19人の妹達   作:ジャーマンポテトin納豆

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6話

 

 

 

 

 

 

 

年が明け、2週間が経つ。

母さんは年末休みを遅れて取ったらしく、二日後から1週間休みらしい。

 

とは言え年が始まってすぐの時期だから芸能関係は大忙しだ。

母さんが経営する芸能事務所は、やはり何人もの売れっ子を抱えているらしく物凄い繁忙中らしい。

毎日夜中過ぎに死にそうな顔で帰ってくる。

 

手伝えることなど無いから、精々出迎えることぐらいしか出来ない。

 

今日も夜中の1時に帰って来た母さんを出迎える。

 

「ただいま〜……」

 

「おかえり、母さん」

 

「もう、寝てて良いのに……。でも嬉しいわ、ありがとう」

 

手洗いうがいを済ませた母さんはリビングで少しだけ夕食を済ませて風呂に入る。

 

「ねぇ?」

 

「ん?」

 

「明々後日から、三日間スキー旅行に行く予定だけど、大丈夫かしら?」

 

「大丈夫、とは?」

 

「なんかね、丁度その時雪が降るらしくて。もしかしたらって」

 

「降る雪の量にもよる、だな。俺一人なら別に吹雪になろうがなんだろうが大丈夫だが皆は違うからな……」

 

「もし、行ってそうなるかもって想定するとしたらどうする?」

 

「全員に小さめのポーチにチョコレートとかの食べ物と、懐炉を入れさせて持たせる。欲を言えば全員にGPSの送受器を持たせたいが、まぁ無理だろうな」

 

「GPSなんて、小さい子は持てないからね」

 

「グループ毎に分かれて年長者が持つ、でも良いけどどちらにせよ逸れたら終わりだ」

 

雪山ってのは、兎に角恐ろしい。

アラスカでの寒中演習で身を以て叩き込まれたが、適切な防寒装備をしていても凍死する。

雪山に限らず、寒さで死んだ人間は、熱中症で死ぬ数より多い。

 

 

「隼人は?」

 

「俺は前から使ってるバックパックに色々詰める」

 

「やっぱり、中止した方が良いかしら」

 

「奥に行かないで手前で遊ぶぐらいなら問題無いだろう。奥の方で遊んだとしても天候が怪しくなり始めたらすぐに建物に戻るとか、ちゃんと決めておけば大丈夫だ」

 

「そう……?隼人がそういうなら、大丈夫だと思うけれど、念の為に色々準備はしておきましょ」

 

「それが良い。準備はどれだけしてもしたりないからな」

 

母さんは頷いてから湯呑みのお茶を全て飲み終え、大きな欠伸をしてから寝室へ向かった。

 

俺もそろそろ寝るとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後。

皆が待ちに待ったスキー旅行である。

母さんの運転の下で、雪が降り積もる道を進んでいく。

 

スタッドレスタイヤに履き替えてはいるが、チェーンもしっかり巻いてある。

さっき手前のコンビニの駐車場で済ませておいた。

 

 

 

 

 

「見て見て雪だよ!」

 

「うわぁ、スゴーイ!」

 

「家の方じゃ、中々雪なんて降らないものね」

 

「雪合戦したい!」

 

雪が深くなるに連れてちびっ子達がきゃーきゃーと騒ぎ始める。

天候は、今のところ曇り空で少し雪が降っているぐらい。

 

これぐらいならば全く問題は無さそうだが、天気予報だと明日辺りから崩れるらしいからな……。

しかも山の天気と言うのは変わりやすい。

気を付けておいた方が良いな。

 

「ねーねーお兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「お兄ちゃんはスキー出来るの?」

 

「勿論。訓練で死ぬほどやらされたからな」

 

「へー、どんなとこ?」

 

「色んなところだ」

 

アラスカで寒中訓練をやったし、他にも雪中行軍の為に雪深い山の中をスキーで駆けたり、自分の足で走り回った。

訓練が終わった後に暖房が効いた部屋で温かい飲み物を飲んだ時は、それはもう最高に幸せだったのを覚えている。

 

そのことを話してやると、皆は驚きつつも楽しそうに聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

暫くしてスキー場に併設されたホテルに到着する。

そこではスキーウェアなどの道具類を予め予約しておけば貸し出しをしている。

大家族故に荷物の多い我が家としては有難い事この上ない。

 

一度部屋に行ってから荷物を置き、各々きゃいきゃいと騒ぎながら選ぶ。

俺はスキー板と靴以外は全部自前のものを持って来ているから自分のサイズの板とストック、靴を選ぶだけでいいので時間は掛からない。

すぐに選び、自分のスキー中に携行するバックパックの中身を点検する。

 

中には遭難したり、遭難した者を捜索することになっても良いように携帯、ライト、ベッドライト、GPSや電池、無線機、紙の地図、コンパス、笛、携帯用のスコップ、発火剤、手斧、ナイフ、使い方が無限大のシート、多機能ロープ、懐炉、非常食など諸々が詰まっている。

 

スキーなどの運動している最中は身体も体温を保っていられるが、そうでなくなると雪の中や吹雪になると急激に体温が下がる。

雪山での遭難だけでなく、ありとあらゆる場面で最も恐ろしいのは体温が低下すること。

 

これは単純に身体の動きを鈍らせるだけで無く、それに加えて適切な判断能力を失い、そして低体温症、凍傷になる危険性が桁違いに高くなるからだ。

だから懐炉と言うのは兎に角使い勝手が良い。

最も冷える指先や足先を温めるのに向いているし、しかもモノによっては12時間以上も熱を発し続けると言うのだから適切に使えばそれらの危険性は低くなる。

 

そのことをしっかりと教えて、ちびっ子と綿雪、吹雪以外の小学生以上には全員に小さめのポーチの中にチョコレートなどの少しの非常食と位置を知らせるための笛、発信機と一緒に懐炉を幾つか入れさせて持たせている。

綿雪は病弱だからすきーは出来ないし、吹雪も体温が上がるのは駄目だから下の方でちびっ子と一緒に遊ぶ程度だ。

それか子供用の緩やかなコースを滑るか、ソリに乗るか程度だな。

 

母さんを筆頭に海晴と小雨がちびっ子達の面倒を見ることになっており、それ以外は自由だ。

小雨は運動が苦手でスキーも怖いから、と自ら世話を買って出たのだ。

 

ただ、やっぱり滑れないことに思うところはあるらしく、

 

「あの、お兄ちゃん……」

 

「どうした、小雨」

 

「あの、えと、後で、スキーを教えてくれませんか?」

 

「あぁ、勿論だとも。ただ、その時は誰かちびっ子達の面倒を見る代役を立てること。良いな?」

 

「はいっ」

 

とそんなやりとりがあった。

とは言え小雨は運動神経が特段悪い訳ではない。

ちょっとばかりドジなところがあるだけで、練習すれば全然滑れるようになる。

 

年長組、自由行動が許されている立夏以上の面々にはGPSの発信機を持たせ、万が一の場合はすぐにその場に向かうことが出来るようにした。

 

小学生組は一緒に纏まって行動するように言い聞かせている。

ただ、綿雪は病弱故に、吹雪は身体が高い体温になると駄目ということでちびっ子組である。

 

 

 

しっかりと動作するかなどを手早く確認し、ロビーに降りて行って皆と合流する。

空はさっきとは打って変わって晴れており、絶好とも言うべき状態だ。

 

「全員、準備は良いな?」

 

「「「「「「うん!!」」」」」」

 

「もし何かあったら発信機をオンにして、全員で固まっておくこと。そうすれば俺がすぐに助けに行くことができる。良いな」

 

もう一度確認事項を年長組と共有し、それぞれスキー場に繰り出す。

それぞれ自由に滑り出し、運動神経抜群のヒカルは早速最難関コースを滑っている。

俺はちびっ子達の相手をしつつ、ヒカルと同じコースを滑り続ける。

 

最難関コースとあって、人が殆ど居らず精々二、三人と言ったところだ。

お陰でヒカルと物凄いスピードで滑走しながら競争をしても全く問題が無い。

 

「いやぁ、やっぱり兄さんは凄いな」

 

「ヒカルだって凄いじゃないか。あのコースをあの速度で滑るのは相当勇気が居るのに」

 

そう褒めると嬉しそうに笑う。

 

 

他にも春風とゲレンデデートを、とお願いされて二人きりでゆっくりと滑ったり霙も同じように滑った。

結局全員とそれぞれ滑り、結構な数を滑ったと思う。

 

 

そんなことをしていると、暫くして立夏に連れられて一番の最難関コースである障害物コースの最難関に連れて行かれた。

他の皆は普通に滑るようだ。

 

そのコースへ登るリフトには俺と立夏しか居らず、コースをリフトの上から見てみるが滑ったことが無いと相当難しそうなコースである。

 

「ウワッ、スッゴイ怖い!」

 

「大丈夫か、立夏。無理ならリフトで降りても大丈夫だぞ」

 

「だ、だだだ、ダイジョウブ!……だと思う」

 

心配である。

俺は問題無いが、立夏が怪我をしたら楽しい旅行も一気に時化込んでしまう。

 

「立夏、悪いことは言わないから向こうで皆と滑った方がいい」

 

「でも……」

 

「怪我はしたく無いだろ?」

 

「ウン」

 

「じゃぁ、決まりだな」

 

頷いた立夏を連れて隣の普通のコース、下に降りるのに一直線で急勾配ではなく緩やかな坂がカーブするように続いているコースに入っていく。

 

「あはははっ!たのしー!」

 

声を上げながら滑走する立夏は中々に楽しそうだ。

やっぱりこっちにしておいて正解だったな。

 

滑り終え、下に着くと皆が待っている。

どうやら立夏を心配していたらしい。

 

「やっぱり私達と同じコースにしたか」

 

「だってだってスゴイ怖かったんダヨ!?皆だって怖気付いちゃうってば!」

 

「兄さんは滑れるか?」

 

「ん?まぁ、あれぐらいなら問題無いと思うぞ」

 

「なるほど……。なら、ちょっと見せてもらおうか」

 

「なに?」

 

「いやぁ、母さんが良いカメラを持って来ているんだ。だから兄さんの勇姿をカメラに収めようと思い立ってな?」

 

「まぁ、構わないが俺なんか撮ったって面白くもなんとも無いだろうに」

 

霙に焚き付けられ、頭をボリボリと掻きながら、さっき断念したコースへ。

他の皆は少し下の、俺がこれから滑るコースを見渡せる位置でカメラを持って待機している。

覗くと皆がコースの合流地点で手を振っているのが分かる。

片方のストックを上げて答え、しっかりとバックパックを固定し、それを確認してから。

 

「それじゃぁ、行くか」

 

両方のストックを上げてから呟き、滑り出す。

障害物は雪を盛られて作られている。

ジャンプ台のような感じのものもあれば、ただ行手を阻むように小さく盛られているだけだったり。

 

ジャンプ台はカメラ映りが少しでも良くなるよう、飛んで見せたりする程度はやる。

流石に競技選手のように捻ったり回転したりは出来ない。

 

これぐらいの障害物なら割と訓練でもやっていた。

クロスカントリーもやったし、バイアスロンも訓練の中にはあった。

競技というよりはもっと強度の高い思いっ切り実戦仕様だったが。

 

体重移動に気を付けておけば重装備でも無く、銃を担いでいる訳でも無いから余程のことがない限りは転倒したりはしない。

 

 

 

そんな距離が長い訳でも無く、すぐに皆の元に。

 

「スッゴーイ!何アレ!?ジャンプしてたヨ!?」

 

「まぁ出来るだろうとは思っていたが、あそこまでとは」

 

「王子様素敵です♡春風、もうきゅんきゅんです♡」

 

口々に褒めてくれるが、なんだかこそばゆくて仕方がない。

 

「それじゃぁ、皆で降りよう。もうそろそろ昼飯だ、多分、腹を空かせたちびっ子達が待ち侘びているだろう」

 

誤魔化すようにそう言って下る。

 

「照れなくても良いのにな」

 

「気のせいだ」

 

霙に揶揄われ、そっぽを向いておく。

クスクスと楽しそうに笑っている霙は、普段の様子とは違ってよく笑うがこっちのが可愛いと思うんだがな。

 

学校だといつも仏頂面らしいし、もう少し笑ったら良いと思うんだ。

 

下に降りると、やっぱりちびっ子達がお腹を空かせて待ち構えていた。

催促されるようにホテルのビュッフェ形式の昼食を摂り、またすぐに外に出て遊びに行く。

 

どうやら次は雪合戦をするらしく、母さんとあさひ、吹雪、綿雪を除いた全員でやることに。

加減をしないと、怪我をさせてしまうから気を付けないと。

 

 

それぞれ分かれる。

 

Aチーム

海晴

ヒカル

氷柱

星花

観月

さくら

青空

 

Bチーム

春風

立夏

小雨

夕凪

真璃

虹子

 

とこんな感じになった。

 

 

 

 

「いっくよー!よーい、スタート!」

 

わーきゃー大騒ぎしながら、雪玉が飛び交う。

特にルールも無く始まった為にしっちゃかめっちゃか、終いには味方同士でぶつけ合い最終的に全員が敵と言うことになり訳が分からなくなって暫くして終了。

 

全員息を切らしながら笑い合っている。

 

それからは午前中と同じように各々自由に過ごすことになった。

 

「小雨」

 

「お兄ちゃん」

 

「スキーの練習、やるか」

 

「良いんですか?」

 

「勿論だ、小雨の方は駄目だったか?」

 

「い、いえ!それじゃぁ、すぐに準備して来ますね」

 

「あぁ、ゆっくりで良いからな」

 

「はいっ」

 

俺は小雨との約束である、スキーを教えることにした。

二人で一緒に一番簡単なコースへ向かい、取り敢えず滑ってみる。

 

「キャー!?」

 

「わぁー!?」

 

……おかしい。

何故あそこまで盛大にずっこけられるんだ。

 

寧ろ天才だぞ、あれは。

いや、本当に小雨は運動神経が悪い訳じゃない。

多分あれは緊張とか恐怖からくるものだろうと当たりをつけ、また思いっ切りひっくり返ってスカートだったならばあられもない姿になっていたであろう、小雨を回収しに向かう。

 

「ほら、大丈夫か?」

 

「は、はい〜……」

 

目を回している小雨を抱き上げ立たせる。

雪を払ってやり、一番下へ。

 

もう一度リフトに乗って上に行く道中、小雨はしょぼくれていた。

リフトを降りて、コースの少し手前で小雨を呼ぶ。

 

「小雨、次は一緒に滑ろうか」

 

「へっ?」

 

「こう、俺が抱えるように後ろから支える。そうすれば怖くないだろう」

 

「い、良いんですか?」

 

「なに、もし転びそうになったら支えてやる。何回かやったらもう一回一人で滑ってみるといい」

 

「は、はいっ」

 

そして言ったように後ろから小雨を支えつつ滑る。

それを五回行って、また一人で滑らせてみた。

 

すると小雨は見事に一度も転んだりすることなく滑り切った。

やはり小雨は緊張すると途端に出来なくなるらしい、緊張を解してやったりすると出来るようになる。

 

「お兄ちゃん!」

 

「よくやったな、凄いじゃないか」

 

「ありがとうございます!お兄ちゃんのお陰で滑れるようになりました!」

 

「小雨が頑張ったからだ。ほら、もっと滑ってこい」

 

「はいっ!」

 

それからは他の皆に混じって一緒に色んなコースを滑るようになった。

上達は早く、その日の夕暮れごろには難関コースを問題無く滑れる程度にまで上達していた。

 

それを見て嬉しさ半分、寂しさ半分だったのだが皆には内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、バイキング形式の食事を終えてから風呂に入る。

家族用に大部屋を取ってあるから、専用の露天風呂が備え付けられており景色は良い。

 

「ふぅ……」

 

一日の疲れを癒すべく、ゆっくりと浸かり足を伸ばしてリラックスする。

すると、浴場の引き戸を開けるカラカラカラ、と言う音がする。

 

誰だろうか。

 

「お、お兄ちゃん?」

 

「小雨か?」

 

どうやら小雨が入って来たらしい。

 

「あの、一緒に入っても良いですか……?」

 

「なにっ?」

 

「あ、あの、駄目だったら出ていくので……」

 

「あぁいや気にするな。風邪を引く前に身体洗って湯船に浸かれ」

 

「はい」

 

あそこで追い出したら俺が悪者になってしまうだろう。

困りながら頷き、どうしたもんかと考える。

 

少し時間を掛けて身体を洗い、小雨が入ってくる。

 

「隣、入りますね」

 

「あぁ」

 

「「……」」

 

互いに無言になり、ぼーっ、と景色を眺める。

 

「あの」

 

「うん?」

 

「昼間はスキーを教えてくれてありがとう、お兄ちゃん」

 

「なに、気にするな。あれぐらいなら幾らでも付き合うよ」

 

「私、すっごく嬉しかったんです」

 

「何がだ?」

 

「お兄ちゃんと一緒にスキーをやることが出来て」

 

「そうか」

 

「私、今までスキーなんて出来なくて。今年も出来ないまま終わって、皆みたいにお兄ちゃんと滑ることも出来ないで終わっちゃうんだって思ってたから、教えてもらって滑れるようになって、お兄ちゃんと一緒に滑れて凄く嬉しかったの」

 

「そうか、それは良かった。教えた甲斐があるってもんだ」

 

「ふふっ」

 

そうして二人で話していると、スパーンッ!と勢い良くまた引き戸が開けられる。

 

「あーっ!?小雨お姉ちゃんがお兄ちゃんと二人きりで抜け駆けしてるー!」

 

「えぇっ!?」

 

「ズルいんだー!」

 

「そ、そんなつもりは……!」

 

犯人は夕凪。

そう咎められてまたわたわたとし始めた小雨は、勢い良く立ち上がって足を滑らせ思いっ切り水飛沫を上げていた。

 

 

因みに夕凪は氷柱から乱暴に扱うなと拳骨を食らっていた。

 

しかしその切り返しがこれ以上馬鹿になったらどうするの、とはそれで良いのか。

氷柱も氷柱でこれ以上馬鹿になる脳みそは無いって言っていたし。

 

それはそうと皆何故俺が風呂に入っていると、入ってくるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

少しばかり空が曇っていて天候が崩れそうである。

それに風も少しだけ吹いている。

一応天気予報を見てみたが、どうなるか分からないな……。

 

このまま天候が崩れるなら不味い。

風が強くなれば降っている雪と合わさって吹雪になるし、降雪が酷くなって雪が巻き上げられたりした状態で外にいたらホワイトアウトに陥る可能性も高い。

念入りに持ち物は検査しておいた方がいいな。

 

「全員、よく聞いてくれ。多分このまま行くと天気が崩れるかもしれない。そうなったらすぐにここに戻ってくること。もし風が強くなったり雪が強くなったりしたらすぐに発信機をオンにしてくれ。迎えに行く」

 

「「「「「「はーい」」」」」」

 

今一度、皆に注意を促してスキー場に繰り出す。

 

 

 

昼頃になって不安が的中した。

風が強くなり、降雪量も多くなってきた。

 

ホワイトアウトほどではないが、吹雪と言って間違いない程度には勢いがある。

皆は言い付けを守りすぐにホテルに戻ってきたが、春風と小雨、麗の姿が無い。

 

「三人が何処に行ったか知ってるか?」

 

「えっと、さっき天気が崩れる前にリフトに乗って上に……」

 

「……不味いな」

 

恐らく短時間で天候が崩れたことで途中で足止めを食らっている可能性が高い。

発信機の位置を見てみると予想は的中、一番高いところから滑るコースの少し降った辺りで春風が、小雨と麗は別のコースから外れた場所にいる。

 

「すまない、天気予報の最新情報を知りたいんだが、この天候はあとどれぐらい続く?」

 

「予報だと、丸一日はこのままだそうです」

 

「今妹三人が外に取り残されてる。救助隊を呼ぶとしてどれぐらい掛かる?」

 

「えぇっ!?本当ですか!?」

 

「本当だ、だから早く確認してくれ。頼む」

 

ホテルのスタッフに言って聞いてみると、どうやらこの天候のせいで収まってから出ないと来れないらしい。

 

他にもやはり、戻って来れていない客が何人か居るらしく騒いでいる。

 

「クソッ!あぁ、すまん。ありがとう」

 

思わず出てしまったが、それどころじゃない。

急いで助けに行かないと。

 

「お客様、どちらへ?」

 

「妹を迎えに行ってくる」

 

「お止め下さい、二次被害の恐れがあります」

 

「駄目だ。この天候だと数時間も保たない」

 

「ですが」

 

「大丈夫、これぐらい訓練よりは訳ない」

 

引き留められるがそれどころじゃない。

 

すぐに母さん達のところへ戻る。

このままだと三人が危ない。

 

幾ら懐炉などを持たせていると言っても、丸一日この天候の中で隠れる場所を見つけたり作ったりすることが出来ない三人は間違いなく命の危険に直面してる。

 

「三人を助けに行ってくる。このままだと危ない」

 

「えっ!?」

 

「ちょっと、そんな質の悪い冗談は止しなさい!」

 

「冗談を言っているように見えるか?」

 

「嘘でしょ……」

 

「母さん、この無線機と衛星電話を預けておく。無線機は互いに喋ることは出来るが、一方通行だ。同時に話せない。ここのボタンを押しながら話して、終わったら離すんだ。じゃないと通信出来ない」

 

「わ、分かったわ」

 

「だけどこの天候と、場所によっては通信出来ないかもしれない」

 

「そしたらどうすれば良いの?」

 

「どうしようもない。それじゃぁ、行ってくる」

 

兎に角早く行かないと、冗談抜きで手遅れになりかねない。

 

手早くバックパックの中身を確認し、追加で天候が更に悪化し移動出来なくなった場合に備えて毛布を二枚、2食分の食事と水、カロリーメイトを幾つか入れておく。

 

準備を終えてすぐに出る。

スキー板を背中に担ぎ坂を駆け上がる。

 

コース内は踏み固められていてスキー板が無くても問題無いが、コースから一旦外れると、雪に埋もれてしまう。

どれぐらい積もっているのかは分からないが、場所によっては数mになるぐらいは覚悟しておかないとならない。

コース内はまだそれほど積もっておらず、足は取られるが坂を登る都合上、歩く方が早い。

 

発信機が位置する場所までは大した距離じゃない。

問題はこの天候から来る視界不良だ。

本当に10m先を見るのにも苦労するような状況だ。

ホワイトアウト状態と言っていい。

 

春風の発信機の近くに来た。

すぐに懐から木製の笛を取り出し、吹く。

 

ピィーッ!

 

皆には万が一の際、笛の音が聞こえたら同じように笛を吹くように言ってある。

もしこの風音に遮られてなければ、何処かで聞こえているはず。

 

すると微かに笛の音が聞こえる。

何度か連続して鳴らし、発信機の位置にいる事を確認する。

 

少し進むと春風の姿が見えた。

 

「春風!!」

 

「王子様……!」

 

「大丈夫か、怪我は?」

 

すぐに駆け寄り怪我の有無を確認する。

もし怪我をしていたら、担いで帰らなければならなくなる。

 

「大丈夫です」

 

「よし、すぐに戻るぞ」

 

バックパックからロープを取り出して春風と俺を繋ぐ。

 

「良いか、もし落ちてもこれで繋がっているから大丈夫だ」

 

「はい」

 

「行くぞ」

 

春風を抱えて坂を滑り降りる。

春風の履いていたスキー板はその場に刺して残していく。

一時間ほど掛けて降り、ホテルに着く。

 

「春風姉様!!」

 

「氷柱ちゃん!」

 

「大丈夫!?怪我は!?」

 

「大丈夫よ。王子様が懐炉とかを持たせてくれてたお陰で少し身体が冷えただけ」

 

「良かった……!」

 

皆、春風の無事を知り安堵のため息を吐く。

 

地図と発信機の位置情報を照らし合わせ、地形的に危険な場所に居ないかなどを確認する。

特に危険な場所ではないな。

崖下とかでない限り助けるのには苦労しない。

あとは二人の体力が保つかどうかだが、天候が崩れてから2時間程度。

もし風雪を凌げる場所にいないのならば、懐炉程度では到底体温を維持することは出来ない筈だ。

 

「山岳救助隊の方はどうなっている?」

 

「準備を整えて収まり次第出発出来るようにしていると」

 

「今すぐには来れないんだな?」

 

「はい」

 

スタッフにそれを聞いてからすぐに小雨と麗を助けに向かう。

 

 

 

地図と発信機の位置情報を照らし合わせ、地形的に危険な場所に居ないかなどを確認する。

 

すぐに互いを繋いでいたロープを纏めて小雨と麗を助けに向かう。

 

春風を先に助けたのには訳がある。

単純に場所が分かり易いコース内に居たからだ。

コースから外れた場所にいる二人より発信機があるとは言え見つけ易く、そして降りてくることも簡単だからだ。

 

地図上でしか確認出来ていないから、細かい地形が分からない。

もし何かしらの段差から落ちたりしていたら、骨折ぐらいで済めば良いが、頭から雪に埋もれて窒息なんてなったら命の保障は無い。

 

幾ら発信機があっても滑って自分の目で見たコース内と、全く分からないコース外では勝手が違う。

 

段々と風の勢いが増しているな……。

 

二人の発信機から一番近いコース内に到着し、すぐにスキー板を履く。

そしてコース外に滑り出す。

 

障害物によって真っ直ぐ進めないから、迂回しつつ最短で進む。

クソッ、雪がどんどん深くなってる。

 

このままだと、身動き取れなくなるな……。

しかも発信機の位置を見ると二人とも同じ場所に居ない。

 

移動しているんだ、闇雲に。

 

あぁクソ、一番最悪だぞ。

こう言う状況になった場合、移動は最低限にして避難場所を見つける程度にするべきだ。

特に二人のようにコンパスや地図などを持っていない場合は闇雲に動くと体力を無駄に消耗するだけだ。

二人はお世辞にも体力があるとは言い難い。

もし崖や高低差のある場所から落ちたりしたら、それこそ生死に関わる。

 

ただ移動速度は遅いから追い付くこと自体は簡単だ。

 

早めに追い付いて、急いで戻らないとこのままじゃ天候が回復するまでこんなところで過ごす羽目になる。

 

20分ほど迂回したりしつつ進み、小雨と麗の側まで近付く。

笛を取り出し、吹く。

 

すると、少し遅れて笛の音が聞こえてくる。

笛を鳴らしつつ、発信機の位置へすぐに向かう。

 

すると木の下で二人が待っていた。

 

「小雨!麗!」

 

「お兄ちゃん!」

 

二人を抱き寄せて、風上に俺を盾にする様に立ち風から守る。

それから怪我の有無を確認する。

幸いにも怪我なんかは無いようだが体力の消耗が激しく体温低下もあるらしい。

このままだと不味いが……。

 

「クソ、風が強くなって来てる……」

 

ホテルを出た時に比べ風の強さがどんどん強くなっている。

俺一人なら問題無いが、二人はこの猛吹雪の中を移動するのは無理だろう。

 

視界がどんどん悪くなってかなり酷い。

 

どうする?

一人づつ抱えていくか?

いや、駄目だ。多分今ホテルに戻ったらここには戻って来れなくなる。

何よりも恐ろしいのは、段々と降雪量と巻き上げられている雪の量が多くなっていることだ。

これが意味することは、より深刻なホワイトアウトに陥る危険性がかなり高い。

そうなったら、GPSがあるとは言え危険極まりない。

 

となると、この猛吹雪が収まるまではここで凌ぐしか無いか……。

 

「二人共、よく話を聞いてくれ」

 

「うん……」

 

「はい」

 

麗は何時もの態度とは打って変わりしおらしく素直だ。

やはり怖いのだろう。

 

「今、ここから動くと危険だ。だから、雪を掘ってこの嵐が収まるまでここで待つしかない」

 

「いやっ、私帰る!」

 

「麗、こっちを見ろ」

 

「やだっ!」

 

「麗ッ!」

 

パニックに陥りそうな麗に大きな声を上げ、抱き寄せる。

 

「大丈夫だ、俺がちゃんと二人を生きて連れて帰るから」

 

「……う"ん"」

 

涙声で答える麗と、小雨を連れてすぐ近くの木の根元をバックパックから取り出した携帯用スコップで掘る。

 

やはりかなり積もっているらしく、幾ら掘っても地面が見えることはない。

 

兎に角掘って三人が入れるスペースを作り、下にシートを敷いて二人を待機させる。

バックパックの中から二人にカロリーメイトを渡してから外に出て目星をつけておいた倒木を引っ張ってくる。

それを手斧で切り、表面より50cmほどの高さで雪に刺し、木に穴を無理矢理開けてそこに挿し込む。

雪側を踏み固め木側をロープで縛り、二枚目のシートを被せて細い枝を刺して固定する。

中からまた適当な長さで切った倒木を支えにして両側に何本か。

 

雪を被せ、余った倒木を小さく切って中に持ち込む。

葉はシートの下に敷いて断熱材の代わりにし、幹の部分は細かく割いて着火剤を使って火を起こす。

火がついたならば細いのから順に薪を焚べて燃やす。

懐炉だけじゃ凌げないから火を起こすのだ。

そうすれば暖を取れるし、心理的に安心することが出来る。

 

換気口を掘り、一酸化炭素中毒にならないようにするのも忘れない。

 

薪にした倒木を焚べていく。

段々温かくなり始めてからホテルにいる皆に連絡を取ることを試みる。

 

ザー……ザー……

 

砂嵐しか聞こえない。

 

「無線はやっぱり駄目か……」

 

ある程度予想はしていた。

この天候状況に加え木々や山自体が障害物になって無線は使えない。

しかも今使っている無線機は軍用の長距離用ではなく個人が使う、短距離用の無線だ。

ホテルからここまでの距離は2kmはある、天候と障害物を加味したら繋がれば奇跡に近い。

中継を繋ぐ航空機でもあれば話は変わるがこの悪天候だ、いずれにしろ無理だな。

 

となると、あとは衛星電話に賭けるしか無い訳だ。

 

すぐに登録してある母さんに渡した衛星電話に架ける。

コール音が二度、三度と過ぎて繋がらないか、と架け直そうとした時。

 

『はーーーとーーーー!?』

 

「母さん?チクショウ、電波が悪い」

 

何度かやりとりし、漸くまともに会話出来る程度になった。

まだ音割れしているがさっきよりはマシだろう。

 

『隼人!聞こえる!?』

 

「あぁ、聞こえる」

 

『今どこにいるの!?大丈夫なの!?』

 

「いつ切れるか分からないから手短に話す。小雨と麗は無事だ。今二人といる」

 

「「ママ!」」

 

『良かった……!』

 

二人の声を聞いて安堵の溜息を漏らす。

たが時間はそんなに無い。

手短に説明するだけしか出来ない。

 

「ただ、この状況でホテルに戻るのは厳しい。だから天候が収まるまでここで暫く待機する」

 

『分かったわ』

 

「大丈夫、二人は必ず連れて帰る」

 

『気を付けてね!』

 

「あぁ、わかっーーー」

 

分かったと言おうとしたらブチッ、と切れてしまった。

多分、もう一度繋ぐことは難しいかもしれない。

 

衛星電話と無線機をバックパックに入れて代わりにレトルト食品を取り出す。

湯を沸かしたいが、鍋とかは流石に無いから代わりにレトルト食品や懐炉などを密封する為に入れていたスチール製の缶にペットボトルの中の水を入れて直接火にかける。

 

湯気が立ったらレトルト食品を放り込んで温めて二人に食べさせる。

天候が収まったら可能な限りまた崩れる前に移動しないとならない。

ここからホテルまで2.3km。

俺一人なら1時間もあれば十分に辿り着けるが、二人は体力的なことや慣れもあって多分倍以上は掛かるだろう。

だから出来る限り体力を温存し、回復させないと。

俺は食事をしないで何日も過ごすのは慣れているから問題無いが、二人は多分動けなくなる。

 

「ほら、食え。腹減ってるだろう」

 

「お兄ちゃんは……」

 

「カロリーメイトだけで十分だ。気にしないで食え」

 

ライトで地図を照らし眺めながら、カロリーメイトを一袋開けて口にする。

ボソボソとした食感で、やたらと甘い。

 

位置的には谷底に近いな。

直線的にホテルまで進むなら、尾根を二つ越えないとならない。

尾根を越えると言うのは大仕事で、かなり大変だ。

 

ただ尾根を越えずにとなると迂回する必要があるが、距離がかなり長い。

二人がスキー板をつけたまま歩ける距離じゃ無いのは確かだ。

 

やはり尾根を越えて直線で向かうしか無いな。

 

薪を一本焚べる。

パチパチ、と薪に含まれる油分や水分が熱せられて跳ねる。

これが、キャンプなら良かったんだがな……。

 

「くしっ……」

 

麗が嚏を一つ。

火を焚いているとは言え、寒いものは寒い。

 

そうだ、出すのを忘れていた。

バックパックから毛布を取り出す。

一枚しかないが、サイズは大きいやつだから、二人が包まるぐらいなら全く問題無い筈だ。

 

 

「出すのを忘れていた。ほら、毛布だが、まぁ無いよりはマシだ被っておけ」

 

「お兄ちゃんも、一緒に包まろう?ほら、毛布もおっきいし……」

 

「いや、多分臭うから止めておくよ」

 

「でもほら、一緒にくっ付いていれば、その分あったかいから」

 

小雨はそう言いながらくっ付いてくる

汗とかで臭いと思うんだが、良いのだろうか。

 

「し、しょうがないから私も一緒に包まってあげるわ……」

 

「麗、無理しなくても良い」

 

「ち、違うわよ!あんたがこんなとこで、その、死んじゃったりしたら皆悲しむし、それに、私達を連れて帰る人が居なくなるじゃない!?」

 

必死に言い訳をするが如く捲し立てるように言い切る。

いや、多分ここで拒んだら俺は大悪党になってしまうぞ、間違いなく。

 

「分かった、ありがとう麗」

 

「ふん、最初から素直にしておけば良いのよ……」

 

なんだか照れているような、全く口を利こうとしない麗はどこへ行ったのやら。

 

二人を抱き寄せ、胡座の上に乗せる。

下は枝葉とシート、着込んでいるウェアのお陰もあって、少し冷たいぐらいで済んでいる。

小雨に言って薪をもう何本か焚べて貰っておき、寝てしまっても大丈夫なようにしておく。

 

背中を同じ様に断熱している壁に預け息を吐く。

 

「天気が良くなったらホテルに帰るからしっかり寝ておけ」

 

「お兄ちゃんは……?」

 

「ちゃんと寝るから心配するな」

 

心配して見てくる小雨を安心させるように頭を撫でる。

 

「……ごめんなさい」

 

ふと、麗がポツリと言った。

 

「私が、移動しようって言ったからこんな事になっちゃって……」

 

「小雨ちゃんは、ここに残ってた方がいいって言ったのに、私は怖くて早く帰りたかったから……」

 

麗は懺悔するように教えてくれた。

 

「別に怒っちゃいない。なんならスキーを悪天候になるかもしれないって知ってたのにやらせた俺に責任がある」

 

三人で毛布を被りながら話す。

別に麗は悪くないだろう。

 

あの状況では正常な判断をしろと小学生二人に求める方が無理難題だ。

それを分かっていたのにも関わらず、スキーをやらせた俺に責任がある。

 

「悪かったな、こんな思いをさせちゃって」

 

「お兄ちゃんは悪く無いです」

 

「ほら、寝ろ」

 

腕時計を見るとまだ夕方の四時頃だが、辺りは暗い。

何時天候が回復するか分からないから休める内に休んでおかないと。

 

「そうだ、携帯に映画を幾つかダウンロードしてある。見るか?」

 

「うん」

 

気分転換ぐらいにはなるかもしれないと思い、携帯を取り出して映画を見る。

内容はコメディ映画で、大人から子供まで楽しめる内容だ。

 

俺の車は携帯と接続して映画を見たりすることも出来る。

ちびっ子達を乗せた時に暇だ暇だと騒がれては危ないから、幾つかダウンロードしておいたのだ。

 

まぁ、DVDを読み込ませれば良い話なんだが、そう都合良くあるわけもない。

なら携帯に入れておいたほうが確実だ。

 

二人に映画を見せていると、寝息を立て始めた。

昨日今日とスキーをやって、ついさっきまでは遭難していたのだ、疲れているのも当然と言える。

 

二人を抱き締めて、携帯の電源を切って焚き火を眺めつつ眠くなるのを待った。

 

 

 

目を覚ます。

腕時計を見ると、時刻は明け方3時だ。

 

二人を膝上から下ろし、外を見るとまだまだ荒れている。

下手をしたら、今日一日ここで過ごさないとならないかもしれない。

 

焚き火はまだ少しだけ火が灯っている。

薪を入れ、火を強くする。

 

二人をもう一度膝の上に乗せて目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに五時間ほどして、また目を覚ます。

外は吹雪の勢いが弱くなっていてこのままであればもう暫く待てば帰ることが出来そうだ。

 

小雨と麗も目を覚ましているから食事を摂らせる。

カロリーメイトを出来るだけ噛み、沸かした湯で流し込む。

口の中の水分を持っていかれるのがこいつの難点だな。

 

一時を過ぎた頃、漸く吹雪が収まった。

空はまだ曇っていて雪も降っているが、風が止んでいるような状態だ。

 

これなら移動出来そうだな。

 

「二人とも、準備をしろ」

 

荷物を全て纏め、焚き火に雪を被せておく。

下手に山火事にでもなられたら堪ったもんじゃないからな。

 

全て纏めて、二人にロープを繋ぎ逸れないようにする。

 

坂を登るのは大変だが、迂回していくよりはまだマシだ。

 

「それじゃぁ、行くぞ。頑張って付いてきてくれ」

 

スキー板とストックを持たせて尾根越えだ。

 

 

 

 

 

二人に合わせて速度を落とし、歩く。

スキー板を履いているとはいえ滑れるほど雪は硬くない。

寧ろかなり柔らかく、板を履いていなかったらズボッと埋まってしまうほどだろう。

 

ジグザグに斜面を登る。

幸いにも傾斜はそこまででも無く、その点から言えば楽だ。

 

一つ目の尾根の天辺に来た。

一度母さん達に連絡を入れたい。

 

無線を取り出して、繋いでみる。

しかし電波が届かないのか、遮られているのか繋がらない。

 

衛星電話で電話する。

 

『隼人!?』

 

「母さん?」

 

『どうしたの!?何かあった!?』

 

「いや、今ホテルに向かってる。それを連絡したくて」

 

『あぁっ、良かった……!』

 

「それで、今俺達は尾根の天辺にいる。これから尾根を降って、また谷底に降りる。そうしたら連絡が取れなくなると思う」

 

『分かったわ。それで、後どれぐらいで戻ってこられそう?』

 

「二人の体力と相談しなきゃならないが、多分今日中には無理だな。早くて明日だろう」

 

『戻って来られるならなんだって構わないわ』

 

「それじゃぁ、二人に代わるから少しだけ話して安心させてやってくれ」

 

『えぇ』

 

小雨と麗に衛星電話を渡して母さんと話をさせる。

十分ほど話し、それからすぐに尾根を降り始めた。

 

 

合間合間に休憩を取りつつ、尾根を四時間掛けて超えた。

流石にこれ以上は暗くなってくるし、止めておいた方がいい。

 

昨日と同じように穴を掘ってそこにシートを被せ、夜を明かした。

 

 

一夜を過ごして翌日。

今日は降雪の勢いも降ってはいるが収まっている。

 

昨日と同じように二人の間にロープを繋いで、尾根越えを始めた。

 

 

 

 

 

 

六時間後。

漸くコースに出た。

 

「あとは、コースに沿って降りていくだけだ」

 

「やったぁ……!私まだ生きてる……!」

 

「あぁ、だがまだ少しだけ残ってる。頑張ってくれ」

 

コースを降りるのは簡単だった。

それでも疲労が溜まっている二人を連れてだから速度は遅く、三十分掛けてホテルに到着。

 

すると、皆が玄関のところで待っていた。

 

「オニーチャン!!」

 

「おぉっ、立夏、どうした?」

 

「どうしたも何も無いヨ!スッゴクスッゴク心配したんだから!」

 

「悪かった、悪かったから泣かないでくれ」

 

皆に泣きながら出迎えられ、

小雨と麗も緊張の糸が解けたからか号泣だ。

 

「隼人、本当にありがとう……!」

 

「母さんまで、泣かないでくれ」

 

俺を除いて全員わんわん泣きながら部屋に戻る。

俺はホテルのスタッフの元に行って全員の無事を伝える。

 

「お客様、無事に戻られたのですね」

 

「あぁ、一昨日は済まなかった」

 

「いえ、妹様方がご無事であったのならば嬉しい限りです」

 

「それで、他に帰って来ていないのがいるとか言っていたが、そっちはどうなった?」

 

「全員無事にお戻りになられました。お客様達が最後です」

 

「そうか。それは心配を掛けたな」

 

「いえ。ですが、次回また同じようなことになってもお一人で助けに行かないでください」

 

「約束は出来ないな」

 

部屋に戻り、着替える。

これから山岳救助隊に色々と言い訳、もとい説明をしなければならないしのんびりはしていられない。

しかも報道陣まで居たから、大騒ぎだぞ。

 

 

 

 

 

 

あのあと、俺は警察消防に怒られた。

そりゃぁ、片目の見えないやつが猛吹雪の中救助に向かうだなんて正気の沙汰じゃ無いのは確かだ。

 

それでも全員無事に戻ってきたと言うことでそれだけで済ませてくれた。

 

それよりも大変だったのは報道陣の対応だ。

どうやら今回のことはかなり大騒動になってニュースでも騒がれていたらしく、それはもう大変だった。

 

マイクを突き付けられ、あーだこーだと質問されたが面倒になって部屋に逃げた。

 

 

 

それからのことを話すとすれば、遭難した春風、小雨、麗の三人は取り敢えず医務室で診察を受けた。

これと言って異常は無く、寒さによる冷えと空腹があったぐらいで健康そのものと診断された。

心配なら念の為に病院で検査を受けることを勧められた。

 

結局ホテルに一日延泊させてもらうことになった。

一日ぶりの晩飯は、食事を抜いたことがない二人にとってそれはもう最高に美味しかったらしく、普段食べる量の倍以上を掻き込んで食べていた。

 

 

 

 

「お兄ちゃんは大丈夫なの?」

 

「全くどこも問題無いぞ」

 

「流石と言うか、なんと言うか。頑丈だな」

 

俺の一人用の部屋には何故か全員が集まりわちゃわちゃわいわいと騒いでいる。

21人全員が精々3人が泊まる程度の部屋に集まっているのだから狭くて仕方がない。

女性や幼児特有の匂いが部屋中に充満していて何が何だか分かったもんじゃない。

 

まぁでも、嫌ではない。

大家族特有の騒がしさに、温もりがあって心地良い。

 

「それにしても〜……」

 

「な、なによ?」

 

「あの麗ちゃんがお兄ちゃんにこんなにデレるなんてねぇ」

 

「ち、違うわよ!これはその、あれよ!」

 

「あれってなんだ?」

 

「もう!違うって言ったら違うの!」

 

あの後麗の俺に対する態度がまるっきり変わった。

なんというか、今まではそれこそ接触厳禁の劇薬みたいな態度だったのに今は、べったりと言うほどでもないが物凄く軟化している。

今も隣に座って離れようとしない。

 

それを揶揄い半分で皆に言われて顔を真っ赤にして否定する。

 

「仲が悪いより仲が良い方が良いに決まってるわ。ね、麗ちゃん」

 

「そ、そうよ!」

 

母さんに言われて助け舟に飛び乗るように頷く。

 

「明日は家に帰るんだ、もう寝た方が良い」

 

「それもそうね。ほら、皆お部屋に戻りましょ」

 

母さんに連れられて皆は部屋に戻る。

静かになった部屋で、布団を引っ張り出して潜り込む。

風呂には入ったから寝るだけなのが良かった。

 

それなりに疲労が溜まっていたのか目を閉じるとすぐに寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

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