?」

 

「いや、諸事情により遠慮しておく。代わりに明日のキャンプは俺も一緒に楽しむから」

 

「そう言う事なら……」

 

どんな理由かは分からないけど、明日は一緒に楽しむって言ってるし仕方が無いかな。

 

因みに、お兄ちゃんの裸を見てドキッとしちゃったのは内緒。

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ーーーー

 

 

 

 

 

 










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