旅行二日目。
旅館近くの河原に来て、キャンプをする。
旅館ではキャンプ用具の貸し出しもやっているらしく、それら一式を借りて皆で分担して持っていく。
テントに加えてBBQ用のコンロなんかは俺が纏めて担いで行く。
炭や薪まで用意されており、流石に一回じゃ持ち切れなかったから往復することに。
「よし、チビ達は向こうで遊んでろ」
「そらもやるー!」
「あにじゃ、わらわはちゃんとお手伝いできるぞ」
「危ないから駄目だ。もう少し大きくなったら沢山手伝ってもらうから今は我慢してくれ」
手伝うと駄々を捏ねるちびっ子達を蛍を除いた小中学生組に任せ、俺はヒカルと共にテントを手早く張ってしまう。
その後にコンロに火を付ける。
薪を手斧で細く割いていく。
太いままだと火が付かない事があるからだ。
それを着火剤と共にコンロに入れ、火が燃え移ったのを確認してからもう少し太い薪を入れる。
その間に太い薪にナイフでささくれ状の突起を作り、それから火に放り込む。
「炭は入れないんですか?」
「最初から炭を入れても上手いこと燃えてくれない。だから最初は火を付ける為の着火剤と薪を入れておくんだ。幾らか火が強くなったら炭を入れればいい」
着火剤だけでも良いんだが、確実に火が起こせるのはこっちだ。
炭の薪と違う点は燃やした時に火が出るか出ないかの違いぐらいしかない。
火が出たとしても少しだ。
薪に火が燃え移ったのを確認し、炭を幾らか入れる。
そして炭に燃え移ったら更に炭を入れる。
これで終わりだ。
あとは火力調整などで適宜入れていけばいい。
「これでいいか。何かあったら呼んでくれ」
「火力調整はどうやればいいんですか?」
「火力を強くしたいなら炭を高く積んで、弱くしたいなら低くすれば良い」
「分かりました。ありがとうございます、王子様」
「それじゃぁ、俺は向こうで少し釣りをして来るから何かあったら呼んでくれ」
「はい、期待してますね」
海晴、霙、ヒカルは料理がからっきしだから早々にちびっ子達と一緒に遊び始めている。
春風と蛍と別れて釣具を持って皆が遊んでいる場所よりも下流に向かい、糸を垂らす。
上流だと流された釣針が皆に引っ掛かってしまう可能性があるからだ。
それだと危ないし、怪我をしたら楽しい旅行もつまらなくなってしまう。
それに、水を騒がしくしている辺りは魚が逃げていくから近くだと釣果は期待出来ないだろうからな。
魚の群れがいそうな場所を見つけてそこで釣りをする準備を始める。
準備を終えて川の中に釣り針を放る。
帽子を深く被り、折り畳み式の椅子にぐっと腰掛けて凭れる。
夏だから日差しが強く、半袖短パンで露出している肌がジリジリと焼けていく感覚を覚える。
向こうから皆がはしゃいで騒ぐ声が聞こえてくる。
それを聞きながら浮きを五分ほど見ていると、ちょんちょん、と沈む。
釣竿を握る手にもその振動が伝わって来ており、引きたくなる衝動を抑える。
その瞬間、グンッ!と針に掛かった。
「よしっ」
あとは魚と格闘だ。
少しすると一匹目の釣果を得ることが出来た。
アユだろうか、確か塩焼きにすると美味いと旅館の人が言っていた。
針を外して網袋に入れて川の中に沈めておく。
ふむ、思いの外早く掛かったな。
……一人一匹目を目安に釣ってみようか。
一時間後、俺の持っているバケツの中には二十三匹のアユが手狭そうに泳いでいた。
この川のアユは釣られ慣れていないらしく、針を垂らせばポンポン釣れる。
時刻は十一時。
多分、春風達は昼食の準備をしている頃だろう。
それを持って戻ると、皆はまだ元気に遊んでいた。
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
「お帰りなさい王子様、どうでしたか?」
「沢山釣れたぞ、ほら」
「わぁっ、凄い沢山!」
「アユ、ですか?」
「あぁ」
春風は釣果を見てテンションが上がり声が大きくなる。
すると皆がわらわらと寄ってきてバケツの中を覗き込む。
口々に凄いだとか騒いで俺の周りではしゃぐ。
ちびっ子達を抱き上げて相手してやる。
「お昼ご飯はアユの塩焼きも追加しましょうか」
「それなら俺がやろう」
「いいんですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「それじゃぁ、お願いしますね」
ちびっ子達は春風と蛍の手伝いを騒がしくも、微笑ましい様子でしている。
ナイフを取り出してバケツから一匹づつ引っ掴み、まな板に乗せて〆ていく。
腹を裂いてエラや内臓を処理し、水で洗う。
それを二十三匹分やって、さて火に掛けようと思ったがコンロは春風達ので一杯だ。
……コンロじゃないが、焚火を作ってそこで焼くか。
そのほうが早そうだしキャンプをしていると言う実感が出るだろう。
ナイフを綺麗に洗って拭い、しまう。
土を取ってきて下に敷いてそれから手頃な大きさの石を拾ってきて円形の形を作る。
数が数だから少し大きめに。
そしたらば薪を幾つか持ってきてコンロでやった手順で火を点ける。
その周りに敷いた土にアユを刺した串を立てていく。
火の勢いを調節しつつ、炭も入れて焼く。
今回はアユさえ焼ければ良いわけだからそんなに沢山の薪や炭を入れて長時間燃やさなくてもいい。
短時間で焼ける様に多少火力が強めでも問題無かろう。
丁度春風や蛍達の方が出来上がるのと同時に焼き上がった。
鮎の塩焼きと共に肉やら野菜などを盛り付けられた皿を前に皆が涎を垂らさんばかりだ。
俺も美味そうでさっきから腹が鳴っている。
「「「「「「「いただきまーす!!」」」」」」」
いただきますと声を合わせて言う。
やはり遊んだ後は皆腹を空かしているのかバクバクと凄い勢いで食べ始めた。
「おいしー!」
「塩加減が絶妙だな」
「おかわり!」
「はやっ!」
わいわいと楽しく喋りながら頬張る。
それを見ながら俺も食べ進めた。
昼食を食べ終えてしばらく休憩した後、再び遊び始めた。
今回は俺も参加して、ビーチバレーならぬリバーバレーやら、泳ぐのが苦手だという妹達に泳ぎを教えたり。
そして今はと言うと。
「そうらっ」
「キャー!」
どうやら飛び付いて来る立夏を放り投げていたらそれが楽しそうに映ったのか、さっきから投げろ投げろとせがんで来るちびっ子達含め立夏、夕凪、星花を投げ入れても大丈夫な深さがある場所へ手加減しポンポン投げている。
「待った待った少し休憩だ」
流石に疲れたと休憩しようとすると、駄目だと引っ張られまだまだと催促される。
いや、確かにちびっ子達は軽いが立夏達は四十、五十kgもあるんだぞ?
それを持ち上げて投げるとなると結構大変なんだ、少し休ませて欲しい。
と願うものの我が妹達がそんなの知ったこっちゃないとじゃぁ他の遊びをしようと騒ぐ。
本当に子供と言うのはなんでこんなにも体力が無尽蔵なんだ?
夕方になって漸く遊び疲れて欠伸をし始めたちびっ子達を連れて旅館に戻る。
うーん、明日は腕が筋肉痛になるかもしれんぞ、これは。
結局ほぼ休み無しで遊び倒し、昨日と同じく皆に誘われて、と言うかほぼほぼ強制連行されて、家族風呂に入り部屋で一息吐く。
夕食も終え、あとは寝るだけだと皆は布団を引いて、なんならちびっ子達は既に夢の中だ。
年長組も流石に疲れたのか布団に入った。
俺ももう寝よう、と早々に布団に潜り込み目を閉じた。
翌日、特に何事も無く旅館をチェックアウトした俺達は土産を買い、母さんの運転するバスに乗って自宅へ帰った。
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騒がしくも楽しい夏休みも今日で終わりらしい、明日から始まる幼稚園や学校の準備に皆が追われている。
俺は自室で母さんからの依頼をしっかりと果たすべく学校全体の図面、各棟の図面を頭に叩き込み、装備の準備を進めている。
他には取れる資格は取っておこうと言う事で運転免許、軍で学んだ事でも取れそうなものは取り敢えず手を出している。
危険物取扱免許、船舶免許などなど。
船舶免許に関しては片目が見えないとあって片目が百五十度以上の視界が無ければならず、心配であったが問題無かった。
防犯講習に関しては順調そのものだろう。
準備も図面を読み込み、頭に叩き込んであるし、手持ちのものに必要機材を足していくだけで問題無いからな。
なんなら目隠しで進めと言われても今なら出来る気がする。
家なら目隠し状態でも歩き回れるからな、廊下などの距離と自分の歩幅による歩数さえ合致させてしまえば思いの外簡単なもんなんだ。
私立木花学園と呼ばれる、数年前まで女子校だったこの学校は確かに敷地面積が広い。
それぞれ小中高は建物が隣接しており、その距離は数十mほど。
大学だけは少し離れた位置にあり、単独でやるならば大学は最初から狙いに含まない方が妥当だ。
校庭が馬鹿みたいに広く、各部活のコートなどがそれぞれある事を除き、単純な建物の構造だけ見れば極々平凡な作りだ。
階段の幅は二mほどと広く、学年毎に二十クラスあるが人数はバラバラ。
学園には高校までで総勢三千人を超える生徒が通っており大学を含めると五千人近いんだとか。
それを相手に俺一人で人質に取ろうなんぞ無理難題である。
とは言え方法が無いわけでもない。
一箇所に集め出入り口や生徒が居る場所の真ん中に爆発物、特に効果を発揮するのは対人地雷だろう、それを設置しておくのだ。
それでもし抵抗したらドカンと行くぞ、と脅すわけである。
他にも学校には必ずと言って良いほどに備え付けてある化学薬品庫からサリンほどではないが何らかの毒ガスを調合するでもいい。
意外とそう言うのは知識と材料さえあれば作れるものが多い。
皆に学校の様子を聞いてみるとどうやら通常のクラスの他に特進クラスと呼ばれる周りより勉学が得意な学生が属するクラスがあるんだとか。
そのクラスは他のクラスより人数は少なく、十人前後しかいないとの事らしい。
もし人質に取るならそのクラスに加えてもう一クラスだな。
理由は人数が少なく、一つの教室に全員を集めて監視しやすいからだ。
人質は多ければ良いと言うものではない。
人質を取って立て篭もる側の理想は身代金や此方の要求を否応にも無く飲まざるを得ない価値がある人間、そして人質自身が抵抗しないこと。
多ければ多いほど抵抗される可能性は高くなるし、実行犯の人数で抑えられなくなるからだ。
もし犯人が銃火器を持っている状況で大規模な抵抗が起きたならば、確実に虐殺になる。
そこから警察が突入しても血の海が広がっているだけだ。
今回はこれとは違い、単純に学校の制圧が目的だが前者を抜きにしても制圧対象の建物内にいる人間が抵抗しない、もしくは此方の脅威になり得ない程度の抵抗が最もな理想である。
単純に通り魔や殺しなどが目的の場合、身代金などの要求を考えておらず、ただ単純に殺すことを目的としている場合であればしっかりと当て嵌まる。
通り魔的な金銭目的ならばこんな人目に付き、すぐに警察を呼ばれそうな場所に乗り込んだりはしない。
もっと人通りが少なく、人目が無く、そして対象が一人であり自分よりも非力な人間を狙うのが普通だ。
用心深い犯人なら確実に一度きりで場所を変える。
出来ることならば、犯行現場同士が離れている場所で次の犯行を行う。
その方がより確実だからだ。
人間誰しも自分にニュースでやっていた事件が降り掛かるとは思っていない。
県外にでも出れば警戒している人間なんてほぼ皆無に近い。
その方が成功する確率は高くなるし、抵抗されたとしても武器で脅せば良い。
一般人の中に正確に武器を持っている敵に対して有効な対処を出来る人間は早々いないからだ。
今回俺が計画しているのは恐らく犯人制圧に動くであろう教師陣の制圧。
次に生徒達を1箇所に集め、全校生徒を人質とすること。
本当ならば一番最初に説明した通りに二十人程度の人質が望ましいが、今回は全員に体験させるべく、である。
俺は人質を解放する側の人間だったから、今回人質を取る側に回るのは随分と変な感じであるがやるからには全力で挑む。
二日後。
諸々の装備を整え、車で学校まで向かう。
事前に母さんから教職員の方へ説明はされていることを確認済みで、警察に間違えても通報されない様になっている。
学園敷地内の外れに車を止め、大きいキャリーバッグから遊戯銃とラバーナイフ、フェイスマスク、それにボディーアーマー、ベスト、人質などを拘束しておくためのハンドカフ、と呼ばれる簡易手錠、それにガムテープを十個ほどバックパックの中に詰め込んでおく。
それと全員を集めた時様にダミーの地雷や爆薬。
他にも色々あるがまぁこんなもんだろう。
それを背負い、雑木林がある方向から建物へ接近する。
一度止まり、双眼鏡を取り出して覗く。
一番監視の手が緩いのがこの辺りで雑木林もあるとあって此方の存在に気が付く人間は誰もいない。
呑気に廊下を歩いており、護身具だか何だか分からないが先端がU字型の変なものを持っている。
なるほど、刺股と言うやつだな?
そのまま足音を消し、気配を消し、建物内に侵入する。
確かこの辺りは生徒が普段生活する教室とは少し離れており、人数が少ないはずだ。
すると向こう側から足音が聞こえる。
巡回の教師だろう、男の教師二人組が刺股を一本だけ持って歩いてくる。
体格はあまり良くはなく、片方が身長百七十五ぐらいだろうか。
スコープで覗いてみると、どうやら何時もの防犯訓練程度にしか考えていないらしい、あの顔だと全く本気じゃない。
一応ゴーグルを着けてはいるようだからこのまま此処から届くならば撃っても全く問題無い。
が、それだと意味が無さそうだ。仕方がない、少し怖がらせてやろう。
一度バックパックを置き中からハンドカフとガムテープを取り出す。それを腰のダンプポーチに入れて銃を構える。
通り過ぎたのを確認してからその二人に襲い掛かる。
と言っても殺したり怪我をさせるわけじゃない。
後ろから銃口を突きつける。
「黙って両手を上げろ。一切動くな」
「「ッ!?」」
後ろから急に人間が現れたら誰だって驚くだろう。
だが驚き過ぎて身体が固まっているらしい、動けない。
「それでいい。そのまま動くなよ。どうなっても知らんぞ」
銃口を突きつけたまま刺股を奪い、
「そのまま掌を開いて腹這いになれ。腕は後ろだ」
指示に従った二人を後ろ手にハンドカフを掛けて拘束、更にガムテープで腕をぐるぐる巻きにして動かせないようにしておく。
足も同様にして完全に動かせない様にし、猿轡を噛ませて終わりだ。
そのまま無線機で母さんに連絡し、迎えを寄越してもらう。
迎えが来たらそのまま運んで行ってもらい、捕まった奴が待機する教室に放り込んでおくのだ。
「いいか?事前に犯人役が忍び込むと知らされていたのに警戒もせず真面目に訓練をしないとこうなるんだ。次からは真面目にやるんだな」
そう言い残して、先に進む。
どいつもこいつもアホ面晒して呑気に歩いているばかりで警戒の「け」の時もあったもんじゃない。
あくびをする奴までいる始末だ。
とは言え手荒にやって怪我をさせるわけにはいかないから、その辺は注意してやる必要があるが。
建物に侵入してから十五分で三十人近い教師を捕まえたが、全く駄目だな。
道中、体育館の全ての出入り口にダミー爆薬を仕掛けておいて、ここに全員を誘導した時に備えておくのも忘れない。
各階層をそれぞれ担当の教師が巡回しているらしく、二人一組だけだ。
しかも刺股すら持たずに巡回している連中まで居る始末で、全ての建物を制圧するのに一時間と掛からなかった。
授業中に始めたから今は丁度、防犯訓練に対する最初の説明が為されているところだろうか。
それじゃぁ、次は教室の制圧に乗り出そうか。
静かに教室に接近し、ガラガラっ、と横開きの扉を開ける。
遊戯銃はセーフティを掛けたままで、万一にも暴発しないようにしておく。
「全員静かにしろ。黙って言うことを聞け。良いな?」
「!?だ、誰ですか!?」
「黙れ。指示に従わない場合は殺す。いいな?」
ぎろり、と睨むと此方に声を上げた教師が黙る。
その教師の腕をハンドカフ、ガムテープで拘束し、連れ出す。
各クラスの教師を全員一箇所に集め、説明する。
「これから体育館へ向かう。もし逃げ出したりすれば仲良く死ぬことになる。生徒を全員廊下に並べろ。時間は一分だけだ」
軽く脅しをかけつつそう指示を出す。
体育館位到着したならば、全員居るかを点呼し、教師を集める。
「いいか?アレをみろ。見えるな?」
「あれは……?」
「対人地雷だ。いいか、もし逃げようとしたり、扉に仕掛けたセンサーに反応があればアレが爆発する。全員挽肉になりたくないなら黙ってここで待っていろ」
そして何が起こっているかも分からないまま全員を体育館へ押し込み、外側から鍵を掛けておく。
元女子校とあって男子の比率は少なかった。
小学生、中学生、高校生の順番で全員を体育館に押し込めてから大学の方へ素早く移動する。
時計を見ると全員を押し込めてから五分経っている。
多分、今頃体育館じゃ母さんからのネタバラシが行われているところだろうか。
大学敷地へ侵入し、同じように制圧していく。
こっちもこっちで警戒なんて全くしておらず、簡単に教授や警備員をとっ捕まえて拘束することができた。
と言うか終始こっちは一発も撃ってないんだが?
ハンドカフを大量に持ってきていてよかった。
同じ様に大学生も体育館に集めて。
「あー、母さん聞こえるか?」
『聞こえるわよ〜』
「全て制圧し終えた。これから生徒全員を体育館へ向かわせる」
『分かったわ、でも速過ぎじゃ無いかしら?』
「それは俺に言うな。警戒すらしていない教師達に言え。もっと警戒していればこんな短時間で済む訳がない」
『そう、分かったわ。それじゃまた後で』
「あぁ」
通信を切り、放送室へ向かう。
そこで全体放送に切り替え体育館へ向かいそこで暫く待機するように、と指示を出す。
そして体育館へ向かい、防犯講習を早速開始だ。
それから二時間掛けてたっぷりと防犯とはなんたるかを教えた。
そりゃ最初はやり過ぎだとか文句を言っていたが、そんなもん俺の存在を知らされていたのにも関わらず全員人質に取られた分際で言うな、だ。
訓練にやり過ぎなんて言葉は無いんだ。
「逃げる際に、背中を無防備に晒して逃げるな。犯人は弱い奴を狙ってくる。隙を見せたらすぐに襲い掛かってくる。出来る事なら何か物を投げ付けたりしてやると怯むからその隙に逃げるんだ。教室に立て篭もる場合は出入りが出来る場所に机や椅子を積み上げて入れないようにするんだ」
「年長の人間が下を守れ。男女関係無く、いざって時は戦うんだ。女だからとか男だからとか言っている暇なんぞ無いからな」
「最後にこれだけは覚えておけ。いいか、自分や家族、友人の安全を他人任せにするな。警察が居ようが教師が居ようが何だろうが自分の安全は自分で確保しろ。それが大前提だ。安全と言うのは、自分から得ようとしない限り得られないぞ。他人任せの安全なんてすぐに崩れ去る」
最後にそう締めくくり、終了とした。
全員を解散させ、一度母さんのところへ向かう。
「これから教師達への防犯講習ってことで良いな?」
「えぇ、宜しくね。今回ので真面目に防犯意識を持ってくれれば良いんだけど」
「大半は無理だろうな。結局どこまで行っても自分の身に何が起こらないと他人事なんだ。実際に犯罪に巻き込まれたり危険な目に遭わないと早々意識は変わらない」
「それからじゃ遅いわよ」
「まぁ、そこは彼らに期待するしかない」
生徒達が帰宅し、教師達が体育館に集まる。
一遍に講習は出来ないから各学年毎にやる。
大体三十分ぐらいを予定しているが、全体で六時間は掛かるな。
大学の方はまた後日にやるようにしている。
流石に今日一日でやるのは無理だからな。
「さてと、それじゃぁ始めよう」
学年の教師達が集まり終える。
中学までは十数クラスを担任一人づつに加え、数人の役職を務める教師がいるから最大で二十人ほど。
しかしながら高校は副担任なるものがいるらしく、四十人に膨れ上がる。
丸々一クラスを教えるに等しい。
生徒全員に教えるよりは楽と言えば楽だが。
「と言うか、貴方何者なんですか?理事長からは息子である事、防犯講習の外部指導員である事としか聞いていませんけど」
何やらキツそうな三十代ぐらいの女教師がこっちを睨みながら聞いてくる。
……麗と同じで男嫌いってタイプか。
これは少しばかり面倒そうだ。
「機密とかがあるから詳しい経歴は話せないが、元海軍特殊部隊員、とだけ言っておく」
「証拠は?」
「提示出来るものは無い。強いて言えば学校を制圧し切った事ぐらいだな。まぁ別に信じないなら信じないで構わんさ」
そう言ってやるとそれはもう滅茶苦茶不機嫌そうに顔を顰めた。
経験上の話になるが男女関係無くこう言うタイプは、大抵の場合異性が自分よりありとあらゆる何かしらの点において優れていると認める事を良しとしない。
一番面倒なタイプに間違い無く、実力を示したとしても難癖を付けてきては此方の功績が認められない、となるまでがお決まりである。
何にせよ、俺は俺の仕事を務めるまでだ。
体育館の角の方の床にテープで目印になる線を貼り、更にブルーシートで遮っている。
この方が確実にいきなり出くわした状況を再現出来るから好都合だ。
軍でも施設以外で訓練する時はこんな感じでCQB訓練をしていた。
角などには適当に遮蔽物で視界を遮り、見えないようにして出てくるタイミングを合わせ辛いようにしている。
見学に関しては二階席の様な、キャットウォークがあるから、そこに登れば十分に見ることが出来る。
ちゃんと自分でも確認済みだからな。
「まずは、普段の犯人を制圧するやり方を見せてもらおう。そこから問題点を提示していく。犯人役は俺だ。誰かやりたい奴はいるか?」
すると体格の良い若い男教師が名乗りを上げる。
多分何かスポーツでもやっているんだろう、かなり自信満々と言った感じだ。
刺股を渡し、それぞれ別位置から始める為に向こうは刺股を、俺は遊戯銃を構える。
流石に銃を使っては、と思ったが関係無いか。
日本でだって手段を問わなければ銃を手に入れる事ぐらい出来るからな。そんな奴らが学校を襲撃しないとは限らない。
此方は銃を持っている想定でやる。
見せてもらおう、なんて言ったが実を言うと事前に刺股を使った制圧方法に関する動画などで学んできた。
全てを、とは言えないが、刺股のある程度の弱点は把握してある。
取り敢えずやってからだ。
フィールド内にそれぞれ離れた位置からスタートし、互いに歩く。
ブルーシートで遮られているから何時何処で犯人に出くわすか分からない緊張感がある。
俺も向こうも分からない。
構造自体は頭に叩き込んであるがどこで出会うかは分からないのだ。
まぁある程度予想は出来るが。
クリアリングをしつつ、ぱっぱと進む。
すると曲がり角のところで教師に出くわす。
本来なら容赦無く引き金を引くのだが、どう出るか様子を見てみる。
「そこで止まれ、大人しくしろ!」
……何故、一々静止して此方に警告をするんだろうか。
通常交戦規定に従って敵戦力と戦闘を開始、もしくは再開するときの状況・制限を定めている。
確かに交戦規定も重要だろうが、これは向こうも銃で武装していたならば明らかにすぐさま、撃っても文句は言われない状況だ。
まぁ、兵士じゃ無いから無理もないだろうが、いくらなんでも余りにも予想外過ぎる。
「待て待て待て、なんだ、お前は銃を持った相手に一々声を掛けてから制圧しようなんて思っているのか?」
「は?」
思わず声を掛けて止めてしまった。
俺が何を言っているのか分からない、と言った表情だ。
まぁ普通は自分から攻撃するなんて考えはしないが非常時に限ってはそれを覆して、自分から攻撃しなければならない。
「いいか、その刺股は飛び武器、クロスボウや弓、銃と言った武器に弱いんだ。先手を譲ったら、そんな犯人を捕まえる為の道具を持っているんだ、確実に殺されると思え」
この学校に配備されている刺股は伸縮が可能とは言え、それでも二mしかない。
相手が銃に限らず遠距離武器を持っていたら死角から奇襲を喰らわせるぐらいしか手段がない。
それでも銃口を向けられ引き金を引かれたらあの世行き待った無しだ。
俺が犯人だったら、もし刺股を持って目の前に現れたら迷い無く撃ち殺す。
「もう一度最初からだ。次は容赦無く撃つ。そのつもりで頭を使ってこい」
それぞれスタート位置を変え、再び始める。
すると今回は静止の声を掛けずに制圧しようと動くが、まだまだである。
足音がデカいからどこから来るか予想は容易いし、長物の扱いに長けている訳でも無いから逆にカモだ。
「さて、と」
他にも何人かの教師に同じようにやってもらった。
「体験して、見てもらった通りだが刺股はその特性上犯人に接近しなければならないから飛び武器に圧倒的に弱い」
「ですが飛び武器でなければ問題無いのでは?」
「残念だがそうもいかない。そうだな、刺股を何時も通り構えてみろ」
その辺にいた男性教師に刺股を構えさせ、次に女性教師を刺股のU字部分に立たせる。
「力比べだ。刺股を持っている側は構えているだけでいい。U字側はここを持って思いっ切り押せ」
「えっと……?」
「いいからやってみろ」
その言葉に従い、力比べをする。
するとどうだ、女性教師側が勝ったではないか。
これは何も不思議なことではない。
一本の棒を直列状に構えて持った場合、力を伝えるのが難しいのだ。
刺股の取手部分はまさにそうで、U字側で押す方が二箇所を持って押せるから力を伝えやすい。
だから男性教師と言えども女性教師に負けるのだ。
「これが刺股の二つ目の弱点だ。幾ら壁際に追い詰めようがこうやって押し返されてしまう。その瞬間を狙われてブスリ、と言うわけだ」
「えーっと、それでは刺股を使わない方がいい、と言う事でしょうか?」
「いや、そうじゃない。弱点さえ克服してしまえば強い武器になる。相手が飛び武器を持っていない、と言うことが前提になるが第一に単独で挑まないこと。多ければ多いほどいい。最低でも二本以上。こいつは単独で挑めば負けてしまう可能性が大きいが、その実複数で挑むと侮れない。押し返そうにも押し返さなければならない方向が複数あって力が分散するからな」
「次にこの引っ掻きを使うこと。コイツを使うのは複数本で挑んだ時ぐらいしか使えないだろうが、仮に二本で押さえるとしよう」
刺股を二本、二人の教師に持たせる。
「一本が犯人を抑え、もう一本がこの引っ掻きを使って膝裏に引っ掛けて思いっ切り引っ張れ。それで体勢を崩せる。その瞬間に刺股で抑えに掛かれ。抑える場所は脇の下、胴、腰、そして足だ。そこさえ押さえておけば早々逃げ出せない」
人間というのは脇の下に神経が集中している。
そこにある神経は腕の動作に関連するものばかりでそこを押さえられてしまうと人によっては全く動くことが出来なくなるのだ。
なんならそこを切り付けられて神経を切断された場合、腕を二度と動かせなくなる。
「あの、刺股で押さえたらすぐに直接押さえに行ってもいいんですか?」
「絶対に駄目だ。確実に武装解除が行えた、と判断出来るまで近付くべきじゃない。なんなら警察が到着するまで刺股で押さえておくだけでもいい」
「なんで駄目なんでしょう?」
「実際に体験させてやる。二人で俺を押さえた、と仮定しよう」
壁に背中を預け、刺股で押さえさせる。
「少なくとも現時点において俺は武器を所持していないだろう、と仮定する。それじゃぁ素手で来い」
その言葉に乗せられホイホイ近づいて来た女性教師に向かって背中に隠してあったラバーナイフを突き付ける。
「何故か分かったな?」
「は、はひ……」
今頃この女性教師の背中は冷や汗が止まらないだろうな。
とは言え、それぐらい危険なのだ。
本職の警官や軍人ですら下手に武器を持った人間を取り押さえようとするのは危険極まりない。
それが教師などであれば余計だ。
「犯人が武器を一つしか所持していないとは限らない。こうやって安易に近付くと隠し持っていた武器でやられる。首を掻っ切られたらそれこそ死ぬぞ」
「では、どうしたら?」
「さっきも言ったが、警察が到着するのを待つ、と言うのも一つの手段だ。とは言え常に抑え続けておくのも実際無理な話だ。その時は交代をすれば良いが、その瞬間を狙われたら目も当てられない」
「俺が軍で教わったやり方だがまず確実に腕を上げさせること。掌を上にして五指を開いた状態にさせるんだ。そうすれば手の中には武器を持っているかいないかの確認は出来る。そうしたら、手早く腕を押さえて俺に捕まった教師連中がやられたように、このハンドカフで手首を縛り、それからガムテープで腕を肘よりも上ぐらいまでぐるぐる巻きにしておけばいい」
「そのハンドカフだけでは駄目なんですか?」
「コイツは見た目ほど拘束力は高くない。筋力がある人間なら……、ちょっと縛ってくれ。思いっ切りな」
俺の手首を縛らせて、そして目の前で思いっ切り筋力に物を言わせ引き千切る。
「こんな風に千切られてしまう。だからガムテープで腕ごとぐるぐる巻きにしておくんだ」
「足も同じように?」
「そうだ」
一連の説明をするとある教師が手をあげて質問してくる。
「もし暴れたり言う事を聞かなかったら?」
「刺股でボコボコに殴れ」
「は?」
「だから、暴れたりしたら刺股でボコボコに殴るんだ。相手が戦意をなくすまでな」
「犯人の怪我とかは……」
「お前達は自分を殺そうとしてくる相手の心配が出来るほど強いのか?言っておくが、もし手心を加えようなんてしたらその隙を突かれて殺されるぞ」
ここまできて犯人の心配をするとは。
これは優しい、ではなく平和ボケをした馬鹿と言うんだ。
それから、一連の流れを通しで何度か行いこの学年の講習は終了。
全学年を終えてから帰宅したのは十九時を過ぎた頃だった。
「「「「おかえり〜!!」」」」
「ただいま」
玄関に入ると妹達の手厚い出迎えを受ける。
「今日学校にお兄チャンが来るなんて知らなかったからビックリだよ!」
「秘密にしてたんだ」
皆に今日の事をわいわいと騒ぎながら聞かれたり言われたり。
思いの外好印象だったらしい。
夕食、日課のトレーニング、風呂も済ませてリビングに戻る。
年少、年中組は既に夢の中かこそこそと夜更かし中だが年長組はまだ起きている。
「今日の王子様、とっても恰好良かったです♡」
「そんな事はない。頼まれた事をきっちりやっただけだ。あとのことは皆次第だ」
「春風、教えて頂いたことをしっかりと活かせるようにします!」
「本当はそんな危険な目に合わない方が良いんだ。だから危険から遠ざかることが一番大事なんだ」
「はいっ♡春風、王子様を安心させるために学校が終わったら直帰しますね」
なんだろうか、こう、春風は俺が関わると極端というかなんと言うか……。
いやんいやんと身体をくねらせる春風を見ながら、仕方が無いと思うのであった。