機動戦艦ナデシコ 平凡男の改変日記   作:ハインツ

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生き残った少女

 

 

 

 

 

「・・・ああ。なるほど」

 

展望室にて、状況を確認。

俺がここにいるって事は無事に飛べた訳か。

 

「・・・ふむふむ。意外といえば意外だけど」

 

流石はラブコメ主人公だな、テンカワさん。

ああまで性格変わってもこういう所は変わらないんですね。

・・・両側から美女に抱き着かれているのは流石としか言いようがないだろ?

主人公が俺だったら、俺が抱き着かれている筈だし。

この世界でもやはり主人公はテンカワさんなんだなと実感。

ま、ユリカ嬢とイネス女史は貴方に任せますよ。

俺はっと。

 

「ブリッジ。ルリちゃん」

『はい。コウキさん。無事ですか?』

「うん。自分もジャンパーなんだなって自覚した」

『そうですね』

「とりあえず俺もブリッジ向かうわ」

『了解しました』

 

おし。ブリッジに・・・。

 

「・・・誰?」

 

隣に寝ている知らない女性。

ナデシコクルーにはいなかったよね。

という事は火星の救民の中にいたジャンパーという訳か。

ま、この人もテンカワさんに任せよう。

貴方なら出来ます。

ひとまず俺はブリッジへと向かうとしましょうか。

あれかな? またGBぶっ放すのかな?

 

「おはようございます」

「あ。うん。おはよう?でいいのかな?」

「恐らく」

「・・・コウキ。おはよう」

「・・・コウキさん。おはようございます」

 

うん。オペレーター三人娘は起きていたね。

でも、何で正式なジャンパーより先に眼を覚ましているのだろうか?

そのあたりが謎だ。

 

「他の皆はまだ起きない?」

「起こしますか?」

「じゃあ、あの変な顔が見られるのかな?」

 

笑いながら言ってみる。

 

「な、そ、そんな事はしません」

 

照れながら拗ねるルリ嬢。

こういう所を見るとやっぱりまだ子供だなと思う。

背伸びしなくていいんだぞって思った。

 

「ところで、気付いた?」

「ええ。・・・セレス、周囲の映像を。・・・ジャンパーが他にもいましたね」

 

セレス嬢に誤魔化しの為の指示を出しつつ、内緒話。

 

「うん。もしかしたら彼女以外にもいるかもしれない。必ずしもあそこに出現するとは限らないと思うから」

「そうですね。可能性としては低くないです。ですが、現状ではどうしようも・・・」

「どうするの? ネルガル側から眼を付けられたくなければ映像を消すしかないし、あえて眼を付けられるならそのままにするし」

「・・・そうですね。ここはそのままにしておきましょう」

「やっぱりボソンジャンプの事は隠さないんだ?」

「隠した所でいつかは知る事ですから。あ、映像ですが、彼女抜きの映像に差し替えておきます」

「そうだね。艦長、博士、リーダーパイロット、事情を知らない少女。これだったら確実に彼女が選ばれるよね」

「ええ。今回はアキトさんの立ち位置が立ち位置ですから。ですが、コウキさん、貴方もいたんですよ?」

「・・・あ」

「コウキさんも抜いておきます。火星生まれじゃない貴方がいたら理論が崩れますから」

「えぇっと、御願いします」

「意外と抜けているんですよね、コウキさんは」

 

二度も言われました、ルリ嬢に。

前回は呆れ、今回は笑顔付きで。

いや。こうまで変わるのなら始めから事情を話せばよかった。

ま、実際にはそういう訳にはいかなかったんだけど、そう思っちまっても仕方ないでしょ。

 

「私達としてはアキトさんが呼ばれるようにしたいんですよ」

「そうだね。そっちの方が俺達にとって都合が良い」

「・・・あの、ルリさん、全方位で囲まれています」

 

ルリ嬢と話しているとセレス嬢の声が聞こえてくる。

あ。しっかりと仕事していたようで。偉い偉い。

 

「ひとまずDFを発動して下さい」

「・・・はい」

 

ルリ嬢もラピス嬢もこっちにいて、今はセレス嬢だけオペレーター席。

 

「あれかい? セレスちゃんもようやくルリちゃんから合格がもらえたと」

「ええ。きちんと訓練の成果が出ていましたよ」

「そっか。それは良かった」

 

成果が出ていたのは嬉しいかな。

俺がこの世界にやって来た意味が増えたって感じ。

 

「今回はどうするの? GB」

「撃ちましょうか?」

「えぇっと、人的被害がないコースで」

「了解しました。ユリカさんには怒られてもらいましょう」

 

ニヤッとした笑み。

怖いよ、ルリちゃん。小悪魔的笑みだったよ。

 

「とりあえず、じゃ、エマージェンシーコールかなんかで眼を覚ましてもらおうか。ブリッジは俺が起こすから」

「はい。それじゃあ、後はユリカさんの指揮に従います」

「・・・あんまり手荒な事は駄目だよ」

「心得ています」

 

オペレーター席に向かうルリ嬢とラピス嬢。

さてっと、俺は起こしに回ろうか。

 

「提督。提督。起きてください」

 

揺すってみる・・・動かない。

肩を叩いてみる・・・動かない。

老体に鞭打つのはやめよう。スルーだ。

 

「ゴートさん」

「・・・む。どうなった?」

「無事に抜けました。月軌道上ですよ」

「・・・そうか。了解した」

 

ゴートさんは冷静ですね。

寝起きでよくぞそこまで。

 

「プロスさん」

「・・・・・・」

 

この人は俺の力では起こせない気がする。

うん。スルーだ。

 

「起きろぉ」

「・・・ん。んん。もう朝ぁ?」

「寝ぼけてんじゃねぇ」

「うわ! ヒドッ。扱いヒドッ」

「とりあえず他のパイロット起こしてくれるか?」

「え。うん。分かったよ」

 

ヒカルを起こして・・・次は。

 

「グラビティブラスト発射します」

 

ご愁傷様です、艦長。

 

「ミナトさん、ミナトさん」

 

メグミさんはガイが起こすだろう。

そこまで無粋じゃないさ。

・・・あ。副長の事を忘れていた。

ま、まぁ、ゴートさんあたりが起こしてくれるでしょ。

 

「・・・・・・」

 

なかなか起きないな。

 

「ミナトさん、起きてください」

「・・・ん」

 

・・・そういえば、イネス女史が泣いていたって。

 

「・・・コウキ・・・君?」

「そうですけど・・・。何で俺に訊くんですか?」

「え? う、ううん。なんでもないわよ」

 

ミナトさんも寝起きは弱いと。

 

「大丈夫ですか?」

「え、ええ。コウキ君は?」

「ま、それなりって所です。後で時間を頂けますか?」

「・・・・・・ええ」

 

最後にボソッと返事をもらえた。

本当にどうしちゃったんだろう? ミナトさん。

 

「あぁ。何をしているんですか!?」

「艦長の指示です」

「か、艦長ぉぉぉ!」

 

プロスさん。

苦労をおかけします。

ですが、これは必要な事なのです。

こうしてユリカ嬢に周囲を確認しないで主砲をぶちかましては駄目ですよと教えて・・・。

 

「何を考えているか大体分かりますが、ユリカさんは気にもしませんよ」

 

・・・さいですか。

さてっと、俺は俺の席に付いて。

いつものようにレールカノンで・・・。

 

「あれ? おかしいな? 身体が震える」

 

コンソールに置かれた手が勝手に震えだした。

 

「・・・コウキさん。現在、貴方のレールカノンの操作権はこちらにあります。コウキさんは下がってください」

「・・・え?」

「現状でも充分に対応できますので。コウキさんは副提督の席へ」

「・・・分かった」

 

・・・役立たず扱いされた気がした。

いや、事実、役立たずなんだろう。

二回も暴走しちゃったし。

 

「・・・大丈夫かね?」

 

あ。起きていましたか、提督。

 

「・・・ちょっと堪えましたね。俺じゃ何にも出来ないって」

「まだ君には先がある。諦めずに立ち上がる事が出来る」

「・・・そうですか。提督はこれからどうするんですか?」

「・・・そうじゃな。ワシはおそらく、ナデシコからは降ろされるだろう」

「勇退といった所ですか? 今度こそ正真正銘の」

「・・・うむ。ナデシコは確かに火星の民を救出しているからのぉ。ワシの名をまた利用する筈じゃ」

「・・・それでフクベ提督は?」

「さて、ワシには分からん。だが、これから、火星の民の所へ行ってこようと思う」

「それは殺されても構わないという意味ですか?」

「どうじゃろうな。殺されて楽になりたいのかもしれん」

「俺には彼らの気持ちは分かりませんから。提督になさりたいようになさってください」

「・・・うむ。そうさせてもらおう」

 

どこか表情が和らいでいる気がする。

少しは気持ちが楽になったのかな?

仕方ないといえど、逃げた事は事実だからなぁ。

罪悪感は凄まじいか。

 

「お、遅れましたぁ・・・」

「艦長!」

「す、すいません・・・」

「貴方は何をしたのか分かっているのですか!? 連合軍に向けて主砲を放つなんて」

「すいません。すいません」

「艦長! いいですか、貴方は―――」

「あの、プロスさん、取りあえず、この状況から脱出してからにしましょう」

「・・・む。そうですな。艦長、減俸は覚悟していてください」

「ふぇ~ん。ユリカは悪くないのにぃ~」

「艦長!」

「は、はい!」

 

二人のやり取りもほぼ漫才化しているよな。

プロスさんは最早身体を張っているよ。

身と胃をボロボロにしての全力の突っ込み。

いやはや。お笑い人として尊敬しますな。

 

「パ、パイロットの皆さんは出撃してください!」

 

未だにちょっとボーっとしているパイロットに指示が入る。

彼女達もプロだ。指示さえ入れば、すぐさま顔付きが変わる。

 

「・・・ちょっと席を外します」

 

俺はここにいても意味ないしな。

ちょっと気になる事もあるし、あの少女の様子を見に行こうか。

 

「・・・わかった。ワシが言っておこう」

「すいません。御願いします」

 

提督の許可を貰って、騒がしいブリッジからそそくさと抜け出す。

はぁ・・・。さっき実感したよ。本当にトラウマ抱えているんだな。

勝手に手が震えるとか。初めての経験だからどうすればいいか分からん。

 

「いらっしゃい」

 

展望室にいくとイネス女史が余裕そうに出迎えてくれました。

 

「何でこんな所にいるんですか?」

「あら? それはこっちの台詞よ」

 

白々しい質問に普通に返された。

あぁ。やっぱりイネス女史の方が上手だ。

 

「いや。ここに艦長やイネスさんがいたので気になって」

「心配してくれたのかしら?」

「いえ。あ、まぁ、心配したのはもちろんですが」

「いきなり否定されると悲しいわね」

「えぇっと、すいません」

「で? どうして?」

「艦長もイネスさんもブリッジにいたじゃないですか。いつの間にここに移動したのかなと思いまして」

「さぁ?」

「さぁって。珍しいですね。イネスさんなら説明してくれるんじゃないですか?」

「知らない間にここにいたんだもの。私にだって分からないわ」

 

ま、流石に分からないよな。

 

「それで、わざわざ説明しに来てくれたの?」

「俺だって知りませんよ」

「あら? そうなの?」

 

その視線は疑っているな?

ニヤニヤしながらよくもまぁ。

 

「ええ。あれですか? 遺跡の神秘に触れてイネスさんまで瞬間移動を覚えたんですか?」

「質の悪い小説じゃないんだから。人間が瞬間移動なんて出来る訳ないでしょ?」

 

出来るんですよ。キーアイテムさえあれば。貴方は。

 

「イネスさんはとりあえずブリッジにいってください」

「分かったわ。もう少しここでゆっくりしてたかったけど」

「色々とイネスさんの説明を待っている人がいますよ」

「そう? じゃ、行ってきましょう」

「はい。行ってらっしゃい」

 

イネス女史が展望室から出て行く。

ま、そのままブリッジへ行ってくれるだろう。

さて・・・。

 

「・・・寝てんな」

 

あれだけの大きな音でも起きないとは。

ある意味、ユリカ嬢以上に図太いな。ユリカ嬢ですら飛び起きたのに。

 

「・・・可愛いんだろうけど、頬とか細いな。彼女も苦しい生活を送っていたって事か」

 

こういう姿を見ていると胸が痛む。

その気になれば、俺がボソンジャンプを繰り返す事で彼女達を地球へと連れて来る事はできた。

でも、俺は保身を考えてそれをしなかった。

知っていて、どうにかする手段があるのに・・・。

本当に最近は鬱になる事が多い。

・・・このネガディブ思考どうにかなんないかな?

ま、どうにかなんないのは分かっていたけど。

 

「お~い」

「・・・ん」

 

肩を揺すってみる・・・起きないな。

でも、反応はあった。

 

「お~い」

「何よぉ。うるさいわね。静かに寝かせて」

「・・・・・・」

 

・・・呆然としちまった。

おぉい。それはないんじゃないの?

 

「・・・え? ここどこよ?」

 

・・・とりあえずきちんと起こした。

眠っていたから気付かなかったけど、目付き鋭いね。この子。

 

「ここはナデシコの展望室」

「はぁ? ってか、貴方誰よ?」

「ナデシコ補佐役のマエヤマ・コウキ。君は?」

「私の名前を何で貴方なんかに教えなくちゃいけないよ」

 

・・・酷い我が侭。ユリカ嬢を凌ぐかもしれん。

 

「えぇっと、君は火星にいた人だよね?」

「そうよ。それがなんなのよ?」

 

敵意むき出し、あぁ、なんか慣れたよ。

主にテンカワさんとルリちゃんで。

 

「どうしてこんな所にいるの?」

「わ、私が聞きたいわよぉ!」

 

ど、怒鳴るな。耳が痛い。

 

「ま、いいや。とりあえず、案内するよ。火星の人達ってどこにいるの?」

「色んな部屋に押し込まれているわ。私はリラクセーションルーム」

「あ。あそこか。付いてきなよ」

「嫌」

 

嫌っておい。

 

「場所分かるの?」

「わかんない。でも、嫌」

「はぁ・・・」

 

我が侭女王登場。

これがこの話のタイトルだな。

 

「それでもいいならいいけど。誰も案内してくれないよ?」

「・・・・・・」

 

わ。黙り込んだ。ベタなお方だ。

 

「まだナデシコの事わかんないでしょ? 意地張ってないでさ」

「ふ、ふんっ。意地なんか張ってないわよ」

「ほら。案内するから」

「し、仕方ないわね。案内されてあげるわ」

 

はぁ・・・。前途多難。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

そして、無言。どうにかして。

 

「・・・ねぇ」

「ん? 何?」

 

お。声掛けられた。

 

「今、この船ってどこにいるの?」

「ああ。月まで来たよ。いやぁ。皆して寝過ぎだよね」

「えぇ!?」

 

クックック。これは意外と楽しめるか?

 

「う、嘘吐かないでよ! だって、まだ火星から・・・」

 

火星の人達に状況を説明している暇なんてなかったしな。

誰もボソンジャンプの事は知らないか。

 

「いいかね? 世の中は便利になったのだよ」

「便利になった? どういう事よ?」

「画期的な航海方法が出来てね。それはコールドスリープという」

「コールドスリープってあのカプセルで寝る奴?」

「そうそう。火星からの旅路は長い。物資的な余裕もなく、最低限の人数を残して皆コールドスリープしていてもらったのだよ」

「勝手にそんな事をしたの!?」

「緊急処置でね。許してくれたまえ」

「・・・・・・」

 

難しい顔して。眉顰めていますね。

 

「納得できないようだね?」

「当たり前じゃない。人の許しも得ないでそんな事!」

「うむ。そうだな。だって嘘だもん」

「し、仕方ないからって・・・え? 嘘?」

「うん。嘘」

「嘘?」

「うん。だから、嘘」

「あ、貴方ねぇぇぇ!」

 

襟を持たれて迫ってくる少女A。

いや。こんなシーンに出くわすの初めて。

しかも、俺が当事者とか。びっくりだ。

 

「まぁまぁ。女の子はエレガントにいこうよ」

「意味わかんないわよ!」

「笑って許すぐらいの寛容さも大事だと思わない?」

「時と場合によるわよ!」

「ま、そうだね」

「うん。分かっているじゃない。・・・って、違う! 私はねぇ!」

 

おぉ。ノリツッコミ。素晴らしい素質だ。

 

「実際はね、瞬間移動してきたんだな。これが」

「また私を騙そうっていうの? そうはいかないわよ」

「こればっかしは嘘じゃない。イマイチ理屈は分からないんだけどね」

「意味がわかんないだけど」

「えぇっと・・・」

 

外が見られるような所・・・ないな。

 

「あとちょっとしたら説明されると思うから待っていて」

「ふんっ。私を騙そうなんて百年早いわ」

「さっき騙されたじゃん」

「うっさい!」

「もう御婆ちゃんだね」

「うっさいったらうっさい!」

 

面白い子だ。クラスメイトだったら絶対弄られキャラ。

 

「あ。ここだ。着いたよ」

「ふんっ。ご苦労様」

「あ。違った」

「嘘!?」

「嘘」

「貴方ねぇぇぇ!」

 

再度、掴み迫られる。

貴重な体験を短時間に二回も経験するとは・・・。

 

「じゃ、地球に着くまでゆっくりしてなよ。すぐに帰れると思うから」

「・・・・・・」

 

あれ? 元気ないな。

大丈夫か?

 

「お~い」

「な、なんでもないわよ!」

 

・・・それなら、いいけど。

 

「キリシマ・カエデ」

「え?」

「私の名前よ! キリシマ・カエデ。覚えておきなさい!」

「え? 嫌」

「嫌ですってぇぇぇ!」

 

オーバーアクションが楽しい。

 

「嘘、嘘。キリシマさんでいい?」

「貴方何歳?」

「今は十九歳だね。もう少しで二十歳」

「じゃあ、カエデでいいわよ。一つ年下だし」

「あ。カエデって十八歳なんだ」

「何歳だと思ったのよ? ま、まぁ、私程に美人ならもっと大人に―――」

「いや。ないない。よくて十六歳でしょ」

「な、な、何ですってぇ!?」

「まだまだ君は若いんだ。これから、これから」

「馬鹿にしているのね!? 馬鹿にしているんでしょ!?」

「うん」

「うんって何よぉぉぉ!」

 

涙目になっちゃって。

結構、気にしているのかな。

 

「大丈夫。充分、美人だから」

「え? あ、そう?」

「うんうん。自慢していいと思うよ」

「ま、まぁね。分かっているじゃない」

 

意外と単純なんですね。

 

「それじゃあね、カエデ」

「ええ。あ、ありがとう」

「どういたしまして」

 

素直じゃないなぁ。

照れながらお礼とか、ベタやねぇ。

んで、すぐにパッと逃げ出して、リラクセーションルームに入っちゃう訳だ。

照れ屋登場。

タイトルはこっちに変更だな。

 

「そろそろ戦闘終わったかな?」

 

はぁ・・・。思い出したら鬱になってきた。

勝手に身体が震えてさ。何にもできないのがこんなに辛いなんて。

 

「はぁ・・・。ブリッジ行くか」

 

溜息が出るのは仕方ない事だと思うんだ。

 

 

 

 

 

「・・・予想通り」

 

ブリッジへ戻るとユリカ嬢がプロスさんに説教されていました。

ま、予想通りだよ、予想通り。とりあえず自分の席に戻ろう。

 

「どこに行っていたのかね?」

「迷子を救いに」

「・・・そうか」

 

どう捉えたのかな? まんまなんだけど。

 

「・・・提督。付いていってもいいですか」

「・・・構わん。じゃが、辛いぞ」

「・・・構いませんよ。俺は火星の人達の本音が訊きたいんです」

「・・・そうか」

 

どこか遠い眼で前を見詰める提督。

今、提督が何を考えているのか、俺には分からなかった。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

・・・嫌な沈黙。

それに耐えられないのと、気になる事があって、俺は席を離れた。

 

「プロスさん」

「あ。はい。何でしょう?」

「火星の方達は地球に着いたらどうなるんです?」

 

すごく気になった。

地球に戻っても居場所がある人はいい。

でも、居場所がない人はどうすればいいんだろう?

助けただけで後は放っておくってのも酷いと思うし。

せっかく助けられた命が餓死とか救われない理由で失われたら気分が悪い。

 

「交渉の際にきちんと説明させて頂きました。保護され、職がないものはネルガルの方で職を斡旋させていただきます」

「えぇっと、いいんですか?」

「いいもなにも、それぐらいは承知での救助活動ですよ?」

「でも、ネルガルは利益主義では?」

「おっしゃる通りです。では、これも利益という事でお分かりいただけませんか?」

「・・・軍の評判を落とすと脅しに使えるという事ですか? それとも、民間からの支持率狙いですか?」

「やはり賢いお方ですね。こちらの意図に気付くとは」

「本当に救助だけを目的とするようなお人好しでは企業もやっていけないと思います。むしろ、きちんとこういう理由があった方が納得できます」

「いやはや。まいりましたな。どうです? ナデシコ退艦後にネルガルに来ませんか?」

「えぇっと、残念ですが・・・」

「無理にとは言いません。気が向いたら連絡してください」

「ど、どちらにしろ、結構後の事かと」

「そうですな」

 

でも、実際に救助しているんだから、何かと理由をつけて避ける軍よりはマシか。

火星の民を救助する事で損失以上の利益があるんだもんな。

生き残りがいて、軍が逃げたという事実が公表されれば軍の評判が落ちる。

それをネルガルが抑えたともなれば、ネルガルに軍は従うしかない。

暴露するとチラつかせれば軍も強くは出られないだろうしな。

そして、火星の生き残りを救出したなんて名誉すぎる。

ナデシコはもちろん、ネルガルは一気に有名になるだろうな。

木星蜥蜴に何の抵抗もできない軍を差し置いて、ナデシコが木星蜥蜴を打倒しつつ、火星の生き残りを助け出した。

映画とかになってもおかしくない程に歴史に残る偉業だ。

あ、これでも軍の評判が下がって、ネルガルの評判が上がるのか。

それじゃあ、評判が下がった軍の抑止力にさっきの脅しを使うのか。

なるほど。二重の意味でネルガルあくどい。

ま、これぐらいしないと他企業の優位に立てないって事だろうけど。

 

「あ。コウキ君」

「えっと、何ですか? イネスさん」

「お風呂には入ったの?」

「ッ!?」

 

わ、忘れていたぁ!

と、という事は、あれか?

カエデの前にもあんな汗臭い状態で・・・。

う、鬱だ。死のう・・・。

 

「・・・・・・」

「あら。生きる屍?」

「・・・落ち込んでいるだけですよ」

「諦めなさい。また戦いが始まるわ」

「あぁ・・・」

 

コスモス早く来ぉぉぉい!

 

「願いって叶わないから人は夢を見るのよね。あぁ、儚いとは正にこの事」

 

・・・現実に突き落としてくれてありがとう。

 

 

 

 

 

コスモスとドッキング。

今回は、テンカワさんは未熟じゃないし、他のパイロットも凄腕だから問題なく終わった。

んで、俺は念願の風呂に入れて大満足。

やっと落ち着いたかな。

さて、時間もあるし、ミナトさんの所へ行こう。

 

「ミナトさん」

 

ミナトさんの自室の前まで来て、コミュニケで通信。

あれ? サウンドオンリー?

 

『・・・あ』

「ミナトさん。どうしたんですか? 大丈夫ですか?」

 

不安になった。

わざわざサウンドオンリーにするなんておかしい。

何があったんだ? 胸が締め付けられる。

 

『・・・ごめんなさい』

「え?」

『・・・私、コウキ君に・・・ううん、なんでもないわ』

「ミナトさん?」

『ちょっと体調が悪くて。顔見られたくなくないの』

「そんなのおかしいですよ。体調が悪いのなら俺が看病を―――」

『独りにして!』

 

突然の大声に驚く。

 

「・・・え?」

『・・・ごめんね。ちょっと独りになりたい気分なの』

「・・・分かりました」

 

それしか言えなかった。

・・・泣いているような気がして気が気じゃなかった。

でも、俺にはなにもできない。

拒まれたら、俺にはどうする事も・・・。

ただその場で立ち尽くす事しか俺には出来なかった。

 

『コウキさん。お話したい事があるのですが』

「・・・・・・」

『コウキさん?』

 

あれ? 呼ばれている?

 

『コウキさん!』

「わ! あ、え~っと」

 

あ。ルリ嬢か。

 

『大丈夫ですか? ボーっとしていましたが』

「あ。うん。大丈夫。何かな?」

『今までの事とこれからの事を話し合っておきたいと思いまして』

「あ、そっか。分かった」

『ミナトさんも参加して頂きたいんですが・・・』

「・・・何か体調悪いってさ。後で俺が伝えるから休ませてあげて」

『・・・そうですか。分かりました。それでは、どこがいいですか?』

「じゃあさ、俺の部屋でいい? 一応、準備はできているから」

『それでは、今までのは偽造映像だったという事ですか?』

「あ、うん。聞かれたくない事を話していたから」

『・・・そうですね。私もそうしている訳ですし、それでは、後ほどアキトさん達とそちらへ向かいます』

「分かった」

 

ルリ嬢と話しながらも意識は全部ミナトに向いていた。

どうしても気になって仕方がない。

もう一度通信を・・・。

・・・やめよう。無理させちゃ駄目だ。

・・・戻るか。

 

 

 

 

 

SIDE MINATO

 

怖かった。

コウキ君の顔を見るのが。

もしかしたら、怒っているかもしれない。

もしかしたら、軽蔑しているのかもしれない。

もしかしたら、冷たい眼で見てくるのかもしれない。

どんな表情なのか、確認するのが怖かった。

だから、サウンドオンリーにして逃げた。

でも、声色がいつもの穏やかなコウキ君で。

思わず自ら打ち明けようとしてしまった。

・・・でも、やっぱり怖くて、体調が悪いだなんて嘘吐いて。

本当に駄目だ。自分が嫌になる。

ねぇ、コウキ君。

私、どうしたらいいの?

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 


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