機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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マシンチャイルド

 

 

 

 

 

「ヤマダ・ジロウは生存。ビックバリアはナデシコもビックバリア自体も無被害で突破。キノコ副提督は原作通り脱出。テンカワさんは着実に未来を変えつつある、か」

「・・・何か言いました?」

「え、ううん。なんでもないよ、セレスちゃん」

 

おっと。思わず口に出ていたか。

 

「・・・あの、ここはどうすれば?」

「あぁ。ここはね・・・」

 

セレス嬢に心配かけちゃ悪いよな。

せっかくの訓練中なのに。

 

「それにしても、子供に夜勤を強要するとはねぇ」

 

何が起こるか分からないから、ブリッジには誰かしらが待機してなくてはならない。

それは分かる。でも、大人達だけで回しても支障はないと思うんだよなぁ。

 

「・・・私、子供じゃありません」

「そっか。ごめんごめん」

 

原作のルリ嬢を思い出すな。

女の子って子供扱いされるのが嫌なのかな?

大人っぽくありたいって思うのにはまだ早いと思うけど。

 

「眠くない?」

「・・・大丈夫です。寝なくても問題ないように調整されていますから」

 

軽い口調の割に過酷な現実。

改めて、彼女達が遺伝子を弄くって造られた存在なんだって実感した。

 

「そっか。でもさ、寝る子は育つっていうよ?」

「・・・寝ないと育ちませんか?」

「どうだろう? でも、寝た方が育つんじゃないかな?」

「・・・それは、困りました」

 

調整なんて言うな。君達は普通の人間なんだから。

・・・そう言うのは簡単だ。俺だってちょっと特別な人間ぐらいにしか彼女達の事を思っていない。

でも、自分は人形なんだと思い込んでいる彼女達にその言葉は響くのだろうか?

唯のIFSですら拒絶する者達がいるのに、それに特化するよう生まれた頃から、いや、生まれる前から宿命付けられた彼女達を周りはどう思うだろうか?

ナデシコは優しい所だ。だから、皆が受け入れてくれる。ちょっと特別な人間程度にしか思わないでいてくれる。

でも、世の中はそんなに優しくない。きっと彼女達を拒絶する人間はたくさんいる。自分と違うだけで、国籍や肌の色の違いだけで差別されるような世の中なのだから。

そんな彼女の事を分かってあげられるのは同じ境遇の者だけ。傷の舐めあいかもしれないけど、理解してあげられるのは同じ境遇の者だけだ。

それなら、俺に何が出来る? 

君は人間なんだと何度も繰り返し告げる事で認識を改めさせればいいのか? 

・・・いや。そんなのその場凌ぎでしかない。

いずれ、彼女達は他人と違うんだと実感する場面が必ずやって来る。

他人と違う能力を持っているという事。それは確固たる事実なんだ。

自分は周りと違わないとか。自分は唯の人間なんだとか。そういくら訴えようと周りの認識が変わる事はない。

それなら、彼女達は周りと違うと自覚し、その上で強く生きていけるようにならなければならないと俺は思う。

その為に、俺は何が出来るのか?

悩んだ。何をしてあげるべきなのか悩んだ。

何もしない事も一つの選択肢だったが、俺は何かしてあげたいと思った。

何かしてあげようなんて傲慢な考え方かもしれない。それでも、自分という存在が彼女達の為に何か出来るのなら、俺はしてあげたいと思う。

その上で、俺は彼女達に何をしてあげられるのか?

幾つもの選択肢の中で俺が選んだのは簡単な答え。

マシンチャイルドという存在に眼を逸らす事なく、唯の人間として接してあげよう。

矛盾している答えかもしれない。唯の人間として扱おうとするのだから。

でも、たとえ君達が周りと違っていても、それを受け入れてくれる人だっているんだよって。

そう伝えてあげたい。

 

「お腹すいたなぁ。出前でも頼んじゃおうか?」

「・・・夜、何か食べると太ると聞いた事があります」

「大丈夫。大丈夫。子供は食べて大きくなるの」

「・・・私、子供じゃないです」

 

マシンチャイルドである事は変わりようのない事実。

どれだけ叫ぼうが、どれだけ訴えようが、その境遇は変わらない。

君達は特別でもなんでもない。唯の人間なんだ。

俺はそう説く事はしない。

君達は特別だよ。でも、唯の人間なんだ。

俺はそう説く。

逸らしたって変わらないなら、真正面から受けて立って欲しい。

厳しい道かもしれない。

報われない道かもしれない。

でも、それが何よりの彼女達の幸せの為だと思うから。

せっかく特別な能力を持って生まれてきたんだから、引け目じゃなくて、誇りを持って欲しい。

ま、行き過ぎも困るけどさ。

 

「それじゃあさ、どっちが長く徹夜できるか勝負しようか?」

「・・・考えさせてください」

「え? 嫌かな?」

「・・・育たないのは困ります」

「そっか。そうだね」

 

無表情ながらも少し困ったように眉を顰めるセレス嬢。

彼女達が人形じゃないなんて誰もが分かっている。

無表情に見えて、実はそうじゃないなんて誰もが分かっている。

いつか大袈裟なぐらい感情表現する普通の、ちょっと特別だけど、普通の女の子になって欲しいなって思った。

 

「セレスちゃんは将来美人になるよぉ、絶対」

「・・・そうですか?」

「うん。今でさえこんなにも可愛いんだもん。将来はやばいくらい可愛くなると思うね」

 

ま、今の可愛いと大人の可愛いはちょっと違うけどさ。

 

「・・・初めて言われました、可愛いなんて」

「へぇ。それは今まで周りにいた人の眼が節穴だったんだな。なんで気付かないんだか」

「・・・気味悪がっていました。金色の眼とか」

「そんな事、気にする必要ないじゃん。周りは周り。セレスちゃんはセレスちゃんでしょ。俺は綺麗だと思うけどね、その金色の瞳」

 

吸い込まれるような綺麗な瞳。

たかが色が違う程度でその綺麗さは失われないさ。

むしろ、白と金のコントラストが魅力的だと思う。

 

「セレスちゃんはさ。MCって事を気にしているの?」

「・・・はい」

「辛い事を聞くようだけど、何故なのか教えてくれるかな?」

「・・・研究所では酷い眼に遭いました。助けられてからもMCだって気味悪がられました」

 

そうか。ネルガルの職員め。呪ってやろうか?

 

「・・・マシンチャイルドで得した事なんて、今まで一度もありません」

 

悲しそうに俯くセレス嬢。

マシンチャイルドである事が彼女の負い目になっている。

そんな状況は打破してやらないとな。

 

「セレスちゃん。そんな君にとっておきの言葉を教えてあげよう」

「・・・とっておきの言葉?」

「そうだよ、セレスちゃん」

 

人は違うからこそ美しい。

そんな意味が込められた言葉だ。

 

「皆違って皆良い」

「・・・皆違って皆良い?」

「そう。人間は誰しもが違うからこそ仲良くなれる、好きになれる、幸せになれる。皆が同じ人間だったら何も面白くないでしょ?」

 

自分ばっかりの世界なんて想像もしたくないぜ。

 

「他人と違うなんて当たり前の事なんだ。だからさ、他人と違う事に引け目なんて感じる必要はないよ。違う事に意味なんてない。だって、それが当たり前なんだから」

 

マシンチャイルド?

いいじゃん、別に。だから何?

それぐらいに考えていいと思う。

 

「違う事に意味なんてない。ならさ、マシンチャイルドである事とそうでない事に意味なんてないんだよ。少なくとも普通に生活する限りはね」

「・・・それでも、マシンチャイルドだから、私は嫌われる」

 

嫌われる事に恐怖する。

ハハ。何だ、考え方だって唯の子供じゃん。

マシンチャイルドも普通の子供も大して変わんないんだ。

 

「マシンチャイルドだからって俺は嫌ったかい?」

「・・・え?」

「ミナトさんは? メグミさんは? 他の皆だってそうだ。セレスちゃんがマシンチャイルドだからって嫌う人がいたかい?」

「・・・いません」

「セレスちゃんがマシンチャイルドだって事は一生変わらない、うん、変わらないんだ」

「・・・・・・」

 

小さく息を呑むセレス嬢。

まだ、マシンチャイルドである事に開き直れていない。

ま、そんな簡単にうまくいくなんて思ってないけど。

 

「でも、マシンチャイルドでも嫌わない人はいる。嫌う人もいるかもしれないけど、嫌わない人だっているんだ」

 

絶対にそうとは言い切れない。

でも、少なくとも、ナデシコクルーは嫌わないでくれる。

 

「マシンチャイルドは他の人と違う。それは仕方のない事だ。でも、違う事に意味なんてないんだから、周りが違うっていうんなら言い返しちゃいなよ。同じ人なんていないって」

「・・・・・・」

 

無言のセレス嬢。

まだ結論は出ないって所かな。

ま、それもそうか。

コンプレックスがすぐに解消される訳ないもんな。

俺だってコンプレックスの一つや二つぐらいある。

誰だって一つぐらいは必ず持っているもんだ。

マシンチャイルドであろうとそうでなかろうと老若男女問わず必ずな。

セレス嬢がコンプレックスを抱えるのも生きている上では必然って訳だ。

解消方法は色々あるけど、やっぱり一番は時間かな。

時間がいつの間にかコンプレックスを解消していたなんてよくある話だ。

セレス嬢のコンプレックスも時間が解決してくれるかもしれない。

セレス嬢の一生はまだまだ長いんだから。

 

「急に変な事を言ってごめんね。でも、覚えておいて。セレスちゃんがマシンチャイルドだからって他人と比べる必要はないんだって事。他人は他人。自分は自分だよ」

「・・・はい」

 

少しでもセレス嬢のコンプレックスが薄まっていたらいいなと思う夜の事でした。

 

 

 

 

 

「そっか。特別扱いしつつ唯の人間だって自覚させたいのか」

「はい。普通の人間だよって諭してあげるのも良いと思いますが、いずれ他人とは違うと気付く事態に直面すると思うんです。その時、そっちだと受け止められるのかなって」

 

毎晩恒例の膝枕。

すっかり癖になってしまいました。

多少、遅くなってもミナトさんの部屋を訪ねるぐらいですから。

だ、だって、仕方がないでしょ。

あんなに気持ち良くて心地良くてゆっくり出来て癒される時間なんてないよ!

一度やったらやめられない。

あれはもう、あれだね、麻薬みたいなものだね。

常習性が高過ぎます。

膝枕依存症です、僕。

 

「そうね。私はそこまで考えてなかったわ。ただ普通の子供のように扱ってあげようって」

「それでいいと思いますよ。ただ、マシンチャイルドである事に眼を逸らさせないように接すれば良いんです」

「可哀想って思っちゃいけないのね。そう思う事自体が差別しているって事だもの」

「ええ。違うのは当たり前なんです。ちょっと特別な生まれをしたってだけで可哀想だなんて思っちゃ駄目ですよ」

「それもそうね。ふふふ。まさかコウキ君に諭される日が来るなんて」

「ば、馬鹿にしないでくださいよ。俺だって色々考えているんです」

「拗ねない。拗ねない」

 

優しく微笑んでくれるミナトさん。

あぁ。癒される。

弄られているのに癒されるとはこれ如何に。

今なら、前の世界の友達の気持ちが分かるような気がする。

 

「それにしても、ルリちゃんがそんなにアキト君の事をね」

 

ルリ嬢から聞いた事をミナトさんにも話した。

劇場版の時のルリ嬢とアキト青年の思いと共に。

 

「大切な人って断言していたぐらいですから。きっと長い間、追いかけていたんでしょうね」

「愛するが故に引き離す。愛するが故に私情を捨てる。方法は間違っているけど、アキト君の想いは本物ね」

「やっぱり間違っていますか?」

「ええ。だって、アキト君はルリちゃんの思いを無視して独り善がりな態度だったんだもの。正面から一度話し合った方がお互いに幸せになれたと思うわ」

「俺もそう思います」

 

言葉にしなくちゃ伝わらない。

話さなくても伝わる事はあるけど、話さなくちゃ伝わらない事の方がずっと多い。

 

「俺は尊敬しますよ、愛する人の為に修羅になりきれるテンカワさんを」

 

俺にそんな事は出来るのだろうか?

五感を失って、夢を失っても、絶望せず、生きる事を諦めず、戦い続ける事が。

 

「修羅・・・か。コウキ君にはなって欲しくないかな」

「ミナトさん?」

「愛する人を取り戻す為に修羅になった人を見るのは辛いもの。きっとコウキ君も同じように距離を置こうとするでしょう?」

 

そんな事になった時、俺が取る行動。

 

「俺の事は忘れて違う人と幸せになって欲しいと。そう思うと思います」

 

俺は相応しくないからって。

きっと距離を置く。

 

「誰だってそう思うものよ。私だってきっとそう思う」

「ミナトさんも?」

「ええ。・・・別に私はアキト君を軽蔑している訳じゃないわ。むしろ、立派な事だ思う。そこまで愛される人は幸せだと思う」

「幸せ・・・ですか」

「でも、私は傍で愛して欲しい。遠くからじゃなく、近くで」

 

傍で・・・か。

テンカワさんも葛藤があったんだろうな。

俺にその資格はないって。

帰りたいけど帰れない、いや、帰らない。

罪の意識はテンカワさんにとってそれだけ重たかったんだ。

 

「どうしようもなかったんだと思います。巻き込まれたのはアキト青年のせいじゃないですから。不幸の始まりは・・・」

「分かっているわ。アキト君を攫った組織が悪いって事は。そうでなければアキト君は素直に傍で愛していられたって事も」

 

どうしようもなかった。

攫われたアキト青年が悪いだなんて思える筈がない。

アキト青年はあくまで被害者なのだから。

 

「理不尽なのね、世界って」

「・・・ええ」

 

強くなりたい。

理不尽に抗える力が欲しい。

テンカワさんはきっとそう強く思っている。

経験したらこそ余計に。

 

「コウキ君は力が欲しい? 理不尽に抗える」

「分かりません。経験のない俺には」

 

その時にならないまで力を求める事はない。

人間ってそういうもんだと思う。

変な所で楽天的で、いざという時に楽天的だった己を恨む。

実際に経験しないと分からないんだ。

経験した人の話を聞いても、どこか他人事のように思って。

 

「そうね。それじゃあ、私が死んだら、コウキ君はそう思ってくれるのかな」

「・・・死なせませんよ、絶対に」

 

絶対になんて断言できる訳がない。

それでも、俺は断言する。

これは俺の誓いだから。

 

「俺も生き抜いて、ミナトさんも生き抜いてもらいます。俺の目指す平穏な生活にミナトさんは欠かせませんから」

「そっか。それじゃあ死ねないわね」

 

死なせない。

戦争が何だってんだ。

 

「俺、色々と考えているんですよ。ナデシコを降りた後とか」

「あら。気が早いのね」

 

夢を考えるのに早い遅いはありませんよ。

 

「プログラマーとしてきちんと仕事に就くってのも良いですが、教員免許を取って教師なんてやってみるのも良いかなって」

「へぇ。教師か。コウキ君は面倒見がいいからもしかしたら向いているかもね」

「ミナトさんもどうです? 教員免許、持っていましたよね」

「うふふ。それもいいかもね。一緒に教師か」

「あ。でも、色々と心配だから専業主婦にしません? ガキ共が色目を使いそうなので」

「あら? 養ってくれるの?」

「それぐらいの甲斐性はみせますよ」

「ま、考えとくわ」

 

きっと楽しい生活に違いない。

未来に思いを馳せるのは生きる者の特権だ。

誰だって幸せになりたいのだから。

 

「それじゃあ、そろそろ・・・」

「え、えぇっと、その、ですね・・・」

「いいから、いいから、いらっしゃいな」

 

今日の夜も長そうです。

 

 

 

 

 

「すいません。アキトさんの事を話してしまいました」

「構わないさ。事情を知らなければ混乱するだけだろうからな。それより、どうだった?」

「結論から言いますと、彼は唯の人間ではありません。私と同等のハッキング能力があります」

「ルリちゃんと同等か。確かに普通の人間ではないな。IFS強化体質か?」

「あの年齢のMCは記録上では存在しません。それに、彼の経歴に怪しい点はありませんでした」

「両親が研究者か。もしやナノマシン工学を?」

「経歴ではそうでした。ですが、マエヤマという研究者の名前は聞いた事がありません」

「知らなかっただけという考えもあるが・・・ありえないか」

「はい。もし、通常の人間がMC並のオペレート能力を得られるようなナノマシンを開発したら、今頃知らない人はいない程に有名になっている筈です」

「もしや・・・」

「どうかしました?」

「あいつの両親も殺されたのではないか? 俺の両親のように」

「・・・確かに二年程前に両親共に死去していますね。たしか交通事故だった筈です」

「危機を察知したあいつの両親は息子のあいつにそのナノマシンを託して地球に戻らせた。そのナノマシンの恩恵で天才プログラマーとして名を馳せている」

「しかし、それが事実だとしたら、有名になった彼を見逃す訳がありません。必ずナノマシンを確保しようと―――」

「だから、ナデシコに乗ったとは考えられないか? 危険を察知して。ナデシコならば、とりあえずは周りと隔離される」

「・・・なるほど。可能性はありそうです」

「真相は分からんが、何となくあいつの正体は掴めてきたな。頭が回るのも両親の影響か」

「かもしれませんね。得られた情報は僅かですが、試してよかったです」

「ビックバリアの解除とあいつの調査を同時に行う。悪くなったな、ルリちゃん」

「色々ありましたから。艦長の経験はこういう所でも役に立っています」

「そうか。何はともあれ注意は必要だな」

「・・・はい」

 

 

 

 

 

「これより相転移エンジンの全力稼動テストを行います」

 

急遽告げられる稼動テスト。

サツキミドリに到着する時間を早める為って所か。

じゃあ、要求したのはテンカワさんかルリ嬢だな。

 

「どうして、そんな事を?」

 

おぉ。ジュン君。

頑張って目立ってくれ。

ビックバリアの時、戻ってきた事にすら俺は気が付かなかったから。

 

「リーダーパイロットであるテンカワさんの希望でしてな。宇宙空間においてどれだけの出力を得られるのか。全力で稼動させたらどれだけの出力になるのか。把握しておきたいとの事で」

「流石はリーダーパイロットだ」

 

絶賛する前に自分で気付きましょうよ、戦闘指揮係さん。

でも、理由としては最もらしい。考えたな、テンカワさん。

 

「万が一、エンジンの稼動に問題があっても、サツキミドリコロニーで改修できますからな。いやはや、提案して頂いて助かりましたよ」

 

そっか。一度もテストしてないから、どうなるか分からないのか。

開発途中で稼動テストをしたって話も聞かないし。実験艦って事? まさかね。

 

「そもそもどうしてサツキミドリコロニーに向かうんですか?」

「サツキミドリコロニーではパイロットが合流する予定なのです。また、物資を確保しておきたいと思いましてな」

 

パイロット三人娘か。

全員、キャラが濃いんだよなぁ。

 

「慌てて軍ドックから脱出したので、全ての物資を載せる事が出来なかったのですよ。現状でも火星までの往復は出来ますが、念の為です」

 

三日前に強引に出航だもんな。

予定通りに行かなかった訳だから、載せる予定の物資も載せられなかったと。

 

「合流するパイロットはどんな奴なんだ?」

 

気になりますか? ヤマダ・ジロウ。

原作では合流する前に脱落だもんな。

せっかく死なずに済んだんだ。生き抜いてくれよ。

 

「全員女性ですね。長くチームを組んでいた三人組ですので、連携も素晴らしく、各々の腕も高いです」

 

近距離担当のスバル・リョーコ。

中距離担当のアマノ・ヒカル。

遠距離担当のマキ・イズミ。

そこに近距離担当、というか、近接馬鹿のヤマダ・ジロウと万能のテンカワさんが加わる訳だ。

もし、俺がパイロットとして戦場に出るなら、中・遠距離を担当すべきだな。

ま、格闘技も何も身に付けてない俺だ。射撃の方がまだ頑張れるだろ。

ゴートさんから筋が良いって褒められたし。

必須能力である視力の良さは誰にも負けないぜ。

 

「そうか、そうか。所でよぉ、マエヤマ・コウキ!」

 

ん? 突然、何だろう? 俺、何かしたか?

 

「何だ?」

「てめぇは何なんだ!? パイロットなのか、そうじゃないのか!? ハッキリしやがれ!」

 

ハッキリしろと言われても。

 

「俺は予備パイロットですから。緊急事態や絶対数が足りない時のみ出撃します」

「それが中途半端だって言っているんだよ! どっちかにしやがれ! パイロットなのか、そうでないのか」

 

・・・困ったな。

今となってはパイロットになる事にそこまで拒否感はない。

でも、人数的に充分な気もするし、俺の役目はない気がするのだが。

 

「マエヤマさんには万が一の為に控えてもらっているのです」

「秘密兵器ってか? それ程の腕がそいつにあるのかよ?」

 

俺って舐められている?

ねぇ? 舐められているのかな?

 

「いいですよ。そこまで言うのなら、サツキミドリコロニーでパイロットが合流したらシミュレーションで模擬戦をしましょう」

「・・・コウキ君、子供みたいよ」

 

呆れないで下さい、ミナトさん。

男は舐められたら見返してやらないといけないんです。

 

「よっしゃ。いいだろ、このガイ様が相手をしてやるぜ」

 

ふふふ。調子に乗っていられるのも今の内だぞ、この野郎。

 

「蜂の巣にしてやる」

「お、お手柔らかにね、コウキ君」

 

負けられない戦いがそこにはある!

やぁぁぁってやるぜ!

 

 

 

 

 

「こちらネルガル所属機動戦艦ナデシコ。着艦許可を御願いします」

「こちらサツキミドリコロニー。了解しました。それよりも、君、可愛い声してるねぇ。どう? この後なんて」

「う~ん。どうしようかなぁ」

 

声だけで判断しない方が良いんじゃないかな、お互いにさ。

まぁ、ちょっとした挨拶みたいなもんだと思うけど。

 

「・・・サツキミドリコロニーって襲われるのよね?」

「・・・今回は予定より早く着きましたからね。襲撃前に間に合ったのかと・・・」

 

でも、この後、どうするつもりなんだろ。

早く着いたからって対処できる訳でもないし。

住民を逃がそうにも、どうやって説得するのさ。

いきなり襲われるから逃げろっていっても相手は納得しないよ、多分。

会長命令とかならいけそうだけど、アカツキ会長はテンカワさんと繋がっているのかな?

その辺りがイマイチ分からん。

どうするんだろう? テンカワさん達。

 

「それでは、これより休憩と致しましょう。明日出航する為、今日中に戻ってきて頂ければ結構です。メグミさん、艦内放送を御願いします」

「はい」

 

ほぉ。休憩ですか、プロスさん。

ま、ブリッジクルーは交代でとか言うんだろうけどね。

食堂とか整備班とかはどうなるんだろ?

ま、どっちも班長がその辺りをきちんと仕切ってくれるか。

ウリバタケさんもホウメイさんもリーダーシップがあるし。

 

「ブリッジクルーは交代で休憩としたいのですが、よろしいですか?」

 

ま、当然だよね。いざという時に困るし。

襲撃はいつなんだろう? 詳しい日時が分からん。

 

「アキトォ! 私と一緒に―――」

「俺はやる事があるのでな。失礼する」

 

ユリカ嬢がデートに誘う前にテンカワさんはブリッジから抜け出す。

あ。ユリカ嬢が灰になっている。

 

「ユリカ。それなら、僕と一緒に―――」

「えぇぇぇん。アキトが私を置いていったぁ。あ、違うわ。きっと私のプレゼントを買う為の別行動なのよ。もう、アキトったら、照れ屋なんだから」

「ユ、ユリカ?」

「もうもうもう。アキトったら・・・」

 

そこまで妄想できる貴方が凄いと思います。

ついでに隣で灰になっている人に気付いてあげてください。

 

「ブリッジクルーは交代で休憩としたいのですが、よろ―――」

「よぉし、俺は街でゲキ・ガンガーグッズの掘り出し物を探すぜ。レッツ・ゲキガイン!」

 

元気だね、ヤマダ君。

 

「ブリッジクルーは交代で休憩とし―――」

「コウキ君、どこか行く?」

「ミナトさん、話を聞いてあげましょうよ」

 

プロスさんが可哀想ですから。

 

「・・・・・・」

 

ほら。頭を抱えていらっしゃる。

 

「プロスさん。私が残りますので皆さんで休憩するのがよろしいかと」

「残るというのですか? ルリさん」

「はい。私はブリッジでする事がありますので、休憩の必要もないですし」

「いえ。そんな訳には」

「・・・私も残る」

「ラピスさんもですか? しかしですね」

 

ルリ嬢とラピス嬢が残ると言い出す。

用心の為に残っていたいという訳か。

つまり、テンカワさんも待機しているって訳だな。

 

「ワシも残ろう。出歩くのは疲れるのでな」

 

フクベ提督もか?

 

「俺も残る。特にやる事もないのでな」

 

ゴートさんまで。

 

「私が言いたいのは誰が残るではなく、順に休憩して欲しいという事で」

「私は休憩扱いで構いませんよ。どうせ、外に出る事もないでしょうし」

「・・・私も」

「ワシは自室で茶を飲むくらいじゃ」

「特にやる事もないのでな」

 

プロスさん、やっぱり、胃薬あげましょうか?

とても痛そうに胃を摩っていますし。

 

「そうですか。それでは、皆様方はお休み下さい。残るのは構いませんが、必ず二人はブリッジにいるように御願いしますぞ」

 

そう言って、胃に手を当てながら去っていくプロスさん。

心中、お察しします。

 

「ねぇねぇ、折角だから遊びにいきましょうよ」

「そうですね。折角の休憩ですから」

 

休憩していいなら休憩しますよ。

但し、すぐに動けるようナデシコが停泊している港周辺だけのつもりですが。

 

「どうしよっかなぁ。誘われちゃったし、お茶してこようかな」

 

メグミさん、マジですか?

 

「ユリカはどうするの?」

「う~ん。折角だし私も外に―――」

「あ。艦長は書類整理を御願いします。溜め込まれたら各部署に支障が出ますので急いで処理するように。では」

「・・・・・・」

 

再度、灰になるユリカ嬢。

というか、プロスさん、なんてナイスなタイミング。

これ以上ないってタイミングで戻ってきましたね。

すぐ行っちゃったけど。

 

「ユ、ユリカ。元気出して。僕も手伝うから」

「うぅぅぅ。ありがとう、ジュン君。やっぱりジュン君は最高の友達だね」

「う、うん。友達の為なら何だってするよ」

「流石ジュン君」

 

・・・心の涙に気付いてあげてください、艦長。

というか、実際に心ではなく涙を流していますから。

見えませんか? 悲しみの涙が。

 

「可哀想にね。あのままじゃ気付いてくれそうにないわよ、艦長」

「副長の押しが弱いのかと。友達宣言に噛み付くぐらいの事はしないと駄目ですよ」

「うふふ。これからが楽しみね」

 

他人の恋愛観察が趣味みたいなものですからね、ミナトさんは。

 

「・・・・・・」

 

ん? セレス嬢。

 

「・・・・・・」

 

どうかしたのかな。ボーっとしているけど。

 

「セレスちゃん。えっと、どうかした?」

「・・・いえ。休憩と言われても何をしたらいいのか分かりませんから、どうしようかと考えていました」

 

ま、また軽くヘビーな話を。

 

「ミナトさん。あの・・・駄目ですか?」

「もぉ。しょうがないわね。今回だけよ」

 

一言だけで分かってくれるミナトさんは素敵な女性だと思う。

 

「セレスちゃん」

「・・・何ですか?」

「一緒にお出掛けしない? きっと楽しいよ」

「・・・お出掛け・・・ですか?」

「そうそう。買い物したり、映画見たり、食事したり。とにかくきっと楽しいから、一緒においでよ」

「・・・いいんですか?」

 

何を不安そうに。

聞き返す必要なんてないっての。

 

「当たり前じゃん。こっちから誘っているんだからさ」

「・・・じゃあ、御願いします」

「任されました」

 

頭を下げてくるセレス嬢の頭を撫でながら了承。

ハッ! いつの間に手の平が頭に。これが魔力か。

 

「それじゃあ、出掛けるから着替えておいで」

「・・・私、着替えありません」

「え?」

「・・・制服しか持っていませんから」

 

おいおい。ネルガルさんよぉ。そりゃあないだろ。

もっと女の子として扱ってやれよ。

 

「ミナトさん」

「ええ。決まりね。まずは洋服を買いに行くわ」

 

相変わらず素敵です、ミナトさん。

何も言わなくても理解してくれるんですから。

 

「その前に私の部屋にいらっしゃい。服あげるから」

「え? ミナトさんの服をですか?」

「念の為に子供の時の服を持ってきておいたのよ。やっぱり正解だったわ」

 

準備が良いですね。最早、流石という他ありません。

 

「ほら。セレスちゃん。行くわよ」

「・・・はい」

 

セレス嬢の手を握って去っていくミナトさん。

ま、集合場所と時間は後で連絡すればいいか。

コミュニケで通信したら着替え中でしたなんていうベタな事にはならないようにしないとな。

 

「とりあえず、俺も着替えてくるとしますか。それじゃあ、留守番、御願いしますね」

 

待ってもらう四人に頭を下げた後、俺もブリッジから抜け出した。

さて、着替えて先に待っていますか。女性の着替えは長いですからね。

 

 

案の定、三十分程待たされました。

ま、覚悟していたから気にしないけどね。

むしろ、よくぞ三十分で済ませてくれた。

俺の友達は男の癖に一時間遅刻してきやがったからな。

思いっきり蹴ってやった記憶がある。

元サッカー部のキック力を甘くみんなって所だ。

 

「ごめんごめん。待った?」

「いえいえ。今来たところですよ」

 

と、ベタな会話をこなしつつ、デート?プランを決める。

 

「まずはセレスちゃんの服を買いにいきましょう」

「無論です」

「その後はコウキ君のエスコートって事で」

 

えぇ? 俺に任せるの早くない?

まずって言ったから結構計画してくれているのかと思っていたのに。

 

「女の子をエスコートするのは男の義務よ。これも勉強、勉強」

「き、緊張するんですけど・・・」

 

俺としてはミナトさんに任せたかった。

そっちの方が気楽だし。

俺が決めるとなると、間違ってないかなとか不安になるし。

ぐあぁぁぁ。どうしよう。

 

「そんなに深く考えなくていいわよ。軽い感じでさ。高級レストランにエスコートしなさいって言っている訳じゃないんだから」

 

それでも緊張するものは緊張するんです。

・・・相変わらず情けないな、俺。

 

「こ、ここは恒例のウィンドウショッピングですね。雑貨店って回るだけで楽しくありませんか?」

「ま、合格ね。そうしましょう。もちろん、コースはコウキ君が決めるのよ」

「え、ええ。任せてください」

 

ま、まぁ、その場凌ぎで何とかなるだろ。

 

「さて、コウキ君、出掛ける前に何か言う事ない?」

 

えぇっと、何だろう?

 

「いえ。特には」

「・・・・・・」

 

無言で睨むのはやめて下さい。

非情に居心地が悪いです。

 

「もぉ。減点。失格。退場」

「えぇ!? 始まる前から大失態!?」

 

な、何だ? 何なんだ?

 

「せっかく気合入れてきたんだから、気付きなさいよね」

「気合?」

 

あ。そういう事でしたか。

不慣れなもので。

 

「えぇっとですね・・・」

 

でもさ、こういうのって眼の前で言うのかなり恥ずかしいよね。

クゥ。世の軟派男の勇気を少しでいいから分けて欲しい。

オラに勇気を分けてくれと叫びたいが恥ずかしいからやらない。

 

「と、とても似合っていて、えっと、素敵だと思います」

 

真っ赤だろ? そうだろ? 真っ赤です。

それぐらい自覚しています。恥ずかしいものは恥ずかしいのです。

 

「ズバッと言わないと男らしくないぞ」

 

頬をつんつんしないで下さい。これでも頑張った方です。

 

「はい。次」

「次?」

 

ミナトさんの次?

あ。セレス嬢。

 

「セレスちゃん」

「・・・はい」

「とっても可愛いね。良く似合っているよ」

 

セレス嬢の銀色の髪と純白のワンピースが眩しいくらいに映える。

妖精って言われても違和感ない。むしろ、俺が妖精と讃えたい。

 

「・・・あ、ありがとうございます」

「何でセレスちゃんの時はズバッと言えるのよ」

 

照れる顔も可愛らしい。

ミナトさん、それは仕様です。

 

「セレスちゃんは何を着せても可愛くてね。悩んで悩んでこれにしたの」

 

そうですか。それで時間がかかったんですね。

というか、何着持ってきたんですか? 子供服。

 

「じゃあ、離れ離れにならないように手を繋いでいきましょうか」

「そうですね。じゃ、俺がセレスちゃんの左手を」

「私がセレスちゃんの右手ね」

「・・・御願いします」

 

颯爽と飛び出す俺達。

繋がれた右手からはどこか楽しそうな雰囲気が伝わってくる。

ミナトさんも笑顔だし、セレス嬢もちょっと頬が緩んでいる気がする。

楽しんでくれたら嬉しいな。

 

「・・・・・・」

 

右手に感じるセレス嬢の小さな手の感触。

なんか、昔の事を思い出すなぁ。

俺が小さくて、周りも小さい頃、従妹の手をこうやって繋いでいたっけな。

今は成長していて、そんな事はさせてくれないと思うけど。

・・・皆、元気にやっているかな? 

あの世界にはちゃんと俺がいるから、心配はないと思うけど。

やっぱり・・・少し寂しいかな。

 

「ほら。行きましょ。コウキ君」

「・・・いきましょう」

 

でも、今の俺にもこうやって一緒に歩いてくれる人がいるんだ。

寂しいけど、俺の世界はもう既にこっちの世界だもんな。

俺はこっちの世界で幸せに暮らすんだ。

俺の手を引っ張る小さな手の感触と二つの暖かな笑顔を前に俺はそう再度誓った。

 

 

 

 

 


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